特許第6763657号(P6763657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763657
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/12 20060101AFI20200917BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20200917BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   F16H9/12 Z
   F16H25/20 Z
   F16H25/20 H
   F16H25/24 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-226922(P2015-226922)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2017-96339(P2017-96339A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年9月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渥美 隆士
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃尚
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭宏
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康平
(72)【発明者】
【氏名】森田 豪
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 裕康
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−92100(JP,A)
【文献】 特開2014−196775(JP,A)
【文献】 特表2007−523309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/00
F16H 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸(2)に支持される駆動プーリ(4)と、出力軸(3)に支持される従動プーリ(5)と、それら両プーリ(4,5)に巻き掛けられるベルト(6)と、前記両プーリ(4,5)のうちの何れか一方のプーリの溝幅を変更可能なアクチュエータ(12)とを備え、
前記アクチュエータ(12)は、モータ(19)と、該モータ(19)の回転力を受けて回転するナット部材(21)および該ナット部材(21)の回転を直線運動に変換して前記何れか一方のプーリの溝幅を変更するねじ軸(13)を含む送りねじ機構(31)とを有し、
前記アクチュエータ(12)は、前記モータ(19)の回転力を伝達する動力伝ギヤ(23)を該モータ(19)の下流側に備え、この動力伝ギヤ(23)の回転軸(23c)に、前記モータ(19)の回転力に依らず前記ナット部材(21)を回転させることが可能な操作部(25)を設けたことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記アクチュエータ(12)は、前記操作部(25)を操作して前記動力伝導ギヤ(23)を回転させることにより前記送りねじ機構(31)のナット部材(21)を回転可能としたことを特徴とする、請求項に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
入力軸(2)に支持される駆動プーリ(4)と、出力軸(3)に支持される従動プーリ(5)と、それら両プーリ(4,5)に巻き掛けられるベルト(6)と、前記両プーリ(4,5)のうちの何れか一方のプーリの溝幅を変更可能なアクチュエータ(12)とを備え、
前記アクチュエータ(12)は、モータ(19)と、該モータ(19)の回転力を受けて回転するナット部材(21)および該ナット部材(21)の回転を直線運動に変換して前記何れか一方のプーリの溝幅を変更するねじ軸(13)を含む送りねじ機構(31)とを有し、
前記アクチュエータ(12)に、前記モータ(19)の回転力に依らず前記ナット部材(21)を回転させることが可能な操作部(25)を設け、
前記ねじ軸(13)の一端は前記アクチュエータ(12)の外郭をなすハウジング(16)を貫通して外部へ露出し、前記アクチュエータ(12)に、前記ねじ軸(13)の前記一端側への直線運動方向の最大ストローク量を制限する規制手段(30)を設け、
前記何れか一方のプーリ(4,5)に軸受(10)を介して連結されるアーム(11)と、前記両プーリ(4,5)、ベルト(6)、およびアーム(11)を収容するケース(7)とを備え、前記アクチュエータ(12)は、前記ねじ軸(13)を前記アーム(11)と接続するために、前記ねじ軸(13)を前記ケース(7)内に挿入して前記ケース(7)に取り付けられており、前記規制手段(30)により制限される前記ねじ軸(13)の前記一端側への直線運動方向の最大ストローク量は、前記アクチュエータ(12)の前記ケース(7)への取り付け面(14a)から前記アーム(11)までの最大距離(l)よりも長く設定されていることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記送りねじ機構(31)は、前記ねじ軸(13)の直線運動を回転運動に変換するときの効率が回転運動を直線運動に変換するときの効率よりも低いことを特徴とする請求項1ないし請求項の何れかに記載のベルト式無段変速機。
【請求項5】
前記アクチュエータ(12)の外郭をなすハウジング(16)に、前記操作部(25)を操作可能な開口(15a)と、該開口(15a)を塞ぐ蓋部材(15b)とを設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項の何れかに記載のベルト式無段変速機。
【請求項6】
前記アクチュエータ(12)に、前記送りねじ機構(31)のねじ軸(13)と接触することで前記ナット部材(21)の回転に伴う前記ねじ軸(13)の回転を阻止する回り止め(14e)を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項の何れかに記載のベルト式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸に支持される駆動プーリと、出力軸に支持される従動プーリと、それら両プーリに巻き掛けられるベルトと、両プーリのうちの何れか一方のプーリの溝幅を変更可能なアクチュエータとを備えるベルト式無段変速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなベルト式無段変速機のアクチュエータとして、下記特許文献1に開示されるように、モータと、該モータの回転力を受けて回転するナット部材および該ナット部材の回転を直線運動に変換してプーリを駆動するねじ軸を含む送りねじ機構とを有するアクチュエータが既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−21609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されるアクチュエータでは、送りねじ機構にボールねじを用いているため、ねじの逆効率(ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するときの効率)が正効率(ねじ軸の回転運動を直線運動に変換するときの効率)と同程度に高く、ねじ軸を簡単にストローク(直線運動)させることができる。そのため、アクチュエータを変速機のケースに取り付ける際、ねじ軸のストローク位置(直線運動方向の位置)を予め正確に調整しておかなくても、ケースへの取り付け時に現物合わせで規定の位置に調整することができる。しかしながら、こうした利点を有する反面、ボールねじは高価なため、アクチュエータのコストアップを招く要因となる。
【0005】
一方、ボールねじに代わる安価なものとして、ボールを介さない送りねじ機構を用いる場合には、ねじの逆効率が正効率よりも低いため、ボールねじのようにねじ軸を簡単にストロークさせることができない。そのため、アクチュエータを変速機のケースに取り付けた後にねじ軸のストローク位置を調整することが難しく、ケースへの取り付け前にねじ軸のストローク位置を予め規定の位置に調整しておかなければ、アクチュエータをケースに取り付けられない等の不具合が生じる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するときの効率が、回転運動を直線運動に変換するときの効率よりも低い送りねじ機構を用いるような場合でも、ねじ軸のストローク位置を簡単に調整することができるベルト式無段変速機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、入力軸に支持される駆動プーリと、出力軸に支持される従動プーリと、それら両プーリに巻き掛けられるベルトと、前記両プーリのうちの何れか一方のプーリの溝幅を変更可能なアクチュエータとを備え、前記アクチュエータは、モータと、該モータの回転力を受けて回転するナット部材および該ナット部材の回転を直線運動に変換して前記何れか一方のプーリの溝幅を変更するねじ軸を含む送りねじ機構とを有し、前記アクチュエータは、前記モータの回転力を伝達する動力伝ギヤを該モータの下流側に備え、この動力伝ギヤの回転軸に、前記モータの回転力に依らず前記ナット部材を回転させることが可能な操作部を設けたことを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第の特徴に加えて、前記アクチュエータは、前記操作部を操作して前記動力伝導ギヤを回転させることにより前記送りねじ機構のナット部材を回転可能としたことを第の特徴とする。
【0009】
また本発明は、入力軸に支持される駆動プーリと、出力軸に支持される従動プーリと、それら両プーリに巻き掛けられるベルトと、前記両プーリのうちの何れか一方のプーリの溝幅を変更可能なアクチュエータとを備え、前記アクチュエータは、モータと、該モータの回転力を受けて回転するナット部材および該ナット部材の回転を直線運動に変換して前記何れか一方のプーリの溝幅を変更するねじ軸を含む送りねじ機構とを有し、前記アクチュエータに、前記モータの回転力に依らず前記ナット部材を回転させることが可能な操作部を設け、前記ねじ軸の一端は前記アクチュエータの外郭をなすハウジングを貫通して外部へ露出し、前記アクチュエータに、前記ねじ軸の前記一端側への直線運動方向の最大ストローク量を制限する規制手段を設け、前記何れか一方のプーリに軸受を介して連結されるアームと、前記両プーリ、ベルト、およびアームを収容するケースとを備え、前記アクチュエータは、前記ねじ軸を前記アームと接続するために、前記ねじ軸を前記ケース内に挿入して前記ケースに取り付けられており、前記規制手段により制限される前記ねじ軸の前記一端側への直線運動方向の最大ストローク量は、前記アクチュエータの前記ケースへの取り付け面から前記アームまでの最大距離よりも長く設定されていることを第の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1ないし第の特徴の何れかに加えて、前記送りねじ機構は、前記ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するときの効率が回転運動を直線運動に変換するときの効率よりも低いことを第の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1ないし第の特徴の何れかに加えて、前記アクチュエータの外郭をなすハウジングに、前記操作部を操作可能な開口と、該開口を塞ぐ蓋部材とを設けたことを第の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1ないし第の特徴の何れかに加えて、前記アクチュエータに、前記送りねじ機構のねじ軸と接触することで前記ナット部材の回転に伴う前記ねじ軸の回転を阻止する回り止めを設けたことを第の特徴とする。
【0013】
尚、実施の形態の外壁面14aは本発明の取り付け面に対応し、実施の形態の段付き歯車23は本発明の動力伝導ギヤに対応し、実施の形態のCリング30は本発明の規制手段に対応する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1,第の特徴によれば、モータの回転力に依らず送りねじ機構のナット部材を回転させることが可能な操作部をアクチュエータに設けたので、操作部を操作してナット部材を回転させることでねじ軸をストロークさせることができる。従って、ねじの逆効率が正効率よりも低い送りねじ機構を用いるような場合でも、ねじ軸のストローク位置を簡単に調整することができる。そのため、アクチュエータを変速機のケースに取り付ける際、ねじ軸のストローク位置を予め正確に調整しておかなくても、ケースへの取り付け時に現物合わせで規定の位置に調整することができるから、組立作業性の向上を図ることができる。特に車体等に既に取り付けられているケース内にねじ軸を挿入してストローク位置を調整しなければならないような場合には、組立作業性を格段に向上させることができる。
【0015】
しかも本発明の第1の特徴によれば、モータの回転力を伝達する動力伝ギヤを該モータの下流側に備え、この動力伝導ギヤの回転軸に操作部を設けたので、ナット部材自体にそれを回転させる操作部を設けるものと比べて、操作部の構造や配置の自由度が簡単になる。また、動力伝導ギヤを介してナット部材を回転可能としたので、ナット部材を直接回転させる場合よりも回転トルクを軽減できる。
【0016】
また本発明の第の特徴によれば、操作部を操作して動力伝導ギヤを回転させることにより送りねじ機構のナット部材を回転可能としたので、ねじ軸のストローク位置の調整が容易になるとともに、工具等による操作部の破損を防止できる。
【0017】
また本発明の第の特徴によれば、ねじ軸の一端側への直線運動方向の最大ストローク量を制限する規制手段をアクチュエータに設けたので、ねじ軸の一端がハウジングを貫通して外部へ露出する構造のアクチュエータにおいて、ねじ軸のストローク位置を調整する際に、過度の調整によりねじ軸が誤ってハウジングから脱落することを防止できる。その上、規制手段により制限されるねじ軸の一端側への直線運動方向の最大ストローク量が、アクチュエータのケースへの取り付け面からアームまでの最大距離よりも長く設定されているので、ねじ軸を予め最大ストローク量まで調整しておけば、アクチュエータをケースに取り付ける際に、アームがケース内に隠れて見えない状態でもねじ軸がアームまで届かないといった事態を招くことがなく、ねじ軸とアームとを確実に接続することができる。
【0018】
また本発明の第の特徴によれば、ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するときの効率が、回転運動を直線運動に変換するときの効率よりも低い送りねじ機構を用いるので、本発明の第1,第の特徴を有効に発揮できる。
【0019】
また本発明の第の特徴によれば、ハウジングの開口から操作部を操作可能としたので、メンテナンス性の向上を図り得るとともに、該開口に蓋部材を設けたことで、ハウジング内への異物の侵入も防止できる。
【0020】
また本発明の第の特徴によれば、ねじ軸と接触してねじ軸の回転を阻止する回り止めをアクチュエータに設けたので、ねじ軸のストローク位置を調整する際に、ねじ軸がナット部材の回転に伴って回転してしまうことがない。これにより、片手で操作部を操作しながら、他方の手でねじ軸がナット部材の回転に伴って回転しないように押さえておく必要がないから、組立作業性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態におけるベルト式無段変速機の平断面図。
図2】本発明の実施形態におけるベルト式無段変速機の側面図(図1の2矢視図。
図3図1の矢視3部分の拡大図。
図4図3の4−4線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて以下に説明する。
【0023】
図1は、本発明に係るベルト式無段変速機の平断面図であり、図2図1の2矢視図である。
【0024】
図1図2に示すように、ベルト式無段変速機1は、図示せぬエンジンやモータ等の駆動源から動力が伝達される入力軸2と、この入力軸2に平行で図示せぬ車輪に動力を伝達する出力軸3と、入力軸2に支持される駆動プーリ4と、出力軸3に支持される従動プーリ5と、それら両プーリ4,5に巻き掛けられるベルト6と、それら両プーリ4,5およびベルト6を収容するケース7と、そのケース7に取り付けられて駆動プーリ4または従動プーリ5の何れか一方の溝幅を変更可能なアクチュエータ12とを備えて、自動二輪車等の車両に搭載される。
【0025】
駆動プーリ4は入力軸2に固定される駆動側固定シーブ4aと、入力軸2に支持されて入力軸2の軸線方向に移動可能な駆動側可動シーブ4bとからなっており、従動プーリ5は出力軸3に固定される従動側固定シーブ5aと、出力軸3に支持されて出力軸3の軸線方向に移動可能な従動側可動シーブ5bとからなっている。
【0026】
駆動側可動シーブ4bの背後で入力軸2にはランププレート8が固定されて、この駆動側可動シーブ4bとランププレート8との間に複数の遠心ウエイト9が保持される。いま入力軸2が回転して、その回転速度に応じた遠心力が遠心ウエイト9に作用すると、遠心ウエイト9が駆動側可動シーブ4bのカム面に沿って径外方へ移動し、駆動側可動シーブ4bを駆動側固定シーブ4a側へ移動させてベルト6の巻き掛け半径が大きくなる。
【0027】
また両プーリ4,5の可動シーブ4b,5bの一方、本実施形態では駆動側可動シーブ4bには、軸受10を介してアーム11が相対回転可能に連結されており、そのアーム11には、該アーム11を介して駆動側可動シーブ4bを入力軸2の軸線方向に移動させ、遠心ウエイト9と協働して駆動プーリ4の溝幅を変更するアクチュエータ12が、そのねじ軸13に形成されたフック部13aを、アーム11に形成されたピン11aに係合させるようにして接続される。
【0028】
図1の矢視3部分の拡大図である図3と、図3の4−4線断面図である図4とを併せて参照して、アクチュエータ12は、第1ハウジング半体14と第2ハウジング半体15とで構成されるハウジング16を備えていて、これら第1,第2ハウジング半体14,15間には扁平な収納空間17が画成される。第1ハウジング半体14の第2ハウジング半体15と反対側の外壁面14aは、ケース7に形成された取付部7aへの取り付け面とされていて、収納空間17よりも外側方に張り出す第1ハウジング半体14の固定部14bが取付部7aにボルト18で結合される。
【0029】
第1ハウジング半体14の外壁面14aからは、第1,第2膨出部14c,14dがケース7内に膨出しており、第1膨出部14c内には駆動源となるモータ19が配置され、第2膨出部14d内にはねじ軸13が配置される。またケース7の取付部7aには、第1,第2膨出部14c,14dをケース7内に挿入するための開口部7bが形成される。
【0030】
収納空間17内には、モータ19の出力を減速する減速ギヤ機構20とこの減速ギヤ機構20を介してモータ19の回転力が伝達されるナット部材21とが配置される。減速ギヤ機構20は、モータ19のモータ軸19aに固定されたピニオンギヤ22と、大歯車23aおよび小歯車23bを有して大歯車23aがピニオンギヤ22に噛み合う段付き歯車23と、ナット部材21の外周に嵌合して段付き歯車23の小歯車23bに噛み合う平歯車24とで二段減速式に構成され、段付き歯車23における回転軸23cの第2ハウジング半体15側の端部には、段付き歯車23を第2ハウジング半体15の外方から回転させ得る操作部25が形成される。この操作部25はプラス溝またはマイナス溝、三角穴または六角穴等(実施形態では六角穴だがこれに限られるものではない)で構成されており、第2ハウジング半体15には、この操作部25と対向して操作部25に係合可能な図示せぬ工具を挿入できる開口15aと、工具の非挿入時に開口15aを塞ぐ蓋部材15bとが設けられる。
【0031】
ナット部材21はベアリング26,27を介して第1,第2ハウジング半体14,15に回動可能に支持されている。ナット部材21の内周には雌ねじ21aが形成されて、この雌ねじ21aと噛み合う雄ねじ13bを有するねじ軸13が、第1ケース半体14の外壁面14aから膨出する第2膨出部14d内に摺動自在に配置されており、ナット部材21がモータ19の回転力を受けて回転することで、ねじ軸13がナット部材21の軸線に沿って進退動する。
【0032】
ナット部材21の下端には、ねじ軸13を回動且つ摺動自在に保持する滑り軸受28がねじ軸13との間に配置される。またねじ軸13の下端には環状の溝29が形成されていて、この溝29には、滑り軸受28の下端に当接することでねじ軸13のそれ以上の上方への移動を制限する規制手段としてのCリング30が嵌め込まれる。そして、これらナット部材21およびねじ軸13によって送りねじ機構31が構成される。
【0033】
雌ねじ21aおよび雄ねじ13bは台形ねじで形成されていて、ねじ軸13の直線運動を回転運動に変換するときの効率(逆効率)が、回転運動を直線運動に変換するときの効率(正効率)よりも低い。そのため、ボールねじのようにねじ軸13を簡単にストローク(直線運動)させることはできないが、段付き歯車23の第2ハウジング半体15側の端部には、段付き歯車23を第2ハウジング半体15の外方から回転させ得る操作部25が形成されているので、第2ハウジング半体15の開口15aから操作部25に図示せぬ工具を挿入して段付き歯車23を回転させることでナット部材21を回転させることができ、これによりねじ軸13をストロークさせることができる。従って、ねじの逆効率が正効率よりも低い台形ねじを用いながらも、ねじ軸13のストローク位置(直線運動方向の位置)を簡単に調整することができる。
【0034】
第2膨出部14dの先端には、フック部13aの背面と接触してねじ軸13の回転を阻止する板状部14eが回り止めとして突設されていて、ナット部材21の回転に伴うねじ軸13の回転を阻止するが、回り止めの構成はこれに限定されるものではない。また、ねじ軸13の一端が貫通して外部へ露出する第2膨出部14d先端の開口部14fはシール部材32で密封されて、塵埃等がハウジング16内に侵入することを防止している。
【0035】
モータ19が回転すると、その回転が減速ギヤ機構20からナット部材21に伝達されて、ナット部材21の回転によりねじ軸13が進退動する。このとき、ねじ軸13の先端に形成されたフック部13aが、ねじ軸13の進退動をアーム11に伝達するべくコ字状に形成されていて、その平行部間の空隙13cをアーム11のピン11aに係合させるので、ねじ軸13の進退動に対応してアーム11が入力軸2の軸線方向に沿って移動し、駆動側可動シーブ4bを入力軸2の軸線方向に移動させる。
【0036】
Cリング30により制限されるねじ軸13の最大ストローク量は、ケース7へのアクチュエータ12の取り付け面である外壁面14aからアーム11までの最大距離lよりも長く設定されていて、ねじ軸13を予め最大ストローク量まで伸ばしておけば、アーム11がケース7内に隠れて見えない状態でもフック部13aがピン11aまで届かないといった事態を招くことがないようにしている。
【0037】
アクチュエータ12のケース7への取り付けは、次のように行われる。
【0038】
先ず、モータ19を駆動するか操作部25を操作してナット部材21を回転させ、ねじ軸13のストローク位置をアクチュエータ12の取り付け面である外壁面14aからアーム11までの最大距離lよりも長くした状態で、アクチュエータ12の第1,第2膨出部14c,14dを、ケース7の開口7bからケース7内に挿入する。
【0039】
このとき、Cリング30により制限されるねじ軸13の最大ストローク量がアクチュエータ12の取り付け面14aからアーム11までの最大距離lよりも長く設定されているので、アクチュエータ12の取り付け面14aとケース7の取付部7aとの間に隙間を設けることができ、該隙間の分だけフック部13aの移動の自由度が増加するので、ねじ軸13のフック部13aをアーム11のピン11aに容易に係合させることが可能となる。その後、フック部13aをピン11aに係合させた状態で、操作部25を操作してナット部材21を回転させれば、ねじ軸13のストローク位置を調整できるので、アクチュエータ12の取り付け面14aをケース7の取付部7aに漸次近づけて両者の合わせ面を密着させることができる。従って、この状態でアクチュエータ12の固定部14bをケース7の取付部7aにボルト18で固定することで、アクチュエータ12をケース7に取り付けることができる。
【0040】
なお、ねじ軸13の挿入方向でケース7内にフック部13aの頭部と対向するストッパ部材(図示せず)を突設しておき、このストッパ部材の高さを、フック部13aの頭部が当接したときにフック部13aの空隙13cとアーム11のピン11aとが対向するように形成しておけば、ケース7の開口部7bから差し込まれたねじ軸13のフック部13aの頭部が当該ストッパ部材に接したときに、ねじ軸13をアーム11に近づくように移動させるだけで、フック部13aをピン11aに係合させることが可能となる。
【0041】
次に、この実施形態の作用を説明する。
【0042】
入力軸2に支持される駆動プーリ4と、出力軸3に支持される従動プーリ5と、それら両プーリ4,5に巻き掛けられるベルト6と、両プーリ4,5のうちの何れか一方のプーリの溝幅を変更可能なアクチュエータ12とを備え、アクチュエータ12は、モータ19と、該モータ19の回転力を受けて回転するナット部材21および該ナット部材21の回転を直線運動に変換して何れか一方のプーリの溝幅を変更するねじ軸13を含む送りねじ機構31とを有し、アクチュエータ12に、モータ19の回転力に依らずナット部材21を回転させることが可能な操作部25を設けたので、操作部25を操作してナット部材21を回転させることでねじ軸13をストロークさせることができる。従って、ねじ軸13の直線運動を回転運動に変換するときの送りねじ機構31の効率が、回転運動を直線運動に変換するときの効率よりも低くても、ねじ軸13のストローク位置を簡単に調整することができるから、アクチュエータ12を変速機のケース7に取り付ける際、ねじ軸13のストローク位置を予め正確に調整しておかなくても、ケース7への取り付け時に現物合わせで規定の位置に調整することが可能となり、組立作業性の向上を図ることができる。そのため、特に車体等に既に取り付けられているケース7内にねじ軸13を挿入してストローク位置を調整しなければならないような場合に、組立作業性を格段に向上させることができる。
【0043】
しかもねじ軸13の一端はアクチュエータ12の外郭をなすハウジング16を貫通して外部へ露出し、アクチュエータ12に、ねじ軸13の一端側への直線運動方向の最大ストローク量を制限する規制手段としてのCリング30を設けたので、ねじ軸13の一端がハウジング16を貫通して外部へ露出する構造のアクチュエータ12において、ねじ軸13のストローク位置を調整する際に、過度の調整によりねじ軸13が誤ってハウジング16から脱落することを防止できる。
【0044】
その上、アクチュエータ12は、ねじ軸13をアーム11と接続するために、ねじ軸13をケース7内に挿入してケース7に取り付けられており、Cリング30により制限されるねじ軸13の最大ストローク量は、アクチュエータ12のケース7への取り付け面14aからアーム11までの最大距離lよりも長く設定されているので、ねじ軸13を予め最大ストローク量まで調整しておけば、アクチュエータ12をケース7に取り付ける際に、アーム11がケース7内に隠れて見えない状態でもねじ軸13がアーム11まで届かないといった事態を招くことがなく、ねじ軸13とアーム11とを確実に接続することができる。しかも、アクチュエータ12の取り付け面14aとケース7の取付部7aとの間に隙間を設けることができ、該隙間の分だけフック部13aの移動の自由度が増加するので、ねじ軸13のフック部13aをアーム11のピン11aに容易に係合させることが可能となる。
【0045】
また、アクチュエータ12は、モータ19の回転力を伝達する段付き歯車23を備え、この段付き歯車23の回転軸23cに、操作部25を設け、該操作部25を操作して段付き歯車23を回転させることにより送りねじ機構31のナット部材21を回転可能としたので、ナット部材21自体にそれを回転させる操作部25を設けるものと比べて、操作部25の構造や配置の自由度が簡単になり、しかも、ナット部材21を直接回転させる場合よりも回転トルクを軽減可能なため、ねじ軸13のストローク位置の調整が容易となるとともに、工具等による操作部25の破損を防止できる。
【0046】
また、アクチュエータ12の外郭をなすハウジング16に、操作部25を操作可能な開口15aと、該開口15aを塞ぐ蓋部材15bとを設けたので、メンテナンス性の向上を図り得るとともに、ハウジング16内への異物の侵入も防止できる。
【0047】
また、アクチュエータ12に、送りねじ機構31のねじ軸13と接触することでナット部材21の回転に伴うねじ軸13の回転を阻止する回り止め14eを設けたので、ねじ軸13のストローク位置を調整する際に、ねじ軸13がナット部材21の回転に伴って回転してしまうことがない。これにより、片手で操作部25を操作しながら、他方の手でねじ軸13がナット部材21の回転に伴って回転しないように押さえておく必要がないから、組立作業性の向上が図れる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0049】
例えば、本発明のベルト式無段変速機は、自動二輪車に搭載されるものに限定されるものでなく、どのような形態の車両にも用いることができる。
【0050】
また、本発明のアクチュエータの送りねじ機構は、ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するときの効率が回転運動を直線運動に変換するときの効率よりも低いものに限定されるものではなく、どのような形態の送りねじ機構であってもよい。
【0051】
また、ねじ軸とアームとの接続機構もコ字状部とピンによる接続に限定されるものでなく、例えばドーナツ状の部分の中心孔にピンを差し込む等種々の接続機構を採用することが可能である。
【0052】
また、操作部25の配置も段付き歯車23の回転軸23cに限定されるものでなく、モータ軸19aに設けても良い。加えて、ピニオンギヤ22や段付き歯車23など、モータ19の回転力を伝達する減速ギヤ機構20の動力伝導ギヤに操作部を設けることや、ナット部材21に操作部を直接設けることも可能である。
【符号の説明】
【0053】
2・・・・入力軸
3・・・・出力軸
4・・・・駆動プーリ
5・・・・従動プーリ
6・・・・ベルト
7・・・・ケース
10・・・軸受
11・・・アーム
12・・・アクチュエータ
13・・・ねじ軸
14a・・取り付け面(外壁面)
14e・・回り止め
15a・・開口
15b・・蓋部材
16・・・ハウジング
19・・・モータ
21・・・ナット部材
23・・・動力伝導ギヤ(段付き歯車)
23c・・回転軸
31・・・送りねじ機構
25・・・操作部
30・・・規制手段(Cリング)
l・・・・取り付け面からアームまでの最大距離
図1
図2
図3
図4