【文献】
Science Translational Medicine,2012年,Vol.4, No.145-149,p.192-199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の中性電荷親水性ポリマーの質量が、前記粒子の質量の少なくとも1/10,000、1/7500、1/5000、1/4000、1/3400、1/2500、1/2000、1/1500、1/1000、1/500、1/250、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/25、1/20、1/5、1/2または9/10である、請求項1に記載のナノ粒子製剤。
前記製剤が、前記粒子の血液脳関門の通過を容易にするため、該血液脳関門を迂回するため、または前記脳実質に浸透するための1または複数の技法と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項19に記載の製剤。
【発明を実施するための形態】
【0042】
I.定義
用語「生体適合性」は、本明細書において使用される場合、それ自体が宿主(例えば、動物またはヒト)に対し有毒でもなければ、宿主において毒性濃度のモノマーもしくはオリゴマーサブユニットまたは他の副産物を産生する速度で分解(ポリマーが分解する場合)もしない、1または複数の材料を指す。
【0043】
用語「生分解性」は、本明細書において使用される場合、材料が、その構成成分サブユニットへと分解または崩壊すること、または例えば、ポリマーからより小型な非ポリマーサブユニットへの生化学的過程による消化を意味する。
【0044】
用語「相当する粒子」または「参照粒子」は、本明細書において使用される場合、これが比較される別の粒子と実質的に同一であるが、脳のECMにおける細孔を通した輸送上の差を促進するための表面修飾を典型的に欠如する粒子を指す。相当する粒子は、典型的には、これが比較される粒子と同様の材料、密度およびサイズのものである。ある特定の実施形態では、相当する粒子は、ポリエチレングリコールの高密度コーティングがない粒子である。ある特定の実施形態では、比較できる粒子は、遊離ポリマーおよびポリエチレングリコールにコンジュゲートされたポリマーを含有するブレンドされた混合物から形成されていない粒子である。
【0045】
用語「高密度にコーティングされた粒子」は、例えば、参照粒子と比べて、粒子の表面におけるコーティング剤の密度を特異的に増強するように修飾された粒子を指す。一部の実施形態では、高密度にコーティングされた粒子は、より低密度にコーティングされたまたはコーティングされていない粒子と比べて、粒子の物理化学的特性の変更に十分な、ポリマーに対するポリエチレングリコールの比から形成される。一部の実施形態では、コーティング剤の密度は、粒子の電荷の完全なマスクに十分であり、生理的溶液におけるほぼ中性の電荷およびほぼ中性のゼータ電位値およびコロイド安定性をもたらす。特定の実施形態では、高密度にコーティングされた粒子は、分岐状ポリエチレングリコールまたは分岐状ポリマーを使用して達成され、分岐化は、分岐状ポリマーまたは分岐状ポリエチレングリコールを含有しない参照粒子と比較して、ポリマーに対するポリエチレングリコールの比を増強する。
【0046】
用語「核酸」は、単離されたDNA、cDNA、RNA、miRNA、siRNA、プラスミド、ベクターおよび発現構築物を指す。
【0047】
用語「直径」は、本技術分野で認識されており、物理的直径または水力学直径のいずれかを指すように本明細書において使用される。基本的に球状の粒子の直径は、物理的または水力学直径を指すことができる。非球状粒子の直径は、水力学直径を優先的に指すことができる。本明細書において使用される場合、非球状粒子の直径は、粒子表面上の2点間の最大直線距離を指すことができる。複数の粒子について言及する場合、粒子の直径は典型的に、粒子の平均直径を指す。
【0048】
「徐放」は、本明細書において使用される場合、物質全量を一度に生物学的に利用可能にするようにするボーラス型の投与とは対照的に、延長された期間にわたる物質の放出を指す。
【0049】
用語「マイクロスフェア」、「マイクロ粒子」および「マイクロカプセル」は、他に断りがなければ、互換的に使用される。これらは、約1〜最大約1000ミクロンの間のサイズを有する。一般に、「マイクロカプセル」は、シェル材料とは異なる材料のコアを有する。マイクロ粒子は、球状または非球状であり得、いずれか規則的または不規則的な形状を有することができる。構造が、約1ミクロン未満の直径である場合、相当する本技術分野で認識される用語「ナノスフェア」、「ナノカプセル」および「ナノ粒子」を利用することができる。ある特定の実施形態では、ナノスフェア、ナノカプセルおよびナノ粒子は、約100nm、または50nmもしくは10nm等、100nm未満の平均直径を有する。
【0050】
マイクロ粒子またはナノ粒子を含む組成物は、ある範囲の粒子サイズの粒子を含むことができる。ある特定の実施形態では、粒子サイズ分布は、均一、例えば、体積メジアン径(median volume diameter)の約20%標準偏差未満以内であり得、他の実施形態では、なおさらに均一、例えば、体積メジアン径の約10%以内であり得る。
【0051】
語句「非経口的投与」および「非経口的に投与される」は、本技術分野で認識される用語であり、注射等、経腸および局所投与以外の投与機序を含み、静脈内、筋肉内、胸膜内、血管内、心膜内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内(intradennal)、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内および胸骨内(intrastemal)注射および注入を限定することなく含む。
【0052】
用語「界面活性剤」は、液体の表面張力を低減させる剤を指す。
【0053】
用語「治療剤」は、疾患または障害を防止または処置するために投与することができる薬剤を指す。その例として、核酸、核酸アナログ、小分子、ペプチド模倣薬、タンパク質、ペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質もしくは界面活性剤またはこれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
【0054】
用語「処置」は、疾患、障害または状態の1または複数の症状の防止または軽減を指す。疾患または状態の処置は、薬剤が疼痛の原因を処置しない場合であるが、鎮痛剤の投与による被験体の疼痛の処置等、根底にある病態生理が影響されない場合であるが、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状の寛解を含む。
【0055】
語句「薬学的に許容される」は、健全な医学的判断の範囲内において、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症を伴わない、人間および動物の組織と接触しての使用に適した、妥当なリスク・ベネフィット比と釣り合った、組成物、ポリマーおよび他の材料および/または剤形を指す。語句「薬学的に許容される担体」は、ある臓器または身体部分から別の臓器または身体部分への、いずれかの対象組成物の運搬または輸送に関与する液体または固体フィラー、希釈液、溶媒または被包材料等、薬学的に許容される材料、組成物または媒体を指す。各担体は、対象組成物の他の成分と適合性であり、患者に対し傷害性ではないという意味において「許容され」なければならない。
【0056】
語句「治療有効量」は、いずれかの医学的処置に適用できる妥当なリスク・ベネフィット比で、ある所望の効果を生じる治療剤の量を指す。有効量は、処置されている疾患もしくは状態、投与されている特定の標的化構築物、被験体のサイズまたは疾患もしくは状態の重症度等の因子に応じて変動し得る。当業者であれば、過度な実験法を必要とすることなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定することができる。
【0057】
用語「取り込まれた」および「被包された」は、所望の適用において活性薬剤の徐放等の放出を可能にする、組成物の中におよび/または組成物の上に活性薬剤(active agent)を取り込む、製剤化するまたは他の仕方で含むことを指す。この用語は、化学的もしくは物理的カップル、物理的混合物における、またはコーティング層における該薬剤の被包化を含む、治療剤または他の材料がポリマーマトリックスに取り込まれるいずれかの様式を意図する。
II.組成物
【0058】
脳組織における急速拡散および広汎な分布が可能な、ポリエチレングリコール(PEG)またはPLURONIC(登録商標)等のポロキサマーとして公知のポリエチレングリコール−ポリオキシエチレンブロックコポリマー等、親水性および中性電荷ポリマーの高密度表面コーティングを有する合成遺伝子送達プラットフォーム(「ペグ化された遺伝子ベクター」とまとめて称される)が開示されている。
A.ナノ粒子
【0059】
一部の実施形態では、高密度にペグ化された遺伝子ベクターは、非コンジュゲートおよびポリエチレングリコール(PEG)コンジュゲートされたカチオン性ポリマーの混合物から製剤化されたナノ粒子である。ナノ粒子は、脳実質に急速に浸透し、より低密度にペグ化された遺伝子ベクターと比べて、低下した細胞毒性および高イオン強度溶液における増加したコロイド安定性を有する。
1.コーティング剤
【0060】
粒子および脳組織の間の相互作用を低下させることにより、脳におけるECMにわたる粒子の拡散を促進する1または複数の材料(例えば、表面変更剤)でコーティングされたナノ粒子が開示されている。表面変更剤の例として、ポリエチレングリコール(「PEG」)およびポロキサマー(poloxomer)(ポリエチレンオキシドブロックコポリマー)が挙げられるがこれらに限定されない。
i.ポリエチレングリコール(PEG)
【0061】
好ましいコーティング剤は、PEGとしても公知のポリ(エチレングリコール)である。PEGを用いて、ある特定の構成の脳ECMにおける接着を低下させることができ、例えば、表面から延長するPEG鎖の長さが制御される(ECMに相互浸透する長い非分岐鎖が低下または排除されるように)。例えば、直鎖の部分のみが、粒子表面から延長するように(例えば、より低MW PEG分子と長さが均等な部分)、粒子の調製において直鎖状高MW PEGを用いることができる。あるいは、分岐状高MW PEGを用いることができる。かかる実施形態では、PEG分子の分子量は高くなることができるが、粒子の表面から延長する分子のいずれか個々の鎖の直鎖の長さは、より低MW PEG分子の直鎖に相当する。
【0062】
代表的なPEG分子量のダルトン数(Da)は、300Da、600Da、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、6kDa、8kDa、10kDa、15kDa、20kDa、30kDa、50kDa、100kDa、200kDa、500kDaおよび1MDaを含む。好ましい実施形態では、PEGは、約5,000ダルトンの分子量を有する。いずれか所定の分子量のPEGは、長さ、密度および分岐等、他の特徴において変動し得る。特定の実施形態では、コーティング剤は、5kDaのMWを有するメトキシ−PEG−アミンである。別の実施形態では、コーティング剤は、5kDaのMWを有するメトキシ−PEG−N−ヒドロキシスクシンイミド(mPEG−NHS 5kDa)である。
【0063】
代替的な実施形態では、コーティングは、PLUORONIC(登録商標)として販売されているポリエチレングリコール−ポリエチレンオキシドブロックコポリマー等、ポロキサマーである。
iii.コーティング剤の密度
【0064】
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、脳実質にわたる急速拡散を最適化する密度のPEGまたは他のコーティング剤でコーティングされる。コーティングの密度は、粒子の材料および組成を含む種々の因子に基づき変動され得る。
【0065】
好ましい実施形態では、カチオン性ポリマーに対するPEGまたは他のコーティング剤のコポリマーモル比は、8を超える(すなわち、カチオン性ポリマー1モルごとに8モル超のPEG)。カチオン性ポリマーに対するPEGまたは他のコーティング剤のモルによる比は、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、37、50または50超であり得る。カチオン性ポリマーに対するPEGまたは他のコーティング剤の好ましいモル比は、26である。
【0066】
一実施形態では、PEGまたは他のコーティング剤の密度は、1nm
2当たり少なくとも0.001、0.002、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、20、50または100単位である。
【0067】
別の実施形態では、PEGまたは他のコーティング剤の量は、粒子の質量のパーセンテージとして表現される。特定の実施形態では、PEGまたは他のコーティング剤の質量は、粒子の質量の少なくとも1/10,000、1/7500、1/5000、1/4000、1/3400、1/2500、1/2000、1/1500、1/1000、1/500、1/250、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/25、1/20、1/5、1/2または9/10である。さらなる実施形態では、PEGまたは他のコーティング剤の重量パーセントは、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%またはそれ超である。
2.コアポリマー
【0068】
いずれかの数の生体適合性ポリマーを使用して、ナノ粒子を調製することができる。好ましい実施形態では、生体適合性ポリマー(複数可)は、カチオン性ポリマーである。カチオン性ポリマーは、PEG等、コーティング剤にコンジュゲートするポリマーの能力を増強するために分岐状ポリマーであり得る。一部の実施形態では、生体適合性ポリマー(複数可)は、生分解性である。
i.ポリマーの種類
【0069】
例示的なカチオン性ポリマーとして、シクロデキストリン含有ポリマー、特に、米国特許第6,509,323号に記載されているもの等、カチオン性シクロデキストリン含有ポリマー、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(L−リシン)(PLL)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリメタクリレート、キトサン、ポリ(グリコアミドアミン(glycoamidoamine))、シゾフィラン、DEAE−デキストラン、デキストラン−スペルミン、ポリ(アミド−アミン)(PAA)、ポリ(4−ヒドロキシ−L−プロリンエステル)、ポリ[R−(4−アミノブチル)−L−グリコール酸](PAGA)、ポリ(アミノ−エステル)、ポリ(ホスファゼン)(PPZ)、ポリ(リン酸エステル)(PPE)、ポリ(ホスホロアミデート)(PPA)、TATベースのペプチド、アンテナペディアホメオドメインペプチド、MPGペプチド、ポリ(プロピレンイミン(propylenimine))、カルボシランおよびアミン末端のポリアミノホスフィンが挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、ポリマーは、複数の遊離アミンを有するカチオン性ポリマーである。好ましいポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)およびポリ−L−リシン(PLL)を含む。ブロックコポリマーおよび/またはランダムコポリマーを含む、上記の2種またはそれを超えるポリマーのコポリマーを用いて、ポリマー粒子を作製することもできる。
ii.分岐状ポリマー
【0070】
ポリマー化学において、分岐は、置換基、例えば、モノマーサブユニットにおける水素原子の、該ポリマーの別の共有結合した鎖による;またはグラフトコポリマーの場合は、別の種類の鎖による置き換えによって起こる。分岐は、炭素−炭素または様々な他の種類の共有結合の形成に起因し得る。エステル結合およびアミド結合による分岐は、典型的には、縮合反応によって為され、形成された結合毎に1分子の水(またはHCl)を産生する。
【0071】
分岐指数(branching index)は、溶液における高分子のサイズにおける長鎖分岐の効果を測定する。これは、g=<sb2>/<sl2>(式中、sbは、所定の溶媒における分岐状高分子の回転運動の平均二乗半径であり、slは、同じ温度で同じ溶媒におけるそれ以外は同一の直鎖状高分子の回転運動の平均二乗半径である)として定義される。1を超える値は、分岐による回転運動の半径増加を示す。
【0072】
好ましい実施形態では、コアポリマーまたはPEGは、コーティング剤およびコアポリマーのコンジュゲーションを増強することができる分岐状ポリマーである。例示的な分岐状ポリマーは、25kDa分岐状ポリエチレンイミン(PEI)および5kDa分岐状メトキシ−PEGを含む。
iii.コポリマー
【0073】
好ましい実施形態では、上記のポリマーのいずれかとPEGまたはその誘導体とのコポリマーを使用して、ポリマー粒子を作製することができる。ある特定の実施形態では、PEGまたは誘導体は、コポリマーの内部ポジションに位置することができる。あるいは、PEGまたは誘導体は、コポリマーの末端ポジションにまたはその付近に位置することができる。ある特定の実施形態では、ナノ粒子は、PEGの領域を相分離させてまたは他の仕方で粒子の表面に位置付ける条件下で形成される。表面局在したPEG領域単独は、表面変更剤の機能を行うことができるまたはそれを含むことができる。
3.核酸
【0074】
ナノ粒子遺伝子担体は、典型的に、1または複数の核酸を運搬する。この核酸は、内在性核酸配列を変更、修正または置き換えることができる。好ましい実施形態では、核酸は、がんの処置、脳疾患および脳機能に影響する代謝疾患における遺伝子、パーキンソンおよびALSの処置のための遺伝子等の遺伝子における欠損の修正に使用される。
【0075】
遺伝子療法は、疾患発症の原因となる欠損遺伝子を修正するための技法である。研究者らは、欠陥のある遺伝子を修正するためのいくつかのアプローチのうち1種を使用することができる:
・ 正常遺伝子をゲノム内の非特異的位置に挿入して、非機能的遺伝子を置き換えることができる。このアプローチが最も一般的である。
・ 異常遺伝子を、相同組換えにより正常遺伝子に取り替えることができる。
・ 異常遺伝子をその正常機能に戻す選択的復帰変異により、該異常遺伝子を修復することができる。
・ 特定の遺伝子の調節(遺伝子がオンまたはオフされる程度)を変更することができる。
【0076】
ナノ粒子遺伝子担体によって運搬される核酸は、DNA、RNA、化学修飾された核酸またはこれらの組合せであり得る。例えば、核酸半減期の安定性および酵素切断に対する抵抗性を増加させるための方法は、本技術分野で公知であり、ポリヌクレオチドの核酸塩基、糖または結合に対する1または複数の修飾または置換を含むことができる。例えば、核酸は、所望の使用に適合するよう目的に合わせられた特性を含有するようにカスタム合成することができる。一般的な修飾として、ロックド核酸(LNA)、アンロックド核酸(UNA)、モルホリノ、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエート結合、ホスホノアセテート結合、プロピンアナログ、2’−O−メチルRNA、5−Me−dC、2’−5’結合したホスホジエステル結合(linage)、キメラ結合(混合されたホスホロチオエートおよびホスホジエステル結合および修飾)、脂質およびペプチドとのコンジュゲーションならびにこれらの組合せの使用が挙げられるがこれらに限定されない。
【0077】
一部の実施形態では、核酸は、アキラルおよび無電荷サブユニット間結合を有するリン酸アナログ等のヌクレオチド間(internucleotide)結合修飾(例えば、Sterchak, E. P.ら、Organic Chem.、52巻:4202頁(1987年))またはアキラルサブユニット間結合を有する無電荷モルホリノに基づくポリマー(例えば、米国特許第5,034,506号を参照)を含む。一部のヌクレオチド間結合アナログは、モルホリデート(morpholidate)、アセタールおよびポリアミド結合した複素環を含む。他の骨格および結合修飾として、ホスホロチオエート、ペプチド核酸、トリシクロ−DNA、デコイオリゴヌクレオチド、リボザイム、スピゲルマー(高い結合親和性を有するアプタマー(apatamer)であるL核酸を含有)またはCpGオリゴマーが挙げられるがこれらに限定されない。
【0078】
ホスホロチオエート(またはS−オリゴ)は、非架橋酸素のうち1個が硫黄によって置き換えられた、正常DNAのバリアントである。ヌクレオチド間結合の硫化は、5’から3’および3’から5’のDNA POL 1エキソヌクレアーゼ、ヌクレアーゼS1およびP1、RNase、血清ヌクレアーゼならびに蛇毒ホスホジエステラーゼを含むエンドおよびエキソヌクレアーゼの作用を劇的に低下させる。加えて、脂質二重層を通過するための電位が増加する。これらの重要な改善によって、ホスホロチオエートは、細胞調節における適用の増加が判明した。ホスホロチオエートは、2種の主要経路によって作製される:ホスホン酸水素(hydrogen phosphonate)における二硫化炭素中の元素硫黄の溶液の作用による、またはテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)もしくは3H−1,2−ベンゾジチオール(bensodithiol)−3−オン1,1−ジオキシド(BDTD)のいずれかにより亜リン酸(phosphite)トリエステルを硫化するより近年の方法による。後者の方法は、大部分の有機溶媒における元素硫黄の不溶性および二硫化炭素の毒性の問題を回避する。TETDおよびBDTD方法は、より高純度ホスホロチオエートも生じる(一般に、UhlmannおよびPeymann、1990年、Chemical Reviews 90巻、545〜561頁およびそこに引用されている参考文献、PadmapriyaおよびAgrawal、1993年、Bioorg. & Med. Chem. Lett.3巻、761頁を参照)。
【0079】
ペプチド核酸(PNA)は、オリゴヌクレオチドのリン酸骨格の全体が、反復N−(2−アミノエチル)−グリシン単位により置き換えられ、ホスホジエステル結合が、ペプチド結合により置き換えられた分子である。様々な複素環式塩基が、メチレンカルボニル結合により骨格に連結される。PNAは、オリゴヌクレオチドと同様の複素環式塩基のスペーシングを維持するが、アキラルおよび中性電荷分子である。ペプチド核酸は、典型的には、ペプチド核酸モノマーで構成される。複素環式塩基は、標準塩基(ウラシル、チミン、シトシン、アデニンおよびグアニン)のいずれかまたは下記する修飾複素環式塩基のいずれかであり得る。PNAは、1または複数のペプチドまたはアミノ酸変種および修飾を有することもできる。よって、PNAの骨格構成物は、ペプチド結合であり得る、または、あるいは、それらは非ペプチド結合であり得る。例として、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸(本明細書において使用される場合、O−リンカーと称される)等、アセチルキャップおよびアミノスペーサーが挙げられる。PNAの化学的アセンブリのための方法は周知である。例えば、米国特許第5,539,082号、同第5,527,675号、同第5,623,049号、同第5,714,331号、同第5,736,336号、同第5,773,571号および同第5,786,571号を参照されたい。
【0080】
一部の実施形態では、核酸は、イノシン、5−(1−プロピニル)ウラシル(pU)、5−(1−プロピニル)シトシン(pC)、5−メチルシトシン、8−オキソ−アデニン、シュードシトシン、シュードイソシトシン、5および2−アミノ−5−(2’−デオキシ−β−D−リボフラノシル)ピリジン(2−アミノピリジン)ならびに様々なピロロおよびピラゾロピリミジン誘導体、4−アセチルシトシン、8−ヒドロキシ−N−6−メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−ブロモウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルシュードウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、N6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシ−アミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルキューオシン(queosine)、5’−メトキシカルボニルメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、N−ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、2,6−ジアミノプリン、ならびにO−メチル、アミノおよびフルオロ修飾アナログ等であるがこれらに限定されない2’−修飾アナログが挙げられるがこれらに限定されない、1または複数の化学修飾された複素環式塩基を含む。2’−フルオロ(flouro)(2’−F)ピリミジンで修飾された阻害性RNAは、in vitroで好ましい特性を有するようである。さらに、ある報告は、2’−F修飾されたsiRNAが、2’−OH含有siRNAと比較して、細胞培養において増強された活性を有することを示唆した。2’−F修飾されたsiRNAは、マウスにおいて機能的であるが、2’−OH siRNAよりも増強された細胞内活性を必ずしも持たない。
【0081】
一部の実施形態では、核酸は、2’−O−アミノエトキシ、2’−O−アミノエチル(amonioethyl)(2’−OAE)、2’−O−メトキシ、2’−O−メチル、2−グアニドエチル(guanidoethyl)(2’−OGE)、2’−O,4’−C−メチレン(LNA)、2’−O−(メトキシエチル)(2’−OME)および2’−O−(N−(メチル)アセトアミド)(2’−OMA)が挙げられるがこれらに限定されない、1または複数の糖部分修飾を含む。
【0082】
遺伝子療法の方法において、1または複数の核酸を運搬するナノ粒子遺伝子担体を利用して、核酸カーゴを送達することができる。遺伝子療法の方法は、典型的には、細胞の遺伝子型を変更する核酸分子の、細胞への導入に頼る。例えば、修正遺伝子は、宿主のゲノム内の非特異的位置に導入することができる。このアプローチは、典型的には、遺伝子操作されたウイルスベクター等、細胞に置き換え遺伝子を導入するための送達系を必要とする。
【0083】
他の実施形態では、機能的核酸が導入されて、欠損または疾患の原因となる特定の遺伝子の機能または発現を防止する。
【0084】
機能的核酸は、標的分子との結合または特異的な反応の触媒等、特異的な機能を有する核酸分子である。例えば、機能的核酸として、アンチセンス分子、siRNA、miRNA、アプタマー、リボザイム、三重鎖形成分子、RNAiおよび外部ガイド配列が挙げられるがこれらに限定されない。機能的核酸分子は、標的分子によって保有される特異的活性のエフェクター、インヒビター、モジュレーターおよび刺激物質として作用することができる、あるいは機能的核酸分子は、他のいずれかの分子に非依存的なde novo活性を保有することができる。
【0085】
機能的核酸分子は、DNA、RNA、ポリペプチドまたは糖鎖等、いずれかの高分子と相互作用することができる。よって、機能的核酸は、標的ポリペプチドのmRNAまたはゲノムDNAと相互作用することができる、あるいはポリペプチドそれ自体と相互作用することができる。多くの場合、機能的核酸は、標的分子および機能的核酸分子の間の配列相同性に基づき、他の核酸と相互作用するように設計される。他の状況では、機能的核酸分子および標的分子の間の特異的認識は、機能的核酸分子および標的分子の間の配列相同性に基づかないがむしろ、特異的認識を行わせる三次構造の形成に基づく。
【0086】
特定の実施形態では、阻害性核酸は、アンチセンス核酸である。アンチセンス分子は、正準または非正準塩基対形成のいずれかにより標的核酸分子と相互作用するように設計される。アンチセンス分子および標的分子の相互作用は、例えば、RNAseH媒介性RNA−DNAハイブリッド分解により標的分子の破壊を促進する。あるいは、アンチセンス分子は、転写または複製等、標的分子において正常に行われるプロセシング機能を中断する。アンチセンス分子は、標的分子の配列に基づき設計することができる。標的分子の最も到達できる領域を見出すことによる、アンチセンス効率の最適化のための多数の方法が存在する。例示的な方法は、DMSおよびDEPCを使用したin vitro選択実験およびDNA修飾試験である。アンチセンス分子が、10
−6、10
−8、10
−10または10
−12未満のまたはこれに等しい解離定数(K
d)で標的分子に結合することが好ましい。
【0087】
アプタマーは、好ましくは特異的な仕方で、標的分子と相互作用する分子である。典型的には、アプタマーは、ステム−ループまたはG−カルテット等、定義された二次および三次構造へと折りたたむ15〜50塩基の長さに及ぶ小型の核酸である。アプタマーは、ATPおよびテオフィリン(theophiline)等の小分子ならびに逆転写酵素およびトロンビン等の大分子に結合することができる。アプタマーは、非常に緊密に、標的分子から10−12M未満のK
dで結合することができる。アプタマーが、10
−6、10
−8、10
−10または10
−12未満のK
dで標的分子に結合することが好ましい。アプタマーは、非常に高い程度の特異性で標的分子に結合することができる。例えば、標的分子および分子上の単一のポジションのみが異なる別の分子の間で10,000倍を超える結合親和性の差を有するアプタマーが単離された。アプタマーが、バックグラウンド結合分子とのK
dよりも少なくとも10、100、1000、10,000または100,000倍低い標的分子とのK
dを有することが好ましい。ポリペプチドの比較を行う場合、例えば、バックグラウンド分子が、異なるポリペプチドであることが好ましい。
【0088】
リボザイムは、分子内または分子間のいずれかの化学的反応を触媒することができる核酸分子である。リボザイムが、分子間反応を触媒することが好ましい。ハンマーヘッド型リボザイム等、天然の系に見出されるリボザイムに基づくヌクレアーゼまたは核酸ポリメラーゼ型の反応を触媒する多数の異なる種類のリボザイムが存在する。天然の系には見出されないが、de novoで特異的な反応を触媒するように操作された、多数のリボザイムも存在する。好ましいリボザイムは、RNA基質またはDNA基質を切断し、より好ましくは、RNA基質を切断する。リボザイムは、典型的には、標的基質の認識および結合とその後の切断により、核酸基質を切断する。この認識は多くの場合、大部分は、正準または非正準塩基対相互作用に基づく。標的基質の認識は、標的基質配列に基づくため、この特性は、リボザイムを、核酸の標的特異的切断のための特に優れた候補とする。三重鎖形成機能的核酸分子は、二本鎖または一本鎖核酸のいずれかと相互作用することができる分子である。三重鎖分子が、標的領域と相互作用する場合、ワトソン・クリックおよびフーグスティーン塩基対形成の両方に依存する複合体を形成する3本のDNA鎖が存在する三重鎖と呼ばれる構造が形成される。三重鎖分子は高い親和性および特異性で標的領域に結合することができるため、三重鎖分子が好ましい。三重鎖形成分子が、10
−6、10
−8、10
−10または10
−12未満のK
dで標的分子に結合することが好ましい。
【0089】
外部ガイド配列(EGS)は、複合体を形成する標的核酸分子に結合する分子であり、この複合体は、標的分子を切断するRNase Pによって認識される。EGSは、最適なRNA分子を特異的に標的とするように設計することができる。RNAse Pは、細胞内の転移RNA(tRNA)のプロセシングに役立つ。細菌RNAse Pは、標的RNA:EGS複合体に天然tRNA基質を模倣させるEGSを使用することにより、実際にいかなるRNA配列も切断するためにリクルートすることができる。同様に、RNAの真核生物EGS/RNAse P指向性切断を利用して、真核(eukarotic)細胞内の所望の標的を切断することができる。種々の異なる標的分子の切断を容易にするためにEGS分子を作製および使用する仕方の代表例は、本技術分野で公知である。
【0090】
遺伝子発現は、RNA干渉(RNAi)により高度に特異的な様式で有効にサイレンシングすることもできる。このサイレンシングは本来、二本鎖RNA(dsRNA)の添加により観察された(Fire,A.ら(1998年)Nature、391巻:806〜11頁;Napoli, C.ら(1990年)Plant Cell 2巻:279〜89頁;Hannon, G.J.(2002年)Nature、418巻:244〜51頁)。dsRNAは、細胞に進入すると、RNase III様酵素、ダイサーによって、3’末端に2個のヌクレオチドオーバーハングを含有する21〜23ヌクレオチドの長さの二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)に切断される(Elbashir, S.M.ら(2001年)Genes Dev.、15巻:188〜200頁;Bernstein, E.ら(2001年)Nature、409巻:363〜6頁;Hammond, S.M.ら(2000年)Nature、404巻:293〜6頁)。ATP依存性ステップにおいて、siRNAは、siRNAを標的RNA配列へとガイドする、RNAi誘導サイレンシング複合体(RISC)として一般的に公知の多サブユニットタンパク質複合体へと統合されるようになる(Nykanen, A.ら(2001年)Cell、107巻:309〜21頁)。いくつかの点において、siRNA二重鎖が巻き戻り、アンチセンス鎖は、RISCに結合したままであり、エンドおよびエキソヌクレアーゼの組合せにより、相補的mRNA配列の分解を導くようである(Martinez, J.ら(2002年)Cell、110巻:563〜74頁)。しかし、iRNAもしくはsiRNAの効果またはこれらの使用は、いかなる種類の機構にも限定されない。
【0091】
低分子干渉RNA(siRNA)は、配列特異的転写後遺伝子サイレンシングを誘導し、これにより遺伝子発現を減少またはさらには阻害することができる二本鎖RNAである。一例において、siRNAは、siRNAおよび標的RNAの両方の間の配列同一性の領域内のmRNA等の相同RNA分子の特異的な分解を誘発する。例えば、WO02/44321は、3’オーバーハング端と塩基対形成した場合に標的mRNAの配列特異的分解が可能なsiRNAを開示し、これらのsiRNAを作製する方法について、参照により本明細書に組み込まれる。配列特異的遺伝子サイレンシングは、酵素ダイサーによって産生されるsiRNAを模倣する合成の短い二本鎖RNAを使用して、哺乳動物細胞において達成することができる(Elbashir, S.M.ら(2001年)Nature、411巻:494 498頁)(Ui-Tei, K.ら(2000年)FEBS Lett.479巻:79〜82頁)。siRNAは、化学合成もしくはin vitro合成することができる、または細胞の内側でsiRNAへとプロセシングされる短い二本鎖ヘアピン様RNA(shRNA)の結果であり得る。合成siRNAは、一般に、アルゴリズムおよび従来のDNA/RNA合成機を使用して設計される。サプライヤーは、Ambion(Austin、Texas)、ChemGenes(Ashland、Massachusetts)、Dharmacon(Lafayette、Colorado)、Glen Research(Sterling、Virginia)、MWB Biotech(Esbersberg、Germany)、Proligo(Boulder、Colorado)およびQiagen(Vento、The Netherlands)を含む。siRNAは、AmbionのSILENCER(登録商標)siRNA構築キット等のキットを使用してin vitroで合成することもできる。
【0092】
ベクターからのsiRNAの産生は、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の転写によってさらに一般的に為される。例えば、ImgenexのGENESUPPRESSOR(商標)構築キットならびにInvitrogenのBLOCK−IT(商標)誘導性RNAiプラスミドおよびレンチウイルスベクター等、shRNAを含むベクターの産生のためのキットを利用することができる。
【0093】
miRNAまたはプレmiRNAは、18〜100ヌクレオチドの長さ、より好ましくは18〜80ヌクレオチドの長さであり得る。成熟miRNAは、19〜30ヌクレオチド、好ましくは、21〜25ヌクレオチド、特に21、22、23、24または25ヌクレオチドの長さを有することができる。マイクロRNA前駆体は、典型的には、約70〜100ヌクレオチドの長さを有し、ヘアピン立体構造を有する。
【0094】
miRNAまたはプレmiRNAの配列を考慮すると、このmiRNAまたはプレmiRNAの部分と十分に相補的なmiRNAアンタゴニストを、ワトソンおよびクリックの塩基対形成の法則に従って設計することができる。本明細書において使用される場合、用語「十分に相補的」は、2つの配列が、その間に生理条件下で二重鎖を形成できるほどに十分に相補的であることを意味する。miRNAまたはプレmiRNA標的配列と十分に相補的なmiRNAアンタゴニスト配列は、miRNAまたはプレmiRNA配列と70%、80%、90%またはそれを超えて同一であり得る。一実施形態では、miRNAアンタゴニストは、miRNAまたはプレmiRNA標的配列と相補的ではない1、2または3個以下のヌクレオチドを含有する。好ましい実施形態では、miRNAアンタゴニストは、miRNAまたはプレmiRNA標的配列と100%相補的である。一部の実施形態では、miRNAアンタゴニストは、ヒトのmiRNAまたはプレmiRNA配列の部分と相補的である。miRNAのための配列は、例えば、miRBase登録(Griffiths-Jonesら、Nucleic Acids Res.、36巻(データベース版):D154〜D158頁(2008年);Griffiths-Jonesら、Nucleic Acids Res.、36巻(データベース版):D140〜D144頁(2008年);Griffiths-Jonesら、Nucleic Acids Res.、36巻(データベース版):D109〜D111頁(2008年))および他の公共利用できるデータベースにより公で利用可能である。
【0095】
一部の実施形態では、相補性の領域においてヌクレオチドミスマッチが存在する。好ましい実施形態では、相補性の領域は、1、2、3、4または5個以下のミスマッチを有する。
【0096】
一実施形態では、miRNAアンタゴニストは、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)またはこれらの修飾のオリゴマーまたはポリマーである。miRNAアンタゴニストは、天然起源の核酸塩基、糖および共有結合性ヌクレオシド間(骨格)結合を含有するオリゴヌクレオチドを含む。
【0097】
一部の実施形態では、miRNAアンタゴニストは、アンタゴミア(antagomir)である。アンタゴミアは、例えば、Stoffelらに対するUS2007/0213292に記載されている特異的なクラスのmiRNAアンタゴニストである。アンタゴミアは、RNase保護ならびに組織および細胞取り込み増強等の薬理的特性のための様々な修飾を含有するRNA様オリゴヌクレオチドである。アンタゴミアは、糖の完全2’−O−メチル化、ホスホロチオエート骨格および3’末端におけるコレステロール部分を有することが、通常のRNAとは異なる。
【0098】
アンタゴミアは、ヌクレオチド配列の5’または3’末端に、ホスホロチオエートの少なくとも第1、第2または第3のヌクレオチド間結合を含むことができる。一実施形態では、アンタゴミアは、6個のホスホロチオエート骨格修飾を含有する;2個のホスホロチオエートは、5’末端に位置し、4個は3’末端に位置する。ホスホロチオエート修飾は、RNase活性からの保護をもたらし、その親油性は、組織取り込み増強に寄与する。
【0099】
アンタゴミアおよび他のmiRNA阻害剤の例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、WO2009/020771、WO2008/091703、WO2008/046911、WO2008/074328、WO2007/090073、WO2007/027775、WO2007/027894、WO2007/021896、WO2006/093526、WO2006/112872、WO2007/112753、WO2007/112754、WO2005/023986またはWO2005/013901に記載されている。
【0100】
カスタム設計されたAnti−miR(商標)分子は、Applied Biosystemsから市販されている。よって、一部の実施形態では、アンタゴミアは、Ambion(登録商標)Anti−miR(商標)阻害剤である。これらの分子は、細胞における天然起源の成熟miRNA分子を特異的に阻害するように設計された、化学修飾および最適化された一本鎖核酸である。
【0101】
カスタム設計されたDharmacon meridian(商標)マイクロRNAヘアピン阻害剤も、Thermo Scientificから市販されている。これらの阻害剤は、化学修飾および二次構造モチーフを含む。例えば、Vermeulenらは、US2006/0223777において、これらの分子の効力を増強する二次構造エレメントの同定を報告する。特に、逆相補体コア(reverse complement core)周りの高度に構造化された二本鎖の隣接領域の取り込みは、阻害剤機能を有意に増加させ、ナノモル濃度を下回る濃度でのマルチmiRNA阻害を可能にする。アンタゴミア設計における他のかかる改善が、開示されている方法における使用のために企図される。
【0102】
遺伝子配列ならびに適切な転写および翻訳制御エレメントを含有する発現ベクターを構築するための方法が、本技術分野で周知である。このような方法は、in vitro組換えDNA技法、合成技法およびin vivo遺伝子組換えを含む。発現ベクターは、一般に、挿入されたコード配列の翻訳および/または転写に必要なエレメントである調節配列を含有する。例えば、コード配列は、好ましくは、所望の遺伝子産物の発現の制御を助けるプロモーターおよび/またはエンハンサーに作動可能に連結されている。バイオテクノロジーにおいて使用されるプロモーターは、遺伝子発現の制御の意図される種類に応じた異なる種類のものである。これらは一般に、構成的プロモーター、組織特異的または発生ステージ特異的プロモーター、誘導性プロモーターおよび合成プロモーターに分けることができる。
【0103】
相同組換え(HR)等、標的組換えによる遺伝子標的化は、遺伝子修正のための別の戦略である。標的遺伝子座における遺伝子修正は、標的遺伝子と相同なドナーDNA断片によって媒介することができる(Huら、Mol. Biotech.、29巻:197〜210頁(2005年);Olsenら、J. Gene Med.、7巻:1534〜1544頁(2005年))。標的化組換えの一方法は、配列特異的様式で二重鎖DNAにおけるホモプリン/ホモピリミジン部位に第3の鎖として結合する、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)の使用を含む。三重鎖形成オリゴ(oigo)ヌクレオチドは、二本鎖または一本鎖核酸のいずれかと相互作用することができる。三重鎖分子が、標的領域と相互作用するときに、ワトソン・クリックおよびフーグスティーン塩基対形成の両方に依存して複合体を形成する3本のDNA鎖が存在する、三重鎖と呼ばれる構造が形成される。三重鎖分子は高い親和性および特異性で標的領域に結合することができるため、三重鎖分子が好ましい。三重鎖形成分子が、10−6、10−8、10−10または10−12未満のKdで標的分子に結合することが好ましい。
【0104】
三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)およびペプチド核酸(PNA)を使用した標的化遺伝子療法のための方法は、米国特許出願公開第20070219122号に記載されており、HIV等、感染性疾患を処置するためのその使用は、米国特許出願公開第2008050920号に記載されている。三重鎖形成分子はまた、米国特許出願公開第2011/0262406号に記載されているもの等、テールクランプ(tail clamp)ペプチド核酸(tcPNA)であり得る。高度に安定的なPNA:DNA:PNA三重鎖構造物は、2本のPNA鎖による二重鎖DNAの鎖侵入から形成することができる。この複合体において、PNA/DNA/PNAトリプルヘリックス部分およびPNA/DNA二重鎖部分は両者共に、ピリミジンリッチトリプルヘリックスの変位を生じ、ヌクレオチド切除修復経路を強く誘発し、ドナーオリゴヌクレオチドによる組換えのための部位を活性化することが示されてきた変更された構造をもたらす。2本のPNA鎖を一体に連結して、ビス−PNA分子を形成することもできる。三重鎖形成分子は、修正された配列をもたらす1または複数のドナーオリゴヌクレオチドと組み合わせて使用される場合、哺乳動物細胞における部位特異的相同組換えの誘導に有用である。ドナーオリゴヌクレオチドは、三重鎖形成分子に繋留することができる、あるいは三重鎖形成分子から分離することができる。ドナーオリゴヌクレオチドは、標的二重鎖DNAと比べて少なくとも1個のヌクレオチド変異、挿入または欠失を含有することができる。
【0105】
一対の偽相補的(pseudocomplementary)オリゴヌクレオチド等、二重の二重鎖形成分子は、染色体部位におけるドナーオリゴヌクレオチドによる組換えを誘導することもできる。標的化遺伝子療法における偽相補的オリゴヌクレオチドの使用は、米国特許出願公開第2011/0262406号に記載されている。偽相補的オリゴヌクレオチドは、例えば立体障害により互いに認識またはハイブリダイズしないが、それぞれが、標的部位における相補的核酸鎖を認識およびハイブリダイズすることができるように、1または複数の修飾を含有する相補的オリゴヌクレオチドである。一部の実施形態では、偽相補的オリゴヌクレオチドは、偽相補的(pseudocomplemenary)ペプチド核酸(pcPNA)である。偽相補的オリゴヌクレオチドは、標的二本鎖DNAにおけるポリプリン配列を必要とするトリプルヘリックスオリゴヌクレオチドおよびビス−ペプチド核酸等、誘導された組換えの方法よりもさらに効率的であり得、柔軟性増加をもたらすことができる。
【0106】
ナノ粒子内のコアポリマーに対する核酸のモル比は、少なくとも0.5、1、10、100、1000または1000超であり得る。
4.追加的な活性薬剤
【0107】
ナノ粒子遺伝子担体は、「遺伝子」材料のみを運搬することができる、あるいは適用に応じて他の治療剤、予防剤および/または診断剤を共送達することができる。しかし、収載されている機能を行うことができるいずれかの「遺伝子」材料をナノ粒子にパッケージすることができる。例えば、p53およびRb等、腫瘍サプレッサー遺伝子は、抗炎症機能、抗ウイルス機能等を保有するいずれかのプラスミドDNAまたはsiRNAのように、ナノ粒子において複合体形成して、がん患者のために使用することができる。
【0108】
これらの追加的な活性薬剤は、ナノ粒子遺伝子担体に分散させることができる、あるいはナノ粒子のポリマー構成成分のうち1または複数に共有結合により結合させることができる。
【0109】
適した追加的な活性薬剤として、他の核酸に基づく医薬、抗炎症薬、抗増殖薬、化学療法薬、血管拡張薬および抗感染剤が挙げられるがこれらに限定されない。ある特定の実施形態では、ナノ粒子遺伝子担体は、トブラマイシン、コリスチンまたはアズトレオナム等、1または複数の抗生物質を含有する。開示されているナノ粒子遺伝子担体は、エリスロマイシン、アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン等、抗炎症活性を保有することが公知の1または複数の抗生物質を任意選択で含有することができる。ナノ粒子は、化学療法剤および抗増殖剤の送達に使用することもできる。
5.ナノ粒子特性
【0110】
実施例に示されている通り、開示されているナノ粒子は、コーティングされていない粒子、例えば、コーティングされていないPEI粒子等、参照ナノ粒子よりも大きい拡散率の速度(rate of diffusivity)で脳のECMの細孔を通して拡散する。
i.粒子拡散率
【0111】
開示されているナノ粒子は、参照粒子よりも少なくとも5、10、20、30、50、60、80、100、125、150、200、250、500、600、750、1000、1500、2000、2500、3000、4000、5000、10000倍またはそれを超える高い拡散率の速度で、脳のECMの細孔を通過することができる。
【0112】
粒子の輸送速度は、本技術分野における種々の技法を使用して測定することができる。一実施形態では、拡散の速度(rate of diffusion)は、幾何的アンサンブル平均二乗変位(MSD)によって測定される。特定の実施形態では、粒子は、参照粒子よりも少なくとも5、10、20、30、50、60、80、100、125、150、200、250、500、600、750、1000、1500、2000、2500、3000、4000、5000、10000倍またはそれを超える高いMSDで、脳のECMの細孔を通して拡散することができる。
【0113】
他の実施形態では、開示されているナノ粒子は、粒子が水を通って拡散する拡散率の速度に近づく速度で脳のECMの細孔を通って拡散する。特定の実施形態では、拡散率速度は、同一条件下における水中の粒子の拡散率の速度の少なくとも1/1000、1/800、1/700、1/600、1/500、1/400、1/250、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/25、1/10、1/7、1/5、1/2または1倍である。例えば、1秒間のタイムスケールで、非修飾粒子または参照粒子の拡散の速度は、脳組織において、水中の同じ粒子よりも遅くなり得る。
【0114】
PEGまたは他の材料のコーティングの密度は、脳実質内におけるナノ粒子の拡散に影響を与えることができる。一部の実施形態では、高密度にペグ化された粒子の1秒間におけるMSDは、より低密度にペグ化された粒子よりも少なくとも5倍大きい、または非ペグ化粒子のMSDよりも少なくとも29倍高い。さらなる実施形態では、高密度にペグ化された粒子の1秒間における平均二乗変位(MSD)は、脳組織において、人工脳脊髄液(aCSF)におけるよりも僅か260倍遅いかまたはそれ未満遅い一方、より低密度にペグ化された粒子は、最大930倍遅くなることができ、非ペグ化粒子は、最大6,900倍遅くなることができる。特定の実施形態では、高密度にペグ化されたナノ粒子の少なくとも63%が、それぞれより低密度にペグ化された粒子の32.9%および非ペグ化粒子の10.3%と比べ、ラット脳実質を通って移動することができる。
【0115】
粒子輸送速度における不均一性は、特定の期間、例えば、1秒間にわたる個々の粒子拡散率の分布を試験することによって評価することもできる。一実施形態では、所定の平均粒子サイズのコーティングされた粒子の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%またはそれ超が、拡散性として分類される。
ii.界面動電位
【0116】
PEGまたはコーティング剤の存在は、粒子のゼータ電位に影響を与えることができる。一実施形態では、粒子のゼータ電位は、−10mV〜100mVの間、−10〜50mVの間、−10mV〜25mVの間、−5mV〜20mVの間、−10mV〜10mVの間、−10mV〜5mVの間、−5mV〜5mVの間または−2mV〜2mVの間である。好ましい実施形態では、表面電荷は、ほぼ中性である。
iii.粒子サイズ
【0117】
一部の実施形態では、開示されているナノ粒子は、脳のECMにおける細孔に等しいまたはそれよりも小さい平均直径を有する。特定の実施形態では、粒子は、約40nmから最大約150nm、最大約100nmまたは最大約60nm、より好ましくは約50nmの平均直径を有する。粒子サイズは、本技術分野で公知のいずれかの技法を使用して、例えば、動的光散乱を使用して測定することができる。粒子サイズは、集団に対して参照することもでき、粒子の60、65、70、75、80、85、90、95%のパーセンテージが、特定の範囲内の直径を有する。
【0118】
別の実施形態では、粒子は、粒子の大部分が、より大型の粒子と比較して、組織内の細胞またはマイクロドメイン内に局在しなくなるような平均直径を有する。表1に示す通り、50nmの平均粒子サイズを有する粒子は、齧歯類の脳における蛍光標識された遺伝子ベクターの多重粒子追跡(multiple particle tracking)(MPT)を使用して測定される通り、高密度にペグ化した場合、1秒間におけるより大きいMSDを示した。
【0119】
ある特定の実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも10分間、20分間、30分間、1時間、2時間、4時間(hour hours)、6時間、10時間、1日間、3日間、7日間、10日間、2週間、1ヶ月間またはそれより長い期間にわたって有効量の核酸を放出する。
iv.毒性
【0120】
PEGまたは他のコーティング剤で高密度にコーティングされた開示されているナノ粒子は、コーティングされていないまたは従来の通りにコーティングされた粒子よりも毒性が低い。ナノ粒子のin vitroまたはin vivo毒性は、細胞生存率アッセイ等、本技術分野で公知のいずれかの技法を使用して評価することができる。一部の実施形態では、粒子の毒性は、DNAに対するポリマーの比に関連する。例えば、1または2または3または4のDNAに対するポリマーの比は、5またはそれを超える比等、4を超えるDNAに対するポリマーの比よりも毒性が低くなることができる。
【0121】
ナノ粒子の毒性は、細胞型または組織型に依存性であり得、ナノ粒子の濃度に依存することができる。一部の実施形態では、10μg/mlの濃度のナノ粒子への2時間の曝露後に正常初代細胞の75%が生存可能である場合、毒性は、低いと考えられる。
B.脳への送達のための医薬賦形剤
【0122】
粒子は、生理的または薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と組み合わせて投与することができる。医薬組成物は、活性化合物から薬学的に使用できる調製物への加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1または複数の生理的に許容される担体を使用して、従来の様式で製剤化することができる。適した製剤は、選択された投与経路に依存する。好ましい実施形態では、粒子は、脳への非経口的送達のために製剤化される。典型的には、粒子は、処置しようとする組織または細胞への注射のための無菌生理食塩水または緩衝溶液において製剤化される。粒子は、使用直前の再水分補給のために、単回使用バイアルにおいて凍結乾燥して貯蔵することができる。再水分補給および投与のための他の手段は、当業者に公知である。
【0123】
任意選択の薬学的に許容される賦形剤として、安定剤および界面活性剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0124】
安定剤は、例として酸化的反応を含む分解反応の阻害または遅延に使用される。
【0125】
ナノ粒子またはナノコンジュゲートは、投与の容易さおよび投薬量の均一性のため、単位剤形で製剤化することができる。表現「単位剤形」は、本明細書において使用される場合、処置しようとする患者に適切なコンジュゲートの物理的に別々の単位を指す。しかし、組成物の毎日の総使用量が、健全な医学的判断の範囲内において主治医によって決断されることが理解される。いずれかのナノ粒子またはナノコンジュゲートのため、治療有効用量は、細胞培養アッセイまたは動物モデル、通常はマウス、ウサギ、イヌもしくはブタのいずれかにおいて最初に推定することができる。動物モデルを使用して、望ましい濃度範囲および投与経路も達成する。続いて、かかる情報を使用して、ヒトにおける投与に有用な用量および経路を決定することができる。コンジュゲートの治療有効性および毒性は、細胞培養物または実験動物における標準薬学手順、例えば、ED50(用量が、集団の50%において治療上有効である)およびLD50(用量が、集団の50%にとって致死的である)によって決定することができる。治療効果に対する毒性の用量比は、治療指数であり、比、LD50/ED50として表現することができる。大きい治療指数を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータは、ヒト使用のためのある範囲の投薬量の製剤化において使用することができる。
II.製造方法
A.ポリマー調製
【0126】
ポリマーは、本技術分野で公知のいずれかの手段により合成することができる。PEGまたは他のコーティング剤は、コーティングが、粒子と共有結合によりまたは非共有結合により会合しているかに応じて、本技術分野で公知の種々の技法を使用して、コアポリマーにコンジュゲートすることができる。
【0127】
一部の実施形態では、PEGまたは他のコーティング剤は、粒子における官能基をPEGまたは他のコーティング剤における反応性官能基と反応させて、コポリマーを作製することにより、コアポリマーに共有結合により結合させることができる。例えば、アミノ化PEGは、カルボン酸基等、粒子における反応性官能基と反応させて、アミド結合により薬剤を共有結合により結合させることができる。
【0128】
一実施形態では、メトキシ−PEG−NHSは、25kDa分岐状PEIにコンジュゲートされて、PEG−PEIコポリマーを生じる。その結果得られるPEIコポリマーのペグ化の程度は、PEIに加えられるPEGのモル比を変動させることにより変動され得る。
【0129】
一部の実施形態では、ナノ粒子は、ペグ化および非ペグ化ポリマーの混合物から形成される。非ペグ化ポリマーは、粒子における総遊離アミンの5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%または50%超等、規定量の総遊離アミンに寄与することができる。
B.ナノ粒子
【0130】
開示されているナノ粒子遺伝子担体は、本技術分野で公知のポリマーナノ粒子の形成のためのいずれか適した方法を使用して、1または複数のカチオン性ポリマー、1または複数のPEGまたは他のコーティング剤、および1または複数の核酸から形成することができる。ナノ粒子形成のために用いられる方法は、ナノ粒子遺伝子担体に存在するポリマーの特徴ならびに所望の粒子サイズおよびサイズ分布を含む種々の因子に依存する。
【0131】
粒子の単分散集団が望まれる状況において、粒子は、ナノ粒子の単分散集団を産生する方法を使用して形成することができる。あるいは、多分散ナノ粒子分布を産生する方法を使用することができ、粒子は、粒子形成後の篩い分け等、本技術分野で公知の方法を使用して分離して、所望の平均粒子サイズおよび粒子サイズ分布を有する粒子の集団をもたらすことができる。
【0132】
ナノ粒子遺伝子担体を調製するための一般的な技法として、溶媒蒸発、溶媒除去、噴霧乾燥、転相、低温鋳造およびナノ沈殿が挙げられるがこれらに限定されない。粒子製剤化の適した方法について簡潔に下記する。pH修飾剤、崩壊剤、保存料および抗酸化剤を含む薬学的に許容される賦形剤を、粒子形成の際に粒子に任意選択で取り込むことができる。上記の通り、1または複数の追加的な活性薬剤を粒子形成の際にナノ粒子遺伝子担体に取り込むこともできる。
1.溶媒蒸発
【0133】
本方法において、ポリマーは、塩化メチレン等、揮発性有機溶媒に溶解される。核酸を溶液に添加し、ポリ(ビニルアルコール)等、表面活性剤を含有する水溶液にこの混合物を懸濁する。その結果得られるエマルションは、有機溶媒の大部分が蒸発して固体ナノ粒子を残すまで撹拌する。その結果得られるナノ粒子を水で洗浄し、凍結乾燥器中で一晩乾燥させる。本方法により、異なるサイズおよび形態を有するナノ粒子を得ることができる。本方法は、ポリエステルおよびポリスチレンのような、相対的に安定的なポリマーに有用である。
【0134】
しかし、ポリ酸無水物等、不安定ポリマーは、水の存在のため、製作過程において分解し得る。これらのポリマーのため、完全に無水の有機溶媒において行われる次の2種の方法が、より有用である。
2.溶媒除去
【0135】
本技法は、主にポリ酸無水物のために設計される。本方法において、薬物は、塩化メチレンのような揮発性有機溶媒に溶解した選択されたポリマーの溶液において分散または溶解される。この混合物を有機油(シリコンオイル等)において撹拌することにより懸濁して、エマルションを形成する。溶媒蒸発とは異なり、本方法を使用して、高い融点および異なる分子量を有するポリマーからナノ粒子を作製することができる。本技法により産生される球体の外部形態は、使用されるポリマーの種類に高度に依存する。
3.噴霧乾燥
【0136】
本方法において、ポリマーは、有機溶媒に溶解される。公知の量の活性薬物をポリマー溶液に懸濁し(不溶性薬物)または共溶解(可溶性薬物)する。次に、溶液または分散物を噴霧乾燥する。
4.転相
【0137】
マイクロスフェアは、転相方法を使用して、ポリマーから形成することができ、この方法において、ポリマーは、「優れた」溶媒に溶解され、薬物等、取り込むべき物質の微粒子は、ポリマー溶液において混合または溶解され、この混合物をポリマーのための強い非溶媒に注いで、好ましい条件下で、ポリマーマイクロスフェアを自発的に産生し、ポリマーは粒子でコーティングされる、あるいは粒子はポリマーに分散される。この方法を使用して、例えば、約100ナノメートル〜約10ミクロンを含む広範囲のサイズでナノ粒子を生成することができる。使用することができる例示的なポリマーは、ポリビニルフェノールおよびポリ乳酸を含む。取り込むことができる物質は、例えば、蛍光色素等の造影剤またはタンパク質もしくは核酸等の生物学的活性分子を含む。この過程において、ポリマーを有機溶媒に溶解し、次に非溶媒と接触させ、これは、溶解されたポリマーの転相を引き起こして、抗原または他の物質を任意選択で取り込む、狭いサイズ分布を有する小型の球状粒子を形成する。
【0138】
ナノ粒子の調製に使用することができる本技術分野で公知の他の方法として、多価電解質縮合(Sukら、Biomaterials、27巻、5143〜5150頁(2006年)を参照);シングルおよびダブルエマルション(プローブ超音波処理);ナノ粒子成形および静電自己集合(例えば、ポリエチレンイミン−DNAまたはリポソーム)が挙げられるがこれらに限定されない。
III.使用方法
【0139】
PEG等、表面コーティング剤の密度および組成は、脳実質の至る所に拡散する粒子の能力を決定することができることが確立された。実施例に記載されている通り、切除された齧歯類脳スライスにおいて、ナノ粒子(約50nm直径粒子)の拡散限界をex vivoで調査した。多重粒子追跡(MPT)および最適化されたペグ化プロトコールを使用して、PEGコーティング密度および分子量における差が、接着性相互作用からの粒子の遮蔽ならびにin vivoにおけるより均一なその浸透および分布を可能にする能力に有意な影響を有することが示された。
【0140】
したがって、本明細書に記載されている粒子組成物を使用して、脳に直接的に1または複数の治療剤、予防剤および/または診断剤を投与して、脳の1または複数の疾患または障害を処置することができる。
A.治療上の使用
【0141】
1または複数の核酸を運搬するナノ粒子遺伝子担体を利用して、遺伝子療法の方法における等、治療または予防目的の核酸カーゴを送達することができる。遺伝子療法の方法は典型的に、細胞の遺伝子型を変更する核酸分子の、細胞への導入に依拠する。核酸分子の導入は、遺伝子組換えにより内在性遺伝子を修正、置き換えまたは他の仕方で変更することができる。方法は、欠損遺伝子の置き換えコピー全体、異種遺伝子またはオリゴヌクレオチド等の小型の核酸分子の導入を含むことができる。例えば、修正遺伝子は、宿主ゲノム内の非特異的な位置に導入することができる。このアプローチは典型的には、遺伝子操作されたウイルスベクター等、細胞に置き換え遺伝子を導入するために送達系を必要とする。
1.処置しようとする障害または疾患
【0142】
開示されている組成物および方法によって処置することができる脳の例示的な疾患および障害は、新生物(がん、腫瘍、成長)、感染症(HIV/AIDS、結核)、炎症(多発性硬化症、横断性脊髄炎および他の自己免疫性過程、脳または組織浮腫および他の反応性過程)、後天性または変性状態(アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性(amylotrophic)側索硬化症、急性および慢性外傷性および疼痛症候群)、先天性または遺伝的異常(神経線維腫症、ムコ多糖症(mucopolysaccaridoses)、結節性硬化症、フォンヒッペル・リンダウ病)、エピジェネティック状態ならびに脳外傷または傷害を含む。
B.投与および投薬方法
【0143】
開示されているナノ粒子は、種々の投与経路によって投与することができる。ある特定の実施形態では、粒子は、脳に直接的に投与される。他の実施形態では、粒子は、全身的に投与される。
【0144】
脳ECMの組成は、その構成成分およびそれらの間の空間(「細孔」)の物理化学的特性を含め脳内における物質の浸透を決定する重要な因子である。
【0145】
露出された疎水性領域を有する遮蔽されていない負電荷を持つ粒子は、粒子サイズにかかわらず有意に妨害された拡散を有する。粒子表面およびECM構成成分の間の疎水性相互作用は、有意な接着の供給源であり得る。静電力および疎水性力を含む潜在的な相互作用からの適切な表面遮蔽は、脳における急速拡散に決定的である。
【0146】
脳への開示されている遺伝子ベクターの増強された送達のための機構が開示されている。増強された局所送達は、対流、電磁(electricomagnetic)または他の力により達成することができる。増強された全身性送達は、薬理物質(例えば、サイトカイン)、機械的な関門破壊(例えば、超音波)または浸透圧変化(例えば、マンニトール)等が挙げられるがこれらに限定されない、透過処理(permeabliization)剤との共(co-)または逐次投与により達成することができる。他の送達方法は、脳脊髄液空間を介したくも膜下腔内または脳室内送達、嗅球を介した鼻腔内投与または送達および経口、静脈内または動脈内投与を介した全身性送達を含む。
1.対流増強送達
【0147】
一部の実施形態では、開示されているナノ粒子の脳浸透能力は、対流増強送達(CED)後に増強される。
【0148】
CEDは、脳の実質内に備え付けられ、陽圧および一定流量の注入液をもたらすポンプに取り付けられた針を通して薬物が送達される方法である。例えば、高密度にペグ化されたナノ粒子薬物は、定位で、例えば、脳腫瘍塊内にまたは腫瘍もしくは摘出空洞周りに直接置かれた1から数個のカテーテルを通して送達することができる。
【0149】
一部の実施形態では、CEDは、変動サイズの分子の分布を有意に増強し、注入される化合物の局所領域的濃度を増加させることができる。ある特定の実施形態では、高密度にペグ化された粒子を送達するためのCEDの使用は、予想を超える程度まで、脳の至る所への粒子の分布を増強する。一部の実施形態では、遺伝子ベクター分布および高レベル導入遺伝子発現は、線条体全体の至る所に達成することができる。参照粒子等の粒子が、接着性相互作用および/または立体障害のために、脳実質に捕捉されたままである場合、CEDは、著しい利益をもたらす可能性が低い。よって、脳実質における妨げられない拡散を可能にする粒子の物理化学的特性は、CED後の粒子浸透増強の達成にとって依然として重大な意味を持つ。
2.投与レジメ
【0150】
一般に、投与のタイミングおよび頻度は、所定の送達系の副作用と、所定の処置または診断スケジュールの有効性のバランスを取るように調整される。例示的な投薬頻度は、毎時、毎日、毎週、毎月または毎年の投薬等、連続的注入、単一および複数の投与を含む。
【0151】
全身性、くも膜下腔内または脳実質それ自体への局所送達にかかわらず、脳および他の組織における生理活性剤または造影剤の浸透は、有効な治療法および診断に対する重要な障害物であった。ウイルス送達、ナノ粒子送達および対流増強送達を使用した多数の試験は、脳内における物質の限定的な移動のために失敗した。したがって、重大な意味を持つ制限パラメータを定義することおよび脳浸透を増強するための戦略をデザインすることは、これらの処置の有効性を改善する可能性がある。高密度にペグ化されたナノ粒子は、粒子拡散増加、安定性改善および徐放動態の延長を含む多数の追加的な利点を提供する。これらの因子は、多くの治療法の有効性と相関することが公知であり、脳への診断および治療送達に対するナノサイズの担体の有用性に有意な影響を有する可能性がある。
【実施例】
【0152】
本発明は、次の非限定例を参照することによりさらに理解される。
(実施例1)
カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターに固有の正の表面電荷を遮蔽するためのベクターの調製
材料と方法
ポリマー調製
【0153】
以前に記載された通りに、メトキシPEG N−ヒドロキシスクシンイミド(mPEG−NHS、5kDa、Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)を25kDa分岐状ポリエチレンイミン(PEI)(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)にコンジュゲートして、PEG5k−PEIコポリマーを得た[30]。簡潔に説明すると、PEIを超高純度蒸留水に溶解し、pHを7.5〜8.0に調整し、mPEG−NHSをPEI溶液に様々なモル比で添加して、4℃で一晩反応させた。このポリマー溶液を超高純度蒸留水に対し大規模に透析し(20,000MWCO、Spectrum Laboratories,Inc.、Rancho Dominguez、CA)、凍結乾燥した。核磁気共鳴(NMR)を使用して、8、26、37および50のPEG:PEI比を確認した。1H NMR(500MHz、D2O):δ2.48−3.20(br、CH2CH2NH)、3.62−3.72(br、CH2CH2O)。以前に発表された通りに、ポリ−L−リシン 30−mer(PLL)およびPEG5K−PLLブロックコポリマーを合成し、特徴付けた[Suk, J.S.ら、J Control Release、2014年;Kim, A.J.ら、J Control Release、2012年、158巻(1号):102〜7頁]。凍結乾燥したポリマーを超高純度蒸留水に溶解し、pHを約6.5〜7に調整した。
遺伝子ベクター複合体形成
【0154】
pd1GL3−RLプラスミドDNAは、Alexander M.Klibanov教授(M.I.T)からのご厚意による寄贈であり、pEGFPプラスミドは、Clontech Laboratories Inc.(Mountainview、CA)から購入した。以前に記載された通りにプラスミドDNAを増やし、精製した[Suk, J.S.ら、J Control Release、2014年]。Mirus Label IT(登録商標)Tracker(商標)細胞内核酸局在キット(Mirus Bio、Madison、WI)を使用して、Cy3またはCy5フルオロフォアによりプラスミドDNAに蛍光タグを付けた。10容量の標識または非標識プラスミドDNA(0.2mg/ml)を、1容量の回旋しているポリマー溶液に滴下して加えることにより、遺伝子ベクターを形成させた。以前に最適化された窒素対リン酸(N/P)比6およびPEG5k−PEI対PEIモル比3で、PEI溶液を調製した。遊離PEIおよび(PEG5k)8−PEIに基づく遺伝子ベクター対照の製剤のため、それぞれ100%の遊離PEIまたは(PEG5k)8−PEIを使用して、N/P比6でPEI溶液を調製した。蛍光イメージングのため、Cy3またはCy5標識されたDNAを使用して、蛍光標識された遺伝子ベクターをアセンブルした。プラスミド/ポリマー溶液を30分間室温でインキュベートして、遺伝子ベクターを形成させた。遺伝子ベクターを3容量の超高純度蒸留水で2回洗浄し、Amicon(登録商標)超遠心フィルター(100,000MWCO、Millipore Corp.、Billerica、MA)を使用して、1mg/mlに再濃縮して、遊離ポリマーを除去した。NanoDrop ND−1000分光光度計(Nanodrop Technologies、Wilmington、DE)を使用して、260nmの吸光度によりDNA濃度を決定した。以前に記載された通りに、N/P比2で、PEG−PLLナノ粒子を同様に調製した[Suk, J.S.ら、J Control Release、2014年;Kim, A.J.ら、J Control Release、2012年、158巻(1号):102〜7頁;Boylan, N.J.ら、Biomaterials、2012年、33巻(7号):2361〜71頁]。
ナノ粒子の物理化学的特徴付け
【0155】
Nanosizer ZS90(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して、それぞれ動的光散乱およびレーザードプラ流速測定(anemometry)により、pH7.0の10mM NaClにおいて水力学直径、ζ−電位および多分散を測定した。透過型電子顕微鏡検査(TEM、Hitachi H7600、Japan)を使用して遺伝子ベクターを画像化して、その形態およびサイズを決定した。
結果
【0156】
カチオン性遺伝子ベクターに固有の正の表面電荷を有効に遮蔽するために、PEIにコンジュゲートされた複数の5kDa PEG分子のコポリマー(PEG5k−PEI)を使用した遺伝子ベクターを、ある範囲のPEG対PEIモル比で製剤化した。以前に報告された通り、カチオン性ポリマーのペグ化は、PEGコンジュゲーションに起因する利用できる正電荷の低下およびグラフトされたPEG鎖によって課される追加的な立体障害により、DNA複合体形成にマイナスの影響を有し得る[Petersen, H.ら、Bioconjug Chem、2002年、13巻(4号):845〜54頁]。よって、高度にペグ化されたPEIコポリマーのみを使用した、従来のDNA複合体形成方法は、生物学的標本においてその安定性を保持する可能性が低い、緩い不安定なDNAナノ粒子を生じる。コンパクトでコロイド的に安定的な遺伝子ベクターを達成するために、Suk, J.S.ら、J Control Release、2014年に記載されている通り、PEG5k−PEIと遊離PEIに由来する25%のアミンを有する遊離PEIとのブレンドによりベクターを製剤化した。固定量の遊離PEIを使用して、広範囲のPEG対PEIモル比によるPEG5k−PEIコポリマーを使用し、約50nm粒子におけるDNAのコンパクションを達成した(表2)。従来使用されたペグ化比よりも相当に高い、PEG対PEI比26によるコポリマーの使用[Petersen, H.ら、Bioconjug Chem、2002年、13巻(4号):845〜54頁;Malekら、J Drug Target、2008年、16巻(2号):124〜39頁;Merkelら、Biomaterials、2011年、32巻(21号):4936〜42頁]は、ほぼ中性のζ−電位(表1)を有する遺伝子ベクターの形成に十分であり、脳浸透を潜在的に可能にする(脳浸透ナノ粒子;以後BPN)。その後の試験において、ペグ化PEIとより低いPEG対PEI比8からなる同様のサイズの従来通りにペグ化されたナノ粒子(CPN)[Petersenら、Bioconjug Chem、2002年、13巻(4号):845〜54頁;Malekら、Toxicol Appl Pharmacol、2009年、236巻(1号):97〜108頁;Lutzら、Methods Mol Biol、2008年、433巻:141〜58頁]および非ペグ化PEIナノ粒子(UPN)と、BPNを比較した。BPN、CPNおよびUPNの物理化学的特性は、表1に要約されている。注目すべきことに、CPNは、BPNと比較して、より大型の粒子直径およびより正の表面電荷を保有し、より緩いコンパクションおよび/またはより劣る表面コーティングを示唆する。
【0157】
【表1】
【0158】
pH7.0の10mM NaClにおいて、動的光散乱(DLS)によりサイズ、ζ−電位および多分散(PDI)を測定し、少なくとも3回の測定の平均±標準誤差(SEM)として示す。齧歯類脳スライスにおける蛍光標識された遺伝子ベクターの多重粒子追跡(MPT)を使用して、1秒間の平均二乗変位(MSD)を測定した。ストークス・アインシュタイン方程式および平均粒子直径を使用して、aCSFにおけるNP拡散率を計算した。37℃1時間のaCSFにおけるインキュベーション後に、DLSによりaCSFにおける水力学直径を測定した。UPN:非ペグ化ナノ粒子、CPN:従来通りにペグ化されたナノ粒子、BPN:脳浸透ナノ粒子。
【0159】
【表2】
【0160】
pH7.0の10mM NaClにおいて、動的光散乱(DLS)によりサイズ、ζ−電位および多分散(PDI)を測定し、少なくとも3回の測定の平均±標準誤差(SEM)として示す。
【0161】
脳におけるナノ粒子拡散は、細胞間の狭い湾曲した空間を介して主に起こる[Sykova, E.およびC. Nicholson、Physiol Rev、2008年、88巻(4号):1277〜340頁]。細胞外空間の主要構成成分であるECMは、脳実質を通したナノ粒子の移動に対し接着性の立体的関門を課す。本試験におけるUPNおよびCPNにより示される通り、ECMの豊富な負の電荷との非特異的静電相互作用は、遮蔽が不十分なカチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターの拡散を妨害する[Zimmermannら、Histochem Cell Biol、2008年、130巻(4号):635〜53頁;Ruoslahti、Glycobiology、1996年、6巻(5号):489〜92頁]。したがって、BPNの急速脳浸透は、カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターに固有のこのような正の表面電荷の効率的な遮蔽に起因する可能性が最も高い。さらに、ブレンド技法によって可能になった高密度表面PEGコーティングは、BPNに、立体障害によって妨害されることのないECMメッシュ細孔を通した移動に必要とされる、生理的条件(すなわち、CSF)におけるそのコンパクトな100nmに満たないサイズを保持させる。比較すると、安定性を欠く緩いコンパクションおよびCPNを含む従来通りにペグ化されたカチオン性粒子の凝集する傾向は、200nmよりも小さい細孔サイズを有するECMを通した効率的な浸透をもたらさない[Nance, E.A.ら、Sci Transl Med、2012年、4巻(149号):149ra119頁、MacKayら、Brain Res、2005年、1035巻(2号):139〜53頁]。これらの結果は、脳ECMによって課される接着性相互作用および立体障害の両方を克服することができる遺伝子ベクターの設計の重要性を実証する。
(実施例2)
遺伝子ベクター粒子は、生理的環境におけるインキュベーション後に安定的である
材料と方法
【0162】
人工脳脊髄液(aCSF;Harvard Apparatus、Holliston、MA)において37℃でナノ粒子をインキュベートし、30分毎に24時間動的光散乱を行うことにより、PEIナノ粒子安定性を評価した。1時間のインキュベーション後に、ナノ粒子溶液の一部を取り出し、TEMを使用して画像化した。
結果
【0163】
in vivo投与後の遺伝子ベクターの粒子安定性を予測するために、人工脳脊髄液(aCSF)におけるin vitro安定性を37℃で経時的に特徴付けた(
図1)。UPNは、aCSFにおける添加の直後に凝集した。1時間で、水力学直径は8.3倍増加し、7時間で、多分散は0.5よりも大きく、コロイド安定性の喪失を示す。CPNは、aCSFにおけるインキュベーション後に直径が3倍増加し、24時間にわたり安定性を維持した。ブレンドアプローチによって製剤化されたBPNは、UPNおよびCPNの両方と比較して、aCSFにおける改善された安定性を示した。BPNは、最初の1時間にわたって無変化を維持し、続いて直径が2倍増加し、これは24時間にわたり安定性を維持した(表1;
図1)。これらの結果は、超純水におけるおよび37℃のaCSFにおける1時間インキュベーション後の遺伝子ベクターの透過型電子顕微鏡写真によってさらに確認された。aCSFにおけるUPNのインキュベーションは、大型の凝集塊の形成をもたらした。BPNおよびCPNは、サイズが定性的に増加したが、その完全性を保持した。
(実施例3)
遺伝子ベクター粒子は、in vitroおよびin vivoで無毒性である
材料と方法
細胞培養
【0164】
9L膠肉腫細胞は、Henry Brem博士によって提供された。1%ペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep、Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)および10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS、Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)において、9L不死化細胞を培養した。細胞が、70〜80%コンフルエントになったら、96ウェルプレートに再播種して毒性を評価し、24ウェルプレートに再播種して遺伝子ベクターのトランスフェクションおよび細胞取り込みを評価した。ウサギ初代アストロサイトは、Sujatha Kannan博士によって提供された。1日目の新生仔ウサギから混合型細胞培養物を調製し、従来のシェイクオフ方法を使用して、アストロサイトを単離した。1%pen/strepおよび10%FBSを補充したDMEMにおいてアストロサイトを培養し、1回継代した;細胞が、70〜80%コンフルエントになったら、細胞生存率アッセイのために96ウェルプレートに再播種した。ラット脳初代アストロサイトは、Arun Venkatesan博士によって提供された。新生仔P3−P6ラットから(form)ラット脳初代混合型培養物を単離し、以前に発表された通りに従来のシェイクオフ方法によりアストロサイトを単離した[Hosmaneら、Journal of Neuroscience、2012年、32巻(22号):7745〜7757頁]。10%FBSおよび1%pen/strepを補充したDMEM/F12(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)において細胞を培養した。細胞が、継代1回目において70〜80%コンフルエントになったら、96ウェルプレートに直ちに再播種して遺伝子ベクター毒性を評価し、24ウェルプレートに直ちに再播種して遺伝子ベクターのトランスフェクションおよび細胞取り込みを評価した。
in vitro毒性
【0165】
1.0×10
4細胞/ウェルの初期密度で96ウェルプレートに細胞を播種し、37℃でインキュベートした。24時間後に、培地において24時間37℃で、広範囲の用量のDNAナノ粒子と共に細胞をインキュベートした。Dojindo細胞計数キット−8(Dojindo Molecular Technologies,Inc.、Rockville、MD)を使用して、細胞生存率を評価した。Synergy Mx Multi−Mode Microplate Reader(Biotek,Instruments Inc.)を使用して、分光測定で450nmの吸光度を測定した。
結果
【0166】
非ウイルス遺伝子ベクター系としてのその広範な使用にもかかわらず、PEIに基づく遺伝子ベクターは、その高い正電荷密度のため、その毒性に関する懸念を生じさせた[Petersenら、Bioconjug Chem、2002年、13巻(4号):845〜54頁;Merkelら、Biomaterials、2011年、32巻(21号):4936〜42頁]。CNSへの投与に対するその安全性を確保するために、遺伝子ベクターによって媒介されるin vitro毒性を、1〜10μg/mlのプラスミド濃度を使用して、新生仔ウサギに由来する初代アストロサイト(
図2A)、ラットに由来する初代アストロサイト(
図2B)および9Lラット膠肉腫細胞(
図2C)において完全に特徴付けた。UPNおよびCPNは両者共に、検査した全3種の細胞において細胞毒性を示した;UPNは、それぞれ初代ウサギ細胞、初代ラット細胞および9L細胞に対して、5、10および10μg/mlのプラスミド濃度で50%細胞死をもたらした。同様に、CPNは、初代ウサギおよび初代ラットアストロサイトに対して、10μg/mlで50%未満の細胞生存率をもたらした。5および10μg/mlのプラスミドでの9L膠肉腫細胞のCPN処置は、およそ70%細胞生存率をもたらした。
【0167】
これらの知見とは反対に、BPNは、ウサギ初代アストロサイトおよび9L膠肉腫細胞において無毒性であり、高濃度の10μg/mlであっても、ラット初代アストロサイトにおける軽度毒性のみを示した(
図2A〜
図2D)。動物[Yurekら、Cell Transplant、2009年、18巻(10号):1183〜1196頁;Yurekら、Mol Ther、2009年、17巻(4号):641〜650頁]およびヒト[Konstanら、Hum Gene Ther、2004年、15巻(12号):1255〜1269頁]において安全であることが示されたPEG−PLLナノ粒子系とBPNの毒性を比較した。BPNおよびPEG−PLLは、可変濃度で全3種の細胞型において同様の安全性プロファイルを示した。要約すると、従来のPEGコーティングは、細胞毒性を十分には低下させない[Daviesら、Mol Ther、2008年、16巻(7号):1283〜1290頁]。しかし、BPNは、高いプラスミド用量であっても、好ましい安全性プロファイルを実証する。CED後のこれらの遺伝子ベクターのin vivo安全性プロファイルをさらに病理組織学的に特徴付けた。これらのin vitroデータに従って、UPNは、CPNおよびBPNよりも高い毒性徴候を実証した。その効果が、ノーマルセーライン投与と異ならないため、BPNおよびCPNは、毒性なしを実証した(
図2D)。重要なことに、遺伝子ベクター型にかかわらず、炎症および出血は、注射部位周囲に限局され、脳組織にわたって増えなかった。
【0168】
カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターの細胞毒性は、これらの多用途かつ強力な遺伝子送達プラットフォームの使用の限界として長年認められてきた[Petersenら、Bioconjug Chem、2002年、13巻(4号):845〜854頁;Merkelら、Biomaterials、2011年、32巻(21号):4936〜4942頁]。以前の観察と十分に一致して[Petersenら、Bioconjug Chem、2002年、13巻(4号):845〜854頁;Daviesら、Mol Ther、2008年、16巻(7号):128312〜90頁、Beyerleら、Toxicol Appl Pharmacol、2010年、242巻(2号):146〜154頁]、従来のペグ化(すなわち、CPN)は、カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターのin vitro安全性プロファイルの有意な改善に十分ではない。ブレンドアプローチによって達成される高密度ペグ化は、BPNの毒性を徹底的に減少させ、動物[Yurekら、Cell Transplant、2009年、18巻(10号):1183〜1196頁;Yurekら、Mol Ther、2009年、17巻(4号):641〜650頁]およびヒト[Konstanら、Hum Gene Ther、2004年、15巻(12号):1255〜1269頁]において安全であると示された広く使用されているPEG−PLLナノ粒子系と同様の好ましい安全性プロファイルをもたらす。
(実施例4)
ペグ化ナノ粒子遺伝子ベクターは、高い取り込みおよびトランスフェクション効率を有する
材料と方法
in vitroトランスフェクション
【0169】
5.0×10
4細胞/ウェルの初期密度で24ウェルプレートに細胞を播種した。24時間後に、遺伝子ベクター形態のpd1GL3−RLプラスミド(1μg DNA/ウェル)と共に細胞を培地において5時間37℃でインキュベートした。カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクタートランスフェクションを、遊離プラスミド対照と比較した。その後、ナノ粒子および培養培地を新鮮培地に置き換えた。さらに48時間の37℃インキュベーション後に、培地を除去し、0.5mlの1×レポーター溶解バッファーを添加した。細胞を3回の凍結および融解サイクルに供して、完全な細胞溶解を保証し、遠心分離により上清を得た。次に、標準ルシフェラーゼアッセイキット(Promega、Madison、WI)および20/20nルミノメーター(Turner Biosystems、Sunnyvale、CA)を使用して、上清におけるルシフェラーゼ活性を測定した。相対光単位(RLU)を、Bio−Radタンパク質アッセイによって測定される各ウェルの総タンパク質濃度に対し正規化した。
結果
【0170】
遺伝子ベクターの細胞取り込みおよびトランスフェクション効率をin vitroで特徴付けた。PEGコーティングは、細胞による粒子取り込みを低下させることが示された[Amoozgar, Z.およびY. Yeo、Wiley Interdiscip Rev Nanomed Nanobiotechnol、2012年、4巻(2号):219〜233頁;Hatakeyamaら、Adv Drug Deliv Rev、2011年、63巻(3号):152〜160頁]。しかし、以前の報告と十分に一致して[Mishraら、Eur J Cell Biol、2004年、83巻(3号):97〜111頁]、従来のペグ化は、PEIに基づく遺伝子ベクター(すなわち、CPN)による細胞取り込みに影響を与えなかった。小型の粒子サイズは、ペグ化ナノ粒子の有効な取り込みに寄与し得る[Pamujulaら、J Pharm Pharmacol、2012年、64巻(1号):61〜67頁;Hu, Y.ら、J Control Release、2007年、118巻(1号):7〜17頁]。BPNも、CPNと比較したそのより高密度のPEGコーティングにもかかわらず、UPNおよびCPNと比較して、取り込みにおける差を示さなかった。全3種のPEIに基づく遺伝子ベクターは、50%の9L不死化細胞(
図3A)および35%の齧歯類初代細胞(
図3B)において検出された。これらの遺伝子ベクターの取り込みは、それぞれ9L不死化および初代アストロサイトにおける臨床的に検査したPEG−PLL遺伝子ベクターよりも約17および約35倍高かった(p<0.05)。この差は、同じプラスミド用量のPEG−PLLベクターで処置した細胞と比較した、PEI−ベクター処置された細胞による有意により高いルシフェラーゼ発現に変換された。以前の観察に合致して[Mishraら、Eur J Cell Biol、2004年、83巻(3号):97〜111頁]、異なるPEIに基づく遺伝子ベクターの間の同様の細胞取り込みにもかかわらず、UPNと比較して、CPNおよびBPNの両方による有意により低いin vitro導入遺伝子発現が見出された(
図3Cおよび
図3D)。
(実施例5)
BPNペグ化ナノ粒子遺伝子ベクターは、脳実質に急速に浸透した
材料と方法
動物試験
【0171】
体重各120〜140gの雌フィッシャー344ラットをHarlan Laboratories(Frederick、MD)から購入した。遺伝子発現における遺伝的な差の根本的な影響のため、近交系ラットの使用が、他の非近交系系統よりも好ましかった[Liuら、J Biol Chem、2002年、277巻(7号):4966〜4972頁]。ラットを標準施設に収容し、食物および水に自由にアクセスできるようにした。全動物は、ジョンズホプキンス大学(Johns Hopkins University)動物実験委員会(Animal Care and Use Committee)のポリシーおよびガイドラインに従って処置した。標準無菌外科的技法を使用して、あらゆる外科手技を行った。
【0172】
以前に記載された通りに、ケタミン・キシラジンの混合物によりラットを麻酔した[Recinosら、Neurosurgery、2010年、66巻(3号):530〜537頁;考察537頁]。簡潔に説明すると、350μLのケタミン(75mg/kg)、キシラジン(7.5mg/kg)、エタノール(14.25%)および0.9%ノーマルセーライン溶液を腹腔内投与した。正中線頭皮切開を行って、冠状縫合および矢状縫合を露出させ、矢状(saggital)縫合の3mm側方およびブレグマの0.5mm後方に穿頭孔(burr whole)を穿孔した。ナノ粒子溶液の投与後に、生分解性縫合糸(POLYSORB(商標)Braided Absorbable Sutures 5−0)を使用して皮膚を閉じ、バシトラシンを塗布した。
【0173】
in vivoにおけるナノ粒子の拡散に基づく伝播を試験するために、N=3匹の動物を使用した;注入の間の対流を最小化するために、定位ヘッドフレーム(headframe)に配置した33ゲージの10μl Hamilton Neuroシリンジを3.5mmの深さまで下げ、1mm引っ込めて、齧歯類線条体にポケットを作製した。粒子型当たり500μg/mlのプラスミド濃度で、Cy5標識された従来通りにペグ化されたナノ粒子およびCy3標識された脳浸透ナノ粒子の10μl溶液を、2μl/minのボーラス注射として投与した。注射2時間後に動物を屠殺した。
【0174】
齧歯類線条体における対流増強送達後のPEIに基づく遺伝子ベクターの分布を試験するために、N=6匹のラットを使用した;定位ヘッドフレームに配置した33ゲージの50μl Hamilton Neuroシリンジを3.5mmの深さまで下げた。ノーマルセーラインにおける粒子型当たり500μg/mlのプラスミド濃度で、Cy3標識されたCPNおよびCy5標識されたBPNの20μl溶液を投与した。Chemyx Inc.Nanojet定位シリンジポンプ(Chemyx、Stafford、Texas)を使用して、注入速度を0.33μl/minに設定した。注射5時間後に動物を屠殺した。ナノ粒子濃度における分布の依存を試験するために、ノーマルセーラインにおける半分のプラスミド濃度、粒子型当たり250μg/mlで、共注射(co-injection)も行った。
【0175】
遺伝子ベクターのCED投与後の導入遺伝子発現の分布を評価するために、粒子型当たり少なくともN=4匹のラットを使用した;サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターと蛍光eGFPレポータータンパク質をコードするプラスミドを様々なPEIに基づくナノ粒子製剤において複合体形成させ、上記の同じパラメータを使用して、1mg/mlプラスミド溶液の20μl溶液において注入した。CED投与48時間後に動物を屠殺し、収集した脳を4%ホルムアルデヒドにおいて固定した。
【0176】
遺伝子ベクターのCED後のin vivoトランスフェクションのウエスタンブロット解析のため、粒子型当たりN=3匹のラットを使用し、トランスフェクションの分布のイメージングに基づく解析に従う正確に同じ実験手順を使用した。CED投与48時間後に動物を屠殺し、氷上に直ちに置き、注射部位から−2mmから2mmにある線条体の4mm厚冠状スライスを切り離し、ウエスタンブロット解析のために−80℃に貯蔵した。
【0177】
CED投与後のin vivoにおける遺伝子ベクターの安全性プロファイルを評価するために、群当たりN=3匹のラットを使用した。上記の通り、1mg/mlプラスミド濃度の20μl溶液における様々なPEIに基づく製剤を注入した。比較のための陰性対照として、ノーマルセーライン溶液を注入した。投与4日後に動物を屠殺し、収集した脳を4%ホルムアルデヒドにおいて固定し、加工し、切片作製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。委員会認定の神経病理学者により盲検的病理組織学的解析を行い、組織を炎症および出血の指標に関して0〜3にスコア化した(0:炎症/出血なし、1:軽度、2:中等度、3:重度)。
齧歯類脳スライスにおける多重粒子追跡
【0178】
多重粒子追跡(MPT)を使用して、以前に発表された通りに、ex vivo齧歯類脳スライスにおける蛍光遺伝子ベクターの平均二乗変位(MSD)を推定した[Nanceら、Sci Transl Med、2012年、4巻(149号):149ra119頁]。簡潔に説明すると、成体フィッシャー(Fisher)ラットから脳を収集し、氷上で10分間、aCSF中でインキュベートした。Zivic脳マトリックススライサー(Zivic Instruments、Pittsburgh、PA)を使用して、脳を1.5mm冠状スライスに薄く切り、あつらえのスライド上に置いた。定位フレームに配置した50μl Hamilton Neuroシリンジ(Hamilton、Reno、NV)を使用して、0.5マイクロリットルの蛍光標識された遺伝子ベクターを、1mmの深さで大脳皮質に注射した。組織を22mm×22mmカバーガラスで覆って、組織移動およびバルク流を低下させた。100×/1.46NA油浸対物レンズを備える倒立落射蛍光顕微鏡(Axio Observer D1、Zeiss;Thornwood、NY)に配置したEvolve 512 EMCCDカメラ(Photometrics、Tucson、AZ)により、露光時間66.7msで20秒間にわたって粒子軌跡を記録した。あつらえのMATLABコードにより動画を解析して、経時的な遺伝子ベクター中心軌跡のx,y座標を抽出し、時間の関数としての各粒子の平均二乗変位を計算した[Nanceら、Sci Transl Med、2012年、4巻(149号):149ra119頁;Schusterら、Biomaterials、2013年、34巻(13号):3439〜46頁]。スライドグラス上の固定化された遺伝子ベクターを使用して、ノイズ対シグナル比に対する空間分解能の相関を推定した[Martinら、Biophys J、2002年、83巻(4号):2109〜17頁;Savinら、Biophys J、2005年、88巻(1号):623〜38頁]。この相関に基づき、MPT実験の平均分解能を、1秒間に約0.009μm
2と推定した。遺伝子ベクター型当たり少なくともN=3匹のラット脳を使用し、試料当たり少なくとも500個の遺伝子ベクターを追跡した。試料当たりの全ナノ粒子のためのMSDの幾何平均を計算し、時間の関数として異なる齧歯類脳の平均を計算した。τ=1秒間のタイムスケールで、全ナノ粒子のMSDからヒストグラムを作成した。ストークス・アインシュタイン方程式を使用して、ACSFにおけるナノ粒子の理論的MSDを計算し、動的光散乱により平均粒子直径を計算した。
イメージングおよび解析
【0179】
新鮮に収集した脳を4%ホルムアルデヒドにおいて一晩固定し、続いて凍結切片作製前に勾配ショ糖溶液処理した。Leica CM 1905クリオスタットを使用して、組織を100マイクロメートル厚スライスへと冠状に切片作製した。スライスをDAPI(Molecular Probes、Eugene、OR)で染色し、共焦点LSM 710顕微鏡を使用して、5×および10×倍率(Carl Zeiss;Hertfordshire、UK)下で、DAPI(細胞核)、Cy3およびCy5またはAlexa Fluor 488(eGFP)に関して画像化した。設定を慎重に最適化して、非注射対照ラット脳に基づく、バックグラウンド蛍光を回避した。レーザー出力、ピンホール、ゲイン、オフセットおよびデジタルゲインは、倍率毎に別々に選択し、試験を通して一定に維持した。
統計解析
【0180】
不等分散を仮定する両側スチューデントt検定または可能であれば対応のあるスチューデントt検定により、2群間の統計的有意差を解析した。SPSS 18.0ソフトウェア(SPSS Inc.Chicago、IL)を使用して、一元配置分散分析(ANOVA)と続く事後検定を使用して多重比較を行った。
結果
【0181】
脳実質におけるBPN、CPNおよびUPNの拡散を調査した。それらの正の表面電荷のため、UPNは、制約された非ブラウンタイムラプストレースにより強く妨害された。同様に、CPNは、より制約が少ないが、依然として妨害された非ブラウン運動を示した。対照的に、BPN軌跡は、より長い距離に及び、脳組織における妨げられない拡散を示した(
図4A)。軌跡に基づき、1秒間にわたるアンサンブル平均MSD(<MSD>)を計算した;BPNは、それぞれCPNおよびUPNよりも5および29倍高い<MSD>を示した(
図4B)。脳組織におけるUPNおよびCPNの拡散速度は、それぞれaCSF中でのそれらの理論的拡散速度よりも6,900倍および930倍遅かったが、BPNは、aCSF中よりも脳においてほんの260倍遅く移動した(表1)。個々の遺伝子ベクターの対数MSD(log10MSD)のヒストグラムにおいて、個々の粒子データを表した。分布は、UPNおよびBPNに関して大部分は単様式であった;UPNの大部分は、低いMSD値を呈し、多くのBPNは、脳組織における急速浸透を可能にするMSDを示した。CPNは、大部分は捉えられたが、僅かな集団は、脳実質に急速に浸透することができた(
図4C)。急速に運動するナノ粒子をlog10MSD≧−1を有するナノ粒子と定義すると、それぞれUPN、CPNおよびBPNの、10.3%、32.9%および63%が、脳実質において移動することができた。
【0182】
BPNによるex vivoにおける増強された脳浸透が、in vivoにおける脳実質中のこのようなベクターの広汎な伝播に変換されるか検査するために、齧歯類線条体において蛍光標識されたCPNおよびBPNのボーラス共注射を行った。投与後に、CPNは、投与2時間後に注射部位からほんの中程度に漏出した(escaped from)一方、BPNは、およそ300μmの距離を覆って、注射部位からより遠くへと均質に拡散した。
【0183】
投与ポイントから離れた治療タンパク質の高いトランスフェクションおよびその後の発現は、CNS疾患の有効な遺伝子送達に基づく処置の基礎をなす。カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターの有効なコーティングは、脳線条体のより大きい体積にわたる導入遺伝子発現を可能にする。しかし、ステルスコーティング戦略としてのペグ化は、取り込み、エンドソーム漏出およびその後の導入遺伝子発現を減少させることが示されてきた[Amoozgarら、Wiley Interdiscip Rev Nanomed Nanobiotechnol、2012年、4巻(2号):219〜33頁;Hatakeyamaら、Adv Drug Deliv Rev、2011年、63巻(3号):152〜60頁]。カチオン性ポリマーに基づく遺伝子ベクターのペグ化は、以前の報告に示唆される通り[Pamujulaら、J Pharm Pharmacol、2012年、64巻(1号):61〜7頁;Huら、J Control Release、2007年、118巻(1号):7〜17頁]、恐らくは小型の粒子サイズのため、細胞進入を減少させないが、in vitroにおける有意により低いトランスフェクション有効性をもたらす[Mishraら、Eur J Cell Biol、2004年、83巻(3号):97〜111頁;Ogrisら、AAPS PharmSci、2001年、3巻(3号):E21頁]。これは、遺伝子ベクターの緩衝能およびその後のエンドソーム漏出を低下させる、DNAアンパッケージングおよび一級アミンへのPEGのコンジュゲーションを妨害し得る、BPNの細胞内安定性の増加によって説明することができる[Mishraら、Eur J Cell Biol、2004年、83巻(3号):97〜111頁;Sonawaneら、J Biol Chem、2003年、278巻(45号):44826〜31頁]。
(実施例6)
CEDは、遺伝子ベクター物理化学的特性とともに、高密度に(dencely)ペグ化された遺伝子ベクターの分布および導入遺伝子送達を増強するように働く
材料と方法
イメージングおよび解析
【0184】
バックグラウンド蛍光を減算し、最大強度の10%における蛍光強度を閾値化するカスタムMATLABスクリプトを使用することにより、CED投与後のナノ粒子分布体積を定量した。逆流による脳梁におけるナノ粒子蛍光は、定量から除外した。注射平面の2mm内の各100μmスライスを画像化した。各スライスにおける分布面積を合計して、ナノ粒子分布の総体積を計算した。eGFPをコードするPEIに基づく遺伝子ベクターによって媒介される導入遺伝子発現の分布の解析のため、同じ過程を続けた。
抗体およびウエスタンブロッティング
【0185】
CED後のin vivoトランスフェクションのウエスタンブロット解析のため、使用される抗体は、抗GFP(B−2):sc−9996および抗β−アクチン:sc−47778(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)を含んだ。氷冷PBSバッファー(1mM PMSF、ならびに各1μg/mlのアプロチニン、ロイペプチンおよびペプスタチンA)における短時間の超音波処理を使用して、脳組織を溶解した。サンプリングバッファー(10%グリセロール、2%SDS、62.5mM Tris−HCl、2%β−メルカプトエタノール、pH6.8)を添加し、100℃で10分間試料を煮沸した。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって試料を分離(resorved)し、セミドライ型ブロッター(Bio−Rad、Hercules、CA)を使用して、ゲル上のタンパク質をニトロセルロース(Bio−Rad、Hercules、CA)に転写した。この膜をTBST(10mM Tris−Cl、pH8.0、150mM NaCl、0.5%TWEEN−20)中3%BSAでブロッキングし、一次抗体と共に一晩4℃でインキュベートした。高感度ケミルミネッセンス方法により、イムノブロットを可視化した。Multi Gaugeプログラム(Fujifilm、Tokyo、Japan)を使用して、ウエスタンブロット結果の定量を行った[Elliottら、Mol Biol Cell、2005年、16巻(2号):891〜901頁]。
結果
【0186】
BPNの高密度PEGコーティングが、CED後の分布改善に寄与するかどうかを評価した。CED後の異なる脳浸透能力を有する遺伝子ベクターの空間分布を直接的に比較するために、Cy5標識されたBPNおよびCy3標識されたCPNを共注入した。高密度にペグ化されたBPNは、齧歯類線条体を均質に覆った一方、コーティングが少ないCPNは、注射部位に限局された。注射の冠状平面内に、BPNは、CPNよりも3倍大きい面積を覆い(
図5A)、分布における差は、統計的に有意であった(p<0.05)。さらに、BPNの全体的な分布体積を計算したところ、CPNよりも3.1倍高かった(
図5B)。CED注入液におけるナノ粒子の濃度は、分布体積に有意な効果を有することが示された[MacKayら、Brain Res、2005年、1035巻(2号):139〜53頁]。実際に、半分の濃度の遺伝子ベクターの共注入は、それぞれCPNおよびBPNの13倍および8倍低い分布体積をもたらした。低いプラスミド濃度であっても、BPNは、CPNと比較して4.6倍高い分布体積をもたらした(
図21)。
【0187】
BPNのより大きい分布面積および投与ポイントからさらに離れた距離の細胞に到達するその能力を考慮すると、eGFPをコードするプラスミドDNAを運搬する遺伝子ベクターのCED投与後の、トランスフェクトされた細胞の分布を評価した。UPNおよびCPN処置した動物は、注射部位周囲および血管周囲空間の有意なGFP発現を実証した。対照的に、BPNは、齧歯類線条体の至る所に広汎なトランスフェクションをもたらし、これは、遺伝子ベクター分布解析と十分に相関した(
図5A〜
図5B)。特に、BPNは、GFP導入遺伝子発現における統計的有意(p>0.05)差をもたらし、それぞれCPNおよびUPNと比較して、2.4倍および3.2倍高いトランスフェクション体積であった(
図6Aおよび
図6B)。ウエスタンブロット解析を使用して、UPN、CPNおよびBPNのCEDによって媒介される絶対的導入遺伝子GFP発現を定量的に決定した。BPNは、CPNおよびUPNと比較して、線条体における統計的に有意な2倍高い全体的な導入遺伝子発現を実証した(
図7)。
【0188】
in vitro結果とは対照的に、BPNのCED投与は、UPNおよびCPNと比較して、in vivo導入遺伝子発現の総量の倍加をもたらし、線条体の大きい面積にわたり細胞をトランスフェクトするBPNの能力が、その劣る細胞内送達能力を補い、さらにはそれを上回ることができることを示唆する。
【0189】
脳実質におけるBPNの妨げられない拡散は、CEDを使用して投与される場合、広汎な分布に変換される。高密度表面遮蔽が、遺伝子ベクターのCED促進性分布の達成に必要とされることに留意されたい;不十分に遮蔽されたCPNは、注射部位から漏出することができず、CED後の遮蔽されていないUPNと比較して、導入遺伝子発現における増強された分布を媒介することができなかった。
(実施例7)
ポリL−リシンおよび分岐状PEGを含有するナノ粒子の合成
材料と方法
分岐状PEG(BrPEG)の合成
【0190】
BrPEGを二段階反応において合成した。2モル当量のN,N−ジイソプロピルエチルアミンの存在下で、1:1モル比でジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)無水物を先ずアジド−トリオキサウンデカニンにコンジュゲートした。この反応に起因するアジド−DTPAを次に、ジメチルホルムアミド(DMF)中それぞれ40、5および3モル当量の1−エチル−3−(3−メチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で、4モル当量の5kDaメトキシ−PEG−アミン(Creative PEGWorks、Winston Salem、NC)とコンジュゲートした。一定に撹拌しつつ、48時間37℃で反応を行った。精製のため、反応産物を超純水に対して24時間透析した(6〜8kDa MWCO、Spectrum Laboratories,Inc.、Rancho Dominguez、CA)。
ポリ−L−リシンのペグ化
【0191】
官能基を持つアルキン末端基およびブロミド対イオンを有するポリ−L−リシン(PLL)30−merを使用した(Alamanda Polymers Inc.、Huntsville、AL)。直鎖状ペグ化PLLポリマーの形成のため、PLLペプチドを、官能基を持つアジド基を有するPEG(約5kDa)(Creative PEGWorks、Winston Salem、NC)または分岐状PEG(約15kDa)と1:1のモル比で反応させた。100mM Trisバッファー(pH7.5)中0.1モル当量の酢酸銅、5モル当量のアスコルビン酸ナトリウムおよびTris(ベンジルトリアゾリルメチル)アミン(TBTA)の存在下で、37℃で48時間クリックケミストリー反応を行った。反応産物、PLL−PEG(PLLおよび直鎖状PEGのジブロック)およびPLL−BrPEG(PLLおよび分岐状PEGのジブロック)を超純水に対して24時間透析した。
ペグ化ペプチドの精製および対イオンの交換
【0192】
固定相としてのSEPHADEX G15(MWCO 1500、GE healthcare、Pittsburg、PA)および移動相としての50mM酢酸アンモニウムバッファー(pH7.4)によるサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、ペグ化反応からの反応産物を精製した。この過程において、ブロミド対イオンをアセテート対イオンと交換した。220nmの吸光度を測定することにより(NANODROP ND−1000分光光度計、NANODROP Technologies、Wilmington、DE)、異なる画分におけるペプチド濃度をモニターした。ペプチドを含有する高分子量画分をプールし、透析した。500DaのMWCOを有する透析チューブを使用して、24時間の経過にわたって断続的に交換した2リットルの超純水に対して透析を行った。精製された産物を凍結乾燥し、さらに使用するまで−80℃で貯蔵した。
粒子製剤
【0193】
従来通りにペグ化されたコペルニクス(Copernicus)製剤(PLL−PEG)を模倣した遺伝子ベクターを、2の窒素(PLLにより寄与)対リン(DNAにより寄与)比で製剤化した。高密度にペグ化された遺伝子ベクターにおけるDNAの圧縮に最も適した製剤パラメータを決定するために、異なる比のPLL−BrPEGおよびPLLポリマーを使用して、2および5の窒素対リン(N/P)比を検査した。100%PLL−BrPEG(BR100)、90%PLL−BrPEGおよび10%PLL(BR90)または50%PLL−BrPEGおよび50%PLL(BR50)のいずれかの混合物を使用して、遺伝子ベクターを複合体形成させた。遅いスピードでボルテックスしつつ、1容量のポリマー溶液へと10容量のプラスミドDNA(0.2mg/ml)を滴下して加えることにより、遺伝子ベクターを形成させた。プラスミド/ポリマー溶液を30分間室温でインキュベートした。凝集塊の除去のため、シリンジ濾過(0.2μm)を使用し、続いてAMICON(登録商標)超遠心フィルター(100,000MWCO、Millipore Corp.、Billerica、MA)により、遊離ポリマーを除去し、所望の濃度の遺伝子ベクターを採取した。NANODROP ND−1000分光光度計(Nanodrop Technologies、Wilmington、DE)を使用して、260nmの吸光度によりDNA濃度を決定した。
結果
ポリマー合成
【0194】
分岐状PEG(BrPEG)を合成し、
1H−NMRにより解析して、DTPAに対するPEGの比を決定した。NMRの結果は、平均3.65個のPEG分子が、各DTPA分子に結合していたことを示した。材料と方法に記載されている通りに、クリックケミストリー反応により、PLL−PEGおよびPLL−BrPEGポリマーを合成した(
図9)。ポリマーの
1H−NMRスペクトルを使用して、ペグ化の程度を決定した。個々の原子に結合したプロトンによって寄与される予想される化学シフトに基づき、ペプチドに対するPEGの比を計算した。PLLのリシンモノマーにおいて、各炭素に結合したプロトンによる特定の化学シフトにおける寄与される強度は、次の比、a:b:c:d:e=1:2:2:2:2で存在する。炭素bおよびdに関して、相当するピークは、明確に区別するには近接し過ぎていたため、単一のピークとして考慮した。各リシンモノマーは、30回反復したため、a、c、b+dおよびeのピークは、それぞれ30、60、120および60プロトンを表す。PEGにおける各反復単位は、4プロトンを有し、5kDa PEGは、114反復単位を含有するため、これらを参照ピークとして維持する場合、各PEG分子は、456プロトンに寄与することが予想される。よって、その結果得られる産物は、PLL−PEGポリマーについては1.12およびPLL−BrPEGポリマーについては3.16の計算されるPEG対ペプチド比を明らかにした。NMRスペクトルに基づき、両方のペグ化ペプチドは、従来通りにペグ化されたポリマーのおよそ3.1倍である、高密度にペグ化されたポリマーのペグ化の程度を有して、粒子製剤に適しているとみなされた。
粒子特徴付け
【0195】
TEM画像の比較は、従来のPLL−PEG遺伝子ベクターが棒状であったのに対し、非ペグ化PLL遺伝子ベクターおよび高密度にペグ化された遺伝子ベクターの両方が、球状および楕円体粒子からなったことを明らかにした。非ペグ化PLL遺伝子ベクターは、82nmの平均長径および46nmの平均短径を有した。PLL−PEG遺伝子ベクターサイズの解析(表3)は、177±8nmの長径および16±1nmの短径を明らかにした。高密度にペグ化された遺伝子ベクターの長径は、PLL−PEG遺伝子ベクターよりも約2倍小さかったが、短径は、約2倍大きかった。5のN/P比で形成されたPLL−BrPEG遺伝子ベクターは、2のN/P比で形成された遺伝子ベクターと比較して有意により低い長径および短径を有した。長径および短径を使用して計算される遺伝子ベクターアスペクト比は、PLL−BrPEGポリマーを取り込んで形成された粒子に関して1〜4倍低いことが判明した(
図10、表3)。高密度にペグ化された粒子の場合、アスペクト比の範囲もより低く、これは、PLL−BrPEGポリマーを取り込む遺伝子ベクターに関して観察される、より低い多分散において反映された(
図10、表3)。非ペグ化PLLの添加は、有意により小さいアスペクト比を有する粒子を生じた(
図10)。
【0196】
【表3】
【0197】
表3:遺伝子ベクターの物理化学的特徴付け。pH7.0の1/15×PBSにおけるレーザードプラ流速測定および動的光散乱により、水力学直径(Z平均)、ζ−電位および多分散(PDI)を測定し、3回の測定の算術平均±標準誤差(SEM)として表し、ImageJを使用して、それぞれ3種の粒子試料に由来する少なくとも100粒子のTEM画像から長径および短径を測定し、算術平均±SEMとして示す。
【0198】
十分にペグ化されたナノ粒子は、その直径が、ECMにおける細孔を通った移動が可能なほど十分に小さければ、脳実質において急速に拡散することができる。実際に、114nmよりも小さい高密度PEGコーティングを有する粒子は、ECMにおける急速拡散を示した[4]。この理由から、いずれの粒子製剤が、このカットオフを下回るサイズを有する集団の大部分を有するかに関して試験した。僅か29%のPLL−PEG遺伝子ベクターが、114nmを下回る長径を有した(
図11)。遺伝子ベクター製剤におけるBrPEG使用の効果を試験するために、2のN/P比で製剤化された粒子集団の長径の分布を比較した。90:10の比のPLL−BrPEGポリマーおよび非ペグ化PLLポリマーのブレンド(BR90)は、粒子の約80%が、114nmを下回る長径を有する集団をもたらした。これは、それぞれ約59%および約73%である、BR100製剤およびBR50−50製剤についてのこのカットオフを下回る粒子のパーセンテージよりも有意に高かった。高密度にペグ化された製剤全てについての短径は、従来のPLL−PEG遺伝子ベクターの短径よりも大きかったが、依然として指定されたカットオフを下回っており、したがって、遺伝子ベクター拡散にマイナスに影響するとは予想されなかった。
【0199】
本明細書における製剤化された粒子が、本来球状でないことを考慮すると、粒子として均等な並進拡散係数を有する球体の直径として定義される水力学直径は、拡散率特徴の説明および比較に有用なパラメータである。Z平均として測定される水力学直径は、高密度にペグ化されたポリマーを使用して形成された全製剤でより低いことが判明した(表3)。高度に荷電された粒子は、ECMと静電的に相互作用する可能性が高いため、表面電荷も、拡散に影響を与える重要な側面である。ペグ化粒子製剤の間で表面電荷における有意差は認められなかった。非ペグ化PLL遺伝子ベクターの表面電荷は、ペグ化製剤よりも約5倍高かった。
【0200】
ECMの構成成分と従来のナノ粒子との非特異的相互作用は、脳実質におけるナノ粒子分布を妨害するため、標的細胞に到達し、治療効果を達成するその能力に影響を与える。PEGの高密度層によるナノ粒子表面の有効な遮蔽は、このような接着性相互作用を最小化し、ECMを通した効率的な粒子浸透を可能にする。本試験において、広く使用され、臨床的に検査される遺伝子ベクターを使用して、脳における広汎かつ十分に高い導入遺伝子発現を達成した。高密度にコーティングされた遺伝子ベクターの製剤のための複合体形成パラメータを解析し、これを完全に特徴付けて、その後のin vitroおよびex vivo評価に対するその適用性を調査した。
【0201】
単一の直鎖状PEGおよび多腕分岐状PEGによるPLLのペグ化を達成し、NMRによって検証した。PLL−PEGポリマーは、DNAと複合体形成して、臨床的に検査される系を良好に模倣した従来通りにペグ化された遺伝子ベクターを形成することが判明した。PEGグラフト化によるPLLポリマーの修飾は、直径約100nmを有する球状遺伝子ベクターを形成することが以前に報告された。PLLおよび分岐状PEGジブロックの使用も、従来のPLL−PEG系とは明確に異なる形態を有する粒子の形成をもたらした。しかし、この場合、ある範囲のアスペクト比を有する球状遺伝子ベクターおよび楕円体遺伝子ベクターの両方が形成された。劣るDNA複合体形成を生じ得る増加量の親水性PEG鎖によって課される立体障害にもかかわらず、PLL−BrPEGにより製剤化されたが、少量の非ペグ化ポリマーの取り込みを有する遺伝子ベクターは、より小さい範囲のアスペクト比を有するより均一なナノ粒子をもたらした。さらに、非ペグ化ポリマーコアの包含は、114nmよりも小さい長径を有するナノ粒子の大集団の製剤をもたらし、これにより、これらのナノ粒子が脳実質において遭遇し得る可能な立体障害を最小化する。しかし、粒子は、流れの存在下で整列または転倒する(tumble)可能性があり、したがって、その挙動は、実験的に特徴付ける必要があるため、非球状粒子の移動は、多数のパラメータによって影響され、容易に予測することができない。
(実施例8)
in vitroにおけるポリL−リシンおよび分岐状PEGを含有するナノ粒子の特徴付け
材料と方法
細胞培養
【0202】
9Lラット膠肉腫細胞は、Henry Brem博士によって提供され、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep、Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)および10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS、Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)において培養した。ラット脳初代アストロサイトは、Arun Venkatesan博士によって提供された。新生仔P3−P6ラットからラット脳初代混合培養物を単離し、従来のシェイクオフ方法によりアストロサイトを単離した。
【0203】
10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したDMEM/F12(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)において細胞を培養した。アッセイ要件の通りに、0.25%トリプシンEDTA(Corning Inc.、Tewksbury、MA)とともに5分間37℃でインキュベートすることにより細胞をトリプシン処理し、続いて培地で中和し、96ウェルプレートまたは24ウェルプレートにおいて播種し、一晩接着させた。
細胞取り込み
【0204】
細胞取り込み試験のため、24ウェルプレートにおいてウェル当たり50,000細胞の密度で細胞を播種し、異なる粒子製剤のためのその圧縮型ナノ粒子形態の1μg DNA/ウェルにより3時間37℃で処理した。BD Accuri C6フローサイトメーターによる蛍光選別を可能にするために、ナノ粒子合成のためにCy3標識されたDNAを使用した。TEMおよびζ−電位によって確認される通り、標識されたDNAの使用は、DNAナノ粒子の形成に影響を与えなかった。フローサイトメトリーのため、細胞を0.04%トリパンブルーで短時間処理して、細胞外蛍光(florescence)をクエンチし、PBSで3回洗浄し、続いてトリプシン処理した。トリプシンを中和し、1000rcf、10分間のスピンダウンにより細胞を採取した。得られた細胞ペレットを、PBS中100μlの10%FBSに再懸濁し、試料を加工するまで氷上に維持した。発光検出波長585/40nmによる488nmレーザーおよびFL2バンドパスフィルターを備えるAccuri C6フローサイトメーター(BD Biosciences、USA)を使用して、ナノ粒子細胞取り込みを測定した。BD Accuri C6ソフトウェアを使用してデータを解析した。未処理試料を使用して閾値を決定し、遺伝子ベクター細胞取り込みを遊離プラスミドと比較した。
ルシフェラーゼアッセイ
【0205】
24ウェルプレートにおいてウェル当たり50,000細胞の密度で細胞を播種し、10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したDMEMにおける1mg/mlの圧縮pBal DNAで3時間37℃にて処理した。次に、ルシフェラーゼ発現をアッセイする前に、通常通り3日間新鮮培地において細胞を培養した。ルシフェラーゼ抽出のため、培地を除去し、細胞を1×PBSで2回洗浄した。各ウェルに500μlの1×レポーター溶解バッファー(Promega、Madison、WI)を添加し、10分間室温でインキュベートした。各ウェルから細胞およびバッファーを別々の微量遠心管に移し、3回の凍結・融解サイクルに付し、続いて1,000rpmで5分間スピンダウンした。新たな微量遠心管に上清を移し、ルシフェラーゼ活性に関して直ちにアッセイした。100μlのルシフェラーゼ基質・アッセイバッファー混合物(Promega、Madison、WI)、続いて20μlの上清をポリスチレンチューブに添加し、20/20nルミノメーター(Turner Biosystems、Sunnyvale、CA)を使用して、ルミネセンスを直ちに測定した。Micro−BCAタンパク質アッセイ(Pierce Protein Biology Products、Rockford、IL)によって測定された総タンパク質濃度により相対光単位(RLU)を正規化した。
毒性アッセイ
【0206】
Dojindo Molecular Technologies Inc、Rockville、MDによって供給された細胞計数キット−8を使用して、遺伝子ベクターのin vitro細胞毒性を測定した。96ウェルプレートにおいて10,000細胞/ウェルを播種し、DMEMにおいて1、5、10、50および100μg/ml圧縮DNAで24時間処理した。次に、培地を、10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有する100μlのDMEMに置き換え、20μlの細胞計数キット−8試薬を添加し、2時間インキュベートした。Synergy Mx Multi−Mode Microplate Reader(Biotek,Instruments Inc.)を使用して、結果を450nmにおいて分光測定で測定した。
結果
毒性
【0207】
9L細胞における細胞生存率アッセイは、その低いN/P比対応物と比較して、DNAに対するポリマーの高い比(N/P 5)で製剤化された粒子の毒性増加を明らかにした(
図12)。最も毒性の高い製剤は、N/P比5で形成された高密度にペグ化された遺伝子ベクター、BR90であった。しかし、9L細胞に対するN/P比2の全粒子の細胞生存率アッセイ(
図12)は、遺伝子ベクターが、100μg/mlもの高濃度であっても相対的に無毒性であり、検査した全製剤で約75%生存率であったことを明らかにした。さらに、細胞生存率試験は、N/P 2で製剤化された遺伝子ベクターの毒性が、9L細胞およびラット初代アストロサイトの両方に対し、最大10μg/mlの濃度で低かったことを明らかにした(
図13Aおよび
図13B)。
細胞取り込み
【0208】
フローサイトメトリー解析は、異なる製剤についてPLL>BR90>BR100>PLL−PEGの順に取り込み増加を示し(
図14Aおよび
図14B)、粒子間の差は有意であった(p値<0.05)。9L腫瘍細胞および初代ラットアストロサイトについて同じ傾向が観察された。しかし、絶対値は、全体的な遺伝子ベクター取り込みが、9L細胞に対してより高かったことを示した。PLL−PEGの取り込みは、両方の細胞株における遊離プラスミドに観察されるレベルに近かった。
トランスフェクション
【0209】
9L細胞および初代アストロサイトの両方における相対ルミネセンス単位(RLU)で測定されるルシフェラーゼ活性(
図14Cおよび
図14D)は、BR90製剤が最高であり、続いてBR100製剤、PLL製剤、最後にPLL−PEG製剤であった。差は、初代アストロサイトについてのみで有意であることが判明し、BR90のトランスフェクションレベルは、検査した他のあらゆる製剤のレベルよりも有意に高かった。PLL−PEGのトランスフェクションは、遊離プラスミドによって達成されるレベルに匹敵した。
【0210】
カチオン性ポリマーの毒性は、その臨床適用性を制限する最も顕著な因子の1つであった。したがって、いずれか提案される遺伝子ベクタープラットフォームにとって、低レベルの毒性を確実にすることが重要である。臨床治験において検査された従来のPLL−PEG製剤は、無毒性であることが判明した。2のN/PにあるPLL−PEGの低いin−vitro毒性は、安全に投与できる遺伝子ベクターとしてのその適用性を確実にした。PLL−PEG遺伝子ベクターは、N/P比を5に増加させると毒性となることが判明し、この結果は、検査した残りの製剤に対して再現された。文献における以前の報告も、N/P比増加に伴うPLLに基づく遺伝子ベクターの毒性増加を示した。N/P 5で観察される遺伝子ベクターの高い毒性の結果として、N/P 2で製剤化された遺伝子ベクターのみをさらに特徴付けた。9L細胞および初代細胞において行った追加的な細胞生存率アッセイは、検査した最高処理濃度であっても低い遺伝子ベクター毒性を実証し、遺伝子ベクターが、その後のin−vitro試験に使用した濃度で、いずれの細胞株に対しても毒性がなかったことを確認した。
【0211】
遺伝子ベクター内部移行のin−vitro特徴付けは、アスペクト比が減少するにつれて、細胞取り込みが増加したことを明らかにし、PLL−PEG(平均アスペクト比12)およびPLL(平均アスペクト比約2)遺伝子ベクターは、それぞれ最低および最高細胞取り込みを示した。観察は、低いアスペクト比を有する粒子が、より急速な細胞内部移行を示すことを示した以前の実験的試験と合致する。特に、14nmまたは74nmの直径を有する金ナノスフェアが、74 14nm棒(アスペクト比約5)の3倍超の頻度でHeLa細胞によって取り込まれることが示された。同様に、より高いアスペクト比は、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HMPA)−オリゴリシンブラシ(brush)ポリマーを使用して形成されたポリマーに基づく遺伝子ベクターの細胞取り込み低下を実証した。これらの知見を認めるものの、粒子化学および検査した細胞株における変動のため、かかる実験的試験の間の比較を引き出すことは困難である。エネルギー考察に基づく理論的モデルも、低いアスペクト比を有する粒子が、最小ラップ時間に関連付けられる一方、細胞と平行に置かれている粒子が、非常に細長く伸びた場合、部分的にしかラップされないことを提案した(「無駄な(frustrated)エンドサイトーシス」)。高いアスペクト比を有する粒子の取り込み低下が実証されたが、球状および楕円体ナノ粒子の間の比較は、僅かに細長い形状が、細胞取り込みを実際に改善し得ることを示した。PRINTと呼ばれるトップダウンのアプローチを用いて、Grattonらは、3のアスペクト比を有する架橋PEGに基づくハイドロゲルの円柱状粒子の内部移行が、同じ体積のその球状対応物の約4倍速かったことを実証した。高密度にペグ化された製剤に対し同様のアスペクト比が観察され、試験した細胞株に対する従来のPLL−PEG遺伝子ベクターを上回る細胞取り込みにおける有意な利点を与えた。遺伝子ベクター内部移行に理想的であるようである非球状特徴を維持したまま、より低いアスペクト比が達成された。
【0212】
高い細胞取り込みにもかかわらず、PLLは、BR100およびBR90と比較してより高いトランスフェクション効率を示さなかった。これは、細胞質におけるリソソーム分解、拡散制約および代謝的分解を含むいくつかの細胞内因子による可能性がある。高密度にペグ化されたBR90製剤は、恐らくは高い細胞取り込みと、続く核への効率的な細胞内輸送の組み合わされた効果により、9L細胞およびラット初代アストロサイトの両方において最高トランスフェクション効率を示した。
(実施例9)
ポリL−リシンおよび分岐状PEGを含有するナノ粒子は、ex vivoおよびin vivoで脳組織における高い拡散率を有する
材料と方法
aCSFにおける粒子安定性
【0213】
aCSF(Harvard Apparatus、MA)において37℃でインキュベートし、Zetasizer Nano ZS90(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して、処理前ならびに処理0時間および1時間後に、動的光散乱によりZ−平均および多分散(PDI)を記録することにより遺伝子ベクター安定性を評価した。25℃で、散乱角90°にて測定を行った。インキュベーション前、インキュベーション直後(0時間)、インキュベーション1時間後およびインキュベーション24時間後を含む異なる時点で、セクション2.4.2.2に記述されている通りにTEMガード(gird)も調製した。
齧歯類脳スライスの調製
【0214】
全動物実験は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)ガイドラインおよび地域施設内動物実験委員会規則(local Institutional Animal Care and Use Committee regulation)に従ってジョンズホプキンス大学医学部で行われた。簡潔に説明すると、成体フィッシャーラット(120〜140g)を過量のイソフルランにより安楽死させ、その脳を迅速に取り出し、10%グルコースを補充した冷aCSF(Harvard Apparatus、MA)に10分間浸漬した。次に、Zivic脳マトリックススライサー(Zivic Instruments、Pittsburgh、PA)を使用して脳を1.5mm厚スライスに薄く切り、あつらえのスライド上に置いた。定位フレームに配置した50ul Hamilton Neuroシリンジ(Hamilton、Reno、NV)を使用して、0.5マイクロリットルの蛍光標識された遺伝子ベクターを大脳皮質に1mmの深さで注射した。組織を22mm×22mmカバーガラスで覆って、組織移動およびバルク流を低下させた。
多重粒子追跡
【0215】
100×/1.46 NA油浸対物レンズを備える倒立落射蛍光顕微鏡(Axio Observer D1、Zeiss;Thornwood、NY)に配置したEvolve 512 EMCCDカメラ(Photometrics、Tucson、AZ)により、露光時間66.7msで20秒間にわたって粒子軌跡を記録した。経時的な遺伝子ベクター中心軌跡のx,y座標を抽出することにより、動画を解析し、各粒子の平均二乗変位を時間の関数として計算した。遺伝子ベクター型当たり少なくともN=3匹のラット脳を使用し、試料当たり少なくとも500個の遺伝子ベクターを追跡した。試料当たり全ナノ粒子のMSDの幾何平均を計算し、異なる齧歯類脳の平均を時間の関数として計算した。τ=1秒間のタイムスケールで、ナノ粒子毎のMSDからヒストグラムを作成した。
in vivo共注射
【0216】
in vivoでのナノ粒子拡散を試験するために、等しい濃度の差次的に蛍光標識されたPLL−PEGナノ粒子およびBR90ナノ粒子を雌フィッシャー344ラット(n=3)の線条体に共注射した。ケタミン・キシラジンの混合物により齧歯類を麻酔し、正中矢状切開を行って、ブレグマを露出させた。ブレグマの0.5mm後方および正中線の3mm側方に線条体を標的化した。ナノ粒子をロードした50μl Hamilton Neurosシリンジを硬膜下に3.5mm下げた。Chemyx Inc.Nanojet定位シリンジポンプ(Chemyx、Stafford、Texas)を使用して、0.33μl/minの速度で個々の濃度0.25μg/μlの遺伝子ベクターを合計20μl投与し、続いてシリンジを引き抜いた。動物を縫合し、そのケージに戻す前に加温パッド上に置いた。2時間後、齧歯類を屠殺し、脳を取り出し、ホルマリンにおいて一晩固定した。次に、懸濁溶液を15%ショ糖に、その後24時間後に30%ショ糖に交換した。Leica CM 1905クリオスタットを使用して脳を薄く切って、100μm厚のスライスを得た。スライスをDAPI(Molecular Probes、Eugene、OR)で染色し、5×倍率のZeiss LSM 510 Meta共焦点顕微鏡(Carl Zeiss; Hertfordshire、UK)を使用して画像化した。イメージングの間、顕微鏡設定を一定に維持した。最大強度の10%で画像を閾値化するカスタムMATLABスクリプトを介して共焦点レーザー走査顕微鏡画像を処理することにより、BR90ナノ粒子またはPLL−PEGナノ粒子の蛍光分布に関して脳スライス画像を定量した。脳室または白質路における蛍光分布の定量を回避するよう注意した。各スライスから計算された分布面積に、100μmのスライス厚を乗じ、全画像にわたって合計して、総分布体積を得た。
結果
aCSFにおける粒子安定性
【0217】
aCSFにおける遺伝子ベクター安定性を調査して、脳への注射後の遺伝子ベクターの物理化学的特徴をモデル化した。Z−平均および多分散指数(PDI)の両方が、処置前に測定された粒子特徴と比較した場合、有意に増加したため、PLL−PEG製剤は、CSFにおける浸漬直後に不安定であった(
図15)。処置後1時間目に、PDIはさらに増加したが、Z平均の下落が記載された。高度にペグ化された製剤、BR100およびBR90の両方に関して、CSF処置の直後にZ−平均およびPDIの僅かな増加が観察された。BR100の場合、両方の測定値が、1時間の時点で下落した一方、BR90に関してZ−平均およびPDIは、同じレベルで維持された。これらの結果は、同じ時点で各試料で撮影されたTEM画像により裏付けられた。
粒子拡散
【0218】
遺伝子ベクターの自動追跡を使用して、各組織試料についてτ=1秒間のタイムスケールまでアンサンブル幾何平均二乗変位を得て、続いて3種の異なる試料にわたって平均した。高密度にペグ化された遺伝子ベクターは、従来のPLL−PEGよりも改善された輸送を示した(
図16)。BR90およびBR100についてのτ=1秒間におけるMSDは、従来のPLL−PEG製剤のMSDよりも5.6倍および4.2倍高かった。BR90およびBR100の間の差は、有意であるとは判明しなかった。高密度にペグ化されたナノ粒子についての増加されたlog(MSD)は、ヒストグラムプロットに見ることもできる(
図18)。個々の遺伝子ベクターMSDを解析すると、急速運動として定義されるlog10MSD≧−1を有する粒子のより大きいパーセンテージが、BR90(58.8%)およびBR100(46.3%)対PLL−PEG(28.2%)に観察された。代表的な粒子軌跡(
図17)は、PLL−PEGの不十分な拡散率を描写するが、BR90およびBR100は、大きい距離にわたって拡散性であった。PLL粒子は、完全に固定化された。
in vivo共注射
【0219】
遺伝子ベクターのin vivo共注射は、高密度にペグ化されたBR90粒子が、従来通りにペグ化されたPLL粒子よりもさらに遠くに分布することができることを明らかにした。共焦点画像の定量的解析は、分布の面積が、注射部位の平面に最大分布を有するベル型曲線(
図19)に従ったことを示した。高密度にペグ化された遺伝子ベクターの分布体積は、PLL−PEGの分布体積よりもおよそ4倍高かった(
図20)。
【0220】
DNA−CPNと比較してDNA−BPNにより達成された脳浸透およびin vitroトランスフェクション効率における同時発生的改善は、CEDにより実証される通り、in vivoにおける増強されたより広汎な導入遺伝子発現をもたらした。注射平面から最大500μm離れた距離における脳スライス当たりの統合密度(integrated density)(
図22A)およびトランスフェクトされた細胞数の定量的解析は、PLL−PEG粒子(DNA−CPN)と比較した、BR90(N/P2)粒子(DNA−BPN)の有意なおよそ2〜3倍増加を明らかにした(
図22B)。
【0221】
PLL−PEGは、脳実質における限定的な拡散を示した。対照的に、高密度にペグ化されたPLL遺伝子ベクターは、従来のPLL−PEG系と比較して、ex vivoおよびin vivo齧歯類脳組織において有意に改善された拡散率を示す。高密度にペグ化された製剤のうち、BR100と比較してBR90の僅かにより高い拡散率は、物理化学的特徴における軽微な差を潜在的に反映し得る。高密度にペグ化されたナノ粒子に関して、ECMとの接着性相互作用は、徹底的に最小化され、したがって、立体障害が、主要な役割を果たし得る。最大114nmの高密度にペグ化された粒子は、脳浸透することができるが、200nmの粒子はできない。よって、114nmは、それを下回ると高密度にペグ化された粒子が急速に拡散すると予想できる、サイズカットオフである。BR100遺伝子ベクターへの非ペグ化ポリマーの取り込みは、114nmを下回る長径、すなわち、非球状粒子の大きい方の寸法を有する集団のより大きいパーセンテージをもたらした。これは、より低いPDIと共に、BR90製剤のより大きな拡散性画分(a larger diffusive fraction)に寄与した可能性がある。高密度にペグ化されたPLL遺伝子ベクターの増加された脳浸透能力は、現在広く使用されているPLL−PEG遺伝子ベクターを上回る有意な改善である。比較すると、粒子製剤は、より高い安定性、in vitroトランスフェクション効率および脳ECMにおける拡散率を実証し、これを、脳への遺伝子送達のための有望なプラットフォームとして確立する。
【0222】
PLL−分岐状PEGコポリマーおよび少量の非ペグ化PLLポリマーを使用して製剤化されたPLLに基づく遺伝子ベクターは、従来通りに使用されたPLL−PEGと比較して、改善された拡散およびトランスフェクションの両方を実証した。高密度ペグ化により、脳実質における遺伝子ベクター分布を制限する電荷に基づく相互作用が最小化された一方、小型のナノ粒子サイズを同時に達成して、立体障害を最小化し、CEDによる分布体積を増強した。治療的分布の最大化に加えて、高密度にペグ化された遺伝子ベクター系の物理化学的特徴も、改善されたin vitro細胞取り込みおよびトランスフェクションを支持した。さらに、PLL−PEG系は、CFの処置のための臨床治験における好ましい安全性プロファイルを実証し、これにより、高密度にペグ化されたPLLに基づく遺伝子ベクター系も説明するための卓越した優位性を定めた。急速拡散および圧力駆動型投与方法による効率的導入遺伝子送達の組合せは、GBの有効な非ウイルス遺伝子療法にチャンスをもたらす。