特許第6762890号(P6762890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762890
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】炭素含有廃棄物処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20200917BHJP
   C08J 11/00 20060101ALI20200917BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20200917BHJP
   F23G 5/02 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   B09B3/00 303F
   B09B3/00 303A
   B09B3/00 303C
   B09B3/00 303M
   B09B3/00 303Z
   B09B3/00 304J
   B09B3/00 304N
   B09B3/00 304P
   B09B3/00 304Z
   C08J11/00ZAB
   B09B3/00 303E
   C04B7/38
   F23G5/02 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-29722(P2017-29722)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-134574(P2018-134574A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮武 香奈
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 淳一
【審査官】 藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−160888(JP,A)
【文献】 特開2016−123973(JP,A)
【文献】 特表2010−537049(JP,A)
【文献】 特開平11−023793(JP,A)
【文献】 特開2006−212581(JP,A)
【文献】 実開平05−018654(JP,U)
【文献】 特開2001−261883(JP,A)
【文献】 特開2011−137615(JP,A)
【文献】 特開2006−145543(JP,A)
【文献】 特開2003−114298(JP,A)
【文献】 特開2012−031559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/02
F23C 99/00
B09B 3/00
C08J 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素含有廃棄物とオゾンとを接触させた後、該炭素含有廃棄物を焼却する炭素含有廃棄物処理方法であって、
前記オゾンを、オゾン濃度が100ppm以上、且つ、6000ppm以下である気体の形態で、前記炭素含有廃棄物と接触させることを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法
【請求項2】
炭素含有廃棄物とオゾンとを接触させた後、該炭素含有廃棄物を焼却する炭素含有廃棄物処理方法であって、
前記オゾンを、オゾン濃度が1ppm以上、且つ、50ppm以下である液体の形態で、前記炭素含有廃棄物と接触させることを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法。
【請求項3】
請求項1又は記載の炭素含有廃棄物処理方法において、
前記炭素含有廃棄物に、前記オゾンと共に、更に界面活性剤を接触させることを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の炭素含有廃棄物処理方法において、
前記炭素含有廃棄物の平均粒子径は、10mm以下であることを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の炭素含有廃棄物処理方法において、
前記炭素含有廃棄物は、廃CFRP、BOF、ASR、RPF、RDF、木屑、廃タイヤ、ゴム屑、吸水性ポリマーの廃棄物、都市ゴミ、熱硬化性・熱可塑性樹脂の廃棄物、廃FRP、カーボンファイバーの廃棄物、光ファイバーの廃棄物、及び、太陽電池の廃棄物からなる群から選択される一以上の廃棄物であることを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の炭素含有廃棄物処理方法において、
前記炭素含有廃棄物は、炭素繊維を含むものであることを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の炭素含有廃棄物処理方法において、
前記炭素含有廃棄物とオゾンとを接触させた後、該炭素含有廃棄物をセメント製造設備で焼却することを特徴とする炭素含有廃棄物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有廃棄物、特に、炭素繊維を含む廃プラスチックを焼却して処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量且つ高強度な構造材料として、樹脂又は金属等のマトリックス材料と炭素化合物とで形成された複合材料の需要が、飛躍的に増大している。特に、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなるマトリックス材料と炭素繊維とを複合化した炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber reinforced plastics)の需要の増大は、目覚ましいものがある。
【0003】
その一方で、その需要の増大に伴い、炭素繊維を含む廃プラスチックをはじめ、BOF(Biomass oil fuel)、ASR(Automobile shredder residue)、RPF(Refuse derived paper and plastics densified fuel)、RDF(Refuse derived fuel)、木屑、廃タイヤ、ゴム屑、吸水性ポリマーの廃棄物、都市ゴミ、熱硬化性・熱可塑性樹脂の廃棄物、廃FRP(Fiber reinforced plastics)、カーボンファイバーの廃棄物、光ファイバーの廃棄物、太陽電池の廃棄物等の炭素化合物を含有する廃棄物の廃棄量も増大している。
【0004】
このような炭素含有廃棄物の処理方法としては、セメント製造プロセスにおいて、炭素含有廃棄物等を代替燃料として有効利用しながら焼却して処理する方法がある。
【0005】
しかし、炭素含有廃棄物を焼却して処理すると、炭素含有廃棄物が難燃性であった場合等には、炭素含有廃棄物に含まれる炭素化合物が燃え残り、その燃え残った炭素化合物が、排ガス中に混入してしまうことがあった。その結果、排ガスの集塵設備(電気集塵機、バグフィルタ等)において、それらに付着した炭素化合物に起因する故障(電気短絡事故、フィルタの損傷等)が生じるおそれがあるという問題があった。
【0006】
そのような問題を回避する方法としては、セメント製造プロセスによる処理を行う前に、炭素含有廃棄物から炭素繊維等の炭素化合物を除去する処理を行うという方法があるが、事前の処理を行うことは非常に煩雑であった。
【0007】
そこで、事前に炭素化合物を除去する処理を省略することができる処理方法として、炭素含有廃棄物の平均粒子径が3mm以下になるように粉砕した後、その粉砕した炭素含有廃棄物を、セメントキルンの内部温度が1200℃以上である位置に供給するという方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−131463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法は、高強度の炭素含有廃棄物を平均粒子径が3mm以下の極めて小さい粒子となるまで細かく粉砕する必要があり、その粉砕のために多大な労力が必要になるという問題があった。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、少ない労力で炭素含有廃棄物に含まれる炭素化合物を十分に燃焼させることができる炭素含有廃棄物処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の炭素含有廃棄物処理方法は、炭素含有廃棄物を焼却する炭素含有廃棄物処理方法であって、前記炭素含有廃棄物とオゾン(O)とを接触させた後、該炭素含有廃棄物を焼却することを特徴とする。
【0012】
本発明の炭素含有廃棄物処理方法では、詳細は不明であるが、炭素含有廃棄物の表面または炭素含有廃棄物が有する内部空隙(ボイド)の内表面等にオゾンが接触することによって、オゾン酸化と称される炭素−炭素二重結合が酸化切断される現象やオゾンクラッキングと称される有機高分子に亀裂が生じる現象と、同等または類似した現象が炭素含有廃棄物に生じて、該炭素含有廃棄物の燃焼性が改善すると推測される。
【0013】
これにより、焼却時には、その炭素含有廃棄物に含まれる炭素化合物の燃焼性が改善されているので、炭素化合物のサイズ(すなわち、炭素含有廃棄物の平均粒子径)を極めて小さくしなくても、炭素化合物を十分に燃焼させることができる。
【0014】
したがって、本発明の炭素含有廃棄物処理方法によれば、事前に炭素化合物の除去を行う必要がなく、また、炭素含有廃棄物の平均粒子径を3mm以下の極めて小さいサイズにしなくてもよいので、少ない労力で炭素含有廃棄物に含まれる炭素化合物を十分に燃焼させることができる。
【0015】
本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記オゾンを、オゾン濃度が100ppm以上、且つ、6000ppm以下である気体の形態で、前記炭素含有廃棄物と接触させることが好ましい。気体の形態のオゾン濃度が100ppm未満であると、十分に炭素含有廃棄物の燃焼性改善効果を得られないことがある。一方、オゾン濃度の上限については、炭素含有廃棄物の燃焼性改善の観点からは制約が生じない。しかし、オゾン生成のためのコスト等の観点から、気体の形態のオゾン濃度が6000ppmを超える場合、コストが増加してしまうので好ましくない。
【0016】
また、本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記オゾンを、オゾン濃度が1ppm以上、且つ、50ppm以下である液体の形態で、前記炭素含有廃棄物と接触させることが好ましい。液体の形態のオゾン濃度が1ppm未満であると、十分に炭素含有廃棄物の燃焼性改善効果を得られないことがある。一方、オゾン濃度の上限については、上述した気体の形態の場合と同様に、炭素含有廃棄物の燃焼性改善の観点からは制約が生じない。しかし、オゾン生成のためのコスト等の観点から、液体の形態のオゾン濃度が50ppmを超える場合、コストが増加してしまうので好ましくない。
【0017】
また、本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記炭素含有廃棄物に、前記オゾンと共に、更に界面活性剤を接触させることが好ましい。これによれば、その界面活性剤によって炭素含有廃棄物の濡れ性が改善するので、オゾンが炭素含有廃棄物に十分に接触する。これにより更に良好な燃焼性改善効果が得られる。
【0018】
また、本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記炭素含有廃棄物の平均粒子径は、10mm以下であることが好ましい。燃焼性改善効果は、炭素含有廃棄物の平均粒子径を極めて小さくしなくても得ることができるが、平均粒子径を10mm程度まで小さくすると、特にその効果が大きくなる。
【0019】
また、本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記炭素含有廃棄物は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber reinforced plastics)の廃棄物(以下、「廃CFRP」という。)、BOF(Biomass oil fuel)、ASR(Automobile shredder residue)、RPF(Refuse derived paper and plastics densified fuel)、RDF(Refuse derived fuel)、木屑、廃タイヤ、ゴム屑、吸水性ポリマーの廃棄物、都市ゴミ、熱硬化性・熱可塑性樹脂の廃棄物、廃FRP(Fiber reinforced plastics)、カーボンファイバーの廃棄物、光ファイバーの廃棄物、及び、太陽電池の廃棄物からなる群から選択される一以上の廃棄物であることが好ましい。これらの廃棄物には炭素化合物が含まれているので、これらの廃棄物が処理対象物である場合には、上記の方法によって燃焼性が改善され、効果的に廃棄物処理することができる。
【0020】
また、本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記炭素含有廃棄物は、炭素繊維を含むものであることが好ましい。処理対象物が炭素化合物を含む廃棄物であれば燃焼促進効果を得ることができるものであるが、炭素化合物が炭素繊維であるものに対して、特に高い燃焼促進効果を得ることができる。
【0021】
また、本発明の炭素含有廃棄物処理方法においては、前記炭素含有廃棄物とオゾンとを接触させた後、該炭素含有廃棄物をセメント製造設備で焼却するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】試験例1において、炭素含有廃棄物を廃CFRPとしたときの熱重量測定試験の結果を示すグラフであり、縦軸は試料の重量減少率(質量%)を示し、横軸は加熱温度(℃)を示す。
図2】試験例1において、炭素含有廃棄物を廃タイヤとしたときの熱重量測定試験の結果を示すグラフであり、縦軸は試料の重量減少率(質量%)を示し、横軸は加熱温度(℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、炭素含有廃棄物を焼却して処理する炭素含有廃棄物処理方法に関する。
【0024】
その処理対象物としては、炭素化合物を含有する廃棄物であればよく、特に制限はないが、具体的には、例えば、廃CFRP、BOF、ASR、RPF、RDF、木屑、廃タイヤ、ゴム屑、吸水性ポリマーの廃棄物、都市ゴミ、熱硬化性・熱可塑性樹脂の廃棄物、廃FRP、カーボンファイバーの廃棄物、光ファイバーの廃棄物、太陽電池の廃棄物などが挙げられる。廃棄物は1種類を処理対象物としてもよく、あるいは2種以上を処理対象物としてもよい。
【0025】
本発明の処理方法においては、上記炭素含有廃棄物にオゾンを接触させる。オゾンを接触させる方法に、特に制限はない。すなわち、炭素含有廃棄物の周囲にオゾンが存在できる方法であればよい。よって、オゾンを気体の形態で接触させてもよく、オゾンを液体の形態で接触させてもよい。具体的には、例えば、炭素含有廃棄物を密閉容器内でオゾンを含むガスに暴露する方法や、あるいは、オゾンを含む溶液に炭素含有廃棄物を浸漬する方法などが挙げられる。
【0026】
例えば、密閉容器内でオゾンに暴露する方法を用いる場合、オゾン濃度が100ppm以上の雰囲気に1時間以上暴露することが好ましく、オゾン濃度が500ppm以上の雰囲気に3時間以上暴露することがより好ましい。また、例えば、オゾンを含む溶液に浸漬する方法を用いる場合、オゾン濃度が1ppm以上の溶液に1時間以上浸漬することが好ましく、オゾン濃度が10ppm以上の溶液に1時間以上浸漬することがより好ましい。なお、オゾンを溶媒に溶解させて用いる場合、処理の容易性の観点から、その溶媒は水であることが好ましい。すなわちオゾン水を用いることが好ましい。
【0027】
オゾンは、例えば、JIS B 9946「排水・用水用オゾン処理装置−仕様項目及びオゾン濃度測定方法」に記載されている仕様を備えたオゾン発生装置で得られるものを使用すればよい。具体的には、例えば、原料ガスである空気から酸素濃縮器によって窒素を分離して純度90%以上の酸素ガスを生成した後、この酸素ガスをオゾナイザでオゾンに変換したものを使用することができる。
【0028】
オゾン発生装置からのオゾン発生量(mg/時間)を雰囲気ガス濃度に換算するには、以下の式(1)を用いればよい。
雰囲気中のオゾン濃度(ppm)=オゾン発生装置のオゾン発生量(mg/時間)/
密閉容器内でガスが存在する空間容積(m)/2.14 ・・・(1)
【0029】
オゾンを含む溶液の調製方法は、オゾン発生装置で発生したオゾンを水等の溶媒に溶解させる加圧溶解法、無気泡ガス溶解法、気泡溶解法、隔膜溶解法、充填層溶解法などが挙げられる。また、オゾン発生装置が不要な直接電解法などであってもよい。なかでも高濃度のオゾン水が得られる観点から、加圧溶解法や無気泡ガス溶解法が好ましい。
【0030】
なお、オゾンを含む溶液を用いる場合、その溶液中に界面活性剤を含有せしめたり、あるいは炭素含有廃棄物に界面活性剤をあらかじめ塗布するか、または噴霧するかして、炭素含有廃棄物の濡れ性を改善することが好ましい。かかる界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系またはカチオン系の各種界面活性剤の1種以上であればよく、中でもアニオン系とノニオン系の2種類の界面活性剤の1種以上が好ましい。例えば、アニオン系界面活性剤としては、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)、脂肪酸ナトリウ等が、ノニオン系界面活性剤としては、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0031】
また、オゾンを含む溶液中に界面活性剤含有せしめて用いる場合、これに含有せしめる界面活性剤の量は、オゾンを溶解する液体の量を100質量部としたとき、0.01質量部以上1質量部以下であることが好ましい。界面活性剤の使用量が、0.01質量部を下回る場合、疎水性の高い炭素化合物を含む炭素含有廃棄物の濡れ性が改善されない場合がある、また1質量部を上回る場合、界面活性剤の使用量に応じた濡れ性の改善効果が認められない場合がある。
【0032】
以下、本発明の炭素含有廃棄物処理方法について、処理対象物を廃CFRP又は廃タイヤとし、その処理対象物をセメントキルンでサーマルリサイクル又はケミカルリサイクルするために、本発明の処理方法を行う場合を例として、更に詳細に説明する。
【0033】
まず、処理対象物である廃CFRPについて説明する。炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber reinforced plastics)は、軽量でありながら機械的特性や耐蝕性に非常に優れた構造材料である。炭素繊維の含有率は、一般的に、30質量%〜80質量%程度とされている。なお、CFRPの炭素繊維の含有率は、JIS K 7075「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法」に準拠した試験方法で求めることができる。
【0034】
CFRPで用いられる炭素繊維としては、グラファイト状の炭素から形成され、剛性等の機械的特性に優れた繊維が用いられている。具体的には、炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系又はセルロース系繊維等を酸化性雰囲気中で150℃〜400℃に加熱して耐炎化処理を行なった後、不活性雰囲気中で300℃〜2500℃で炭化又は黒鉛化処理をして得られたものの他、水蒸気等の半活性雰囲気で賦活化した活性炭素繊維等が挙げられる。
【0035】
CFRPで用いられるマトリックス材料としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が用いられている。具体的には、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、またはポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0036】
次に、廃タイヤについて説明する。タイヤの材料構成は、トラック用等の大型タイヤは天然ゴム(cis1,4−ポリイソプレン)、乗用車用等の小型タイヤは合成ゴム(SBR、スチレン−ブタジエンランダム共重合体)と大まかに主原料が異なるが、ゴムが40質量%〜60質量%、カーボンブラックや硫黄等の配合剤が20質量%〜40質量%、スチール及びテキスタイルから成るタイヤコードが10質量%〜20質量%、ビードワイヤーが3質量%〜10質量%とされる。
【0037】
本実施形態においては、まず、上記のような構成成分からなる廃CFRP又は廃タイヤを、回転型カッター式剪断粗砕機等の粉砕設備で50mm以下に粗砕した後、ジョークラッシャ、ロールミル、ローラーミル、破砕機等の粉砕設備によって所定の大きさに小径化する。なお、廃タイヤ等の燃焼性の良好な成分を比較的多く含む廃棄物については、50mm以下に粗砕した段階で粉砕を終了してもよい。また、廃CFRP等の比較的硬い廃棄物の粉砕作業を効率的に行うためには、後段の粉砕設備にはセパレーター等の分級装置を付設すると好ましい。
【0038】
ここで、小径化処理後の廃CFRP又は廃タイヤの平均粒子径は、小径化処理後に乾燥させた廃CFRPまたは廃タイヤを、JIS Z 8801「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定された篩を使用してふるい分けし、その篩上に残分した試料の50質量%に相当する径を算出することにより求めることができる。
【0039】
なお、本発明の処理方法においては、過度に労力のかかる小径化は必ずしも、必要ではないが、効率的に処理を行うためには、廃CFRP又は廃タイヤをある程度小径化することが好ましい。具体的には、廃CFRPの場合10mm以下、好ましくは7mm以下とするとよい。廃タイヤの場合、50mm以下、好ましくは30mm以下とするとよい。
【0040】
次に、小径化した廃CFRP又は廃タイヤとオゾンとを接触させる。この接触の方法としては、上述したように、廃CFRP又は廃タイヤを密閉容器内でオゾンを含む雰囲気ガス中に暴露する方法、あるいは、廃CFRP又は廃タイヤをオゾンを含む溶液に浸漬する方法等であればよい。以下、オゾンを含む雰囲気ガスに暴露する方法と、オゾン水に浸漬する方法とについて、それぞれ説明する。
【0041】
(オゾンを含む雰囲気ガスに暴露する方法)
オゾンを含む雰囲気ガスの温度は、5℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上50℃以下がより好ましく、20℃以上50℃以下がより好ましい。その温度が5℃未満の場合、廃CFRP又は廃タイヤの表面に氷層を生成する場合があり、廃CFRP又は廃タイヤとオゾンの接触が阻害される虞がある。また、その温度が50℃を超える場合、特別な加温装置を必要とする。
【0042】
廃CFRP又は廃タイヤを密閉容器内でオゾンを含む雰囲気ガス中に暴露する方法を用いる場合、かかる密閉容器は、廃CFRP又は廃タイヤの投入機構と排出機構、オゾンを含むガスの導入機構と排出機構、及び必要時に密閉容器内に空気を導入できる導入機構と排出機構が付設されていてもよい。なお、オゾンを含むガス用と空気用の導入機構及び排出機構は、両ガスで共用してもよい。
【0043】
さらに前記密閉容器は、撹拌機構が付設されていることが好ましい。廃CFRP又は廃タイヤを撹拌することによって、小径化した廃CFRP又は廃タイヤの全ての表面が、均質にオゾンと接触するのを助ける。撹拌機構は、撹拌羽根などの一般的な粉粒体撹拌装置に用いられるものであってもよく、またエアブレンディングでもよい。
【0044】
密閉容器内で廃CFRP又は廃タイヤと接触する雰囲気ガス中のオゾン濃度は、100ppm以上が好ましく、300ppm以上がより好ましく、700ppm以上が特に好ましい。雰囲気ガス中のオゾン濃度が100ppmを下回る場合、廃CFRP又は廃タイヤを雰囲気ガスに暴露する時間が長時間化するため、処理効率が低下する。雰囲気ガス中のオゾン濃度の上限については、廃CFRP又は廃タイヤの燃焼性改善の観点からは制約が生じないが、6000ppmを超える場合、オゾンの製造に大型の設備が必要となるため好ましくない。
【0045】
密閉容器内で、廃CFRP又は廃タイヤが、オゾンを含む雰囲気ガスに暴露される時間は、雰囲気ガス中のオゾン濃度に依存するが、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、特に好ましくは3時間以上である。暴露時間が1時間に満たない場合、オゾンによる廃CFRP又は廃タイヤの燃焼性改善効果が十分に得られない場合がある。
【0046】
(オゾン水に浸漬する方法)
次に、オゾン水に、廃CFRP又は廃タイヤを浸漬する方法について説明する。
【0047】
オゾン水の温度は、5℃以上30℃以下が好ましく、5℃以上25℃以下がより好ましく、5℃以上20℃以下が特に好ましい。オゾン水の温度が、5℃未満の場合、凍結による設備不具合が生じる虞があり、30℃を超える場合、オゾン水のオゾン濃度が低下してしまう。
【0048】
廃CFRP又は廃タイヤのオゾン水への浸漬は、密閉容器内で行うのが好ましい。密閉容器内で行うことで、気泡溶解法等のオゾンガスが発生する方法でオゾン水を製造した場合でも、容器外部にオゾンを漏出させないで全量を回収することができる。なお、オゾンガスの発生が少ない場合には、開放型の容器を使用してもよい。
【0049】
廃CFRP又は廃タイヤと浸漬するオゾン水の容積比(オゾン水/廃CFRP又は廃タイヤ)は、1/1以上が好ましく、2/1以上がより好ましく、4/1以上が特に好ましい。廃CFRP又は廃タイヤと浸漬するオゾン水の容積比が1/1を下回る場合、オゾンに十分に接触しない廃CFRP又は廃タイヤが存在する場合がある。
【0050】
廃CFRP又は廃タイヤがオゾン水に浸漬する時間は、オゾン水中のオゾン濃度に依存するが、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、特に好ましくは3時間以上である。浸漬時間が1時間に満たない場合、オゾンによる廃CFRP又は廃タイヤの燃焼性改善効果が十分でない場合がある。
【0051】
前記密閉容器には、撹拌機構が付設されているのが好ましい。廃CFRP又は廃タイヤが浸漬したオゾン水を撹拌することによって、小径化した廃CFRP又は廃タイヤの全ての表面が、均質にオゾン水と接触するのを助ける。撹拌機構は、撹拌羽根などの一般的なスラリー撹拌装置に用いられるものであればよい。
【0052】
また、廃CFRPを処理する場合は、オゾン水には、特に、疎水性である炭素繊維を含む廃CFRPの濡れ性を改善するために、界面活性剤を含有せしめることが好ましい。界面活性剤の使用量は、オゾン水の量を100質量部としたとき、0.01質量部以上1質量部以下であることが好ましい。界面活性剤の使用量が、0.01質量部を下回る場合、疎水性の高い炭素繊維を含む廃CFRPの濡れ性が改善されない場合がある。また、1質量部を上回る場合、界面活性剤の使用量に応じた濡れ性の改善効果が認められない場合がある。
【0053】
最後に、オゾンに接触させた廃CFRP又は廃タイヤをセメントキルンの内部で加熱する。オゾン水に浸漬後、回収した廃CFRPまたは廃タイヤは、乾燥処理する必要はない。また、オゾンを含む雰囲気ガス中に暴露するか、オゾン水に浸漬して、オゾンによる燃焼性改善作用を受けた廃CFRP又は廃タイヤは、空気中に放置していても改善された燃焼性が低下することはない。
【0054】
セメントキルンでの廃CFRP又は廃タイヤのサーマルリサイクル又はケミカルリサイクルを実施するに際し、セメントキルンへの廃CFRP又は廃タイヤの投入箇所は、特に限定されるものではなく、窯前側(キルンバーナー側)からでも窯尻側からのいずれであってもよく、また仮焼炉での使用でもよい。
【0055】
ただし、廃CFRPについては、廃CFRPが含んでいる炭素繊維の燃焼温度域(500℃〜800℃)を超える温度を有する箇所に投入することが好ましい。
【0056】
なお、本実施形態においては、炭素含有廃棄物の焼却設備としてセメント製造設備であるセメントキルンの例を説明したが、本発明の処理方法においては、セメントキルン以外の焼却設備を用いてもよい。
【0057】
また、処理対象物の1つとして、廃CFRPの例を説明したが、これは、本発明に係る方法が、炭素化合物が炭素繊維であるものに対して、特に高い燃焼促進効果を得ることができるものであるためである。しかし、本発明に係る方法の処理対象物は、炭素化合物として炭素繊維を含む廃棄物に限定されるものではなく、炭素繊維以外の炭素化合物を含むものであってもよい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の処理方法に係る試験結果(すなわち、本発明の処理方法の実施例)について説明する。
【0059】
[試験例1]
まず、廃CFRPまたは廃タイヤの大きさと雰囲気のオゾン濃度を一定とし、かかるオゾンを含む雰囲気への暴露時間を変化させて、廃CFRPまたは廃タイヤの燃焼性を比較した。また、廃CFRPについては、オゾン水に浸漬する条件も比較した。以下、この試験を「燃焼性評価試験」という。
【0060】
具体的には、以下に示すようにして各試験水準を設定した。
【0061】
《試験1−1》
炭素含有廃棄物:廃CFRP(炭素繊維含有率:58質量%)
廃CFRPの試料サイズ:平均粒子径1mm
オゾン接触方法:オゾン含有雰囲気への暴露(20℃)
雰囲気:オゾン濃度500ppm
暴露条件:50mlの密閉容器(雰囲気ガスの導入機構、排出機構付き)に上記廃CFRP1gを投入し、そこに上記雰囲気を4L/分で流し続けた。
暴露時間:0(比較例1)、1時間(実施例1)、3時間(実施例2)
【0062】
《試験1−2》
炭素含有廃棄物:廃CFRP(炭素繊維含有率:58質量%)
廃CFRPの試料サイズ:平均粒子径1mm
オゾン接触方法:界面活性剤入りオゾン水への浸漬
オゾン水:オゾン濃度50ppm
界面活性剤:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、及びアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム混合物(ライオン株式会社製:ママレモン(商品名))
界面活性剤濃度:オゾン水の全量100質量部に対し0.01質量部(0.01質量%)
浸漬条件:界面活性剤を含むオゾン水100mlに上記廃CFRP1gを投入し、蓋をして静置した。
暴露時間:1時間(実施例3)
【0063】
《試験2》
炭素含有廃棄物:廃タイヤ
廃タイヤの試料サイズ:3×3×3mm
オゾン接触方法:オゾン含有雰囲気への暴露(20℃)
雰囲気:オゾン濃度500ppm
暴露条件:50mlの密閉容器(雰囲気ガスの導入機構、排出機構付き)に上記廃タイヤ片の1個を投入し、そこに上記雰囲気を4L/分で流し続けた。
暴露時間:0(比較例2)、1時間(実施例4)、3時間(実施例5)
【0064】
得られた暴露または浸漬後の試料を、昇温速度10℃/分で加熱し、室温〜1000℃の温度域で、重量減少率を測定した。重量減少率の測定は、熱重量・示差熱測定装置(ネッチ・ジャパン株式会社製:TG−DTA 2020SR(商品名))を用いて行い、室温での重量に対する重量減少率(質量%)、及び、固定炭素(揮発しない形態の炭素:CFRPではほとんどが炭素繊維)の重量(熱重量曲線において、500℃〜600℃に生じる緩勾配の始点の重量と、800℃付近の重量減少が生じなくなった地点での重量との差分)において、かかる固定炭素の重量を100%とした場合の重量減少率(質量%)を算出した。前者(室温重量に対する重量減少率)は廃CFRP又は廃タイヤの全燃焼率に相当し、後者(固定炭素の重量に対する重量減少率)は廃CFRP中又は廃タイヤ中の固定炭素の燃焼率に相当する。
【0065】
燃焼性評価試験の試験結果を、廃CFRPについては表1及び表2に示し、廃タイヤについては表3及び表4に示す。また、それぞれの熱重量曲線を図1及び図2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
表1に示すように、オゾン雰囲気に暴露又はオゾン水に浸漬した廃CFRP(実施例1〜実施例3)は、750℃まで加熱した段階で燃え切っていたのに対し、オゾンに接触していない比較例1では、およそ1割の燃え残りがあった。さらに、表2に示すように、固定炭素(炭素繊維)の燃焼性を比較すると、オゾンに接触した実施例1〜実施例3では、750℃まで加熱した段階で廃CFRPの固定炭素(炭素繊維)が燃え切っていたのに対し、オゾンに接触していない比較例1では、800℃まで加熱しないと固定炭素が燃え切らなかった。
【0071】
また、オゾン雰囲気に暴露した廃CFRP(実施例1及び実施例2)と、界面活性剤を含むオゾン水に浸漬した廃CFRP(実施例3)を比較すると、炭素が燃え切る前の700℃の燃焼率は、全燃焼率(表1)及び固定炭素(炭素繊維)の燃焼率(表2)において、共に、500ppmのオゾン雰囲気に3時間暴露した実施例2と、それより低濃度のオゾン濃度の50ppmのオゾン水に、より短時間の1時間浸漬した実施例3とは、燃焼率が同程度であった。このことから、炭素含有廃棄物とオゾンとの接触方法として、より好ましい方法は、炭素含有廃棄物をオゾン水に浸漬する方法であると考えられた。
【0072】
次に、表3に示すように、オゾン雰囲気に暴露した廃タイヤ(実施例4及び実施例5)は、600℃まで加熱した段階で燃え切っていたのに対し、オゾンに接触していない比較例2では、650℃まで加熱しないと燃え切らなかった。さらに、表4に示すように、固定炭素の燃焼性を比較すると、オゾンに接触した実施例4及び実施例5では、580℃まで加熱した段階で廃タイヤの固定炭素が燃え切っていたのに対し、オゾンに接触していない比較例2では、600℃まで加熱しても1割の燃え残りがあった。
【0073】
また、実施例4と実施例5の燃焼率が同程度であったことから、廃タイヤについては、暴露時間が1時間より短くても、十分な燃焼性改善効果が得られると考えられた。
【0074】
[試験例2]
次に、廃CFRPについて、平均粒子径を変化させた場合の燃焼率の評価を行った。以下、この試験を「粒子径評価試験」という。
【0075】
粒子径評価試験の試料として、燃焼性評価試験と同じ廃CFRPを用いて、平均粒子径が16mm、9.5mm、6.7mm、4.75mm、2.8mmの5種類の試料を作成した。
【0076】
各試料に接触させるオゾン雰囲気は、燃焼性評価試験と同じものを用い、廃CFRPのオゾン雰囲気の暴露時間は3時間とした(燃焼性評価試験の実施例2と同じ。)。比較例として、オゾン雰囲気に暴露しないものを準備した(燃焼性評価試験の比較例1と同じ。)。
【0077】
上記試料を、1400℃に温度設定された大気雰囲気の電気炉で3分間加熱し、加熱後の試料中に燃焼せずに残っている固定炭素(炭素繊維)の残存率を評価した。この加熱条件は、セメントキルンの窯前部に投入して燃焼処理を行った場合を模した条件である。未燃の固定炭素(炭素繊維)有無の評価は、加熱後の試料について、上記燃焼性評価試験と同様に熱重量減少を測定して、固定炭素(炭素繊維)の燃焼温度域(500〜800℃)での重量減少量を求めて、別途、加熱前の試料についても、同様に、固定炭素(炭素繊維)の燃焼温度域(500〜800℃)の重量減少率を求め、加熱前から加熱後にわたる燃え残りの割合を固定炭素(炭素繊維)の残存率(質量%)として評価した。
粒子径評価試験の試験結果を、表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
表5に示すように、平均粒子径が10mm以下、好ましくは、7mm以下であれば、燃焼性改善効果がより大きいことが明らかとなった。
図1
図2