(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されるような錯化合物の乾燥剤と、上記特許文献2に記載されるような粉体状(粒子状)の固体乾燥剤とを比較すると、後者の方が高い捕水性能を示す傾向にある。このため、有機EL表示装置の高寿命化を実現する観点から、固体乾燥剤を含む充填材を用いた充填封止構造を有する有機EL表示装置が求められている。しかしながら、このような充填材を封止空間に充填するとき等に、固体乾燥剤に起因した有機EL素子の破損が発生することがある。したがって、固体乾燥剤を用いた場合、有機EL表示装置の歩留まりが低下するという課題がある。
【0006】
本発明は、充填材に粒子状の固体乾燥剤が分散される場合であっても、歩留まりよく製造可能な有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る有機EL表示装置は、第1主面を有する第1基板と、第1主面上であって、第1基板の縁に沿って設けられる枠状の封止層と、封止層を介して第1基板と一体化されており、第1主面に対向する第2主面を有する第2基板と、第2主面上であって、第1基板、封止層、及び第2基板に囲まれて封止された封止空間内に設けられる表示部と、封止空間内に充填されると共に粒子状の固体乾燥剤が分散される充填材と、を備え、表示部は、第2主面上に設けられると共に第2主面側から順に積層された第1電極、有機EL層、及び第2電極を有する有機EL素子と、第2電極上に接して設けられる有機犠牲層と、有機犠牲層上に接して設けられる第1無機保護層と、を備え、第1基板の厚さ方向において有機EL素子に重なる充填材は、第1無機保護層と第1基板との間に位置している。
【0008】
この有機EL表示装置は、第2電極上に接して設けられる有機犠牲層と、有機犠牲層上に接して設けられる第1無機保護層とを備えており、且つ、第1基板の厚さ方向において有機EL素子に重なる充填材は、第1無機保護層と第1基板との間に位置している。このため、充填材に分散される固体乾燥剤と有機EL素子との直接的な接触が防止されているので、固体乾燥剤が第2電極の表面を傷つけることを良好に抑制できる。また、厚さ方向において有機EL素子と充填材との間には有機犠牲層及び第1無機保護層が順に積層されている。よって、固体乾燥剤が第1無機保護層を押圧したとき、固体乾燥剤は、第1無機保護層を介して有機犠牲層を圧縮変形する。これにより、固体乾燥剤に起因した応力が有機犠牲層によって緩和され、有機EL層が圧縮変形しにくくなる。加えて、上記厚さ方向に交差する方向に移動する固体乾燥剤が第1無機保護層を擦った場合、第1無機保護層は、固体乾燥剤に引きずられて有機犠牲層上をスリップし、有機犠牲層が抉られることがある。この場合もまた有機犠牲層の変形によって、第2電極が固体乾燥剤に連動しにくくなる。これにより、有機EL素子の第2電極がスリップされにくくなるので、有機EL層が抉られることを良好に抑制できる。したがって、充填材に粒子状の固体乾燥剤が分散される場合であっても、固体乾燥剤によって有機EL素子が損傷することを抑制できるため、歩留まりよく有機EL表示装置を製造可能になる。
【0009】
有機犠牲層は、有機EL層に含まれる有機材料の少なくともいずれかを含んでもよい。この場合、低コストにて有機犠牲層を形成できる。
【0010】
第1無機保護層は、第2電極に含まれる導電材料から構成される導電層を有してもよい。この場合、低コストにて第1無機保護層を形成できる。
【0011】
第1無機保護層は、酸化シリコン層、窒化酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸化チタン層、及び酸化アルミニウム層の少なくともいずれかを有してもよい。この場合、緻密な絶縁層を第1無機保護層に含ませることができる。これにより、固体乾燥剤が第1無機保護層及び有機犠牲層を貫通して有機EL素子に到達することを良好に抑制できる。
【0012】
固体乾燥剤は、アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ土類金属塩化物の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、固体乾燥剤は良好な捕水性を示す。
【0013】
上記有機EL表示装置は、表示部を覆う第2無機保護層をさらに備え、第1基板の厚さ方向において有機EL素子に重なる充填材は、第2無機保護層と第1基板との間に位置してもよい。この場合、充填材内に含まれる水分が有機EL素子に到達することを、第2無機保護層によって抑制できる。
【0014】
有機犠牲層の厚さは、10nm以上200nm以下であってもよい。この場合、固体乾燥剤に起因した応力が有機EL素子に加わることを、有機犠牲層によって良好に緩和できる。
【0015】
第1無機保護層の厚さは、50nm以上300nm以下であってもよい。この場合、固体乾燥剤が第1無機保護層を貫通すること、及び第1無機保護層が有機EL素子の電気光学特性及び寿命に悪影響を与えることを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、充填材に粒子状の固体乾燥剤が分散される場合であっても、歩留まりよく製造可能な有機EL表示装置を提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
まず、本実施形態に係る有機EL表示装置の構成について、
図1〜
図3を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る有機EL表示装置の概略平面図である。
図2は、
図1のA−A線概略断面図である。
図3は、
図2の要部拡大図である。
【0020】
図1〜
図3に示されるように、本実施形態に係る有機EL表示装置1は、パッシブマトリックス型の表示装置である。有機EL表示装置1は、互いに積層している第1基板2及び第2基板3と、表示部4と、配線部5と、枠状の封止層6と、充填材7と、集積回路8と、FPC9(フレキシブルプリント基板)と、保護樹脂10とを備えている。以下では、第1基板2と第2基板3とが互いに積層する方向を、単に「積層方向」として説明する。積層方向は、第1基板2及び第2基板3の厚さ方向に相当する。
【0021】
第1基板2は、封止基板として機能する基板であり、第2基板3に対向するように設けられている。第1基板2は、例えばガラス基板、セラミックス基板、金属基板、又は可撓性を有する基板(例えば、プラスチック基板)である。第1基板2において第2基板3に対向する主面2a(第1主面)は、略長方形状を呈している。主面2aの縁は、封止層6に接している。
【0022】
第2基板3は、表示部4及び配線部5が設けられる素子基板であり、封止層6を介して第1基板2と一体化されている。第2基板3は、例えばガラス基板、又は可撓性を有する基板(例えば、プラスチック基板等)であり、透光性を有している。第2基板3の主面3a(第2主面)は、主面2aと同様に略長方形状を呈しており、当該主面2aに対向している。主面3aの短辺は、主面2aの短辺と略同一であり、主面3aの長辺は、主面2aの長辺よりも長くなっている。このため、主面2a,3aの一短辺同士を合わせた場合、主面3aの一部は、第1基板2から露出している。積層方向における主面2a,3aの距離は、例えば10μm〜30μmである。なお、本実施形態における「略同一」は、完全同一だけを示すのではなく、多少の誤差(例えば、最大数%程度)を包含する概念である。
【0023】
表示部4は、電流が供給されることによって光を発生する部分であり、第2基板3の主面3a上に設けられている。表示部4は、第1基板2、第2基板3、及び封止層6によって囲まれて封止された封止空間S内に設けられている。表示部4は、マトリクス状に配置された複数の有機EL素子11と、有機EL素子11上に接して設けられる有機犠牲層12と、有機犠牲層12上に接して設けられる第1無機保護層13と、積層方向から見て有機EL素子11を囲むように設けられる絶縁膜14と、絶縁膜14上に設けられる素子分離体15とを備える。
【0024】
各有機EL素子11は、電流が供給されることによって発光する素子であり、第2基板3の主面3a上に設けられている。有機EL素子11は、主面3aから順に積層された第1電極21、有機EL層22、及び第2電極23を有している。
【0025】
第1電極21は、陽極として機能する透明導電層であり、主面3aの長辺方向に沿って延在している。第1電極21を構成する材料としては、例えばITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の透光性を有する導電材料が用いられる。第1電極21は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法等のPVD法(物理気相成長法)によって、主面3a上に成膜した透明導電膜をパターニングすることによって形成される。
【0026】
有機EL層22は、発光材料を含む有機発光層を少なくとも備える。有機EL層22は、有機発光層に加えて、電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層等を有してもよい。発光材料は、低分子有機化合物でもよく、高分子有機化合物でもよい。発光材料として、蛍光材料が用いられてもよく、リン光材料が用いられてもよい。電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層は、それぞれ有機材料を含む。例えば、正孔輸送層には正孔輸送性を示す低分子有機化合物であるα−NPDが含まれ、電子輸送層には電子輸送性を示す低分子有機化合物であるAlq
3が含まれる。有機EL層22の厚さは、例えば100nm以上300nm以下である。有機EL層22は、例えばPVD法によって形成される。
【0027】
第2電極23は、陰極として機能する導電層であり、主面3aの短辺方向に沿って延在している。第2電極23を構成する材料(導電材料)は、例えばアルミニウム、銀等の金属である。当該導電材料には、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)が含まれてもよいし、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ITO(酸化インジウムスズ)等の透光性を有する材料が含まれてもよい。導電材料には、複数の導電材料が含まれてもよい。第2電極23の厚さは、例えば50nm以上300nm以下である。第2電極23は、例えばPVD法によって形成される。
【0028】
有機犠牲層12は、有機EL素子11の第2電極23側からの損傷を保護するための有機層である。積層方向から見た有機犠牲層12の形状は、第2電極23の形状と略同一である。有機犠牲層12は、例えば有機EL層22に含まれる有機材料の少なくともいずれかを含む。この場合、有機EL素子11の製造装置にて有機犠牲層12を形成可能になる。有機犠牲層12を安価且つ容易に形成する観点から、有機犠牲層12は、有機EL素子11に多量に含まれることが多い有機材料(例えば、α−NPD、Alq
3など)から構成されてもよい。有機犠牲層12の厚さは、例えば10nm以上200nm以下である。この場合、有機犠牲層12を過剰に設けることなく、有機EL素子11を保護可能になる。有機犠牲層12は、有機EL層22と同様にPVD法によって形成される。
【0029】
第1無機保護層13は、有機犠牲層12と同様に、有機EL素子11の第2電極23側からの損傷を保護するための無機層である。積層方向から見た第1無機保護層13の形状は、第2電極23の形状と略同一である。第1無機保護層13は、無機導電層及び無機絶縁層の少なくとも一方を有する。第1無機保護層13が無機導電層を有する場合、当該無機導電層は、第2電極23に含まれる導電材料から構成される導電層でもよい。この場合、有機EL素子11の製造装置にて第1無機保護層13を形成可能になる。第1無機保護層13が無機絶縁層を有する場合、当該無機絶縁層は、酸化シリコン層、窒化酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸化チタン層、及び酸化アルミニウム層の少なくともいずれかを有してもよい。第1無機保護層13の厚さは、例えば50nm以上300nm以下である。この場合、有機EL素子11の光学特性等に影響を与えることなく、有機EL素子11を保護可能になる。第1無機保護層13は、第2電極23と同様にPVD法によって形成される。
【0030】
絶縁膜14は、表示部4内の各有機EL素子11に非発光部を設けたり、第1電極と第2電極23との間の望ましくない(意図しない)短絡を防ぐために設けられる絶縁膜である。絶縁膜14は、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜等の無機絶縁膜でもよく、ポリイミド樹脂膜、シクロオレフィン樹脂膜、アクリル樹脂膜等の有機絶縁膜でもよい。絶縁膜14の厚さは、例えば50nm以上3000nm(3μm)以下である。絶縁膜14は、第1電極21が形成された後であって、有機EL層22が形成される前に設けられる。
【0031】
素子分離体15は、表示部4内の第2電極23同士を分離するために設けられる絶縁体である。素子分離体15は、主面3aの長辺方向に沿って延在すると共に、断面逆テーパー形状を呈する。素子分離体15は、絶縁膜14が形成された後であって、有機EL層22が形成される前に設けられる。このため、素子分離体15の形成後に有機EL層22及び第2電極23をPVD法により形成することによって、有機EL層22及び第2電極23は、素子分離体15によって所望の形状を呈する。同様に、有機犠牲層12及び第1無機保護層13は、積層方向から見たときに有機EL層22及び第2電極23と同様の形状を呈する。素子分離体15は、例えばネガ型の感光性樹脂を含む。
【0032】
封止空間S内には、表示部4を覆う第2無機保護層16が設けられている。第2無機保護層16は、有機EL素子11、有機犠牲層12、及び第1無機保護層13を保護すると共に有機EL素子11への水分の浸入を抑制するために設けられる。第2無機保護層16は、無機絶縁層である。第2無機保護層16は、酸化シリコン層、窒化酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸化チタン層、及び酸化アルミニウム層の少なくともいずれかを有してもよい。第2無機保護層16の厚さは、例えば10nm以上300nm以下である。この場合、第2無機保護層16によって有機EL素子11等を良好に保護すると共に、第2無機保護層16によって有機EL素子11に水分が浸入することを良好に防止できる。第2無機保護層16は、例えばPVD法によって形成される。
【0033】
配線部5は、複数の引き回し配線を含む部分であり、第1領域5a及び第2領域5bを有する。第1領域5aには、表示部4と集積回路8とを接続する引き回し配線Wが設けられる。引き回し配線Wは、例えば順に積層されたモリブデン合金層、アルミニウム合金層、及びモリブデン合金層を含む。引き回し配線Wは、有機EL素子11の第1電極21又は第2電極23と同時に形成されてもよい。第2領域5bには、集積回路8とFPC9とを接続する引き回し配線(不図示)が設けられており、当該引き回し配線は、引き回し配線Wと同時に形成される。配線部5には、上記引き回し配線を保護するためのバリア膜が設けられてもよい。バリア膜は、例えば酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜等の絶縁膜である。このバリア膜は、絶縁膜14と同時に形成されてもよい。
【0034】
封止層6は、第1基板2と第2基板3とを接合するための接合剤として機能すると共に、封止空間Sを画成するための側壁として機能する。封止層6は、第1基板2の主面2aにおける縁に沿って設けられており、当該縁及び第2基板3の主面3aに接している。封止層6は、配線部5を構成する引き回し配線(例えば、第1領域5aに設けられる引き回し配線W)にも接している。封止層6は、積層方向から見て主面2aの縁の形状に沿った四角枠形状を呈している。封止層6は、例えば接着性を有する紫外線硬化樹脂を含んでいる。封止層6には、グラスファイバー、シリカ粒子、樹脂ボール等のスペーサ等が含まれてもよい。
【0035】
充填材7は、封止空間S内に収容され、当該封止空間S内の空間を埋めるものである。充填材7は、封止空間Sに隙間なく充填されている。積層方向において有機EL素子11に重なる充填材7は、第2無機保護層16と第1基板2との間に位置している。充填材7は、ベース材料7aと、ベース材料7aに分散される粒子状の固体乾燥剤7bとを含んでいる。粘度調整容易性の観点から、ベース材料7aは、例えば種々の硬化性樹脂である。ベース材料7aとして、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。固体乾燥剤7bは、例えばアルカリ土類金属酸化物及びアルカリ土類金属塩化物の少なくとも一方を含む。アルカリ土類金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化ストロンチウム(SrO)が挙げられる。アルカリ土類金属塩化物としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウムが挙げられる。固体乾燥剤7bは、複数の粒子から構成されてもよい。例えば、固体乾燥剤7bは、アルカリ土類金属酸化物の粒子とアルカリ土類金属塩化物の粒子との組み合わせでもよく、複数種類のアルカリ土類金属酸化物の粒子を含んでもよい。充填材7における固体乾燥剤7bの割合は、30質量%以上60質量%以下である。この場合、有機EL素子11への水分の浸入、及び固体乾燥剤7bに起因した有機EL素子11の損傷を良好に抑制できる。加えて、固体乾燥剤7bがベース材料7a内にて凝集する可能性を低減できる。固体乾燥剤7bの平均粒径は、例えば0.1μm以上2μm以下である。充填材7には、金属アルコキシドを捕水成分とした液状乾燥剤が含まれてもよい。
【0036】
集積回路8は、各有機EL素子11の発光及び非発光を制御する駆動回路である。集積回路8は、第2基板3の主面3aにおいて第1基板2から露出した領域に搭載されており、配線部5に接続されている。集積回路8は、例えばICチップ等である。主面3aに搭載される集積回路8の数は、1つでもよいし、複数でもよい。
【0037】
FPC9は、配線部5における第2領域5bの引き回し配線に接続されており、有機EL表示装置1と外部装置とを接続する配線である。FPC9は、例えば可撓性を有するプラスチック基板を用いて形成される。FPC9に接続される外部装置は、例えば電源及び電流制御回路等である。
【0038】
保護樹脂10は、封止空間Sの外側に位置する配線部5及び集積回路8を保護するために設けられる樹脂である。保護樹脂10は、主面3aにおいて第1基板2と重ならない領域に当該樹脂を滴下することによって設けられる。保護樹脂10は、例えば種々の硬化性樹脂である。
【0039】
次に、ODF(One Drop Filling)法を用いた充填材7の充填方法の一例について、
図4(a)〜(c)を参照しながら説明する。
図4(a)〜(c)は、充填材の充填方法を説明するための模式図である。なお、この充填方法の説明では、表示部4、配線部5、集積回路8、及びFPC9は省略されている。
【0040】
まず、
図4(a)に示されるように、後に封止層6となる接着剤31が設けられた第1基板2を準備する。接着剤31は、第1基板2の主面2aにおいて四角枠形状を呈するように設けられる。次に、第1基板2の主面2a上に充填材7を滴下する。充填材7は、主面2a上において接着剤31に囲まれた領域に滴下される。主面2aにおける充填材7が滴下される箇所は、1カ所でもよいし、複数箇所でもよい。
【0041】
そして
図4(b)に示されるように、低圧状態又は真空状態にて、第1基板2に第2基板3を重ねて封止する。このとき、第1基板2及び第2基板3のそれぞれに圧力を付し、積層方向における第1基板2と第2基板3との間隔を狭める。このとき、充填材7は、封止空間S内の空隙を埋めながら、接着剤31側に広がる。そして
図4(c)に示されるように、充填材7が隙間なく封止空間Sを埋める。第1基板2に第2基板3を貼り付けた後、常圧状態にて接着剤31に紫外線を照射すると共に当該接着剤31に加熱を施し、封止層6を形成する。このとき、充填材7を硬化させてもよい。
【0042】
次に、
図5〜
図7を用い、下記比較例と対比しながら本実施形態に係る有機EL表示装置1によって奏される作用効果について説明する。
図5は、比較例に係る有機EL表示装置の概略断面図である。
図6(a)は、
図5の要部拡大図であり、
図6(b)は、
図6(a)に示された破線に囲まれた部分の拡大図である。
図7(a)は、本実施形態に係る有機EL表示装置の要部拡大断面図であり、
図7(b)は、
図7(a)に示された破線に囲まれた部分の拡大図である。
【0043】
図5に示されるように、比較例に係る有機EL表示装置100は、表示部104に有機犠牲層と第1無機絶縁層とが設けられていないこと、及び表示部104を覆う第2無機絶縁層が設けられていないこと以外は、本実施形態に係る有機EL表示装置1と同様の構成を有する。このため、比較例においても、固体乾燥剤7bを含む充填材7が封止空間S内に設けられている。
【0044】
充填材7においてベース材料7aに分散されている固体乾燥剤7bは、凝集することがある。例えば、
図6(a)に示されるように、表示部4の有機EL素子11と第1基板2の主面2aとの両方に接触する大きさを有する固体乾燥剤7bの凝集体Cが、充填材7に含まれることがある。このような凝集体Cは、充填材7を充填するときに有機EL素子11の表面(すなわち、第2電極23の表面)に接触し、当該表面を傷つけることがある。また、第1基板2と第2基板3とを封止層6を介して接合するとき、第1基板2に接触している凝集体Cは、有機EL素子11を押圧することがある。もしくは、第1基板2に接触している凝集体Cは、積層方向に交差する方向に移動し、第2電極23を擦ることがある。
【0045】
加えて、有機EL表示装置1を構成する部材の大部分の熱膨張係数は、固体乾燥剤7bの熱膨張係数と異なる。このため、例えば封止層6を形成するために加熱処理を実施した後の冷却時、固体乾燥剤7bの界面には上記熱膨張係数の差に起因する応力が発生する。固体乾燥剤7bが有機EL素子11に接触している場合、固体乾燥剤7bと有機EL素子11との間に応力が発生する。この応力によって、固体乾燥剤7bが有機EL素子11を押圧する、もしくは固体乾燥剤7bが第2電極23を擦ることがある。さらには、有機EL表示装置1の使用時には有機EL素子11が発熱する。このため、有機EL表示装置1の製造時だけでなく、有機EL表示装置1の使用時においても、有機EL素子11が固体乾燥剤7bによって押圧される、もしくは固体乾燥剤7bが第2電極23を擦ることがある。
【0046】
上述したように固体乾燥剤7b(もしくは凝集体C)が有機EL素子11を押圧することによって、
図6(b)に示されるように第2電極23及び有機EL層22が圧縮される。ここで、有機EL層22に含まれる有機化合物は、ファンデルワールス力によって堆積されている一方で、第2電極23に含まれる金属は、一般にファンデルワールス力よりも強い結合力を示す金属結合によって堆積されている。このため、有機EL層22の密度及び強度は、無機導電層である第2電極23よりも小さい傾向にあるので、有機EL層22は、第2電極23よりも圧縮変形されやすい。また、有機EL層22と第2電極23との間の結合力は弱いため、固体乾燥剤7b(もしくは凝集体C)が移動して第2電極23を擦ることによって、第2電極23は、固体乾燥剤7bに引きずられて有機EL層22上をスリップすることがある。このとき、スリップした第2電極23の一部に応力が集中し、有機EL層22が抉られることがある。これらのように有機EL素子11の有機EL層22が損傷すると、第1電極21と第2電極23とが近接する、もしくは互いに接触することがある。これにより、有機EL素子11に起因したリーク電流の増加、第1電極21と第2電極23との短絡等が発生してしまうことがある。この場合、いわゆるピンホールが表示部4に設けられてしまう。
【0047】
比較例において有機EL素子11の損傷を防ぐため、例えば有機EL素子11上に固体乾燥剤7bよりも高い硬度を有する保護膜を設けること、又は有機EL素子11上に数μmの厚さを有する保護膜を設けることが考えられる。しかしながら、前者の場合、高い硬度を有する保護膜自体が有機EL素子11に応力を及ぼしてしまう。これにより、有機EL素子11の電気光学特性及び寿命に悪影響を与えるおそれがある。また後者の場合、保護膜を十分な厚さとするための時間がかかるため、有機EL表示装置1の生産性が低下すると共に有機EL表示装置1の生産コストが著しく高くなってしまう。
【0048】
これに対して本実施形態に係る有機EL表示装置1は、
図7(a),(b)に示されるように、第2電極23上に接して設けられる有機犠牲層12と、有機犠牲層12上に接して設けられる第1無機保護層13とを備えており、且つ、積層方向において有機EL素子11に重なる充填材7は、第1無機保護層13と第1基板2との間に位置している。このため、充填材7に分散される固体乾燥剤7bと有機EL素子11との直接的な接触が防止されているので、固体乾燥剤7bが第2電極23の表面を傷つけることを良好に抑制できる。また、積層方向において有機EL素子11と充填材7との間には有機犠牲層12及び第1無機保護層13が順に積層されている。よって、固体乾燥剤7bが第1無機保護層13を押圧したとき、固体乾燥剤7bは、第1無機保護層13を介して有機犠牲層12を圧縮変形する。これにより、固体乾燥剤7bに起因した応力が有機犠牲層12によって緩和されるので、有機EL層22が圧縮変形しにくくなる。加えて、固体乾燥剤7bが積層方向に交差する方向に移動して第1無機保護層13を擦った場合、第1無機保護層13が有機犠牲層12上をスリップし、有機犠牲層12が抉られる。この場合もまた、有機犠牲層12の変形によって、第2電極23が固体乾燥剤7bに連動しにくくなる。これにより、有機EL素子11の第2電極23がスリップされにくくなるので、有機EL層22が抉られることを良好に抑制できる。したがって、充填材7に粒子状の固体乾燥剤7bが分散される場合であっても、固体乾燥剤7bによって有機EL素子11が損傷することを抑制できるため、歩留まりよく有機EL表示装置1を製造可能になる。なお、充填材7に固体状の異物が含まれる場合であっても、当該異物の影響は有機犠牲層12及び第1無機保護層13によって良好に抑制されるので、歩留まりよく有機EL表示装置1を製造可能になる。
【0049】
有機犠牲層12は、有機EL層22に含まれる有機材料の少なくともいずれかを含んでもよい。この場合、低コストにて有機犠牲層12を形成できる。具体的には、有機EL素子11の製造後、有機EL素子11の製造装置を用い、真空状態を維持した状態にて有機犠牲層12を有機EL素子11上に形成することによって、低コストにて有機犠牲層12を形成できる。
【0050】
第1無機保護層13は、第2電極23に含まれる導電材料から構成される導電層を有してもよい。この場合、低コストにて第1無機保護層13を形成できる。具体的には、有機EL素子11の製造後、有機EL素子11の製造装置を用い、真空状態を維持した状態にて第1無機保護層13を有機犠牲層12上に形成することによって、低コストにて第1無機保護層13を形成できる。
【0051】
第1無機保護層13は、酸化シリコン層、窒化酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸化チタン層、及び酸化アルミニウム層の少なくともいずれかを有してもよい。この場合、緻密な絶縁層を第1無機保護層13に含ませることができる。これにより、固体乾燥剤7bが第1無機保護層13及び有機犠牲層12を貫通して有機EL素子11に到達することを良好に抑制できる。
【0052】
固体乾燥剤7bは、アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ土類金属塩化物の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、固体乾燥剤7bは良好な捕水性を示す。
【0053】
有機EL表示装置1は、表示部4を覆う第2無機保護層16を備え、積層方向において有機EL素子11に重なる充填材7は、第2無機保護層16と第1基板2との間に位置している。このため、充填材7内に含まれる水分が有機EL素子11に到達することを、第2無機保護層16によって抑制できる。
【0054】
有機犠牲層12の厚さは、10nm以上200nm以下である。このため、固体乾燥剤7bに起因した応力が有機EL素子11に加わることを、有機犠牲層12によって良好に緩和できる。加えて、有機EL表示装置1の生産コストを抑えることができる。
【0055】
第1無機保護層13の厚さは、50nm以上300nm以下である。このため、固体乾燥剤7bが第1無機保護層13を貫通すること、及び第1無機保護層13が有機EL素子11の電気光学特性及び寿命に悪影響を与えることを抑制できる。加えて、有機EL表示装置1の生産コストを抑えることができる。
【0056】
本発明による有機EL表示装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。
図8は、変形例に係る有機EL表示装置の概略断面図である。
図8に示される有機EL表示装置1Aは、上記実施形態の有機EL表示装置1の構造に加えて、第1基板2の主面2a上に接する補強膜41と、第2基板3の主面3a上に接する補強膜42とを備える。水分透過性を抑制する観点から、補強膜41,42のそれぞれは、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜の少なくともいずれかを含む。変形例においては、第1基板2及び第2基板3のそれぞれは可撓性を有している。よって、補強膜41は第1基板2を補強するために設けられ、補強膜42は第2基板3を補強するために設けられる。このような変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、有機EL表示装置1Aをフレキシブルディスプレイとした場合であっても、第1基板2及び第2基板3の破損を抑制できる。
【0057】
上記実施形態及び上記変形例において、封止空間S内には第2無機保護層16が設けられなくてもよい。この場合、積層方向において有機EL素子11に重なる充填材7は、第1無機保護層13と第1基板2との間に位置している。
【0058】
上記実施形態及び上記変形例において、有機EL表示装置は、パッシブマトリクス型の表示装置に限られない。例えば、有機EL表示装置は、アクティブマトリクス型の表示装置でもよい。この場合、各有機EL素子に対応するトランジスタ等が設けられる。
【0059】
上記実施形態及び上記変形例において、第1基板及び第2基板の両方は、積層方向から見て略矩形状に限られない。例えば、積層方向から見て第1基板及び第2基板の両方は、多角形状を呈してもよいし、略円形状を呈してもよい。同様に、第1基板に設けられる封止層は、積層方向から見て多角枠形状又は略環形状を呈してもよい。このため、封止層は、一つの隅を有してもよいし、隅を有さなくてもよい。