特許第6763611号(P6763611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 川崎学園の特許一覧

特許6763611アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法
<>
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000005
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000006
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000007
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000008
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000009
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000010
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000011
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000012
  • 特許6763611-アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763611
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20200917BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20200917BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200917BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/48 Z
   G01N33/53 P
   G01N33/53 D
   G01N33/53 M
   C12M1/34
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-512596(P2017-512596)
(86)(22)【出願日】2016年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2016062106
(87)【国際公開番号】WO2016167346
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2019年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-84983(P2015-84983)
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西村 泰光
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛巳
(72)【発明者】
【氏名】松崎 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】李 順姫
(72)【発明者】
【氏名】武井 直子
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/128108(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/074085(WO,A1)
【文献】 MURAKAMI S et al.,Cytokine alternation and speculated immunological pathophysiology in silicosis and asbestos-related diseases,Environ Health Prev Med.,2009年 7月,14(4),216-222
【文献】 MAEDA M et al.,Decreased CXCR3 expression in CD4+ T cells exposed to asbestos or derived from asbestos-exposed patients,Am J Respir Cell Mol Biol.,2011年10月,45(4),795-803
【文献】 Steven C.H. Kao,High Blood Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio Is an Indicator of Poor Prognosis in Malignant Mesothelioma Patients Undergoing Systemic Therapy,Clinical Cancer Research,2010年12月 1日,Vol.16 No.23,Page.5805-5813
【文献】 Naoko Kumagai-Takei,Inflammatory Alteration of Human T Cells Exposed Continuously to Asbestos,Int. J. Mol. Sci.,2018年 2月18日,Vol.19,Page.504
【文献】 Kumagai-Takei Naoko,Functional properties of CD8(+) lymphocytes in patients with pleural plaque and malignant mesothelioma,Journal of immunology research,2014年,Vol.2014,Page.670140
【文献】 Maeda Megumi,Induction of IL-17 production from human peripheral blood CD4+ cells by asbestos exposure,International journal of oncology,2017年 7月,Vol.50 No. 6,Page.2024-2032
【文献】 西村 泰光,粉塵曝露に関わる腫瘍疾患・自己免疫疾患における免疫動態の包括的解析,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2015年
【文献】 大槻剛巳,免疫因子による石綿曝露・ 中皮腫発症の早期判別方法,2015年10月29日,URL,https://shingi.jst.go.jp/past_abst/abst/p/15/kansaitokai_mednet/kansaitokai_mednet01.pdf
【文献】 Y Nishimura,1708a Scores predictive for asbestos exposure, malignant mesothelioma and pleural plaque on the basis of comprehensive immunological analysis,Occup Environ Med,2018年,Vol.75 No.Suppl 2,Page.A49
【文献】 猶本良夫,中皮腫の発癌機構の解明と新規治療法開発,平成24年度〜平成28年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業研究成果報告書,2017年
【文献】 大槻剛巳,アスベスト継続曝露に伴うヒトT細胞株の蛋白発現変化,日本職業・環境アレルギー学会雑誌,2012年 6月13日,Vol.20 No.1,Page.54
【文献】 武井直子,長期石綿曝露がヒトCD8+T細胞亜株のIFN−γ分泌量及び脱顆粒能に及ぼす影響,日本衛生学雑誌,2018年 3月,Vol.73 No.Supplement,Page.S276 P2-34
【文献】 西村泰光,石綿曝露下PBMC培養時のIL-12, IFN-γ, IL-17A産生量低下とNK細胞上NKp46発現量減少との関わり,免疫毒性研究会講演要旨集:日本免疫毒性学会講演抄録集,2011年,Vol.18th,Page.71
【文献】 松崎秀紀,ヒトT細胞株MT-2細胞に対するアスベスト長期曝露の影響,免疫毒性研究会講演要旨集:日本免疫毒性学会講演抄録集,2014年,Vol.21st,Page.71
【文献】 前田恵,白石綿慢性曝露はin vitroでヒト末梢CD4陽性T細胞のIL-17産生を誘導する,免疫毒性研究会講演要旨集:日本免疫毒性学会講演抄録集,2011年,Vol.18th,Page.93
【文献】 大槻剛巳,アスベスト問題から考える教訓 アスベストの生体影響に関する研究について,安全医学,2007年,Vol.3 No.2,Page.92-103
【文献】 西村泰光,アスベスト曝露と中皮腫発症の免疫学的スクリーニングマーカーの探索,繊維状物質研究,2018年,Vol.5,Page.102-106
【文献】 西村泰光,アスベスト曝露によるTh1細胞機能の低下,臨床免疫・アレルギー科,2014年,Vol.62 No.3,Page.314-317
【文献】 西村泰光,アスベスト関連良性疾患との比較に基づく悪性中皮腫患者の免疫学的特徴の分析,産業衛生学雑誌,2018年,Vol.60,Page.497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
C12M 1/34
G01N 33/48
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取した血液を用いて、血漿中IFN-α2、CD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子、および血漿中MCP1である解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を以下の数式1で表される重回帰式を用いて解析し、重回帰式を用いて得られた結果であるM-Scoreに基づき、中皮腫担癌である可能性が高い試料を検出すること;
被験者から採取した血液を用いて、CD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCXCR3、CD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme B遺伝子、およびCD8陽性細胞傷害性T細胞のIL18R1遺伝子である解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を以下の数式2で表される重回帰式を用いて測
定し、重回帰式を用いて得られた結果であるA-Scoreに基づき、アスベスト曝露歴のある可能性が高い試料を検出すること;または、
被験者から採取した血液を用いて、CD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子、NK細胞表面のCXCR3、およびCD4陽性T細胞表面のGITRである解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を以下の数式3で表される重回帰式を用いて解析し、重回帰式を用いて得られた結果であるP-Scoreに基づき、アスベスト曝露歴はあるが中皮腫担癌ではない可能性が高い試料を検出すること;
を含む検査方法:
(数式1)M-Score=d1+a1[IFN-α2]+b1[Ths_TNF-α]+c1[MCP-1]
(数式2)A-score=d2+a2[CXCR3MFI_CTL]+b2[CTLs_GranzymeB]+c2[CTL_IL18R1]
(数式3)P-score=d3+a3[Ths_TNF-α]+b3[CXCR3MFI_NK]+c3[GITR_Th]
〔ただし、数式1におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[IFN-α2]は血漿中IFN-α2濃度、[Ths_TNF-α]はCD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子発現量、[MCP-1]は血漿中MCP-1濃度であり、数式2におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[CXCR3MFI_CTL]はCD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCXCR3量、[CTLs_GranzymeB]はCD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme B遺伝子発現量、[CTL_IL18R1]はCD8陽性細胞傷害性T細胞のIL18R1遺伝子発現量であり、数式3におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[Ths_TNF-α] はCD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子発現量、[CXCR3MFI_NK] はNK細胞表面のCXCR3量であり、[GITR_Th]はCD4陽性T細胞表面のGITR量である。〕
【請求項2】
M-Scoreがカットオフ値よりも高い場合に、中皮腫担癌の可能性が高い試料を検出すること;
A-scoreがカットオフ値よりも高い場合に、アスベスト曝露歴がある可能性が高い試料を検出すること;または、
P-scoreがカットオフ値よりも高い場合に、アスベスト曝露歴があるが中皮腫担癌ではない可能性が高い試料を検出すること;
を含む、請求項に記載の検査方法。
【請求項3】
以下のいずれか1つの試薬の組み合わせを少なくとも含むアスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キット:
1)抗IFN-α2抗体を含む試薬、抗CD4抗体を含む試薬、TNF-α遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬、抗MCP-1抗体を含む試薬の組み合わせ;
2)抗CD8抗体を含む試薬、抗CXCR3抗体を含む試薬、Granzyme B遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬、IL18R1遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬の組み合わせ;
3)抗CD4抗体を含む試薬、TNF-α遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬、抗CD56抗体を含む試薬、抗GITR抗体を含む試薬の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者から採取した血液中の免疫関連分子について解析を行うことにより、アスベスト曝露歴または中皮腫を検査する方法、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キット、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査を行うための検査用プログラム、および検査用装置に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2015-084983号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
近年、中皮腫の発病率が増加傾向にあり、アスベスト(石綿)への曝露歴が発症に深く関係していることが明らかにされている。中皮腫は潜伏期間が数十年間と長く、アスベストを吸入してから20〜50年後に発症することが多く、発症前には異常所見が認められない。発症後の自覚症状としては、息切れ、胸郭より下の疼痛、咳、原因不明の体重減少などの自覚症状があるが、特徴的な症状に乏しく、早期発見が難しい。発見時からの病状が進行している患者が多く、かつ悪化も急速であることから、予後が極めて厳しい状況である。診断後の半数生存期間は、シスプラチンとペメトレキサドの併用の場合で12ヶ月であり、本治療を凌駕する化学療法は臨床上適用されていない。早期診断に基づく外科的切除としては胸膜切除/肺剥皮術(P/D)が主流であるが、本術式の場合には残存腫瘍の存在が問題になっている。悪性中皮腫も他の悪性腫瘍と同様に、早期に正確な診断をした上で治療法を選択することが最も重要となる。しかしながら悪性中皮腫には、現状では有効な早期診断指標は存在しない。実際の症例は、咳嗽や呼吸不全などの症状を以って受診する、又は、健康診断やその他の疾病のために偶然撮影された胸部レントゲンにて、胸膜中皮腫を疑われて、専門家を受診するという状況である。
【0004】
従来、アスベスト曝露歴は、職歴や居住歴を基盤とした調査と、実際の症例では胸部レントゲン検査による胸膜プラークの検出により確認されていた。アスベスト曝露は比較的高濃度曝露であれば、肺の線維化が惹起される石綿肺(じん肺症の代表的な疾病)、あるいは肺癌を生じる。比較的低濃度曝露の場合には、悪性中皮腫とともに他の良性疾患と考えられる胸膜プラーク(壁側胸膜に胼胝様の不規則な白板状の肥厚)、良性石綿胸水あるいは、びまん性胸膜肥厚などを生じる。これらは胸部レントゲンにより偶然検出される場合も多い。また悪性中皮種を発症している状態(中皮腫担癌)については、症状の出た症例を胸部レントゲンやCT/PETなどで検討して、最終的には病理診断を行うことにより診断がなされている。アスベスト取扱工場の労働者のみならず、アスベスト取扱工場の周辺住民、震災などの瓦礫処理従事者や瓦礫の周辺住民、建築物解体工事従事者等が、アスベスト曝露のハイリスク群と考えられる。しかしながら現在の臨床では、アスベストによる健康障害のスクリーニング法は、胸部レントゲンやCTによるものが主であり、ハイリスク群について中皮腫のバイオマーカーとしてメソテリンや、メソテリン関連蛋白(SMRP)の血清中の測定などが、試験的に実施されている。
【0005】
従来のハイリスク群の放射線診断技術によるスクリーニングは、被曝の問題が生じる。放射線診断は頻度が制限されることから、悪性中皮腫は急速に進展増悪してしまうため、スクリーニングに限界がある。また、メソテリンやSMRPなどはがん細胞の産生する物質であり、がん細胞が増殖することによって血液中にもこれらの物質が増加すると考えられる。よってがん細胞産生物質を単一測定することは、中皮腫の早期治療を目指した早期発見のツールとして利用することが難しい。
【0006】
中皮腫とアスベスト曝露歴とが関係することは明らかであるものの、詳細な発症機序等については不明な点が多く、有効なマーカーが見つかっていないのが現状である。血清TNF-α濃度がアスベスト肺に関連する肺癌の初期診断の指標となり得ること、MCP-1が中皮の癌化促進に関与すること、CD4陽性T細胞でのCXCR3発現や、CXCL10/IP10の血漿中濃度が、アスベスト曝露による病態判別の指標の候補となり得ることが開示されている(非特許文献1〜3)。また血中サイトカイン濃度変化の重回帰分析により求められる予測式が示す値は、中皮腫患者において、健常人および胸膜プラーク陽性者よりも高値となることが示されている(非特許文献4)。
【0007】
アスベストの日本での使用量の推移から、悪性中皮腫の発症は約40年前後を経て生じると想定され、今後2030年前後までで日本でも約10万人の中皮腫の発症が生じると予測され、現在アスベストに曝露しているハイリスク群もあることから、長期の観測が必要である。国際的な状況も同様であり、現在でもアスベストの輸出・輸入も行われていることから、世界保健機構(WHO)がアスベスト由来健康障害の撲滅宣言を発する状況にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Partanen, R., et al.: Occup. Environ. Med., 52, 316-319 (1995)
【非特許文献2】Chew, S.H., et al.: Carcinogenesis, 35, 164-172 (2014)
【非特許文献3】Maeda, M., et al.: Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 45, 795-803 (2011)
【非特許文献4】西村泰光:科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書(平成24年6月11日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、中皮腫発症の早期診断、中皮腫の進展の程度、中皮腫の発症・進展の危険度、治療効果の判定、予後診断に適用可能な検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、被験者より採取した血液について免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を取得することにより、アスベスト曝露歴、中皮腫、胸膜プラークの有無の判定を容易に行なうことが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.被験者から採取した血液を用いて、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を取得する工程を含む、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法。
2.取得された解析対象分子の測定値を、予め作成された重回帰式を用いて解析する工程、および、重回帰式を用いて得られた結果に基づき、アスベスト曝露歴または中皮腫について判定する工程をさらに含む、前項1に記載の検査方法。
3.予め作成された重回帰式が、健常者、胸膜プラーク患者、および中皮腫担癌患者から採取した血液を用いて取得された免疫関連分子の測定値を分析することにより、以下の(a)から(c)のいずれかに示された3以上の有限個の免疫関連分子を、解析対象分子として選別し、当該解析対象分子の測定値を重回帰分析することにより作成されたものである、前項2に記載の検査方法:
(a)健常者および胸膜プラーク患者からなるグループと、中皮腫担癌患者グループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子;
(b)健常者グループと、胸膜プラーク患者および中皮腫担癌患者からなるグループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子;
(c)胸膜プラーク患者グループと、健常者および中皮腫担癌患者からなるグループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子。
4.血液中に検出される免疫関連分子は、血漿中サイトカイン、末梢血単核球の免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質、および当該免疫担当細胞が発現する遺伝子を含む、前項1〜3のいずれか1に記載の検査方法。
5.血漿中サイトカインが、IL-1α, IL-1β, IL-1ra, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-10, IL-12p40, IL-12p70, IL-13, IL-15, IL-17A, EGF, Eotaxin, G-CSF, GM-CSF, IFN-α2, IFN-γ, IP-10, MCP-1, MIP-1α, MIP-1β, TNF-α, TNF-βおよびVEGFを含み、
免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質が、CD4陽性T細胞表面のCD25, CD69, CD25, GITR, CTLA-4, CXCR3, IL-1R1, IL-18R1, CD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCD25, CD69, HLA-DR, CD45RO, CXCR3, FasL, NK細胞表面のCD69, NKG2D, NKp46, CXCR3, FasL, および単球表面のHLA-DR, CD80, CD86を含み、
免疫担当細胞が発現する遺伝子が、CD4陽性T細胞のFoxp3遺伝子, T-bet遺伝子, GATA-3遺伝子, RORC遺伝子, TNF-α遺伝子, IFN-γ遺伝子, TGF-β遺伝子, IL-4遺伝子, IL-6遺伝子, IL-10遺伝子, IL-17A遺伝子, IL-R1遺伝子, IL-18R1遺伝子, Bcl-2遺伝子, CD8陽性細胞傷害性T細胞のNotch1遺伝子, EOMES遺伝子, CREB1 遺伝子, Granzyme B遺伝子, FasL遺伝子, IFN-γ遺伝子, TNF-α遺伝子, IL-6遺伝子, IL-1R1遺伝子, IL-18R1遺伝子, NK細胞のNKp46遺伝子, Granzyme B遺伝子, FasL遺伝子, TNF-α遺伝子, IFN-γ遺伝子, IL-6遺伝子、および単球のTNF-α遺伝子, IL-1β遺伝子, IL-12p35遺伝子,IL-15遺伝子, IL-18遺伝子, IL-23遺伝子を含む、前項1〜4のいずれか1に記載の検査方法。
6.被験者から採取した血液を用いて、血漿中IFN-α2、CD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子、および血漿中MCP1である解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を以下の数式1で表される重回帰式を用いて解析し、重回帰式を用いて得られた結果であるM-Scoreに基づき、中皮腫担癌である可能性が高い被験者を同定すること;
被験者から採取した血液を用いて、CD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCXCR3、CD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme B遺伝子、およびCD8陽性細胞傷害性T細胞のIL18R1遺伝子である解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を以下の数式2で表される重回帰式を用いて測定し、重回帰式を用いて得られた結果であるA-Scoreに基づき、アスベスト曝露歴のある可能性が高い被験者を同定すること;または、
被験者から採取した血液を用いて、CD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子、NK細胞表面のCXCR3、およびCD4陽性T細胞表面のGITRである解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を以下の数式3で表される重回帰式を用いて解析し、重回帰式を用いて得られた結果であるP-Scoreに基づき、アスベスト曝露歴はあるが中皮腫担癌ではない可能性が高い被験者を同定すること;
を含む、前項2〜5のいずれか1に記載の検査方法:
(数式1)M-Score=d1+a1[IFN-α2]+b1[Ths_TNF-α]+c1[MCP-1]
(数式2)A-score=d2+a2[CXCR3MFI_CTL]+b2[CTLs_GranzymeB]+c2[CTL_IL18R1]
(数式3)P-score=d3+a3[Ths_TNF-α]+b3[CXCR3MFI_NK]+c3[GITR_Th]
〔ただし、数式1におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[IFN-α2]は血漿中IFN-α2濃度、[Ths_TNF-α]はCD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子発現量、[MCP-1]は血漿中MCP-1濃度であり、数式2におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[CXCR3MFI_CTL]はCD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCXCR3量、[CTLs_GranzymeB]はCD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme B遺伝子発現量、[CTL_IL18R1]はCD8陽性細胞傷害性T細胞のIL18R1遺伝子発現量であり、数式3におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[Ths_TNF-α] はCD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子発現量、[CXCR3MFI_NK] はNK細胞表面のCXCR3量であり、[GITR_Th]はCD4陽性T細胞表面のGITR量である。〕
7.M-Scoreがカットオフ値よりも高い場合に、被験者について中皮腫担癌の可能性が高いと同定されること;
A-scoreがカットオフ値よりも高い場合に、被験者についてアスベスト曝露歴がある可能性が高いと同定されること;または、
P-scoreがカットオフ値よりも高い場合に、被験者についてアスベスト曝露歴があるが中皮腫担癌ではない可能性が高いと同定されること;
を含む、前項6に記載の検査方法。
8.被験者から採取した血液について、血液中に検出される免疫関連分子の測定値を取得するための試薬から選択された少なくとも3種以上の試薬を含む、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キット。
9.血液中に検出される免疫関連分子が、血漿中サイトカイン、末梢血単核球の免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質、および当該免疫担当細胞が発現する遺伝子を含み、前記少なくとも3種の試薬が、血漿中サイトカイン検出用試薬、免疫担当細胞表面タンパク質の検出用試薬、及び、免疫担当細胞が発現する遺伝子の発現検出用試薬からなる群から選択され、
血漿中サイトカイン検出用試薬が、抗IL-1α抗体を含む試薬, 抗IL-1β抗体を含む試薬, 抗IL-1ra抗体を含む試薬, 抗IL-2抗体を含む試薬, 抗IL-3抗体を含む試薬, 抗IL-4抗体を含む試薬, 抗IL-5抗体を含む試薬, 抗IL-6抗体を含む試薬, 抗IL-7抗体を含む試薬, 抗IL-8抗体を含む試薬, 抗IL-10抗体を含む試薬, 抗IL-12p40抗体を含む試薬, 抗IL-12p70抗体を含む試薬, 抗IL-13抗体を含む試薬, 抗IL-15抗体を含む試薬, 抗IL-17A抗体を含む試薬, 抗EGF抗体を含む試薬, 抗Eotaxin抗体を含む試薬, 抗G-CSF抗体を含む試薬, 抗GM-CSF抗体を含む試薬, 抗IFN-α2抗体を含む試薬, 抗IFN-γ抗体を含む試薬, 抗IP-10抗体を含む試薬, 抗MCP-1抗体を含む試薬, 抗MIP-1α抗体を含む試薬, 抗MIP-1β抗体を含む試薬, 抗TNF-α抗体を含む試薬, 抗TNF-β抗体を含む試薬および抗VEGF抗体を含む試薬を含み、
免疫担当細胞表面発現タンパク質の検出用試薬が、抗CD25抗体を含む試薬, 抗CD69抗体を含む試薬, 抗GITR抗体を含む試薬, 抗CTLA-4抗体を含む試薬, 抗CXCR3抗体を含む試薬, 抗IL-1R1抗体を含む試薬, 抗IL-18R1抗体を含む試薬, 抗HLA-DR抗体を含む試薬, 抗CD45RO抗体を含む試薬, 抗CXCR3抗体を含む試薬, 抗FasL抗体を含む試薬, 抗NKG2D抗体を含む試薬, 抗NKp46抗体を含む試薬, 抗CD80抗体を含む試薬, および抗CD86抗体を含む試薬を含み、
免疫担当細胞が発現する遺伝子の発現検出用試薬が、Foxp3遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, T-bet遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, GATA-3遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, RORC遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, TNF-α遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IFN-γ遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, TGF-β遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-4遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-6遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-10遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-17A遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-R1遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-18R1遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, Bcl-2遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, Notch1遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, EOMES遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, CREB1 遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, Granzyme B遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, FasL遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, TNF-α遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-1R1遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, NKp46遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬,IL-1β遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-12p35遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬,IL-15遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-18遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬, IL-23遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬を含む、
前項8に記載のアスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キット。
10.以下のいずれか1つの試薬の組み合わせを少なくとも含む、前項8又は9に記載のアスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キット:
1)抗IFN-α2抗体を含む試薬、抗CD4抗体を含む試薬、TNF-α遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬、抗MCP-1抗体を含む試薬の組み合わせ;
2)抗CD8抗体を含む試薬、抗CXCR3抗体を含む試薬、Granzyme B遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬、IL18R1遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬の組み合わせ;
3)抗CD4抗体を含む試薬、TNF-α遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む試薬、抗CD56抗体を含む試薬、抗GITR抗体を含む試薬の組み合わせ。
11.被験者から採取した血液を用いて得られた、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を、予め作成した重回帰式を用いて解析するデータ解析手段、および、重回帰式を用いて得られた結果に基づき、アスベスト曝露歴または中皮腫について判定するための判定手段として、コンピューターを機能させる、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用プログラム。
12.健常者、胸膜プラーク患者、および中皮腫担癌患者から採取した血液を用いて取得された免疫関連分子の測定値を分析することにより、以下の(a)から(c)のいずれかに示された3以上の有限個の免疫関連分子を、解析対象分子として選別する選別手段、および、当該解析対象分子の測定値を重回帰分析することにより、重回帰式を作成する作成手段として、コンピューターを機能させるための、前項11に記載の検査用プログラム:
(a)健常者および胸膜プラーク患者からなるグループと、中皮腫担癌患者グループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子;
(b)健常者グループと、胸膜プラーク患者および中皮腫担癌患者からなるグループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子;
(c)胸膜プラーク患者グループと、健常者および中皮腫担癌患者からなるグループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子。
13.被験者から採取した血液を用いて得られた、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を、予め作成した重回帰式を用いて解析するデータ解析手段、および、重回帰式を用いて得られた結果に基づき、アスベスト曝露歴または中皮腫について判定するための判定手段を備えた、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の検査方法により、被験者より採取した血液について免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を取得することにより、アスベスト曝露歴、中皮腫、胸膜プラークの有無の判定を容易に行なうことができる。アスベスト曝露歴、中皮腫、胸膜プラークの有無の結果を総合的に判断することで、中皮腫発症の早期診断、中皮腫の進展の程度、中皮腫の発症・進展の危険度、治療効果の判定、予後診断を、従来の検査方法と比較して、迅速かつ容易に、高精度で検査を行うことができる。また、本発明の検査方法は血液を検体とすることから、中皮腫の危険度の高い被験者について継続的に検査をしてモニタリングを行うことができ、中皮腫の早期診断および治療が可能となる。また本発明の検査方法によれば、約10〜20mlの採血で行うことができ、従来のレントゲン撮影による方法に比べて、より頻回に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】細胞表面マーカーのうち差異を認めたものの代表例を示す。(実施例1)
図2】遺伝子のmRNA量のうち差異を認めたものの代表例を示す。(実施例1)
図3】遺伝子のmRNA量のうち差異を認めたものの代表例を示す。(実施例1)
図4】血漿中サイトカイン濃度のうち、差異を認めたものの代表例を示す。(実施例1)
図5】M-Scoreに関する解析結果を示す図である。(実施例2)
図6】A-Scoreに関する解析結果を示す図である。(実施例2)
図7】P-Scoreに関する解析結果を示す図である。(実施例2)
図8】M-ScoreとP-Scoreの相関を示す。(実施例2)
図9】各スコアのROC曲線と、カットオフ値を示す図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、被験者から採取した血液に関して、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を、取得する工程を含む、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査方法に関する。本発明の検査方法は、中皮腫の発症の有無、中皮腫の進展の程度、中皮腫の発症・進展の危険度等を評価するための診断材料を提供するものである。胸膜プラークとは、主として壁側胸膜に生じる両側性の不規則な白板状の肥厚である。胸膜プラーク自体は肺機能障害を伴わず良性の病変である。胸膜プラークは中皮腫に転化するものではないが、胸膜プラーク有所見者は無所見者に比べてアスベストの累積曝露量が多いことが知られている。中皮腫は、アスベストへの曝露歴が発症に深く関係していると考えられているが、同じくアスベスト曝露で生じる胸膜プラークが全例で認められることはなく、胸膜プラークが前がん状態とは捉えられない。本発明の検査方法は、中皮腫担癌の有無に関するスコア、アスベスト曝露歴の有無に関するスコア、アスベスト曝露歴はあるが中皮腫担癌でない場合のスコアを得て、当該スコアを診断材料として用いることにより総合的に、中皮腫の発症・進展の危険度、中皮腫の進展の程度等を予測または評価することができる。
【0015】
本発明において被験者とは、検査対象となる者であればいかなる者であってもよい。本発明における被験者は一般的な健康診断や人間ドック等の対象者であってもよいし、中皮腫に関する検査の対象、例えば中皮腫に対する検査、早期診断のための検査、あるいは疾患のステージ、悪性度、治療効果の判定、予後診断などの検査について検査対象となる者であってもよい。
【0016】
本発明では、被験者から採取した血液を検査の検体として用いる。本明細書において、検体とは生体から採取したものをいい、検体に対して何らかの処理を行い、検査に供されるものを試料ということとする。採取した血液を処理して血漿に分離したもの、末梢血単核球を分離したもの、さらに各種表面抗原の発現に基づき分離した細胞群を血液由来試料ということとする。血液から血液由来試料を調製する方法は、自体公知の方法によることができ、特に限定されない。腫瘍細胞が産生し、血液中に漏れ出る分子については、腫瘍細胞のサイズが増大すれば血液中の量も多くなると考えられる。従来では、血液中の分子は早期診断指標というよりは、発見時の補助診断項目あるいは治療後の再発の有無のモニターとして用いられる状況にあった。一方、本発明は被験者の血液中の免疫関連分子を検出することにより、悪性中皮腫の発症を検出し得る。
【0017】
血液中に検出される免疫関連分子とは、血液中に存在する分子であって、生体内の免疫システムに関与する分子である。血液中に検出される免疫関連分子は、血漿中サイトカイン、末梢血単核球の免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質、および当該免疫担当細胞が発現する遺伝子を含む。本発明において得られる、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値とは、血液中に分泌されている解析対象分子の濃度や、血液中に含まれる細胞における解析対象分子の発現量等である。より具体的には、血漿中サイトカインの濃度、末梢血単核球の免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質の発現量(発現の度合い)、および当該免疫担当細胞が発現する遺伝子の発現量から選択されるものである。
【0018】
血漿中サイトカインとは、血液から分離した血漿中に含まれるサイトカインであればいかなるものであってもよい。サイトカインとは、 細胞から放出され、種々の細胞間情報伝達分子となる微量生理活性タンパク質であり、血液を介して細胞表面の高親和性受容体などに結合し、多面的な生物活性を発現させる。血漿中サイトカインの具体例としては、IL-1α, IL-1β, IL-1ra, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-10, IL-12p40, IL-12p70, IL-13, IL-15, IL-17A, EGF, Eotaxin, G-CSF, GM-CSF, IFN-α2, IFN-γ, IP-10, MCP-1, MIP-1α, MIP-1β, TNF-α, TNF-βおよびVEGFが挙げられる。血漿中サイトカイン濃度の測定は、自体公知の方法によることができ、特に限定されない。
【0019】
免疫担当細胞とは、生体内で免疫反応に関与する細胞であり、具体的にはB細胞、T細胞(CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)、CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)、および調節性T細胞等)、ナチュラルキラー(NK)細胞を含むリンパ球系細胞、 単球、マクロファージ、および樹状細胞を含む抗原提示細胞、好中球、好酸球、好塩基球、および肥満細胞を含む顆粒球が挙げられる。本発明の検査方法において、かかる免疫担当細胞の細胞表面に発現しているタンパク質の発現量(発現の度合い)、または、免疫担当細胞内で発現する遺伝子の発現量は、自体公知の方法により測定することができ、特に制限されない。免疫担当細胞の細胞表面に発現しているタンパク質の発現量(発現の度合い)は、抗体等により染色し、フローサイトメトリーを行うことにより測定することができる。免疫担当細胞が発現する遺伝子の発現量は、当該遺伝子の細胞内のmRNA量やタンパク質量を検出することにより、測定することができ、さらに免疫システムを刺激した後に測定することが好ましい。
【0020】
免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質の具体例としては、CD4陽性T細胞表面のCD25, CD69, CD25, GITR, CTLA-4, CXCR3, IL-1R1, IL-18R1, CD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCD25, CD69, HLA-DR, CD45RO, CXCR3, FasL, NK細胞表面のCD69, NKG2D, NKp46, CXCR3, FasL, および単球表面のHLA-DR, CD80, CD86が挙げられる。
【0021】
免疫担当細胞が発現する遺伝子の具体例としては、CD4陽性T細胞のFoxp3遺伝子, T-bet遺伝子, GATA-3遺伝子, RORC遺伝子, TNF-α遺伝子, IFN-γ遺伝子, TGF-β遺伝子, IL-4遺伝子, IL-6遺伝子, IL-10遺伝子, IL-17A遺伝子, IL-1R1遺伝子, IL-18R1遺伝子, Bcl-2遺伝子, CD8陽性細胞傷害性T細胞のNotch1遺伝子, EOMES遺伝子, CREB1 遺伝子, Granzyme B遺伝子, FasL遺伝子, IFN-γ遺伝子, TNF-α遺伝子, IL-6遺伝子, IL-1R1遺伝子, IL-18R1遺伝子, NK細胞のNKp46遺伝子, Granzyme B遺伝子, FasL遺伝子, TNF-α遺伝子, IFN-γ遺伝子, IL-6遺伝子、および単球のTNF-α遺伝子, IL-1β遺伝子, IL-12p35遺伝子,IL-15遺伝子, IL-18遺伝子, IL-23遺伝子が挙げられる。
【0022】
本発明の3以上の有限個の解析対象分子は、血漿中サイトカイン、末梢血単核球の免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質、および当該免疫担当細胞が発現する遺伝子から選択され、好ましくは上記に具体的に例示した各分子から選択される。解析対象分子は、感度および特異度を上げるために3以上選択されることが好ましく、検査の煩雑さと、感度および特異度の観点から5以下であることが好ましい。
【0023】
本発明では、免疫関連分子の測定値に基づき、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査を行うが、免疫関連分子の測定値を多変量解析して得られた式を本発明の検査において用いることができる。多変量解析としては、説明変数と目的変数との関係を利用できるものが好ましく、例えば、判別分析、主成分分析、因子分析、数量化理論一類、数量化理論二類、数量化理論三類、回帰分析(MLR、PLS、PCR、ロジスティック)、多次元尺度法、目的変数ありクラスタリング、ニューラルネットワーク、アンサンブル学習法、等が例示でき、フリーソフトや市販されているものを用いて式を作成することができる。これらの内、特に好ましいのは重回帰分析である。免疫関連分子から選別された解析対象分子の測定値を説明変数として、例えば、中皮腫担癌の被験者の同定、アスベスト曝露歴の被験者の同定、アスベスト曝露歴はあるが中皮腫担癌ではない被験者の同定を目的変数として、重回帰分析を行って重回帰式を求めることが好ましい。以下重回帰式を例にして本発明を説明する。
【0024】
解析対象分子は次のようにして選別することができる。まず、健常者、胸膜プラーク患者、中皮腫担癌患者から採取した血液について、免疫関連分子の測定値を取得する。取得した測定値について重回帰分析を行い、区別することを目的とするグループ間で差異を認める免疫関連分子を解析対象分子として選別することができる。差異を認める免疫関連分子は、目的とするグループ間の区別において影響度の大きいものが選択される。選択された免疫関連分子の測定値は、目的とするグループ間の区別を行うための重回帰式において説明変数として用いられる。また上記測定値についての重回帰分析により、重回帰式における係数および決定項(定数)を設定することができる。
【0025】
すなわち健常者、胸膜プラーク患者、中皮腫担癌患者とは、本発明の検査方法による検査結果を導くための標準となりうる者の群をいう。健常者は、広義の意味で定義することができ、健常者に含まれるヒトが、何らかの疾患を有していても、胸膜プラークおよび中皮腫担癌でないと判断される場合には、健常者に含めることができる。胸膜プラーク患者は、胸膜プラークが認められる患者群であり、中皮腫担癌でない患者から構成される。中皮腫担癌患者は、中皮腫担癌であると診断された患者群、中皮腫担癌のステージが明らかな患者群、中皮腫担癌の悪性度が明らかな患者群などから構成され、胸膜プラークを併発している患者が含まれていてもよい。健常者、胸膜プラーク患者、中皮腫担癌患者から取得された測定値を用いて重回帰分析を行うことにより、目的とするグループ間の区別のための重回帰式を作成し、重回帰式により得られるスコアのカットオフ値を設定することができる。
【0026】
本発明は、得られた重回帰式を用いて、以下の工程により、検査を行う。
(A)被験者から採取した血液を用いて、血液中に3以上の有限個の解析対象分子の測定値を取得する工程;
(B)取得された解析対象分子の測定値を、予め作成された重回帰式を用いて解析する工程であり、好ましくは目的とするグループ間の区別のためのスコアを算出する工程;
(C)予め設定したカットオフ値と、前記(B)で算出したスコアを比較する工程;
(D)前記(B)で得た重回帰式のスコアが、予め設定したカットオフ値と比較して特定のグループに属する場合に、被験者が当該特定のグループに属すると判定される工程。
【0027】
一旦重回帰式を作成したとしても、追加で、健常者、胸膜プラーク患者、中皮腫担癌患者から採取した血液について、免疫関連分子の測定値を取得し、取得した測定値を含めて重回帰分析を行うことにより、解析対象分子の選択、重回帰式における係数や決定項、目的とするグループ間の区別のためのカットオフ値を随時更新することができる。更新は、被験者による検査を行うときに、同時に行っても良い。
【0028】
本発明においては、以下の(a)から(c)から選択される、区別することを目的とするグループ間について、3以上の有限個の免疫関連分子を解析対象分子として選別し、当該解析対象分子の測定値を重回帰分析することにより、重回帰式が作成されることが好ましい。
(a)健常者および胸膜プラーク患者からなるグループと、中皮腫担癌患者グループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子。
(b)健常者グループと、胸膜プラーク患者および中皮腫担癌患者からなるグループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子。
(c)胸膜プラーク患者グループと、健常者および中皮腫担癌患者からなるグループとの間で測定値に差を認める、3以上の有限個の免疫関連分子。
【0029】
解析対象分子は上記手法に沿って選別されたものであればよく、特に限定されない。例えば、検査目的と解析対象分子の組み合わせは以下の3つが例示される。
(1)被験者から採取した血液を用いて、血漿中IFN-α2、CD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子、および血漿中MCP-1である解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を重回帰式を用いて解析し、重回帰式を用いて得られた結果であるスコア(M-Score)に基づき中皮腫担癌である可能性が高い被験者を同定する。
(2)被験者から採取した血液を用いて、CD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCXCR3、CD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme B遺伝子、およびCD8陽性細胞傷害性T細胞のIL-18R1遺伝子である解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を重回帰式を用いて測定し、重回帰式を用いて得られた結果であるスコア(A-Score)に基づき、アスベスト曝露歴のある可能性が高い被験者を同定する。
(3)被験者から採取した血液を用いて、CD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子、NK細胞表面のCXCR3、およびCD4陽性T細胞表面のGITRである解析対象分子の測定値を取得し、当該測定値を重回帰式を用いて解析し、重回帰式を用いて得られた結果であるスコア(P-Score)に基づき、アスベスト曝露歴はあるが中皮腫担癌ではない可能性が高い被験者を同定する。
【0030】
上記(1)〜(3)における重回帰式は以下の数式1〜3により示される。
(数式1)M-Score=d1+a1[IFN-α2]+b1[Ths_TNF-α]+c1[MCP-1]
(数式2)A-Score=d2+a2[CXCR3MFI_CTL]+b2[CTLs_GranzymeB]+c2[CTL_IL18R1]
(数式3)P-Score=d3+a3[Ths_TNF-α]+b3[CXCR3MFI_NK]+c3[GITR_Th]
ただし、数式1におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[IFN-α2]は血漿中IFN-α2濃度、[Ths_TNF-α]はCD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子発現量、[MCP-1]は血漿中MCP-1濃度であり、数式2におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[CXCR3MFI_CTL]はCD8陽性細胞傷害性T細胞表面のCXCR3量、[CTLs_GranzymeB]はCD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme B遺伝子発現量、[CTL_IL18R1]はCD8陽性細胞傷害性T細胞のIL-18R1遺伝子発現量であり、数式3におけるa,b,c,dはゼロでない任意の実数であり、[Ths_TNF-α] はCD4陽性T細胞のTNF-α遺伝子発現量、[CXCR3MFI_NK] はNK細胞表面のCXCR3量であり、[GITR_Th]はCD4陽性T細胞表面のGITR量である。a,b,c,d,a,b,c,d,a,b,c,dの具体的な値は、重回帰分析により設定されたものであればよい。
【0031】
上記(1)〜(3)における重回帰式は、各々以下の数式が例示される。
(数式1)M-Score = 2.43056 + 0.00460 x [IFN-α2] + 0.56948 x [Ths_TNF-α] + 0.00075 x [MCP-1]
(数式2)A-Score = 0.76825 - 0.00248 x [CXCR3MFI_CTL] + 0.52846 x [CTLs_GranzymeB] - 0.72952 x [CTL_IL18R1]
(数式3)P-Score = 0.22813 - 0.66572 x [Ths_TNF-α] - 0.01333 x [CXCR3MFI_NK] - 0.00733 x [GITR_Th]
【0032】
上記数式1により得られた被験者のM-Scoreがカットオフ値よりも高い場合に、被験者について中皮腫担癌の可能性が高いと同定され、上記数式2により得られた被験者のA-Scoreがカットオフ値よりも高い場合に、被験者についてアスベスト曝露歴がある可能性が高いと同定され、上記数式3により得られた被験者のP-Scoreがカットオフ値よりも高い場合に、被験者についてアスベスト曝露歴があるが中皮腫担癌ではない可能性が高いと同定される。中皮腫担癌の可能性が高いと同定された場合は、被験者について速やかに胸部レントゲンやCT/PET、病理診断に移行すべきである。中皮腫担癌の可能性は低いが、アスベスト曝露歴があると同定された場合は、被験者を検査のモニタリング対象とすることができ、比較的頻回(例:2〜3回/年)で継続的に本発明の検査方法を行い、経過を観察することが好ましい。中皮腫担癌の可能性が低く、アスベスト曝露歴がないと同定された場合は、被験者を綿密な検査のモニタリングの対象外とすることができるが、元来ハイリスクグループであれば1〜2年に一度の採血によるモニタリングが望ましい。
【0033】
本発明は、被験者から採取した血液について、血液中に検出される免疫関連分子の測定値を取得するための試薬から選択された少なくとも3種以上の試薬を含む、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キットも包含する。前記少なくとも3種以上の試薬により、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を取得することができる。前記少なくとも3種の試薬は、血漿中サイトカインに結合し得る抗体を含む血漿中サイトカイン検出用試薬、免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質に結合し得る抗体を含む免疫担当細胞表面タンパク質の検出用試薬、及び、免疫担当細胞における遺伝子発現を検出し得るポリヌクレオチドを含む、前記遺伝子の発現検出用試薬から選択される。
【0034】
本明細書において、血漿中サイトカインや免疫担当細胞の表面に発現しているタンパク質等の特定のタンパク質に結合し得る抗体は、自体公知の抗体であってもよいし、既存の一般的な製造方法によって製造した抗体や市販の抗体を用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。抗体は、標識物質により標識されていてもよい。標識物質は、具体的には、酵素、放射性同位元素、蛍光色素、ビオチン、染料ゾルおよび金コロイドやラテックス粒子等の不溶性担体を用いることができる。また、標識は公知の方法で行うことができるが、標識物質は抗体に結合させていてもよい。上記抗体は試薬(試薬組成物)として本発明の検出用試薬キットに含まれる。抗体を含む試薬は、生理食塩水、緩衝液等で希釈した状態、又は凍結乾燥形態等の長期間保存可能な試薬が例示される。抗体に、添加剤(例えば担体、賦形剤、希釈剤等)、安定化剤等を含有する溶液に溶解した後、凍結乾燥されて試薬が調製されていてもよい。安定化剤としては、グルコース等の単糖類、サッカロース、マルトース等の二糖類、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール、塩化ナトリウム等の中性塩、グリシン等のアミノ酸、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体(プルロニック)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン)等の非イオン系界面活性剤、ヒトアルブミン等が例示され、1〜10w/v%程度が添加されていることが好ましい。また本発明の検出用試薬キットには、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液等が含まれていてもよい。
【0035】
本明細書において、ポリヌクレオチドは塩基・糖・リン酸からなるヌクレオチドが2以上リン酸エステル結合した生体高分子を指し、DNAおよびRNA等の核酸を含む。本発明のポリヌクレオチドは、少なくとも15ヌクレオチド(塩基)、好ましくは17ヌクレオチド(塩基)の長さを有するものである。当該ポリヌクレオチドは特定の遺伝子に特異的にハイブリダイズし得るプローブ、特定の遺伝子に特異的にアニーリングし得るプライマー、当該プライマーと対になって核酸断片を増幅し得るプライマーとして機能するものである。当該ポリヌクレオチドの塩基配列は、発現を検出する遺伝子の塩基配列に100%相補的な配列である必要はなく、1塩基〜5塩基ほど(好ましくは1〜4塩基ほど、より好ましくは1〜2塩基ほど)欠失していてもよいし、相補的でない塩基が置換、挿入又は付加されていてもよい。また、ポリヌクレオチドがプライマーである場合は17〜25ヌクレオチド程度とすることが好ましく、プローブである場合は10〜30ヌクレオチド程度とすることが好ましい。プライマーは、一対のプライマーセットとして本発明の検出用試薬キットに含まれてもよい。
【0036】
プライマー及びプローブは、公知のプライマー又はプローブ設計ソフトウェアを用いて設計することができる。公知のソフトウェアとしては例えば、OLIGO Primer Analysis Software(Molecular Biology Insights社)、Beacon Designer(PREMIER Biosoft社)、Primer Expressソフトウェア(ライフテクノロジーズ社)、Primer3web version 4.0.0 Pick primers from a DNA sequence(http://bioinfo.ut.ee/primer3/)等を利用することができる。またポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置を利用して合成することができる。上記ポリヌクレオチドは、乾燥した状態もしくはアルコール沈澱の状態で、固体の試薬として、又は、水、生理食塩水、もしくは適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態の試薬として本発明の検出用試薬キットに含まれることもできる。試薬には、添加剤(例えば担体、賦形剤、希釈剤等)、安定化剤等が含有されていてもよい。安定化剤の具体例は上述の通りである。また、本発明の検査用試薬キットには、核酸増幅反応に必要な試薬、例えば、DNA合成酵素、緩衝液、dNTPミックスや、インターカレーター、塩化マグネシウム等が含まれていてもよい。インターカレーターは、PCR法等の核酸増幅反応による増幅産物を染色することにより、増幅産物の有無を検出することができる。インターカレーターとしては、エチジウムブロマイド、Sybergreenなどが例示される。またリアルタイムPCRによる増幅産物の検出のために、蛍光物質等で標識されたポリヌクレオチドが本発明の検査用試薬キットに含まれていてもよい。
【0037】
血液から、血漿や末梢血単核球、又は各種表面抗原の発現に基づき分離した細胞群等の血液由来試料を調製するために、自体公知の種々の試薬が知られている。例えば、CD4陽性T細胞を検出するための抗CD4抗体を含む試薬、CD8陽性細胞傷害性T細胞を検出するための抗CD8抗体を含む試薬、NK細胞を検出するための抗CD56抗体を含む試薬等が例示される。また各種細胞群を分離(ソーティング)するための試薬として、抗CD3抗体を含む試薬、抗CD56抗体を含む試薬、抗CD19抗体を含む試薬、抗CD4抗体を含む試薬、抗CD8抗体を含む試薬、抗HLA-DR抗体を含む試薬が例示される。また、単球を検出するためには抗CD14抗体を含む試薬を用いることができる。本発明のアスベスト曝露歴または中皮腫の検査用試薬キットは、上記の血液由来試料を調製するための試薬の1種以上を含んでいてもよい。
【0038】
各種抗体又はポリヌクレオチドの具体例は、後述する実施例に記載のものが挙げられる。
【0039】
また、本発明は被験者から採取した血液を用いて得られた、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を、予め作成した重回帰式を用いて解析するデータ解析手段、および、重回帰式を用いて得られた結果に基づき、アスベスト曝露歴または中皮腫について判定するための判定手段として、コンピューターを機能させる、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用プログラムも包含する。本発明の検査用プログラムは、さらに測定値を記憶させるための記憶手段としてコンピューターを機能させるものであってもよい。本発明の検査用プログラムはさらに、健常者、胸膜プラーク患者、および中皮腫担癌患者から採取した血液を用いて取得された免疫関連分子の測定値を分析することにより、上記(a)から(c)のいずれかに示された3以上の有限個の免疫関連分子を、解析対象分子として選別する選別手段、および、当該解析対象分子の測定値を重回帰分析することにより、重回帰式を作成する作成手段として、コンピューターを機能させるための検査用プログラムであってもよい。
【0040】
本発明はさらに、被験者から採取した血液を用いて得られた、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を、予め作成した重回帰式を用いて解析するデータ解析手段、および、重回帰式を用いて得られた結果に基づき、アスベスト曝露歴または中皮腫について判定するための判定手段を備えた、アスベスト曝露歴または中皮腫の検査用装置も包含する。本発明の検査用装置は、被験者から採取した血液を用いて得られた、血液中に検出される免疫関連分子から選択された3以上の有限個の解析対象分子の測定値を測定するための測定手段、上記判定手段に基づく判定結果を示すための表示手段を備えていてもよい。
【0041】
本発明の検査方法、検査用プログラム、および検査用装置は、1つのバイオマーカーによるものではなく、マルチマーカーによる検査を主体としたものであり、被験者の状態(アスベスト曝露歴および悪性中皮腫に関する状態)をより詳しく反映することができる。これにより、より正確に中皮腫の早期診断、発症・進展の危険度、治療効果の判定、予後診断などを行うことができる。
【実施例】
【0042】
本発明の理解を助けるために以下に実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0043】
(実施例1) 免疫関連分子の測定
岡山労災病院および兵庫医科大学病院の倫理委員会の承認を得て、以下の表1に示す健康なボランティア(健常者)(HV)、胸膜プラーク陽性患者(PL)、中皮腫担癌患者(MM)から、血液を採取し、以下の表2に示す免疫関連分子について解析を行った。
【表1】
【表2】
【0044】
上記健常者、胸膜プラーク陽性患者、中皮腫担癌患者から採取した血液を遠心分離処理を行い、血漿を得た。血漿についてHuman Cytokine Magnetic 30-Plex kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、29種のサイトカインの濃度を、HCYTMAG-60K-PX29 (Merck Millipore)によりLuminex機(Bio-Rad社製)にて測定した(Plasma cytokines)。
【0045】
また同じ血液を用いて、末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll密度勾配遠心分離法によって単離した。得られたPBMCを、常法に従って抗体により染色した後、フローサイトメーター(FACS Calibur、BD Bioscience社製)にて蛍光強度を測定して、Monocyte region(単球)、CD3+CD4+細胞(CD4陽性ヘルパーT細胞:Th)、CD3+CD8β+細胞(CD8陽性細胞傷害性T細胞:CTL)、CD3-CD56+細胞(ナチュラルキラー細胞:NK)の各々について、細胞表面マーカー(Cell surface markers(Surface molecules))の発現を確認した。
【0046】
同様にして得られたPBMCについて、抗体により染色した後、フローサイトメーター(FACS Aria、BD Bioscience社製)にて蛍光強度を測定して、Monocyte region(単球)、CD4+CD8β-細胞(CD4陽性ヘルパーT細胞:Th)、CD4-CD8β+細胞(CD8陽性細胞傷害性T細胞:CTL)、CD4-CD8β-CD56+細胞(ナチュラルキラー細胞:NK)を分画した。分画した各細胞群について、前処理をせずに各種mRNA発現量を測定(Fresh)、あるいは、PMA/イオノマイシンで1日間刺激を行った後に、各種mRNA発現量を測定した(Stimulated with PMA/IM)。mRNA発現量の測定はリアルタイムPCRを用いて常法に従って行った。
【0047】
CD4陽性、CD8陽性、及びCD56陽性の確認には、それぞれCD4、CD8及びCD56に対するモノクローナル抗体を用いて染色して各細胞を分画した。単球についてはフローサイトメ−ターでFSC、SSCと表される細胞の顆粒または細胞内構造によって区分した。RNAの抽出にはRNA抽出キットとしてRNeasy mini Kit(Qiagen)を用い、cDNAの合成にはcDNA合成キットであるPrime Script(R)II 1st strand cDNA Synthesis kit(TaKaRa)を用い、遺伝子発現を観察した。
【0048】
膜表面分子の検出に用いた抗体は以下の通りである。なおAria抗体は、分画(ソーティング)用であり、Calibur抗体は発現度観察用である。
<Aria 抗体リスト>
BD Pharmingen FITC Mouse Anti-Human CD3(抗CD3抗体)
BD Pharmingen PE Mouse Anti-Human CD56(抗CD56抗体)
BD Pharmingen PE-Cy5 Mouse Anti-Human CD19(抗CD19抗体)
BD Pharmingen Anti-CD4 (Human) mAb-FITC(抗CD4抗体)
BECKMAN COULTER Anti-CD8beta (Human) mAb-PC5(抗CD8抗体)
eBioscience anti-human HLA-DR PE LN3 100 tests,(PE)(抗HLA-DR抗体)
<Calibur 抗体リスト>
BD Pharmingen FITC Mouse Anti-Human CD3(抗CD3抗体)
BD Pharmingen PE-Cy5 Mouse Anti-Human CD56(抗CD56抗体)
BECKMAN COULTER Anti-CD8beta (Human) mAb-PC5(抗CD8抗体)
BECKMAN COULTER Anti-CD4 (Human) mAb-PC5(抗CD4抗体)
BECKMAN COULTER Anti-CD14 (Human) mAb-FITC(抗CD14抗体)
eBioscience anti-human HLA-DR PE LN3 100 tests,(PE)(抗HLA-DR抗体)
R&D SystemsBD Pharmingen PE Mouse Anti-Human CD183(CXCR3)(抗CXCR3抗体)
BD Pharmingen PE Mouse Anti-Human CD25(抗CD25抗体)
BECKMAN COULTER Anti-CD86 (B7-2) (Human) mAb-PE(抗CD86抗体)
BECKMAN COULTER Anti-CD335 (NKp46) (Human) mAb-PE(抗NKp46抗体)
Bio Legend PE anti-human CD45RO Antibody(抗CD45RO抗体)
Bio Legend PE anti-human CD218a (IL-18Rα) Antibody(抗IL-18R1抗体)
Bio Legend Anti-Human CD69 PE (FN50) 100 tests,(PE) (抗CD69抗体)
Bio Legend PE anti-human CD80 (B7-1, B71) 100 tests,(PE) (抗CD80抗体)
Bio Legend Anti-human CD178 (CD95 Ligand) (抗FasL抗体)
eBioscience Anti-human CD314 (NKG2D) (抗NKG2D抗体)
R&D Systems Anti CTLA-4 ,Human (Goat) (抗CTLA-4抗体)
R&D Systems Anti GITR/TNFRSF18 ,Human (Mouse) (抗GITR抗体)
R&D Systems Anti IL-1 Receptor 1 ,Human (Goat) (抗IL-1R1抗体)
【0049】
mRNA発現量の測定は、Sybergreen を用いて、Mx3000P QPCR System(Agilent Technologies, Inc.,)によりリアルタイムPCR法を用いて行った。リアルタイムPCR法にて用いたプライマーは、オープンソースのネットサービス:Primer3web version 4.0.0 Pick primers from a DNA sequence(http://bioinfo.ut.ee/primer3/)を利用して設計し、北海道システム・サイエンス社に委託して調製した。用いたプライマーの塩基配列を以下の表3に示す。なお表3中、F:フォワードプライマー、R:リバースプライマー、Fresh:新鮮細胞、PMA/IM:PMAとionomycin刺激後の細胞、4+:CD4陽性T細胞、8+:CD8陽性T細胞、NK:NK細胞、Mono:単球、R:受容体を意味する。
【表3】
【0050】
各種分子の測定結果を、図1図4に示す。図1は細胞表面マーカーのうち差異を認めたものの代表例を示す。図2および図3は、遺伝子のmRNA量のうち差異を認めたものの代表例を示す。図4は血漿中サイトカイン濃度のうち、差異を認めたものの代表例を示す。
【0051】
(実施例2) 免疫関連分子についての重回帰分析
実施例1により得られた免疫関連分子の測定値について、網羅的に重回帰分析を行った。重回帰分析はSPSS version 22(IBM社)を用いて行った。健常者群、胸膜プラーク患者群、中皮腫患者群の計3群の測定値を用いて、以下の1)〜3)の判別を行うために、解析を行った。
1)中皮腫担癌か否か、すなわち[健常者群+胸膜プラーク患者群]のグループと[中皮腫患者群]グループを判別する。
2)アスベスト曝露があるかどうか、すなわち[健常者群]グループと[胸膜プラーク患者群+中皮腫患者群]のグループを判別する。
3)アスベスト曝露はあるが中皮腫担癌ではない、すなわち[胸膜プラーク患者群]グループと[健常者群+中皮腫患者群]のグループを判別する。
【0052】
重回帰分析により、上記1)〜3)を判別するためのスコアを算出する予測式(重回帰式)を以下の通り構築した。
1)重回帰分析による中皮腫担癌である被験者の同定と予測式
M-Score = 2.43056 + 0.00460 x [IFN-α2] + 0.56948 x [Ths_TNF-α] + 0.00075 x [MCP-1]
[IFN-α2]:血漿中インターフェロン(IFN)α2の濃度
[Ths_TNF-α]:CD4陽性T細胞のTNF-αの遺伝子発現量
[MCP-1]:血漿中MCP-1の濃度
2)重回帰分析によるアスベスト曝露歴のある被験者の同定と予測式
A-Score = 0.76825 - 0.00248 x [CXCR3MFI_CTL] + 0.52846 x [CTLs_GranzymeB] - 0.72952 x [CTL_IL18R1]
[CXCR3MFI_CTL]:CD8陽性細胞傷害性T細胞のCXCR3(ケモカイン受容体の一種)の細胞表面の発現量
[CTLs_GranzymeB]:CD8陽性細胞傷害性T細胞のGranzyme Bの遺伝子発現量
[CTL_IL18R1]:CD8陽性細胞傷害性T細胞のIL-18R1の遺伝子発現量
3)重回帰分析によるアスベスト曝露歴があるが中皮腫非担癌である被験者の同定と予測式
P-Score = 0.22813 - 0.66572 x [Ths_TNF-α] - 0.01333 x [CXCR3MFI_NK] - 0.00733 x [GITR_Th]
[Ths_TNF-α]:CD4陽性T細胞のTNF-αの遺伝子発現量
[CXCR3MFI_NK]:NK細胞の細胞膜表面のCXCR3の発現量
[GITR_Th]:CD4陽性T細胞膜表面のGITRの発現量
なお上記のうち、遺伝子発現量はmRNA発現量であり、[Ths_TNF-α]と[CTLs_GranzymeB]は、PMA/イオノマイシン刺激後の細胞におけるmRNA発現である。
【0053】
上記予測式にて用いられる各解析対象分子の測定値は、各グループ間において変動が認められた。しかしながら、単独ではマーカーとなり得ないものも含まれていた。3つの解析対象分子の測定値にて、上記予測式を用いてスコアを算出することにより、中皮腫担癌、アスベスト曝露歴、アスベスト曝露歴があるが中皮腫非担癌の被験者を、簡便かつ正確に判別することができることがわかった(図5〜7)。
図8には、M-ScoreとP-Scoreの相関関係を示す。両者は有意に負の相関関係を示すことがわかった。中皮腫担癌患者と胸膜プラーク陽性患者のM-Score、P-Scoreは大きく異なっていることから、これらのScoreを用いて中皮腫の発症を予測することができると考えられた。
図9に、M-Score、P-Score、A-Scoreの感度及び特異度についてのROC分析(Receiver Operating Characteristic curve)の結果を示した。本発明の免疫関連分子による重回帰分析では、単独のバイオマーカーに比べて、感度および特異度が優れていると考えられた。また、本発明の検査方法により、中皮腫担癌、アスベスト曝露歴、アスベスト曝露歴があるが中皮腫非担癌を判別するカットオフ値が設定可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上詳述したように、本発明は被験者の血液を用いて簡便に検出することのできる免疫関連分子について、3以上の有限個の解析対象分子を用いて、重回帰分析を行うことにより、正確に中皮腫か否か、アスベスト曝露歴があるかどうか、アスベスト曝露歴はあるが中皮腫担癌でないかどうかを判別することができる。本邦では、2030年前後まで10万人程度、アスベストによる中皮腫が発症すると予測されている。本発明の検査方法を臨床応用することにより、早期発見につながるとともに、ひいては早期発見による早期治療が可能になる。加えて、本発明の方法により、取扱工場周辺・建造物解体業者・瓦礫処理従事者・瓦礫周辺居住一般市民を対象として、アスベスト曝露歴または中皮腫の簡易なスクリーニングを行うことも可能となる。さらに、アスベストに対する不安感は多くの国民が抱いていることから、通常の人間ドッグや健康診断のオプション項目として採用することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]