(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
【0013】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
【0014】
以下、ハロゲン原子、ヘテロ原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、炭素原子数1以上3以下のアルキル基、炭素原子数2以上4以下のアルキニル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環、炭素原子数3以上14以下の芳香族ヘテロ環、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基及び炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基は、何ら規定していなければ、各々次の意味である。
【0015】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0016】
ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子が挙げられる。
【0017】
炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基又はn−ヘキシル基が挙げられる。
【0018】
炭素原子数1以上5以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上5以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基又はネオペンチル基が挙げられる。
【0019】
炭素原子数1以上3以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上3以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基が挙げられる。
【0020】
炭素原子数2以上4以下のアルキニル基は、非置換である。炭素原子数2以上4以下のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基(より具体的には、プロパ−1−イン−1−イル基又はプロパ−2−イン−1−イル基)又はブチニル基(より具体的には、ブタ−1−イン−1−イル基、ブタ−1−イン−2−イル基又はブタ−2−イン−1−イル基等)が挙げられる。
【0021】
炭素原子数6以上14以下のアリール基は、非置換である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族単環炭化水素基、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合二環炭化水素基又は炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合三環炭化水素基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基又はフェナントリル基が挙げられる。
【0022】
炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環は、非置換である。炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環が挙げられる。
【0023】
炭素原子数3以上14以下の芳香族ヘテロ環は、非置換であり、1又は複数のヘテロ原子を含む。炭素原子数3以上14以下の芳香族ヘテロ環としては、例えば、単環又は多環の芳香族ヘテロ環が挙げられる。単環の芳香族ヘテロ環としては、例えば、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環又はピラジン環が挙げられる。多環の芳香族ヘテロ環としては、例えば、キノリン環、イソキノリン環、インドール環、ベンゾフラン環又はアクリジン環が挙げられる。
【0024】
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、t−ペンチルオキシ基又はn−ヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0025】
炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基又はイソプロポキシ基が挙げられる。
【0026】
<第一実施形態:電子写真感光体>
図1を参照して、第一実施形態に係る電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)の構造について説明する。
図1は、感光体1の構造を示す概略断面図である。感光体1は、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、単層型感光層である。感光層3は、導電性基体2上に直接又は間接に設けられる。例えば、
図1(a)に示すように、導電性基体2上に感光層3が直接設けられてもよい。例えば、
図1(b)に示すように、導電性基体2と感光層3との間に中間層4が設けられてもよい。また、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、感光層3が最外層として露出してもよい。
図1(c)に示すように、感光層3上に保護層5が備えられてもよい。
【0027】
第一実施形態に係る感光体1は、トナー像の転写性に優れる。その理由は以下のように推測される。
【0028】
まず、便宜上、転写性の低下について説明する。電子写真方式の画像形成装置は、例えば、像担持体(感光体)と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える。転写部は、トナー像を感光体1から記録媒体へ転写する。転写部では、トナー像とは逆極性の転写バイアスが印加される。かかる場合、感光体1の露光領域の表面電位(露光後電位)が低下すると(例えば、露光後電位が−30V未満になると)、トナー像と感光層表面3aとの間に静電引力が作用しやすくなる。そして、感光体1から記録媒体へのトナー像の転写効率が低下することがある。このようなトナー像の転写性の低下は、特に高温高湿(より具体的には、温度:32.5℃及び相対湿度:80%RH)環境下で発生し易い。
【0029】
第一実施形態に係る感光体1では、感光層3は添加剤としてカルボン酸無水物を含み、感光層3の比誘電率の変化値は1.00以上である。感光層3が添加剤としてカルボン酸無水物を含み、かつ感光層3の比誘電率の変化値が1.00以上であると、転写部で転写バイアスが印加されても、感光層3の表面電位がトナー像とは逆極性に帯電しにくくなる。かかる場合、感光層3の表面電位とトナー像との間に静電引力が作用しにくくなる。従って、第一実施形態に係る感光体1は、トナー像の転写性に優れると考えられる。
【0030】
(比誘電率の変化値)
感光層3の比誘電率の変化値は、1.00以上であり、1.60以上であることが好ましく、1.60以上7.00以下であることがより好ましい。
【0031】
感光層3の比誘電率の変化値は、感光層3を帯電し、帯電された感光層3に波長780nm及び露光量1.2μJ/cm
2の露光光を照射し、露光領域に−30μm以上−10μm以下の電流を流し込んだ際に算出される複数の比誘電率のうち、比誘電率の最大値と最小値との差で得られる。
【0032】
感光層3の比誘電率の変化値の算出方法について詳述する。感光層3の比誘電率の変化値Δε
rは、数式(1)で算出される。
比誘電率の変化値Δε
r=ε
rMAX−ε
rMIN・・・(1)
数式(1)中、ε
rMAX及びε
rMINは、感光層表面3aに印加するマイナス電流を変化させた際に、算出される複数の比誘電率ε
rのうち、それぞれ最大値及び最小値を示す。
【0033】
比誘電率ε
rは数式(2)で表される。
【0035】
数式(2)中、Qは、スコロトロン帯電部により帯電された感光層表面3aの所定の面積Sでの電荷量(ドラム電気量、単位:μC)を示す。dは、感光層3の膜厚(単位:μm)を示す。Sは、感光層表面3aの帯電された所定の面積(388.55cm
2)を示す。Vは、スコロトロン帯電部により帯電された感光層3の表面電位(帯電電位V
0)と、帯電された感光層3を露光した後、マイナス帯電した感光層3の表面電位(転写後電位V
t)との差(V
0−V
t)を示す。ε
0は真空の誘電率を示す。
【0036】
感光層3の膜厚は、膜厚測定装置(HELMUTFISCHER社製「FISCHERSCOPE(登録商標) mms(登録商標)」)を用いて測定する。測定は、温度23℃及び相対湿度50%RHで実行される。
【0037】
電荷量Qは、小形携帯用電流計・電圧計(横河メータ&インスツルメンツ株式会社製「2051型」)を用いて測定する。小型携帯電流計を評価機の高圧基板と、
図2を用いて後述するマイナス帯電ローラとの間に直列に接続し、画像形成中いつでも感光層表面3aの電荷量をモニターできる状態にして測定する。測定は、温度23℃及び相対湿度50%RHで実行される。
【0038】
帯電電位V
0及び転写後電位V
tは、
図2に示す測定装置を用いて測定する。
図2は測定装置20を示す。測定装置20は、スコロトロン帯電部10と、第一電位プローブ12と、露光ユニット14と、マイナス帯電ローラー16と、第二電位プローブ18とを備える。感光体1は、測定装置20に設置される。測定装置20では、スコロトロン帯電部10を基準として感光体1の回転方向に沿って、第一電位プローブ12と、露光ユニット14と、マイナス帯電ローラー16と、第二電位プローブ18とがそれぞれ配置される。なお、測定環境は、温度23℃及び相対湿度50%RHである。
【0039】
より具体的には、装置内の上記各部材は、下記のように配置される(始点−終点:所要時間);帯電位置A−第一測定位置B:0.092秒、第一測定位置B−露光位置C:0.092秒及び露光位置C−帯電位置D:0.084秒。
所要時間とは、感光体1が回転数109rpmで回転する場合に、感光層表面3aの特定領域が上記2点(始点から終点まで)を通過する時間を示す。
【0040】
帯電位置Aは、感光体1の回転中心Oとスコロトロン帯電部10のワイヤーWとの線分と、感光層表面3aとの交点を示す。第一測定位置Bは、第一電位プローブ12が感光層3の表面電位を測定する位置を示す。露光位置Cは、露光ユニット14が感光層表面3aに露光光を照射する位置を示す。帯電位置Dは、感光体1とマイナス帯電ローラー16との接点を示す。第二測定位置Eは、第二電位プローブ18が感光層3の表面電位を測定する位置を示す。
【0041】
スコロトロン帯電部10は、感光層表面3aを正極性に帯電する。ワイヤーWの流れ込み電流は、180μAである。グリッド電圧は、540Vである。第一電位プローブ12(Monroe Electronics社製「MODEL1017AS」)は、帯電後の感光層3の表面電位を測定する。露光ユニット14は、帯電した感光層表面3aを露光する。露光光の波長は780nmである。露光光の露光量は、1.2μJ/m
2である。マイナス帯電ローラー16は、感光層表面3aをマイナスに帯電する。流れ込み電流は、−30μA以上−10μA以下である。第二電位プローブ18(Monroe Electronics社製「MODEL1017AS」)は、マイナス帯電後の感光層3の表面電位を測定する。
【0042】
帯電電位V
0及び転写後電位V
tは、第一工程と、第二工程と、第三工程とを経た後の帯電電位及び転写後電位を測定して得る。第一工程は、感光体1が1回転(1周)する間に、スコロトロン帯電部10による帯電のみを実施し、感光体1を5周する工程である。第二工程は、第一工程の後に、感光体1が1周する間に、スコロトロン帯電部10による感光層表面3aの帯電と、露光ユニット14による帯電された感光層表面3aの露光とを実施し、感光体1を10周する工程である。第三工程は、第二工程の後に、感光体1が1周する間に、スコロトロン帯電部10による感光層表面3aの帯電と、露光ユニット14による帯電された感光層表面3aの露光と、マイナス帯電ローラーによる露光された感光層表面3aのマイナス帯電とを実施し、感光体1を5周する工程である。
【0043】
第一工程〜第三工程を経た後の帯電電位は、スコロトロン帯電部10で感光層表面3aを正極性に帯電した後、第一電位プローブ12で測定される。ワイヤーの流れ込み電流は、180μAである。グリッド電圧は、540Vである。
【0044】
第一工程〜第三工程を経た後の露光後電位は、感光層表面3aを、スコロトロン帯電部10により帯電し、露光ユニット14により露光し、マイナス帯電ローラー16によりマイナス帯電した後、第二電位プローブ18で測定される。露光光の波長は780nmである。露光光の露光量は、1.2μJ/m
2である。
【0045】
マイナス帯電における印加電流(−10μA、−15μA、−20μA、−25μA及び−30μA)を変化させ、それぞれの印加電流における帯電電位V
0及び転写後電位V
tを測定する。
【0046】
[導電性基体]
導電性基体2は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む。導電性基体2がアルミニウム又はアルミニウム合金を含有することにより、感光層3から導電性基体2への電荷の移動が向上する傾向がある。アルミニウム合金は、アルミニウムとアルミニウム以外の元素との合金である。アルミニウム以外の元素としては、例えば、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、又は亜鉛(Zn)が挙げられる。アルミニウム合金は、アルミニウム以外の元素として、これらの元素のうち1種を単独で含んでもよく、2種以上含んでもよい。アルミニウム合金としては、例えば、Al−Mn系合金(JIS3000番系)、Al−Mg系合金(JIS5000番系)、又はAl−Mg−Si系合金(JIS6000番系)が挙げられる。
【0047】
導電性基体2は、その表面にアルミニウムの酸化膜又はアルミニウム合金の酸化膜を有してもよい。アルミニウムの酸化膜又はアルミニウム合金の酸化膜は、例えば、導電性基体2の表面を酸化処理することにより形成される。
【0048】
導電性基体2の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができる。導電性基体2の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体2の厚みは、導電性基体2の形状に応じて、適宜選択することができる。
【0049】
[感光層]
感光層3は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂と、添加剤とを含む。添加剤は、カルボン酸無水物を含む。感光層3は、必要に応じて、カルボン酸無水物以外の添加剤を含んでもよい。以下、カルボン酸無水物、電荷発生剤、電子輸送剤、正孔輸送剤、バインダー樹脂及び添加剤(カルボン酸無水物以外の添加剤)を説明する。
【0050】
(カルボン酸無水物)
カルボン酸無水物としては、例えば、一般式(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるカルボン酸無水物が挙げられる(以下、それぞれカルボン酸無水物(1)〜(5)と記載することがある)。
【0052】
一般式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立に、ハロゲン原子を1又は複数有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。R
1及びR
2は、互いに同一であっても異なってもよい。
【0053】
一般式(2)、(3)、(4)及び(5)中、環Y
2、環Y
3、環Y
4A、環Y
4B、環Y
5A及び環Y
5Bは、各々独立に、環員数5以上7以下の単環の非芳香族ヘテロ環を表す。非芳香族ヘテロ環は、環員原子として縮合したカルボキシル基の2つの炭素原子と1つの酸素原子とを含む。非芳香族ヘテロ環は、酸素原子以外に環員原子として1又は複数のヘテロ原子を更に含んでもよい。環Y
2の表す非芳香族ヘテロ環は、1又は複数の第一置換基を有する。
【0054】
環Y
3、環Y
4A、環Y
4B、環Y
5A及び環Y
5Bの表す非芳香族ヘテロ環は、各々独立に、1又は複数の第二置換基を有してもよい。第一置換基及び第二置換基は、各々独立に、ハロゲン原子又は炭素原子数6以上14以下のアリール基である。環Y
4A及び環Y
4Bは、互いに同一であっても異なってもよい。環Y
5A及び環Y
5Bは、互いに同一であっても異なってもよい。
【0055】
環Z
3、環Z
4、環Z
5A及び環Z
5Bは、単環又は多環であって、それぞれ環Y
3、環Y
4A及びY
4B環、環Y
5A並びにY
5Bに縮合した1若しくは複数の炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環又は炭素原子数3以上14以下の芳香族ヘテロ環である。環Z
3、環Z
4、環Z
5A及び環Z
5Bは、1又は複数の第四置換基を有してもよい。ただし、環Z
3が芳香族ヘテロ環である場合、環Z
3は、第四置換基を有する。第四置換基は、炭素原子数6以上14以下のアリール基を有してもよい炭素原子数2以上4以下のアルキニル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、カルボキシル基、ハロゲン原子又はニトロ基を表す。
【0056】
Xは、第三置換基を1若しくは複数有してもよいメチレン基、カルボニル基、スルホニル基、単結合、化学式(5−1)で表される二価の基又は酸素原子を表す。第三置換基は、ハロゲン原子を1又は複数有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。なお、化学式(5−1)中のアルタリスクは、結合部位を示す。
【0058】
一般式(4)及び(5)中、環Y
4A、環Y
4B、環Y
5A及び環Y
5Bの表す非芳香族ヘテロ環は、環員原子として2つの炭素原子と1つの酸素原子とを含む。すなわち、非芳香族ヘテロ環は、環員数5以上7以下のシクロアルキル環の環員原子である3つの炭素原子を2つの炭素原子及び1つの酸素原子に置き換えた環である。環員数5以上7以下の単環のシクロアルキル環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環又はシクロヘプタン環が挙げられる。
【0059】
非芳香族ヘテロ環が有する2つの炭素原子及び1つの酸素原子とは、縮合したカルボキシル基の2つの炭素原子及び1つの酸素原子であり、化学式(5−3)で表されるカルボキシル基が縮合した部位の原子である。具体的には、化学式(5−3)中、破線の円で示す炭素原子及び酸素原子である。非芳香族ヘテロ環は、化学式(5−3)中の酸素原子以外に環員原子として1又は複数のヘテロ原子(より具体的には、窒素原子等)を更に含んでもよい。
【0061】
環Z
4は、環Y
4A及び環Y
4Bと縮合した1若しくは複数の炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環又は炭素原子数3以上14以下の芳香族ヘテロ環であり、1の炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環であることが好ましい。環Y
4A及び環Y
4Bが環Z
4と縮合する部位は、二重結合であってもよい。
【0062】
環Z
5A及び環Z
5Bは、それぞれ環Y
5A及び環Y
5Bに縮合した1若しくは複数の炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環又は炭素原子数3以上14以下の芳香族ヘテロ環であり、1の炭素原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環であることが好ましい。環Y
5Aが環Z
5Aと縮合する部位は、二重結合であってもよい。環Y
5Bが環Z
5Bと縮合する部位は、二重結合であってもよい。
【0063】
Xは、第三置換基を2つ有するメチレン基、カルボニル基、スルホニル基、単結合、化学式(5−1)で表される二価の基又は酸素原子を表すことが好ましい。第三置換基は、ハロゲン原子を2つ有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基、ハロゲン原子を複数有する炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことがより好ましく、フッ素原子を複数有するメチル基を表すことが更に好ましい。なお、化学式(5−1)で表される二価の置換基において、アルタリスクで示される部分が結合部位を示す。
【0064】
一般式(4)中、環Y
4A及び環Y
4Bは環員数5又は6の非芳香族ヘテロ環を表し、環Z
4はベンゼン環又はナフタレン環を表すことが好ましい。
【0065】
カルボン酸無水物(4)としては、例えば、化学式(ADD−1)、(ADD−2)又は(ADD−5)で表されるカルボン酸無水物(以下、それぞれカルボン酸無水物(ADD−1)、(ADD−2)及び(ADD−5)と記載することがある)が挙げられる。
【0067】
一般式(5)中、環Y
5A及び環Y
5Bは、環員数5の非芳香族ヘテロ環を表し、環Z
5A及び環Z
5Bは1つのベンゼン環を表し、Xは第三置換基を2つ有するメチレン基又は単結合を表し、第三置換基はフッ素原子を複数有する炭素原子数1以上3以下のアルキル基(より具体的には、トリフルオロメチル基等)を表すことが好ましい。
【0068】
カルボン酸無水物(5)は、一般式(5−2)で表されるカルボン酸無水物(以下、カルボン酸無水物(5−2)と記載することがある)が挙げられる。
【0070】
一般式(5−2)中、X
5は、第三置換基を2つ有するメチレン基又は単結合を表す。第三置換基は、フッ素原子を複数有する炭素原子数1以上3以下のアルキル基(より具体的には、トリフルオロメチル基等)を表す。
【0071】
カルボン酸無水物(5)としては、例えば、化学式(ADD−3)及び(ADD−4)で表されるカルボン酸無水物(以下、それぞれカルボン酸無水物(ADD−3)及び(ADD−4)と記載することがある)が挙げられる。
【0073】
トナー像の転写性を更に向上させる観点から、カルボン酸無水物(1)〜(5)のうち、カルボン酸無水物(4)及び(5)が好ましい。一般式(4)中、環Y
4A及び前記環Y
4Bは環員数5又は6の非芳香族ヘテロ環を表し、環Z
4はベンゼン環又はナフタレン環を表し、一般式(5)で表されるカルボン酸無水物は、一般式(5−2)で表され、一般式(5−2)中、X
5は第三置換基を2つ有するメチレン基又は単結合を表し、第三置換基はフッ素原子を複数有する炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことがより好ましい。
【0074】
カルボン酸無水物の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して0.20質量部以上7.00質量部以下が好ましく、0.50質量部以上5.00質量部以下が更に好ましい。
【0075】
(電荷発生剤)
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(より具体的には、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム又はアモルファスシリコン等)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料又はキナクリドン系顔料が挙げられる。
【0076】
フタロシアニン系顔料としては、例えば、化学式(CGM−1)で表される無金属フタロシアニン又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(CGM−2)で表されるチタニルフタロシアニン又は酸化チタン以外の金属が配位したフタロシアニン(より具体的には、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン等)が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型又はY型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
【0079】
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶又はY型結晶が挙げられる。感光層が添加剤としてカルボン酸無水物を含む場合、電荷発生剤は無金属フタロシアニンであることが好ましい。
【0080】
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。デジタル光学式の画像形成装置としては、例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、レーザービームプリンター又はファクシミリが挙げられる。デジタル光学式の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体1を用いることが好ましい。そのため、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニンがより好ましい。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
短波長レーザー光源を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料又はペリレン系顔料が好適に用いられる。短波長レーザーの波長としては、例えば、350nm以上550nm以下の範囲に含まれる波長が挙げられる。
【0082】
電荷発生剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0083】
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤としては、例えば、トリフェニルアミン誘導体;ジアミン誘導体(より具体的には、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニル−p−ターフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、ジ(アミノフェニルエテニル)ベンゼン誘導体又はN,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体等);オキサジアゾール系化合物(より具体的には、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等);スチリル系化合物(より具体的には、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等);カルバゾール系化合物(より具体的には、ポリビニルカルバゾール等);有機ポリシラン化合物;ピラゾリン系化合物(より具体的には、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等);ヒドラゾン系化合物;インドール系化合物;オキサゾール系化合物;イソオキサゾール系化合物;チアゾール系化合物;チアジアゾール系化合物;イミダゾール系化合物;ピラゾール系化合物;又はトリアゾール系化合物が挙げられる。これらの正孔輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの正孔輸送剤のうち、一般式(HTM)で表される化合物がより好ましい。
【0085】
一般式(HTM)中、R
11、R
12、R
13及びR
14は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を表す。a11、a12、a13及びa14は、各々独立に、0以上5以下の整数を表す。a11、a12、a13及びa14の全てが0ではない。a11が2以上5以下の整数を表す場合、複数のR
11は互いに同一であっても異なってもよい。a12が2以上5以下の整数を表す場合、複数のR
12は互いに同一であっても異なってもよい。a13が2以上5以下の整数を表す場合、複数のR
13は互いに同一であっても異なってもよい。a14が2以上5以下の整数を表す場合、複数のR
14は互いに同一であっても異なってもよい。
【0086】
一般式(HTM)中、R
11、R
12、R
13及びR
14で表される炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。a11、a12、a13及びa14は、各々独立に、0又は1を表すことが好ましく、a11及びa13が1を表しa12及びa14が0を表すこと、又はa11及びa13が0を表しa12及びa14が1を表すことがより好ましい。
【0087】
一般式(HTM)で表される正孔輸送剤としては、例えば、化学式(HTM−1)で表される化合物(以下、正孔輸送剤(HTM−1)と記載することがある)が挙げられる。
【0089】
正孔輸送剤の合計含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0090】
トナー像の転写性を更に向上させる観点から、正孔輸送剤の含有比率は、感光層の質量に対して25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい。
【0091】
(電子輸送剤)
電子輸送剤としては、例えば、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの電子輸送剤のうち、一般式(ETM)で表される化合物が好ましい。
【0093】
一般式(ETM)中、R
21及びR
22は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は水素原子を表す。R
23及びR
24は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。b23及びb24は、各々独立に、0以上4以下の整数を表す。b23が2以上4以下の整数を表す場合、複数のR
23は互いに同一であっても異なってもよい。b24が2以上4以下の整数を表す場合、複数のR
24は互いに同一であっても異なってもよい。
【0094】
一般式(ETM)中、R
21及びR
22は、炭素原子数1以上5以下のアルキル基を表すことが好ましく、2−メチル−2−ブチル基を表すことがより好ましい。b23及びb24は、0を表すことが好ましい。
【0095】
一般式(ETM)で表される電子輸送剤としては、化学式(ETM−1)で表される化合物(以下、電子輸送剤(ETM−1)と記載することがある)が挙げられる。
【0097】
電子輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
【0098】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂又はポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂又はその他の架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリル酸樹脂又はウレタン−アクリル酸共重合体が挙げられる。これらの別の樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0099】
これらのバインダー樹脂の中では、ポリカーボネート樹脂が好ましい。バインダー樹脂がポリカーボネート樹脂であると、加工性、機械的強度、光学的特性及び耐摩耗性のバランスに優れた感光層が得られ易い。感光体によるトナー像の転写性を向上させ易いことから、ポリカーボネート樹脂のなかでは、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCZ型ポリカーボネート樹脂又はビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂が好ましく、化学式(Z)、(C)又は(CZ)で表される樹脂がより好ましい。化学式(Z)、(C)及び(CZ)中、繰り返し単位の添え字は、樹脂中の繰り返し単位の総モル数に対する、添え字が付された繰り返し単位のモル分率を示す。
【0103】
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、40,000以上であることが好ましく、40,000以上52,500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が40,000以上であると、感光体の耐摩耗性を向上させ易い。また、バインダー樹脂の粘度平均分子量が52,500以下であると、感光層3の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、感光層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層3を形成し易くなる。
【0104】
(カルボン酸無水物(1)〜(5)以外の添加剤)
カルボン酸無水物(1)〜(5)以外の添加剤としては、例えば、劣化防止剤(より具体的には、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、消光剤又は紫外線吸収剤等)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤又はレベリング剤が挙げられる。
【0105】
[中間層]
中間層4(特に、下引き層)は、例えば、感光層3において導電性基体2と感光層3との間に位置する。中間層4は、例えば、無機粒子及び樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層4の存在により、電流リークの発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持すると考えられる。また、中間層4の存在により、感光体1を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
【0106】
無機粒子としては、例えば、金属(より具体的には、アルミニウム、鉄又は銅等)の粒子、金属酸化物(より具体的には、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ又は酸化亜鉛等)の粒子又は非金属酸化物(より具体的には、シリカ等)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0107】
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いることができる樹脂である限り、特に限定されない。
【0108】
中間層4は、感光体1の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層3の添加剤と同様である。
【0109】
[感光体の製造方法]
図1を参照して、感光体1の製造方法について説明する。感光体1の製造方法は、感光層形成工程を含む。以下、感光層形成工程を説明する。
【0110】
(感光層形成工程)
感光層形成工程では、導電性基体2上に感光層用塗布液(以下、塗布液と記載することがある)を塗布して、塗布膜を形成する。塗布膜に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去して、感光層3を形成する。感光層形成工程は、例えば、塗布液調製工程と、塗布工程と、乾燥工程とを含む。以下、塗布液調製工程、塗布工程及び乾燥工程を説明する。
【0111】
(塗布液調製工程)
塗布液調製工程では、塗布液を調製する。塗布液は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂と、添加剤としてのカルボン酸無水物と、溶剤とを少なくとも含む。塗布液には、必要に応じて他の添加剤を含んでもよい。塗布液は、例えば、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂と、添加剤としてのカルボン酸無水物と、任意の成分とを、溶剤に溶解又は分散させることにより調製することができる。
【0112】
塗布液に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できれば、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はブタノール等)、脂肪族炭化水素(より具体的には、n−ヘキサン、オクタン又はシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(より具体的には、ベンゼン、トルエン又はキシレン等)、ハロゲン化炭化水素(より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素又はクロロベンゼン等)、エーテル(より具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル又はジエチレングリコールジメチルエーテル等)、ケトン(より具体的には、アセトン、メチルエチルケトン又はシクロヘキサノン等)、エステル(より具体的には、酢酸エチル又は酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤のうち、非ハロゲン溶剤が好ましい。
【0113】
塗布液は、各成分を混合し、溶剤に溶解又は分散することにより調製される。混合、溶解又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー又は超音波分散器を用いることができる。
【0114】
塗布液は、各成分の分散性又は形成される各々の層の表面平滑性を向上させるために、例えば、界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
【0115】
(塗布工程)
塗布工程では、塗布液を導電性基体2上に塗布し、塗布膜を形成する。塗布液を塗布する方法としては、例えば、導電性基体2上に均一に塗布液を塗布できる方法であれば、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法又はバーコート法が挙げられる。
【0116】
感光層3の厚さを所望の値に調整し易いことから、塗布液を塗布する方法としては、ディップコート法が好ましい。塗布工程がディップコート法によって行われる場合、塗布工程では、導電性基体2を、塗布液に浸漬する。続いて、浸漬した導電性基体2を塗布液から引き上げる。これにより、導電性基体2に塗布液が塗布される。
【0117】
(乾燥工程)
乾燥工程では、塗布膜に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去する。塗布膜に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去する方法としては、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る方法であれば、特に制限されない。除去する方法としては、例えば、加熱、減圧又は加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
【0118】
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて、中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程の一方又は両方を更に含んでいてもよい。中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
【0119】
<第二実施形態:画像形成装置>
図3を参照して、第二実施形態に係る画像形成装置の一態様を説明する。
図3は、第二実施形態に係る画像形成装置の一例を示す図である。第二実施形態に係る画像形成装置90は、画像形成ユニット40を含む。画像形成ユニット40は、像担持体30と、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とを備える。像担持体30は、第一実施形態に係る感光体である。帯電部42は、像担持体30の表面を帯電する。帯電部42の帯電極性は、正極性である。露光部44は、帯電された像担持体30の表面を露光して、像担持体30の表面に静電潜像を形成する。現像部46は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部48は、トナー像を像担持体30の表面から記録媒体Mへ転写する。以上、第二実施形態に係る画像形成装置90の概要を記載した。
【0120】
第二実施形態に係る画像形成装置90は、トナー像の転写性に優れる画像を形成することができる。その理由は以下のように考えられる。第一実施形態で述べたように、第一実施形態に係る感光体は優れたトナー像の転写性に優れる。そのため、第二実施形態に係る画像形成装置90は像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備えることにより、トナー像の転写性に優れる。以下、画像不良の一例として、トナー像の転写性の低下に起因する画像不良について説明する。
【0121】
以下、
図3及び
図4を参照して、画像不良が発生した画像を更に説明する。
図4は、感光体によるトナー像の転写性の低下に起因する画像不良が発生した画像を示す模式図である。画像100は、領域102、領域104及び領域106を有する。領域102、領域104及び領域106は、それぞれ像担持体30の1周分に相当する領域である。領域102の画像108は長方形のソリッド画像(画像濃度100%)を含む。領域104及び領域106は、それぞれ設計画像上全面白紙画像(画像濃度0%)からなる。記録媒体の搬送される方向a(搬送方向a)に沿って、はじめに領域102の画像108を形成し、その後、領域104の白紙画像を形成し、最後に領域106の白紙画像を形成する。領域104の白紙画像は、像担持体30の次周回1周分に相当する画像である。すなわち、領域104の白紙画像は、画像108を形成する像担持体30の1周目(以下、基準周と記載することがある)を基準として2周目の像担持体30の1周分に相当する画像である。領域106の白紙画像は、像担持体30の次々周回1周分に相当する画像であり、画像108を形成する像担持体30の基準周から3周目の像担持体30の1周分に相当する画像である。
【0122】
領域104の領域110の白紙画像は、像担持体30の基準周から2周目における画像108に対応する画像である。領域106の領域112の白紙画像は、像担持体30の基準周から3周目における画像108に対応する画像である。この場合において、画像108を反映した画像が、画像不良として領域110及び/又は領域112に形成される。このように像担持体30によるトナー像の転写性の低下に起因する画像不良は、像担持体30の周長を単位とする周期で発生する。画像108を反映した画像は、記録媒体の両端部に形成され易い。これは、記録媒体の両端部への押圧力が比較的強いことが理由と考えられる。ここで、記録媒体の両端部とは、例えば、記録媒体の領域110における垂直方向bの両端部(領域110L及び領域110R)であり、領域112における垂直方向bの両端部(領域112L及び領域112R)である。
【0123】
以下、
図3に戻り、第二実施形態に係る画像形成装置90の各部を詳細に説明する。画像形成装置90は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置90は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。画像形成装置90がカラー画像形成装置である場合、画像形成装置90は、例えば、タンデム方式を採用する。以下、タンデム方式の画像形成装置90を例に挙げて説明する。
【0124】
画像形成装置90は、直接転写方式を採用する。通常、直接転写方式を採用する画像形成装置では、トナー像の転写性が低下し易く、転写性の低下に起因する画像不良が発生し易い。しかし、第二実施形態に係る画像形成装置90は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、トナー像の転写性に優れる。よって、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備えると、画像形成装置90が直接転写方式を採用する場合であっても、トナー像の転写性の低下に起因する画像不良の発生を抑制できると考えられる。
【0125】
画像形成装置90は、搬送ベルト50と、定着部52とを更に備える。
【0126】
画像形成ユニット40は、画像を形成する。画像形成ユニット40は、色ごとの画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dから構成されてもよい。画像形成ユニット40a〜40dの各々によって、搬送ベルト50上の記録媒体Mに、複数色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色)のトナー像が順に重ねられる。なお、画像形成装置90がモノクロ画像形成装置である場合には、画像形成装置90は、画像形成ユニット40aを備え、画像形成ユニット40b〜40dは省略される。
【0127】
画像形成ユニット40は、クリーニング部(不図示)を更に備えることができる。クリーニング部としては、例えば、クリーニングブレードが挙げられる。画像形成ユニット40の中央位置に、像担持体30が設けられる。像担持体30は、矢符方向(反時計回り)に回転可能に設けられる。像担持体30の周囲には、帯電部42を基準として像担持体30の回転方向の上流側から順に、帯電部42、露光部44、現像部46及び転写部48が設けられる。なお、画像形成ユニット40には、除電部(不図示)が更に備えられてもよい。
【0128】
帯電部42は、帯電ローラーである。帯電ローラーは、像担持体30の表面と接触しながら像担持体30の表面を帯電する。帯電部42が印加する電圧は、特に限定されない。帯電部42が印加する電圧としては、直流電圧、交流電圧、又は重畳電圧(直流電圧に交流電圧が重畳した電圧)が挙げられ、より好ましくは直流電圧が挙げられる。直流電圧は交流電圧又は重畳電圧に比べ、以下に示す優位性がある。帯電部42が直流電圧のみを印加すると、像担持体30に印加される電圧値が一定であるため、像担持体30の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部42が直流電圧のみを印加すると、感光層の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができる。
【0129】
露光部44は、帯電された像担持体30の表面を露光する。これにより、像担持体30の表面に静電潜像が形成される。静電潜像は、画像形成装置90に入力された画像データに基づいて形成される。
【0130】
現像部46は、静電潜像をトナー像として現像する。また、現像部46は、像担持体30の表面を清掃することができる。すなわち、第二実施形態に係る画像形成装置90は、ブレードクリーナーレス方式を採用することができる。ブレードクリーナーレス方式を採用する画像形成装置では、通常、トナー像の転写性が低下し易く、転写性の低下に起因する画像不良が発生し易い。しかし、第二実施形態に係る画像形成装置90は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。このため、第二実施形態に係る感光体は、ブレードクリーナーレス方式を採用しても、トナー像の転写性の低下に起因する画像不良の発生を抑制することができる。
【0131】
現像部46が像担持体30の表面を効率的に清掃するためには、以下に示す条件(1)及び条件(2)を満たすことが好ましい。
条件(1):接触現像方式を採用し、像担持体30と現像ローラーとで周速差を設ける。
条件(2):像担持体30の表面電位と現像バイアスの電位との差が以下の数式(2−1)及び数式(2−2)を満たす。
0(V)<現像バイアスの電位(V)<像担持体30の未露光領域の表面電位(V)・・・数式(2−1)
現像バイアスの電位(V)>像担持体30の露光領域の表面電位(V)>0(V)・・・数式(2−2)
数式(2−1)中、像担持体30の未露光領域の表面電位(V)は、露光部44により露光されなかった像担持体30の未露光領域の表面電位である。数式(2−2)中、像担持体30の露光領域の表面電位(V)は、露光部44により露光された像担持体30の露光領域の表面電位である。なお、像担持体30の未露光領域の表面電位及び露光領域の表面電位は、転写部48がトナー像を像担持体30から記録媒体Mへ転写した後、帯電部42が次周回の像担持体30の表面を帯電する前に測定される。
【0132】
条件(1)に示す接触現像方式を採用し、像担持体30と現像ローラーとで周速差が設けられていると、像担持体30の表面は現像ローラーと接触し、像担持体30の表面の残留成分が現像ローラーとの摩擦により除去される。第二実施形態に係る画像形成装置90は、接触現像方式を採用することができる。接触現像方式を採用する画像形成装置90では、現像部46は、像担持体30の表面と接触しながら静電潜像をトナー像として現像する。
【0133】
像担持体30の回転速度は、120mm/秒以上350mm/秒以下であることが好ましい。現像ローラーの回転速度は、133mm/秒以上700mm/秒以下であることが好ましい。また、像担持体30の回転速度V
Pと現像ローラーの回転速度V
Dとの比率は、数式(1−1)を満たすことが好ましい。この比率が1以外である場合、像担持体30と現像ローラーとで周速差が設けられていることを示す。
0.5≦V
P/V
D≦0.8・・・数式(1−1)
【0134】
条件(2)では、トナーの帯電極性は正帯電性であり、現像方式は反転現像方式である場合を例として説明する。条件(2)に示す現像バイアスの電位と像担持体30の表面電位との間に差を設けると、未露光領域では、像担持体30の表面電位(帯電電位)と現像バイアスの電位とが数式(2−1)を満たすため、残留したトナー(以下、残留トナーと記載することがある)と像担持体30の未露光領域との間に作用する静電的斥力が、残留トナーと現像ローラーとの間に作用する静電的斥力に比べ大きくなる。このため、残留トナーは、像担持体30の表面から現像ローラーへと移動し、回収される。トナーは、像担持体30の未露光領域に付着しにくい。
【0135】
条件(2)に示す現像バイアスの電位と像担持体30の表面電位との間に差を設けると、露光領域では、像担持体30の表面電位(露光後電位)と現像バイアスの電位とが数式(2−2)を満たすため、残留トナーと像担持体30の露光領域との間に作用する静電的斥力がトナーと現像ローラーとの間に作用する静電的斥力に比べ小さくなる。このため、像担持体30の表面の残留トナーは、像担持体30の表面に保持される。トナーは、像担持体30の露光領域に付着する。
【0136】
現像バイアスの電位は、例えば、+250V以上+400V以下である。像担持体30の帯電電位は、例えば、+450V以上+900V以下である。像担持体30の露光後電位は、例えば、+50V以上+200V以下である。現像バイアスの電位と像担持体30の帯電電位との差は、例えば、+100V以上+700V以下である。現像バイアスの電位と像担持体30の露光後電位との差は、例えば、+150V以上+300V以下である。ここで、電位差は、差の絶対値を示す。このような電位差を設ける条件は、例えば、「現像バイアスの電位+330V」、「像担持体30の帯電電位+600V」及び「像担持体30の露光後電位+100V」である。
【0137】
転写部48は、転写ローラーである。転写ローラーは、現像部46によって現像されたトナー像を、像担持体30の表面から記録媒体Mへ転写する。像担持体30から記録媒体Mにトナー像が転写されるときに、像担持体30は記録媒体Mと接触している。
【0138】
搬送ベルト50は、記録媒体Mが像担持体30と転写部48との間を通過するように、記録媒体Mを搬送する。搬送ベルト50は、無端状のベルトである。搬送ベルト50は、矢符方向(時計回り)に回転可能に設けられる。
【0139】
定着部52は、転写部48によって記録媒体Mに転写された未定着のトナー像を、加熱及び/又は加圧により定着させる。その結果、記録媒体Mが画像に形成される。定着部52としては、例えば、加熱ローラー及び/又は加圧ローラーが挙げられる。
【0140】
<第三実施形態:プロセスカートリッジ>
第三実施形態はプロセスカートリッジに関する。第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、第一実施形態に係る感光体を備える。引き続き、
図3を参照して、第三実施形態に係るプロセスカートリッジを説明する。
【0141】
プロセスカートリッジは、ユニット化された像担持体を備える。プロセスカートリッジは、像担持体30に加えて、帯電部42、露光部44、現像部46及び転写部48からなる群より選択される少なくとも1つをユニット化した構成が採用される。プロセスカートリッジは、例えば、画像形成ユニット40a〜40dの各々に相当する。プロセスカートリッジには、クリーニング部又は除電器(不図示)が更に備えられてもよい。プロセスカートリッジは、画像形成装置90に対して着脱自在に設計される。そのため、プロセスカートリッジは取り扱いが容易であり、像担持体30のトナー像の転写性が劣化した場合に、像担持体30を含めて容易かつ迅速に交換することができる。
【実施例】
【0142】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0143】
[感光体の材料]
感光体の感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤及びバインダー樹脂を準備した。
【0144】
電荷発生剤として、化合物(CGM−1X)を準備した。化合物(CGM−1X)は、第一実施形態で述べた化学式(CGM−1)で表される無金属フタロシアニンであった。更に化合物(CGM−1X)の結晶構造はX型であった。
【0145】
第一実施形態で説明した正孔輸送剤(HTM−1)及び電子輸送剤(ETM−1)を準備した。
【0146】
添加剤(ADD−6)及び(ADD−7)及び第一実施形態で説明したカルボン酸無水物(ADD−1)〜(ADD−5)を準備した。添加剤(ADD−6)及び(ADD−7)は、それぞれ、化学式(ADD−6)及び(ADD−7)で表される。
【0147】
【化16】
【0148】
バインダー樹脂として、ポリカーボネート樹脂(Za)を準備した。ポリカーボネート樹脂(Za)は、第一実施形態で説明した化学式(Z)で表されるポリカーボネート樹脂であった。
【0149】
[感光体の製造]
準備した感光体の感光層を形成するための材料を用いて、感光体(A−1)〜(A−9)及び感光体(B−1)〜(B−4)を製造した。
【0150】
(感光体(A−1)の製造)
まず、導電性基体を準備した。この導電性基体は、直径160mm、長さ365mm及び厚さ2mmのアルミニウム製の導電性基体であった。
【0151】
塗布液を調製した。電荷発生剤としての化合物(CGM−1X)2.0質量部と、正孔輸送剤(HTM−1)45質量部と、電子輸送剤(ETM−1)30質量部と、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(Za)100質量部と、添加剤としてのカルボン酸無水物(ADD−1)0.1質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン800質量部とを容器内に投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて50時間混合して分散し、塗布液を得た。正孔輸送剤の含有比率は、固形分(化合物(CGM−1X)、正孔輸送剤(HTM−1)、電子輸送剤(ETM−1)、ポリカーボネート樹脂(Za)及びカルボン酸無水物(ADD−1))の質量に対して25質量%であった。
【0152】
次に、ディップコート法を用いて、導電性基体上に塗布液を塗布し、導電性基体上に塗布膜を形成した。詳しくは、導電性基体を、塗布液に浸漬させた。次いで、浸漬した導電性基体を塗布液から引き上げた。これにより、導電性基体に塗布液を塗布し、塗布膜を形成した。
【0153】
次に、塗布膜を形成した導電性基体を、100℃で40分間、熱風により乾燥させた。これにより、塗布膜に含有される溶剤(テトラヒドロフラン)を除去した。その結果、導電性基体上に、感光層が形成された。これにより、感光体(A−1)が得られた。
【0154】
(感光体(A−2)〜(A−9)及び感光体(B−1)〜(B−4)の製造)
以下の点を変更した以外は、感光体(A−1)の製造と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−9)及び感光体(B−1)〜(B−4)を製造した。
【0155】
感光体(A−1)の製造において、塗布液の調整に使用した添加剤としてのカルボン酸無水物(ADD−1)から、表4に示す種類の添加剤に変更した。また、感光層の質量に対する正孔輸送剤の含有比率25質量%を表4に示す含有比率に変更した。比誘電率の変化値から、表4に示す比誘電率の変化値に変更した。
【0156】
(感光層の比誘電率の変化値)
感光層の比誘電率の変化値は、第一実施形態で説明した方法で算出した。詳しくは、第一実施形態で説明した方法及び条件で、マイナス電流を変化させてマイナス電流ごとの感光層表面の電荷量Qを測定した。表1に感光層表面の電荷量Qを示す。
【0157】
【表1】
【0158】
第一実施形態で説明した方法及び条件で、帯電電位V
0及び転写後電位V
tを測定し、それらの電位の差(V
0−V
t)を算出した。表2に電位差(V
0−V
t)を示す。
【0159】
【表2】
【0160】
第一実施形態で説明した方法及び条件で、感光層の膜厚を測定した。表3に感光層の膜厚を示す。
【0161】
【表3】
【0162】
得られた電荷量Q及び電位差(V
0−V
t)から数式(2)を用いて、比誘電率ε
rを算出した。表4に比誘電率ε
rを示す。
【0163】
(感光体によるトナー像の転写性評価)
感光体を評価機に搭載した。評価機として、プリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−1300D」、半導体レーザーによる乾式電子写真方式のプリンター)を使用した。評価機は、帯電ローラーを帯電部として備えていた。帯電ローラーには直流電圧が印加されていた。評価機は、直接転写方式の転写部(転写ローラー)を備えていた。評価機は、接触現像方式の現像部を備えていた。評価機には、クリーニングブレードは備えられていなかった。評価機の現像部は、像担持体の表面を清掃することのできるものであった。転写性評価には、用紙として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社販売「京セラドキュメントソリューションズブランド紙VM−A4(A4サイズ)」を使用した。転写性評価には、トナーとして、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TK−131」を使用した。転写性評価の測定は、高温高湿(温度:32.5℃及び相対湿度:80%RH)環境下で行われた。
【0164】
感光体を搭載した評価機とトナーとを用いて、用紙に評価用画像を形成した。評価用画像の詳細は、
図5を参照して後述する。画像形成条件を、線速165mm/秒に設定した。転写ローラーが感光体に印加する電流を、−25μAに設定した。
【0165】
次いで、得られた画像を目視で確認し、領域210及び領域212に画像208に対応した画像の有無を確認した。得られた目視による観察結果から、下記の評価基準に従い感光体によるトナー像の転写性を評価した。評価A(非常に良い)及び評価B(良い)を合格とした。表4の欄「転写性」に評価結果を示す。
【0166】
図5を参照して、評価用画像を説明する。
図5は、評価用画像を示す模式図である。評価用画像200は、領域202、領域204及び領域206を含む。領域202は、像担持体の1周分に相当する領域である。領域202の画像208は、ソリッド画像(画像濃度100%)のみから構成される。このソリッド画像は、長方形の形状を有していた。領域204及び領域206は、それぞれ像担持体30周分に相当する領域であり、何れも白紙画像(画像濃度0%)を含む。搬送方向aに沿ってはじめに領域202の画像208を形成し、その後、領域204及び領域206の白紙画像を形成した。領域204の白紙画像は、画像208を形成した周(基準周)を基準として2周目に形成された画像である。領域210は、領域204における画像208に対応する領域である。領域206の白紙画像は、画像108を形成した基準周から数えて3周目に形成された画像である。領域212は、領域204における画像208に対応する領域である。
【0167】
(転写性の評価基準)
評価A(非常に良い):画像208に対応した画像が領域210及び領域212に確認される。
評価B(良い):画像208に対応した画像が領域210の垂直方向bの両端部にわずかに確認される。画像208に対応した画像が領域212に確認されない。
評価C(悪い):画像208に対応した画像が領域210の垂直方向bの両端部に明確に確認される。画像208に対応した画像が領域212に確認されない。
評価D(非常に悪い):画像208に対応した画像が領域210及び領域212の垂直方向bの両端部に明確に確認される。
【0168】
【表4】
【0169】
表4に示すように、感光体(A−1)〜(A−9)では、感光層は単層型感光層であって、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、添加剤とを含んでいた。添加剤は、化学式(ADD−1)〜(ADD−5)で表されるカルボン酸無水物であった。また、感光層の比誘電率の変化値は、1.00以上であった。
【0170】
表4に示すように、感光体(A−1)〜(A−9)では、感光体によるトナー像の転写性の評価結果が評価A(非常に良い)又は評価B(良い)であった。
【0171】
表4に示すように、感光体(B−1)〜(B−4)では、感光層の比誘電率の変化値は、1.00未満であった。感光体(B−1)では、感光層は、添加剤としてカルボン酸無水物を含んでいなかった。
【0172】
表4に示すように、感光体(B−1)〜(B−4)では、感光体によるトナー像の転写性の評価結果が何れも評価C(悪い)であった。
【0173】
以上から、感光体(A−1)〜(A−9)は、感光体(B−1)〜(B−4)に比べ、感光体によるトナー像の転写性に優れる。