特許第6763148号(P6763148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763148
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20200917BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20200917BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20200917BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20200917BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   H01F1/147 175
   !C21D8/12 A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-20077(P2016-20077)
(22)【出願日】2016年2月4日
(65)【公開番号】特開2017-137537(P2017-137537A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 一郎
(72)【発明者】
【氏名】有田 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/128428(WO,A1)
【文献】 特開2010−024509(JP,A)
【文献】 特開2006−199999(JP,A)
【文献】 特表2013−515166(JP,A)
【文献】 特開2005−344156(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0022833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12− 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.0030%以下、
Si:2.0%〜4.0%、
Al:0.05%〜3.0%、
Mn:0.05%〜3.0%、
S:0.0030%以下、
Cu:1.0000%〜3.5000%、
Nb:0.0010%〜0.3%、
数式(1)で表されるパラメータQ1:1.0000以下、
数式(2)で表されるパラメータQ2:0.0000以上、
B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au若しくはBi又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.2%、
Mo、V若しくはCr又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.4%、
Ni:0%〜4%、
Sn:0.00%〜0.50%、
Sb:0.00%〜0.50%、
P:0.00%〜0.50%、
REM:0.00%〜0.05%、
Ca:0.00%〜0.05%、
Mg:0.00%〜0.05%、かつ
残部:Fe及び不純物、
で表される化学組成を有し、
再結晶率が90%以上の鋼組織を有し、
引張強度が650MPa以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
Q1=[%Cu]/[%Si] 数式(1)
Q2=[%Nb]−{0.0800×([%Cu]−1.0000)} 数式(2)
([%Cu]、[%Si]及び[%Nb]は、それぞれCu、Si及びNbの含有量(質量%)である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、電気自動車用モータ及び電気機器用モータ等に使用されている。電気自動車用モータに用いられる無方向性電磁鋼板には、電気自動車用モータのサイズ及び形状等の観点から、より高い強度が要求されている。無方向性電磁鋼板の鉄損及び強度の両立を目的とした種々の技術が提案されている。例えば、Cuを含有させることによる強度の向上に関する技術が提案されている(特許文献1〜5)。
【0003】
しかしながら、従来のCuを含有する無方向性電磁鋼板には、十分な強度が得られる程度にCuが含まれていると脆化が顕著になったり、特殊な製造条件に伴う製造コストの上昇が顕著になったりするという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−240150号公報
【特許文献2】特開昭61−87848号公報
【特許文献3】特開2010−24509号公報
【特許文献4】特開2011−99163号公報
【特許文献5】特開2010−31328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、脆化及び製造コストの上昇を抑制しながら高い強度を得ることができる無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下を要旨とするものである。
【0007】
質量%で、
C:0.0030%以下、
Si:2.0%〜4.0%、
Al:0.05%〜3.0%、
Mn:0.05%〜3.0%、
S:0.0030%以下、
Cu:1.0000%〜3.5000%、
Nb:0.0010%〜0.3%、
数式(1)で表されるパラメータQ1:1.0000以下、
数式(2)で表されるパラメータQ2:0.0000以上、
B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au若しくはBi又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.2%、
Mo、V若しくはCr又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.4%、
Ni:0%〜4%、
Sn:0.00%〜0.50%、
Sb:0.00%〜0.50%、
P:0.00%〜0.50%、
REM:0.00%〜0.05%、
Ca:0.00%〜0.05%、
Mg:0.00%〜0.05%、かつ
残部:Fe及び不純物、
で表される化学組成を有し、
再結晶率が90%以上の鋼組織を有し、
引張強度が650MPa以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
Q1=[%Cu]/[%Si] 数式(1)
Q2=[%Nb]−{0.0800×([%Cu]−1.0000)} 数式(2)
([%Cu]、[%Si]及び[%Nb]は、それぞれCu、Si及びNbの含有量(質量%)である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Cu含有量、Nb含有量及びSi含有量等が適切であるため、脆化及び製造コストの上昇を抑制しながら高い強度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
先ず、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板及びその製造に用いる鋼の化学組成について説明する。詳細は後述するが、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、鋼の連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ焼鈍等を経て製造される。従って、無方向性電磁鋼板及び鋼の化学組成は、無方向性電磁鋼板の特性のみならず、これらの処理を考慮したものである。以下の説明において、無方向性電磁鋼板又は鋼に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る無方向無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.0030%以下、Si:2.0%〜4.0%、Al:0.05%〜3.0%、Mn:0.05%〜3.0%、S:0.0030%以下、Cu:1.0000%〜3.5000%、Nb:0.0010%〜0.3%、数式(1)で表されるパラメータQ1:1.0000以下、数式(2)で表されるパラメータQ2:0.0000以上、B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au若しくはBi又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.2%、Mo、V若しくはCr又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.4%、Ni:0%〜4%、Sn:0.00%〜0.50%、Sb:0.00%〜0.50%、P:0.00%〜0.50%、REM:0.00%〜0.05%、Ca:0.00%〜0.05%、Mg:0.00%〜0.05%、かつ残部:Fe及び不純物、で表される化学組成を有する。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
Q1=[%Cu]/[%Si] 数式(1)
Q2=[%Nb]−{0.0800×([%Cu]−1.0000)} 数式(2)
([%Cu]、[%Si]及び[%Nb]は、それぞれCu、Si及びNbの含有量(質量%)である。)
【0011】
(C:0.0030%以下)
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.0030%超で顕著である。このため、C含有量は0.0030%以下とする。
【0012】
(Si:2.0%〜4.0%)
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が2.0%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は2.0%以上とする。一方、Si含有量が4.0%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.0%以下とする。
【0013】
(Al:0.05%〜3.0%)
Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。Alは、飽和磁束密度Bsに対する磁束密度B50の相対的な大きさ(B50/Bs)の向上にも寄与する。ここで、磁束密度B50とは、5000A/mの磁場における磁束密度である。Al含有量が0.05%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Al含有量は0.05%以上とする。一方、Al含有量が3.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。従って、Al含有量は3.0%以下とする。
【0014】
(Mn:0.05%〜3.0%)
Mnは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。Mnは、一次再結晶の際に、圧延方向の磁気特性の向上に望ましい{110}<001>集合組織を発達させる。Mn含有量が高いほど、MnSの析出温度が高くなり、析出してくるMnSが大きなものとなる。このため、Mn含有量が高いほど、仕上げ焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害する粒径が100nm程度の微細なMnSが析出しにくい。Mn含有量が0.05%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Mn含有量は0.05%以上とする。一方、Mn含有量が3.0%超では、仕上げ焼鈍において結晶粒が十分に成長せず、鉄損が増大する。従って、Mn含有量は3.0%以下とする。
【0015】
(S:0.0030%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、仕上げ焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害する。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような鉄損の増加は、S含有量が0.0030%超で顕著である。このため、S含有量は0.0030%以下とする。
【0016】
(Cu:1.0000%〜3.5000%)
微細に析出したCuは、鉄損を悪化させずに強度を上げることができる。Cu含有量が1.0000%未満では、この作用効果を十分に得られない。従って、Cu含有量は1.0000%以上とする。一方、Cu含有量が3.5000%超では、粗大な析出物が形成され、鉄損が増大する。従って、Cu含有量は3.5000%以下とする。
【0017】
(Nb:0.0010%〜0.3%)
Cuを含む鋼では、鋳造時に粒界に沿ってCuが析出しやすく、粒界割れが生じやすい。Nbは、Cuよりも優先的に粒界に移動し、Cuの粒界での析出を抑制する。つまり、Nbは、Cuを含む鋼における熱間脆化を抑制する。また、Cuを含む鋼では、スラブ加熱時に粒界に沿って溶解したCuが表面に浸み出し、Cuへげが生じやすい。Nbは、このようなCuの粒界からの浸み出しを抑制する。つまり、Nbは、Cuへげの発生を抑制する。Nb含有量が0.0010%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Nb含有量は0.0010%以上とする。一方、Nb含有量が0.3%超では、Nbそのものが脆化を引き起こしやすい。従って、Nb含有量は0.3%以下とする。
【0018】
(パラメータQ1:1.0000以下)
SiもCuへげを抑制する。数式(1)で表されるパラメータQ1が1.00超では、Cuに対してSiが不足し、Cuへげを十分に抑制することができない。従って、パラメータQ1は1.0000以下とする。Si及びCuについては原子同士が引き寄せ合うダイポール効果が知られており、パラメータQ1が1.0000以下であると、Cuが熱拡散しにくく、Cuが微細に析出しやすい。このため、高い析出強化能が得られる。
Q1=[%Cu]/[%Si] 数式(1)
【0019】
(パラメータQ2:0.0000以上)
数式(2)で表されるパラメータQ2が0.0000未満では、Cuに対してNbが不足し、Cuへげを十分に抑制することができない。従って、パラメータQ2は0.0000以上とする。
Q2=[%Nb]−{0.0800×([%Cu]−1.0000)} 数式(2)
【0020】
B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au、Bi、Mo、V、Cr、Ni、Sn、Sb、P、REM、Ca及びMgは、必須元素ではなく、無方向性電磁鋼板に所定量を限度に適宜含有されていてもよい任意元素である。
【0021】
(B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au若しくはBi又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0.0%〜0.2%)
B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au及びBiは、Nbと同様に、熱間脆化を抑制する。従って、これらのいずれか又は任意の組み合わせが含有されていてもよい。この作用効果を十分に得るために、好ましくは、B、Ti、Se、Zr、Ag、Te、Au若しくはBi又はこれらの任意の組み合わせの含有量を合計で0.0005%以上とする。一方、これら元素の含有量の合計が0.2%超では、これら元素そのものが脆化を引き起こしやすい。従って、これら元素の含有量は合計で0.2%以下とする。
【0022】
(Mo、V若しくはCr又はこれらの任意の組み合わせ:合計で0%〜0.4%)
Mo、V及びCrは、Nbと同様に、熱間脆化を抑制する。従って、これらのいずれか又は任意の組み合わせが含有されていてもよい。この作用効果を十分に得るために、好ましくは、Mo、V若しくはCr又はこれらの任意の組み合わせの含有量を合計で0.05%以上とする。一方、これら元素の含有量の合計が0.4%超では、これら元素そのものが脆化を引き起こしやすい。従って、これら元素の含有量は合計で0.4%以下とする。
【0023】
(Ni:0%〜4%)
Niは、強度の向上に寄与する。従って、Niが含有されていてもよい。この作用効果を十分に得るために、好ましくは、Ni含有量は0.5%以上とする。一方、Ni含有量が4%超では、圧延時に割れが発生しやすくなる。従って、Ni含有量は4%以下とする。
【0024】
(Sn:0.00%〜0.50%、Sb:0.00%〜0.50%、P:0.00%〜0.50%)
Sn、Sb及びPは、一次再結晶の際に、圧延方向の磁気特性の向上に望ましい{110}<001>集合組織を発達させ、かつ、磁気特性に望ましくない{111}<112>集合組織等を抑制する。Sn、Sb及びPは、仕上げ焼鈍時等における鋼板表面の酸化及び窒化を抑制し、かつ、結晶粒成長を整粒化させる。従って、Sn、Sb若しくはP又はこれらの任意の組み合わせが含まれていてもよい。これらの作用効果を十分に得るために、好ましくは、Sn含有量、Sb含有量及びP含有量はいずれも0.01%以上とする。一方、Sn、Sb又はPの含有量が0.50%超では、仕上げ焼鈍時等の結晶粒成長が抑制される。従って、Sn含有量、Sb含有量及びP含有量はいずれも0.50%以下とする。
【0025】
(REM:0.0000%〜0.0500%、Ca:0.0000%〜0.0500%、Mg:0.0000%〜0.0500%)
REM、Ca及びMgは、硫化物又は酸硫化物としてSを固定し、MnS等の微細析出を回避し、仕上げ焼鈍時等における再結晶及び結晶粒成長を促進する。従って、REM、Ca若しくはMg又はこれらの任意の組み合わせが含まれていてもよい。これらの作用効果を十分に得るために、好ましくは、REM含有量、Ca含有量及びMg含有量はいずれも0.0005%以上とする。一方、REM、Ca又はMgの含有量が0.0500%超では、硫化物又は酸硫化物が過剰となり、仕上げ焼鈍時等における再結晶及び結晶粒成長が阻害される。従って、REM含有量、Ca含有量及びMg含有量はいずれも0.50%以下とする。
【0026】
次に、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の鋼組織について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、再結晶率が90%以上の鋼組織を有する。再結晶率が90%未満では、良好な鉄損を得ることができない。ここで再結晶率とは、無方向性電磁鋼板の縦断面組織写真において視野中に占める再結晶粒の割合を示すものであり、この縦断面組織写真をもとに測定することができる。縦断面組織写真としては、光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば100倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。
【0027】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板によれば、Cu含有量、Nb含有量及びSi含有量等が適切であるため、脆化及び製造コストの上昇を抑制しながら高い強度を得ることができる。
【0028】
次に、実施形態に係る無方向無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。この製造方法では、上記化学組成を有する鋼の連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ焼鈍等を行う。冷間圧延では、例えば圧下率を70%以上95%以下とする。仕上げ焼鈍は、再結晶率が90%以上となるように、例えば、800℃以上で1秒間以上焼鈍する。
【0029】
このようにして、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造することができる。仕上げ焼鈍の後に、塗布及び焼き付けにより絶縁被膜を形成してもよい。仕上げ焼鈍後に700℃以下の熱処理を行ってもよい。このような熱処理を行うことにより、Cu析出物を無方向性電磁鋼板中に分散させることができる。
【0030】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0032】
本発明者らは、表1に示す化学組成を有する鋼の連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延及び仕上げ焼鈍を行って種々の無方向性電磁鋼板を作製する。残部はFe及び不純物である。熱間圧延により得られる熱延板の厚さは2.2mmとし、冷間圧延により得られる冷延板の厚さは0.35mmとする。仕上げ焼鈍の温度は、試料No.6のみ700℃とし、他の試料では1000℃とする。そして、各無方向性電磁鋼板の鋼組織を観察し、再結晶率を測定する。この結果も表1に示す。これらの数値に関し、表1中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0033】
更に、各無方向性電磁鋼板の鉄損W10/400及び引張強度を測定し、へげの有無を観察する。鉄損W10/400とは、1.0Tの磁束密度、400Hzの周波数における鉄損である。これらの結果も表1に示す。これらの評価に関し、表1中の下線は、その数値等が所望の範囲から外れていることを示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、試料No.7〜No.9では、化学組成及び鋼組織が本発明の範囲内にあるため、22.0W/kg以下の鉄損W10/400及び650MPa以上の引張強度が得られる。また、へげは発生しない。
【0036】
試料No.1では、パラメータQ1が大きすぎ、パラメータQ2が小さすぎるため、へげが発生する。試料No.2では、Cu含有量及びNb含有量が小さすぎるため、十分な引張強度が得られない。試料No.3〜No.5では、Nb含有量及びパラメータQ2が小さすぎるため、鋳造中に破断が生じる。このため、再結晶率、鉄損、引張強度及びへげの評価ができない。試料No.6では、再結晶率が小さすぎるため、十分な鉄損が得られない。試料No.10では、Nb含有量が大きすぎるため、十分な鉄損が得られない。試料No.11では、Si含有量が大きすぎるため、冷間圧延中に破断が生じる。試料No.12では、Si含有量が小さすぎ、パラメータQ1が大きすぎるため、へげが発生し、十分な鉄損が得られない。試料No.13では、Cu含有量及びパラメータQ1が大きすぎるため、へげが発生し、十分な鉄損が得られない。試料No.14では、パラメータQ1が大きすぎるため、へげが発生する。試料No.15では、Cu含有量が小さすぎるため、十分な引張強度が得られない。試料No.16では、Cu含有量が大きすぎるため、十分な鉄損が得られない。試料No.17では、Nb含有量が小さすぎるため、へげが発生する。