(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763504
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】位置補正機能付き作業機械及びその位置補正方法。
(51)【国際特許分類】
B23B 39/00 20060101AFI20200917BHJP
B23B 29/034 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
B23B39/00 B
B23B29/034 B
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-178047(P2016-178047)
(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-30224(P2018-30224A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102865
【氏名又は名称】エヌティーエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】駒井 保宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 吏志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛史
【審査官】
久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭57−13106(JP,U)
【文献】
実開昭48−35485(JP,U)
【文献】
特開平9−85567(JP,A)
【文献】
特開2004−58245(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/64618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 39/00 − 39/28
B23B 49/00 − 49/06
B23B 29/034
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルと一体的に回転可能なツールホルダと、
前記ツールホルダの前記スピンドルとは反対の端部に、支点部を介して該ツールホルダの回転軸方向に交差する径方向に傾動可能に装着されるとともに、前記支点部よりも前記ツールホルダの内部に位置して係合部を設け、且つ、該ツールホルダの外部に位置して道具が取り付けられる傾動部材と、
前記ツールホルダの外周に回転自在に設けられている外周リング部材に、前記ツールホルダの回転軸に対してラジアル方向に相対的に進退して係合自在な係合機構と、
前記係合機構が前記外周リング部材に係合した状態で、該外周リング部材が前記ツールホルダに対して相対的に回転されることにより、該ツールホルダに装着された道具を、前記ツールホルダの径方向に位置補正する調整装置と、
を備え、
前記調整装置は、前記外周リング部材の内周部に設けられる1以上の爪部と、
前記ツールホルダの回転軸からオフセットして配置され、該外周リング部材が回転動作される際にのみ前記爪部に係合して回転する1以上の歯車部と、
前記歯車部の回転動作を、前記傾動部材の前記径方向への傾動動作に変換させる変換機構と、
を備え、
前記変換機構は、前記回転軸からオフセットして前記歯車部と一体に回転する回転ねじ部材と、
前記回転ねじ部材が螺合するとともに、前記回転軸方向に沿って傾斜し前記係合部に当接するテーパ面を設け、該回転軸方向に進退自在なテーパ部材と、
を有していることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、前記ツールホルダには、前記傾動部材に当接して前記係合部を前記テーパ面に押圧させる弾性部材が配置されていることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項3】
請求項1又は2記載の作業機械において、前記ツールホルダには、前記歯車部の歯間に嵌まり込むボールプランジャが配置されていることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業機械において、前記テーパ部材は、矩形状を有し、前記テーパ面が前記係合部に当接する一方、他の複数の面が前記ツールホルダの内面に支持されていることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業機械において、前記係合部は、前記テーパ面に当接する凸状湾曲面を有していることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の作業機械において、前記外周リング部材の一方の側面には、1以上の溝部が設けられるとともに、
前記ツールホルダには、前記溝部に係合して前記外周リング部材を保持するボールプランジャが配置されていることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業機械において、前記係合機構は、前記外周リング部材の外周面に設けられる係合凹部又は係合凸部と、
前記係合凹部又は係合凸部に係合し、該外周リング部材を回転不能に保持して前記ツールホルダに対して相対的に回転させるための係合部材と、
を備えていることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項8】
スピンドルと一体的に回転可能なツールホルダと、
前記ツールホルダの前記スピンドルとは反対の端部に、支点部を介して該ツールホルダの回転軸方向に交差する径方向に傾動可能に装着されるとともに、前記支点部よりも前記ツールホルダの内部に位置して係合部を設け、且つ、該ツールホルダの外部に位置して道具が取り付けられる傾動部材と、
前記ツールホルダの外周に回転自在に設けられている外周リング部材に、前記ツールホルダの回転軸に対してラジアル方向に相対的に進退して係合自在な係合機構と、
前記係合機構が前記外周リング部材に係合した状態で、該外周リング部材が前記ツールホルダに対して相対的に回転されることにより、該ツールホルダに装着された道具を、前記ツールホルダの径方向に位置補正する調整装置と、
を備え、
前記調整装置は、前記外周リング部材の内周部に設けられる1以上の爪部と、
前記ツールホルダの回転軸からオフセットして配置され、該外周リング部材が回転動作される際にのみ前記爪部に係合して回転する1以上の歯車部と、
前記歯車部の回転動作を、前記傾動部材の前記径方向への傾動動作に変換させる変換機構と、
を備え、
前記変換機構は、前記回転軸からオフセットして前記歯車部と一体に回転する回転ねじ部材と、
前記回転ねじ部材が螺合するとともに、前記回転軸方向に沿って傾斜し前記係合部に当接するテーパ面を設け、該回転軸方向に進退自在なテーパ部材と、
を有している位置補正機能付き作業機械の位置補正方法であって、
前記係合機構を介して前記外周リング部材を回転不能に保持した状態で、前記スピンドルを1回転させることにより、前記変換機構を介して前記傾動部材の前記径方向への傾動動作を1回以上行うとともに、
前記径方向への移動量は、前記スピンドルの回転時間を制御することにより設定されることを特徴とする位置補正機能付き作業機械の位置補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルと一体的に回転可能なツールホルダに、道具が位置補正可能に取り付けられる位置補正機能付き作業機械及びその位置補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ツールホルダに取り付けられた道具、例えば、加工工具を介してワークに加工処理を施す工作機(作業機械)が種々使用されている。例えば、エンジンブロックを構成するシリンダのボーリング加工は、内筒径寸法をミクロンオーダで高精度に加工する必要がある。
【0003】
ところが、例えば、自動車のエンジンでは、量産工程で同一の刃先により加工を行うと、CBN工具等の硬質工具であっても、前記刃先に摩耗が発生する。従って、工具の刃先は、摩耗により加工径が小さくなるため、一定の穴径を維持するように、補正機能を有する補正ツールホルダが採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている工作機の刃先位置調整装置が知られている。この特許文献1は、ワークに対して、X、Y、Z軸駆動モータを制御して、スピンドル先端の刃具による加工を行う工作機であって、スピンドルをスピンドルヘッドに回転自在に支持し、スピンドルには先端に工具ホルダを着脱自在に装着し、その工具ホルダは、スピンドル回転軸心から偏心した位置に調整軸を回転自在に備え、その調整軸を回動することで、工具ホルダに半径方向に位置変位可能に設けてある刃具の半径方向刃先位置を調整するように構成されている工作機において、工作機の固定側に調整軸と係脱する回転阻止部材を設け、スピンドルヘッドを、前記X、Y軸駆動モータでスピンドル軸線と直交するX、Y軸方向に移動するようにし、回転阻止部材に調整軸を係止した状態で、スピンドルヘッドをX、Y軸方向に制御して調整軸の軸線回りにスピンドルを旋回させる制御手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−36009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1では、工具ホルダ本体にスリットが設けられており、弾性変形することによって刃先位置を調整するように構成されている。このため、工具ホルダ自体の剛性が低下するという問題がある。しかも、プログラムが煩雑化するとともに、制御速度が低下するおそれがある。さらに、工具ホルダの先端を回転阻止部材により固定する必要があり、刃先設計の自由度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、この種の加工装置において、簡単且つコンパクトな構成で、ツールホルダに取り付けられる道具を、高精度且つ高分解能に位置補正することが可能な位置補正機能付き作業機械及びその位置補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る位置補正機能付き作業機械は、ツールホルダ、傾動部材、係合機構及び調整装置と、を備えている。ツールホルダは、スピンドルと一体的に回転可能である。傾動部材は、ツールホルダのスピンドルとは反対の端部に、支点部を介して該ツールホルダの回転軸方向に交差する径方向に傾動可能に装着されるとともに、前記支点部よりも前記ツールホルダの内部に位置して係合部を設け、且つ、該ツールホルダの外部に位置して道具が取り付けられている。係合機構は、ツールホルダの外周に回転自在に設けられている外周リング部材に、前記ツールホルダの回転軸に対してラジアル方向に相対的に進退して係合自在である。
【0009】
調整機構は、係合機構が外周リング部材に係合した状態で、該外周リング部材がツールホルダに対して相対的に回転されることにより、該ツールホルダに装着された道具を、前記ツールホルダの径方向に位置補正している。調整装置は、外周リング部材の内周部に設けられる1以上の爪部と、ツールホルダの回転軸からオフセットして配置され、該外周リング部材が回転動作される際にのみ前記爪部に係合して回転する1以上の歯車部と、前記歯車部の回転動作を、傾動部材の径方向への傾動動作に変換させる変換機構と、を備えている。変換機構は、回転軸からオフセットして歯車部と一体に回転する回転ねじ部材と、前記回転ねじ部材が螺合するとともに、回転軸方向に沿って傾斜し係合部に当接するテーパ面を設け、前記回転軸方向に進退自在なテーパ部材と、を有している。
【0010】
また、ツールホルダには、傾動部材に当接して係合部をテーパ面に押圧させる弾性部材が配置されていることが好ましい。
【0011】
さらに、ツールホルダには、歯車部の歯間に嵌まり込むボールプランジャが配置されていることが好ましい。
【0012】
さらにまた、テーパ部材は、矩形状を有し、テーパ面が係合部に当接する一方、他の複数の面がツールホルダの内面に支持されていることが好ましい。
【0013】
また、係合部は、テーパ面に当接する凸状湾曲面を有していることが好ましい。
【0014】
さらに、外周リング部材の一方の側面には、1以上の溝部が設けられるとともに、ツールホルダには、前記溝部に係合して前記外周リング部材を保持するボールプランジャが配置されていることが好ましい。
【0015】
さらにまた、係合機構は、外周リング部材の外周面に設けられる係合凹部又は係合凸部と、前記係合凹部又は係合凸部に係合し、該外周リング部材を回転不能に保持してツールホルダに対して相対的に回転させるための係合部材と、を備えていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の位置補正方法では、係合機構を介して外周リング部材を回転不能に保持した状態で、スピンドルを1回転させることにより、変換機構を介して傾動部材の径方向への傾動動作を1回以上行うとともに、前記径方向への移動量は、前記スピンドルの回転時間を制御することにより設定されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る位置補正機能付き作業機械では、外周リング部材がツールホルダに対して相対的に回転されると、前記ツールホルダの回転軸からオフセットした回転ねじ部材が回転される。回転ねじ部材は、テーパ部材に螺合しており、前記回転ねじ部材の回転作用下に、前記テーパ部材がツールホルダの回転軸方向に移動する。
【0018】
その際、テーパ部材のテーパ面には、傾動部材の係合部が当接しており、前記テーパ部材が回転軸方向に移動すると、前記テーパ面の傾斜に沿って前記係合部がツールホルダの径方向に変位する。従って、傾動部材は、支点部を介してツールホルダの径方向に傾動し、道具を補正移動させることができる。
【0019】
これにより、簡単且つコンパクトな構成で、ツールホルダに取り付けられる道具を、前記ツールホルダの径方向にミクロンオーダで高精度且つ高分解能に位置補正することが可能になる。
【0020】
また、本発明に係る位置補正機能付き作業機械の位置補正方法では、道具の径方向への移動量がスピンドルの回転時間を制御することにより設定されている。このため、例えば、スピンドルが1回転又は2回転するだけで、道具の移動量が正確に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】 本発明の実施形態に係る位置補正機能付き作業機械である工作機の斜視説明図である。
【
図3】 前記工作機の、
図2中、III−III線断面図である。
【
図4】 前記工作機の、
図2中、IV−IV線断面図である。
【
図5】 前記工作機の、
図2中、V−V線断面図である。
【
図6】 前記工作機を構成するツールホルダの断面説明図である。
【
図7】 前記工作機を構成する外周リング部材をアーバーに係合させる際の動作説明図である。
【
図8】 NC制御により前記外周リング部材と前記アーバーとの相対位置を調整する際の動作説明図である。
【
図9】 前記外周リング部材の係合凹部に前記アーバーを挿入する際の動作説明図である。
【
図10】 前記外周リング部材をスピンドルに対して相対的に回転させる際の動作説明図である。
【
図11】 変換機構を構成する爪部が移動して歯車部に当接する際の動作説明図である。
【
図12】 前記歯車部が回転してボールプランジャが歯車間から離脱する際の動作説明図である。
【
図13】 前記爪部が前記歯車部から離脱する際の動作説明図である。
【
図14】 前記変換機構を介してボーリングバーが径方向に補正される際の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る位置補正機能付き作業機械を構成する工作機10は、本体部12を備え、この本体部12には、主軸ハウジング14がX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に摺動可能に装着される。
図2に示すように、主軸ハウジング14には、スピンドル(主軸)16がベアリング18を介して回転可能に設けられ、前記スピンドル16には、ツールホルダ20が着脱自在に取り付けられる。本願の作業機械は、工作機10のスピンドル16に装着されたツールホルダ20が、前記工作機10の動作に連動して作業する機能及び機構を備える。
【0023】
ツールホルダ20は、スピンドル16に連結されるシャンク部22を有し、前記シャンク部22には、本体ハウジング24が一体に設けられる。本体ハウジング24には、傾動部材26が支持ピン(支点部)28を介して、ツールホルダ20の回転軸方向(矢印L方向)に交差する径方向(矢印R方向)に傾動可能に装着される。
【0024】
本体ハウジング24の先端面24eは、平坦な略リング形状を有し、中央部には、第1開口部30aと第2開口部30bとが直列に形成される。
図3に示すように、第1開口部30aは、両側に直線部位30arを有する略円形状に形成され、支持ピン28が傾動部材26を貫通して配置される。
図2及び
図4に示すように、第2開口部30bは、第1開口部30aよりも小さな開口径を有する円形状に形成される。
【0025】
傾動部材26は、ツールホルダ20の外部に位置して道具、例えば、ボーリングバー32が取り付けられる道具取り付け部34を備える。道具取り付け部34は、略円盤形状を有し、ボーリングバー32とは反対側の端面と先端面24eとの間には、弾性体、例えば、Oリング36が配置される。傾動部材26は、
図3に示すように、第1開口部30aに配置される部分が、前記第1開口部30aと略同一の形状を有する。
【0026】
図2及び
図4に示すように、傾動部材26は、支持ピン28よりもツールホルダ20の内部に、すなわち、第2開口部30bに位置して係合部38を設ける。係合部38は、傾動部材26の一方の平坦な側面に径方向(矢印R方向)に突出して形成され、且つ、軸方向(矢印L方向)に沿ってR状に湾曲する凸状湾曲面38Rを有する。
【0027】
ツールホルダ20の外周には、例えば、支持ピン28よりも前記ツールホルダ20の回転軸方向内方(矢印Lb方向)に位置して、外周リング部材40が回転自在に設けられる。外周リング部材40は、ツールホルダ20の外周に形成された周溝42に配置される。外周リング部材40と傾動部材26の係合部38との間には、前記外周リング部材40の回転動作を、前記傾動部材26の径方向への傾動動作に変換させる変換機構44が設けられる。
【0028】
変換機構44は、ツールホルダ20の回転軸からオフセットし、外周リング部材40の内周部に係合して回転する回転ねじ部材46と、前記回転ねじ部材46が螺合するとともに、回転軸方向に沿って傾斜し係合部38に当接するテーパ面48tを有し、前記回転軸方向に進退自在なテーパ部材48と、を有する。回転ねじ部材46は、ツールホルダ20の内方端面に回転自在に支持される。
【0029】
図2及び
図5に示すように、回転ねじ部材46には、該回転ねじ部材46と一体に回転する歯車部50が設けられる一方、外周リング部材40の内周面には、前記歯車部50に係合して該歯車部50を回転させる1以上の爪部52が設けられる。外周リング部材40の外周面には、前記外周リング部材40をツールホルダ20に対して相対的に回転させるための係合凹部(又は係合凸部)54が、少なくとも1つ設けられる。係合凹部54は、円錐穴形状を有しているが、例えば、円形状や半球形状の他、凹穴形状や溝形状等であってもよい。
【0030】
本実施形態では、変換機構44、歯車部50及び爪部52により、調整装置が構成されるとともに、好ましくは、1つの前記歯車部50と1つの前記爪部52とを備えている。歯車部50及び爪部52は、外周リング部材40が回転動作される際にのみ係合し、通常状態では、互いに動力伝達が分離されている。
【0031】
図6に示すように、外周リング部材40の一方の側面には、1以上の溝部56が設けられるとともに、ツールホルダ20の本体ハウジング24には、前記溝部56に係合して前記外周リング部材40を所定の位相位置に保持するボールプランジャ58が配置される。
図5に示すように、ツールホルダ20の本体ハウジング24には、歯車部50の歯間に嵌まり込む1以上のボールプランジャ60が配置される。
【0032】
テーパ部材48は、矩形状を有し、テーパ面48tが係合部38に当接する一方、
図4に示すように、他の複数の面、例えば、3面がツールホルダ20の内面に支持される。
図6に示すように、テーパ面48tは、回転軸方向前方(矢印Lf方向)(ボーリングバー32側)に向かって内方(支持ピン28側)に傾斜する。
【0033】
図4及び
図6に示すように、ツールホルダ20の本体ハウジング24には、テーパ部材48に対向する外周面からねじ穴62が形成される。ねじ穴62には、傾動部材26に当接して係合部38をテーパ部材48のテーパ面48tに押圧させる弾性部材、例えば、コイルスプリング64が配置される。コイルスプリング64は、ねじ穴62に螺合する止めねじ66に当接保持される。
【0034】
図1に示すように、工作機10は、外周リング部材40をツールホルダ20に対して相対的に回転させるために、所定の係合凹部54に嵌合する係止部材、例えば、アーバー(係合機構)68を備える。アーバー68は、図示しないが、コイルスプリング等により軸方向に進退可能であるとともに、ツールホルダ20の回転軸に対してラジアル方向に相対的に進退自在である。
【0035】
このように構成される本実施形態に係る工作機10の動作について、本実施形態に係る位置補正方法との関連で、以下に説明する。
【0036】
ボーリングバー32の刃先が磨耗した際には、変換機構44を介して傾動部材26を所定の角度だけ傾動させることにより、前記ボーリングバー32を径方向外方に位置調整(補正)する。
【0037】
工作機10は、プログラム制御(NC制御)に沿って自動的に操作される。そして、工作機10の外周リング部材40は、オリエンテーション機能により特定位相でアーバー68に連結される(
図7参照)。具体的には、
図8に示すように、外周リング部材40の特定の係合凹部54が、アーバー68と同軸(同一位相)上に配置される。次いで、NC制御により、ツールホルダ20がラジアル方向に移送され、係合凹部54にアーバー68が挿入される(
図9参照)。
【0038】
この状態で、スピンドル16が、NC制御により回転制御される。NC制御では、回転数、回転時間及び主軸オリエンテーションが設定されており、例えば、回転数を毎分60回転(60RPM)とし、1秒間だけ回転させると、スピンドル16は、1回転(360°)されて停止する(
図10参照)。一方、5秒間の回転指令が出力されると、スピンドル16は、5回転して停止される。スピンドル16が1回転すると、実質的に、外周リング部材40が前記スピンドル16に対して相対的に360°(1回転)だけ回転する。このため、変換機構44を介して、ボーリングバー32は、径方向(矢印R方向外方)に、例えば、1μmだけ拡径される。一方、スピンドル16が5回転すると、ボーリングバー32は、径方向に5μmだけ拡径される。すなわち、ボーリングバー32の径方向への移動量は、スピンドル16の回転時間を制御することにより設定される。
【0039】
すなわち、外周リング部材40がツールホルダ20に対して1回転すると、前記外周リング部材40の内周面に設けられた爪部52は、
図11に示すように、矢印A方向に回転することにより、歯車部50の1つの歯に当接して前記歯車部50を矢印A方向に回転させる。
図12に示すように、歯車部50は、ボールプランジャ60を内方に押圧しながら矢印A方向に回転し、爪部52が離脱する角度Θ°の位置で停止される(
図13参照)。この角度位置で、歯車部50は、ボールプランジャ60により保持される。
【0040】
歯車部50は、回転ねじ部材46と一体に所定の角度Θ°だけ回転するため、前記歯車部50が螺合するテーパ部材48は、回転軸方向一方(矢印Lb方向又は矢印Lf方向)に移動する。その際、
図14に示すように、テーパ部材48のテーパ面48tに当接する係合部38は、前記テーパ面48tの高さ位置が変動することにより、ツールホルダ20の径方向(矢印R方向)内方に変位する。従って、傾動部材26は、支持ピン28を支点にして矢印B方向に回転し、ボーリングバー32は、径方向外方に所定の移動量(例えば、1μm)だけ補正される。なお、ボーリングバー32は、外周リング部材40が1回転する際に、径方向に、例えば、2μm又は3μmだけ移動するように構成してもよい。
【0041】
外周リング部材40は、所定の回数だけ回転されることにより、ボーリングバー32の刃先位置を径方向に対して所望の位置に配置させる。また、外周リング部材40を一方向に回転させると、ボーリングバー32が径方向外方(拡径方向)に調整される一方、前記外周リング部材40を他方向に回転させると、前記ボーリングバー32が径方向内方(縮径方向)に調整される。なお、外周リング部材40の回転操作は、NC制御により自動補正されるが、手動操作により該回転操作を行うことも可能である。
【0042】
ボーリング加工では、摩耗による小径化分が刃先位置を拡径方向に調整させる、所謂、プラス補正の制御が行われる。そして、数μm毎のプラス補正が繰り返し行われた後、刃先の摩耗限界に至った際には、補正状態を0に戻して、すなわち、外周リング部材40を逆方向(マイナス補正方向)に回転させて、新たな刃先が装着される。
【0043】
この場合、本実施形態では、外周リング部材40がツールホルダ20に対して相対的に回転されると、前記ツールホルダ20の回転軸からオフセットした回転ねじ部材46が回転される。回転ねじ部材46は、テーパ部材48に螺合しており、前記回転ねじ部材46の回転作用下に、前記テーパ部材48がツールホルダ20の回転軸方向に移動する。
【0044】
その際、テーパ部材48のテーパ面48tには、傾動部材26の係合部38が当接しており、前記テーパ部材48が回転軸方向に移動すると、前記テーパ面48tの傾斜に沿って前記係合部38がツールホルダ20の径方向に変位する。従って、傾動部材26は、支持ピン28を介してツールホルダ20の径方向(矢印R方向)に傾動し、ボーリングバー32を補正移動させることができる。
【0045】
しかも、
図2及び
図5に示すように、外周リング部材40の内周部には、1以上の爪部52が設けられるとともに、回転ねじ部材46には、前記爪部52が係合して前記回転ねじ部材46と一体に回転する歯車部50が設けられている。従って、簡単な構成で、外周リング部材40の1回転動作を、回転ねじ部材46の所定角度Θ°の回動動作に変換することができ、次いで、テーパ部材48の軸方向の移動動作に容易に変換することが可能になる。
【0046】
これにより、簡単且つコンパクトな構成で、ツールホルダ20に取り付けられるボーリングバー32を、前記ツールホルダ20の径方向にミクロンオーダで高精度且つ高分解能に位置補正することが可能になるという効果が得られる。
【0047】
また、
図2及び
図4に示すように、ツールホルダ20には、傾動部材26に当接して係合部38をテーパ部材48のテーパ面48tに押圧させる弾性部材、例えば、コイルスプリング64が配置されている。このため、傾動部材26の係合部38は、テーパ面48tに、常時、当接することができ、前記傾動部材26を確実に傾動させることが可能になる。
【0048】
さらにまた、
図5に示すように、ツールホルダ20には、歯車部50の歯間に嵌まり込むボールプランジャ60が配置されている。これにより、外周リング部材40の1回転によって歯車部50を確実に所定角度Θ°に保持することができ、高精度な補正が遂行される。
【0049】
また、テーパ部材48は、矩形状を有し、
図4に示すように、テーパ面48tが係合部38に当接する一方、他の複数、例えば、3面がツールホルダ20の内面に支持されている。このため、回転ねじ部材46の回転時に、テーパ部材48が回転することがなく、前記テーパ部材48は、回転軸方向にのみ円滑且つ確実に移動することが可能になる。
【0050】
さらに、係合部38は、テーパ部材48のテーパ面48tに当接する凸状湾曲面38Rを有している。従って、係合部38は、テーパ部材48のテーパ面48tに線接触しており、傾動部材26が支持ピン28を支点にして傾動動作しても安定した線接触状態を確保することができる。
【0051】
さらにまた、
図6に示すように、外周リング部材40の一方の側面には、1以上の溝部56が設けられるとともに、ツールホルダ20には、前記溝部56に係合して前記外周リング部材40を保持するボールプランジャ58が配置されている。これにより、外周リング部材40は、常時、所定の位相に確実に保持される。しかも、外周リング部材40が手動操作される際には、前記外周リング部材40が所定の位相に配置されたことを容易に感知することができるとともに、該外周リング部材40が所定の位相位置を超えて回転されることを阻止することが可能になる。
【0052】
また、外周リング部材40の外周面には、前記外周リング部材40をツールホルダ20に対して相対的に回転させるための係合凹部(又は係合凸部)54が、少なくとも1つ設けられている。このため、外周リング部材40を回転させるためにアーバー68を用いるだけでよく、簡単なNC制御で、ボーリングバー32の自動補正が良好に遂行される。
【0053】
さらに、本実施形態では、ボーリングバー32の径方向への移動量がスピンドル16の回転時間を制御することにより設定されている。従って、例えば、スピンドル16が1回転又は2回転するだけで、ボーリングバー32の移動量が正確に設定される。
【符号の説明】
【0054】
10…工作機 14…主軸ハウジング
16…スピンドル 20…ツールホルダ
24…本体ハウジング 26…傾動部材
28…支持ピン 32…ボーリングバー
34…道具取り付け部 38…係合部
40…外周リング部材 44…変換機構
46…回転ねじ部材 48…テーパ部材
50…歯車部 52…爪部
54…係合凹部 56…溝部
58、60…ボールプランジャ 64…コイルスプリング
68…アーバー