(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
赤外領域の少なくともいずれかの領域で可視光領域と比較して高い吸光率を有する無機赤外線吸収剤としてタングステン系酸化物又は六ホウ化金属化合物を含むインクを熱膨張層に重なるように形成されたインク受容層上に所定の塗布手段で印刷して前記タングステン系酸化物又は前記六ホウ化金属化合物を前記インク受容層に受容させることで、加熱に伴って形成される前記熱膨張層の表面凹凸に対しての前記インク受容層による被覆性を維持させたままで、前記インクが印刷された領域のインク受容層を、光熱変換層に変性させる、
ことを特徴とする印刷装置。
赤外領域の少なくともいずれかの領域で可視光領域と比較して高い吸光率を有する無機赤外線吸収剤としてタングステン系酸化物又は六ホウ化金属化合物を含むインクを熱膨張層に重なるように形成されたインク受容層上に印刷して前記タングステン系酸化物又は前記六ホウ化金属化合物を前記インク受容層に受容させることで、加熱に伴って形成される前記熱膨張層の表面凹凸に対しての前記インク受容層による被覆性を維持させたままで、前記インクが印刷された領域のインク受容層を、光熱変換層に変性させる、
ことを特徴とする印刷方法。
前記インク受容層上にカラーインクを印刷して前記カラーインクを前記インク受容層に受容させることで、前記カラーインクが印刷された領域のインク受容層を前記カラーインクに対応した色味のカラー層に形成するカラー層形成工程を備え、
前記光熱変換層形成工程は、前記インクを前記カラー層としての前記インク受容層上に印刷して前記タングステン系酸化物又は前記六ホウ化金属化合物を前記カラー層に受容させることで、前記インクが印刷された領域のカラー層を前記カラー層の色味が維持された前記光熱変換層に形成する、
ことを特徴とする請求項7に記載の造形物の製造方法。
前記光熱変換層としての前記インク受容層上にカラーインクを印刷して前記カラーインクを前記光熱変換層に受容させることで、前記カラーインクが印刷された領域の光熱変換層を前記カラーインクに対応した色味のカラー層に形成するカラー層形成工程を備える、
ことを特徴とする請求項7に記載の造形物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るインク、印刷装置、印刷方法及び造形物の製造方法について、図を用いて説明する。本実施形態では、詳細に後述するように、印刷装置の例として、
図4(a)〜
図4(c)に概要を示す立体画像形成システム50を例に挙げて説明する。また、印刷方法の例として、この立体画像形成システム50を使用して、凹凸を有する造形物(立体画像)を形成する構成を例に挙げて説明する。また、本実施形態のインク10は、立体画像形成システム50内に設けられた
図5に示す印刷ユニット内に設置され、熱膨張性シート20上に光熱変換層を形成するために使用する。
【0014】
本実施形態では、熱膨張性シート20の表面に、熱膨張層22の隆起によって造形物を表現する。また、本明細書において、「造形物」は、単純な形状、幾何学形状、文字、装飾等、形状を広く含む。ここで、装飾とは、視覚及び/又は触覚を通じて美感を想起させるものである。また、「造形(又は造型)」は、単に造形物を形成することに限らず、装飾を加える加飾、装飾を形成する造飾のような概念をも含む。更に装飾性のある造形物とは、加飾又は造飾の結果として形成される造形物を示す。
【0015】
本実施形態に係るインク10は、無機赤外線吸収剤を含み、更に溶剤(水又は有機溶剤)、着色剤(染料又は顔料)、分散剤、浸透剤、乾燥防止剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤等から選択されるいずれか又は全てを含んでもよい。これらは任意の濃度で、インク10中に含まれる。
【0016】
インク10が水性インクである場合、無機赤外線吸収剤と、水と、水性有機溶剤とを含む。水性有機溶剤としては、これに限るものではないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルキレングリコール類、グリセリン、グリセロール類、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールメチル(エチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(エチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、エタノール又はイソプロパノールが挙げられる。これらの水性有機溶剤は、上記の保湿剤、界面活性剤等としてインク10に含まれる。また、インク10は、pH調整剤としてトリエタノールアミンを含んでもよく、この他の添加剤を含んでもよい。
【0017】
また、本実施形態のインク10は、例えば
図5に示すインクジェット方式の印刷ユニット52で使用される。具体的に、インク10は、カートリッジ内に充填されて、
図5に示すように印刷ユニット52内に設置される。
【0018】
インク10は、着色剤を含んでも、含まなくともよい。本実施形態のように、インク10を熱膨張性シート20の特定の領域を加熱するための光熱変換層の形成に用いる場合、光熱変換層は、カラーインクの色味に対して影響を及ぼさないことが好ましい。従って、本実施形態のような用途では、インク10は着色剤を含まないことが好ましい。また、着色剤を含む場合は、着色剤の色は、白、イエロー等の視認しにくい色であることが好ましい。なお、着色剤の色は、特に限定されるものではない。例えば、インク10が視認しにくい場所に形成される等、インク10の色が特に熱膨張性シート20の外観に影響を与えることがない場合、熱膨張性シート20自体が着色されている場合、又は印刷された領域が分かるように着色した方が好ましい場合等に応じ、着色剤は白、イエローの他、シアン、マゼンタ、ブラック等から適宜選択されてもよく、これら以外の任意の色であってもよい。また、インク10中の着色剤の濃度も任意である。
【0019】
また、インク10に含有される無機赤外線吸収剤としては、赤外領域の少なくともいずれかの領域で、可視光領域と比較して高い光の吸収率(吸光率)を有する無機材料を用いる。無機赤外線吸収剤は、特に近赤外領域で、可視光領域と比較して高い光の吸収率を有することが好ましい。可視光領域において光の透過率が高い(吸収率が低い)材料を選択することにより、インク10の可視光透過性を向上させ、インク10の色味を抑えることができる。特に従来使用されてきたカーボンを使用するインクと比較し、インク10を用いて印刷された光熱変換層によってカラーインク層の色味がくすむことを防ぐことができる。
【0020】
本実施形態では無機赤外線吸収剤としては、例えば、金属酸化物、金属ホウ化物、金属窒化物等を用いる。
【0021】
具体的に、金属酸化物としては、例えば、酸化タングステン系化合物、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化セシウム、酸化亜鉛等を用いることができる。
【0022】
また、金属ホウ化物としては、多ホウ化金属化合物が好ましく、六ホウ化金属化合物が特に好ましく、六ホウ化ランタン(LaB
6)、六ホウ化セリウム(CeB
6)、六ホウ化プラセオジム(PrB
6)、六ホウ化ネオジム(NdB
6)、六ホウ化ガドリニウム(GdB
6)、六ホウ化テルビウム(TbB
6)、六ホウ化ディスプロシウム(DyB
6)、六ホウ化ホルミウム(HoB
6)、六ホウ化イットリウム(YB
6)、六ホウ化サマリウム(SmB
6)、六ホウ化ユーロピウム(EuB
6)、六ホウ化エルビウム(ErB
6)、六ホウ化ツリウム(TmB
6)、六ホウ化イッテルビウム(YbB
6)、六ホウ化ルテチウム(LuB
6)、六ホウ化ランタンセリウム((La,Ce)B
6)、六ホウ化ストロンチウム(SrB
6)、六ホウ化カルシウム(CaB
6)等からなる群から選択される1つ又は複数の材料を用いる。
【0023】
また金属窒化物としては、窒化チタン、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウムなどが挙げられる。
【0024】
酸化タングステン系化合物は、以下の一般式によって示される。
MxWyOz ・・・(I)
ここで、元素MはCs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素である。
また、x/yの値は、0.001≦x/y≦1.1の関係を満足することが好ましく、特にx/yが0.33付近であることが好適である。加えて、z/yの値は、2.2≦z/y≦3.0の関係を満足することが好ましい。具体的には、Cs
0.33WO
3、Rb
0.33WO
3、K
0.33WO
3、Tl
0.33WO
3などである。
【0025】
上記の中では、六ホウ化金属化合物又は酸化タングステン系化合物が好ましく、特に近赤外領域で吸収率が高く(透過率が低く)、かつ可視光領域の透過率が高いことから六ホウ化ランタン(LaB
6)又はセシウム酸化タングステンが好ましい。なお、上記無機赤外線吸収剤はいずれかを単独で用いてもよく、又は2つ以上の異なる材料を併用してもよい。
【0026】
本実施形態のインク10は、これに限られるものではないが、無機赤外線吸収剤を、20重量%〜0.10重量%の割合で含む。
【0027】
次に、カーボン、ITO、ATO、セシウム酸化タングステン及びLaB
6の透過率の分布と、太陽光のスペクトルと、ハロゲンランプの分光分布とを
図1に示す。
図1では、太陽光のスペクトル及びハロゲンランプの分光分布は、いずれもピークを100とした強度である。
図1に示すように、従来、光熱変換層を形成するために使用されていたカーボンは、各波長域でほぼ一定の低い透過率を示す。また、カーボンは、可視光領域でも透過率が低く(吸光率が高く)、黒色を呈する。これに対し、金属酸化物の一例であるITO、ATOは、特に可視光領域での透過率が高い。また、ITO、ATOは、可視光領域と比較して近赤外領域での透過率が低く、更に中赤外領域で低い透過率(高い吸光率)を示す。更に、タングステン系酸化物の一例として、セシウム酸化タングステンでは、可視光領域と比較して近赤外領域での透過率が低い。加えて、六ホウ化金属化合物の一例である六ホウ化ランタンは、赤外領域内の近赤外領域において可視光領域と比較して低い透過率を示す。
【0028】
また、
図1では照射部で用いられるハロゲンランプの分光分布を示す。ハロゲンランプから照射される光は、特に近赤外領域において高い強度を示す。
図1に示すセシウム酸化タングステンと六ホウ化ランタンとは、このハロゲンランプから照射される光が強い強度を示す近赤外領域において透過率が低く、高い吸光率を示す。このため、ハロゲンランプを照射部として使用する場合、セシウム酸化タングステン又はLaB
6は、ハロゲンランプから照射される光が強い強度を示す近赤外領域において、特に効率良く光を吸収できるため、好ましい。また、近赤外領域に高い吸光率を示す材料であれば、セシウム酸化タングステンと六ホウ化ランタン以外も、使用可能である。
【0029】
また、
図2は、各波長におけるハロゲンランプからの放射エネルギー(%)にセシウム酸化タングステン又はLaB
6の吸光率を掛けあわせたグラフである。なお、放射エネルギー(%)は、基準温度(2000K)での黒体放射エネルギー(ピークを100%とする)に対する、温度(2900K)における放射エネルギーの比(%)を使用する。セシウム酸化タングステンは、特に近赤外領域、中赤外領域で良好にエネルギーを吸収可能であることがわかる。
【0030】
また、このグラフを波長で積分した値が、セシウム酸化タングステン又はLaB
6が吸収可能なエネルギー量に相当する。従って、熱膨張性材料の発泡高さが飽和しない限り、この積分値の比は発泡高さに比例する。
具体的に積分値は、
セシウム酸化タングステン:LaB
6=1:0.58
である。従って、LaB
6を用いた光熱変換層では、セシウム酸化タングステンを用いた光熱変換層と比べても、約0.58倍の高さが得られる。
【0031】
次に、本実施形態のインク10によって光熱変換層を形成する熱膨張性シート20について図を用いて説明する。熱膨張性シート20は、
図3に示すように、基材21、熱膨張層22、インク受容層23、を備える。また、詳細に後述するように、熱膨張性シート20は、
図4(a)〜
図4(c)に概要を示す立体画像形成システム50で、印刷が施され、凹凸を有する造形物(立体画像)が形成される。
【0032】
基材21は、熱膨張層22等を支持するシート状の部材(フィルムを含む)である。基材21としては、上質紙等の紙、又はポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の通常使用されるプラスチックフィルムを用いることができる。また、基材21としては布地などを用いることも可能である。基材21は、熱膨張層22が全体的又は部分的に発泡により膨張した時に、基材21の反対側(
図3に示す下側)に隆起せず、また、しわを生じたり、大きく波打ったりしない程度の強度を備える。加えて、熱膨張層22を発泡させる際の加熱に耐える程度の耐熱性を有する。
【0033】
熱膨張層22は、基材21の一方の面(
図3に示す上面)上に形成される。熱膨張層22は、加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダ中に複数の熱膨張性材料(熱膨張性マイクロカプセル、マイクロカプセル)が分散配置されている。また、詳細に後述するように、本実施形態では、基材21の上面(表面)に設けられたインク受容層23上、及び/又は基材21の下面(裏面)に光熱変換層を形成し、光を照射することで、光熱変換層が設けられた領域を発熱させる。熱膨張層22は、熱膨張性シート20の表面及び/又は裏面の光熱変換層で生じた熱を吸収して発泡し、膨張するため、熱膨張性シート20の特定の領域のみを選択的に膨張させることができる。
【0034】
バインダとしては、酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等から選択される熱可塑性樹脂を用いる。また、熱膨張性マイクロカプセルは、プロパン、ブタン、その他の低沸点気化性物質を、熱可塑性樹脂の殻内に封入したものである。殻は、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、あるいは、それらの共重合体等から選択される熱可塑性樹脂から形成される。熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径は、約5〜50μmである。このマイクロカプセルを熱膨張開始温度以上に加熱すると、樹脂からなる高分子の殻が軟化し、内包されている低沸点気化性物質が気化し、その圧力によってカプセルが膨張する。用いるマイクロカプセルの特性にもよるが、マイクロカプセルは膨張前の粒径の5倍程度に膨張する。
【0035】
インク受容層23は、熱膨張層22上に形成される。インク受容層23は、印刷工程で使用されるインク、例えば、インクジェットプリンタのインクを受容し、定着させる層である。インク受容層23は、印刷工程で使用されるインクに応じて、汎用されている材料を使用して形成される。例えば水性インクを利用する場合では、インク受容層23は、多孔質シリカ、ポリビニルアルコール(PVA)等から選択される材料を用いて形成される。また、基材21の裏面にも光熱変換層を形成する場合は、基材21の裏面にもインク受容層を形成してもよい。
【0036】
(立体画像形成システム)
次に、本実施形態の熱膨張性シート20に印刷を施し、立体画像を形成する立体画像形成システム50について説明する。
図4(a)〜
図4(c)に示すように、立体画像形成システム50は、制御ユニット51と、印刷ユニット52と、膨張ユニット53と、表示ユニット54と、天板55と、フレーム60と、を備える。
図4(a)は、立体画像形成システム50の正面図であり、
図4(b)は、天板55を閉じた状態における立体画像形成システム50の平面図であり、
図4(c)は、天板55を開いた状態における立体画像形成システム50の平面図である。なお、
図4(a)〜
図4(c)において、X方向は水平方向と同一であり、Y方向はシートが搬送される搬送方向Dと同一であり、更にZ方向は鉛直方向と同一である。X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交する。
【0037】
制御ユニット51、印刷ユニット52、膨張ユニット53は、それぞれ
図4(a)に示すようにフレーム60内に載置される。具体的に、フレーム60は、一対の略矩形状の側面板61と、側面板61の間に設けられた連結ビーム62とを備え、側面板61の上方に天板55が渡されている。また、側面板61の間に渡された連結ビーム62の上に印刷ユニット52及び膨張ユニット53がX方向に並んで設置され、連結ビーム62の下に制御ユニット51が固定されている。表示ユニット54は天板55内に、天板55の上面と高さが一致するように埋設されている。
【0038】
制御ユニット51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、印刷ユニット52、膨張ユニット53及び表示ユニット54を制御する。
【0039】
印刷ユニット52は、インクジェット方式の印刷装置である。
図4(c)に示すように、印刷ユニット52は、熱膨張性シート20を搬入するための搬入部52aと、熱膨張性シート20を搬出するための搬出部52bと、を備える。印刷ユニット52は、搬入部52aから吸入された熱膨張性シート20の表面又は裏面に指示された画像を印刷し、画像が印刷された熱膨張性シート20を搬出部52bから排出する。また、印刷ユニット52には、後述するカラーインク層42を形成するためのカラーインク(シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y))、と、表側光熱変換層41と裏側光熱変換層43とを形成するためのインク10とが備えられている。なお、カラーインク層42において黒又はグレーの色を形成するため、カラーインクとして、カーボンブラックを含まない黒のカラーインクを更に備えてもよい。
【0040】
印刷ユニット52は、熱膨張性シート20の表面に印刷するカラー画像(カラーインク層42)を示すカラー画像データを制御ユニット51から取得し、カラー画像データに基づいて、カラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてカラー画像(カラーインク層42)を印刷する。カラーインク層の黒又はグレーの色は、CMYの3色を混色して、もしくはカーボンブラックを含まない黒のカラーインクを更に使用して形成する。
【0041】
また、印刷ユニット52は、熱膨張性シート20の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである表面発泡データに基づき、インク10を用いて表側光熱変換層41を印刷する。同様に、熱膨張性シート20の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである裏面発泡データに基づき、インク10を用いて裏側光熱変換層43を印刷する。インク10の濃度がより濃く形成された部分ほど、熱膨張層22の膨張高さは高くなる。このため、インク10の濃度は、目標高さに対応するように、面積階調方式等によって濃淡が決定される。
【0042】
図5に、印刷ユニット52の詳細な構成を示す。
図5に示すように、印刷ユニット52は、熱膨張性シート20が搬送される方向である副走査方向D1(Y方向)に直交する主走査方向D2(X方向)に往復移動可能なキャリッジ71を備える。
【0043】
キャリッジ71には、印刷を実行する印刷ヘッド72と、インクを収容したインクカートリッジ73(73e,73c,73m,73y)が取り付けられている。インクカートリッジ73e,73c,73m,73yには、それぞれ、本実施形態のインク10、シアンC、マゼンタM、及びイエローYの色インクが収容されている。各インクは、印刷ヘッド72の対応するノズルから吐出される。
【0044】
キャリッジ71は、ガイドレール74に滑動自在に支持されており、駆動ベルト75に狭持されている。キャリッジ71は、モータ75mの回転により駆動ベルト75が駆動することで、印刷ヘッド72及びインクカートリッジ73と共に、主走査方向D2に移動する。
【0045】
フレーム77の下部には、印刷ヘッド72と対向する位置に、プラテン78が設けられている。プラテン78は、主走査方向D2に延在しており、熱膨張性シート20の搬送路の一部を構成している。熱膨張性シート20の搬送路には、給紙ローラ対79a(下のローラは不図示)と排紙ローラ対79b(下のローラは不図示)とが設けられている。給紙ローラ対79aと排紙ローラ対79bとは、プラテン78に支持された熱膨張性シート20を副走査方向D1に搬送する。
【0046】
印刷ユニット52は、フレキシブル通信ケーブル76を介して制御ユニット51と接続されている。制御ユニット51は、フレキシブル通信ケーブル76を介して、印刷ヘッド72、モータ75m、給紙ローラ対79a及び排紙ローラ対79bを制御する。具体的に説明すると、制御ユニット51は、給紙ローラ対79a及び排紙ローラ対79bを制御して、熱膨張性シート20を搬送させる。また、制御ユニット51は、モータ75mを回転させてキャリッジ71を移動させ、印刷ヘッド72を主走査方向D2の適切な位置に搬送させる。
【0047】
膨張ユニット53は、熱膨張性シート20に熱を加えて膨張させる膨張装置である。
図4(c)に示すように、膨張ユニット53は、熱膨張性シート20を搬入するための搬入部53aと、熱膨張性シート20を搬出するための搬出部53bと、を備える。膨張ユニット53は、搬入部53aから搬入された熱膨張性シート20を搬送しながら熱を加えて膨張させ、膨張した熱膨張性シート20を搬出部53bから搬出する。膨張ユニット53は内部に照射部(図示せず)を備える。照射部は膨張ユニット53内で固定されており、照射部の近傍を熱膨張性シート20を一定の速度で移動させることにより、熱膨張性シート20全体を加熱する。なお、光熱変換層を視認しにくいよう、インク10の濃度を低く印刷した場合は、この搬送速度を遅くし、光を照射する時間を長くすることで、目標とする膨張高さを得ることも可能である。
【0048】
照射部は、例えば、ハロゲンランプであり、熱膨張性シート20に対して、近赤外領域(波長750〜1400nm)、可視光領域(波長380〜750nm)又は中赤外領域(波長1400〜4000nm)の光を照射する。ハロゲンランプから照射される光の波長は、
図1に示す特徴を有しており、特に近赤外領域において光を強く照射する。本実施形態のインク10中に含まれる無機赤外線吸収剤として、特に、可視光領域と比較して近赤外領域において高い吸収率を有する材料を用いると、ハロゲンランプが強い強度を持つ波長域と、無機赤外線吸収剤が効率よく吸収する波長域が一致するため好ましい。なお、照射部としては、ハロゲンランプ以外に、キセノンランプ等を使用することもできる。この場合、使用するランプに応じて、ランプの照射強度の高い波長域において高い吸収率を有する材料を、無機赤外線吸収剤として選択することが好ましい。また、光熱変換層が印刷された領域では、光熱変換層が印刷されていない領域に比べて、より効率よく光が熱に変換される。そのため、熱膨張層22のうち、光熱変換層が印刷された領域が主に加熱されて、その結果、熱膨張層22は、光熱変換層が印刷された領域が膨張する。
【0049】
表示ユニット54は、タッチパネル等から構成される。表示ユニット54は、例えば
図4(b)に示すように、印刷ユニット52によって熱膨張性シート20に印刷される画像(
図4(b)に示す星)を表示する。また、表示ユニット54は、操作ガイド等を表示し、ユーザは、表示ユニット54に触れることで、立体画像形成システム50を操作することが可能である。
【0050】
(立体画像形成処理)
次に、
図6に示すフローチャート及び
図7(a)〜
図7(e)に示す熱膨張性シート20の断面図を参照して、立体画像形成システム50によって熱膨張性シート20に立体画像を形成する処理の流れを説明する。立体画像形成処理によって造形物が製造されるため、立体画像形成処理は造形物の製造方法でもある。
【0051】
第1に、ユーザは、立体画像が形成される前の熱膨張性シート20を準備し、表示ユニット54を介して、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを指定する。そして、熱膨張性シート20を、その表面を上側に向けて印刷ユニット52に挿入する。印刷ユニット52は、挿入された熱膨張性シート20の表面に光熱変換層(表側光熱変換層41)を印刷する(ステップS1)。表側光熱変換層41は、上述したインク10によって形成される層である。印刷ユニット52は、指定された表面発泡データに従って、熱膨張性シート20の表面に、本実施形態のインク10を吐出する。その結果、
図7(a)に示すように、インク受容層23上に表側光熱変換層41が形成される。なお、理解を容易とするため、インク受容層23上に表側光熱変換層41が形成されているように図示しているが、より正確にはインク10はインク受容層23中に受容されているため、インク受容層23中に表側光熱変換層41が形成されている。
【0052】
第2に、ユーザは、表側光熱変換層41が印刷された熱膨張性シート20を、その表面を上側に向けて膨張ユニット53に挿入する。膨張ユニット53は、挿入された熱膨張性シート20を表面から加熱する(ステップS2)。具体的に説明すると、膨張ユニット53は、照射部によって熱膨張性シート20の表面に光を照射させる。熱膨張性シート20の表面に印刷された表側光熱変換層41は、照射された光を吸収することによって発熱する。その結果、
図7(b)に示すように、熱膨張性シート20のうちの表側光熱変換層41が印刷された領域が盛り上がって膨張する。また、
図7(b)において、右に示す表側光熱変換層41のインク10の濃度を、左に示す表側光熱変換層41と比較して濃くすると、図示するように、濃く印刷された領域をより高く膨張させることが可能となる。
【0053】
第3に、ユーザは、表面が加熱されて膨張した熱膨張性シート20を、その表面を上側に向けて印刷ユニット52に挿入する。印刷ユニット52は、挿入された熱膨張性シート20の表面にカラー画像(カラーインク層42)を印刷する(ステップS3)。具体的には、印刷ユニット52は、指定されたカラー画像データに従って、熱膨張性シート20の表面に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、
図7(c)に示すように、インク受容層23及び表側光熱変換層41の上にカラーインク層42が形成される。
【0054】
第4に、ユーザは、カラーインク層42が印刷された熱膨張性シート20を、その裏面を上側に向けて膨張ユニット53に挿入する。膨張ユニット53は、挿入された熱膨張性シート20を裏面から加熱し、熱膨張性シート20の表面に形成されたカラーインク層42を乾燥させる(ステップS4)。具体的に説明すると、膨張ユニット53は、照射部によって熱膨張性シート20の裏面に光を照射させ、カラーインク層42を加熱し、カラーインク層42中に含まれる溶媒を揮発させる。
【0055】
第5に、ユーザは、カラーインク層42が印刷された熱膨張性シート20を、その裏面を上側に向けて印刷ユニット52に挿入する。印刷ユニット52は、挿入された熱膨張性シート20の裏面に光熱変換層(裏側光熱変換層43)を印刷する(ステップS5)。裏側の光熱変換層43は、熱膨張性シート20の表面に印刷された表側光熱変換層41と同様に、本実施形態のインク10によって形成される層である。印刷ユニット52は、指定された裏面発泡データに従って、熱膨張性シート20の裏面に、インク10を吐出する。その結果、
図7(d)に示すように、基材21の裏面に裏側光熱変換層43が形成される。裏側光熱変換層43についても、左に示す裏側光熱変換層43のインク10の濃度を、右に示す裏側光熱変換層43と比較して濃くすると、図示するように濃く印刷された領域をより高く膨張させることが可能となる。
【0056】
第6に、ユーザは、裏側光熱変換層43が印刷された熱膨張性シート20を、その裏面を上側に向けて膨張ユニット53に挿入する。膨張ユニット53は、挿入された熱膨張性シート20を裏面から加熱する(ステップS6)。具体的に説明すると、膨張ユニット53は、照射部(図示せず)によって熱膨張性シート20の裏面に光を照射させる。熱膨張性シート20の裏面に印刷された裏側光熱変換層43は、照射された光を吸収することによって発熱する。その結果、
図7(e)に示すように、熱膨張性シート20のうちの裏側光熱変換層43が印刷された領域が盛り上がって膨張する。
【0057】
以上のような手順によって、熱膨張性シート20に立体画像が形成される。
【0058】
本実施形態のインク10は、赤外領域の少なくともいずれかの波長域において、可視光領域と比較して強い吸光率を示す無機赤外吸収剤を含むことにより、立体画像の色味への影響が抑制された光熱変換層を印刷することができる。また、本実施形態のインク10を用いることにより、立体画像の色味への影響が抑制された光熱変換層を印刷することが可能なインク、印刷装置及び印刷方法を提供することができる。
【0059】
また、本実施形態のインク10によれば、従来光熱変換層を形成するために用いられていたカーボンブラックを含むインクを使用した場合と比較し、黒濃度が低減した光熱変換層を形成することもできる。また、従来例では熱膨張層を発泡させにくい濃度、例えば黒濃度0.1以下の濃度においても、本実施形態のインク10は熱膨張層を膨張させることも可能である。なお、光熱変換層の黒濃度は熱膨張層の膨張後に反射分光濃度計を用いて測定する。
【0060】
(立体画像形成処理の変形例)
立体画像形成処理は、
図6に示すプロセスの順番に限られず、以下に詳細に記述するように各ステップの順番は入れ替えることが可能である。
【0061】
また説明の便宜のため、
図6に示す各ステップを以下に示すように称する。熱膨張性シートの表側(
図3に示す上面)に表側光熱変換層41(以下、表側変換層)を形成する工程(
図6におけるステップS1)は、表側変換層形成工程と呼ぶ。熱膨張性シート20の表側から、電磁波(光)を照射し、熱膨張層22を膨張させる工程(
図6におけるステップS2)は、表側膨張工程と呼ぶ。熱膨張性シート20の表側にカラー画像を印刷する工程(
図6におけるステップS3)は、カラー印刷工程と呼ぶ。熱膨張性シートの裏側(
図3に示す下面)に裏側光熱変換層43(以下、裏側変換層)を形成する工程(
図6におけるステップS5)は、裏側変換層形成工程と呼ぶ。熱膨張性シート20の裏側から、電磁波を照射し、熱膨張層22を膨張させる工程(
図6におけるステップS6)は、裏側膨張工程と呼ぶ。
【0062】
なお、
図6におけるカラーインクを乾燥させる工程(ステップS4)では、シートの裏面を上として乾燥させるとあるが、これに限られない。以下の例のいずれについても乾燥工程は、シートの表面を上にして乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程において、表面、裏面のいずれを上とするかは、変換層がどちらの面に形成されているか、乾燥工程で熱膨張層22を更に変形させないか、等を考慮して決定する。加えて、以下に示すいずれの例についても、各ステップを実行する順番によって、乾燥工程(ステップS4)を省略することが可能である。
【0063】
例えば、立体画像形成処理は、
図6に示すプロセスの順番に限られず、裏側変換層43を先に形成することもできる。具体的には、裏側変換層形成工程を最初に行い、続いて裏側膨張工程を行った上で、表側変換層形成工程等を行う。この場合、
図6に示すフローチャートを用いて説明すると、ステップS5、ステップS6を行い、続いて、ステップS1〜S4をこの順に行う。この場合、ステップS4を施す段階では裏側変換層が形成されているため、ステップS4では、シートの表面を上に向け乾燥工程を行うことが好ましい。また、熱膨張層22を膨張させる工程を全て終えた後に、カラー画像を印刷することも可能である。この場合、表側変換層形成工程、表側膨張工程、裏側変換層形成工程、裏側膨張工程をこの順に行った後、カラー印刷工程を行う。
図6に示すステップS1、ステップS2を行った後、ステップS5、ステップS6を実行し、その後、ステップS3及びステップS4を実行する。なお、ステップS4を省略してもよい。また、先に裏側変換層形成工程、裏側発泡工程を行うことも可能であり、この場合は、ステップS5、ステップS6を実行した後、ステップS1〜S4をこの順に行う。なお、ステップS4を省略してもよい。
【0064】
加えて、カラー印刷工程は、表側変換層形成工程等に先立って行うことも可能である。特に本実施形態のインクでは、色味が抑えられているため、カラー画像の上に光熱変換層を形成した場合であっても、カラー画像の色味に影響を与えることを抑制することができるためである。この場合、カラー印刷工程、乾燥工程、表側変換層形成工程、表側膨張工程をこの順で行い、裏側変換層形成工程、裏側膨張工程を行うことができる。
図6に示すフローチャートを用いて説明すると、ステップS3及びS4を実行し、その後、ステップS1及びS2、ステップS5及びステップS6をこの順に実行する。なお、ステップS4では、シートの表面を上に向けて乾燥工程を行ってもよい。また、裏側熱変換層形成工程を先に行ってもよく、この場合は、ステップS3〜S6をこの順に行った上で、ステップS1及びステップS2を行う。なお、ステップS4では、シートの表面を上に向けて乾燥工程を行ってもよい。
【0065】
また、カラー印刷工程と表側変換層形成工程とを組み合わせ、1つの工程でカラーインク層と表側変換層とを印刷することも可能である。この例では、カラーインク層と表側変換層とが同時に印刷される。
【0066】
以下、
図8に示すフローチャート及び
図9(a)〜
図9(d)に示す熱膨張性シート20の断面図を参照して、立体画像形成システム50によって熱膨張性シート20に立体画像を形成する処理の流れを説明する。本変形例でも、
図4(c)に示すように、カラー画像を印刷するためのカラーインクと、光熱変換層を形成するためのインク10とは印刷ユニット52にセットされている。印刷ユニット52は、熱膨張性シート20の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである表面発泡データに基づき、インク10を用いて表側変換層41を印刷する。同様に、熱膨張性シート20の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである裏面発泡データに基づき、インク10を用いて裏側変換層43を印刷する。
【0067】
第1に、ユーザは、立体画像が形成される前の熱膨張性シート20を準備し、表示ユニット54を介して、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを指定する。そして、熱膨張性シート20を、その表面を上側に向けて印刷ユニット52に挿入する。次に、印刷ユニット52は、挿入された熱膨張性シート20の表面に表側変換層(表側光熱変換層)41及びカラー画像(カラーインク層42)を印刷する(ステップS21)。具体的に印刷ユニット52は、熱膨張性シート20の表面に、指定された表面発泡データに従って本実施形態のインク10を吐出するとともに、指定されたカラー画像データに従ってシアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、
図9(a)に示すように、インク受容層23上に表側変換層41とカラーインク層42とが形成される。なお、理解を容易とするため、インク受容層23上に表側変換層41とカラーインク層42とが形成されているように図示しているが、より正確にはインク10及びカラーインクはインク受容層24中に受容されているため、インク受容層23中に表側変換層41及びカラーインク層42が形成されている。また、表側変換層41とカラーインク層42とは、同時に形成されているため、
図9(a)等では、表側変換層41は、破線を用いて図示している。なお、カラーインク層42を形成した後(ステップS21の後)、
図6に示すステップS4のような乾燥工程を行ってもよい。
【0068】
第2に、ユーザは、表側変換層41及びカラーインク層42が印刷された熱膨張性シート20を、その表面を上側に向けて膨張ユニット53に挿入する。膨張ユニット53は、挿入された熱膨張性シート20を表面から加熱する(ステップS22)。具体的に説明すると、膨張ユニット53は、照射部によって熱膨張性シート20の表面に光を照射させる。熱膨張性シート20の表面に印刷された表側変換層41は、照射された光を吸収することによって発熱する。その結果、
図9(b)に示すように、熱膨張性シート20のうちの表側変換層41が印刷された領域が盛り上がって膨張する。
【0069】
第3に、ユーザは、熱膨張性シート20を、その裏面を上側に向けて印刷ユニット52に挿入する。印刷ユニット52は、挿入された熱膨張性シート20の裏面に裏側変換層(裏側光熱変換層)43を印刷する(ステップS23)。印刷ユニット52は、指定された裏面発泡データに従って、熱膨張性シート20の裏面に、インク10を吐出する。その結果、
図9(c)に示すように、基材21の裏面に裏側光熱変換層43が形成される。
【0070】
第4に、ユーザは、裏側変換層43が印刷された熱膨張性シート20を、その裏面を上側に向けて膨張ユニット53に挿入する。膨張ユニット53は、挿入された熱膨張性シート20を裏面から加熱する(ステップS24)。具体的に説明すると、膨張ユニット53は、照射部(図示せず)によって熱膨張性シート20の裏面に光を照射させる。その結果、
図9(d)に示すように、熱膨張性シート20のうちの裏側変換層43が印刷された領域が盛り上がって膨張する。
【0071】
以上のような手順によって、熱膨張性シート20に立体画像が形成される。
特に本実施形態のインク10は色味が抑制されているため、表側変換層41を構成するインク10がカラーインク層42の色味へ影響を与えることを抑制することができる。従って、本変形例のステップS21に示すように、表側変換層41とカラーインク層42とを1つの工程で形成し、表側変換層41とカラーインク層42とを同時に形成することが可能となる。
【0072】
また、
図8に示すプロセスの順番に限られず、裏側変換層43を先に形成することもできる。具体的には、
図8に示すフローチャートを用いて説明すると、ステップS23、ステップS24を行った上で、ステップS21、S22を行う。
【0073】
また、表側変換層を形成した後、直後に表側膨張工程を行わず、表側変換層形成工程と表側膨張工程との間に他の工程、例えばカラー印刷工程を設けることも可能である。この場合、
図6に示すステップS1、S3、及びS4を行い、熱膨張性シートの表側への印刷工程を全て終えた後に、表側膨張工程を行うことも可能である。この場合は、
図6に示すフローチャートのステップS1を実行し、表側変換層を形成し、続いてステップS3及びステップS4を実行し、カラー画像を印刷する。その後、ステップS2を実行し、熱膨張層を膨張させる。続いて、
図6に示すステップS5及びステップS6を実行し、裏側変換層の形成及び熱膨張層の膨張を行う。この例において、裏側変換層形成工程を先に行うこともできる。この場合は、ステップS5及びS6を実行した後にステップS1、S3、S4、S2の順に各工程を実行する。この場合、ステップS4では、シートの表面を上に向けて乾燥工程を行ってもよい。また、カラー印刷工程は、裏側変換層形成工程と裏側膨張工程との間に行うことも可能である。この場合は、ステップS5、S3、S4及びS6をこの順に実行した後にステップS1、S2を実行する、又はステップS1、S2を実行した後にステップS5、S3、S4及びS6をこの順に実行する。この場合、ステップS4では、シートの表面を上に向けて乾燥工程を行ってもよい。
【0074】
また、表側変換層形成工程、カラー印刷工程、裏側変換層形成工程を先に行った後に、表側膨張工程、裏側膨張工程を行うことも可能である。この場合、
図6に示すフローチャートのステップS1、ステップS3、ステップS5を先に実行し、その後、ステップS2及びS6を実行する。なお、ステップS1、ステップS3、ステップS5を実行する順番は、この順に限られず任意に入れ替えることができる。例えばステップS5、ステップS3、ステップS1の順としてもよい。また、ステップS2及びS6についても、この順で実行してもよく、逆の順番に実行してもよい。また、乾燥工程(ステップS4)は、必要に応じて行ってもよく、省略してもよい。
【0075】
また、表側変換層形成工程、裏側変換層形成工程を先に行い、表側膨張工程、裏側膨張工程を行った上で、カラー印刷工程を行うことも可能である。この場合は、例えば、
図6に示すフローチャートのステップS1、ステップS5の順、又はステップS5、ステップS1の順で行う。続いて、ステップS2、ステップS6の順、又はステップS6、ステップS2の順で行い、熱膨張層を膨張させる。その後、ステップS3及びステップS4を実行し、カラー画像を印刷する。なお、ステップS4は省略してもよい。また、カラー印刷工程を、表側膨張工程、裏側膨張工程の間に実行することも可能である。この場合、ステップS1、5を実行した後、ステップS2又はステップS6のいずれか一方を実行し、続いてステップS3及びステップS4を実行した後、ステップS2又はステップS6の他方を実行する。なお、ステップS4は省略してもよい。
【0076】
(比較例)
比較例として、従来、光熱変換層を形成するために使用されているカーボンを含む黒色インク(顔料インク)を用いて光熱変換層を形成し、熱膨張性シートを発泡、膨張させた例を
図10(a)に示す。
図10(a)は、光熱変換層の印刷後のインク濃度(黒濃度)と熱膨張層の膨張後の膨張高さ(発泡高さ)との関係を示すグラフである。具体的には、黒色インクは、一般にインクジェットプリンタ用として市販されているカーボンを含む黒色の顔料インクを使用した。上述した実施形態と同様の構成を採る熱膨張性シートの表面上に、インクジェットプリンタを使用して、同一の画像を異なる複数の濃度で黒インクによって印刷し、それにより複数の光熱変換層を形成した。なお、光熱変換層は熱膨張性シートの表面のみに形成した。また、ハロゲンランプを使用し、同一条件で各光熱変換層へ光を照射し、それぞれの濃度における熱膨張性シートの膨張高さ(mm)を測定した。黒濃度は、イグザクト反射分光濃度計(サカタインクスエンジニアリング社製)を用いて測定した。
【0077】
(実施例1)
本実施形態のインク10に対応するインクを用いて光熱変換層を形成し、熱膨張性シートを発泡、膨張させた例を
図10(b)に示す。
図10(b)は、光熱変換層の印刷後のインク濃度(黒濃度)と熱膨張層の膨張後の膨張高さ(発泡高さ)との関係を示すグラフである。具体的に、本実施形態のインク10に相当するインクとしては、通常のインク成分と同様の成分を含み、着色剤を含まないインク中に、無機赤外線吸収剤としてセシウム酸化タングステンを、5.3重量%で混合させたものを用いた。このインクを用いて、比較例と同様に同一の画像を異なる濃度で印刷し、複数の光熱変換層を形成した。なお、光熱変換層は熱膨張性シートの表面のみに形成した。また、比較例と同様に、同一条件で光を光熱変換層へ照射し、それぞれの濃度における熱膨張性シートの膨張高さ(mm)を測定した。また、黒濃度は、比較例と同様の反射分光濃度計を用いて測定した。
【0078】
図10(b)に示すように、実施例のインクでも熱膨張層を膨張させることが可能であり、濃度に従って膨張高さが増加する点は、
図10(a)に示す従来の黒インクを用いた比較例と同じである。次に、
図10(a)に示す比較例では、黒濃度0.1を下回る光熱変換層では、ほとんど膨張高さを得られなかった。これに対し、実施例のインクを使用した光熱変換層は、黒濃度0.1を下回っても、1.5mm前後の膨張高さが得られた。また、比較例では、1.5mm前後の膨張高さを得られる黒濃度は、0.4程度である。従って、実施例のインクを使用することにより、同じ膨張高さを得るための光熱変換層の色味を抑えることができた。
【0079】
また、目視により光熱変換層の色味を確認できるのは、黒濃度0.02程度までであって、黒濃度0.01であれば、光熱変換層(インク)の色味を視認することはできなかった。従って、実施例のインクでは、視認可能な限界の濃度前後で、従来の黒インクの黒濃度0.4〜0.5に相当する膨張高さを得ることができた。更に視認不可能な黒濃度でも熱膨張層を発泡、膨張させることができた。なお、0.01を下回る黒濃度では、膨張高さが若干低くなるが、光熱変換層に光を照射する時間を長くすることで、
図10(b)に示す値よりも更に高く発泡させることができる。また、濃度0.02を超える領域であったとしても、従来の黒インクと比較し、色味を抑えて光熱変換層を形成することができた。
【0080】
(実施例2)
次に、実施例2では、無機赤外線吸収剤として六ホウ化ランタン(LaB
6)を、溶媒(ファインソルブTH、三協化学株式会社製)中に、0.18重量%で混合させ、インクとした。刷毛を使用して、このインクを熱膨張性シート上に塗布した。2回〜5回の塗布を行い、光熱変換層を形成した。2回以上塗布する場合は、直前に塗布した場所に重ねて塗布した。熱膨張性シートとしては実施例1、比較例と同じものを使用した。なお、光熱変換層は熱膨張性シートの表面のみに形成した。また、実施例1及び比較例と同様に、同一条件で光を光熱変換層へ照射した。また、黒濃度は、熱膨張層の発泡後、比較例と同じ反射分光濃度計を用いて測定した。
【0081】
熱膨張層を発泡させた後の光熱変換層の黒濃度を表1に示す。また、2回塗布〜5回塗布を行った光熱変換層の画像を
図11に示す。表1に示すように、光熱変換層の黒濃度は、塗布回数が増えるごとに増加した。また、光熱変換層の黒濃度は、2回塗布では0.05、3回塗布では0.07、4回塗布では0.08、5回塗布では0.09であった。
【0083】
また、
図11に示すように、2回塗布〜5回塗布のいずれでも、熱膨張層を膨張させることができた。また、塗布回数の増加に伴い濃度が上がるに従って、膨張高さが増加する点は、従来例と同様である。従って、実施例2に係るインクでは、従来の黒インクと比較し、色味を抑えて光熱変換層を形成することができた。また、
図10(a)に示す比較例では、黒濃度0.1を下回る光熱変換層では、ほとんど膨張高さを得られていなかったが、本実施例のインクを用いた光熱変換層では、黒濃度0.1を下回る黒濃度0.09(5回塗布)だけでなく、黒濃度0.05(2回塗布)でも、
図11に示すように熱膨張層を膨張させることができた。なお、1回塗布では、黒濃度は0.02であったが、発泡がほとんど見られなかった。
【0084】
以上より、本実施形態のインク10によれば、色味が抑制された光熱変換層を形成することが可能である。
【0085】
本発明は上述した実施の形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。
本実施形態では、印刷装置として、制御ユニット51、膨張ユニット53等を備える立体画像形成システム50を例に挙げているが、これに限られず、印刷装置は、
図5に示すようなインクジェット式の印刷ユニット52のみから構成されてもよい。
【0086】
また、インク10は、インクジェット式プリンタで用いられる水性インクである場合に限られず、油性インクであっても、紫外線硬化インクであってもよい。油性インクである場合、溶剤、樹脂、分散剤等を含む。例えば、溶剤として、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコー等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられ、樹脂としては、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。紫外線硬化インクである場合、インク10は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等の紫外線硬化樹脂、重合開始剤、その他の添加剤を含む。いずれの場合も公知の材料を用いることができる。また、用いる材料により、インク受容層23は省略可能である。
【0087】
また、上述した実施形態では、インクジェット式のプリンタ内に設置されるカートリッジにインクが充填される場合を例に挙げて説明したが、これに限られない。本実施形態のインク10を、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷など、その他の印刷方式で使用することも可能である。この場合、インク受容層23は省略可能である。
【0088】
また、インク10は、水性インク、油性インク、紫外線硬化インクのいずれであってもよい。この場合、インク10は、各印刷方式に応じた材料、例えば、溶剤、造膜のための樹脂、補助剤などを含む。これらの材料は、公知のものを使用する。例えば、インク10が油性インクである場合、無機赤外線吸収剤に加え、溶剤、樹脂、その他の添加剤を含む。また、これに限るものではないが、溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられ、樹脂としては、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。インク10が紫外線硬化インクである場合、これに限るものではないが、インク10は、無機赤外線吸収剤に加え、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等の紫外線硬化樹脂、重合開始剤、その他の添加剤を含む。また、インク10が水性インクであれば、インク10は、無機赤外線吸収剤に加え、水、アルコール等の溶剤、アクリル系樹脂等の樹脂、その他の添加剤を含む。いずれの場合も公知の材料を用いることができる。
【0089】
加えて、例えばオフセット印刷装置を利用し、
図8及び
図9に示すように、カラー印刷工程と表側変換層形成工程とを組み合わせ、1つの工程でカラーインク層と表側変換層とを印刷する場合、オフセット印刷装置は、CMYKのようなカラー画像を印刷するためのインクと、本実施形態のインク10とを備え、これらのインクを用いて、カラーインク層と表側変換層と順番に印刷する。この場合、インク10を用いた印刷を行う順番は任意に変更可能である。換言するとインク10を用いた印刷は、CMYKのカラーインクによる印刷の前後のいずれかであってもよく、これらの間であってもよい。オフセット印刷装置以外の印刷装置でも同様である。
【0090】
また、上述した実施の形態では、熱膨張性シート20の特定の領域を加熱する光熱変換層を印刷する構成を例に挙げて説明したが、特定の領域を加熱するためのインクとして使用するものであれば、熱膨張性シート20以外に使用することも可能である。
【0091】
上述した実施形態では、熱膨張性シート20の表面及び裏面に光熱変換層を形成する構成を例に挙げて説明したが、これに限られない。いずれの実施形態でも光熱変換層は、表面のみ又は裏面のみに形成することも可能である。
【0092】
また、図では、熱膨張性シートの各層、光熱変換層(表側及び裏側)、及びカラーインク層は、いずれも説明のため、必要に応じて誇張して図示されている。従って、これらの形状、厚み、色味等が図示したものに限定されることを意図するものではない。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明は特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0094】
[付記1]
熱膨張性シートの熱膨張層の少なくとも一部を膨張させるために使用される光熱変換層を形成するインクであって、
該インクは、赤外領域の少なくともいずれかの領域で、可視光領域と比較して高い吸光率を有する無機赤外線吸収剤を含む、
ことを特徴とするインク。
[付記2]
前記無機赤外線吸収剤は、金属酸化物、金属ホウ化物、又は金属窒化物である、
ことを特徴とする付記1に記載のインク。
[付記3]
前記無機赤外線吸収剤は、タングステン系酸化物又は六ホウ化金属化合物である、
ことを特徴とする付記1又は2に記載のインク。
[付記4]
前記無機赤外線吸収剤は、セシウム酸化タングステン又は六ホウ化ランタンである、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1つに記載のインク。
[付記5]
熱膨張性シートの熱膨張層の少なくとも一部を膨張させるために使用する光熱変換層を印刷するための印刷装置であって、
赤外領域の少なくともいずれかの領域で、可視光領域と比較して高い吸光率を有する無機赤外線吸収剤を含むインクを用いて、前記熱膨張性シートの一方及び/又は他方の面上に前記光熱変換層を印刷する、
ことを特徴とする印刷装置。
[付記6]
熱膨張性シートの熱膨張層の少なくとも一部を膨張させるために使用する光熱変換層を印刷するための印刷方法であって、
赤外領域の少なくともいずれかの領域で、可視光領域と比較して高い吸光率を有する無機赤外線吸収剤を含むインクを用いて、前記熱膨張性シートの一方及び/又は他方の面上に前記光熱変換層を印刷する、
ことを特徴とする印刷方法。
[付記7]
熱膨張性シートの熱膨張層の少なくとも一部を光熱変換層を用いて膨張させることによる造形物の製造方法であって、
赤外領域の少なくともいずれかの領域で、可視光領域と比較して高い吸光率を有する無機赤外線吸収剤を含むインクを用いて、前記熱膨張性シートの一方及び/又は他方の面上に前記光熱変換層を形成する工程を備える、
ことを特徴とする造形物の製造方法。
[付記8]
前記熱膨張性シートの一方の面に設けられた熱膨張層上にカラー画像を印刷するカラー印刷工程を備え、
前記熱膨張性シートの一方の面上に前記光熱変換層を形成する工程と、前記カラー印刷工程とは、同時に行われる、
ことを特徴とする付記7に記載の造形物の製造方法。
[付記9]
前記熱膨張性シートの一方の面に設けられた熱膨張層上にカラー画像を印刷するカラー印刷工程を備え、
前記カラー印刷工程は、前記熱膨張性シートの一方の面上に前記光熱変換層を形成する工程の前に行われる、
ことを特徴とする付記7に記載の造形物の製造方法。