(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763488
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】車両用内燃機関の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 23/00 20060101AFI20200917BHJP
F02B 33/34 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
F02D23/00 E
F02B33/34
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-556447(P2019-556447)
(86)(22)【出願日】2017年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2017042751
(87)【国際公開番号】WO2019106740
(87)【国際公開日】20190606
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】越後 亮
【審査官】
三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−057770(JP,A)
【文献】
特開2001−090543(JP,A)
【文献】
特開2006−348761(JP,A)
【文献】
特開2007−002780(JP,A)
【文献】
特開2008−008241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 23/00
F02D 41/04
F02B 33/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
理論空燃比近傍を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な内燃機関と、車載のバッテリにより駆動されて、少なくともリーン燃焼モードの一部運転条件下では吸気量の一部を分担する電動式吸気供給装置と、を備えた車両用内燃機関の制御方法であって、
内燃機関のトルクおよび回転速度をパラメータとして、上記ストイキ燃焼モードとするストイキ燃焼運転領域と上記リーン燃焼モードとするリーン燃焼運転領域とを予め設定するとともに、
上記リーン燃焼運転領域における各運転点に対しリーン空燃比である目標空燃比を割り付けたリーン空燃比マップと、少なくとも上記ストイキ燃焼運転領域の各運転点に対し理論空燃比近傍の目標空燃比を割り付けたストイキ空燃比マップと、上記ストイキ燃焼運転領域および上記リーン燃焼運転領域の双方を含む運転領域の各運転点に対し上記電動式吸気供給装置の停止を前提として理論空燃比近傍の目標空燃比ないしリーン空燃比である目標空燃比を割り付けた第3の空燃比マップと、を設け、
上記リーン燃焼運転領域にあるときに上記リーン燃焼モードの目標空燃比の維持に必要な上記電動式吸気供給装置の電力量を求め、
この電力量に対し上記バッテリの充電状態が不十分なときは上記第3の空燃比マップを用いて上記リーン燃焼モードから上記ストイキ燃焼モードに切り換える、車両用内燃機関の制御方法。
【請求項2】
理論空燃比近傍を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な内燃機関と、車載のバッテリにより駆動されて、少なくともリーン燃焼モードの一部運転条件下では吸気量の一部を分担する電動式吸気供給装置と、を備えた車両用内燃機関の制御方法であって、
内燃機関のトルクおよび回転速度をパラメータとして、上記ストイキ燃焼モードとするストイキ燃焼運転領域と上記リーン燃焼モードとするリーン燃焼運転領域とを予め設定するとともに、
上記リーン燃焼運転領域にあるときに上記リーン燃焼モードの目標空燃比の維持に必要な上記電動式吸気供給装置の電力量を求め、
この電力量に対し上記バッテリの充電状態が不十分であると判断したときに、上記リーン燃焼モードから上記ストイキ燃焼モードに切り換えるか、あるいは、上記内燃機関により駆動される発電機の発電量を増加してリーン燃焼モードを維持するか、を予め定めた条件に基づいて選択する、車両用内燃機関の制御方法。
【請求項4】
車載の他の電気機器が必要とする電力量と上記電動式吸気供給装置の駆動に必要な電力量とから、上記バッテリのSOCの下限値を予め設定し、
上記のバッテリの充電状態が不十分であるか否かを、上記下限値と上記バッテリのSOCとを比較して判断する、請求項1または2に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項6】
理論空燃比近傍を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な内燃機関と、車載のバッテリにより駆動されて、少なくともリーン燃焼モードの一部運転条件下では吸気量の一部を分担する電動式吸気供給装置と、コントローラと、を備えた車両用内燃機関の制御装置であって、
上記コントローラは、
内燃機関のトルクおよび回転速度をパラメータとして、上記リーン燃焼モードとするリーン燃焼運転領域における各運転点に対しリーン空燃比である目標空燃比を割り付けたリーン空燃比マップと、少なくとも上記ストイキ燃焼モードとするストイキ燃焼運転領域の各運転点に対し理論空燃比近傍の目標空燃比を割り付けたストイキ空燃比マップと、上記ストイキ燃焼運転領域および上記リーン燃焼運転領域の双方を含む運転領域の各運転点に対し上記電動式吸気供給装置の停止を前提として理論空燃比近傍の目標空燃比ないしリーン空燃比である目標空燃比を割り付けた第3の空燃比マップと、を備え、
上記リーン燃焼運転領域にあるときに上記リーン燃焼モードの目標空燃比の維持に必要な上記電動式吸気供給装置の電力量を求めて、この電力量に対し上記バッテリの充電状態が不十分なときは上記第3の空燃比マップを用いて上記リーン燃焼モードから上記ストイキ燃焼モードに切り換える、
車両用内燃機関の制御装置。
【請求項7】
理論空燃比近傍を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な内燃機関と、車載のバッテリにより駆動されて、少なくともリーン燃焼モードの一部運転条件下では吸気量の一部を分担する電動式吸気供給装置と、コントローラと、を備えた車両用内燃機関の制御装置であって、
上記コントローラは、
内燃機関のトルクおよび回転速度をパラメータとして、上記ストイキ燃焼モードとするストイキ燃焼運転領域と上記リーン燃焼モードとするリーン燃焼運転領域とを予め設定した制御マップを備え、
上記リーン燃焼運転領域にあるときに上記リーン燃焼モードの目標空燃比の維持に必要な上記電動式吸気供給装置の電力量を求めて、この電力量に対し上記バッテリの充電状態が不十分であると判断したときは、上記リーン燃焼モードから上記ストイキ燃焼モードに切り換えるか、あるいは、上記内燃機関により駆動される発電機の発電量を増加してリーン燃焼モードを維持するか、を予め定めた条件に基づいて選択する、
車両用内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、理論空燃比近傍を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な車両用内燃機関の制御方法および制御装置、特に、リーン燃焼モードの一部の運転条件下では電動式吸気供給装置の稼動が必要な車両用内燃機関の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費低減のために、理論空燃比を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な内燃機関が知られている。このような内燃機関においては、より広範な機関運転条件(トルクおよび機関回転速度)においてリーン燃焼モードとすることが、燃費低減の上で望ましい。
【0003】
また、特許文献1には、車載のバッテリにより駆動される電動コンプレッサによって内燃機関の過給を行うことが開示されている。そして、電動コンプレッサのモータ温度が作動制限を受ける温度域にあるときには、過給域であっても実質的に無過給(自然給気)状態となることが記載されている。
【0004】
ところで、内燃機関が排出するNOxの排出量(いわゆるエンジンアウトNOx排出量)は、空燃比が十分にリーンであるときに低くなり、リーンの程度が不十分であると増大する。なお、このようなリーン燃焼の下では、一般的な三元触媒は機能しない。従って、燃費低減を図りつつエンジンアウトNOx排出量を少なくするためには、十分にリーンであるリーン空燃比と理論空燃比との間における中間的な空燃比の利用を避けることが望ましい。
【0005】
十分に高い空燃比を得るためには、シリンダ内に多量の空気を供給する必要があり、大気圧下で十分な空気量を確保できない場合には、何らかの過給手段ないし吸気供給装置が必要となることがある。
【0006】
このようなリーン燃焼のための吸気供給装置として電動コンプレッサのような電動式吸気供給装置を用いたとすると、バッテリの充電状態が不十分となったときにモータ回転速度が低下して空気供給が目標のリーン空燃比に対して不足し、実際の空燃比が目標リーン空燃比よりも低くなってしまうことがあり得る。このような場合には、エンジンアウトNOx排出量が増加してしまう。
【0007】
従って、この発明は、NOx排出量が少ないリーン空燃比と理論空燃比との間の好ましくない中間的なリーン空燃比での運転を極力排し、エンジンアウトNOx排出量の増加を回避することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−228586号公報
【発明の概要】
【0009】
この発明に係る車両用内燃機関の制御方法および制御装置は、理論空燃比近傍を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な内燃機関と、車載のバッテリにより駆動されて、少なくともリーン燃焼モードの一部運転条件下では吸気量の一部を分担する電動式吸気供給装置と、を備えている。
【0010】
本発明においては、内燃機関のトルクおよび回転速度をパラメータとして、上記ストイキ燃焼モードとするストイキ燃焼運転領域と上記リーン燃焼モードとするリーン燃焼運転領域とを予め設定するとともに、上記リーン燃焼運転領域にあるときに上記リーン燃焼モードの目標空燃比の維持に必要な上記電動式吸気供給装置の電力量を求め、この電力量に対し上記バッテリの充電状態が不十分なときは上記リーン燃焼モードから上記ストイキ燃焼モードに切り換える。
【0011】
すなわち、バッテリの充電状態が不十分となってリーン燃焼モードの本来の目標空燃比が維持できないときに、ストイキ燃焼モードに切り換えて、理論空燃比近傍での運転とする。理論空燃比近傍であれば、三元触媒での排気浄化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の一実施例となる内燃機関のシステム構成を示す構成説明図。
【
図2】ストイキ燃焼運転領域とリーン燃焼運転領域とを設定した制御マップの説明図。
【
図3】燃焼モード切換の制御の流れを示すフローチャート。
【
図4】第3の空燃比マップを具備した実施例を示す要部のフローチャート。
【
図5】一実施例におけるSOC等の変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、この発明の一実施例となる内燃機関1のシステム構成を示している。この実施例は、過給手段として電動過給機2とターボ過給機3とを併用した構成である。内燃機関1は、例えば4ストロークサイクルの火花点火式ガソリン機関であって、特に、理論空燃比近傍(すなわち、空気過剰率λ=1)を目標空燃比としたストイキ燃焼モードとリーン空燃比(例えば、λ=2近傍)を目標空燃比としたリーン燃焼モードとに切換可能な構成となっている。
【0015】
内燃機関1の排気通路6には、ターボ過給機3の排気タービン4が配置され、該排気タービン4の下流側に、例えば三元触媒を用いた上流側触媒コンバータ7および下流側触媒コンバータ8が配置されている。上流側触媒コンバータ7もしくは下流側触媒コンバータ8として、いわゆるNOx吸蔵触媒を用いるようにしてもよい。排気通路6のさらに下流側には、排気消音器9が設けられており、該排気消音器9を介して排気通路6は外部へ開放されている。上記排気タービン4は、過給圧制御のための公知のウェストゲートバルブ(図示せず)を備えている。
【0016】
内燃機関1は、例えばピストン−クランク機構として複リンク機構を利用した可変圧縮比機構を備えており、圧縮比を変更するための電動アクチュエータ10が設けられている。また、吸気弁および排気弁の少なくとも一方に、電動式の可変バルブタイミング機構ないし可変バルブリフト機構を具備していてもよい。
【0017】
内燃機関1の吸気通路11には、上記ターボ過給機3のコンプレッサ5が配置されており、このコンプレッサ5よりも下流側に、吸入空気量を制御する電子制御型のスロットル弁12が配置されている。上記スロットル弁12は、コレクタ部11aの入口部に位置し、このコレクタ部11aよりも下流側では、吸気通路11は、吸気マニホルドとして各気筒毎に分岐している。上記コレクタ部11aの内部には、過給吸気を冷却するインタークーラ13が設けられている。このインタークーラ13は、ポンプ31の作用によりラジエータ32との間で冷却水が循環する水冷式の構成である。
【0018】
また上記コンプレッサ5の出口側を入口側に連通するようにリサーキュレーションバルブ34を備えたリサーキュレーション通路35が設けられている。リサーキュレーションバルブ34は、内燃機関1の減速時つまりスロットル弁12が急に閉じたときに開状態に制御され、これにより、加圧された吸気がリサーキュレーション通路35を介してコンプレッサ5に循環する。
【0019】
上記吸気通路11の最上流部には、エアクリーナ14が配置されており、このエアクリーナ14の下流側に、吸入空気量の検出を行うエアフロメータ15が配置されている。そして、上記コンプレッサ5と上記コレクタ部11aとの間に、上記電動過給機2が配置されている。つまり、ターボ過給機3のコンプレッサ5と電動過給機2とは、吸気通路11において、電動過給機2が相対的に下流側となるように互いに直列に配置されている。
【0020】
また、上記電動過給機2の入口側と出口側とを電動過給機2を経由せずに接続するように、バイパス通路16が設けられている。このバイパス通路16には、該バイパス通路16を開閉するバイパス弁17が設けられている。電動過給機2の停止時には、このバイパス弁17が開状態となる。
【0021】
上記電動過給機2は、吸気通路11に介在するコンプレッサ部2aと、このコンプレッサ部2aを駆動する電動モータ2bと、を有している。なお、
図1には、コンプレッサ部2aがターボ過給機3のコンプレッサ5と同様に遠心形コンプレッサとして図示されているが、本発明においては、ルーツブロアやスクリュー形コンプレッサなど任意の形式のコンプレッサを利用することが可能である。電動モータ2bは、図示せぬ車載のバッテリを電源として駆動される。すなわち、本実施例においては、電動過給機2が「電動式吸気供給装置」に相当する。
【0022】
上記排気通路6と上記吸気通路11との間には、排気の一部を吸気系へ還流するための排気還流通路21が設けられている。この排気還流通路21は、上流端となる一端21aが、排気通路6の排気タービン4下流側詳しくは上流側触媒コンバータ7と下流側触媒コンバータ8との間から分岐している。そして、下流端となる他端21bが、コンプレッサ5上流側の位置において吸気通路11に接続されている。上記排気還流通路21の途中には、運転条件に応じて開度が可変制御される排気還流制御弁22が介装されており、さらに、この排気還流制御弁22よりも排気通路6側となる位置に、還流排気の冷却を行うEGRガスクーラ23が設けられている。
【0023】
上記内燃機関1は、エンジンコントローラ37によって統合的に制御される。エンジンコントローラ37には、上記のエアフロメータ15のほか、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ38、冷却水温を検出する水温センサ39、運転者によるトルク要求を検出するセンサとして運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ40、コレクタ部11aにおける過給圧(吸気圧)を検出する過給圧センサ41、排気空燃比を検出する空燃比センサ42等の種々のセンサ類の検出信号が入力されている。また、図示せぬバッテリの充電状態つまりSOC(ステート・オブ・チャージ)を検出するバッテリコントローラ43がエンジンコントローラ37に接続されており、SOCを示す信号がバッテリコントローラ43からエンジンコントローラ37に入力されている。エンジンコントローラ37は、これらの検出信号に基づき、内燃機関1の燃料噴射量や噴射時期ならびに点火時期、スロットル弁12の開度、電動過給機2の動作、バイパス弁17の開度、図示せぬウェストゲートバルブの開度、リサーキュレーションバルブ34の開度、排気還流制御弁22の開度、等を最適に制御している。
【0024】
図2は、内燃機関1のトルク(換言すれば負荷)と回転速度とをパラメータとして、ストイキ燃焼モードとすべきストイキ燃焼運転領域Sとリーン燃焼モードとすべきリーン燃焼運転領域Lとを設定した制御マップを示している。この制御マップは、後述する目標空燃比マップとともにエンジンコントローラ37の記憶装置に予め格納されている。リーン燃焼運転領域Lは、比較的トルクが小さな低・中速域に設定されている。リーン燃焼運転領域Lを除く他の領域は、基本的にストイキ燃焼運転領域Sである。なお、詳しくは図示していないが、ストイキ燃焼運転領域Sの中で、全開に近い領域は、目標空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチとなっている。ここで、リーン燃焼運転領域Lは、空気の供給を電動過給機2に依存しない第1リーン燃焼運転領域L1と、一部の空気の供給を電動過給機2に依存する第2リーン燃焼運転領域L2と、を含んでいる。第2リーン燃焼運転領域L2は、リーン燃焼運転領域Lの中で、低速高負荷側の領域である。すなわち、この第2リーン燃焼運転領域L2では、吸気量の一部を電動過給機2が分担することとなる。
【0025】
内燃機関1の運転条件(トルクおよび回転速度)がストイキ燃焼運転領域S内にあれば、目標空燃比マップとしてストイキ空燃比マップを用い、かつ燃料噴射時期や点火時期等をストイキ燃焼に適したものに設定したストイキ燃焼モードでの運転を行う。目標空燃比マップは、トルクおよび回転速度から定まる各運転点に対して目標空燃比を割り付けたマップであり、ストイキ燃焼モードで用いるストイキ空燃比マップでは、ストイキ燃焼運転領域Sおよびリーン燃焼運転領域Lの双方を含む運転領域の各運転点に対して、理論空燃比近傍の目標空燃比が割り付けられている。なお、本発明において理論空燃比の「近傍」とは、三元触媒作用が得られる空燃比範囲を意味しており、例えば、理論空燃比を14.7としたときに14.5〜15.0の範囲の値である。ストイキ空燃比マップにおける各運転点の目標空燃比は、例えば全てが「14.7」であってもよく、他の条件を考慮して一部の運転点で「14.6」や「14.8」のように異なる値が割り付けられていてもよい。
【0026】
一方、内燃機関1の運転条件がリーン燃焼運転領域L内にあれば、目標空燃比マップとしてリーン空燃比マップを用い、かつ燃料噴射時期や点火時期等をリーン燃焼に適したものに設定したリーン燃焼モードでの運転を行う。リーン空燃比マップは、リーン燃焼運転領域Lの各運転点に対しリーン空燃比である目標空燃比をそれぞれ割り付けたものである。ここで、リーン燃焼モードにおいて目標空燃比となる「リーン空燃比」は、エンジンアウトNOx排出量がある程度低くなるリーン側の空燃比であり、一実施例では、例えば、「λ=2」付近の25〜33の範囲の空燃比となる。なお、このリーン空燃比の値は例示に過ぎず、本発明においては、リーン燃焼モードでのリーン空燃比としては、ストイキ空燃比マップにおける理論空燃比近傍の空燃比範囲とは不連続(換言すれば互いに離れた数値範囲)となるリーン側の空燃比範囲であればよい。リーン空燃比マップにおいては、各運転点における目標空燃比の値は、通常は一定値ではなく、トルクおよび回転速度に応じて僅かに異なる値に設定される。なお、リーン空燃比マップが、ストイキ燃焼運転領域S内の運転点に対しても目標空燃比を具備するようなデータ構成であってもよいが、この場合、ストイキ燃焼運転領域S内の運転点に対する目標空燃比は、ストイキ空燃比マップと同様の理論空燃比近傍の値である。
【0027】
リーン燃焼運転領域Lの中の第1リーン燃焼運転領域L1と第2リーン燃焼運転領域L2とでは、目標空燃比に大きな差異はなく、いずれも上述した「λ=2」付近のリーン空燃比が目標空燃比として設定されている。しかしながら、第1リーン燃焼運転領域L1では電動過給機2に依存せずに目標となるリーン空燃比を実現できるのに対し、第2リーン燃焼運転領域L2では電動過給機2の稼動を前提として目標空燃比が設定されるため、仮に電動過給機2が所期の動作をし得ないと、第2リーン燃焼運転領域L2では目標とするリーン空燃比を実現できない。
【0028】
ここで、リーン燃焼運転領域Lとりわけ第2リーン燃焼運転領域L2内での運転が続き、電動過給機2を含む車載の電気機器による消費電力が内燃機関1で駆動される発電機の発電量を上回った状態が継続すると、車載のバッテリのSOCが徐々に低下する。そのため、やがて電動過給機2に供給される電力が不十分となって電動過給機2による吸気供給が低下し、目標とするリーン空燃比を維持できなくなる虞がある。このような場合に、供給可能な吸気量に応じて実空燃比を低下させてしまうと、前述したようにエンジンアウトNOx排出量が増加する。
【0029】
そこで、本実施例では、第2リーン燃焼運転領域L2内でバッテリのSOCが所定の閾値(つまり下限値)以下となったときには、強制的にストイキ燃焼モードに切り換え、目標空燃比をストイキ空燃比マップに基づく理論空燃比近傍の空燃比とする。理論空燃比近傍の空燃比であれば、三元触媒による排気浄化が可能であり、結果として、外部へ放出されるNOxが低減する。
【0030】
図3は、このような燃焼モード切換の制御の流れを示したフローチャートである。このフローチャートに示すルーチンは、エンジンコントローラ37において所定の演算サイクル毎に繰り返し実行される。ステップ1では、上述したセンサ類から入力された信号やエンジンコントローラ37内で演算した内部信号に基づき種々のパラメータを読み込む。詳しくは、アクセル開度(アクセルペダルの踏込量)APO、内燃機関1の回転速度Ne、内燃機関1のトルクTe、等を読み込む。
【0031】
ステップ2では、現在の運転モードがリーン燃焼モードであるか否かを判別する。ストイキ燃焼モードであれば、ステップ2からステップ4へ進み、目標空燃比マップとしてストイキ空燃比マップを選択するとともに、ステップ5へ進んで、ストイキ燃焼モードでの運転を継続する。なお、ストイキ燃焼モードからリーン燃焼モードへの切換(ストイキ燃焼運転領域Sからリーン燃焼運転領域Lへの移行)については、図示せぬ他のルーチンに基づいて処理される。
【0032】
現在の運転モードがリーン燃焼モードであれば、ステップ2からステップ3へ進み、現在の運転点とアクセル開度APOの変化量などに基づいて、リーン燃焼モードからストイキ燃焼モードへの切換要求の有無(換言すればリーン燃焼運転領域Lからストイキ燃焼運転領域Sへの移行要求の有無)を判別する。ストイキ燃焼モードへの切換要求があれば、ステップ3からステップ4へ進み、目標空燃比マップとしてストイキ空燃比マップを選択するとともに、ステップ5へ進んで、ストイキ燃焼モードでの運転に切り換える。
【0033】
リーン燃焼モードからストイキ燃焼モードへの切換要求がなければ、ステップ6へ進み、リーン燃焼に電動過給機2が必要であるか否かを判別する。換言すれば、現在の運転点が第2リーン燃焼運転領域L2内であるか第1リーン燃焼運転領域L1内であるかを判別する。電動過給機2が不要つまり第1リーン燃焼運転領域L1内であれば、ステップ6からステップ7へ進み、目標空燃比マップとしてリーン空燃比マップを選択するとともに、ステップ8へ進んで、リーン燃焼モードでの運転を継続する。
【0034】
電動過給機2が必要つまり第2リーン燃焼運転領域L2内であれば、ステップ6からステップ9へ進み、バッテリのSOCが所定の下限値SOClimを上回っているか否かを判別する。この下限値SOClimは、第2リーン燃焼運転領域L2内でのリーン燃焼モードによる目標空燃比の維持に必要な電動過給機2の電力量を満たすように設定される。詳しくは、第2リーン燃焼運転領域L2内でのリーン燃焼モードによる目標空燃比の維持に必要な電動過給機2の電力量と、可変圧縮比機構用電動アクチュエータ10等の内燃機関1に付随した電気機器を含む他の電気機器が必要とする電力量と、の総和(つまり総電力要求)に基づいて設定される。電動過給機2に必要な電力量は、要求される電動過給機2の入口側圧力と出口側圧力との圧力差に相関し、内燃機関1のトルクTeや回転速度Neを含む種々のパラメータから推定し得る。従って、下限値SOClimは、逐次演算して求めても良く、あるいは予め第2リーン燃焼運転領域L2内の各運転点に対して値を割り付けておくようにしても良い。あるいは、制御の簡略化のために、適宜な余裕を見込んだ固定値であってもよい。
【0035】
ステップ9においてバッテリのSOCが下限値SOClimを上回っていれば、ステップ7,8へ進み、リーン空燃比マップを用いたリーン燃焼モードでの運転を継続する。
【0036】
ステップ9においてバッテリのSOCが下限値SOClim以下であれば、ステップ10へ進み、内燃機関1が備える発電機による発電量の増加によってリーン空燃比を維持すべきか否かを判別する。例えば、発電機の発電容量に余裕があり、かつ、発電量増加に伴う燃料消費量の増加がリーン燃焼とすることに伴う燃料消費量の減少よりも少ない場合には、発電量の増加を選択する。この場合には、ステップ10からステップ11へ進み、発電量を増加する。そして、ステップ7,8へ進み、リーン空燃比マップを用いたリーン燃焼モードでの運転を継続する。
【0037】
これに対し、発電機の発電容量に十分な余裕がない場合や、発電量増加に伴う燃料消費量の増加がリーン燃焼とすることに伴う燃料消費量の減少よりも大である場合、あるいは、発電量の増加に伴う運転点の変化が好ましくないような場合には、ステップ10の判別がNOとなる。この場合には、ステップ10からステップ4,5へ進み、目標空燃比マップとしてストイキ空燃比マップを選択するとともに、ストイキ燃焼モードでの運転に切り換える。
【0038】
図5は、上記の制御による作用を説明するためのタイムチャートである。ここでは、仮に第2リーン燃焼運転領域L2内での運転が継続された場合の作用を示している。図の(a)はバッテリのSOC、(b)は電動過給機2に供給される電力、(c)は内燃機関1の過給圧、(d)は内燃機関1の空気過剰率、(e)はNOx排出量、のそれぞれの変化を示している。第2リーン燃焼運転領域L2内では、(b)に示すように電動過給機2を用いたリーン燃焼モードでの運転が行われるので、(c)に示すように過給圧は高く、(d)に示すように、空燃比が「λ=2」付近に維持される。この間、電動過給機2の電力消費によって、(a)に示すようにバッテリのSOCが徐々に低下する。時間t1において、バッテリのSOCが下限値SOClimまで低下したため、本実施例では、前述したように、ストイキ燃焼モードに強制的に切り換えられる。すなわち、電動過給機2が停止し、過給圧が低下するとともに、空燃比が理論空燃比近傍となる。図示するように、空燃比は、「λ=2」付近から理論空燃比へとステップ的に変化する。このとき、NOx排出量は中間的な空燃比帯域を通過することで一時的に増加するが、NOx悪化の時間が短いことから、NOxの総量の増加は比較的少ない。
【0039】
図5の仮想線は、バッテリのSOCが低下してもリーン燃焼モードでの運転を継続した第1の比較例の場合の特性を示している。この場合、バッテリのSOCが低下することで電動過給機2への電力供給が不十分となり、過給圧が低下する。従って、空気過剰率は目標とする「λ=2」を維持できなくなり、例えば電動過給機2が停止した時間t3以降は、「λ=1.7」付近となる。これにより、(e)に示すように、NOx排出量が増加する。
【0040】
また
図5の破線は、電動過給機2の回転速度がある程度低下した段階(時間t2)においてストイキ燃焼モードに強制的に切り換えるようにした第2の比較例を示している。この場合は、空気過剰率が目標である「λ=2」よりも多少低下したときに理論空燃比近傍にステップ的に変化することとなる。従って、時間t3以降はNOx排出量が第1比較例に比べて少なくなるが、時間t1から時間t2の間のNOx排出量の増加により、実施例に比べてNOx総量が増加する。
【0041】
次に、
図4は、通常のストイキ空燃比マップとリーン空燃比マップとは別に、バッテリのSOCが低下したときに用いる第3の空燃比マップを備えた第2実施例のフローチャートの要部を示している。なお、フローチャートの図示していない部分は、
図3のフローチャートと同様である。第3の空燃比マップは、ストイキ燃焼運転領域Sおよびリーン燃焼運転領域Lの双方を含む運転領域の各運転点に対し電動過給機2の停止を前提として理論空燃比近傍の目標空燃比ないしリーン空燃比である目標空燃比を割り付けたものとなっている。例えば、ストイキ燃焼運転領域Sと第2リーン燃焼運転領域L2では基本的に目標空燃比が理論空燃比近傍となり、第1リーン燃焼運転領域L1では、基本的に目標空燃比が「λ=2」相当の空燃比となるが、第1リーン燃焼運転領域L1と第2リーン燃焼運転領域L2の境界付近では、電動過給機2の停止を考慮して、仮にリーン空燃比とする場合でも「λ=2」相当の空燃比の中で比較的小さな値(例えば28.0等)に設定し、かつできるだけリーン空燃比となる領域を確保するようにしてある。
【0042】
図4に示すように、バッテリのSOCが下限値SOClim以下となって、かつ発電量の増加を選択しない場合には、ステップ10からステップ12へ進み、目標空燃比マップとして第3の空燃比マップを選択する。そして、ステップ13へ進み、そのときの運転点に対し第3の空燃比マップで割り付けられている目標空燃比の値から、点火時期等を含めた燃焼モードとしてリーン燃焼モードとすべきであるか否かを判定する。ここでYESであれば、ステップ14へ進み、リーン燃焼モードでもって内燃機関1を運転する。第3の空燃比マップによる目標空燃比が理論空燃比近傍であれば、ステップ13の判定がNOとなるので、ステップ15へ進み、ストイキ燃焼モードでもって内燃機関1を運転する。
【0043】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例ではリーン燃焼モードの空燃比を「λ=2」相当とした例を説明したが、この発明は、これに限らず、適当なリーン空燃比を用いることができる。また、上記実施例では、電動式吸気供給装置として電動過給機2を備えているが、例えば、排気エネルギにより駆動されるロータの回転を電動モータによってアシストするようにした電動アシストターボチャージャなと他の形式の電動式吸気供給装置を用いることもできる。また、電動過給機と電動アシストターボチャージャとを併用するような構成も可能である。