特許第6763225号(P6763225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763225
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20200917BHJP
【FI】
   F04C18/02 311V
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-150613(P2016-150613)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-17223(P2018-17223A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 康夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】中井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】野呂 匡宏
【審査官】 大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−21381(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(51)と、
前記固定スクロールに対して公転可能な可動スクロール(52)と、
前記可動スクロールを公転させる回転可能なクランク軸(30)と、
を備え、
前記固定スクロールおよび前記可動スクロールは、流体を圧縮するための圧縮室(53)を規定しており、
前記固定スクロールには、前記圧縮室から前記流体を吐出するための吐出口(55)が形成されており、
前記可動スクロールは、前記吐出口を少なくとも部分的に覆うことによって、前記吐出口の総面積のうち前記圧縮室との連通に寄与する部分の面積である連通面積(S)を変化させることができ、
前記クランク軸が、前記圧縮室と前記吐出口が連通を開始する配置に相当する第1回転角位置(θ1)から、前記第1回転角位置よりも予備吐出区間角度(Δθ)だけ大きい第2回転角位置(θ2)まで回転する間は、前記連通面積は第1増加率(G1)で増加し、
前記クランク軸が、前記第2回転角位置から、前記第2回転角位置よりも大きい第3回転角位置(θ3)まで回転する間は、前記連通面積は第2増加率(G2)で増加し、
前記第2増加率(G2)は、前記第1増加率(G1)よりも大きく、
前記吐出口の輪郭は、
前記可動スクロールの輪郭と一致する区間(55b)と、
前記可動スクロールの輪郭と一致しないずれ部(55x)と、
を含み、
前記ずれ部は、前記連通面積を増加させる、
スクロール圧縮機(10)。
【請求項2】
前記予備吐出区間角度は20°以上60°以下である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記第2回転角位置(θ2)における前記連通面積(S)は、前記吐出口の前記総面積の7%以上15%以下である、
請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記第2増加率(G2)は、前記第1増加率(G1)の2倍以上である、
請求項1から3のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記第2増加率(G2)は、前記第1増加率(G1)の3倍以上である、
請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記第3回転角位置(θ3)は、前記第2回転角位置(θ2)よりも90°以上大きい、
請求項1から5のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記予備吐出区間角度は35°以上60°以下である、
請求項1から6のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記吐出口の前記輪郭は、
前記可動スクロールの輪郭と一致する2つの区間(55b)、
含み、
前記ずれ部は、前記2つの区間によって挟まれている、
請求項1から7のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
前記可動スクロールには凹部(57)が形成されており、
前記凹部の輪郭は、前記吐出口の輪郭と合同である、
請求項1から8のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機は、インボリュート曲線などの形状を持つ固定スクロールおよび可動スクロールを有する。固定スクロールおよび可動スクロールによって規定される圧縮室の容積は、可動スクロールの公転運動に従って縮小し、これによって流体の圧縮が行われる。圧縮室の容積が概ね最小になるタイミングで圧縮室と吐出口が連通し、圧縮済みの高圧流体が吐出口から外へ吐出される。
【0003】
特許文献1(特開2014−105589号公報)が開示するスクロール圧縮機は、圧縮室と吐出口が連通する瞬間において吐出口と圧縮室の間の連通面積が急激に大きくなるように吐出口の輪郭形状が設計されており、これによって吐出口における流体の圧力損失を低減しようとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧縮室と吐出口が連通する瞬間において連通面積が急激に大きくなる場合、流体の逆流が起こることがある。逆流により一度吐出された流体が再び圧縮されると、それに起因して圧力損失が生じる。この逆流による圧力損失の大きさは、連通の瞬間における連通面積の大きさを確保することによって得られた圧力損失の低減分を超過する場合がある。
【0005】
本発明の課題は、スクロール圧縮機の動作全体を通じて圧力損失を低減させることにより、その性能向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールと、可動スクロールと、クランク軸と、を備える。可動スクロールは、固定スクロールに対して公転可能である。クランク軸は、可動スクロールを公転させつつ回転可能である。固定スクロールおよび可動スクロールは、流体を圧縮するための圧縮室を規定する。固定スクロールには、圧縮室から流体を吐出するための吐出口が形成されている。可動スクロールは、吐出口を少なくとも部分的に覆うことによって、連通面積を変化させる。連通面積は、吐出口の総面積のうち圧縮室との連通に寄与する部分の面積である。第1回転角位置は、圧縮室と吐出口が連通を開始する配置に相当する。第2回転角位置は、第1回転角位置よりも予備吐出区間角度だけ大きい。クランク軸が、第1回転角位置から第2回転角位置まで回転する間は、連通面積は第1増加率で増加する。第3回転角位置は、第2回転角位置よりも大きい。クランク軸が、第2回転角位置から第3回転角位置まで回転する間は、連通面積は第2増加率で増加する。第2増加率は、第1増加率よりも大きい。
【0007】
この構成によれば、圧縮室と吐出口が連通し始めてから所定の間、すなわちクランク軸が第1回転角位置から第2回転角位置まで回転する間には、連通面積はゆるやかに増加する。このとき、圧縮室内の流体の一部が少ない流量で吐出されることによって、圧縮室内の流体の圧力が低下する。したがって、その後、クランク軸が第2回転角位置から第3回転角位置まで回転する間に流体が圧縮室へ逆流することを抑制できる。
【0008】
本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点に係るスクロール圧縮機において、予備吐出区間角度が20°以上60°以下である。
【0009】
この構成によれば、所定の大きさを有する予備吐出区間角度が確保される。したがって、流体の逆流をより確実に抑制できる。
【0010】
本発明の第3観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点または第2観点に係るスクロール圧縮機において、第2回転角位置における連通面積が、吐出口の総面積の7%以上15%以下である。
【0011】
この構成によれば、クランク軸が第1回転角位置から第2回転角位置まで回転する間、連通面積は吐出口の総面積の7%以上15%以下である。したがって、流量の少ない吐出段階を確実に実現できる。
【0012】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、第2増加率が、第1増加率の2倍以上である。
【0013】
この構成によれば、流量の多い吐出段階に相当する第2増加率は、流量の少ない吐出段階に相当する第1増加率の2倍以上である。したがって、2つの吐出段階の流量が有意に変化するので、逆流の低減が確実になる。
【0014】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機は、第4観点に係るスクロール圧縮機において、第2増加率が、第1増加率の3倍以上である。
【0015】
この構成によれば、流量の多い吐出段階に相当する第2増加率は、流量の少ない吐出段階に相当する第1増加率の3倍以上である。したがって、2つの吐出段階の流量がより有意に変化するので、逆流の低減がさらに確実になる。
【0016】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、第3回転角位置が、第2回転角位置よりも90°以上大きい。
【0017】
この構成によれば、第2回転角位置と第3回転角位置の差が規定される。したがって、流量の多い吐出段階において、連通面積の増加を伴うクランク軸の回転角位置の範囲が定められる。
【0018】
本発明の第7観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第6観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、予備吐出区間角度が35°以上60°以下である。
【0019】
この構成によれば、予備吐出区間角度は35°以上60°以下である。したがって、少ない流量で流体が吐出される予備吐出区間角度の値がより大きいので、流体の逆流がさらに確実に抑制される。
【0020】
発明の第8観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第7観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、吐出口の輪郭が、可動スクロールの輪郭と一致する2つの区間と、可動スクロールの輪郭と一致しないずれ部と、を含む。ずれ部は、2つの区間によって挟まれている。
【0021】
この構成によれば、ずれ部が連通面積をわずかに増加させる。このとき、圧縮室内の流体の一部が少ない流量でずれ部を通って吐出され、それによって圧縮室内の流体の圧力が低下する。したがって、流体が圧縮室へ逆流することを容易な手段で抑制できる。
【0022】
発明の第9観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第8観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、可動スクロールには凹部が形成されている。凹部の輪郭は、吐出口の輪郭と合同である。
【0023】
この構成によれば、凹部もまたずれ部を有する。したがって、流体が圧縮室へ逆流することをさらに効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1観点、第2観点、第8観点、および第9観点に係るスクロール圧縮機によれば、流体が圧縮室へ逆流することを抑制できる。
【0025】
本発明の第3観点に係るスクロール圧縮機によれば、流量の少ない吐出段階を実現できる。
【0026】
本発明の第4観点および第5観点に係るスクロール圧縮機によれば、2つの吐出段階の流量が有意に変化するので、逆流の低減が確実になる。
【0027】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機によれば、流量の多い吐出段階において、連通面積の増加を伴うクランク軸の回転角位置の範囲が定められる。
【0028】
本発明の第7観点に係るスクロール圧縮機によれば、流体の逆流がさらに確実に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機10の断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な分解図である。
図3】可動スクロール52のラップ52bの上面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。
図6】クランク軸30の回転による連通面積Sの変化を示すグラフである。
図7】比較例に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。
図8】本発明の第1実施形態の変形例に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な分解図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1は本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機10の断面図である。スクロール圧縮機10は、吸入した流体の低圧冷媒を圧縮することによって高圧冷媒にして、それを吐出するものである。スクロール圧縮機10は、ケーシング11、モータ20、クランク軸30、圧縮要素50、高圧空間形成部材60を備える。
【0031】
(2)詳細構成
(2−1)ケーシング11
ケーシング11は、スクロール圧縮機10の構成要素を収容する。ケーシング11は、胴体部11aと、胴体部11aに固定された上部11bおよび下部11cを有し、内部空間を形成している。ケーシング11は、内部空間に存在する高圧冷媒の圧力に耐えうる強度を有する。ケーシング11には、流体である低圧冷媒を吸入するための吸入管15、および流体である高圧冷媒を吐出するための吐出管16が設けられている。
【0032】
(2−2)モータ20
モータ20は、圧縮動作に必要な動力を発生させる。モータ20は、ケーシング11に直接的または間接的に固定されたステータ21、および回転可能なロータ22を有する。モータは図示しない導線によって供給された電力によって駆動される。
【0033】
(2−3)クランク軸30
クランク軸30は、モータ20が発生させた動力を圧縮要素50へ伝達するためのものである。クランク軸30は、第1軸受固定部材70および第2軸受固定部材79にそれぞれ固定された軸受に軸支されており、ロータ22とともに回転可能である。クランク軸30は、主軸部31と偏心部32を有している。主軸部31はロータ22に固定されている。
【0034】
(2−4)圧縮要素50
圧縮要素50は、低圧冷媒を圧縮して高圧冷媒にする。圧縮要素50は、固定スクロール51、可動スクロール52を有する。さらに、圧縮要素50には、圧縮動作が行われる圧縮室53が形成されている。
【0035】
(2−4−1)固定スクロール51
固定スクロール51は、ケーシング11に直接的または間接的に固定されている。固定スクロール51は、平板状の鏡板51aと、鏡板51aに立設されたラップ51bとを有する。ラップ51bは渦巻状であり、例えばインボリュート曲線の形状を有する。鏡板51aの中央には吐出口55が形成されている。
【0036】
(2−4−2)可動スクロール52
可動スクロール52は、クランク軸30の偏心部32に取り付けられており、クランク軸30の回転によって固定スクロール51に対して摺動しながら公転可能である。可動スクロール52は、平板状の鏡板52aと、鏡板52aに立設されたラップ52bとを有する。ラップ52bは渦巻状であり、例えばインボリュート曲線の形状を有する。
【0037】
(2−4−3)圧縮室53
圧縮室53は、固定スクロール51および可動スクロール52に囲まれた空間である。固定スクロール51のラップ51bと可動スクロール52のラップ52bは複数箇所で互いと接触するので、複数の圧縮室53が同時に形成される。それぞれの圧縮室53は、可動スクロール52の公転に伴って、圧縮要素50の外周部分から中央部分へ移動しながらその容積を減少させてゆく。
【0038】
(2−5)高圧空間形成部材60
高圧空間形成部材60は、ケーシング11の内部空間を低圧空間61と高圧空間62に分割する。高圧空間形成部材60は、固定スクロール51の吐出口55の近傍に設けられている。高圧空間62は、吐出口55の外側、第1軸受固定部材70の下側、モータ20の周囲、第2軸受固定部材79の周囲を含む範囲に広がっている。
【0039】
(3)基本動作
モータ20は電力によって駆動され、ロータ22を回転させる。ロータ22の回転はクランク軸30に伝えられ、それによって偏心部32が可動スクロール52を公転させる。低圧冷媒は吸入管15から低圧空間61へ吸入され、それから圧縮要素50の外周部分に位置する圧縮室53へ入る。圧縮室53は、容積を減少させながら中央部分へ移動し、その過程で冷媒を圧縮する。圧縮室53が中央部分へ到達したとき、圧縮によって生じた高圧冷媒は吐出口55において圧縮要素50の外へ出て、それから高圧空間62へと流入し、最後に吐出管16からケーシング11の外へ吐出される。
【0040】
(4)詳細構造
(4−1)吐出口55の形状
図2は圧縮要素50の中央部分の模式的な分解図である。図2には、固定スクロール51の鏡板51aの下側、および、それに摺動する可動スクロール52のラップ52bの上側が描かれている。固定スクロール51の鏡板51aには吐出口55が設けられている。吐出口55は鏡板51aを貫通している。この吐出口55の輪郭には、後述するずれ部55xが設けられている。
【0041】
図3は可動スクロール52のラップ52bの上面図である。ラップ52bの渦巻形状は、中心曲線52xに沿っている。中心曲線52xは例えばインボリュート曲線である。ラップ52bの中心側に位置する内辺52iと外側に位置する外辺52oとは中心曲線52xを挟んで離間しており、その離間寸法は原則としてラップ52bの幅に相当する一定値である。
【0042】
図4は、圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。固定スクロール51のラップ51bは、可動スクロール52のラップ52bと同様の渦巻形状を有している。固定スクロール51のラップ51bの位置は、吐出口55に対して固定されている。可動スクロール52のラップ52bは、吐出口55の位置に対して相対的に移動する。ラップ51bとラップ52bによって規定される複数の圧縮室53には、A室53aとB室53bの2種類がある。A室53aは、固定スクロール51のラップ51bの内辺51iと、可動スクロール52のラップ52bの外辺52oとで規定される圧縮室である。B室53bは、固定スクロール51のラップ51bの外辺51oと、可動スクロール52のラップ52bの内辺52iとで規定される圧縮室である。
【0043】
ラップ52bは吐出口55を部分的に覆っており、それによって吐出口55の総面積のうちA室53aとの連通に寄与する部分の面積である連通面積Sを決定している。ラップ52bは反時計回りに公転することによって、連通面積Sを増減させる。
【0044】
この図4は、公転の1周期における、ある時刻の可動スクロール52のラップ52bの位置を示している。吐出口55の輪郭は、第1区間55a、第2区間55b、第3区間55cからなる。第1区間55aは、固定スクロール51のラップ51bの内辺51iと一致する。第2区間55bは、可動スクロール52のラップ52bの外辺52oと一致する。第3区間55cは、ラップ51bの内辺51iとラップ52bの外辺52oの間を移行する。第2区間55bには、ラップ52bの輪郭から吐出口55の外側にずれた小さなずれ部55xが形成されている。すなわち、第2区間55bは分割された2つの区間からなり、それらの2つの区間によってずれ部55xが挟まれている。
【0045】
ずれ部55xは、連通面積Sの増加に寄与している。図4において、連通面積Sはずれ部55xの面積に一致している。
【0046】
図5は、図4の時刻よりしばらく経過した時刻における可動スクロール52のラップ52bの位置を示している。ラップ52bは公転運動によって、図4に示した位置から移動している。図5において、連通面積Sはずれ部55xの面積を超過している。
【0047】
(4−2)連通面積Sの変化
図6は、クランク軸30の回転による連通面積Sの変化を示すグラフである。このグラフには、図7に示す比較例に係る圧縮要素50の吐出口55の連通面積Sの変化も併せて示されている。図7の比較例においては、本発明に係る構成とは異なり、吐出口55の輪郭の第2区間55bにはずれ部55xが形成されていない。
【0048】
図6のグラフの横軸はクランク軸30の回転角位置θである。第1回転角位置θ1は、本発明に係る圧縮要素50のA室53aと吐出口55が連通を開始する配置に相当する。第2回転角位置θ2は、第1回転角位置θ1よりも予備吐出区間角度Δθだけ大きい。第3回転角位置θ3は、第2回転角位置から第2回転角位置θ2よりも大きい。
【0049】
比較例に係る構成では、回転角位置θが第2回転角位置θ2に達する前には連通面積Sがゼロであり、回転角位置θが第2回転角位置θ2に達した後には連通面積Sが大きな第2増加率G2で急激に増加する。この増加は少なくとも第3回転角位置θ3まで続く。
【0050】
これに対し、本発明に係る構成では、大きな第2増加率G2での増加に先立って、回転角位置θが第1回転角位置θ1から第2回転角位置θ2へ移行する間に、連通面積Sが小さな第1増加率G1で増加する。
【0051】
(4−3)圧縮要素50の動作
本発明に係る圧縮要素50の動作において、第1回転角位置θ1から第2回転角位置θ2までの期間に、ずれ部55xの開口から流体冷媒が吐出される。この期間には連通面積Sが小さな第1増加率G1で増加し、「予備吐出」と呼ぶべき流量の少ない吐出が行われる。
【0052】
予備吐出は、第2回転角位置θ2と第1回転角位置θ1との差分である予備吐出区間角度Δθにわたって行われる。この予備吐出区間角度Δθは20°以上60°以下となるよう設計される。予備吐出が終わった後、第2回転角位置θ2から第3回転角位置θ3までの期間に、「本吐出」と呼ぶべき流量の大きい吐出が行われる。
【0053】
予備吐出においては、連通面積SはゼロからSPまで増加する。本吐出においては、連通面積SはSPから少なくともSFまで増加する。
【0054】
(5)特徴
(5−1)
複数の圧縮室53のうちのA室53aと吐出口55が連通し始めてから所定の間、すなわちクランク軸30が第1回転角位置θ1から第2回転角位置θ2まで回転する間には、連通面積Sはゆるやかに増加する。このとき、A室53aの内部の流体冷媒の一部が少ない流量で吐出されることによって、A室53aの内部の流体冷媒の圧力が低下する。したがって、その後、クランク軸30が第2回転角位置θ2から第3回転角位置θ3まで回転する間に流体冷媒がA室53aへ逆流することを抑制できる。
【0055】
(5−2)
20°以上60°以下という、所定の大きさを有する予備吐出区間角度Δθが確保される。したがって、流体の逆流をより確実に抑制できる。
【0056】
(5−3)
クランク軸30が第1回転角位置θ1から第2回転角位置θ2まで回転する間、連通面積Sは吐出口55の総面積の7%以上15%以下となるよう設定されてもよい。この場合、流量の少ない予備吐出を確実に実現できる。
【0057】
(5−4)
流量の多い本吐出の第2増加率G2は、流量の少ない予備吐出の第1増加率G1の2倍以上としてもよい。この場合、2つの吐出段階の流量が有意に変化するので、逆流の低減が確実になる。
【0058】
(5−5)
流量の多い本吐出の第2増加率G2は、流量の少ない予備吐出の第1増加率G1の3倍以上としてもよい。この場合、2つの吐出段階の流量がより有意に変化するので、逆流の低減がさらに確実になる。
【0059】
(5−6)
第3回転角位置θ3は、第2回転角位置θ2よりも90°以上大きくなるよう定めてもよい。この場合、本吐出を実行できる回転角の範囲の大きさを保つことができる。
【0060】
(5−7)
予備吐出区間角度Δθは35°以上60°以下となるよう定めてもよい。この場合、少ない流量で流体冷媒が予備吐出される予備吐出区間角度Δθの値がより大きいので、流体冷媒の逆流がさらに確実に抑制される。
【0061】
(5−8)
ずれ部55xは連通面積Sをわずかに増加させる。このとき、圧縮室53のA室53aの内部の流体の一部が少ない流量でずれ部55xを通って吐出され、それによってA室53aの内部の流体の圧力が低下する。したがって、流体がA室53aへ逆流することを容易な手段で抑制できる。
【0062】
(6)変形例
図8は、本発明の上述の実施形態の変形例に係る圧縮要素50の中央部分の模式図である。図8の変形例では、ずれ部55xの形状が図4の構成と異なっている。
【0063】
この構成によれば、吐出口55の輪郭は曲率半径が小さな区間を有しないので、スクロール圧縮機10の製造工程において吐出口55の加工が容易である。
【0064】
<第2実施形態>
(1)構成
図9は本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機10の圧縮要素50の中央部分の模式的な分解図である。第2実施形態は、可動スクロール52の鏡板52aの構造が第1実施形態と異なり、それ以外の構成は第1実施形態と同じである。
【0065】
図9には、固定スクロール51のラップ51bの下側、および、それに摺動する可動スクロール52の鏡板52aの上側が描かれている。可動スクロール52の鏡板52aには凹部57が設けられている。凹部57の輪郭は、吐出口55の輪郭と合同である。
【0066】
凹部57は例えば2mmの深さを有しており、鏡板52aを貫通しない。凹部57にはずれ部57xが設けられている。
【0067】
図10は、圧縮要素50の中央部分の模式的な平面図である。吐出口55の輪郭と凹部57の輪郭の位置関係は、固定スクロール51のラップ51bと可動スクロール52のラップ52bの位置関係と同様に、点対称である。凹部57は、圧縮要素50の中央の領域において、吐出口55と連通する。
【0068】
(2)特徴
吐出口55のずれ部55xは、吐出口55とA室53aの連通に関連する連通面積の増加に寄与している。同様に、凹部57のずれ部57xは、吐出口55とB室53bの連通に関連する連通面積の増加に寄与している。
【0069】
圧縮室53のうちのB室53bと吐出口55が連通し始めてから所定の間、吐出口55とB室53bの連通に関連する連通面積はゆるやかに増加する。このとき、B室53bの内部の流体冷媒の一部が少ない流量で吐出されることによって、B室53bの内部の流体冷媒の圧力が低下する。したがって、その後、流体冷媒がB室53bへ逆流することを抑制できる。
【0070】
(3)変形例
第1実施形態の変形例を第2実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 圧縮機
11 ケーシング
15 吸入管
16 吐出管
20 モータ
21 ステータ
22 ロータ
30 クランク軸
31 主軸部
32 偏心部
50 圧縮要素
51 固定スクロール
51a 固定スクロール鏡板
51b 固定スクロールラップ
52 可動スクロール
52a 可動スクロール鏡板
52b 可動スクロールラップ
53 圧縮室
55 吐出口
55x ずれ部
57 凹部
57x ずれ部
60 高圧空間形成部材
61 低圧空間
62 高圧空間
70 第1軸受固定部材
79 第2軸受固定部材
S 連通面積
SP 予備吐出時の連通面積
SF 本吐出時の連通面積
G1 第1増加率
G2 第2増加率
Δθ 予備吐出区間角度
θ 回転角位置
θ1 第1回転角位置
θ2 第2回転角位置
θ3 第3回転角位置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特開2014−105589号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10