特許第6763574号(P6763574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763574
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】トルクドライバー
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/142 20060101AFI20200917BHJP
   B25B 23/157 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   B25B23/142
   B25B23/157 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-31667(P2017-31667)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-134713(P2018-134713A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201467
【氏名又は名称】TONE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 元宏
(72)【発明者】
【氏名】森沢 陽一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 竜祐
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭48−42120(JP,B1)
【文献】 特開2000−190246(JP,A)
【文献】 実公昭39−25090(JP,Y1)
【文献】 米国特許第3001430(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/142
B25B 23/157
F16D 15/00
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にビットを装着可能な主軸と、
前記主軸を回転自在に保持する筒部と、
前記主軸を前記筒部の基端に向けて付勢するコイルバネと、
前記主軸の基端側に形成されて前記主軸と一体回転する保持部材であって、前記コイルバネの基端を保持すると共に、基端側に向けて開口した保持孔を具える保持部材と、
前記保持孔に配備された飛び出し部材と、
前記筒部の基端に設けられた基端部材と、
を具えるトルクドライバーであって、
前記基端部材の内面であって、前記飛び出し部材の回転移行路と対向した位置に開設され、前記飛び出し部材の一部が侵入可能なトルク勾配調整孔と、
前記トルク勾配調整孔に嵌合し、前記飛び出し部材が前記トルク勾配調整孔へ侵入する深さを調整するトルク勾配調整部材と、
を含むトルク勾配調整手段を有する、
ことを特徴とするトルクドライバー。
【請求項2】
前記トルク勾配調整手段は、
前記基端部材の基端側に凹設され、前記トルク勾配調整孔と連通するトルク勾配調整凹部と、
前記トルク勾配調整凹部に嵌合し、前記トルク勾配調整部材を前記主軸に沿う方向に位置調整可能なトルク勾配調整操作片と、
を具えており、
前記トルク勾配調整操作片を操作することにより、前記トルク勾配調整部材を前記トルク勾配調整孔内で移動させて、前記飛び出し部材が前記トルク勾配調整孔へ侵入する深さを調整する、
請求項1に記載のトルクドライバー。
【請求項3】
前記保持孔は、前記保持部材に複数形成されており、
前記トルク勾配調整孔は、前記保持孔と同数個又は倍数個形成されている、
請求項1又は請求項2に記載のトルクドライバー。
【請求項4】
前記基端部材は、前記筒部に対して前記主軸に沿う方向に位置調整可能である、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のトルクドライバー。
【請求項5】
前記コイルバネの先端は、前記筒部に対してスライド可能なスライダーに保持されている、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のトルクドライバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の締付トルクで締付けを行なうことのできるトルクドライバーに関するものであり、より具体的には、主軸を付勢するコイルバネのトルク勾配を調整することのできるトルクドライバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所望の設定トルクでネジ等の締結部材を締め付けることのできるコイルバネ式のトルクドライバーが知られている。この種のトルクドライバーでは、主軸をグリップ部に対してコイルバネにて付勢すると共に、主軸にはグリップ部に設けられた凹みに嵌まるボールを具える。そして、締結部材を締め付けたときに、主軸とグリップ部との間に設定された締付トルク以上の締付トルクが作用すると、コイルバネの付勢力に抗してボールが凹みから脱出し、グリップ部に対して主軸が空転する。これにより、締付部材の適正な締付トルクを確保するようにしている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
グリップ部の内部には、コイルバネの圧縮状態の長さ(圧縮長さ)を調整するスライダーを有しており、スライダーの位置を主軸に沿う方向に移動させることで、コイルバネの圧縮長さを変えて締付トルクを設定可能としている。設定される締付トルクと、コイルバネの圧縮長さは、図7中線Aで示すように、コイルバネのバネ定数を係数とした比例関係にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭39−25090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コイルバネのバネ定数にはバラツキがある。従って、同じ仕様のトルクドライバーであっても、たとえば、図7に線Bで示すようにその勾配(「トルク勾配」と称する)が異なれば、同じようにスライダーを移動させても同じ締付トルクに設定できない問題がある。
【0006】
本発明の目的は、コイルバネのバネ定数に起因するトルク勾配を調整することのできるトルクドライバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るトルクドライバーは、
先端にビットを装着可能な主軸と、
前記主軸を回転自在に保持する筒部と、
前記主軸を前記筒部の基端に向けて付勢するコイルバネと、
前記主軸の基端側に形成されて前記主軸と一体回転する保持部材であって、前記コイルバネの基端を保持すると共に、基端側に向けて開口した保持孔を具える保持部材と、
前記保持孔に配備された飛び出し部材と、
前記筒部の基端に設けられた基端部材と、
を具えるトルクドライバーであって、
前記基端部材の内面であって、前記飛び出し部材の回転移行路と対向した位置に開設され、前記飛び出し部材の一部が侵入可能なトルク勾配調整孔と、
前記トルク勾配調整孔に嵌合し、前記飛び出し部材が前記トルク勾配調整孔へ侵入する深さを調整するトルク勾配調整部材と、
を含むトルク勾配調整手段を有する。
【0008】
前記トルク勾配調整手段は、
前記基端部材の基端側に凹設され、前記トルク勾配調整孔と連通するトルク勾配調整凹部と、
前記トルク勾配調整凹部に嵌合し、前記トルク勾配調整部材を前記主軸に沿う方向に位置調整可能なトルク勾配調整操作片と、
を具えており、
前記トルク勾配調整操作片を操作することにより、前記トルク勾配調整部材を前記トルク勾配調整孔内で移動させて、前記飛び出し部材が前記トルク勾配調整孔へ侵入する深さを調整することが望ましい。
【0009】
前記保持孔は、前記保持部材に複数形成されており、
前記トルク勾配調整孔は、前記保持孔と同数個又は倍数個形成することができる。
【0010】
前記基端部材は、前記筒部に対して前記主軸に沿う方向に位置調整可能とすることが望ましい。
【0011】
前記コイルバネの先端は、前記筒部に対してスライド可能なスライダーに保持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るトルクドライバーによれば、飛び出し部材は、主軸と一体に回転する保持部材に配備されているが、基端部材のトルク勾配調整孔に一部が侵入可能となっている。この飛び出し部材の侵入深さをトルク勾配調整部材によって調整することで、飛び出し部材がトルク勾配調整孔から脱出するために必要な力を調整することができる。この力の調整によって、コイルバネのバネ定数に起因するトルク勾配を補正することができるから、コイルバネのバネ定数にバラツキがあっても略同一の締付トルクを保証できるトルクドライバーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るトルクドライバーの平面図である。
図2図2は、トルクドライバーを図1の線II−IIに沿って断面して矢印方向に見た断面図である。
図3図3は、トルクドライバーを図2の線III−IIIに沿って断面して矢印方向に見た端面図である。
図4図4は、トルクドライバーを基端側(図2の矢印IV方向)から見た図である。
図5図5は、トルクドライバーを図2の線V−Vに沿って断面して矢印方向に見た端面図である。
図6図6は、トルク勾配調整手段のトルク勾配調整原理を示す説明図であって、図6(a)と図6(b)はボールの侵入深さが異なる状態を示している。
図7図7は、コイルバネの圧縮長さと締付トルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るトルクドライバー10について、図面を参照しながら説明を行なう。なお、以下の説明では、「基端」とは図1に示すトルクドライバー10のグリップ部40側、「先端」とはその逆を意味する。また、「軸方向」とは主軸30に沿う方向である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るトルクドライバー10の平面図である。トルクドライバー10は、円筒状の筒部20の基端側にグリップ部40、先端にトルク設定ダイヤル50を具えると共に、トルク設定ダイヤル50から突出してドライバーなどのビットが装着可能な主軸30を具える。筒部20の胴部には長孔22が開設されており、長孔22の側方にトルク設定用の目盛24が付されている。長孔22には、トルク設定ダイヤル50の回転によって軸方向にスライドするトルク指示突起57が配備されており、トルク設定ダイヤル50を回転させてトルク指示突起57を目盛24に合わせることで、所望の締付トルクに設定可能となっている。
【0016】
図2は、図1の線II−IIに沿う断面図である。図に示すように、筒部20は、中空であって、基端側の外周にグリップ部40が螺合している。筒部20の胴部には前述した長孔22が開設されると共に、先端側には内向きにフランジが突設されトルク設定ネジ52がスライド可能に嵌まっている。
【0017】
主軸30はトルク設定ダイヤル50及び筒部20を貫通する棒状の部材であって、先端にビットを装着するソケット31が凹設されている。主軸30の基端側には、保持部材を構成するボール保持ブッシュ32とバネ受けブッシュ37が取り付けられている。
【0018】
ボール保持ブッシュ32は、図2及び断面図3に示すように、主軸30と一体回転可能に形成され、外周に向けて突出したフランジを有し、フランジにはボール保持孔33が設けられている。このボール保持孔33は、先端側がバネ受けブッシュ37によって塞がれており、基端側から飛び出し部材であるボール35が一部臨出した状態で収容される。図示の実施形態ではボール保持孔33は3個であって、主軸30を中心とした同心円上に等間隔に設けられており、各ボール保持孔33にボール35が収容されている。
【0019】
バネ受けブッシュ37は、主軸30に回転自在に嵌まっており、外周に向けて突出したフランジが、コイルバネ60の基端を保持すると共に、ボール保持ブッシュ32と当接し、前述のとおりボール保持孔33の先端側を塞いでいる。
【0020】
なお、本実施形態では、保持部材をボール保持ブッシュ32とバネ受けブッシュ37の2つの部材から構成しているが、これらを1つの部材から構成することも勿論可能である。この場合、ボール保持孔33は有底穴を保持部材に直接凹設すればよい。
【0021】
主軸30には、コイルバネ60が嵌装されている。コイルバネ60は圧縮バネであり、その基端は、主軸30に取り付けられたバネ受けブッシュ37に当接し、先端は後述するスライダー55に当接している。
【0022】
トルク設定ダイヤル50は、筒部20の先端に配備され、内部にトルク設定ネジ52が貫通している。トルク設定ダイヤル50とトルク設定ネジ52は止めネジ53によって一体回転可能となっている。トルク設定ネジ52は主軸30に回転自在に嵌まっており、基端側の外周にネジが刻設されている。トルク設定ネジ52には抜止めが突設されており、筒部20から脱落しない。
【0023】
トルク設定ネジ52には、刻設されたネジに螺合するスライダー55が装着されている。スライダー55は上記したコイルバネ60の先端を保持している。また、スライダー55には、筒部20の長孔22内を移動するトルク指示突起57が突設されている。
【0024】
トルク設定ダイヤル50を筒部20に対して回転させると、トルク設定ネジ52が一体に回転し、そのネジ推力によってスライダー55が軸方向に移動してコイルバネ60の圧縮長さを変えて締付トルクが調整される。また、スライダー55と共にトルク指示突起57が長孔22に沿って移動し、設定される締付トルクが目視により確認できる。
【0025】
筒部20の基端には、グリップ部40を兼ねる基端部材が配備されている。
【0026】
本実施形態ではグリップ部40は、締付トルクのゼロ点調整機能と、コイルバネ60のトルク勾配の調整機能を具備している。
【0027】
グリップ部40は、図1に示すように外周に滑り止めのローレット加工が施されている。グリップ部40には、図2に示すように、基端側に筒部20と螺合する凹部42、図2及び図4に示すように先端側にトルク勾配調整操作片を構成するトルク勾配調整ネジ71が螺合する凹部44が形成されており、これら凹部42,44はグリップ部40から内向きに形成されたプレート43によって仕切られている。グリップ部40は、止めネジ46によって筒部20に固定され、トルク勾配調整ネジ71は止めネジ48によってグリップ部40に固定されている。
【0028】
プレート43には、図2及び図5に示すようにボール35が一部侵入可能なトルク勾配調整孔76と主軸30の基端が回転自在に嵌まる軸孔79が開設されている。
【0029】
トルク勾配調整孔76は、貫通孔であって、ボール保持ブッシュ32を回転させたときにボール保持孔33に嵌まるボール35の移行路上に形成されている。図示の実施形態では、保持孔33は主軸30に対して同心且つ等間隔に3個形成しているが、トルク勾配調整孔76は同じ同心円上に等間隔に6個形成している。これは、トルクドライバー10が設定した締付トルクに到達した際に空転可能な角度を60°に設定したためである。トルク勾配調整孔76を保持孔33と同じ3個とした場合には空転可能な角度は120°になる。
【0030】
トルク勾配調整孔76には、夫々トルク勾配調整部材となるトルク勾配調整ピン73が嵌められている。トルク勾配調整ピン73は、トルク勾配調整孔76へのボール35の侵入深さdの深さを調整する部材である。トルク勾配調整ピン73の基端側は、凹部44に挿入された円板状の抑えプレート77の先端側面と当接可能又は抑えプレート77と一体に形成されており、当該抑えプレート77の基端側面は、凹部44に螺合されたトルク勾配調整ネジ71に当接している。
【0031】
より詳細には、トルク勾配調整ピン73は、抑えプレート77が最も先端側に移動した場合であってもその先端がトルク勾配調整孔76から突出することのないよう、長さの最大はトルク勾配調整孔76の深さと同じ、すなわち、抑えプレート77の厚さとしている。また、トルク勾配調整ピン73により調整されるトルク勾配調整孔76のボール侵入深さdの最大はボール35の半径としている。トルク勾配調整孔76にボール35が半径以上侵入すると、ボール35がトルク勾配調整孔76から脱出不能となるからである。
【0032】
トルク勾配調整ネジ71は、図2及び図4に示すように工具挿入孔72が形成されており、止めネジ48を緩めた状態でレンチなどの調整用工具を挿入してトルク勾配調整ネジ71を回転させることにより、凹部44内で軸方向に移動可能となっている。
【0033】
然して、グリップ部40について、止めネジ46を緩め、グリップ部40を筒部20に対して回転させる。これにより、グリップ部40は、トルク勾配調整ピン73がトルク勾配調整孔76の深さdを維持したまま、軸方向に移動する。グリップ部40を締め方向に回すと、グリップ部40は筒部20の先端側に移動するから、トルク勾配調整ピン73がボール35を介して主軸30を先端側に押し込み、コイルバネ60が圧縮される。逆に、グリップ部40を緩め方向に回すと、グリップ部40は基端側に移動するから、コイルバネ60が伸長する。
【0034】
また、グリップ部40について、トルク勾配調整ネジ71をレンチ等の工具により回転させると、トルク勾配調整ネジ71は凹部44内で軸方向に移動する。トルク勾配調整ネジ71を締め方向に回すと、トルク勾配調整ネジ71は抑えプレート77を介してトルク勾配調整ピン73を図6(a)の状態から図6(b)に示すようにトルク勾配調整孔76の深さdが浅くなるように先端側へ押し込む。逆に、トルク勾配調整ネジ71を緩め方向に回すと、トルク勾配調整ネジ71はトルク勾配調整ピン73を図6(b)の状態から図6(a)に示すようにトルク勾配調整孔76の深さdが深くなるように基端側に移動させる。これによってトルク勾配調整孔76に侵入するボール35の侵入深さdが調整される。
【0035】
<締結部材の締付作業>
上記構成のトルクドライバー10は、ネジ、ボルトなどの締結部材の締付作業に用いられる。その工程は以下のとおりである。
【0036】
まず、ボール35がトルク勾配調整孔76に嵌まっている状態でトルク設定ダイヤル50を回し、一体に回転するトルク設定ネジ52のネジ推力によりスライダー55をスライドさせることでコイルバネ60の圧縮長さが変わり、締付トルクが変更される。締付トルクは、トルク指示突起57が指し示す目盛24を目視しながら調整できる。そして、ソケット31にドライバーなどのビットを装着し、グリップ部40を掴んで締付作業を行なう。
【0037】
図6は、トルク勾配調整手段70のボール35近傍の拡大断面図である。図では、上側がボール保持ブッシュ32、下側がプレート43であり、コイルバネ60の付勢力によってボール35は矢印F1方向に付勢されて、トルク勾配調整ピン73に押し当てられている。
【0038】
この状態で締付を行なうと、締付トルクが設定した締付トルクに達するまでは、図6に示すように、コイルバネ60がボール35を軸方向に付勢する力F1に対し、締付けによってグリップ部40と主軸30との間に作用する力は、軸方向に直交する水平面内で主軸30を中心とする円の接線方向に移動させようとする力F2’(ボール35の個数が複数の場合はボール35の個数で力を除したもの)として作用する。この力F2’によって、ボール35はトルク勾配調整孔76の開口縁76aに押し当てられる。
【0039】
すなわち、ボール35には力F1と力F2’の合力が作用する。この合力が、ボール35が開口縁76aを乗り越えるために必要な力F2と力F1の合力F3以上になると、ボール35は開口縁76aを乗り越える。つまり、締付けによって生ずる締付トルクが、ボール35に力F2以上の力を作用させると、ボール35はコイルバネ60の付勢力に抗してトルク勾配調整孔76から脱し、プレート43に乗り上げて、グリップ部40が主軸30に対して空転する。これにより、締付部材が所定の締結トルクで締結されたことが確認できる。
【0040】
上記のような締付作業において、正確な締付トルクを保証するには、締付作業を行なう前にトルクドライバー10の調整を行なう必要がある。この調整は、本実施形態では、ゼロ点調整とトルク勾配調整である。
【0041】
<ゼロ点調整>
ゼロ点調整は、トルク設定ダイヤル50を回転させ、たとえば目盛24の最小値にトルク指示突起57を移動させる。そして、トルクドライバー10をトルクテスターにセットし、その実測値とトルク指示突起57が指し示す目盛24の値を参照し、図7にゼロ点で示すように実測値と目盛値が一致するかどうか確認する調整である。
【0042】
実測値と目盛値が一致し、図7の線Aで示すようにゼロ点を通っている場合には後述するトルク勾配調整を行なう。一方で、実測値と目盛24の値がズレている場合(図7の線C、C’)には、ゼロ点調整を行なう。ゼロ点調整は、止めネジ46を緩めて、グリップ部40を回すことで行なわれる。実測値が目盛値よりも大きい場合には(図7の線C)、グリップ部40を緩めることでバネ受けブッシュ37が基端側に移動し、コイルバネ60が伸びるから再度実測を行なうと実測値は目盛値(ゼロ点)に近づく。逆に、実測値が目盛値よりも小さい場合には(図7の線C)、グリップ40を締めることで、バネ受けブッシュ37が先端側に移動し、コイルバネ60が縮むから再度実測すると実測値は目盛値(ゼロ点)に近づく。これを繰り返すことで、実測値と目盛24の値が合致するゼロ点に到達する(図7の線A)。
【0043】
続いて、トルク設定ダイヤル50を回転させて、たとえば締付トルクを最大値に設定して同様に測定を行ない、実測値と目盛値が一致することを確認すれば調整は完了し、締付トルクの目盛値が保証される。このように、トルク設定ダイヤル50の調整によりゼロ点調整が完了するのは、コイルバネ60のバネ定数が予め定められたバネ定数にある場合のみである。すなわち、コイルバネ60のバネ定数に狂いがあると、ある締付トルクでは実測値と目盛値は一致するが、他の締付トルクで実測値と目盛値に誤差が生じてしまう。そこで、ゼロ点調整と合わせて下記のトルク勾配調整を行なう必要がある。
【0044】
<トルク勾配調整>
上記したとおり、同一仕様のトルクドライバー10でコイルバネ60のバネ定数が予め定められた値であれば、そのトルク勾配も予め定められた値になるから、ゼロ点調整を行なうことで締付トルクが設定できる。しかしながら、コイルバネ60のバネ定数にはバラツキがあり、その結果、図7に線A、線Bで示すようにトルク勾配が異なる。たとえば線Aが所望設定のトルク勾配であるとしたとき、バネ定数(トルク勾配)が線Aとは異なる線Bのコイルバネ60では、ゼロ点調整によってゼロ点は一致するが、トルク指示突起57をゼロ点からスライドさせて異なる締付トルクに設定すると、設定されたゼロ点から離れる程、締付トルクの目盛値と実測値の差(図7中Dで示す)が大きくなってしまう。このため、コイルバネ60のトルク勾配調整が必要になる。
【0045】
そこで、本発明では、トルク勾配調整手段70によってボール35がトルク勾配調整孔76に侵入する深さdを調整し、ボール35がトルク勾配調整孔76から脱出するために必要な力を変えて、図7中線Cで示す線を線Aで示すトルク勾配となるように補正(矢印E)する。
【0046】
図6(a)と図6(b)に示すように、トルク勾配調整孔76のボール侵入深さdは、図6(a)が図6(b)に比べて大きい。ボール侵入深さdが変わると、ボール35がトルク勾配調整孔76から脱出するために必要な力F2も変化し、ボール侵入深さdが深い程、すなわち図6(b)の方が、ボール35の脱出に大きな力F2が必要になる。ボール侵入深さdの調整は、トルク勾配調整ネジ71を回すことで行なわれる。具体的には、図6(a)の状態から、トルク勾配調整ネジ71を締めると、トルク勾配調整ネジ71は先端側に向けて移動するから、トルク勾配調整ピン73は抑えプレート77に押されてトルク勾配調整孔76に深く侵入する。その結果、トルク勾配調整孔76は、ボール35の侵入深さdが小さくなる方向(図6(b)参照)に移動する。逆に、図6(b)の状態から、トルク勾配調整ネジ71を緩めことで、トルク勾配調整ネジ71は基端側に向けて移動するから、トルク勾配調整ピン73は、ボール35の侵入深さdが大きくなる方向(図6(b)参照)に移動可能となる。
【0047】
このように、ボール35がトルク勾配調整孔76に侵入する深さdを調整することで、ボール35がトルク勾配調整孔76を乗り越える力F2を調整することができ、その結果、コイルバネ60のトルク勾配を図7中線Bで示す傾きから、図7中線Aで示すように補正(矢印E)することができる。
【0048】
従って、「ゼロ点調整」と「トルク勾配調整」を繰り返し行なうことにより、コイルバネ60の実測値と目盛値が一致すると共に、コイルバネ60のトルク勾配も所定の傾きに調整することができる。従って、コイルバネ60にバラツキがあっても、目盛値を実測値と合わせることができる。
【0049】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0050】
たとえば、上記実施形態では、保持孔33の個数は3個としているが、1個以上であれば本発明を実現できる。また、保持孔33の個数に対してトルク勾配調整孔76の個数を2倍としているが、個数はこれに限定されず、また、同数であってもよい。
【0051】
上記実施形態では、飛び出し部材はボール35であるが、保持孔33から飛び出す部分が面取された形状であれば棒状、楕円状等であってもよい。また、飛び出し部材は保持部材と一体に形成することもできる。
【0052】
さらに、上記実施形態では、ゼロ点調整を行なうためにグリップ部40を筒部20に対して回転可能な構成としているが、ゼロ点調整が不要或いは他の構造によりゼロ点調整が可能であれば、グリップ部40は筒部20に対して回転不能又は一体に形成しても構わない。
【0053】
加えて、上記実施形態では、トルク勾配調整手段70は、トルク勾配調整ピン73をトルク勾配調整ネジ71によって軸方向に移動させているが、トルク勾配調整ピン73をボルト形状として、その締緩によってトルク勾配調整孔76の深さを調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 トルクドライバー
20 筒部
30 主軸
32 ボール保持ブッシュ(ボール保持部材)
35 ボール(飛び出し部材)
40 グリップ部
50 トルク設定ダイヤル
60 コイルバネ
70 トルク勾配調整手段
71 トルク勾配調整ネジ(操作片)
73 トルク勾配調整ピン(調整部材)
76 トルク勾配調整孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7