特許第6763445号(P6763445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6763445担体構造、薬物担体の製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763445
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】担体構造、薬物担体の製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/30 20060101AFI20200917BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200917BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20200917BHJP
   A61K 31/43 20060101ALI20200917BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20200917BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20200917BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20200917BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20200917BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200917BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   A61K47/30
   A61K47/36
   A61K47/32
   A61K31/43
   A61K31/7048
   A61K31/4439
   A61P31/04
   A61P1/04
   A61P35/00
   A61K9/14
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-7200(P2019-7200)
(22)【出願日】2019年1月18日
(65)【公開番号】特開2019-127485(P2019-127485A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年1月18日
(31)【優先権主張番号】201810053594.0
(32)【優先日】2018年1月19日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518403296
【氏名又は名称】近鎰生技股▲ふん▼有限公司
(72)【発明者】
【氏名】楊 淑娟
(72)【発明者】
【氏名】王 忠豪
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0356433(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104840428(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第107412779(CN,A)
【文献】 特表2007−520424(JP,A)
【文献】 Colloids and Surfaces B:Biointerfaces ,2016年,Vol.141,pp.223-232
【文献】 International Journal of Pharmaceutics,2013年,Vol.456,pp.31-40
【文献】 Pharmaceutical Research,2009年 8月,Vol.26, No.8,pp.1918-1930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00−9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物担体の製造方法であって、
pH値が6〜8である負電荷を帯びたポリマーの水溶液100重量部を提供するステップと、
pH値が6〜8である三りん酸五ナトリウム水溶液330〜1000重量部を提供するステップと、
pH値が6〜8である活性物質水溶液2000〜3000重量部を提供するステップと、
前記負電荷を帯びたポリマーの水溶液、前記三りん酸五ナトリウム水溶液及び前記活性物質水溶液を混合するステップと、
pH値が3〜5であるキトサン水溶液830〜2500重量部を加え、活性混合物をを形成するステップと、
前記活性混合物を5〜60分反応させ、前記負電荷を帯びたポリマー、前記三りん酸五ナトリウム、前記活性物質及び前記キトサンを自己組立させて、前記薬物担体を形成するステップとを含むこと、
前記負電荷を帯びたポリマーの水溶液は負電荷を帯びたポリマーをNaOH水溶液に溶解することにより得られること、
前記活性物質水溶液は活性物質をNaOH水溶液に溶解することにより得られるし、前記活性物質はヘリコバクター・ピロリを阻害することができる物質であること、
前記薬物担体が前記活性物質に対する被覆率は58.9±1.17 %〜75%であることを特徴とする、薬物担体の製造方法。
【請求項2】
前記薬物担体の粒径は110〜160nmの間にあることを特徴とする、請求項に記載の薬物担体の製造方法。
【請求項3】
前記薬物担体が水溶液中の表面電位は15〜30mVの間にあることを特徴とする、請求項に記載の薬物担体の製造方法。
【請求項4】
前記活性物質は、アモキシシリン、クラリスロマイシン、オメプラゾール、ペニシリンまたはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項に記載の薬物担体の製造方法。
【請求項5】
前記負電荷を帯びたポリマーは、アルギン酸塩、ヘパリン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリマレイン酸、ヒアルロン酸、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項に記載の薬物担体の製造方法。
【請求項6】
前記薬物担体中の活性物質は、前記薬物担体の重量の32%〜38%を占めることを特徴とする、請求項に記載の薬物担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一種の担体構造、その担体構造を応用する薬物担体、その製造方法及びその使用に関わり、具体的には、ヘリコバクター・ピロリを阻害する薬物担体、その製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の中に、胃で分泌された胃酸やペプシンは食物を分解消化する以外に、経口的に侵入した有害な細菌も除去することができる。しかし、ヘリコバクター・ピロリが人体に感染した後、それが分泌するウレアーゼは尿素をアルカリ性のアンモニアに変換することで、胃酸による損傷から逃れられる。また、ヒト免疫システムと細菌に対抗する時、胃の保護メカニズムは慢性炎症により損害され、慢性炎症または消化性潰瘍(胃壁または十二指腸壁の損傷)を引き起こす。適切に治療されないと、消化管出血、穿孔、または閉塞などの合併症を引き起こす可能性があり、最悪の場合、胃がんを引き起こす可能性がある。患者のヘリコバクター・ピロリ感染率は、慢性胃炎では100%、十二指腸潰瘍では90−95%、胃潰瘍では60−80%、胃リンパ腫では80%、胃癌では90%である。
【0003】
一般的に、ヘリコバクター・ピロリの感染率は年齢とともに増加し、その発生率も地域の発展度合いによって異なっている。ほとんどすべての開発途上国の成人がこの微生物を保有しているが(感染率は約90%)、先進国の感染率は大幅に低くなっている(感染率は約11%)。
【0004】
ヘリコバクター・ピロリの根絶治療は、主に「三重療法」または「四重療法」と呼ばれ、プロトンポンプ阻害剤と抗生物質の組み合わせによって治療される。しかし、ヘリコバクター・ピロリの根絶治療の治療時間は長く、単回投与の薬物の数量は約10個があり、且つその薬物は、眩暈、下痢、舌苔の増やし、味覚障害、アレルギーなどの副作用を引き起こし、患者のコンプライアンスが低くなるため、治療が失敗しがちになる。
【0005】
従来技術において、架橋ポリグルカミンとアモキシシリンを含むナノ粒子に関する技術が公開されており、すなわち、アニオン性界面活性剤と油を添加、混合して油中水型エマルジョンを形成することにより、架橋ポリグルカミンを介してアモキシシリンを被覆する技術である。その技術において、粒子の粒径は100〜600nmであり、被覆されたアモキシシリンはナノ粒子の重量の少なくとも5%(w/w)を占める。経口で投与する場合、前記ナノ粒子が胃の中の滞留時間は、遊離アモキシシリンまたはミクロンサイズの粒子の場合より長い。
【0006】
また、シェルコア(Shell−Core)薬物構造の技術があり、その技術は、アルギン酸塩をマトリックスとして薬物を被覆してマイクロスフェアを形成し、キトサン外膜でマイクロスフェアを被覆して薬物構造を形成する。そして、コロイド形態のアルギン酸塩を介して徐放効果を達成する。このような薬物構造は、胃酸から薬物を守るのに役立つが、胃潰瘍の治療に使用するとき、複数の薬物を使用する必要があるという欠点が残されている。
【0007】
更に、アルギン酸塩とキトサンを組み合わせた薬物構造も存在し、その薬物構造には、パントテン酸カルシウムが添加されることで、アルギン酸ナトリウムがコロイド粒子を形成して薬物を被覆する。前記薬物構造は、含有薬物を2時間内放出するインスタントリリース特性を有するが、胃潰瘍の治療に使用するとき、複数の薬物を使用する必要があるという問題は依然として解決されていない。
【0008】
以上のように、薬物構造を改善することは、胃潰瘍の臨床治療の現状を打破する一つの方策であるかもしれない。前述の技術に示された薬物はすべてアルギン酸塩及びキトサンの使用に関わるが、有効性は異なっていて、改良の余地がまだ残されている。すなわち、アルギン酸塩とキトサンは薬物担体を製造するための有望な材料であるが、構成比例、構成する構造、製造方法、または製造された担体の大きさなど様々なパラメータは、実質的に製造された薬物構造の効率及び特性を影響する。最良の効果を発揮する比例及び製造方法に対する探求は、このフィールドに最も重要且つ創新的な特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】台湾特許公開公報第201446267号
【発明の概要】
【0010】
上記のように、本発明の目的は一種の担体構造の製造方法を提供する。この方法は、pH値が6〜8である負電荷を帯びたポリマーの水溶液100重量部を提供するステップと、pH値が6〜8である三りん酸五ナトリウム水溶液330〜1000重量部を提供するステップと、pH値が3〜5であるキトサン水溶液830〜2500重量部を提供するステップと、前記負電荷を帯びたポリマーの水溶液、前記三りん酸五ナトリウム水溶液及び前記キトサン水溶液を混合して出発混合物を形成するステップと、前記出発混合物を5〜60分反応させ、前記負電荷を帯びたポリマー、前記三りん酸五ナトリウム及び前記キトサンを自己組立させて、前記担体構造を形成するステップとを含む。
【0011】
好ましくは、担体構造の粒径は90〜150nmの間にある。
【0012】
好ましくは、担体構造が水溶液中の表面電位は15〜30mVの間にある。
【0013】
好ましくは、負電荷を帯びたポリマーは、アルギン酸塩、ヘパリン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリマレイン酸(Poly(maleic acid))、ヒアルロン酸またはそれらの組み合わせを含む。
【0014】
本発明の製造方法により製造された担体構造は、優れた生体適合性を有するだけでなく、薬物放出や体内滞留時間にも改善され、薬物効果を向上させる。
【0015】
また、本発明は薬物担体を製造する方法をさらに提供する。この方法は、pH値が6〜8である負電荷を帯びたポリマーの水溶液100重量部を提供するステップと、pH値が6〜8である三りん酸五ナトリウム水溶液330〜1000重量部を提供するステップと、pH値が6〜8である活性物質水溶液2000〜3000重量部を提供するステップと、前記負電荷を帯びたポリマーの水溶液、前記三りん酸五ナトリウム水溶液及び前記活性物質水溶液を混合するステップと、pH値が3〜5であるキトサン水溶液830〜2500重量部を加え、活性混合物をを形成するステップと、前記活性混合物を5〜60分反応させ、前記負電荷を帯びたポリマー、前記三りん酸五ナトリウム、前記活性物質及び前記キトサンを自己組立させて、前記薬物担体を形成するステップとを含む。
【0016】
好ましくは、薬物担体の粒径は110〜160nmの間にある。
【0017】
好ましくは、薬物担体が水溶液中の表面電位は15〜30mVの間にある。
【0018】
好ましくは、前記活性物質は、ヘリコバクター・ピロリの活性を阻害する。
【0019】
好ましくは、前記活性物質は、アモキシシリン、クラリスロマイシン、オメプラゾール、ペニシリンまたはそれらの組み合わせを含む。
【0020】
好ましくは、負電荷を帯びたポリマーは、アルギン酸塩及びポリアクリル酸からなる群から選択される。
【0021】
好ましくは、薬物担体が前記活性物質に対する被覆率は55%〜75%である。
【0022】
好ましくは、薬物担体中の前記活性物質は、前記薬物担体の重量の32%〜38%を占める。
【0023】
本発明の製造方法により製造された薬物担体は、上述の組成比と溶媒の選択によって設計されているので、薬物効果をより完全に発揮させることができ、治療効果も向上する。また、本発明の薬物担体の製造方法は、簡便であるだけでなく、製造された薬物担体の被覆率が高く、安定且つ生体適合性の高い粒径及び表面電荷を有する。
【0024】
更に、本発明は上記の薬物担体を胃腸疾患薬物としての使用を提供し、前記薬物担体を提供すること、及び前記薬物担体をホストの体内のヘリコバクター・ピロリに有効量の前記薬物担体を投与することを含む。
【0025】
好ましくは、有効量は、毎日1〜10mg/体重kgである。
【0026】
好ましくは、ホストはヒトである。
【0027】
好ましくは、胃腸障害を治療するための薬物は、アジュバント、賦形剤、製薬上許容される担体、またはそれらの組み合わせをさらに含む。
【0028】
好ましくは、胃腸疾患は、ヘリコバクター・ピロリによって引き起こされる疾患である。
【0029】
好ましくは、胃腸疾患は、慢性胃炎、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胃リンパ腫、胃癌及び胃粘膜萎縮症、腸上皮化生またはそれらの組み合わせを含む。
【0030】
上述のように、本発明の担体構造及び薬物担体に含まれる成分の種類及び比例は、生体内に活性物質の放出及び滞留時間を改善することができるため、薬物の効果をより完全に発揮することができる。さらに、本発明の薬物構造において、含まれる成分が相互の帯電特性によって互いに静電的に引き寄せられ、活性成分の高被覆率が達成されるように設計されている。換言すれば、本発明の薬物構造は、その成分の混合構造であり、非シェルコア構造を有し、油中水型エマルションを形成するためにアニオン性界面活性剤及び油の添加を必要としない。したがって、シェルコア構造または油中水型構造の従来の薬物よりも製造方法がはるかに簡単である。
【0031】
また、本発明の薬物構造が粘膜組織に付着して胃壁の細胞層の中性環境に接近すると、アルギネートまたはポリアクリル酸とキトサンの荷電特性の変化が薬物担体のナノ構造を徐々に崩れさせるため、薬物担体中の活性成分が放出される。
そのような放出特性は、病原体が蓄積する場所により近い位置で薬物を放出することができるため、活性成分の有効性を高めることができる。
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明することにより、上記した内容及び他の特徴と利点は、当業者にとって明らかになるであろう。そのうち:
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の担体構造の製造方法の一実施例によるフローチャートである。
図2図2は、本発明の薬物担体の製造方法の一実施例のフローチャートである。
図3図3は、本発明の薬物担体のサンプルの粒径、表面電位及びpH値の関係図である。
図4図4は、図3のサンプルの透過型電子顕微鏡によって観察された画像である。
図5図5は、本発明の薬物担体の別のサンプルの粒径、表面電位及びpHの関係図ある。
図6図6は、図5前記サンプルの透過型電子顕微鏡によって観察された画像である。
図7図7は、本発明の薬物担体のインビトロ実験結果を示す図である。
図8図8は、本発明の薬物担体のインビトロ実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示的な実施例は、添付の図面を参照して以下でより完全に説明されるが、それらは異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本願とその範囲を当業者により完全的に理解させるように提供される。
【0035】
本発明の担体構造及び薬物担体は、従来技術よりも薬物の有効性を改善するために有用な、特定の成分及び比率、ならびに混合順序を選択することによって製造される。特に、本発明の担体構造、及び活性物質と組み合わせにより得られる薬物担体は、単一の薬物を用いる場合でも優れたヘリコバクター・ピロリの阻害効果を有することができるため、水素プロトンポンプ阻害剤と複数の有効成分と同時に使用する胃潰瘍を治療するための従来技術の現状を打破することができる。
【0036】
本文において記載された「ヘリコバクター・ピロリを阻害する」効果は、巨視的に言うと、「ヘリコバクター・ピロリのコロニーのサイズを抑制する」、「ヘリコバクター・ピロリのコロニーを減少させる」及び/または「ヘリコバクター・ピロリのコロニーを消滅する」能力である;微視的に言うと、「ヘリコバクター・ピロリの生理作用を低下させる」、「ヘリコバクター・ピロリの感染力を低下させる」及び/または「ヘリコバクター・ピロリを殺す」能力である。
【0037】
「ヘリコバクター・ピロリを阻害することができる物質」とは、前記「ヘリコバクター・ピロリを阻害する」効果を有する物質、例えば、アモキシシリン(Amoxicillin)、クラリスロマイシン(Clarithromycin)、オメプラゾール(Omeprazole)、ペニシリン(Penicillin)などを意味する。具体的には、本開示において、「活性物質」とは、ヘリコバクター・ピロリを阻害することができる物質を意味する。
【0038】
「ヘリコバクター・ピロリの阻害を補助する物質」とは、上記「ヘリコバクター・ピロリを阻害する」能力を直接的に有さないが、「ヘリコバクター・ピロリを阻害する物質」の効果に寄与する物質を意味する。より具体的には、胃潰瘍の現在の治療において、3イン1または4イン1の抗生物質の使用に加えて、水素プロトンポンプ阻害剤の使用が依然として必要とされている。水素プロトンポンプ阻害剤は、ヘリコバクター・ピロリを阻害する能力を直接的には有しておらず、抗生物質の効果を増強する補助効果を有する。具体的には、「ヘリコバクター・ピロリの阻害を補助する物質」の物質は、前述の水素プロトンポンプ阻害剤、エリキシル剤等であってもよい。
【0039】
「ヘリコバクター・ピロリの阻害を補助する物質」には、薬物の投与を助けるため、薬物の味を改善するため、または薬物の有効期間を延ばすために薬理学で設計された物質は含まれていない。すなわち、薬学的担体、香味料、または防腐剤など薬物構造に一般に使用される添加剤は含まれていない。
【0040】
本発明の製造方法においては、近年注目されている天然高分子であるキトサン(chitosan)が用いられている。キトサンの供給源は、大部分がキチン(chitin)を高濃度の熱塩基で処理して脱アセチル化反応を行い、キチンのアセチル基をアミン基に変換することによって得られる。キトサン分子は酸性環境で正電荷と粘膜接着性(Mucoadhesive)を有するため、医薬分野で広く使用することができる。一般に市販されているキトサン分子は、約3,800〜20,000kDaの分子量及び66〜95%の脱アセチル化度を有する。高反応性のアミン基及びヒドロキシル基を有するため、他の誘導体に製造されることができ、且つ弱酸性水溶液に溶解されることができる。したがって、用途の需要に応じて、フィルム、ビード、ファイバーまたはゲルに形成することができる。
【0041】
本発明に採用されたキトサンの分子量は、4,000kDa、5,000kDa、6,000kDa、7,000kDa、8,000kDa、9,000kDa、10,000kDa、11,000kDa、12,000kDa、13,000kDa、14,000kDa、15,000kDa、16,000kDa、17,000kDa、18,000kDa、19,000kDa、20,000kDaまたはそれらの間の範囲内であることができる。本発明に採用されたキトサンの脱アセチル化度は、66%、68%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%またはそれらの間の範囲内であることができる。好ましくは、キトサンの分子量は約15,000Daであり、脱アセチル化度は84%である。
【0042】
本発明に採用された負電荷を帯びたポリマー(Negatively charged polymer)は、中性及び酸性環境における負電荷を帯びたポリマーを意味する。例えば、pH値が1〜8である環境で負電荷を帯びたポリマー;好ましくは、pH値が2〜8の環境で負電荷を帯びたポリマー。負電荷を帯びたポリマーは、アルギン酸塩、ヘパリン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリマレイン酸またはヒアルロン酸を含むが、これらに限定されない。好ましくは、負電荷を帯びたポリマーは、アルギン酸塩及びポリアクリル酸である。
【0043】
活性物質は、治療、予防、検出などを目的としたすべての化合物を意味する。本発明において、胃潰瘍を治療するための化合物であってもよく、即ち、上記のヘリコバクター・ピロリを阻害する作用を有する物質、例えば、アモキシシリン、クラリスロマイシン、オメプラゾール、ペニシリンなどを含む。本発明の薬物構造は、ヘリコバクター・ピロリを阻害するいくつかの物質を含むことができる。好ましくは、ヘリコバクター・ピロリを阻害する単一物質のみが、本発明の薬物構造中の有効成分として使用される。
【0044】
好ましくは、キトサン、負電荷を帯びたポリマー、三りん酸五ナトリウム、及び/または活性物質は溶液状態である。溶液状態は前記成分のpH値の制御に役に立ち、それにより各成分を適切な荷電状態になる。
【0045】
以下、本発明の技術について実施の形態および添付図面を参照して詳細に説明する。しかしながら、以下の説明は例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0046】
本発明の担体構造の製造方法の一実施例においては、ステップS11〜S13を含む。ステップS11は、pH値が6〜8である負電荷を帯びたポリマーの水溶液100重量部と、pH値が6〜8である三りん酸五ナトリウム水溶液330〜1000重量部と、pH値が3〜5であるキトサン水溶液830〜2500重量部を調製する。
【0047】
すなわち、負電荷を帯びたポリマーの水溶液は100重量部である場合、三りん酸五ナトリウム水溶液は、330、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000重量部またはそれらの間にある範囲内であることができる;キトサン水溶液は830、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500重量部またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0048】
そのうち、負電荷を帯びたポリマーの水溶液の濃度は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。三りん酸五ナトリウム水溶液の濃度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。キトサン水溶液の濃度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0049】
そして、ステップS12において、前記負電荷を帯びたポリマーの水溶液、前記三りん酸五ナトリウム水溶液及び前記キトサン水溶液を混合して出発混合物を形成する。一定の反応時間後に前記出発混合物は自己組み立てて本発明の担体構造を形成する。好ましくは、反応時間は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60分またはそれらの間にある範囲内であることができる。好ましくは、反応温度は、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0050】
上記の方法によって製造された担体構造は、貯蔵中に安定した荷電状態を維持し、安定した構造を維持することができる。さらに、上記の方法において、所望の粒径を有する担体構造を得るために、押出などの粒径均一化または微細化工程を含まない。好ましくは、担体構造内の構成要素の適切な荷電状態を維持して、担体構造自体を維持するために、得られた担体構造を適切なpH値を有する溶液中に貯蔵及び/または使用することができる。前記適切なpH値は、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5またはそれらの間にある範囲内である。
【0051】
本実施例の担体構造において、キトサン、負電荷を帯びたポリマー、三りん酸五ナトリウムは、静電引力により特定の大きさの粒子に自己組み立てることができ、良好な生体適合性を有する。好ましくは、組み立てられた担体構造は、80nm、85nm、90nm、95nm、100nm、105nm、110nm、115nm、120nm、125nm、130nm、135、140nm、145nm、150nm、155nm、160nmまたはそれらの間にある範囲内であるナノサイズを有することができる。上記粒径のナノ粒子は、生体内での吸収効率に有利であり、薬物使用時の担体構造の機能を高めることができる。
【0052】
更に、組み立てられた担体構造表面の表面電位はポジティブであり、好ましくは、15mV、16mV、17mV、18mV、19mV、20mV、21mV、22mV、23mV、24mV、25mV、26mV、27mV、28mV、29mV、30mVまたはそれらの間にある範囲内であることができる。上記範囲の表面電荷を表面に有する構造は、胃内の担体構造の滞留時間に寄与する。
【0053】
一方、本発明の薬物担体の製造方法の一実施例には、ステップS21〜S24を含む。ステップS21において、pH値が6〜8である負電荷を帯びたポリマーの水溶液100重量部を提供する;pH値が6〜8である三りん酸五ナトリウム水溶液330〜1000重量部を提供する;pH値が6〜8である活性物質水溶液2000〜3000重量部を提供する;負電荷を帯びたポリマーの水溶液、三りん酸五ナトリウム水溶液及び活性物質水溶液を混合する。
【0054】
すなわち、負電荷を帯びたポリマーの水溶液は100重量部である場合、三りん酸五ナトリウム水溶液は、330、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000重量部またはそれらの間にある範囲内であることができる;活性物質の水溶液は2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、2650、2700、2750、2800、2850、2900、2950、3000重量部またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0055】
そのうち、負電荷を帯びたポリマーの水溶液の濃度は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。三りん酸五ナトリウム水溶液の濃度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。活性物質水溶液の濃度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0056】
そして、ステップS22において、前記負電荷を帯びたポリマーの水溶液、前記三りん酸五ナトリウム水溶液及び前記活性物質の水溶液を混合る。一定の反応時間後にステップS23に移行する。好ましくは、反応時間は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25分またはそれらの間にある範囲内であることができる。好ましくは、反応温度は、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0057】
ステップS23において、pH値が3〜5であるキトサン水溶液830〜2500重量部を加え、活性混合物をを形成する。次にステップS24に移行する。活性混合物を5〜60分反応させ、負電荷を帯びたポリマー、三りん酸五ナトリウム、活性物質及びキトサンを自己組立させて、活性物質を含む薬物担体を形成する。すなわち、負電荷を帯びたポリマーの水溶液は100重量部である場合、キトサン水溶液は、330、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000重量部またはそれらの間にある範囲内であることができる;キトサン水溶液は830、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500重量部またはそれらの間にある範囲内であることができる;キトサン水溶液の濃度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mg/mlまたはそれらの間にある範囲内であることができる;且つpH値は、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0058】
好ましくは、キトサンを加えた後の反応時間は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30分またはそれらの間にある範囲内であることができる。。好ましくは、反応温度は、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃またはそれらの間にある範囲内であることができる。
【0059】
また、上記の方法によって製造された薬物担体は、貯蔵中に安定した荷電状態を維持し、安定した構造を維持することができる。さらに、上記の方法において、所望の粒径を有する担体構造を得るために、押出などの粒径均一化または微細化工程を含まない。好ましくは、担体構造内の構成要素の適切な荷電状態を維持して、担体構造自体を維持するために、得られた担体構造を適切なpH値を有する溶液中に貯蔵及び/または使用することができる。前記適切なpH値は、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5またはそれらの間にある範囲内である。
【0060】
本実施例中の薬物担体において、キトサン、負電荷を帯びたポリマー、三りん酸五ナトリウム及び活性物質は、静電引力により特定の大きさの粒子に自己組み立てることができ、良好な生体適合性を有する。好ましくは、組み立てられた担体構造は、100nm、105nm、110nm、115nm、120nm、125nm、130nm、135nm、140nm、145nm、150nm、155nm、160nm、165nm、170nmまたはそれらの間にある範囲内であるナノサイズを有することができる。上記粒径のナノ粒子は、生体内での吸収効率に有利であり、薬物使用時の担体構造の機能を高めることができる。
【0061】
更に、組み立てられた担体構造表面の表面電位はポジティブであり、好ましくは、15mV、16mV、17mV、18mV、19mV、20mV、21mV、22mV、23mV、24mV、25mVまたはそれらの間にある範囲内であることができる。上記範囲の表面電荷を表面に有する構造は、胃内の担体構造の滞留時間に寄与する。
【0062】
注意すべきのは、本発明の担体構造及び医薬担体の製造方法において、活性物質以外の3種類の材料、すなわち、負電荷を帯びたポリマーの水溶液、キトサン水溶液及び三りん酸五ナトリウム水溶液の混合順序は変更することができる。好ましくは、担体構造の製造方法において、負電荷を帯びたポリマーの水溶液、キトサン水溶液及び三りん酸五ナトリウム水溶液を直接混合することができる。しかし、薬物担体の製造方法において、負電荷を帯びたポリマーの水溶液と、三りん酸五ナトリウム水溶液と、活性物質水溶液とを混合してから、キトサンの水溶液を混合することは、被覆率を高めることができる。
【0063】
本実施例において、薬物担体が前記活性物質に対する被覆率は55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%またはそれらの間にある範囲内であることができる。薬物担体中の活性物質は、前記薬物担体の重量の約30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%またはそれらの間にある範囲内を占めることができる。
【0064】
上述のように、本発明は胃腸疾患を治療するための薬物担体の使用をさらに提供する。前記使用の一実施例において、薬物担体を提供すること、及び薬物担体をホストの体内のヘリコバクター・ピロリまたはそのコロニーに有効量の薬物担体を投与することを含む。また、ヘリコバクター・ピロリを阻害することを意図していない他のステップも含まれており、投与量の削減、薬物による副作用の緩和、及び患者の休憩を助けるなどが含まれる。
【0065】
本実施例において、有効量とは、ホストの不快感や副作用を引き起こすことなくヘリコバクター・ピロリを効果的に抑制することができる薬物担体の投与量であってもよい。好ましくは、有効量は0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10mg/kg/日またはそれらの間にある範囲内であることができる。また、毎日の有効量は、複数回投与または数日に1回投与することができる。好ましくは、1日1回、1日2回、1日3回、2日に1回、3日に1回、またはその間の範囲であることができる。
【0066】
以下、本発明により提供される担体構造及び薬物担体の例を説明し、且つその物理化学的性質を測定し、分析する。
【0067】
本発明の担体構造の一実施例において、キトサンを0.01Mの酢酸に溶解して、濃度0.5mg/ml、pH=4.0のキトサン溶液を調製し、アルギン酸塩またはポリアクリル酸塩を0.01NのNaOHに溶解して、濃度0.5mg/ml、pH=7.4のアルギン酸塩溶液またはポリアクリル酸溶液を調製し、そして、アモキシシリンを0.01NのNaOHに溶解して、濃度1.5mg/ml、pH=7.4のアモキシシリン溶液を調製する。次に、ステップS11〜S13に従い、下記表1〜2に記載された割合で本実施例のサンプルを調製し、得られたサンプル1〜7の粒径分析及び表面電位分析の結果は下記表3に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
一方、本発明の薬物担体の一実施例では、上記担体構造と同様のキトサン溶液、アルギン酸塩溶液、三りん酸五ナトリウム溶液が調製されている。ステップS21〜S24に従っい、下記表4〜5に記載された割合で本実施例のサンプルを調製し、得られたサンプルA〜Gの粒径分析、表面電位分析及び活性物質被覆率分析の結果を下記表6に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
表3及び表6のデータから分かるように、上記の実施例で製造された担体構造及び薬物担体は、すべてナノレベルの粒子であり、生体内で優れた吸収効率を発揮することが期待される。また、本発明の担体構造及び薬物担体はシェルコア構造ではないので、本発明の方法は、油中水型乳化法の代わりに溶液製造法を採用する。すなわち、本発明の担体構造及び薬物担体は、各成分溶液を均一に混合し、それぞれの帯電特性によって相互の静電引力を発生させることによって得られる。この溶液製造法は、操作が簡単であるという利点を有するだけでなく、PDIデータから分かるように、調製された医療用担体及び薬物構造は、小さな粒径及び良好な均質性(homogeneity)を有する。
【0076】
また、本発明の担体構造及び薬物担体が胃酸環境にある状態を模擬するために、上記実施例で調製されたサンプルA及びEを例として、胃酸環境、異なる胃壁の粘膜層の深さ、及び胃壁の細胞層をそれぞれ代表するpH2.5、4.0、5.0、6.0及び7.4の環境にそれぞれ置いて、次にナノ粒径及び電位アナライザ(Zetasizer NANO−ZS90)と透過型電子顕微鏡を用いて、サンプルの構造特徴の変化を観察する。
【0077】
分析の結果は図3図6に示される。図3〜4はサンプルAの結果であり、そして、図5図6はサンプルEの結果である。pH=2.5で模擬される胃酸環境において、サンプルAまたはサンプルEの薬物担体にかかわらず、そのナノ構造は胃酸の酸蝕に破壊されず、その表面は依然として39〜40mVの正電荷を有する。本発明の薬物担体が含有するキトサン、アルギン酸塩及びポリアクリル酸は粘膜組織に付着する特性を有するため、薬物担体は胃壁の粘膜層に付着する傾向がある。胃壁の粘膜層はその深さによって、pH値は約4.0、5.0及び6.0である。図面に示されるように、サンプルAまたはサンプルEにもかかわらず、それらの薬物担体のナノ構造の粒径は、pH値が4.0及び5.0である環境で依然として安定し、且つその表面電位は20〜30mVを維持している。一方、薬物担体が胃粘膜のより深い層を模擬するpH=6.0の環境、または胃壁細胞層を模擬するpH=7.4の環境にある場合、pH値は中性に近いので、キトサンは非電荷状態になり、表面電位は0mVに近いため、薬物担体のナノ構造が緩くなる。図面と表以外、TEMの写真からもナノ構造の変化が分かれる。pH値が6.0位上である環境において、明らかな凝集現象が現れ、ナノ粒子構造は識別されなくなる。
【0078】
図7及び図8は、本発明の薬物担体を体外構造に適用した結果を示す。インビトロ実験では、ヘリコバクター・ピロリの懸濁液を最初に得て(最大阻害濃度は約0.5μg/mlである)、アモキシシリン(アモキシシリン薬物濃度は0.5μg/mlに固定される)、サンプル1、サンプル5、サンプルA及びサンプルEをそれぞれ添加する。上記ヘリコバクター・ピロリの懸濁液を48時間培養した後、OD450で測定し、ヘリコバクター・ピロリの阻害効果を判定する。実験結果は図7に示す。本発明のサンプルA及びサンプルEに含まれる活性物質はアモキシシリンであるため、本発明のサンプルA及びサンプルEの添加は、アモキシシリンの添加と実質的に同じ阻害効果を有する。実験の結果により、本発明のサンプル5の担体構造自体は、活性物質がなくてもヘリコバクター・ピロリを阻害する能力があることが観察される。この実験により、本発明の担体構造及び薬物担体は、ヘリコバクター・ピロリを阻害する能力を有し、特に、適切な活性物質を有する薬物担体がより顕著な効果を有することが明らかである。
【0079】
上述のように、本発明の薬物構造が粘膜組織に付着して胃壁の細胞層の中性環境に接近すると、アルギネートまたはポリアクリル酸とキトサンの荷電特性の変化が薬物担体のナノ構造を徐々に崩れさせるため、薬物担体中の活性成分が放出される。そのような放出特性は、病原体が蓄積する場所に薬物をより近づける放出することができるため、活性成分の有効性を高めることができる。
【0080】
上述の実施例は、本発明のいくつかの実施形態の単なる例示であり、その説明は、具体的かつ詳細に説明したが、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することのない種々の修正及び変更は、当業者には自明なものとなるであろう。そして、それらも本発明が保護を要求する範囲内にある。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって決定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8