特許第6763196号(P6763196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763196
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20200917BHJP
【FI】
   H02M7/48 M
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-97914(P2016-97914)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-208878(P2017-208878A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2018年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中田 健一
【審査官】 白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−192975(JP,A)
【文献】 特開2015−159684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42〜 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の上アームスイッチと複数の下アームスイッチとを有し、モータを駆動させるインバータ装置であって、
前記上アームスイッチに絶縁状態で駆動電力を供給する上アーム電源回路と、
前記上アーム電源回路の電力を監視し、過電圧状態となり電源電圧から基準電圧を引いた差が予め設定された値より大きくなった場合に異常と判断する上アーム電源監視回路と、
前記下アームスイッチに絶縁状態で駆動電力を供給する下アーム電源回路と、
前記下アーム電源回路の電力を監視し、過電圧状態となり電源電圧から基準電圧を引いた差が予め設定された値より大きくなった場合に異常と判断する下アーム電源監視回路と、
前記上アーム電源監視回路及び前記下アーム電源監視回路のうちの一方の電源監視回路が異常と判断すると、正常側のアームのスイッチを全てON、異常側のアームのスイッチを全てOFFとする制御回路とを備えることを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記上アーム電源回路及び前記下アーム電源回路は、それぞれ1つのトランスで駆動電力を各スイッチに供給する請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記上アーム電源回路及び前記下アーム電源回路は、それぞれ各相のスイッチに個別のトランスで駆動電力を供給する請求項1に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置でモータを駆動する際、制御用の電源回路が正常に動作していない状態で過電圧が生じた場合であっても、過電圧を抑制する電力変換装置が提案されている(特許文献1)。この装置では、インバータに、12V電源からの制御電源が供給されない場合でも、電源回路から供給される電力により各ドライバ回路が動作してIGBTの3相全ての上アーム又は下アームをオンにし、下アーム又は上アームをオフにするショート制御を行うことにより、過電圧を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−186871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、3相全ての上アーム又は3相全ての下アームをオンにしてショートブレーキを行うことはできる。しかし、制御電源が故障した場合ショートブレーキを行うことはできない虞がある。
【0005】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、電源異常が発生してもショートブレーキを行うことができ、上アーム及び下アームのうち電源異常がない方のアームをオンにしてショートブレーキを行うことができるインバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するインバータ装置は、複数の上アームスイッチと複数の下アームスイッチとを有し、モータを駆動させるインバータ装置である。そして、前記上アームスイッチに絶縁状態で駆動電力を供給する上アーム電源回路と、前記上アーム電源回路の電力を監視する上アーム電源監視回路と、前記下アームスイッチに絶縁状態で駆動電力を供給する下アーム電源回路と、前記下アーム電源回路の電力を監視する下アーム電源監視回路と、前記上アーム電源監視回路及び前記下アーム電源監視回路のうちの一方の電源監視回路が異常と判断すると、正常側のアームのスイッチを全てON、異常側のアームのスイッチを全てOFFとする制御回路とを備える。
【0007】
この構成によれば、上アーム及び下アームに対してそれぞれ独立に電源が設けられ、それぞれの電源が正常か否かが電源監視回路により監視される。そして、どちらかの電源が異常となった場合、正常側のアームにてショートブレーキを行う。したがって、電源異常が発生してもショートブレーキを行うことができ、上アーム及び下アームのうち電源異常がない方のアームをオンにしてショートブレーキを行うことができる。
【0008】
前記上アーム電源回路及び前記下アーム電源回路は、それぞれ1つのトランスで駆動電力を各スイッチに供給する。この構成によれば、それぞれ各相のスイッチに個別のトランスで駆動電力を供給する場合と異なり、トランスを1個ずつ製造せずに既存のトランスを使用することができる。
【0009】
前記上アーム電源回路及び前記下アーム電源回路は、それぞれ各相のスイッチに個別のトランスで駆動電力を供給してもよい。この構成によれば、それぞれ1つのトランスで駆動電力を各スイッチに供給する場合に比べてトランス全体が占める大きさを小さくできる。
【0010】
前記モータは、走行用モータである。電源異常の際、モータへの電力供給を停止してモータの停止を行うと電力供給が停止されてもモータが慣性で回り続けるが、ショートブレーキでモータを停止させれば、モータが慣性で回り続けることを防止できる。そのため走行用モータに適用すれば、惰性走行を抑制して素早く停止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電源異常が発生してもショートブレーキを行うことができ、上アーム及び下アームのうち電源異常がない方のアームをオンにしてショートブレーキを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】インバータ装置の電気的構成を示すブロック図。
図2】(a)は上アームの各相の駆動部へ電力供給を行うトランスの例を示す模式図、(b)は下アームの各相の駆動部へ電力供給を行うトランスの例を示す模式図。
図3】別の実施形態のトランスの例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を車載用のインバータ装置に具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1に示すように、車両走行用のモータ(3相交流モータ)10を制御するインバータ装置11は、複数の上アームスイッチとしての3個のスイッチング素子S1,S3,S5と、複数の下アームスイッチとしての3個のスイッチング素子S2,S4,S6とを有する。各スイッチング素子S1〜S6は、バッテリ12に接続され、バッテリ12から供給される直流電力(直流電流)を3相交流電力(3相交流電流)に変換してモータ10に供給する。バッテリ12と並列にコンデンサ13が接続されている。
【0014】
インバータ装置11は、上アーム電源回路14と、上アーム電源制御回路15と、上アーム電源監視回路16と、下アーム電源回路17と、下アーム電源制御回路18と、下アーム電源監視回路19と、制御回路20とを有する。
【0015】
上アーム電源回路14は、上アームスイッチとしてのスイッチング素子S1,S3,S5に絶縁状態で駆動電力を供給する。上アーム電源回路14は、各スイッチング素子S1,S3,S5を駆動する電力をそれぞれ独立して供給する。上アーム電源回路14は、各駆動部21a,21b,21cへの電力供給を、トランスを用いて行う。
【0016】
図2(a)に示すように、上アーム電源回路14は、電源22に接続されるトランス23と、トランス23用のスイッチング素子Suとを備えている。トランス23は、1つの一次巻線24と、3つの二次巻線25a,25b,25cとを有する。3つの二次巻線25a,25b,25cのうち二次巻線25aが駆動部21aに、二次巻線25bが駆動部21bに、二次巻線25cが駆動部21cにそれぞれ整流回路を介して接続される。
【0017】
図1に示すように、下アーム電源回路17は、下アームスイッチとしてのスイッチング素子S2,S4,S6に絶縁状態で駆動電力を供給する。下アーム電源回路17は、各スイッチング素子S2,S4,S6を駆動する電力をそれぞれ独立して供給する。下アーム電源回路17は、各駆動部26a,26b,26cへの電力供給を、トランスを用いて行う。
【0018】
図2(b)に示すように、下アーム電源回路17は、電源27に接続されるトランス28と、トランス28用のスイッチング素子Sdとを備えている。トランス28は、1つの一次巻線29と、3つの二次巻線30a,30b,30cとを有する。3つの二次巻線30a,30b,30cのうち二次巻線30aが駆動部26aに、二次巻線30bが駆動部26bに、二次巻線30cが駆動部26cにそれぞれ整流回路を介して接続される。
【0019】
上アーム電源監視回路16及び下アーム電源監視回路19は、それぞれ上アーム電源制御回路15及び下アーム電源制御回路18のフィードバック電圧を監視して電源異常の有無を判断する。電源異常の判断は、例えば、過電圧状態となり電源電圧と基準電圧との差が、予め設定された値より大きくなった場合に電源異常とする。
【0020】
制御回路20は、上アーム電源監視回路16及び下アーム電源監視回路19の監視信号を入力し、一方の電源監視回路が異常と判断すると、正常側のアームのスイッチを全てON、異常側のアームのスイッチを全てOFFとすることにより、ショートブレーキを行う。
【0021】
制御回路20は、スイッチング素子Suのオン、オフ制御により、上アーム電源回路14のトランス23を駆動して駆動部21a,21b,21cに電力を供給し、駆動部21a,21b,21cのオン、オフ制御により各スイッチング素子S1,S3,S5を駆動する。
【0022】
制御回路20は、スイッチング素子Sdのオン、オフ制御により、下アーム電源回路17のトランス28を駆動して駆動部26a,26b,26cに電力を供給し、駆動部26a,26b,26cのオン、オフ制御により各スイッチング素子S2,S4,S6を駆動する。
【0023】
制御回路20は、角度センサ31の検出信号を入力してモータ10の回転速度を検出する。制御回路20は、電流センサ32の検出信号を入力し、モータ10に目標電流が流れるように、モータ10を駆動制御する。
【0024】
次に前記のように構成されたインバータ装置11の作用を説明する。
制御回路20は、上アーム電源監視回路16及び下アーム電源監視回路19の両者から異常信号が入力されない状態では、モータ10に走行状態に対応した目標電力が供給されるように、トランス23のスイッチング素子Su、トランス28のスイッチング素子Sd、上アームのスイッチング素子S1,S3,S5、下アームのスイッチング素子S2,S4,S6を駆動する。その結果、上アームの各駆動部21a,21b,21c及び下アームの各駆動部26a,26b,26cに駆動電力が供給され、モータ10が所望の速度で回転駆動される。
【0025】
制御回路20は、上アーム電源監視回路16及び下アーム電源監視回路19のいずれか一方から電源異常の信号を入力すると、正常側のアームにてショートブレーキを行う。例えば、上アーム電源監視回路16から電源異常の信号が入力されると、制御回路20は、下アームの全てのスイッチング素子S2,S4,S6をオンにし、上アームの全てのスイッチング素子S1,S3,S5をオフにするように制御信号を出力する。
【0026】
電源異常の場合、上アーム及び下アームの全てのスイッチング素子S1〜S6をオフにすると、慣性でモータ10が回り続け、逆起電力が発生する。しかし、上アーム側の電源異常の場合、電源が正常な下アームの全てのスイッチング素子S2,S4,S6をオンにすれば、モータ10の電機子巻線に流れる電流がショートし、モータ10にブレーキが掛かり、全てのスイッチング素子をオフにする場合より早くモータ10が停止する。
【0027】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)インバータ装置11は、複数の上アームスイッチ(スイッチング素子S1,S3,S5)と複数の下アームスイッチ(スイッチング素子S2,S4,S6)とを有し、モータ10を駆動させるインバータ装置である。そして、上アームスイッチに絶縁状態で駆動電力を供給する上アーム電源回路14と、上アーム電源回路14の電力を監視する上アーム電源監視回路16と、下アームスイッチに絶縁状態で駆動電力を供給する下アーム電源回路17と、下アーム電源回路17の電力を監視する下アーム電源監視回路19とを備える。また、インバータ装置11は、上アーム電源監視回路16及び下アーム電源監視回路19のうちの一方の電源監視回路が異常と判断すると、正常側のアームのスイッチを全てON、異常側のアームのスイッチを全てOFFとする制御回路20を備える。
【0028】
この構成によれば、上アーム側と下アーム側のどちらかの電源が異常となった場合、正常側のアームにてショートブレーキを行う。したがって、電源異常が発生しても上アーム及び下アームのうち電源異常がない方のアームのスイッチング素子をオンにしてショートブレーキを行うことができる。
【0029】
(2)上アーム電源回路14及び下アーム電源回路17は、それぞれ1つのトランス23及びトランス28で駆動電力を各スイッチに供給する。この構成によれば、それぞれ各相のスイッチに個別のトランスで駆動電力を供給する場合と異なり、既存のトランスを使用することができる。
【0030】
(3)モータ10は、走行用モータである。電源異常の際、モータへの電力供給を停止してモータの停止を行うと、電力供給が停止されてもモータが慣性で回り続けるが、ショートブレーキでモータを停止させれば、モータが慣性で回り続けることを防止できる。そのため走行用モータに適用すれば、惰性走行を抑制して素早く停止することができる。
【0031】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 上アーム電源回路14及び下アーム電源回路17は、それぞれ各相のスイッチに個別のトランスで駆動電力を供給する構成としてもよい。例えば、図3に示すように、上アーム電源回路14を、3個のトランス41、42,43で構成する。各トランス41、42,43の一次巻線41a,42a,43aは、それぞれ共通の電源45に並列に接続されている。各トランス41、42,43は、それぞれスイッチング素子41b,42b,43bを備える。トランス41の二次巻線41cは、駆動部21aに整流回路を介して接続され、トランス42の二次巻線42cは、駆動部21bに整流回路を介して接続され、トランス43の二次巻線43cは、駆動部21cに整流回路を介して接続される。そして、各スイッチング素子41b,42b,43bは制御回路20によりオン、オフ制御され、各駆動部21a,21b,21cに電力が供給される。すなわち、トランス41の二次巻線41cが前記実施形態の二次巻線25aに相当し、トランス42の二次巻線42cが前記実施形態の二次巻線25bに相当し、トランス43の二次巻線43cが前記実施形態の二次巻線25cに相当する。
【0032】
下アーム電源回路17も同様に構成された3個のトランスを備え、各トランスから各駆動部26a,26b,26cに電力が供給される。このように、上アーム電源回路14及び下アーム電源回路17は、それぞれ各相のスイッチに個別のトランスで駆動電力を供給してもよい。この構成によれば、それぞれ1つのトランスで駆動電力を各スイッチに供給する場合に比べてトランス全体が占める大きさを小さくできる。
【0033】
○ 電源電圧の監視は、それぞれ上アーム電源制御回路15及び下アーム電源制御回路18のフィードバック電圧を監視して行う構成に限らず、例えば、電源電圧を直接検出する構成であってもよい。
【0034】
○ 電源電圧の監視は、トランスの一次側に限らず、二次側の電圧で監視してもよい。
○ 電源異常の検出は、電源電圧の監視ではなく、電流の監視で行ってもよい。
【符号の説明】
【0035】
上アームスイッチとしてのスイッチング素子S1,S3,S5、下アームスイッチとしてのスイッチング素子S2,S4,S6、10…モータ、11…インバータ装置、14…上アーム電源回路、16…上アーム電源監視回路、17…下アーム電源回路、19…下アーム電源監視回路、20…制御回路、23,28,41,42,43…トランス。
図1
図2
図3