(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の電極のうち少なくとも1つは、前記円筒形状絶縁物の同一円周上において半周以上にわたって設けられることを特徴とする請求項3に記載の絶縁特性測定装置。
前記円筒形状絶縁物の側面と前記密閉部材との間に介在し前記密閉空間を保つためのスペーサを備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の絶縁特性測定装置。
前記スペーサには、前記接続部、前記湿度調整手段と前記密閉空間との間で空気を循環させるための流路部のうち少なくとも1つが挿通されていることを特徴とする請求項5に記載の絶縁特性測定装置。
前記複数の電極が前記密閉空間の内部と外部とを電気的に接続する複数の前記接続部にそれぞれ接続され、前記複数の接続部のうち少なくとも2つは、互いに、前記円筒形状絶縁物を介して反対側に配置されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の絶縁特性測定装置。
前記複数の接続部のうち少なくとも2つは、前記電極との対向位置から前記接続部間の距離が遠ざかる方向に配置されていることを特徴とする請求項7に記載の絶縁特性測定装置。
前記円筒形状絶縁物の側面の清掃前後の絶縁特性を測定するステップと、前記清掃により回復可能な可逆的劣化成分及び前記清掃により回復不可能な不可逆的劣化成分を評価するステップと、前記可逆的劣化成分及び前記不可逆的劣化成分の評価結果に基づいて前記清掃の効果を考慮した余寿命を診断するステップとを含むことを特徴とする請求項10に記載の余寿命診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
本発明における絶縁特性の測定対象は、例えば、高圧受配電機器を構成する、円筒形状絶縁物の絶縁がいしである。高圧受配電機器は、高電圧構造物を一定サイズの盤に格納した装置である。配電盤内部の電位差が大きい箇所は、離隔距離を大きくしたり、絶縁物を挟むなどして、所定の絶縁強度を確保している。この高電圧物構造物の保持や防壁に用いられるのが、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などの固体絶縁物である。これらの絶縁物は経年使用により絶縁性能が劣化すると最終的には絶縁破壊に至る。一旦、絶縁破壊が発生すると、高圧受配電機器の復旧に時間と費用が掛かり、社会的にも莫大な損失が発生する。
【0026】
固体絶縁物は、絶縁物内部を貫通破壊するバルク絶縁性能が非常に高く、絶縁表面を沿面破壊する沿面絶縁性能が問題とされる。
【0027】
ここで従来において、絶縁表面の表面抵抗率を測定して絶縁表面の汚染状況を、測定結果に基づいて評価することは知られていたが(特許文献1)、絶縁劣化進展過程には環境条件(特に湿度)が大きく影響する。このため、測定時の環境では絶縁異常がなくてもその後、高湿度条件下に曝されることで、劣化が進展する危険性があった。
【0028】
また従来では、湿度に関係のない因子(例えばイオン量や色差)を測定して、絶縁物劣化サンプルのデータベースと統計学的処理により高湿度状態での絶縁特性を推定する手法も知られていた。しかしながらあくまでも絶縁特性の推定にすぎず、推定精度を物理的には保証できない。
【0029】
また円筒形状絶縁物の絶縁がいしに対しては、側面以外の箇所では金属部が露出している等、適切に絶縁特性を測定することが困難である。このように構造上、円筒形状絶縁物の絶縁がいしに対しては、側面にて絶縁特性の測定を行うことが必要とされる。
【0030】
そこで本発明者は、円筒形状絶縁物に対して、高湿度下で絶縁特性を測定できる絶縁特性測定装置を構築するに至った。すなわち、本実施の形態における第1の目的は、外部環境によらずに測定対象としての円筒形状絶縁物の絶縁特性を高湿度状態にて直接測定可能な絶縁特性測定装置及び絶縁特性の測定方法を提供する点にある。
【0031】
図1は、本発明の第1の実施の形態の絶縁特性測定装置の模式図(縦断面図)を示し、且つ絶縁特性測定方法の説明図である。
【0032】
図1に示すX方向、Y方向及びZ方向は互いに直交する方向を示し、Z方向は高さ方向、X方向及びY方向は、水平面を構成する2方向である。
図1は、本実施の形態の絶縁特性測定装置及び絶縁がいしを、X−Z面に沿って切断した縦断面として示されている。
【0033】
図1に示す絶縁特性測定装置1は、密閉容器2と、複数のリング状電極3、4と、湿度調整手段5と、接続部6、7と、を有して構成される。ここで、絶縁特性を測定するための測定手段(絶縁測定器)8としては、例えば既存の測定器を用いて接続部6、7に後から接続したり測定手段8を変えたりすることができる。したがって絶縁測定器8は、絶縁特性を測定するために必要な構成であるが、少なくとも絶縁測定器8に対する接続部6、7を備える構成(測定手段を含まない)を絶縁特性測定装置1の最小単位とし、絶縁測定器8は付加的構成要件とした。
【0034】
図1に示すように測定対象である円筒形状絶縁物の絶縁がいし10は、金属部11と絶縁性の樹脂部12とを有して構成される。絶縁がいし10の、X方向及びY方向からなる水平面方向と略平行な上面10a及び下面10bには、その中央に金属部11の一部が現れている。一方、絶縁がいし10の側面10cは、樹脂部12が露出している。また、本実施の形態における「円筒形状絶縁物」は、その側面にひだ部等の凸部を備えるが、本実施の形態においては側面の曲面形状を特に限定するものでなく、
図1や
図3に示す絶縁がいし形状のみならず、それ以外の絶縁がいし形状も「円筒形状」に含まれ、ひだ部などの凸部においては、全ての表面を「側面」として記載する。
【0035】
図1に示すように、側面10cには、円周方向に沿って形成され、高さ方向(Z方向)に間隔を空けて形成された複数の凸部13が形成されている。したがって複数の凸部13の間は凹部15となっている。凸部13は、上面10aと及び下面10bから連続して形成され、側面10cの上下両側に配置される台座部13aと、各台座部13aの間に位置する複数のひだ部13bと、を備えて構成されている。
【0036】
なお、台座部13aとひだ部13bの各突出長さ(
図1の縦断面におけるX方向への長さ)は同じであっても異なっていてもよい。また各凹部15の深さは同じであっても異なっていてもよい。また
図1に示すように、台座部13aのほうがひだ部13bよりもZ方向への厚みが厚く形成されている。またひだ部13bは先細り形状とされているが特に形状を限定するものではない。
【0037】
図1に示すように、各リング状電極3、4は、夫々、異なるひだ部13bの円周上に接して取り付けられ固定されている。各リング状電極3、4は、導電材料であれば特に材質を限定するものでないが、高湿度状態におかれるため、錆びにくい材質であることが好適である。
【0038】
リング状電極3、4は、例えば、
図2Aに示すようにクランプ型電極とすることができる。
図2Aでは、リング状電極3、4は2つの半リング部14、15に分割されている。各半リング部14、15は各後端部14a、15aの位置で接続され、後端部14a、15aを中心として、各半リング部14、15の先端部14b、15bが近付いたり遠ざかる方向に回動可能に支持されている。また、各半リング部14、15の先端部14b、15bには留め具17が設けられており、留め具17にて各半リング部14、15の先端部14b、15b間を留めることで、各リング状電極3、4を、ひだ部13bの先端円周上に取付けることができる。
図2Aに示すクランプ型のリング状電極3、4ではひだ部13bへの取付けを容易に行うことができるが、各リング状電極3、4の径は一定であるため、ひだ部13bの径に応じて専用のリング状電極3、4を必要とする。また、リング状電極3、4をそれぞれ弾性や伸縮性を持つ部材で作製した場合、同一円周上の2点以上で接触していれば、円周上に固定することができる。なお本実施の形態においては、リング状電極3、4の少なくともいずれか一方を、弾性や伸縮性を持つ部材で作製することが出来る。
【0039】
一方、
図2Bに示すリング状電極3、4は、短冊状電極18と結束部19とを備える。そして、短冊状電極18の先端を結束部19に通し、その際、通す長さによってリング状電極3、4の円周長さを調整することができる。これにより
図2Bに示す結束バンド型のリング状電極3、4であれば、ひだ部13bの径が変わってもリング状電極3、4を適切にひだ部13bの先端円周上に取り付けることができる。
【0040】
また図示しないが、リング状電極3、4としては上記に代えて、金属テープを用いてもよい。金属テープも、ひだ部13bの先端円周長さに合わせて、長さを調整できるので、ひだ部13bの径が変わっても適切にひだ部13bの先端円周上に取り付けることができる。
【0041】
図2に示すリング状電極3、4は、側面10cの絶縁特性を高精度に測定するためには、ひだ部13bの先端全周にわたって配置された構成であることが最も望ましいが、一部分が欠けた形状であってもほぼ同等の測定結果を得ることができる。ただし、内周への締付力を付加するために、リング状電極3、4のうち少なくとも1つは円周上の半周以上の長さであることが好ましい。
【0042】
図1に示すように各リング状電極3、4は、導体部28、29を介して各接続部6、7に電気的に接続されている。導体部28、29は導線とその周囲を絶縁被膜で覆ったケーブルである。
【0043】
密閉容器2は、各リング状電極3、4上を非接触にて覆い、側面10cとの間で密閉空間9を形成している。
【0044】
図1に示すように、密閉容器2の上下縁部2aは、封止材20を介して台座部13aの表面に当接し固定されている。このように、密閉容器2は、絶縁がいし10の外周曲面上に取り付けられ、上面10a及び下面10bに位置する金属部11には接触していない。封止材20は、密閉容器2内の密閉空間9から外部に空気が漏れ出ない構成及び材質であれば特に限定を加えるものではない。封止材20には例えばゴム等の弾性体を例示することができる。なお封止材20が無くても、密閉容器2を側面10c上に被せることで、外部と隔絶された密閉空間9を形成できる構成であれば、封止材20は設けられていなくてもよい。また、リング状電極3、4やひだ部13bに触れることなく密閉空間9を形成することができれば、密閉容器2の外観形状を特に限定するものではないが、
図3に示すように、密閉容器2は、円筒形状であることが好適である。また密閉容器2を高さ方向(Z方向)に伸縮可能な蛇腹形状とすることもできる。これにより、絶縁がいし10の高さ方向の長さに合わせて密閉容器2を伸縮させることで、絶縁がいし10の側面10cとの間に適切に、外部と隔絶された密閉空間9を形成することができる。
【0045】
ただし密閉空間9については、外気との間で空気の通過を一切許さない厳密な状態を意味するものでなく、多少の隙間が生じていても、密閉空間9を外気に対して高湿度に保つことができればよい。
【0046】
図3に示す密閉容器2は、上下両側(Z方向の両側)に夫々、絶縁がいし10の台座部13aの円周に沿った開口2bを備え、上下開口2b間を高さ方向(Z方向)に分断した複数のパーツ22、23で構成される。そして、複数のパーツ22、23を絶縁がいし10の円周曲面状の側面10cと対向する横方向(Z方向に直交する方向)から組み合わせることで、側面10cとの間に密閉空間9を形成することができる。このように、絶縁がいし10の側面10cと対向する横方向から複数のパーツ22、23を組み合わせることで、絶縁がいし10の金属部11に触れることなく、密閉容器2を絶縁がいし10に取付けることが出来る。
【0047】
密閉容器2は、樹脂材(ポリプロピレン、ポリアセタール、シリコンなど)、ガラス材、ステンレス鋼などで形成されるが、特に材質を限定するものではない。ただし容器2は、高湿度状態に曝されても錆びにくい等、劣化しにくい絶縁材料であることが好適である。
【0048】
図1に示すように、湿度調整手段5は、加湿装置23と、加湿装置23からの加湿空気を密閉容器2の密閉空間9へ流入させる流入流路としてのエアーチューブ24と、加湿空気を密閉容器2の密閉空間9から加湿装置23へ流出させる流出流路としてのエアーチューブ25と、を有して構成される。流路としては、エアーチューブやエアーダクトといった空気を通すことができる管状のものであれば材質や太さ、管形状等を限定するものでない。
【0049】
湿度調整手段5は、密閉空間9を一定の湿度に保つためのものである。一般的には密閉空間9を密閉容器2の外気よりも高い湿度に保つために用いられるが、密閉容器2の外気の湿度が100%近いなど結露が発生する恐れがある場合などには、結露が発生しない範囲の一定の高湿度で安定させることが可能である。ここで「一定」とは、厳密な一定を指すものでなく、測定誤差等を含む概念である。
【0050】
図1に示す加湿装置23は、溶液槽27内に所定の平衡湿度を有する飽和塩溶液26を収納した構成であることが好ましい。飽和塩溶液26の種類及び溶液槽27内の温度と平衡にある空気の相対湿度との関係は、JIS B7920:2000で定められているので、飽和塩溶液26の種類及び温度を規定することで、高湿度の定湿空気を加湿装置23にて生成でき、加湿装置23から密閉容器2の密閉空間9に定湿空気を送りこむことができる。飽和塩溶液26には、例えば、硫酸カリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、炭酸カリウム及び塩化マグネシウムを選択し、また溶液槽27内の温度には10℃、20℃、30℃及び40℃を選択し、これらの組み合わせで、31%程度から99%程度までの一定の湿度を生成することが可能である。このような飽和塩溶液26を用いた場合には、数分間、加湿装置23と密閉容器2の間を、エアーチューブ24、25を介して加湿空気を循環させて、湿度が一定になってから絶縁特性の測定を行う。なお飽和塩溶液26を用いた飽和塩法では、定湿空気を生成できるので、湿度計を設けることが必要ではない。
【0051】
なお
図1に示すように加湿装置23に飽和塩溶液26を用いた構成では、飽和塩溶液26がエアーチューブ24を伝って密閉容器2の密閉空間9へ流れ出ないように構成することが必要である。
【0052】
あるいは、エアーチューブ24、25の夫々に、湿度センサ(湿度計)(図示しない)を取り付けることもできる。そして加湿装置23にて生成された加湿空気を、エアーチューブ24、25を介して流入、流出させ、各湿度センサが一定の湿度となったら、密閉空間9の湿度が一定になったと見做して、絶縁特性の測定を行う。
【0053】
なお本実施の形態では、加湿装置23の構成を特に限定するものでないが、
図1に示した飽和塩溶液26を用いた構成では定湿空気を生成することができるので、特に湿度センサを必要としない。したがって飽和塩溶液26以外を用いて加湿装置23を構成した場合に上記した湿度センサを用いる構成が好ましく適用される。
【0054】
ただし、加湿装置23から水蒸気を放出する構成では、平均湿度が高くなれば結露が生じる危険性があり、また相対湿度約85%以上の高湿度になると、密閉容器2内の湿度を一定に保つのが容易でない。したがって
図1で示したように加湿装置23としては飽和塩溶液26を有する構成とすることが、安定して定湿空気を生成でき、しかも結露が生じる危険性がなく好適である。
【0055】
図1に示すように、エアーチューブ24、25の密閉容器2側の端部は、密閉容器2を密閉空間9方向に貫通した空気バルブ21に取付けられている。空気バルブ21は、エアーチューブ24、25を結合するための流路部として構成される。エアーチューブ24、25を密閉容器2に直接貫通させて差し込む構成では、その差し込んだ部分から加湿空気漏れが生じやすくなる。したがって空気バルブ21を密閉容器2に一体的に設け、エアーチューブ24、25を、空気バルブ21に結合させることで密閉容器2からの定湿空気漏れを適切に抑制することができる。空気バルブ21は空気量の調整を行うことができるが、密閉容器2に貫通させる流路部としては空気バルブ21に代えて継手等であってもよい。
【0056】
図1に示すように、密閉容器2から加湿装置23への空気の流出路側にあたるエアーチューブ25には循環ポンプ32が取り付けられている。循環ポンプ32の動作により、加湿装置23と密閉容器2の密閉空間9との間でエアーチューブ24、25を介して、定湿空気を循環させることができる。このとき循環ポンプ32は
図1のように、流出路側(循環ポンプ32の吸気側)のエアーチューブ25に取り付けることで、密閉容器2内を陰圧にでき、円滑かつ安定して定湿空気を加湿装置23と密閉容器2の密閉空間9との間で循環させることができる。また密閉容器2内が陰圧になることで密閉容器2内の密閉効果を高めることもできる。
【0057】
図1に示すように、絶縁特性測定装置1には、絶縁測定器8と各リング状電極3、4との間を、ケーブル30、31を介して接続する接続部6、7が設けられている。これにより、各リング状電極3、4が、密閉空間9の内部と外部とを電気的に接続する複数の接続部6、7にそれぞれ、接続された構成となる。ここで接続部6を高電圧端子、接続部7を接地端子として説明する。
【0058】
絶縁測定器8には、既存の市販品を使用することができる。例えば絶縁測定器8として、部分放電測定装置(例えば、日本電計製 DAC−PD−7)を用いることができる。
【0059】
また
図1に示すように、高電圧端子6及び接地端子7は、密閉容器2の位置で貫通するともに密閉容器2に接して固定されている。このように、高電圧端子6及び接地端子7は、密閉容器2に一体的に設けられている。また
図1に示すように、高電圧端子6及び接地端子7は、互いに、絶縁がいし10を介して反対側に配置されている。
図1では、高電圧端子6は絶縁がいし10の図示左側に位置し、接地端子7は絶縁がいし10の図示右側に位置している。更に、
図1に示すように、高電圧端子6は、絶縁がいし10の上面10a側に位置するリング状電極3との対向位置よりも図示上方に位置し、一方、接地端子7は、絶縁がいし10の下面10b側に位置するリング状電極4との対向位置よりも図示下方に位置する。これにより、高電圧端子6と接地端子7との間の高さ方向(Z方向)の距離H1は、リング状電極3、4間の高さ方向(Z方向)の距離H2よりも大きくなっている。これにより、端子6、7を、密閉容器2内表面の沿面距離が出来るだけ離れた位置に配置でき、測定したい側面10cの絶縁特性よりも密閉容器2内表面の絶縁特性をできる限り高くすることができる。例えば、端子6、7間の沿面距離を、リング状電極3、5間の側面10cの沿面距離の2倍以上とすることが好ましい。この結果、リング状電極3、4の間に高電圧を印加した際、密閉容器2を伝って電流が流れる不具合をできる限り抑制でき、絶縁特性をより適切に測定することが出来る。
【0060】
また
図1に示すように、空気バルブ21は、互いに、絶縁がいし10を介して反対側に配置されている。また
図1に示すように、絶縁がいし10の図示左側に配置された空気バルブ21は下方に、絶縁がいし10の図示右側に配置された空気バルブ21は上方に、夫々配置されており、各空気バルブ21は横方向(X方向)から高さ方向(Z方向)に互いに離れる方向に配置されている。これにより、空気バルブ21の密閉空間9内での距離ができる限り離れ、高湿度空気をできる限り効率的に循環させることが出来る。なお、高湿度空気が直接、リング状電極3、4に吹き付けられないように、空気バルブ21の空気の流入・流出口がリング状電極3、4と対向していないことが好適である。
図1に示すように、一方の空気バルブ21は、絶縁がいし10の上方に取付けられたリング状電極3よりも更に上方に取付けられ、他方の空気バルブ21は、絶縁がいし10の下方に取付けられたリング状電極3よりも更に下方に取付けられ、これにより、の空気バルブ21間の距離を離すとともに、空気バルブ21の空気の流入・流出口がリング状電極3、4と対向しないようにしている。
【0061】
次に絶縁特性の測定方法について説明する。本実施の形態における測定対象は、円筒形絶縁物である絶縁がいし10である。まず絶縁がいし10の側面10cに形成された異なるひだ部13bの先端円周上に各リング状電極3、4を取り付けて固定する。このとき、リング状電極3、4を台座部13aの円周上に取り付けることもできる。ただし送・配電線の電圧の大きさは、絶縁がいし10のひだ部13bの数によって規制されており、したがって寿命判断において、ひだ部13b間の絶縁特性が重要とされる。したがって、ひだ部13bの先端円周上に各リング状電極3、4を取り付けることが好ましい。
【0062】
続いて、密閉容器2にて各リング状電極3、4上を非接触にて覆い、絶縁がいし10の側面10cと密閉容器2との間に密閉空間9を形成する。
【0063】
続いて、加湿装置23を動作させる。
図1では、飽和塩溶液26を用いており、加湿装置23にて定湿空気を生成することができる。定湿空気は循環ポンプ32の作用によりエアーチューブ24、25を介して加湿装置23及び密閉容器2の密閉空間9を順に繰り返し循環する。最初、飽和塩溶液26から生成される定湿空気の湿度はやや不安定であるため、数分程度(例えば、3分から5分程度)、循環させた後、次の絶縁特性の測定に移行することが好ましい。これにより、密閉容器2内は、一定の高湿度状態に保たれる。なお一定の高湿度状態とは、密閉容器2の外気よりも高い湿度に保たれる状態である。上記したように、飽和塩溶液26を用いることで、JIS B7920:2000によれば、31%程度から99%程度までの高湿度の定湿空気を生成することが可能になる。例えば、硫酸カリウムでは相対湿度が97%、塩化カリウムでは相対湿度が85%に定まる。
【0064】
密閉空間9の湿度が一定になった状態で、
図1に示すように、高電圧端子6と接地端子7に任意の絶縁測定器8を取り付けて、絶縁特性を取得する。ここで、加湿装置23を動作させる前、あるいは、密閉空間9の湿度が一定になる前に、予め高電圧端子6と接地端子7に絶縁測定器8を取り付けておいてもよい。
【0065】
ここで絶縁特性には、絶縁抵抗、部分放電電圧及び絶縁破壊電圧等があり、それぞれ測定装置や測定手法が異なる。絶縁抵抗は、高電圧端子6に所定の直流電圧(例えば、25〜2000V)を印加して、接地端子7に流れる電流から、絶縁抵抗値を算出する。具体的には、本実施の形態の絶縁特性測定装置1に市販のメガーを直接取り付けることで高湿度状態の絶縁抵抗値を測定できる。
【0066】
部分放電電圧の測定は、高電圧端子6に交流電圧を印加して、接地端子7側で部分放電電流を検出するまで電圧を上昇させ、部分放電電流を検出した電圧を部分放電電圧として評価する。具体的には、本実施の形態の絶縁特性測定装置1に市販の部分放電測定装置(例えば、日本電計製 DAC−PD−7)を直接取り付けることで、高湿度状態の部分放電電圧値を測定できる。もしくは簡易方式として、インパルス電圧を印加して部分放電発生の有無を判定する手法も考えられる。
【0067】
絶縁破壊電圧の測定は、高電圧端子6に交流電圧を印加して、絶縁破壊が生じるまで電圧を上昇させ、絶縁破壊が生じた電圧を絶縁破壊電圧として評価する。具体的には本実施の形態の絶縁特性測定装置1に、高圧交流電源を直接取り付けてリング状電極3、4間を沿面絶縁破壊させることで高湿度状態の絶縁破壊電圧値を測定できる。
【0068】
なお本実施の形態の絶縁特性測定装置は、例えば配電盤内の絶縁部位の絶縁特性を測定するために、約3.3kV以上の高圧での測定に用いることができる。ここで「高電圧」とは、具体的に何V以上と定義されるものでなく、上記した絶縁特性を測定するために印加される電圧は全て高電圧とされる。
【0069】
なお上記した絶縁特性の測定において、湿度が一定であれば、温度が変化しても測定条件は同条件として取り扱うことができる。例えば、温度が20℃で湿度が90%の場合と、温度が10℃で湿度が90%では同条件下として絶縁特性の測定が行える。
【0070】
また密閉容器2内の湿度をどの程度に保つかであるが、それは測定対象の絶縁物を備えた製品の使用条件による。例えば使用条件が95%以下であれば、上限値の95%の湿度に保って絶縁特性の測定を行い、使用条件が85%以下であれば、上限値の85%の湿度に保って絶縁特性の測定を行う。
【0071】
本実施の形態の絶縁特性測定装置1及びそれを用いた絶縁特性の測定方法によれば、円筒形状絶縁物に対し、外部環境によらず、任意の湿度に保ったうえで絶縁特性の測定が可能となる。そして本実施の形態では、平面ではない、曲面状の側面の絶縁特性を適切かつ簡単に測定することができる。また本実施の形態では、絶縁物が現地に取付けられた状態でも、すなわち、
図1に示す絶縁がいし10が、配電盤に取り付けられた状態にて、適切に絶縁特性の測定を行うことが可能である。
【0072】
図4は、本発明の第2の実施の形態の絶縁特性測定装置の模式図(
図5に示すB−B線に沿って切断し矢印方向から見た縦断面図)である。
図5は、本発明の第2の実施の形態の絶縁特性測定装置の模式図(
図4に示すA−A線に沿って切断し矢印方向から見た横断面図)である。
【0073】
図4、
図5に示す実施の形態では、
図1に示す実施の形態の密閉容器2に代わって、密閉部材としての軟質素材からなる絶縁性の密閉フィルム33が用いられる。密閉フィルム33の材質を特に限定するものではないが、高湿度状態に曝されても錆びにくい等、劣化しにくい軟質な絶縁材料あることが好適である。例えば、密閉フィルム33の軟質素材としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、PET等が挙げられる。「軟質素材」とは、例えば、
図1に示す密閉容器2に比べて軟らかい素材であり、比較的弱い力で変形させることができる素材である。また材質そのものが軟質である場合の他、薄膜化することで軟らかくなるものも含む。
【0074】
図4、
図5に示す密閉フィルム33を絶縁がいし10の側面10c上に被せ、密閉フィルム33の上下縁部33a、33bを夫々、結束部材34にて絶縁がいし10の台座部13a上で縛る。このように、密閉フィルム33を、絶縁がいし10の少なくとも2か所の円周上で締め付ける。このとき、密閉フィルム33は、リング状電極3、4及び、ひだ部13bに接触しておらず離れており、これにより、密閉フィルム33と絶縁がいし10の側面10cとの間で適切に密閉空間9を形成することができる。結束部材34は、例えば結束ひもである。
【0075】
図4に示す実施の形態のように、特に軟質素材の密閉フィルム33を用い、このとき密閉フィルム33をリング状電極3、4及び、ひだ部13bに接触させることなく密閉空間9を形成するために、絶縁がいし10の側面10cと密閉フィルム33との間にスペーサ35を設けることが好適である。
【0076】
スペーサ35を設ける位置を特に限定するものではないが、スペーサ35は、リング状電極3、4間の上下外側の両側円周上に位置する絶縁がいし10の台座部13aの円周上に配置されることが好ましい。これにより、リング状電極3、4の設置を邪魔せずに、適切に絶縁がいし10の側面10cとの間で密閉空間9を形成することが出来る。スペーサ35の材質を限定するものでないが、スペーサ35は、絶縁性であり、高湿度状態でも錆びにくく、密閉フィルム33を結束部材34にて結束したときスペーサ形状を保持可能な剛性を有している。
【0077】
図5に示すように、スペーサ35は、台座部13aの円周上に所定の間隔を空けて複数配置される。このとき、各スペーサ35は、例えば
図5に示すような矩形状で形成される。
【0078】
図5に示すように、各スペーサ35は、結束バンド36にて繋がっている。結束バンド36は、各スペーサ35に設けられた貫通孔穴に通されている。結束バンド36の長さ調整により、各スペーサ35を台座部13a上の所定位置に保持した状態で締付けることができる。このように、複数のスペーサ35を結束バンド36にて絶縁がいし10に取付ける構成とすることで、絶縁がいし10の径が変わっても、その径に応じて複数のスペーサ35を絶縁がいし10に取付けることが出来る。あるいは、例えば、
図2Aに準じたクランプ型でスペーサ35を形成することも可能であるが、このとき、絶縁がいし10の径ごとに対応するスペーサ35が必要となる。
【0079】
スペーサ35の数を限定するものでないが、3以上であることが好ましい。
図4、
図5に示すようにスペーサ35を4個とすれば設置も簡単なうえに、密閉空間9も安定して形成することができ好適である。
【0080】
図4、
図5に示すように、結束バンド36は、各スペーサ35の絶縁がいし10の側面10cに近い側の内側縁部付近に設けられた貫通孔に通される。一方、各スペーサ35の前記側面10cから離れた側の外側縁部には凹溝が設けられ、凹溝内にひも状の梁部37が通されている。
図5に示すように、梁部37は、各スペーサ35の凹溝を通して一周巻かれた円環状にて保持される。このため梁部37は、円環状に丸めたときにその形状を保持できる絶縁素材で形成される。
【0081】
また
図4に示すように、リング状電極3、4の厚さ断面は、
図1に示すリング状電極3、4と異なって平板状である。リング状電極3、4の厚さ断面を平板状とすることで、安定してひだ部13bの先端円周上に配置することができる。すなわち
図1のような厚さ断面が円形状であるとき、リング状電極3、4が、ひだ部13bの先端円周上から凹部15方向にずれやすいが、本実施の形態では、このような不具合を抑制することができ、ひだ部13b間の絶縁特性を安定して測定することが出来る。
図2Aのクランプ型、
図2Bの結束型のどちらのリング状電極3、4でも、
図4に示す厚さ断面が平板状の電極とすることができる。リング状電極3、4の厚さ断面は平板状に限定されず、例えば、ひだ部13bの形状に合わせてV字状やU字状となるようにすることで、より安定した測定が可能になる。
【0082】
図6は、本発明の第3の実施の形態の絶縁特性測定装置の模式図(
図7に示すD−D線に沿って切断し矢印方向から見た縦断面図)である。
図7は、本発明の第3の実施の形態の絶縁特性測定装置の模式図(
図6に示すC−C線に沿って切断し矢印方向から見た横断面図)である。
【0083】
図6、
図7に示す実施の形態は、
図4、
図5に示す実施の形態の一部を変更したものであり、
図4、
図5と異なってスペーサ35の位置で各端子6、7及び空気バルブ21が挿通されている。そして各端子6、7及び空気バルブ21は密閉フィルム33を貫通し、密閉フィルム33の上下端に設けられた貫通部ではゴムリング等の封止材40により各端子6、7と密閉フィルム33間、及び空気バルブ21と密閉フィルム33間が封止されている。
【0084】
このように端子6、7及び空気バルブ21をスペーサ35にて安定して保持することが出来、密閉部材が密閉フィルム33のように軟質素材であるときに特に有効である。また各端子6、7をスペーサ35に通すことで、高電圧端子6と接地端子7との間の距離を十分に離すことができる。これにより、リング状電極3、4の間に高電圧を印加して絶縁特性の測定の際に、密閉フィルム33を伝って電流が流れる不具合をできる限り抑制でき、絶縁特性をより適切に測定することが出来る。なお本実施の形態においては、端子6、7及び空気バルブ21の少なくとも一方をスペーサ35に挿通させることが出来る。
【0085】
図4、
図5のいずれの実施の形態でも、密閉フィルム33の上下縁部33a、33bを絶縁がいし10の台座部13aの位置で締付けており、このため、密閉フィルム33が金属部11と接触する状態を避けることが出来る。
【0086】
上記に示す絶縁特性測定装置では、測定手段8が、密閉空間9外に設けられた構成であったが、測定手段8が、密閉空間9内に設けられていても良い。このとき、端子6、7も密閉空間9内に配置される。
【0087】
また上記の実施の形態では、電極数及び接続部(端子数)が2であるが、3以上とすることもできる。このとき、複数の接続部のうち少なくとも2つは、互いに、円筒形状絶縁物を介して反対側に配置されることが好適である。また、複数の接続部のうち少なくとも2つは、電極との対向位置から端子間の距離が遠ざかる方向に配置されていることが好適である。
【0088】
次に、余寿命診断方法について説明する。上記したように本実施の形態における絶縁特性装置を用いることで、外部環境によらずに円筒形状絶縁物に対する絶縁特性を高湿度状態にて直接測定することが可能である。そして本発明における第2の目的は、密閉容器内を一定の湿度に保ったうえで絶縁物の余寿命を診断する点にある。
【0089】
ここで放電発生を絶縁寿命と見做すことができるが、従来では、高湿度状態に保持して部分放電検出を行っていなかったため、診断時に放電が未発生でも、表面抵抗が低下する高湿度状態では放電が発生する危険があり、余寿命を精度よく診断することができなかった。あるいは従来では、診断された余寿命の精度が不明であった。
【0090】
そこで本実施の形態では、任意の高湿度状態に保持しながら円筒形状絶縁物の側面を測定対象として、従来に比べて高精度な余寿命診断を行うことを可能としたものである。
【0091】
まず余寿命診断の事前準備として、測定対象とされる円筒形状絶縁物を備えた製品の定格運転時の絶縁責務から、側面の単位面積当たりで必要となる絶縁抵抗値・部分放電電圧値・絶縁破壊電圧値を絶縁寿命値と定義する。
【0092】
そして、本実施の形態の絶縁特性測定装置を用いて製品の出荷前に初期の絶縁特性を取得し、製品の運転先では定期保守点検等が行われるタイミングで絶縁特性を測定する。本実施の形態の絶縁特性測定装置を用いた絶縁特性の測定方法はすでに記載した通りである。なお同じ製品であれば一度、出荷前の初期の絶縁特性を取得すれば、そのデータを、その後の製品についての初期データとして用いることもできる。
【0093】
図8は、本発明の余寿命診断方法を説明するための余寿命診断グラフの概念図である。
図8に示すように、出荷時に絶縁特性の初期値A
0を本実施の形態の絶縁特性測定装置を用いて取得する。また出荷時に、公称電圧で放電発生する絶縁特性の下限値(絶縁寿命ライン)を取得する。
【0094】
次に出荷後、任意の期間が経過した測定時(上記のように定期保守点検等のタイミング)、に、測定対象としての絶縁物に対して特に清掃をせずに(未清掃状態で)、本実施の形態の絶縁特性測定装置を用いて絶縁特性を測定して現測定値(未清掃)A
1を得る。その後も清掃をしないと仮定すれば、初期値A
0と現測定値(未清掃)A
1とから導き出される余寿命推定線C
1と絶縁寿命ラインとが交わる位置T
1を寿命と診断することができる。なお余寿命推定線C
1については、常に直線で近似するわけではなく、付着物質や表面変質状態を鑑みて実際の物理現象に則した近似曲線としてグラフ化する。寿命時期は余寿命推定線が絶縁寿命ラインに達する年度であり、測定時点から寿命時期までの時間を余寿命として評価する。なお余寿命推定線は直線化しないと考えられる。後述する清掃の有無にかかわらず、例えば同じスピードで劣化が進んでも、絶縁特性に与える影響は一定とならない。劣化の度合いが進むほど、絶縁特性の数値変動は小さくなるからである。また、余寿命推定線の具体的な算出方法については後述するが、例えば、直近の2点の測定点の傾きから推定したり、3回以上の近似直線や曲線から推定することも可能である。
【0095】
本実施の形態の絶縁特性測定装置を用いることで、測定対象としての円筒形状絶縁物に対する絶縁特性の測定の際、絶縁物を有する製品の使用条件に合わせて湿度を調整した状態で、絶縁特性の測定を行うことができる。すなわち使用条件が95%以下であれば、上限値の95%の湿度に保って絶縁特性の測定を行う。一方、従来では、使用条件下の上限値の湿度に保って絶縁特性の測定を行うことはしていないため、実際、絶縁物が使用条件下の上限湿度の環境におかれた場合の余寿命を適切に判断できなかった。あるいは従来ではデータベース上から余寿命を推定していたにすぎなかった。これに対して本実施の形態では、実際に、使用条件下の上限値の湿度に保って絶縁特性の測定を行うことが可能であるため、従来に比べて精度の高い余寿命診断を行うことが可能である。
【0096】
ところで湿度条件を固定した場合、側面抵抗の低下因子は、汚損堆積物と母材変質に絞られる。汚損堆積物は側面の清掃により除去可能な可逆劣化成分であり、母材変質は樹脂表面に生じた化学反応生成物で清掃では除去不可能な不可逆劣化成分である。母材変質が起こると、表面抵抗が低下し漏れ電流による発熱が生じることで、絶縁劣化反応が進展する。なお本実施の形態では清掃方法を限定するものでないが、例えば側面の拭き取りやブローなどが一般的である。また清掃には洗浄の概念も含まれる。
【0097】
そこで、出荷後の現測定時のステップとして、上記のように未清掃状態での絶縁特性を測定するとともに、清掃後の絶縁特性も測定する。上記したように、汚損堆積物は除去可能な可逆劣化に分類されるため、清掃により汚損堆積物を除去できると、絶縁特性をある程度回復させることができる。
【0098】
図8に示す余寿命診断方法では、側面を清掃した後に、本実施の形態の絶縁特性測定装置を用いて、清掃された側面の絶縁特性を測定する。そのとき測定対象としての円筒形状絶縁物を有する製品の使用条件に合わせて湿度を調整した状態で、絶縁特性の測定を行う。これにより絶縁特性の現測定値(清掃後)A
2を得ることができる。
図8に示すように、定期的に製品の清掃を行い、その都度、側面の清掃前後の絶縁特性を測定する。
図8に示すように、清掃を全く行わない場合に得られる余寿命推定線C
1に対して、得られる測定値は清掃前後を問わず、ずれていくことがわかるが、絶縁特性が徐々に絶縁寿命ラインに近づいていくこともわかる。これは、絶縁特性に清掃により回復可能な可逆的な劣化成分と、清掃により回復不可能な不可逆的な劣化成分とが存在するからである。なお測定時に清掃前後の絶縁特性を測定するのは、例えば清掃後の絶縁特性だけを測定しても清掃により回復可能な可逆的な劣化成分と清掃により回復不可能な不可逆的な劣化成分とがどの程度存在し、その後どのように変化していくのかを適切に評価できず、精度の高い余寿命推定線を作製することができないためである。
【0099】
すなわち本実施の形態では、清掃により回復可能な可逆的な劣化成分と清掃により回復不可能な不可逆的な劣化成分との双方を評価するステップと、これらの劣化成分の評価結果に基づいて余寿命推定線C
2を作製し余寿命を診断するステップとを備える。これにより、精度の高い余寿命推定線C
2を得ることができる。
【0100】
このように本実施の形態の余寿命診断方法によれば、清掃効果を含んだ余寿命を診断することができる。そして清掃による絶縁性能回復を加味することで、従来よりもきめの細かい余寿命判断が可能となり、どの程度の延命が可能かを精度よく診断できるので従来よりも製品の交換時期等を事前に判断しやすく、また延命させるための清掃管理計画も適切に図ることが可能である。
【0101】
本実施の形態における余寿命診断方法をより具体的に説明する。まず出荷時の事前準備として、対象絶縁物に対する高湿度下の表面抵抗率の初期値ρ
0と公称電圧で放電発生する使用下限値ρ
nを取得する。
【0102】
続いて上記絶縁物を含む製品が出荷された後、現地測定を行う。
図9では、例えば15年後に現地測定を行ったと過程した。現地測定では、清掃効果を反映するために高湿度下の清掃前値ρ
1aと清掃後値ρ
1bを測定する。これらの値を用いた余寿命推定線を
図9に示す。
【0103】
清掃不可の場合には、時間経過∝汚損堆積量∝等価塩分付着密度∝高湿潤時の表面導電率=1/表面抵抗率となり、表面抵抗は一様に低下し続けると仮定した。汚損試験では表面抵抗値に下限値があることから、未清掃時の表面抵抗率ρ
aと経過時間tの関係式として以下の式(1)を用いた。
ρ
a(t)=A/t
α・・・(1)
【0104】
式(1)では、ρ
a(1)=ρ
0からA=ρ
0、ρ
a(t
1)=ρ
1aからフィッティング係数αを求めることができる。
【0105】
そして未清掃時の余寿命年数をt
raとおくと、式(1)よりρ
a(t
1+t
ra)=ρ
nを解くことで余寿命年数t
raを算出することができる。
【0106】
続いて清掃が可能な場合には、清掃により汚損堆積物を除去でき、
図9に示すρ
1b値は母材変質による不可逆な表面抵抗低下分と仮定した。この清掃後の状態を新たな初期状態とし、現在までと同じ傾向で汚損堆積物により表面抵抗が低下し続けると考えた。よって、上記の式(1)をベースとして清掃後の表面抵抗率ρ
bと経過時間tの関係を以下の式(2)とした。
ρ
b(t)=ρ
1b/(t−t
1)
α・・・(2)
【0107】
式(2)のα値は式(1)と同じとし、清掃後の寿命年数t
rbはρ
b(t
1+t
rb)=ρ
nを解いて算出できる。
【0108】
以上により、清掃可能な設備に対しては、余寿命年数t
rbに至る前に設備清掃を実施して、設備寿命を延命させることも計画できることがわかった。