(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態のガスケットを説明する。本実施形態のガスケットは、電気自動車に搭載されるバッテリのバッテリケースを密封する。
【0010】
図1に示すように、電気自動車1は、平べったい薄型で大型のバッテリ101を搭載する。バッテリ101の搭載位置は、電気自動車1の床面2の下方である。
【0011】
図2(A)(B)に示すように、バッテリ101は、バッテリケース102の内部に各種構造物(不図示)を収納する。バッテリケース102は、例えば、矩形の平面形状を有する扁平筐体状で、上面が開口するケース103を有する。ケース103の開口104は、カバー105で塞がれる。
【0012】
図2(A)に一点鎖線で示す密封領域Sは、ケース103とカバー105との接合部分である。密封領域Sには、ガスケット11(
図4以降の各図参照)が配置され、ガスケット11によってケース(第1部材)103とカバー(第2部材)105が密封される。
【0013】
図2(B)に示すように、密封領域Sは、ケース103の縁から外方に屈曲するフランジ106とカバー105との接合部分に設けられる。フランジ106には、全周にわたり溝107が設けられる。ガスケット11は、溝107に嵌められる。
【0014】
密封領域Sの周長は、バッテリケース102によって規定されるバッテリ101の外周の周長よりも、バッテリケース102の外周から内周側に寄った分だけ短い。バッテリ101の周長は、電気自動車1の車体の大きさに依存性を示す傾向があり、概ね3000mmから6000mm程度である。
【0015】
図3(A)(B)(C)は、フランジ106に設けられる各種形態の溝107の垂直断面を示している。
図3(B)に示す溝107は、
図3(A)に示す溝107よりも浅い。
図3(C)に示す溝107は、
図3(A)に示す溝107よりも深い。
図3(A)〜
図3(C)の溝107は、ケース103の製造時に行われるプレス加工に際して、一度のプレス加工のみによって成形可能な形状である。こうした製造上の制約によって、溝107は断面湾曲形状を有する。したがって、いずれの溝107も、底部107Bに特有の曲率を有する。
【0016】
なお、
図3(A)(B)(C)は溝107の例に過ぎず、実施に際しては各種の変形が可能である。例えば、開口107Oの大きさ、深さ、側壁107Sの曲率、底部107Bの曲率などは、一度のプレス加工のみによって成形可能である限り、各種の変形が許容される。
【0017】
以下、
図4〜
図9(A)(B)(C)に示す第1実施形態のガスケット11と、
図10〜
図11(A)(B)に示す第2実施形態のガスケット11について説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図4に示すように、本実施形態のガスケット11は、周方向に同一の形状を有する。
図4に示すガスケット11は、真円形状あるいは長円形状であるが、これはガスケット11の形状上の一例にすぎない。ガスケット11は、ラバーオンリータイプである。例えば、フランジ106に設けた溝107などに嵌められて拘束されない限り、ガスケット11は様々な形態をとり得る。
【0019】
本実施形態のガスケット11は、押出成形されたゴム状弾性体12である。ゴム状弾性体12のゴム硬度は、例えば、70度以上である。ガスケット11は、例えば、Oリングのような単純な形状ではなく、基部31に複数片のフィン51を有する。基部31とフィン51は、追加工なく一度の押出成形によって一体に成形される。基部31はゴム状弾性体12の一部であり、フィン51はゴム状弾性体12の別の一部である。
【0020】
図4のA−A線断面を示す
図5を参照すると、基部31とフィン51とを有するガスケット11の垂直断面形状が明確になる。フランジ106に設けた溝107にガスケット11を収納した状態を示す
図6(垂直断面図)及び
図7(斜視図)を参照することで、溝107とガスケット11との静的な関係性が明確になる。さらに、ケース103に対してカバー105を接合させる組み付け作業中、溝107内でのガスケット11の形状変化を示す
図9(A)(B)(C)も参照することで、溝107とガスケット11との動的な関係性も明確になる。
【0021】
基部31は、水平方向の長さよりも垂直方向の長さが長い矩形の断面形状を有する。ただし、基部31は完全な矩形形状ではなく、底部31B及び上部31Uから側壁31Sの高さ方向中央位置に向けて膨らんだ樽のような形状を有する。
【0022】
底部31Bは断面湾曲形状に形成され、曲率を有する。基部31の底部31Bの曲率は、溝107の底部107Bの曲率よりも大きい。したがって、溝107にガスケット11を収納した際、溝107に対して基部31は余裕をもって収納される(
図6、
図7、
図9(B)参照)。これに対して、基部31は、ガスケット11で密封する二部材、つまりフランジ106とカバー105とが接合したとき、溝107の底部107Bに隙間なく密接する(
図9(C)参照)。
【0023】
基部31の上部31Uは、高さ方向中央部分と最上部との中間の位置でテーパー状に絞られ、最上部に向けて狭まる程度を強めている。
基部31は、フランジ106とカバー105が接合したとき、押し潰される高さ寸法を有する(
図9(A)(B)(C)参照)。すなわち、基部31は、溝107の深さよりも大きい高さを有する。また、基部31は、フランジ106とカバー105が接合した際に弾性変形して、フランジ106とカバー105を密封する。
【0024】
フィン51は、基部31の両側壁31Sのそれぞれから異なる高さで三片ずつ突出する。すなわち、基部31の左右それぞれに、フィン51は上下三段設けられる。説明の便宜上、基部31の底部31Bに一番近い最下位置から最上位置に向けてフィン51a,51b,51cと呼ぶ。
【0025】
フィン51(51a,51b,51c)の突出量は、上方のものほど大きい。このため、基部31の樽のような形状と相俟って、個々のフィン51(51a,51b,51c)の先端部分をつないだ仮想面は、上方に向かうにしたがい拡がる形状を呈する。
【0026】
フィン51それ自体は、先端にいくほど薄くなる形状である。フィン51の上面USは、基部31の中心軸と直交する仮想面と平行に延びている。このため、仮想面に対する上面USの傾斜角度は0度である。フィン51の下面LSは、仮想面に対して15度前後、例えば10度から20度程度の傾斜角度を有する。したがって、仮想面に対する傾斜角度は、フィン51の下面LSの方が上面USよりも大きい。
【0027】
フィン51は、基部31が溝107に挿入されたときに溝107の側壁31Sに当たって挿入方向と反対方向に弾性変形する長さを有する(
図6、
図7、
図9(B)参照)。また、基部31の側壁31S中、同じ側に設けられた上下三段のフィン51は、フランジ106とカバー105が接合したとき、側壁107Sに沿って変形し、互いに隙間なく密接する。フィン51は、このような形状、長さ、配列間隔、弾性などを有する。
【0028】
図8は、ガスケット11の連結箇所(連結部)Cを含む
図4のBの領域の拡大平面図である。
図4に示すように、ガスケット11は周方向に同一の形状を有する。そのため、どの位置の断面も、
図5に示すような断面形状を有する。ガスケット11は、追加工なく一度の押出成形によって一体に成形されるからである。ガスケット11の連結箇所Cは、押出成形されたガスケット11の両端をつなぎ成形している。
【0029】
フランジ106にカバー105を接合させてバッテリケース102を閉じる際、溝107にガスケット11を収納することで、フランジ106とカバー105とが密封される。このときの作業の工程を
図9(A)(B)(C)を参照しながら説明する。
【0030】
図9(A)に示すように、溝107にガスケット11を嵌める。この作業は、断面湾曲形状に成形されて開口107Oが広くなった溝107に対して、溝107よりも幅が狭く、溝107の底部107Bの曲率よりも大きな曲率を有する基部31の底部31Bを挿入する作業となるため、作業性が良好である。このとき、フィン51は溝107の側壁107Sにぶつかって弾性変形し、溝107にガスケット11を挿入する際の抵抗となる。一方、フィン51は上下の厚みが薄く容易に弾性的に変形するため、ガスケット11の挿入作業の作業性を損なわない。したがって、溝107に対してガスケット11を容易に嵌めることができる。
【0031】
溝107にガスケット11を嵌める作業の作業性が良好であることは、特に、ケース103のコーナーに位置する溝107の屈曲した部分にガスケット11を嵌める際に顕著である。溝107の形状とフィン51の特性とから、溝107に対するガスケット11の挿入状態に余裕が生まれるからである。ガスケット11は、矯正なしにコーナーに位置する溝107の屈曲部分にも容易に挿入可能である。
【0032】
図9(B)に示すように、溝107に収納されたガスケット11は、溝107の底部107Bに基部31の底部31Bを据え付け、溝107の側壁107Sにフィン51を押し当てる。フィン51は、基部31が溝107に挿入される動作に伴い、溝107の側壁107Sに当たり、挿入方向と反対方向に弾性変形する。フィン51は、その復元力によって溝107の側壁107Sに押圧力を及ぼし、溝107からのガスケット11の脱落を抑止する。その結果、ガスケット11は溝107の底部107Bから浮き上がることなく、溝107内で安定した姿勢を維持する。
【0033】
溝107からのガスケット11の脱落は、基部31の底部31Bと溝107の底部107Bとの間の曲率の違いによっても抑止される。底部107Bから開口107Oに向けて拡がる溝107の形状は、ガスケット11を挿入する作業性を良好にする反面、収納されたガスケット11を脱落させやすい。もしも基部31の底部31Bが溝107の底部107Bよりも曲率が小さい場合、基部31の底部31Bは溝107に挟まれ、弾性変形した状態で溝107の底部107Bに嵌った状態になる。このため、嵌合による保持が解除されるきっかけが与えられたとき、ガスケット11は溝107から脱落しやすい。これに対して、本実施形態の基部31の底部31Bの曲率は、溝107の底部107Bの曲率よりも大きいため、溝107に挟まれて弾性変形した状態にはならない。このため、溝107からのガスケット11の脱落が抑止される。
【0034】
図9(C)に示すように、溝107にガスケット11を収納した状態で、フランジ106にカバー105を接合させてバッテリケース102を閉じると、基部31が押し潰される。押し潰された基部31は、垂直方向に弾性変形するのみならず、水平方向にも弾性変形する。水平方向に弾性変形した基部31は、二種類の作用を生じさせる。一つは、基部31の底部31Bを溝107の底部107Bに隙間なく密接させる作用である。もう一つは、左右に三段ずつ設けた個々のフィン51a,51b,51cを互いに隙間なく密接させる作用である。
【0035】
もっとも、基部31の左右に三段ずつ設けた個々のフィン51a,51b,51cが互いに隙間なく密接するという現象は、押し潰された基部31の作用のみに依存して発生するわけではない。前述したとおり、フィン51の形状、長さ、配列間隔、弾性などにも依存する。先端にいくほど薄くなるフィン51の形状、及び基部31の中心軸と直交する仮想面に対する傾斜角度が上面USよりも下面LSの方が大きいフィン51の形状は、いずれも個々のフィン51a,51b,51cが互いに隙間なく密接させる作用を促進する。
【0036】
基部31の底部31Bが溝107の底部107Bに隙間なく密接し、基部31の左右に三段ずつ設けた個々のフィン51a,51b,51cが互いに隙間なく密接する結果、ガスケット11は良好な密封性を発揮する。
【0037】
本実施形態のガスケット11によれば、良好な装着作業性と良好な密封性を確保できる。
【0038】
また、本実施形態のガスケット11は、押出成形可能なラバーオンリータイプであるため、容易に製造できる。
【0039】
さらに、本実施形態のガスケット11は、バッテリケース102側の相手部材であるフランジ106に、手間のかかる加工を要求しない。一度のプレス加工のみによって成形可能な溝107をフランジ106に設けるだけでよいため、全体的な製造の簡略化及び容易化を図ることができる。
【0040】
<第2実施形態>
第2実施形態のガスケット11を
図10及び
図11(A)(B)に基づいて説明する。第1実施形態と同一部分は同位置符号で示し、説明も省略する。
【0041】
本実施形態のガスケット11は、フィン51の本数と形状とが第1実施形態と相違する。フィン51は、基部31の両側壁31Sのそれぞれから異なる高さで二片ずつ突出する。すなわち、基部31の左右それぞれに、フィン51は上下二段設けられる。説明の便宜上、下方に位置するフィン51をフィン51a、上方に位置するフィン51をフィン51bと呼ぶ。
【0042】
フィン51bの突出量は、フィン51aの突出量よりも大きい。このため、基部31の樽のような形状と相俟って、フィン51aの先端部分とフィン51bの先端部分とをつないだ仮想面は、上方に向かうにしたがい拡がる形状を呈する。この点は第1実施形態と共通する。
【0043】
フィン51それ自体は、先端にいくほど薄くなる形状である。この点も第1実施形態と共通する。ただし、本実施形態のフィン51は、第1実施形態よりも全体的に厚い。以下、詳しく説明する。
【0044】
下方に位置するフィン51aの上面USは、基部31の中心軸と直交する仮想面に対して5度程度の傾斜角度を有する。フィン51aの下面LSは、仮想面に対して35度前後、例えば30度から40度程度の傾斜角度を有する。第1実施形態のフィン51は、仮想面に対する傾斜角度が上面USで0度、下面LSで15度前後であった。そのため、第1実施形態の上面USと下面LSとの傾斜角度の差よりも、第2実施形態の上面USと下面LSとの傾斜角度の差の方が15度程度大きい。そのため、下方に位置するフィン51aの厚みは、第1実施形態のフィン51よりも厚い。
【0045】
上方に位置するフィン51bの上面USは、仮想面と平行に延びている。このため、仮想面に対する上面USの傾斜角度は0度である。フィン51bの下面LSは、仮想面に対して25度前後、例えば20度から30度程度の傾斜角度を有する。第1実施形態のフィン51は、仮想面に対する下面LSの傾斜角度が15度前後であった。そのため、第1実施形態の上面USと下面LSとの傾斜角度の差よりも、第2実施形態のフィン51bの上面USと下面LSとの傾斜角度の差の方が、10度程度大きい。そのため、上方に位置するフィン51bの厚みは、第1実施形態のフィン51よりも厚い。
【0046】
本実施形態のガスケット11が第1実施形態のガスケット11と大きく相違するのは、基部31の底部31Bと下方に位置するフィン51aとが分離しておらず、一体化している点である。垂直断面にした基部31の底部31Bがなす曲面は、そのまま下側に位置するフィン51aの下面LSに連絡し、両者は一体的な形状をなしている。
【0047】
フランジ106にカバー105を接合させてバッテリケース102を閉じる際、溝107にガスケット11を収納することで、フランジ106とカバー105とが密封される。このときの作業の工程を
図11(A)(B)を参照しながら説明する。
【0048】
図11(A)に示すように、溝107にガスケット11を嵌める。この作業は、断面湾曲形状に成形されて開口107Oが広くなった溝107に対して、実質的には溝107よりも幅の狭い基部31を挿入する作業となるため、作業性が良好である。実質的にはと述べているのは、フィン51は上下の厚みが薄く容易に弾性的に変形するため、溝107にガスケット11を挿入するに際して、基部31と比較して大きな抵抗とならないからである。本実施形態のフィン51は、第1実施形態のフィン51よりも厚く、その分剛性も勝っているが、フィン51の枚数が左右二辺ずつと第1実施形態よりも少ない。このため、第1実施形態と同様に、溝107にガスケット11を挿入するに際して、フィン51は基部31と比較して大きな抵抗とならず、溝107にガスケット11を挿入する作業の作業性を損なわない。
【0049】
本実施形態のガスケット11も、ケース103のコーナーに位置する溝107の屈曲した部分にガスケット11を嵌めるに際して、矯正なしに挿入可能である。
【0050】
図11(B)に示すように、溝107に収納されたガスケット11は、下方に位置するフィン51aと一体化した基部31の底部31Bを溝107の底部107Bに据え付け、溝107の側壁107Sに上下のフィン51a,51bを押し当てる。フィン51a,51bの復元力によって、溝107からのガスケット11の脱落が抑止される。
【0051】
フランジ106にカバー105を接合させてバッテリケース102を閉じると、基部31が押し潰される。押し潰された基部31は、垂直方向に弾性変形するのみならず、水平方向にも弾性変形する。そのため、基部31の底部31Bを溝107の底部107Bに隙間なく密接させ、左右に二段ずつ設けた個々のフィン51a,51bを互いに隙間なく密接させる。その結果、ガスケット11は、良好な密封性を発揮する。
【0052】
[変形例]
実施に際しては、各種の変形や変更が許容される。
【0053】
例えば、第1及び第2実施形態で示したフィン51の本数及びフィン51それ自体の形状は一例に過ぎず、実施に際しては各種の変形が可能である。例えば、フィン51の本数は、基部31の両側壁31Sからそれぞれから異なる高さで二辺以上突出していればよく、例えば四片以上であってもよい。フィン51の上面US及び下面LSの傾斜角度も、第1及び第2実施形態で示した傾斜角度と異なる角度であってもよい。
【0054】
その他、実施に際してはあらゆる変形や変更が可能である。