(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763723
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】回転体およびディファレンシャルギヤ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 55/08 20060101AFI20200917BHJP
F04D 29/24 20060101ALI20200917BHJP
F04D 29/30 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
F04D29/24 C
F04D29/24 D
F04D29/30 C
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-169365(P2016-169365)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-35873(P2018-35873A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148324
【氏名又は名称】株式会社浅野歯車工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜川 誠
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 広嗣
【審査官】
山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−001248(JP,A)
【文献】
特開2002−295642(JP,A)
【文献】
特開平11−013990(JP,A)
【文献】
特開昭51−120348(JP,A)
【文献】
特開2011−208800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
F04D 29/24
F04D 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心を有する基部と、前記基部に立設されて回転方向に対し不平行に延びる突条とを備え、
前記突条の側面は、前記基部の回転時に固体または流体と当接する先端側表面と、前記基部と接続する根元側表面と、前記先端側表面および前記根元側表面を接続する境界部分とを含み、
前記突条の長手方向に直角な断面に関し、前記先端側表面は直線、または曲線に形成されて当該先端側表面の基礎円が境界部分と交差し、前記根元側表面は窪み曲線に形成され、前記根元側表面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記基部へ延びる根元側接線が、前記先端側表面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記基部へ延びる先端側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される、回転体。
【請求項2】
前記回転体は歯車であり、
前記突条は歯であり、
前記固体は相手側の歯車であり、
歯すじに直角な断面に関し、前記歯の側面は、直線または曲線に形成されるかみ合い歯面と、窪み曲線に形成されるすみ肉表面と、前記かみ合い歯面および前記すみ肉表面を接続する境界部分とを含み、前記すみ肉表面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記歯車の歯底側へ延びるすみ肉側接線が、前記かみ合い歯面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記歯車の歯底側へ延びるかみ合い側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される、請求項1に記載の回転体。
【請求項3】
歯すじに直角な断面に関し、前記すみ肉側接線が、前記かみ合い側接線に対し、+10度以上+25度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される、請求項2に記載の回転体。
【請求項4】
歯すじに直角な断面に関し、前記噛み合い歯面は膨らみ曲線に形成される、請求項2または3に記載の回転体。
【請求項5】
歯すじに直角な断面に関し、前記すみ肉表面の曲率半径は歯底に向かう程大きくなるか、あるいは一定である、請求項2〜4のいずれかに記載の回転体。
【請求項6】
前記歯車はかさ歯車である、請求項2〜5のいずれかに記載の回転体。
【請求項7】
歯すじに直角な断面に関し、前記すみ肉表面における窪み曲線の曲率は、歯すじ方向に変化する、請求項6に記載の回転体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の回転体を備える、ディファレンシャルギヤ装置。
【請求項9】
前記回転体はスプライン軸およびスプライン孔のいずれか一方であり、
前記突条はスプラインの歯であり、
前記固体は相手側のスプライン孔あるいはスプライン軸であり、
歯すじに直角な断面に関し、前記歯の側面は、直線または曲線に形成されるかみ合い歯面と、窪み曲線に形成されるすみ肉表面と、前記かみ合い歯面および前記すみ肉表面を接続する境界部分とを含み、前記すみ肉表面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記スプラインの歯底側へ延びるすみ肉側接線が、前記かみ合い歯面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記スプラインの歯底側へ延びるかみ合い側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される、請求項1に記載の回転体。
【請求項10】
前記回転体は羽根車であり、
前記突条は前記流体に当接する羽根であり、
羽根すじに直角な断面に関し、前記羽根の側面は、直線または曲線に形成される先端側羽根面と、窪み曲線に形成される根元側羽根面と、前記先端側羽根面および前記根元側羽根面を接続する境界部分とを含み、前記根元側羽根面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記羽根車の根元側へ延びる根元側接線が、前記先端側羽根面のうち前記境界部分に隣接する部分に規定される接線であって前記羽根車の根元側へ延びる先端側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される、請求項1に記載の回転体。
【請求項11】
前記羽根車はタービンまたはインペラであり、前記羽根すじは羽根車の回転軸線を中心としてらせん状に延びる、請求項10に記載の回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車やスプラインや羽根車等、回転体の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車の歯元の丸みを表す形状として従来、例えば、特開2003−90413号公報(特許文献1)および特開2013−238299号公報(特許文献2)に記載のものが知られている。特許文献1および特許文献2に記載の歯車は、歯底のすみ肉半径を円弧にするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−90413号公報
【特許文献2】特開2013−238299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のような歯車にあっては、さらに改善すべき点があることを本発明者は見いだした。
図12は歯すじに直角な断面図であり、従来の歯元の丸み形状を示す。すなわち歯すじに直角な断面に関し、歯先側歯面101および歯元側歯面102が規則的に連続して延びる。また歯元側歯面102よりも歯底(根元)側にある歯底面103が、所定半径Rfを有する円弧状に形成されていた。歯先側歯面101および歯元側歯面102はかみ合い歯面と総称される。歯底面103はすみ肉表面ともいう。歯元側歯面102と歯底面103の境界部分104において、歯元側歯面102と歯底面103は滑らかに接続する。換言すると歯すじに直角な断面に関し、歯元側歯面102のうち境界部分104に隣接する部分に規定されるかみ合い側接線と、歯底面103のうち境界部分104に隣接する部分に規定されるすみ肉側接線は一致するか、略0度で交差するか、略平行である。
【0005】
ところで歯車同士のかみ合い時に相手側から歯に付与される周方向の力に関し、所望の強度を確保しようとすれば、歯厚Tcを大きくするしかない。
【0006】
その一方で、省エネルギー指向の強い昨今、歯車のピッチ円径を小さくしたり、あるいは歯数を減らしたり、等によって歯車を小型化あるいは軽量化することが望ましい。
【0007】
しかしながら歯厚を大きくすることと歯車を小型化あるいは軽量化することは、両立困難である。
【0008】
また歯を有する歯車の他、歯を有するスプラインや、羽根を有する羽根車といった回転体において、歯および羽根の厚み寸法を大きくして強度を向上させることが耐久性に寄与する一方、回転体の径を小さくすることが省エネルギー化に寄与する。しかしながら両立困難である。
【0009】
本発明は、上述の実情に鑑み、従来よりも歯の強度を向上させた歯車の歯元の丸み形状を提供することを目的とする。また歯車を含む回転体において、強度の向上と軽量化を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため本発明による回転体は、回転中心を有する基部と、基部に立設されて回転方向に対し不平行に延びる突条とを備え、突条の側面は、基部の回転時に固体または流体と当接する先端側表面と、基部と接続する根元側表面と、先端側表面および根元側表面を接続する境界部分とを含み、突条の長手方向に直角な断面に関し、先端側表面は直線
、または曲線に形成され
て当該先端側表面の基礎円が境界部分と交差し、根元側表面は窪み曲線に形成され、根元側表面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であって基部へ延びる根元側接線が、先端側表面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であって基部へ延びる先端側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される。
【0011】
かかる本発明によれば、突条の根元側の厚み寸法を従来よりも大きくすることが可能になり、突条が固体あるいは流体と当接する時に厚み方向に突条に作用する外力(曲げモーメントや剪断力)に対して突条の強度を大きくすることができる。そして従来の歯車と比較して、歯車の小型化あるいは軽量化を図ることができる。なお突条の長手方向とは、長手方向の長さの大小にかかわらず突条が延びる方向をいうと理解されたい。突条が延びる方向の長さ(長手方向長さ)は通常、突条の両側面間の厚み寸法よりも長いが、突条の長手方向長さが厚み寸法よりも短い場合であっても、突条が延びる方向を長手方向というと理解されたい。曲線とは円弧のように曲率半径一定の曲線であってもよいし、あるいはインボリュート曲線等であってもよいし、あるいは他の自由曲線であってもよい。回転体は、相手歯車と当接する歯車、あるいは歯車以外の他の固体と当接する歯車形状の物、あるいはポンプやインペラのように流体に当接してこれを駆動する羽根車、あるいはタービンのように流体に当接して駆動される羽根車、あるいは他の回転する物を含む。流体は液体、気体、紛体を含む不定形の物質を指す。
【0012】
本発明の一実施形態として、回転体は歯車であり、突条は歯であり、突条に当接する固体は相手側の歯車であり、歯すじに直角な断面に関し、歯の側面は、直線または曲線に形成されるかみ合い歯面と、窪み曲線に形成されるすみ肉表面と、かみ合い歯面およびすみ肉表面を接続する境界部分とを含み、すみ肉表面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であって歯車の歯底側へ延びる
すみ肉側接線が、かみ合い歯面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であって歯車の歯底側へ延びるかみ合い側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される。
【0013】
かかる実施形態の歯車によれば、すみ肉表面が従来と異なる歯元の丸み形状を有することから、歯底側の歯厚を従来よりも大きくすることが可能になり、歯車同士の噛合時に歯厚方向に歯に作用する外力に対して歯の強度を大きくすることができる。したがって、従来の歯車と比較して、歯車の小型化あるいは軽量化を図ることができる。本発明の歯車は特に限定されない。例えば本発明の歯車は平行軸歯車である。あるいは本発明の歯車は食い違い軸歯車である。あるいは本発明の歯車は直交軸歯車である。また本発明の歯車は外歯歯車であってもよいし内歯歯車であってもよい。
【0014】
より好ましい実施形態として歯すじに直角な断面に関し、すみ肉側接線が、かみ合い側接線に対し、+10度以上+25度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される。かかる実施形態によれば、強度および耐久性において一層有利な歯車を実現することができる。なお、すみ肉側接線がかみ合い側接線に対し+10度未満となってしまう場合、歯底側で歯厚を確保するという点で十分ではない場合がある。また、すみ肉側接線がかみ合い側接線に対し+25度を超えてしまう場合、境界部分にエッジが形成されてしまい、歯車の耐久性の確保という点で十分ではない場合がある。
【0015】
かみ合い歯面は前述のように歯すじに直角な断面に関し直線または曲線に形成されるとよく、曲線の形状は特に限定されない。本発明の一実施形態として、歯すじに直角な断面に関し、噛み合い歯面は膨らみ曲線に形成される。かかる実施形態は外歯歯車に有利に適用される。他の一実施形態として、歯すじに直角な断面に関し、噛み合い歯面は窪み曲線に形成される。かかる実施形態は内歯歯車に有利に適用される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態として歯すじに直角な断面に関し、すみ肉表面の曲率半径は歯底に向かう程大きくなるか、あるいは一定である。かかる実施形態によれば、歯底近傍の歯厚を従来よりも大きくすることができる。したがって歯の強度が向上する。なお曲率半径が歯底に向かう程大きくなる曲線とは、歯底に近づくほど緩やかなカーヴになる曲線をいう。また曲率半径が歯底に向かって一定である曲線とは、半径一定の円弧をいう。歯底が歯車の回転中心と同軸の歯底円を描く場合、すみ肉表面は歯底円と角度をなして接続してもよい。あるいは歯底を介して隣り合う2個の歯に着目して、一方の歯のすみ肉表面および他方の歯のすみ肉表面は、緩やかなカーヴを描きながら歯底で接続し、断面略U字状の歯溝を構成してもよい。
【0017】
本発明の好ましい実施形態として歯車はかさ歯車である。かかる実施形態によれば、かさ歯車の小型化・軽量化を図ることができる。かさ歯車の種類は特に限定されない。
【0018】
かさ歯車の歯すじは、放射状に延びるものであってもよいしらせん状に延びるものであってもよい。かさ歯車の歯の断面形状は通常、小径端で小さく、大径端に向かう程大きくなる。そこで本発明のさらに好ましい実施形態としてすみ肉表面を構成する窪み曲線の曲率は、歯すじ方向に変化する。かかる実施形態によれば、歯すじ方向のいずれかの部位において最も大きな外力が作用する部位の歯厚を大きくし、残りの部位の歯厚と小さくして、歯車の一層の小型化・軽量化を図ることができる。
【0019】
本発明の歯車は、差動装置や、その他の様々な機械に使用可能である。一実施形態として歯車は、原動機のトルクを左右輪に分配する車両のディファレンシャルギヤ装置に使用されるとよい。かかる実施形態によれば、ディファレンシャルギヤ装置の軽量化および車両の低燃費化を図ることができる。
【0020】
本発明のかさ歯車はディファレンシャルギヤ装置のギヤおよびピニオンの少なくともいずれかに適用可能である。一実施形態として本発明の歯車は平行軸歯車であってもよい。平
行軸歯車の種類は特に限定されない。一実施形態として本発明の歯車は食い違い軸歯車である。一実施形態として本発明の歯車は直交軸歯車である。
【0021】
本発明の回転体は相手歯車とかみ合う歯車に限定されない。本発明になる歯元の丸み形状は、一実施形態としてスプライン嵌合に適用可能である。つまり回転体はスプライン軸およびスプライン孔のいずれか一方であり、突条はスプラインの歯であり、突条に当接する固体は相手側のスプライン孔あるいはスプライン軸であり、歯すじに直角な断面に関し、歯の側面は、直線または曲線に形成されるかみ合い歯面と、窪み曲線に形成されるすみ肉表面と、かみ合い歯面およびすみ肉表面を接続する境界部分とを含み、すみ肉表面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であってスプラインの歯底側へ延びるすみ肉側接線が、かみ合い歯面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であってスプラインの歯底側へ延びるかみ合い側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される。
【0022】
かかる実施形態のスプラインによれば、すみ肉表面が従来と異なる歯元の丸み形状を有することから、歯底側の歯厚を従来よりも大きくすることが可能になり、スプラインの駆動回転時に歯厚方向に歯に作用する外力に対して歯の強度を大きくすることができる。したがって、従来のスプラインと比較して、スプラインの小型化あるいは軽量化を図ることができる。
【0023】
本発明の回転体は、歯車や、歯車に類似する形状の物に限定されない。本発明になる突条の根元の丸み形状は、一実施形態として羽根車に適用可能である。つまり回転体は羽根車であり、突条は流体に当接する羽根であり、羽根すじ(筋)に直角な断面に関し、羽根の側面は、直線または曲線に形成される先端側羽根面と、窪み曲線に形成される根元側羽根面と、先端側羽根面および根元側羽根面を接続する境界部分とを含み、根元側羽根面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であって羽根車の根元側へ延びる根元側接線が、先端側羽根面のうち境界部分に隣接する部分に規定される接線であって羽根車の根元側へ延びる先端側接線に対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度で広がるように配置される。
【0024】
かかる実施形態の羽根車によれば、根元側羽根面が従来と異なる根元の丸み形状を有することから、根元側の羽根厚を従来よりも大きくすることが可能になり、羽根車の回転時に羽根厚方向に羽根に作用する外力に対して羽根の強度を大きくすることができる。したがって、従来の羽根車と比較して、羽根車の小型化あるいは軽量化を図ることができる。
【0025】
本発明にかかる羽根車の種類および形状は特に限定されない。一実施形態として羽根車はタービンまたはインペラであり、羽根すじは羽根車の回転軸線を中心としてらせん状に延びる。流体を高速で撹拌し、あるいは流体によって高速回転する羽根車の強度を従来よりも向上させることできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の回転体によれば、回転方向の強度の向上と軽量化を両立させることができる。また本発明の歯車によれば、歯厚を従来よりも大きくして、歯の強度を従来よりも大きくすることができる。したがって歯車の小型化に寄与し、ひいては省エネルギー化に資する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態になるギヤを示す正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態になるピニオンを示す正面図である。
【
図3】同実施形態のピニオンおよびギヤの噛合を模式的に示す断面図である。
【
図4】同実施形態のピニオンおよびギヤの歯形を示す断面図である。
【
図5】
図4の境界部分を拡大して示す断面図である。
【
図6】変形例の境界部分を拡大して示す断面図である。
【
図7】他の変形例の境界部分を拡大して示す断面図である。
【
図8】さらに他の変形例の境界部分を拡大して示す断面図である。
【
図9】さらに他の変形例の境界部分を拡大して示す断面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態になる内歯歯車を示す断面図である。
【
図11】本発明のさらに他の実施形態になる羽根車を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態になるギヤを示す正面図である。
図2は、本発明の第1実施形態になるピニオンを示す正面図である。ギヤ10およびピニオン20は共にかさ歯車であるが、ギヤ10は相対的に大径であって多くの歯11を有し、ピニオン20は相対的に小径であって少ない歯21を有する。これらギヤ10およびピニオン20は、
図3の縦断面図に示すように直交に配置されて互いに噛合する。ギヤ10の回転軸線Omおよびピニオン20の回転軸線Onは直角に交差する。
図3には歯11および歯21の歯すじ全体が表される。また歯11,21同士が最も深く噛み合う様子が模式的に表される。
【0029】
図4は、同実施形態のピニオンおよびギヤの歯形を示す横断面図であり、歯11,21の歯すじに直角な断面を表す。ギヤ10の各歯11およびピニオン20の各歯21は、歯すじに直角な断面に関し、歯先31および歯底37を有する。また歯11,21は、歯先31および歯底37間の歯形として順次、かみ合い歯面32、すみ肉表面34、歯底面36を有する。かみ合い歯面32、すみ肉表面34、歯底面36は歯11,21が先細になるよう形成される。先細とは、歯11,21の歯厚が、歯元側で大きく、歯先側で小さいことをいう。歯厚とは、各歯における、円周方向一方歯面から他方歯面までの寸法をいう。
【0030】
歯先31は、
図4に示すように歯先側へ向かって膨らんだ円筒の断面形状であるが、図示しない変形例として歯底側へ向かって窪んだ曲線であってもよい。かみ合い歯面32は、
図4に示す基礎円Cfによって規定されるインボリュート曲線である。あるいは図示しない変形例としてかみ合い歯面32は、円弧であってもよいし、他の自由曲線であってもよい。いずれにせよかみ合い歯面32は膨らみ曲線に形成されるものであればよい。またかみ合い歯面32は、歯車のピッチ円Cpの歯先側および歯元側に跨って設けられる。
【0031】
かみ合い歯面32とすみ肉表面34は、両者の境界部分33で接続する。
図5は、
図4の境界部分33を拡大して示す断面図である。
図4および
図5に示すようにかみ合い歯面32からすみ肉表面34まで連続する断面線は境界部分33で折れ線となる。またかみ合い歯面32とすみ肉表面34を含む歯形は境界部分33で窪んでいる。
【0032】
すみ肉表面34は相手の歯車と接触しない面と理解されたい。このためすみ肉表面34の選定は、相手歯車の歯の歯先軌跡を計算し、当該歯先軌跡と干渉しないよう歯車の内径側に回避して設けられる。
【0033】
これに対しかみ合い歯面32は、相手の歯車と接触する面と理解されたい。但しかみ合い歯面32の歯先31近傍部分は、相手の歯車と接触するとは限られない。
【0034】
本実施形態の境界部分33は基礎円Cfと交差する。あるいは図示しない変形例として境界部分33は基礎円Cfと不一致であってもよい。
【0035】
図4に示すようにすみ肉表面34は、円弧や自由曲線等の窪み曲線に形成される。すみ肉表面34と歯底面36は、両者の境界35で折れ線とならないよう滑らかに接続する。本実施形態の歯底面36は、すみ肉表面34から延出する歯底側のすみ肉表面であるが、すみ肉表面を歯先側と歯底側で区別するため、歯先側のすみ肉表面を単にすみ肉表面34と称し、歯底側のすみ肉表面を別称として歯底面36と呼ぶ。
【0036】
すみ肉表面34および歯底面36は、歯先側の端(境界部分33)から歯底37に向かって延びる窪み曲線であり、例えば曲率半径一定の円弧である。あるいは仮想線で示す変形例として境界35´で折れ線とし、隣り合う境界35´,35´を歯底円36´でつないでもよい。なお歯底円36´は、回転軸線Om,Onを中心とする円弧になる。
【0037】
説明を境界部分33に戻して、すみ肉表面34のうち境界部分33に隣接する部分の接線であるすみ肉側接線Lcと、かみ合い歯面32のうち境界部分33に隣接する部分の接線であるかみ合い側接線Lrに着目する。
図5に示すようにかみ合い側接線Lrに対し、広がる方向を+とし、狭まる方向を−とする。すみ肉側接線Lcがかみ合い側接線Lrに対し−の角度で狭まるよう交差する場合、境界部分33近傍のすみ肉表面34における歯厚は歯底に向かう程小さくなる。これに対しすみ肉側接線Lcがかみ合い側接線Lrに対し+の角度で広がるよう交差する場合、境界部分33近傍のすみ肉表面34における歯厚は歯底に向かう程大きくなる。
【0038】
本実施形態では、すみ肉側接線Lcが、かみ合い側接線Lrに対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度αをなして広がるよう配置される。本実施形態ではα=10.5度をなす。
【0039】
ところで本実施形態によれば、
図4に示すように歯すじに直角な断面に関し、歯11,21の側面は、膨らみ曲線に形成されるかみ合い歯面32と、窪み曲線に形成されるすみ肉表面34と、かみ合い歯面32およびすみ肉表面34を接続する境界部分33とを含み、すみ肉表面34のうち境界部分33に隣接する部分に規定される接線であって歯車10,20の歯底側へ延びるすみ肉側接線Lcが、かみ合い歯面32のうち境界部分33に隣接する部分に規定される接線であって歯車10,20の歯底側へ延びるかみ合い側接線Lrに対し、+5度以上+85度以下の範囲に含まれる所定角度αで広がるように配置される。これによりかみ合い面32からすみ肉表面34までの形状において、従来に無い歯元の丸み形状が実現する。そして歯11,21の歯底の歯厚を従来よりも大きくすることが可能となり、歯車の円周方向に作用する外力に対する歯11,21の強度が向上する。したがってギヤ10およびピニオン20の直径を従来よりも小さくし得て、歯車の小型化および省エネルギー化に寄与する。
【0040】
本実施形態によれば、歯すじに直角な断面に関し、すみ肉表面34は、窪み曲線に形成される歯底面36と接続する。これにより、歯底近傍の歯厚を従来よりも大きくすることが可能となり、歯車の円周方向に作用する外力に対する歯11,21の強度が向上する。
【0041】
本実施形態では歯すじが直線状に延びるギヤ10およびピニオン20につき説明したが、図示しない変形例として
図4に示す本発明の歯形は、歯すじがらせん(螺旋)状あるいは他の曲線状に延びる歯車にも適用可能である。あるいは図示しない他の変形例として
図4に示す本発明の歯形は、かさ歯車の他、平行軸歯車、食い違い軸歯車、あるいは直交軸歯車にも適用可能である。
【0042】
ここで附言すると、
図4に示す本発明の歯形は、
図1に示す小端部12から大端部13まで延びる歯すじのうちいずれかの箇所における断面を表すところ、すみ肉表面34の曲率は、歯すじ方向に一定であってもよいし、あるいは歯すじ方向に変化するものであってもよい。歯すじ方向に変化するとは例えばすみ肉表面34の曲率が、歯すじの小径側端になる小端部12から歯すじの大径側端になる大端部13に向かって徐々に大きくなるものや、あるいは徐々に小さくなるものをいう。
【0043】
本実施形態のギヤ10およびピニオン20は車両の左右輪にトルクを分配するディファレンシャルギヤ装置に適用される。これによりディファレンシャルギヤ装置を従来よりも小型化・軽量化して、車両の低燃費化に寄与する。
【0044】
本実施形態では、ギヤ10およびピニオン20が
図4に示す歯形を有するが、他にもピニオン20のみが
図4に示す歯形を有し、ピニオン20は従来の歯形を有するギヤに噛合してもよい。あるいはギヤ10のみが
図4に示す歯形を有し、ギヤ10は従来の歯形を有するピニオンに噛合してもよい。
【0045】
次に
図5に示す実施形態の変形例を
図6〜
図8に示す。前述した実施形態では
図5に断面で示すようにかみ合い歯面32からすみ肉表面34までの断面線が境界部分33で折れ点となる。
【0046】
これに対し
図6に断面で示す本発明の変形例では、かみ合い歯面32からすみ肉表面34までの断面線において境界部分33を線状の領域とし、境界部分33で折れ線とならないようかみ合い歯面32およびすみ肉表面34を滑らかに接続してもよい。
【0047】
あるいは
図7に断面で示す本発明の変形例では、かみ合い歯面32の断面線を直線とし、境界部分33の断面線を窪んだ折れ点、または
図6に示すような線状の領域とする。
【0048】
あるいは
図8に断面で示す本発明の変形例では、かみ合い歯面32の断面線をくぼみ曲線とし、境界部分33の断面線を窪んだ折れ点、または
図6に示すような線状の領域とする。
【0049】
図5〜
図8に示す例は、外歯歯車および内歯歯車に適用可能である。
図9は本発明の第2実施形態になる内歯歯車を示す断面図であり、前述の
図8に対応する。
図9に示す実施形態において、
図4に示す実施形態と同様の部分には共通する符号を付して説明を省略する。
【0050】
図9に示す実施形態によれば、内歯歯車においても、従来には無い歯元の丸み形状を実現することができる。
【0051】
図4に示すかみ合い歯面32からすみ肉表面34までの形状は、歯車の他、スプラインにも適用可能である。
図10は本発明の第3実施形態になるスプラインを示す断面図であり、第3実施形態では、歯61を備える円筒部材60のスプライン孔に、歯51を備えるスプライン軸50を挿入し、両者を相対回転不能にスプライン嵌合させる。歯51,61の側面は、前述の
図5〜
図8のいずれかに対応する。
【0052】
図10に示す実施形態によれば、スプラインにおいても、従来には無い歯元の丸み形状を実現することができ、スプラインのトルク伝達強度を向上させ、スプラインの軽量化に資する。
【0053】
図4に示すかみ合い歯面32からすみ肉表面34までの形状は、歯車および歯車に類似する回転体の他、羽根車にも適用可能である。
図11に縦断面で示す羽根車40は羽根41および基部42を備える。羽根41は基部42の正面に複数立設され、回転軸線Opに関し周方向に間隔を空けて配置される。各羽根41の両面あるいは片面は、前述の
図5〜
図8のいずれかに対応する。また、前述の歯車は羽根車と、前述の歯は羽根と、前述のかみ合い歯面は先端側羽根面と、前述のすみ肉表面は根元側羽根面と、前述の歯すじは羽根すじと、前述のすみ肉側接線は根元側接線と、前述のかみ合い側接線は先端側接線と読み替えられる。
【0054】
図11に示す実施形態によれば、羽根車においても、従来には無い根元の丸み形状を実現することができ、各羽根41の強度を向上させ、羽根車40の軽量化に資する。羽根41の羽根すじは、直線状に延びるものであってもよいし、あるいは回転軸線Opを中心としてらせん状に延びるものであってもよい。
【0055】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明になる回転体は、機械要素において有利に利用される。
【符号の説明】
【0057】
10 ギヤ、 11 歯、 12 小端部、 13 大端部、
20 ピニオン、 21 歯、 31 歯先、 32 かみ合い歯面、
33 境界部分、 34 すみ肉表面、 35 境界、
36 歯底面、 37 歯底、 40 羽根車、 41 羽根、
42 基部、 50 スプライン軸、 51 歯、 60 円筒部材、
61 歯、 Om,On,Op 回転軸線、 Lc すみ肉側接線、
Lr かみ合い側接線、 α 交差角度。