特許第6763329号(P6763329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763329
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】皮膚用水性インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20200917BHJP
【FI】
   C09D11/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-58291(P2017-58291)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159040(P2018-159040A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古谷 眞
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−129085(JP,A)
【文献】 特開2018−059005(JP,A)
【文献】 特開昭46−005409(JP,A)
【文献】 特開平03−131672(JP,A)
【文献】 米国特許第05084492(US,A)
【文献】 特開2007−169319(JP,A)
【文献】 特開平09−316379(JP,A)
【文献】 特開2006−058867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料と、
水と、
多価アルコールと、
リンタンパク質と、
から少なくともなることを特徴とする皮膚用水性インキ。
【請求項2】
前記リンタンパク質が、脱脂粉乳、カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚用水性インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングペン、サインペンなどの筆記具や、スタンプ台、浸透印など文房具に用いられる皮膚用水性インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具、スタンプ台、浸透印に用いられる従来公知の水性染料インキは、誤ってインキが皮膚に付着してしまった場合、石鹸で洗い落とすことは容易でない。
また、水により容易、且つ完全に消去できる玩具用水消去性インキ(特開2002-129085号)の開示はあるが、ヒトの皮膚に付着した場合、水はもちろんのこと、石鹸で洗い落すことも容易でない。
【0003】
また、ノロウイルスやインフルエンザなどの感染症や食中毒を予防するために、石けんを使った丁寧な手洗いが厚生労働省から推奨されている。また、正しい手洗い試験結果(感染症予防対策情報研究サイト)によれば、手洗い前に付着していた723個の菌は、30秒間手洗いした後には98個にまで減少し、また、大手石鹸メーカーによれば、子どもの手洗いを促進させるため、オリジナルの「手洗いのうた」を用意するなど、30 秒程度石鹸で手洗いすることを推奨している。
そこで、手のひらに指標としてマーキングした印影等を、市販の石鹸を用いて30秒程度で洗い落とせるインキが求められているが、従来公知のインキでは、石鹸を用いても30秒程度で洗い落とすことができないため、手洗い練習には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−129085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであって、ヒトの皮膚に付着した場合に、石鹸によって30秒程度で容易に洗い落とすことができる皮膚用水性インキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた第1の発明の皮膚用水性インキは、染料と、水と、多価アルコールと、リンタンパク質と、から少なくともなることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、前記リンタンパク質が、脱脂粉乳、カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする第1の発明に記載の皮膚用水性インキである。
【発明の効果】
【0008】
本願発明者は鋭意研究の結果、前記課題を解決したマーキングペン、サインペン、ボールペン、スタンプ台、浸透印など文房具に用いられる皮膚用水性インキを見出した。
すなわち、染料と、水と、多価アルコールと、リンタンパク質と、から少なくともなる皮膚用水性インキを用いれば、ヒトの皮膚に付着しても、石鹸によって30秒程度で容易に洗い落とすことができる。
また、本発明の皮膚用水性インキは、手洗い練習用に用いることができる。本発明の皮膚用水性インキは、手のひらに印影等を指標としてマーキングした際、市販の石鹸を用いて30秒程度で洗い落とすことができるため、子供の手洗い練習に利用でき有用である。すなわち、外遊びから帰った子供の手には、目に見えない「ばい菌」が付着しており、ノロウイルスやインフルエンザなどの感染症や食中毒を予防するために推奨される30 秒程度の石鹸による手洗いの指標・基準として、本発明のインキを利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる染料としては、食用色素及び/又は天然色素が用いられ、食用赤色2号(C.I.Number : C.I.16185、Color Index Name : Acid Red 27)、食用赤色3号(C.I.Number : C.I.45430、Color Index Name : Acid Red 51)、食用赤色40号(C.I.Number : C.I.16035、Color Index Name : Food Red 17)、食用赤色102号(C.I.Number : C.I.16255、Color Index Name : Acid Red 18)、食用赤色104号(C.I.Number : C.I.45410、Color Index Name : Acid Red 92)、食用赤色105号(C.I.Number : C.I.45440、Color Index Name : Acid Red 94)、食用赤色106号(C.I.Number : C.I.45100、Color Index Name : Acid Red 52)、食用黄色4号(C.I.Number : C.I.19140、Color Index Name : Acid Yellow 23)、食用黄色5号(C.I.Number : C.I.15985、Color Index Name : Food Yellow 3)、食用緑色3号(C.I.Number : C.I.42053、Color Index Name : Food Green 3)、食用青色1号(C.I.Number : C.I.42090、Color Index Name : Food Blue 2)、食用青色2号(C.I.Number : C.I.73015、Color Index Name : Acid Blue 74)などの食用染料色素や、ベニコウジ色素(Monascus Color)、β-カロテン(beta-Carotene )、ラック色素(Laccaic Acid)、コチニール色素(Cochineal Extract)、パプリカ色素(Paprika Oleoresin)、ビートレッド(Beet Red)、アントシアニン色素(Anthocyanins)、クチナシ色素(Gardenia Extract)、ベニバナ色素(Carthamus Extract)、ウコン色素(Turmeric Oleoresin)、アナトー色素(Annatto Extracts)、クロロフィル(Chlorophylls)、カキ色素(Japanese Persimmon Color)、タマリンド色素(Tamarind Color)、カラメル色素(Caramel)などの天然色素を用いることができる。
他にも以下染料を用いることができる。
直接染料としては、C.I.ダイレクイトブラック 17、同19、同22、同31、同32、同38、同51、同62、同71、同74、同112、同113、同154、同168、C.I.ダイレクイトイエロー 4、同8、同11、同12、同26、同27、同28、同33、同39、同44、同50、同58、同85、同86、同87、同88、同89、同98、同100、同110、C.I.ダイレクイトレッド 1、同2、同4、同9、同11、同20、同23、同24、同31、同37、同39、同46、同62、同75、同79、同80、同81、同83、同89、同95、同197、同201、同218、同220、同224、同225、同226、同227、同228、同230、C.I.ダイレクイトブルー 1、同15、同22、同25、同41、同71、同76、同77、同80、同86、同90、同98、同106、同108、同199、同120、同158、同163、同168、同199、同226等が挙げられる。
酸性染料としては、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、48、51、同52、同107、同109、同110、同115、同119、同154、同156、C.I.アシッドイエロー 1、同3、同7、同11、同17、同23、同25、同29、同36、同38、同40、同42、同44、同49、同61、同72、同78、同110、同135、同127、同141、同142、C.I.アシッドレッド 6、同8、同9、同13、同14、同18、同26、同27、同32、同35、同37、同42、同51、同52、同57、同80、同82、同83、同87、同89、同92、同94、同106、同111、同114、同115、同129、同131、同133、同134、同138、同145、同158、同186、同198、同249、同254、同265、同276、同289、C.I.アシッドバイオレット 15、同17、C.I.アシッドブルー 1、同7、同9、同15、同22、同23、同25、同29、同40、同41、同43、同59、同62、同74、同78、同80、同83、同90、同93、同100、同102、同103、同104、同112、同113、同117、同127、同138、同158、同161、C.I.アシッドグリーン 3、同9、同16、同25、同27等が挙げられる。
塩基性染料としては、C.I.ベーシックレッド 1、同2、同9、同12、同13、同38、同39、同92、C.I.ベーシックブルー 1、同3、同7、同5、同9、同19、同24、同25、同26、同28、同45、同54、同65、C.I.ベーシックブラック 2、同8等が挙げられる。
前記染料は、1又は2以上を用いることができ、その配合量は、インキ全量に対して0.1〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましい。
【0010】
本発明に用いられる溶剤は、水及び多価アルコールとからなる混合溶剤である。
水は純水、蒸留水、精製水、水道水などが用いられる。腐敗やかびの発生の観点から精製蒸留水が好ましく用いられる。水はインキ全量に対し、9〜90重量%を用いることができる。
多価アルコールは、蒸発性、染料溶解性、にじみ防止性等を考慮して、エチレングリコール、プロプレングリコール、ブチレングリコール、ペンチルグリコール、ヘキシルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の多価アルコールを使用することができ、これらのうちのいずれかを混合して用いることもできる。多価アルコールはインキ全量に対し、9〜90重量%を用いることができる。
【0011】
また、本発明には、リンタンパク質の添加が必須となる。
リンタンパク質としては、脱脂粉乳、カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウムから選ばれる1種又は2種以上を添加することができる。これらはインキ全量に対し、0.1〜20重量%用いることが好ましく、粘度調整を勘案すると、0.5〜3%がより好ましい。
リンタンパク質を添加することにより、ヒトの皮膚に付着した場合であっても、容易に洗い落とすことができるメカニズムは明らかではないが、リンタンパク質が染料と強く結び付くことによって、ヒトの皮膚の角質層への染着が阻害されるためと思われる。
【0012】
更に、本発明には、防腐防かび剤、安定剤、粘度調整剤、界面活性剤、ph調整剤、香料などを適宜配合してもよい。
また、上記各材料は一般工業品グレードでもよいが、ヒトの皮膚に使用することを考慮すると、安全性の面から、食品添加物グレードを用いることが好ましい。
【0013】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例よって限定されるものではない。
本発明の皮膚用水性インキは、水と多価アルコールからなる溶剤中に、染料とリンタンパク質、必要に応じて各種添加剤を投入、撹拌して調整する。
【実施例】
【0014】
実施例1〜4及び比較例1〜3の浸透印用インキ配合を、表1に示す。
【0015】
実施例5〜8及び比較例4〜6のスタンプ台用インキ配合を、表2に示す。
【0016】
実施例9〜12及び比較例7〜9のサインペン用インキ配合を、表3に示す。
【0017】
また、実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行なった際の結果を各表に示す。
手洗い消去性試験
(試験方法)
実施例及び比較例のインキを含浸した、浸透印、スタンプ台、サインペンを用いて、手のひらに付着後1分間放置し、市販の石鹸(ビオレU泡ハンドソープ:花王株式会社製)にて30秒間手洗いした後の付着インキの状態を確認する。
(結果確認方法)
○:付着インキが消える。×:付着インキが残る。
【0018】
表1〜表3から明らかなように、カゼインナトリウム、カゼインを配合したインキは、石鹸を用いて30秒で洗い落とすことが確認できた。
一方、カゼインナトリウム、カゼインを配合しないインキや、キサンタンガム、ポリビニルピロリドンを配合したインキは、石鹸を用いて30秒で洗い落とすことができなかった。カゼインナトリウムやカゼインを配合しないインキは、洗い落とすのに約90秒を要し、実施例インキと比較すると約3倍の時間がかかるため、石鹸による手洗いの指標・基準とするには不向きである。
【0019】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う皮膚用水性インキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。