(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記セメント組成物を100質量部としたときに、前記セメントクリンカーに、前記スラリーを前記亜硫酸化合物の無水物換算で0.1〜20質量部配合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法。
前記脱硫工程では、前記セメントクリンカー製造工程で発生する排ガスの少なくとも一部を石灰法で処理することによって亜硫酸カルシウムを含む前記スラリーを得る、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法。
前記脱硫工程は、前記亜硫酸ガスを、Caとは異なるアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属の塩を含む水溶液に吸収させた後、カルシウム化合物を混合して、亜硫酸カルシウムを含む前記スラリーを得る、請求項1〜6のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法。
前記原料が、廃石膏ボード、廃タイヤ及び脱硫スラグからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む硫黄含有原料を含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市販されている亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩は高価であるため、市販品を用いるとセメント組成物の製造原価が上がってしまう。一方で、特許文献1のように、セメント系固化材に還元性せっこう組成物を用いることは、固化処理土からの六価クロムの溶出低減に有効ではあるものの、還元性せっこう組成物を生産することが必要となる。そこで、本開示では、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物を簡便に製造することが可能なセメント組成物の製造方法及び製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るセメント組成物の製造方法は、原料を焼成してセメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程と、セメントクリンカー製造工程で発生する排ガスに含まれる亜硫酸ガスを原料スラリーに吸収させて亜硫酸化合物を含むスラリーを得る脱硫工程と、セメントクリンカーと上記スラリーとを含む配合物を粉砕し、セメント組成物を得る粉砕工程を有する。
【0008】
この製造方法では、原料からセメントクリンカーを製造する際に発生する亜硫酸ガスから亜硫酸化合物を含むスラリーを得ている。そして、セメントクリンカーとこのスラリーとを含む配合物を粉砕してセメント組成物を得ている。このように、六価クロムの溶出低減に有効な亜硫酸化合物を、セメントクリンカー製造工程で発生する排ガスから得ていることから、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物を簡便に製造することができる。
【0009】
粉砕工程では、石膏を配合してセメント組成物を得ることが好ましい。これによって、セメント組成物の組成の調整を容易にすることができる。
【0010】
スラリー中の固形分の割合は0.1〜95質量%に調整するスラリー濃度調整工程を有することが好ましい。これによって、スラリーの取り扱い性を良好に維持できるとともに、セメントクリンカーに適量の水分が混合されることとなり粉砕を円滑にすることができる。また、セメント組成物中に含まれる石膏が過度に半水石膏化することが抑制され、流動性及び強度発現性に優れ、長期間貯蔵しても固結し難いセメント組成物を製造できる。
【0011】
上記スラリーは、固形分として、亜硫酸カルシウムの半水和物、重亜硫酸カルシウム(Ca(HSO
3)
2)、及び、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の亜硫酸化合物と、硫酸カルシウムの二水和物、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩と、を含有することが好ましい。このような成分を含有することによって、六価クロムの溶出を一層低減することが可能なセメント組成物を製造することができる。同様の観点から、亜硫酸スラリーは、特に亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩を含有することが好ましい。
【0012】
セメント組成物を100質量部としたときに、セメントクリンカーに、スラリーを亜硫酸化合物の無水物換算で0.1〜20質量部配合することが好ましい。これによって、六価クロムの溶出を十分に低い水準に維持しつつ粉砕を十分に円滑に行うことができる。
【0013】
脱硫工程では、セメントクリンカー製造工程で発生する排ガスの少なくとも一部を石灰法で処理することによって亜硫酸カルシウムを含むスラリーを得ることが好ましい。これによって、簡便な工程で亜硫酸カルシウムを含むスラリーを得ることができる。
【0014】
脱硫工程は、亜硫酸ガスを、Caとは異なるアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属の塩を含む水溶液に吸収させた後、カルシウム化合物を混合して、亜硫酸カルシウムを含むスラリーを得ることが好ましい。これによって、亜硫酸カルシウムによるスケーリングの影響を低減してプロセスの安定性を向上することができる。
【0015】
原料スラリーは、セメントクリンカー製造工程で発生するカルシウム化合物を含有する無機粉末を含み、無機粉末全体に対してカルシウム化合物をCaOとして10〜98質量%含有することが好ましい。これによって、亜硫酸化合物を含むスラリーの調製を簡便にすることができる。また、セメント組成物の製造コストを十分に低減することができる。
【0016】
上記製造方法は、幾つかの実施形態において、クリンカー原料を粉砕する際に発生するCaCO
3を主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部で発生したCaO及び/又はCa(OH)
2を含むダスト粒子、ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子、並びに、セメント及び/又はセメント水和物を含む汚泥(例えば、生コン工場で得られる生コンスラッジ)からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いて原料スラリーを調製する原料スラリー調製工程を有することが好ましい。これによって、セメント組成物の製造コストを十分に低減することができる。
【0017】
排ガスのSO
2濃度は500〜10000ppmであることが好ましい。これによって、排ガスから十分な量の亜硫酸化合物を得ることができる。また、上記原料の硫黄分を調整して、排ガスのSO
2濃度を500〜10000ppmに制御してもよい。これによって、簡便な方法で排ガスのSO
2濃度を制御することができる。原料は、廃石膏ボード、廃タイヤ及び脱硫スラグからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む硫黄含有原料を含有してもよい。
【0018】
上記スラリーの固形分濃度を、セメントクリンカー製造工程で得られるセメントクリンカーの温度、セメントミルの出口におけるセメント組成物の温度、及びセメント組成物の強熱減量の少なくとも一つに基づいて調整するスラリー濃度調整工程を有することが好ましい。これによって、性状のばらつきが低減されたセメント組成物を安定的に製造することができる。
【0019】
排ガスが、セメントキルンの窯尻から仮焼炉の間で抜き出される700〜1200℃のガスを含んでおり、脱硫工程の前に、排ガスを400℃以下に冷却する冷却工程を有してもよい。これによって、硫黄濃度が高い排ガスから、効率よく亜硫酸化合物を得ることができる。
【0020】
脱硫工程で得られる、亜硫酸ガスの少なくとも一部が吸収された後の排ガスを、セメントキルンに導入してもよい。これによって、排熱を有効活用して、セメント組成物の製造コストを低減することができる。また、NOx等の放出をさらに低減できる。
【0021】
本開示の一側面に係るセメント組成物の製造システムは、原料を焼成してセメントクリンカーを得るセメントクリンカー焼成部と、セメントクリンカー焼成部からの排ガスに含まれる亜硫酸ガスを原料スラリーに吸収して、亜硫酸化合物を含むスラリーを得る脱硫部と、セメントクリンカーとスラリーとを含む配合物を粉砕してセメント組成物を得る粉砕部と、を備える。
【0022】
上記製造システムでは、原料からセメントクリンカーを製造する際に発生する亜硫酸ガスから亜硫酸化合物を含むスラリーを得る。そして、セメントクリンカーとこのスラリーとを含む配合物を粉砕してセメント組成物を得る。このように、六価クロムの溶出低減に有効な亜硫酸化合物を、セメントクリンカー焼成部で発生する排ガスから得ていることから、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物を簡便に製造することができる。
【0023】
上記製造システムは、スラリー中の固形分の割合を0.1〜95質量%に調整するスラリー濃度調整部を備えることが好ましい。これによって、スラリーの取り扱い性を良好に維持できるとともに、セメントクリンカーに適量の水分が混合されることとなり粉砕を円滑にすることができる。また、これによって、セメント組成物中に含まれる石膏が過度に半水石膏化することが抑制され、流動性及び強度発現性に優れ、長期間貯蔵しても固結し難いセメント組成物を製造できる。
【0024】
上記スラリーは、固形分として、亜硫酸カルシウムの半水和物、重亜硫酸カルシウム(Ca(HSO
3)
2)、及び、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の亜硫酸化合物と、硫酸カルシウムの二水和物、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩と、を含有することが好ましい。このような成分を含有することによって、六価クロムの溶出を一層低減することが可能なセメント組成物を製造することができる。同様の観点から、亜硫酸スラリーは、特に亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩を含有することが好ましい。
【0025】
上記脱硫部は、亜硫酸ガスを、Caとは異なるアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属の塩を含む水溶液に吸収させて亜硫酸カルシウムとは異なる亜硫酸化合物を得る第1調製部と、亜硫酸化合物とカルシウム化合物とを混合して、亜硫酸カルシウムを含むスラリーを得る第2調製部と、を有することが好ましい。これによって、亜硫酸カルシウムによるスケーリングの影響を低減して製造システムの安定性を向上することができる。
【0026】
上記脱硫部は、原料を粉砕するときに発生する、CaCO
3を主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部で発生するCaO及び/又はCa(OH)
2を含むダスト粒子、ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子、並びにセメント及び/又はセメント水和物を含む汚泥からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いて原料スラリーを調製する原料スラリー調製部を備えることが好ましい。これによって、セメント組成物の製造コストを十分に低減することができる。
【0027】
上記製造システムは、原料に含まれる硫黄分を調整して、排ガスのSO
2濃度を500〜10000ppmに制御する第1制御部を備えることが好ましい。これによって、排ガスから十分な量の亜硫酸化合物を得ることができる。
【0028】
上記製造システムは、スラリーの固形分濃度を、セメントクリンカー焼成部で得られるセメントクリンカーの温度、セメントミルの出口温度、及びセメント組成物の強熱減量の少なくとも一つに基づいて制御する第2制御部を備えることが好ましい。これによって、性状のばらつきが低減されたセメント組成物を安定的に製造することができる。
【0029】
上記製造システムでは、排ガスがセメントキルンの窯尻から仮焼炉の間で抜き出されるガスを含み、排ガスを400℃以下に冷却する冷却部を有することが好ましい。これによって、硫黄濃度が高い排ガスから、効率よく亜硫酸化合物を得ることができる。
【0030】
上記製造システムは、脱硫部で得られる、亜硫酸ガスの少なくとも一部が吸収された後の排ガスを、セメントキルンに導入する流路を備えることが好ましい。これによって、排熱を有効活用して、セメント組成物の製造コストを低減することができる。また、NOx等の放出をさらに低減できる。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物を簡便に製造することが可能なセメント組成物の製造方法及び製造システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0034】
本開示の一実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、硫黄分を含む原料を焼成してセメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程と、セメントクリンカー製造工程で発生する排ガスに含まれる亜硫酸ガスを原料スラリーに吸収させて亜硫酸化合物を含むスラリーを得る脱硫工程と、セメントクリンカーとスラリーとを含む配合物を粉砕し、セメント組成物を得る粉砕工程を有する。一例として、粉砕工程では、セメントクリンカーと亜硫酸化合物を含むスラリーと石膏を配合した後、これらを含む配合物を粉砕してセメント組成物を得てもよい。別の例として、粉砕工程では、セメントクリンカーと亜硫酸化合物を含むスラリーと石膏の配合と粉砕を同時に行ってもよい。さらに別の例として、粉砕工程では、セメントクリンカーをある程度粉砕した後、亜硫酸化合物を含むスラリーと石膏を配合し、得られた配合物をさらに粉砕してもよい。
【0035】
原料としては、例えば、硫黄含有原料とクリンカー原料が挙げられる。ただし、硫黄含有原料を用いることは必須ではなく、燃料が硫黄を含有していてもよい。亜硫酸化合物を含むスラリー(以下、「亜硫酸スラリー」と称することもある。)は、亜硫酸化合物として例えば亜硫酸カルシウムを含む。例えば、硫黄分を含む原燃料を用いてセメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程からは、亜硫酸ガスを含む排ガスが発生する。この排ガスを原料スラリーと接触させることで亜硫酸スラリーを効率良く製造することができる。特に、セメントキルン部の窯尻から仮焼炉の間のガスには硫黄酸化物が多く含まれるため、この間の排ガスを利用すれば、亜硫酸塩を多く含む亜硫酸スラリーを十分に高い効率で製造することができる。なお、本開示における「窯尻から仮焼炉の間」とは、窯尻、仮焼炉及びこれらの間を含む。
【0036】
セメントキルン部の窯尻から仮焼炉にかけての排ガスを抽気する設備として塩素バイパス部が設置されている場合、塩素バイパス部からガスを抽気して排ガスを得てもよい。また、セメントキルンの窯尻から排ガスを抜き出して得てもよい。このような排ガスは高温(例えば700〜1200℃)であることから、排ガスを400℃以下に冷却する冷却工程を有してもよい。このような排ガスと原料スラリーとを接触させれば亜硫酸スラリーを効率よく調製することができる。原料スラリーとして石灰を含むものを用い、石灰法によって亜硫酸スラリーを得てもよい。
【0037】
本実施形態の製造方法は、原料スラリーを、水と、クリンカー原料を粉砕する際に発生するCaCO
3を主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部で発生するCaO及び/又はCa(OH)
2を含むダスト粒子、ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子、並びに、セメント及び/又はセメント水和物を含む汚泥からなる群より選ばれる1種又は2種以上とを用いて調製する、原料スラリー調製工程を有していてもよい。原料スラリーは、カルシウム化合物を含有する無機粉末全体に対し、カルシウム化合物をCaOとして10〜98質量%含有することが好ましい。
【0038】
亜硫酸スラリーに含まれる亜硫酸化合物としては、亜硫酸カルシウム(例えば半水和物)、重亜硫酸カルシウム(Ca(HSO
3)
2)、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩、及び、亜硫酸マグネシウムが挙げられる。亜硫酸スラリーにおける亜硫酸化合物(無水物換算)の含有量は、固形分全体に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
【0039】
亜硫酸スラリーは亜硫酸化合物以外の成分を含んでもよい。そのような成分として、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム及び硫酸カルシウム等が挙げられる。これらの成分の少なくとも一種を含んでよい。硫酸カルシウムは、二水和物(二水石膏)、半水和物(半水石膏)、及び無水物(無水石膏)のいずれを含んでもよい。
【0040】
亜硫酸スラリーが硫酸カルシウムを適量含有する場合、粉砕工程における石膏の配合を低減又は省略することができる。亜硫酸スラリーにおける硫酸カルシウム・二水和物の含有量は、固形分全体に対して例えば30質量%以下である。上述の各成分を好適な範囲で含む亜硫酸スラリーとする観点から、そのpHは3.0〜11.0であることが好ましく、4.0〜9.0がより好ましく、5.0〜7.0がさらに好ましい。
【0041】
一例において、亜硫酸スラリー中の固形分の割合を0.1〜95質量%に調整するスラリー濃度調整工程を有していてもよい。亜硫酸スラリー中の固形分の割合は、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは3〜50質量%であり、さらに好ましくは5〜40質量%である。このような範囲であれば、亜硫酸スラリーの取り扱い性を高水準に維持しつつ、亜硫酸スラリーとセメント組成物との混合を十分に均一にすることができる。
【0042】
スラリーの固形分濃度を、セメントクリンカー製造工程で得られるセメントクリンカーの温度Tr、セメントミルの出口におけるセメント組成物の温度(Tm,40〜140℃)、及びセメント組成物の強熱減量(Ig,ig.loss)の少なくとも一つに基づいて調整してもよい(スラリー濃度調整工程)。これによって、セメントミルでの粉砕時の温度を好適な範囲(40〜140℃)に制御して、セメントミルへの散水量を低減しつつ安定的な品質を有するセメント組成物を製造することができる。
【0043】
脱硫工程で得られる、亜硫酸ガスの少なくとも一部が亜硫酸スラリーに吸収された後の排ガスは、セメントクリンカーのクーラー部、プレヒーター部又は仮焼炉等を介して、セメントキルンに導入してもよい。これによって、亜硫酸スラリーに吸収されなかった亜硫酸ガスを再び排ガスとして回収することが可能となり、硫黄分を有効利用することができる。また、熱回収を行うことによって、セメント組成物の製造コストを低減することができる。また、排ガスが微量のNOx(窒素酸化物)を含む場合、NOxの放出量をさらに低減することができる。
【0044】
セメントクリンカー製造工程で得られるセメントクリンカーは、その種類に特に制限はなく、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントのいずれであってもよい。本実施形態のセメント組成物によれば、十分に六価クロムの溶出を抑制できる。セメントクリンカーの全クロム量は、例えば、20mg/kg〜250mg/kgであってもよく、80mg/kg〜200mg/kgであってもよく、100〜150mg/kgであってもよい。セメント協会標準試験方法JCAS I−53−2018記載の方法に準拠して測定されるセメントクリンカーの水溶性六価クロムの量は、例えば、3〜40mg/kgであってもよく、10〜40mg/kgであってもよく、20〜30mg/kgであってもよい。
【0045】
本実施形態の製造方法で製造されるセメント組成物は、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定のポルトランドセメントにすることができる。このようなポルトランドセメントとして、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。更に、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカ質から選ばれる少なくとも1種を加えて混合セメントにしてもよい。
【0046】
粉砕工程では、セメントクリンカー、亜硫酸スラリー及び必要に応じて石膏を配合して粉砕しセメント組成物を得てもよい。配合される石膏は、二水石膏、半水石膏及び無水石膏のいずれの形態であってよい。各形態の石膏は単独で配合してもよく、複数種を組み合わせて配合してもよい。セメントクリンカー、亜硫酸スラリー及び石膏の配合の順序は特に制限されず、これらのうちの2種を先に配合した後に残りの1種を配合してもよいし、3種を同時に配合してもよい。石膏の配合量は、セメントクリンカーに対して、SO
3換算で3〜10質量%程度としてよい。石膏は、亜硫酸スラリーの一部を酸化及び脱水して調製したものであってよい。
【0047】
粉砕工程における粉砕は、ボールミル、又は竪型ミル等の仕上げミルで行ってよい。仕上げミルには、セメントクリンカー、亜硫酸スラリー、石膏、及び粉砕助剤等を投入し、粉砕しながら混合することでセメント組成物を製造する。このようにして得られるセメント組成物には、亜硫酸化合物が含まれる。したがって、セメント組成物における六価クロムの含有量を低減することができる。セメント組成物における亜硫酸化合物の含有量は、例えば0.1〜15質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0048】
粉砕処理して得られるセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2500〜6000cm
2/gであり、より好ましくは3000〜5000cm
2/gである。ブレーン比表面積が2500cm
2/g以上であれば、優れた強度発現性を達成しやすくなる。他方、ブレーン比表面積が6000cm
2/g以下であれば、コンクリート又は固化材スラリーとして使用したときの粘性を好適な範囲に制御しやすい。
【0049】
セメント組成物に含まれる石膏の形態は、二水石膏又は無水石膏(II型)であることが好ましい。セメント組成物に含まれる石膏のうち、半水石膏の割合は二水石膏と無水石膏の合量に対して98質量%以下であってよく、0.1〜95質量%であることが好ましく、5〜85質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
原料スラリーは、セメントクリンカー製造工程で発生する無機化合物を回収して調製してもよい。このような無機化合物としては、クリンカー原料を粉砕する際に発生するCaCO
3を主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部で発生したCaO及び/又はCa(OH)
2を含むダスト粒子、並びに該ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子等が挙げられる。原料スラリーには、セメント及び/又はセメント水和物を含む汚泥を配合して調製してもよい。汚泥としては、例えば、生コン工場で得られる生コンスラッジが挙げられる。
【0051】
原料スラリーは、カルシウム化合物を含む無機粉末を含有してよい。原料スラリーに含まれる無機粉末全体に対してカルシウム化合物をCaOとして10〜98質量%含有することが好ましい。これによって、脱硫工程において亜硫酸ガスを十分に吸収することができる。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、並びに石灰(消石灰及び生石灰)等が挙げられる。
【0052】
排ガスのSO
2濃度(Sg)は、好ましくは500〜10000ppmであり、より好ましくは1000〜8000ppmであり、さらに好ましくは2000〜6000ppmである。これによって、プロセスの安定性を維持しつつ、排ガスから十分な量の亜硫酸化合物を得ることができる。排ガスのSO
2濃度(Sg)は、硫黄含有原料の使用量を変更して原料の硫黄分を調整することによって制御してもよい。硫黄含有原料としては、廃石膏ボード、廃タイヤ、脱硫スラグ、石膏、コークス類、硫黄含有廃棄物及び硫黄含有副産物等が挙げられる。原料全体に対する硫黄含有原料の割合を調節して、排ガスのSO
2濃度を制御してもよい。なお、本実施形態において、廃石膏ボードは、石膏ボードの表面に付着している紙分を含んでよい。
【0053】
排ガスのSO
2濃度は、プレヒータ部に備えられるボトムサイクロンからサンプリングされた粉体のSO
3濃度と良好な相関関係がある。したがって、当該SO
3濃度に基づいて原料の硫黄分を調整して、排ガスのSO
2濃度を制御(フィードフォワード制御)してもよい。また、ボトムサイクロンの粉体のSO
3濃度に基づく制御と、排ガスのSO
2濃度に基づく制御を組み合わせて行ってもよい。
【0054】
本実施形態の製造方法は、セメントクリンカー製造工程から発生する排ガスに含まれる亜硫酸ガスを原料スラリーに吸収して得られる亜硫酸スラリーを、そのままセメントクリンカーに配合できることから、大規模な新規設備の設置をしなくても六価クロムの溶出を低減できるセメント組成物を簡便に製造することができる。亜硫酸スラリーは排ガスの脱硫にも寄与し、また、亜硫酸化合物を乾燥させることなくスラリーのまま用いることから、脱硫及びセメント組成物の製造の一連のプロセスを簡素化することができる。また、セメント組成物の粉砕時における注水の代わりに亜硫酸スラリーを使用できること、及び、スラリー状であることから、亜硫酸化合物とセメントクリンカーとの混合性が良好となり、製造工程の短縮及び設備の簡素化のみならず、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物の製造コストを大幅に削減できるという利点がある。
【0055】
本実施形態のセメント組成物の製造方法は、以下に説明するセメント組成物の製造システムを用いて行ってもよいし、それ以外のセメント組成物の製造システムを用いて行ってもよい。本実施形態のセメント組成物の製造方法には、以下に説明するセメント組成物の製造システムについての説明内容が適用可能である。
【0056】
図1は、セメント組成物の製造システムの一実施形態を示す図である。セメント組成物の製造システム100は、硫黄含有原料及びクリンカー原料を焼成してセメントクリンカーを生産するセメントキルン部10、排ガスを抽気するバイパス部12及び1つ又は複数のサイクロンを有するプレヒータ部16を備えるセメントクリンカー焼成部70と、セメントクリンカー焼成部70から排ガスに含まれる亜硫酸ガスを原料スラリーに吸収して、亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーを得る脱硫部60と、セメントクリンカーと亜硫酸スラリーとを含む配合物を粉砕してセメント組成物を得る粉砕部50と、を備える。
【0057】
プレヒータ部16は、原料とセメントキルン部10からの排ガスとを接触させて原料を予熱する。バイパス部12は、セメントキルン部10の窯尻10aとプレヒータ部16のボトムサイクロン(最下部にあるサイクロン)又は仮焼炉(不図示)との間から亜硫酸ガスを含む排ガスを抽気する。このバイパス部12は塩素バイパス部であってよい。セメントキルン部10で製造されたセメントクリンカーは、冷却部11において40〜220℃に冷却されて、サイロ18に導入される。
【0058】
脱硫部60は、バイパス部12から抽気された排ガス及び窯尻10aから抜き出された排ガスを、例えば400℃以下、好ましくは100〜200℃に冷却して凝集する塩素化合物を含むダスト粒子を生成する冷却部17と、排ガスに含まれるダスト粒子の少なくとも一部を除去して、亜硫酸ガスを含む排ガスを得る集塵部19と、排ガスとカルシウム化合物を含む原料スラリーとを接触させて、亜硫酸化合物として亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーを得るスラリー調製部30と、原料スラリーを調製する原料スラリー調製部34を備える。
【0059】
セメントキルン部10では、石炭、及び石油コークス等が燃焼するとともに原料が反応して、二酸化硫黄を含む排ガスが発生する。セメントキルン部10の窯尻10aとプレヒータ部16との間に、バイパス部12を構成する抽気管から抽気されたガスが排ガスとして回収される。このバイパス部12からの排ガス中の二酸化硫黄の濃度は、体積基準(標準状態)で、例えば100〜5000ppm程度であってよい。なお、本開示における二酸化硫黄の濃度は、特に断りがない限り、体積基準(標準状態)の濃度である。
【0060】
排ガスは、窯尻10aから抜き出されてもよい。窯尻10aから抜き出される排ガスの温度は例えば700〜1200℃であり、二酸化硫黄の濃度は500〜10000ppmであってよい。窯尻10aから抜き出された排ガスとバイパス部12からの排ガスは、合流して又は個別に、冷却部17に導入され、例えば100〜200℃程度に冷却される(冷却工程)。冷却部17における冷却は、排ガスに外気(空気)等を混ぜることによって行ってもよいし、冷却水又は空気等との熱を用いたクーラーによって行ってもよい。
【0061】
排ガスを冷却することによって、排ガスに元々含まれるダスト粒子の表面に揮発性の塩素化合物等が凝集する。このようなダスト粒子の少なくとも一部は、集塵部19によって取り除かれる(集塵工程)。集塵部19は、例えばバグフィルタを有する。排ガスがダスト粒子を含んでいてもよい場合、排ガスは、集塵部19をバイパスして、スラリー調製部30に直接導入してもよい。
【0062】
集塵部19で捕集されたダスト粒子は、水洗部31で水洗され塩分が低減される。水洗部31で塩分が低減された水洗ダスト粒子は、例えば、CaO及び/又はCa(OH)
2を含有する。この水洗ダスト粒子は、原料スラリー調製部34に導入されて排ガスの脱硫のみならず亜硫酸カルシウムの原料として有効活用される。なお、集塵部19で捕集されたダスト粒子は水洗されずに、そのまま原料スラリー調製部34に導入されてもよい。
【0063】
集塵部19においてダスト粒子の少なくとも一部が取り除かれた排ガスは、スラリー調製部30に導入される。スラリー調製部30は例えばバブリング槽であり、原料スラリーと排ガスとを接触させる。これによって、二酸化硫黄が原料スラリーに取り込まれて、亜硫酸スラリーを得ることができる。また、大気中への放出が規制される二酸化硫黄の有効利用を図ることができる。このようにスラリー調製部30は、排煙脱硫部としても機能する。なお、原料スラリーと排ガスの接触手段はバブリングに限定されるものではなく、原料スラリーをスプレー散布する方法でもよい。
【0064】
スラリー調製部30には、空気を導入してもよい。これによって、亜硫酸カルシウムの一部を酸化して硫酸カルシウムの二水和物を得てもよい。これによって、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムの二水和物とを含む亜硫酸スラリーを得ることができる。亜硫酸スラリーが硫酸カルシウムの二水和物を含有することによって、配合部51における石膏の配合量を低減又はなくすことができる。
【0065】
スラリー調製部30には、原料スラリー調製部34から原料スラリーが連続的又は断続的に供給される。原料スラリー調製部34には、水及びクリンカー原料(例えば石灰石)を粉砕する粉砕部82で発生するCaCO
3を主成分とする微粒子粉末が供給される。また、原料スラリー調製部34には、上述のダスト粒子及び水洗ダスト粒子に加えて、セメント又はセメント水和物を含む汚泥が導入されてもよい。汚泥としては、例えば、生コン工場で得られる生コンスラッジが挙げられる(原料スラリー調製工程)。
【0066】
スラリー調製部30で脱硫された排ガスは、冷却部11に導入されセメントクリンカーと熱交換する流路を流通して、セメントキルン部10に導入される。これによって、排ガスに残存する亜硫酸ガスを有効活用することができる。また、排ガスがNOxを含有する場合に、大気中へのNOxの放出を抑制することができる。また、集塵部19においてダスト粒子が低減された排ガスの一部は、スラリー調製部30をバイパスし、冷却部11を経由する流路によってセメントキルン部10に導入されてもよい。
【0067】
スラリー調製部30で調製された亜硫酸スラリーの少なくとも一部は、スラリー濃度調整部36に導入される。スラリー濃度調整部36は、脱水又は加水によって、亜硫酸スラリー中の固形分濃度を調整可能に構成される。亜硫酸スラリー中の固形分濃度は、0.1〜95質量%であってよい。亜硫酸スラリーにおける固形分全体に対する亜硫酸化合物の含有量(無水物換算)は、例えば5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0068】
酸化処理部42において、スラリー調製部30で調製された亜硫酸スラリーの一部は酸化処理される。酸化処理は例えば空気をバブリングすることによって行う。このようにして亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーから石膏を含む石膏スラリーが得られる。石膏スラリーは脱水部44で脱水されて石膏が得られる。このようにして得られた石膏は配合部51に導入される。
【0069】
スラリー濃度調整部36における亜硫酸スラリー中の固形分濃度は、セメントクリンカーの温度Tr、セメントミル52から導出されるセメント組成物の温度Tm、及びセメント組成物の強熱減量Igに基づいて上記濃度範囲に制御される。具体的には、セメントクリンカーの温度Tr、セメント組成物の温度Tm、及びセメント組成物の強熱減量Igのそれぞれの測定値が入力信号として制御部38に入力される。制御部38は、3つの入力信号のいずれかを選択し、スラリー濃度調整部36に、亜硫酸スラリー中の固形分濃度の目標値に関する制御信号を出力する。制御部38は、複数の入力信号のうち、固形分濃度を最も多く調整する信号を選択してよい。スラリー濃度調整部36では、制御部38からの制御信号に基づいて、亜硫酸スラリー中の固形分濃度を調整する。制御部38は、上述の3つの測定値と亜硫酸スラリーの固形分濃度との関係を示すテーブルデータを有していてもよいし、相関式データを有していてもよい。
【0070】
スラリー調製部30とスラリー濃度調整部36とを個別に設けることは必須ではない。別の実施形態では、スラリー調製部30において固形分濃度の調整を行ってもよい。この場合、制御部38からの制御信号はスラリー調製部30に入力されてもよい。また、制御部38に入力される測定値は、セメントクリンカーの温度Tr、セメントミル52から導出されるセメント組成物の温度Tm、及びセメント組成物の強熱減量Igから選ばれるいずれか一つであってもよいし、二つであってもよい。
【0071】
固形分濃度が調製された亜硫酸スラリーと、サイロ18に貯留されていたセメントクリンカーは、粉砕部50における配合部51に導入される。セメントクリンカーは、一旦サイロ18に貯留された後に導入されてもよいし、冷却部11から直接導入されてもよい。配合部51に導入されるセメントクリンカーの温度Trは、例えば40〜220℃である。
【0072】
配合部51では、必要に応じて石膏を配合してもよい。亜硫酸スラリーは、亜硫酸カルシウムの半水和物、重亜硫酸カルシウム(Ca(HSO
3)
2)、及び、亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩からなる群より選ばれる少なくとも一つの亜硫酸化合物を含有することが好ましい。この場合、セメント組成物を100質量部としたときに、セメントクリンカーに、亜硫酸スラリーを上記亜硫酸化合物の無水物換算(又は亜硫酸カルシウムの無水物換算)で好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.15〜15質量部、さらに好ましくは0.2〜10質量部、特に好ましくは0.25〜5質量部配合する。これによって、得られるセメント組成物における亜硫酸化合物の含有量を維持しつつ、配合物の粉砕を円滑に行うことができる。亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムとの複塩を含む場合は、複塩における亜硫酸カルシウムが上述の質量割合で含有されてよい。セメントクリンカー100質量部に対する石膏の配合比は、SO
3換算で1.5〜20質量部程度であってよい。
【0073】
セメントクリンカー、亜硫酸スラリー及び必要に応じて石膏を含む配合物は、セメントミル52に導入される。セメントミル52は、ボールミルであってよいし竪型ミルであってもよい。セメントミル52は、粉砕時の摩擦熱により温度が上昇する傾向にある。セメントミル52内部の温度が過剰に上昇しないようにセメントミル52内に散水することが行われる。したがって亜硫酸スラリーが適量の水分を含むことによって、セメントミル52内の過剰な温度上昇を抑制することができる。このため、亜硫酸化合物をスラリー状で配合することは、セメントミル52内への散水量の低減にも寄与する。
【0074】
セメントミル52の出口におけるセメント組成物の温度Tmは、20℃〜180℃であってよく、好ましくは40℃〜150℃であり、より好ましくは50℃〜140℃であり、さらに好ましくは60〜95℃である。温度Tmが低くなり過ぎると、亜硫酸スラリーの水分がセメント組成物と水和反応を起こす傾向がある。一方、温度Tmが高くなり過ぎると、亜硫酸カルシウムが酸化されて硫酸カルシウムに変化する傾向がある。すなわち、温度Tmを上述の温度範囲にすることによって、亜硫酸カルシウムの酸化を抑制しつつ、配合物の乾燥が十分な速度で進行する。また、セメントクリンカー、亜硫酸カルシウム及び石膏を十分均一に混合することができる。
【0075】
このようにして得られる、六価クロムの溶出量を低減することが可能なセメント組成物は、サイロ54に収容される。セメント組成物の強熱減量Ig(ig.loss)は、例えば1.0〜8.0質量%であってよい。
【0076】
集塵部19の下流側には、排ガスのSO
2濃度Sgを測定する測定器が設置されている。また、窯尻10aには、ダスト中のSO
3濃度Spを測定する測定器が設置されている。SO
2濃度Sgは、原料の硫黄分を調整して500〜10000ppmに制御される。原料の硫黄分の調整は、硫黄含有原料の供給量を変更して行ってもよいし、硫黄含有原料中の硫黄濃度を変更して行ってもよい。
【0077】
具体的には、排ガスのSO
2濃度Sg及びダスト中のSO
3濃度Spのそれぞれの測定値が入力信号として制御部84に入力される。制御部84は、2つの入力信号のどちらかを選択し、硫黄含有原料の供給量調節部86に、排ガスのSO
2濃度Sgの目標値に関する制御信号を出力する。制御部84は、SO
2濃度SgとSO
3濃度Spのそれぞれの入力信号に基づいて、上記目標値に関する制御信号を導出してよい。供給量調節部86は、制御部84からの制御信号に基づいて、硫黄含有原料の供給量を調節する。制御部84は、上述の2つの測定値と硫黄含有原料の供給量との関係を示すテーブルデータを有していてもよいし、相関式データを有していてもよい。制御部84は、排ガスのSO
2濃度Sg及びダスト中のSO
3濃度Spの一方に基づいて硫黄含有原料の供給量を調節してもよい。
【0078】
本実施形態では、粉砕部50は、配合部51とセメントミル52を備えるが、これに限定されない。例えば、変形例では、セメントクリンカー、亜硫酸スラリー及び必要に応じて配合される石膏は、セメントミル52に直接投入され、セメントミル52で配合及び粉砕を行ってもよい。また、セメントクリンカーと石膏を配合部51で配合し、配合部51からセメントミル52に得られた配合物を搬送するベルトコンベア上において、配合物に亜硫酸スラリーを散布し、セメントミル52で粉砕を行ってもよい。
【0079】
別の変形例では、セメントキルン部10から導出されるセメントクリンカーのクロム含有量に応じて、セメントクリンカーに対する亜硫酸スラリーの配合比を調整する制御部を備えていてもよい。セメントクリンカーのクロム含有量は、所定の頻度でサイロ18からサンプリングして計測してもよいし、セメントクリンカー焼成部70に導入される原料に含まれるクロム含有量から計算で求めてもよい。
【0080】
制御部は、上述のようにして求められるセメントクリンカーのクロム含有量の入力値に基づいて、セメントクリンカーに配合される亜硫酸スラリーの量を算出する。制御部は、セメントクロム含有量と亜硫酸スラリーの配合量の関係を示すテーブルデータを有していてもよいし、両者の相関式データを有していてもよい。制御部は、このようなデータを用いて亜硫酸スラリーの配合量を算出する。制御部は算出結果に基づいて、例えば、亜硫酸スラリーの流量を調節する流量調節弁の制御を行う。このようにして、セメントクリンカーに対する亜硫酸スラリーの配合比を調整することができる。このような制御は、流動性を有するスラリーであるために簡便な設備で実施することができる。
【0081】
セメント組成物の製造システム100及びその変形例は、上述のセメント組成物の製造方法の内容に基づいて使用してもよい。したがって、セメント組成物の製造方法で説明した内容はセメント組成物の製造システムにも適用される。また、製造システム100及びその変形例の説明内容は、上述のセメント組成物の製造方法にも適用される。本開示のセメント組成物の製造システムは、亜硫酸スラリーの製造と、排ガスの脱硫を併せて行うことが可能であるうえに、スラリーの脱水設備等を設けたり、脱水後の固形物用の専用タンク、計量機、輸送設備を設けたりすることが必要ではなくなる。このため、設備の導入コスト及び運転コストを十分に低減することができる。ただし、本開示は、このような設備を備えるものを排除するものではない。
【0082】
図2は、セメント組成物の製造システムの別の実施形態を示す図である。この実施形態では、セメント組成物の製造システム101は、亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーを調製するスラリー調製部30に代えて、亜硫酸マグネシウムを含む水溶液又はスラリーを調製する第1調製部30A及び第1調製部30Aで調製された亜硫酸マグネシウムを含む水溶液又はスラリーとカルシウム化合物とを混合して亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーを調製する第2調製部32を備える点で、セメント組成物の製造システム100と異なっている。その他の要素は、セメント組成物の製造システム100と同じであることから、セメント組成物の製造システム100と異なる点を説明する。
【0083】
第1調製部30Aでは、水酸化マグネシウムを含む水溶液に、亜硫酸ガスを含む排ガスが吸収される。これによって、亜硫酸マグネシウムを含む水溶液又はスラリーが得られる。亜硫酸マグネシウムは、亜硫酸カルシウムに比べて水に対する溶解度が高いため、第1調製部30Aにおける固形分の閉塞を抑制することができる。第1調製部30Aで調製された水溶液又はスラリーには、第1調製部30Aの下流側に設けられた第2調製部32において原料スラリー調製部34から原料スラリーが加えられる。原料スラリーは、例えば、クリンカー原料を粉砕するときに発生する、CaCO
3を主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部で発生するCaO及び/又はCa(OH)
2を含むダスト粒子、ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子、並びにセメント及び/又はセメント水和物を含む汚泥からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。これによって、第2調製部32では亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーを得ることができる。
【0084】
第1調製部30Aは、排ガスが外部に放出されることを抑制するため、ある程度の気密性を維持する必要がある。このため、メンテナンス頻度を低くすることが好ましい。本実施形態では、亜硫酸塩の中で、亜硫酸カルシウムをよりも水に対する溶解度が高い亜硫酸マグネシウムをまず生成させ、その後、第2調製部32で亜硫酸カルシウムを含む亜硫酸スラリーを調製している。したがって、亜硫酸カルシウムのスケーリングによる第1調製部30Aのメンテナンス頻度を低減し、プロセスの安定性を向上することができる。
【0085】
本実施形態では、第1調製部30Aにおいて水酸化マグネシウムを用いたがこれに限定されず、亜硫酸カルシウムよりも水に対して高い溶解度を有する亜硫酸化合物を生成することが可能な塩を用いることができる。このような塩として、Ca及びMgとは異なるアルカリ土類金属又はアルカリ金属の塩を用いることが可能であり、例えば、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムが挙げられる。
【0086】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、制御部38,84を設けることは必須ではなく、オペレータがマニュアルでこれらの制御を行ってもよい。
【実施例】
【0087】
実施例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
市販のCaCO
3粉末と水とを配合して、固形分の割合が3質量%である原料スラリー(0.4L)を調製した。セメント組成物の製造装置の塩素バイパス部から抽気ガスを採取した。採取した抽気ガスは、約200℃まで冷却した後、バグフィルタでダスト粒子を除去した。ダスト粒子除去後の抽気ガスにおける二酸化硫黄の濃度は1500ppm(体積基準)であった。この抽気ガスを、原料スラリー中に吹き込んでバブリングさせ、抽気ガス中の硫黄酸化物を原料スラリーに吸収させた。これによって、亜硫酸カルシウムを含有する亜硫酸スラリーが得られた。得られたスラリーの固形分の割合は約10質量%であった。
【0089】
亜硫酸スラリーの濾過を行って固形分を回収した。回収した固形分を約40℃の空気雰囲気下で乾燥させた。X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、加速電圧:30kV、電流:10mA、管球:Cu)を用いて、得られた固形分のX線パターンを測定した。X線パターンは、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Topas(R))を用いてリートベルト解析を行い、CaCO
3、Ca(OH)
2、CaSO
3・0.5H
2O、及びCaSO
4・2H
2Oを定量した。分析結果は表1に示すとおりであった。
【0090】
(実施例2)
CaCO
3粉末に代えて、Ca(OH)
2粉末を用いて原料スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして亜硫酸スラリーを得た。実施例1と同様にして、得られた亜硫酸スラリーのX線回折を行った。分析結果は表1に示すとおりであった。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すとおり、実施例1、2において、亜硫酸カルシウム半水和物が、それぞれ9質量%、23質量%検出された。この結果から、亜硫酸を含む排ガスを接触させた後の亜硫酸スラリーには、亜硫酸カルシウムが含まれることが確認された。このようにして得られた亜硫酸スラリーを、粉砕工程に用いることで、六価クロムの溶出を低減することが可能なセメント組成物を製造することができる。