特許第6763691号(P6763691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763691
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20200917BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20200917BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20200917BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L67/00
   C08L63/00 A
   C08K5/1515
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-107680(P2016-107680)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-214460(P2017-214460A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】荒川 隼至
(72)【発明者】
【氏名】小松 利豪
(72)【発明者】
【氏名】濱口 正基
(72)【発明者】
【氏名】土谷 美緒
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−179051(JP,A)
【文献】 特開2015−174913(JP,A)
【文献】 特開平05−186668(JP,A)
【文献】 特開平05−086267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)の合計量100重量部に対し、相溶化剤として式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)0.1〜20重量部を含み、液晶ポリマー(B)の結晶融解温度は180〜250℃であり、熱可塑性樹脂(A)/液晶ポリマー(B)の重量比が1/99〜99/1である熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0または1〜10の整数を示す。)
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)が、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアミノ基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する樹脂である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミドおよび液晶ポリマーからなる群から選択される1種以上の樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレートである、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
液晶ポリマー(B)が、式(2)で表される繰返し単位を全繰返し単位中25モル%以上含む液晶ポリエステルである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
【請求項6】
液晶ポリマー(B)が、式(2)〜(5)で表される繰返し単位から構成される液晶ポリエステルである、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式中、ArおよびArは、それぞれ1種以上の2価の芳香族基を示し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリマー(B)中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2≦r≦15、および
2≦s≦15]。
【請求項7】
式(2)〜(5)で表される繰返し単位の組成比が以下の式を満たす、請求項6に記載の樹脂組成物:
35≦p≦48、
35≦q≦48、
2≦r≦15、および
2≦s≦15。
【請求項8】
Arが、
【化7】
および/または
【化8】
であり、および
Arが、
【化9】
および/または
【化10】
である、請求項6または7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)を相溶させる相溶化剤であって、液晶ポリマー(B)の結晶融解温度は180〜250℃であり、式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物を含む相溶化剤。
【化11】
(式中、nは0または1〜10の整数を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂、液晶ポリマーおよび相溶化剤を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂に様々な物性を付与するために、ポリマーのブレンドあるいはアロイ樹脂組成物が開発され、それぞれの特性を生かして、幅広い分野で使用されている。
【0003】
例えば、液晶ポリマーを他の熱可塑性樹脂とブレンドさせることにより、液晶ポリマーの優れた特性(耐熱性、耐候性、ガスバリア性、耐薬品性、寸法精度等)が付与された樹脂組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、液晶ポリマーは一般的に熱可塑性樹脂との相溶性に劣るため、得られる樹脂組成物は性能ムラや、成形時の層状剥離、あるいは強度低下等が避けられないものであった。
【0005】
このような背景から、液晶ポリマーと熱可塑性樹脂の界面を安定化させ、樹脂を微分散化させる相溶化剤を含有させた樹脂組成物が開発されている。例えば、グリシジル基がポリオレフィン鎖に組み込まれた相溶化剤を含有した、液晶ポリマーとポリオレフィンの樹脂組成物(特許文献1)が提案されているが、相溶化剤の主鎖がポリオレフィンであるため、ポリオレフィンと相溶性の悪い樹脂に対しては、相溶化効果が弱くなってしまうといった欠点を有していた。
【0006】
また、液晶ポリマーと熱可塑性樹脂との相溶化剤として、液晶ポリマーを共重合させた液晶性ブロック共重合体(特許文献2)が提案されているが、相溶させる樹脂の種類によってポリマーブロック部を変更しなければならず、汎用性の低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平7−508050号公報
【特許文献2】特開平10−95821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂と液晶ポリマーとの相溶性が改善された熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、熱可塑性樹脂と液晶ポリマーとを相溶し得る相溶化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱可塑性樹脂と液晶ポリマーとをブレンドした熱可塑性樹脂組成物について鋭意検討した結果、相溶化剤として特定のジグリシジルエーテルエステル化合物を添加することによって熱可塑性樹脂と液晶ポリマーとの相溶性が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)の合計量100重量部に対し、式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)0.1〜20重量部を含み、熱可塑性樹脂(A)/液晶ポリマー(B)の重量比が1/99〜99/1である熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【化1】
(式中、nは0または1〜10の整数を示す)
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と液晶ポリマーの両方と反応することが可能なジグリシジルエーテルエステル化合物を含有しているため、熱可塑性樹脂と液晶ポリマーとの相溶性が改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1において得られた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の破砕物表面の電子顕微鏡画像を示す。
図2図2は、実施例2において得られた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の破砕物表面の電子顕微鏡画像を示す。
図3図3は、実施例3において得られた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の破砕物表面の電子顕微鏡画像を示す。
図4図4は、比較例1において得られた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の破砕物表面の電子顕微鏡画像を示す。
図5図5は、比較例2において得られた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の破砕物表面の電子顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(A)は、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアミノ基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する樹脂が好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂(A)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミド、液晶ポリマー等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。液晶ポリマー(B)との相溶化効果に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂(A)として液晶ポリマーを用いる場合は、当然のことながら、液晶ポリマー(B)とは異なる液晶ポリマーを用いる。
【0016】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)は、異方性溶融相を形成するものであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0017】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0018】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)を構成する、主たる繰返し単位は、(i)芳香族オキシカルボニル繰返し単位、(ii)芳香族ジカルボニル繰返し単位および(iii)芳香族ジオキシ繰返し単位から選択される1種以上である。
【0019】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマー(B)は構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものと異方性溶融相を形成しないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマー(B)は異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0020】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)は、式(2)で表される繰返し単位を全繰返し単位中25モル%以上含み、かつ、結晶融解温度が285℃以下である液晶ポリエステルが好適に使用される。
【化2】
【0021】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)は、式(2)で表される繰返し単位の含有量が、より好ましくは30〜55モル%、さらに好ましくは35〜45モル%である。式(2)で表される繰返し単位が全繰返し単位中25モル%未満である場合、液晶ポリマーの結晶融解温度が高くなる傾向があり好ましくない。
【0022】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)の結晶融解温度は180〜260℃であるものが好ましく、190〜250℃であるものがより好ましい。
【0023】
結晶融解温度が285℃を上回る場合、混練時や成形加工時の温度が高温となるため、ジグリシジルエステルエーテル化合物の分解が進行し、相溶性が改善された熱可塑性樹脂組成物が得られ難くなる傾向がある。
【0024】
尚、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential scanning calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解温度ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマー樹脂の試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマー樹脂の結晶融解温度とする。測定機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000等を用いることができる。
【0025】
式(2)で表される繰返し単位を与える単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ならびに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0026】
式(2)で表される繰返し単位を与える単量体以外で、(i)芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、得られる液晶ポリマーの特性や結晶融解温度を調整しやすい点から、4−ヒドロキシ安息香酸が好ましい。
【0027】
(ii)芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすい点から、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0028】
(iii)芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、重合時の反応性や得られる液晶ポリマーの特性などの点から、ハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)は、キャピラリーレオメーターで測定した溶融粘度が1〜1000Pa・sであるものが好ましく、5〜300Pa・sであるものがより好ましい。
【0030】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)として、式(2)〜(5)で表される繰返し単位から構成される液晶ポリエステルが特に好適に使用される。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式中、ArおよびArは、それぞれ一種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリマー(B)中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2≦r≦15、および
2≦s≦15]。
【0031】
本明細書および特許請求の範囲において、「式(2)〜(5)で表される繰返し単位から構成される液晶ポリエステル」とは、液晶ポリエステルがその構成成分として式(2)〜(5)で表される繰返し単位の他に、他の繰返し単位を含有していてもよいことを意味する。
【0032】
本発明の一つの好ましい態様において、上記式(2)〜(5)で表される繰返し単位の組成比は、p+q+r+s=100モル%である。
【0033】
また、本明細書および特許請求の範囲において、「2価の芳香族基」とは、エステル結合を形成することができる置換基を2つ有する芳香族基を意味する。
【0034】
上記の好適な液晶ポリエステルは式(2)および式(3)で表される繰り返し単位を、両者のモル比率(p/q)が0.4〜2.0、好ましくは0.6〜1.8、特に好ましくは0.8〜1.6となるように含むものである。
【0035】
一つの態様において、本発明に好ましく用いられる液晶ポリマー(B)は、式(2)および式(3)で表される繰返し単位を、それぞれ、35〜48モル%含む液晶ポリエステルが好ましく、38〜43モル%含むものが特に好ましい。
【0036】
本発明で好ましく用いられる液晶ポリエステル(B)は、式(2)および式(3)で表される繰返し単位を上述した割合で含むことにより、結晶融解温度が285℃以下である液晶ポリエステルを得ることができる。
【0037】
また、本発明に好ましく用いられる液晶ポリエステルは、式(4)および式(5)で表される繰返し単位を、それぞれ、好ましくは2〜15モル%、より好ましくは5〜13モル%含むものであり、式(4)および式(5)で表される繰り返し単位の含有量は、等モルであるのが好ましい。
【0038】
式(2)で表される繰返し単位を与える単量体は上述した通りである。
【0039】
式(3)で表される繰返し単位を与える単量体としては、4−ヒドロキシ安息香酸ならびに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0040】
式(4)で表される繰返し単位を与える単量体としては、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
式(5)で表される繰返し単位を与える単量体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、ビス(4−カルボキシフェニル)エーテルなどの芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0042】
一つの好ましい態様において、式(4)および式(5)で表される繰返し単位は、式(4)中のArが、
【化7】
および/または
【化8】
であり、および
Arが、
【化9】
および/または
【化10】
であるものである。
【0043】
本発明に用いられる液晶ポリマー(B)は、前記の一般式(2)〜(5)で表される繰返し単位を与える本発明の液晶ポリマー(B)における主たる単量体の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、該主たる単量体とは他種の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールなどを他の単量体成分として共重合せしめたものであってもよい。これらの他の単量体成分の割合は、一般式(2)〜(5)で表される繰返し単位を与える単量体成分の合計に対し、10モル%以下であるのが好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物中の樹脂成分として用いられる液晶ポリマー(B)の製造方法には特に限定はなく、前記の単量体成分によるエステル結合を形成させる公知のポリエステルの重縮合法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0045】
溶融アシドリシス法とは、本発明に用いる液晶ポリマー(B)を製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0046】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0047】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリマー(B)を製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0048】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマー(B)の製造時にモノマーに無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0049】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0050】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);ルイス酸(たとえばBF)、ハロゲン化水素(たとえばHCl)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0051】
触媒の使用割合は、通常モノマーに対し10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0052】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマー(B)は、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)/液晶ポリマー(B)の重量比は1/99〜99/1であり、相溶化効果を発揮しやすい観点から、熱可塑性樹脂(A)を液晶ポリマー(B)に分散させる場合には2/98〜30/70であるのが好ましく、熱可塑性樹脂(A)に液晶ポリマー(B)を分散させる場合には70/30〜98/2であるのが好ましい。
【0054】
本発明に用いられる、式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)は、通常、n=0である化合物とn=1〜10である化合物の混合物として製造され、少量で相溶化効果を発揮できる点で、n=0の化合物を80%以上含むことが好ましく、90%以上含むことがより好ましい。
【化11】
(式中、nは0または1〜10の整数を示す)
【0055】
式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)を熱可塑性樹脂及び液晶ポリマーを含む組成物中で用いることにより、熱可塑性樹脂と液晶ポリマーとの相溶性を改善することができる。したがって、式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)およびこれを含む相溶化剤は、熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)とを相溶化させる相溶化剤として好適に用いることができる。
【0056】
本発明に用いられるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)を得る方法は特に限定されないが、四級アンモニウム塩および/または塩基性化合物の存在下、ヒドロキシナフトエ酸とエピハロヒドリンを反応せしめる方法によって得られたものを用いるのがよい。また、さらにそれを再結晶等によって精製したものであってもよい。あるいは市販の式(1)で表される化合物を含む製剤等を用いてもよい。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、相溶化剤として式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)を、熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)との合計量100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部含有する。式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)の含有量が0.1重量部を下回る場合、液晶ポリマーと熱可塑性樹脂の相溶化効果が得られず、20重量部を上回る場合、ジグリシジルエーテルエステル化合物(C)同士の反応が進行し、ゲル化してしまう等の現象が生じる。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、液晶ポリマー(B)および式(1)で表されるグリシジルエーテルエステル化合物(C)を、2軸押出機などによってコンパウンドすることによって得ることができる。好ましくは、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、液晶ポリマー(B)および式(1)で表されるグリシジルエーテルエステル化合物(C)の各ペレット等をドライ混合し、次いで得られたドライ混合物を2軸押出機に投入して、220〜350℃の温度にてコンパウンドすることにより得られる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、一軸延伸、インフレーションなどの公知の成形方法によって、フィルム、シート、ボトル、その他の包装材料などに加工される。特に、ペットボトルなどの中空製品の成形に好適なブロー成形によって所望の成形品に加工される。具体的なブロー成形法とは、タイレクトブロー成形、インジェクションブロー成形、フリーブロー成形等が挙げられる。
【0060】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
PET:ポリエチレンテレフタレート
LCP:液晶ポリマー
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
POB:4−ヒドロキシ安息香酸
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0062】
[合成例]
(相溶化剤1の合成)
1Lの4口コルベンに6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸95.0gとエピクロロヒドリン467g加え、窒素気流下80℃に昇温した。次いで、テトラメチルアンモニウムクロリドの50%水溶液を80℃で2時間かけて滴下し、同温度で1時間撹拌した。さらに、48%水酸化ナトリウム水溶液87.1gを80℃で3時間かけて滴下し、同温度で30分間撹拌した後、エピクロロヒドリンを減圧留去により除去した。残渣にトルエン560gを加えて10分間撹拌した後、析出物を濾過した。ろ液を水250gで洗浄した後、48%NaOH水溶液19gを加えて、1時間還流した。さらに水250gで洗浄した後、5%リン水溶液250gで洗浄し、再び水250gで洗浄した。トルエンを減圧留去によって除去し、相溶化剤105gを得た。得られた相溶化剤のエポキシ当量は168であった。
【0063】
(LCPの合成)
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた2Lの反応容器にBON6、POB、HQおよびTPAを、下記に示す組成比で、総量5モルとなるように仕込み、次いで酢酸カリウム0.05g(全モノマーに対し67モルppm)および全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.025倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0064】
重合は、窒素ガス雰囲気下に室温〜150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、335℃まで3時間かけて昇温した後、30分かけて20mmHgにまで減圧を行い、所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕を行い、LCP樹脂のペレットLCPを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたLCPのDSCにより測定された結晶融解温度は221℃であった。
【0065】
POB :276.23g(40モル部)
BON6:376.34g(40モル部)
HQ :55.05g(10モル部)
TPA :83.06g(10モル部)
【0066】
(熱可塑性樹脂(A))
実施例において、熱可塑性樹脂(A)としてポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製NEH−2070)を使用した。
【0067】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート樹脂と合成例で得られたLCPの合計量100重量部(ポリエチレンテレフタレート樹脂/LCPの重量比=95/5)に対して、相溶化剤1を3.00重量部ドライ混合し、2軸押出機((株)池貝製、PCM−30)を用いて、280℃のシリンダ温度にてコンパウンドし、LCPおよび相溶化剤が混合されたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得、溶融粘度を測定した。
【0068】
得られたペレットを、日精樹脂工業(株)製射出成形機(UH1000−110)を用いて、成形温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、厚み3.2mmのASTMの4号ダンベルを作製した。このダンベルを用いて引張強度、引張伸び率を測定した。
【0069】
次いで、ダンベルを液体窒素にて凍結後、破砕し、破砕物を日立製作所社製電子顕微鏡HitachiS−300Nを用いて倍率1000倍で観察し(図1)、組成物中のLCP粒子の平均粒径を測定した。結果を、物性とともに表1に記す。
【0070】
溶融粘度、引張強度、引張伸び率および組成物中のLCP粒子の平均粒径は以下に記載する方法で行った。
【0071】
(溶融粘度)
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、280℃にて0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、溶融粘度を測定した。
【0072】
(引張強度および引張伸び率)
4号ダンベルをINSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、ASTM D638に準じて測定した。
【0073】
(組成物中のLCP粒子の平均粒径)
顕微鏡画像から観察されるLCP粒子を任意に10個選択し、その長軸の長さを測定し、平均を算出した。観察されるLCP粒子の平均粒径が小さいほど相溶性は良好である。
【0074】
[実施例2〜3]
相溶化剤1の量を表1に記載のように変更した以外は実施例1と同様にダンベルを成形し、引張強度、引張伸び率および組成物中のLCP粒子の平均粒径を測定した。結果を溶融粘度とともに表1に記す。また、実施例2の顕微鏡画像を図2に、実施例3の顕微鏡画像を図3に示す。
【0075】
[比較例1]
相溶化剤を加えない以外は実施例1と同様にダンベルを成形し、引張強度、引張伸び率および組成物中のLCP粒子の平均粒径を測定した。結果を溶融粘度とともに表1に記す。また、顕微鏡画像を図4に示す。
【0076】
[比較例2]
相溶化剤1をボンドファースト2C(住友化学株式会社製)に変更した以外は実施例1と同様にダンベルを成形し、引張強度、引張伸び率および組成物中のLCP粒子の平均粒径を測定した。結果を溶融粘度とともに表1に記す。また、顕微鏡画像を図5に示す。
【0077】
[比較例3]
相溶化剤1の含有量を30重量部に変更した以外は実施例1と同様にダンベルを成形しようと試みたが、ゲル化したため、成形が不可能であった。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示す通り、本発明の相溶化剤を用いた実施例1〜3の樹脂組成物は、組成物中のLCP粒子の平均粒径が小さく、熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)の相溶性が改善されていることが理解される。
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)の合計量100重量部に対し、相溶化剤として式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物(C)0.1〜20重量部を含み、熱可塑性樹脂(A)/液晶ポリマー(B)の重量比が1/99〜99/1である熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0または1〜10の整数を示す。)
〔2〕熱可塑性樹脂(A)が、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアミノ基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する樹脂である、〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミドおよび液晶ポリマーからなる群から選択される1種以上の樹脂である、〔1〕または〔2〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレートである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
〔5〕液晶ポリマー(B)が、式(2)で表される繰返し単位を全繰返し単位中25モル%以上含み、かつ、結晶融解温度が285℃以下である液晶ポリエステルである、〔1〕に記載の樹脂組成物。
【化2】
〔6〕液晶ポリマー(B)が、式(2)〜(5)で表される繰返し単位から構成される液晶ポリエステルである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式中、ArおよびArは、それぞれ1種以上の2価の芳香族基を示し、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリマー(B)中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たすものである:
0.4≦p/q≦2.0
2≦r≦15、および
2≦s≦15]。
〔7〕式(2)〜(5)で表される繰返し単位の組成比が以下の式を満たす、〔6〕に記載の樹脂組成物:
35≦p≦48、
35≦q≦48、
2≦r≦15、および
2≦s≦15。
〔8〕Arが、
【化7】
および/または
【化8】
であり、および
Arが、
【化9】
および/または
【化10】
である、〔6〕または〔7〕に記載の樹脂組成物。
〔9〕熱可塑性樹脂(A)と液晶ポリマー(B)を相溶させる相溶化剤であって、式(1)で表されるジグリシジルエーテルエステル化合物を含む相溶化剤。
【化11】
(式中、nは0または1〜10の整数を示す。)
図1
図2
図3
図4
図5