【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、独立請求項1及び9にそれぞれ記載されている、複数の染色によって染色されている生物組織サンプルから取得されるマルチチャネル画像を分析する画像処理方法及び画像処理システムに関するものである。さらなる実施形態は、従属請求項において与えられ、本発明のさらなる態様は、さらなる独立請求項において与えられる。
【0011】
[0009]本願明細書において理解される「生物組織サンプル」は、任意の生物サンプルであり、例えば解剖病理学のための人間又は動物の体から得られる外科標本である。生物サンプルは、前立腺の組織サンプル、胸部組織サンプル、結腸組織サンプル又は他の器官又は体の部位から得られる組織サンプルでもよい。
【0012】
[0010]本願明細書において理解される「マルチチャネル画像」は、異なる生物学的構造、例えば核及び組織構造が特定の蛍光色素によって同時に染色される生物組織サンプルから得られるデジタル画像を含み、特定の蛍光色素の各々は、マルチチャネル画像のチャネルの1つを構成している異なるスペクトル帯において蛍光を発する。生物組織サンプルは、複数の染色によって及び/又は染色及び対比染色によって染色されてもよく、後者は、「単一マーカー画像」とも称される。
【0013】
[0011]本願明細書において理解される「分解(アンミックスされた)画像(unmixed image)」は、グレー値又はマルチチャネル画像の1つのチャネルのために得られたスカラー画像を含む。マルチチャネル画像を分解することによって、チャネル当たり1つの分解画像が得られる。
【0014】
[0012]本願明細書において理解される「カラーチャネル」は、画像センサのチャネルである。例えば、画像センサは、3つのカラーチャネル、例えば赤(R)、緑(G)及び青(B)を有することができる。
【0015】
[0013]本願明細書において理解される「ヒートマップ」は、マトリックスに含まれる個々の値が色として描写されるデータのグラフ図である。
[0014]本願明細書において理解される「閾値化」は、所定の閾値を適用すること、又は、局所最大値をソートし、ソートされたリストを提供し、ソートされたリストの上位から所定数の局所最大値を選択することを含む。
【0016】
[0015]本願明細書において理解される「空間ローパスフィルタ処理」は、画像ピクセルの近傍におけるローパスフィルタ処理動作、特に線形又は非線形動作を実行する空間フィルタを用いた空間フィルタ処理を含む。特に、空間ローパスフィルタ処理は、畳み込みフィルタを適用することによって実行されてもよい。空間フィルタ処理は、従来技術(Digital Image Processing(デジタルイメージプロセッシング)、第3版、Rafael C.、Gonzalez、Richard E.Woods、145ページ、第3.4.1章参照)から公知である。
【0017】
[0016]本願明細書において理解される「局所最大値フィルタ処理」は、ピクセルがサブ画像領域の最大値に等しい場合、ピクセルが局所最大値であると考えられるフィルタ処理動作を含む。局所最大値フィルタ処理は、いわゆる最大値フィルタを適用することによって実行可能である(Digital Image Processing(デジタルイメージプロセッシング)、第3版、Rafael C.、Gonzalez、Richard E.Woods、326ページ、第5章参照)。
【0018】
[0017]本願明細書において理解される「視野(FOV)」は、所定サイズ及び形状、例えば矩形の又は円形を有する画像部分を含む。
[0018]病理学者又は生物学者によってマルチチャネル画像の視野を手動でマークするという面倒な作業を回避し、それによって主観的な判断及び人為ミスも取り除くとともに、自動かつ信頼性が高い技術がマルチチャネル画像の視野を識別するために提供されるので、本発明の実施形態は特に有利である。空間ローパスフィルタ処理、局所最大値フィルタ処理及び閾値化動作は、高処理速度で実行可能なため、ユーザによって経験される計算労力及び待ち時間は、最小化可能である。これは、視野の定義が、マルチチャネル画像上で直接実行されるのではなく、高処理速度を可能にするフィルタ処理及び閾値化された画像に基づいて実行されるという事実に起因する。
【0019】
[0019]ステップfにおける分析が最大解像度のマルチチャネル画像において実行され、空間ローパスフィルタ処理された分解画像において実行されないという点に留意されたい。利用できる画像情報の全体が分析の実行に利用可能であり、フィルタ動作、すなわち、ステップb、c及びdは、全体分析が実行されることになっている関連した視野の識別のためだけに機能するということを、これは保証する。
【0020】
[0020]本発明の他の実施形態に従って、分解画像の1つは、上述したように視野を定めるために処理され、分解画像の別の1つは、組織領域の識別のためにセグメンテーションされる(segmented)。適切なセグメンテーション技術は、従来技術(Digital Image Processing(デジタルイメージプロセッシング)、第3版、Rafael C.、Gonzalez、Richard E.Woods、第10章、689ページ及びHandbook of Medical Imaging,Processing and Analysis(メディカルイメージング、プロセッシング及び分析のハンドブック)、Isaac N.Bankman、Academic Press、2000年、第2章参照)から、公知である。非組織領域は、分析のために関心がないので、非組織領域は、セグメンテーションによって取り除かれる。
【0021】
[0021]セグメンテーションは、これらの非組織領域が取り除かれるマスクを提供する。空間ローパスフィルタ処理又は局所最大値フィルタ処理又は閾値化動作の前又は後に、かつ、視野が定められる前又は後に、結果として生じる組織マスクは、分解画像に適用可能である。処理負荷をさらに低減するために、初期段階で、例えば空間ローパスフィルタ処理の実行前に組織マスクを適用する方が有利になりうる。
【0022】
[0022]本発明の一実施形態に従って、組織マスクを提供するためにセグメンテーションされる分解画像の別の1つは、請求項1のステップb−eに従って処理される分解画像によって表される染色に対する対比染色である1つの染色を表すチャネルから得られる。
【0023】
[0023]本発明の一実施形態に従って、視野は、分解画像の少なくとも2つのために定められる。2つの異なる分解画像において定められる視野は、同一又はほぼ同一の画像位置にある場合、マージ可能である。単一の視野が、共通の生物学的構造を識別する同一位置に配置された染色のために生ずるように、同一位置に配置可能な染色にとって、これは特に有利である。この種の視野をマージすることによって、処理負荷はさらに低減され、ステップfの分析はマージされた視野のための一度だけ実行されればよい。さらに、2つの関連する結果ではなく、1つの分析結果のみが示されるので、病理学者又は生物学者にとって認識負担も低減される。実施形態に応じて、2つの視野は、視野の空間的重なりの程度が重なり閾値を上回る場合、マージされてもよい。
【0024】
[0024]本発明の実施形態に従って、視野の分析は、考慮されている視野内のマルチチャネル画像に示される生物学的細胞の細胞計数によって実行される。細胞計数は、視野に適用される適切な画像分析技術を用いて実行可能である。特に、細胞計数は、画像分類技術によって実行可能である。
【0025】
[0025]本発明の他の実施形態に従って、視野の分析は、トレーニングされた畳み込みニューラルネットワークを用いて、例えば、視野又は視野から得られる画像パッチを畳み込みニューラルネットワークに入力し、それぞれ視野又は画像パッチ内の生物学的特徴の存在確率を決定することによって実行される。最初に視野内の関心位置を識別し、次にこの関心位置を含む画像パッチを抽出することによって、画像パッチは、畳み込みニューラルネットワークへの入力のための視野から抽出されてもよい。
【0026】
[0026]本発明の他の実施形態に従って、分析は、データ分析、例えばクラスタ分析又は統計分析として、ステップfにおいて視野に実行される。
[0027]本発明の他の態様に従って、複数の染色によって染色されている生物組織サンプルから取得されるマルチチャネル画像を分析するための画像処理システムは、本発明の方法を実行するように構成される。
【0027】
[0028]本開示は、スライド画像全体の各細胞マーカーの密度に基づいて、視野(FOV)の自動選択のためのシステム及び方法を提供する。本願明細書に記載されている動作は、分解された多重スライドから、又は、個別に染色されたスライドから個々のマーカーのための画像を読み取るステップと、個々のマーカー画像から組織領域マスクを計算するステップと、を含む。ローパスフィルタを個々のマーカー画像チャネルに適用し、各マーカーのための候補FOVとして上位Kの最高強度領域をヒートマップから選択することによって、各マーカーのヒートマップが決定されてもよい。個々のマーカー画像からの候補FOVは、一緒にマージされる。マージすることは、最初にすべての個々のマーカー画像を共通座標系にレジストレーションし、形態的動作によってマージすることによって、入力設定又は選択に基づいて、FOVのすべてを一緒に同一座標系に加えること又は選択されたマーカー画像からのFOVのみを加えることの一方又は両方を含んでもよい。その後、識別されたFOVのすべては、逆レジストレーション(inverse registration)を用いて、元の画像に戻され、対応するFOV画像を高解像度で得る。本発明をいかなる理論又は機構にも制限することを望まずに、本発明のシステム及び方法は、再現可能で、人間の読者によって偏らず、より効率的であるという利点を提供することができる。
【0028】
[0029]複数の低解像度の単一画像マーカースライドを用いたFOVの自動選択の本発明の方法は、FOV選択プロセスの信頼性及び効率を大きく改善する。視野の選択を自動化することによって、同一の方法は、個々の読者の主観性を低減して適用される。さらに、FOV選択を実行するための低解像度画像の使用は、計算効率をさらに改善し、分析者は、組織領域の分析へ迅速に進むことができる。いくつかの実施形態では、本開示は、より低解像度画像を使用し、FOVの計算を高速化する。画像が低解像度であるので、ヒートマップ及び組織領域マスクの計算は、コンピュータ的に非常に高速化される。これによって、FOVは、自動かつ高速に選択可能になり、組織サンプルの分析も高速化する。
【0029】
[0030]いくつかの実施形態では、本件開示は、スライド全体の自動分析の品質管理用システムを提供し、前記システムは、プロセッサ及びプロセッサに結合されたメモリを含み、前記メモリは、コンピュータ可読命令を格納し、前記コンピュータ可読命令は、前記プロセッサによって実行されるとき、前記プロセッサに、IHCスライドの画像の複数の候補視野(FOV)の一部をマージするステップと、複数の候補視野のマージされた部分を画像に表示するステップと、を含む動作を実行させる。
【0030】
[0031]他の実施形態では、本発明は、生物組織サンプルの画像内の構造の自動検出の品質管理用システムを特徴とする。画像収集システム、プロセッサ及びプロセッサに結合されたメモリがシステムに含まれてもよい。メモリは、コンピュータ可読命令を格納することができ、コンピュータ可読命令は、プロセッサによって実行されるとき、プロセッサに例えば、画像収集システムからカラー画像を受け取るステップと、カラー分解動作を前記画像に適用し、関心がある混合されたカラーチャネル内の単一カラー画像を生成するステップと、空間周波数フィルタを単一カラー画像に適用するステップと、局所最大値フィルタをフィルタ処理カラーチャネル画像に適用するステップと、局所最大値フィルタ画像を閾値化し、関心領域を含むバイナリ画像を生成するステップと、分離されたバイナリ領域を候補視野(FOV)として識別するステップと、のような動作を実行させる。
【0031】
[0032]いくつかの実施形態では、本開示は、プロセッサによって実行されるコンピュータ可読コードを格納する有形の非一時的コンピュータ可読媒体を提供し、プロセッサは、患者に関連付けられた複数の画像の各々から組織領域マスクを計算するステップと、組織領域マスクに基づき、複数の画像の各々のための複数の候補視野を備えるリストを生成するステップと、複数の候補視野(FOV)の一部をマージするステップと、複数の候補視野のマージされた部分を複数の画像の1つ又は複数に表示するステップと、を含む動作を実行する。
【0032】
[0033]いくつかの実施形態では、本開示は、プロセッサによって実行されるコンピュータ可読コードを格納する有形の非一時的コンピュータ可読媒体を提供し、プロセッサは、各フォルダが患者に関連付けられた複数のバイオマーカーに対応する複数の画像を含む、画像フォルダのリストをロードするステップと、画像内で識別されるバイオマーカーの各々のためのヒートマップを表示するステップと、ユーザが、画像又はヒートマップの少なくとも1つからFOVの数を選択するのを許可するステップと、を含む動作を実行する。
【0033】
[0034]他の実施形態では、本発明は、処理システムにより実行されるための、かつ、生物組織サンプル内の画像内の構造の自動検出のためのコンピュータ実行可能命令を有する有形の非一時的コンピュータ可読媒体を特徴とする。コンピュータ実行可能命令は、実行されるとき、処理システムに、画像収集システムからカラー画像を受け取るステップと、カラー分解動作を前記画像に適用し、関心がある混合されたカラーチャネル内の単一カラー画像を生成するステップと、空間周波数フィルタを単一カラー画像に適用するステップと、局所最大値フィルタをフィルタ処理カラーチャネル画像に適用するステップと、局所最大値フィルタ画像を閾値化し、関心領域を含むバイナリ画像を生成するステップと、分離されたバイナリの領域を候補視野(FOV)として識別するステップと、のような動作を実行させることができる。
【0034】
[0035]本開示の他の実施形態は、生物組織サンプルの画像内の構造の自動検出のための方法を特徴とする。方法は、画像システムによって実行されてもよく、コンピューティングデバイスによって可読な媒体に格納されてもよい。これらの方法は、プロセッサによって実行される論理命令を含んでもよく、プロセッサは、カラー画像を受け取るステップと、カラー分解動作を画像に適用し、単一カラー画像(スカラー値又はグレースケール像とも称される)を生成するステップと、関心がある構造特徴に対応する空間的周波数が高められ、他のすべての空間的周波数が減少するように、空間周波数フィルタを単一カラー画像に適用するステップと、局所最大値フィルタのカーネルが単一カラー画像に適用される空間フィルタリングによって高められる特徴の空間範囲のオーダの空間範囲を有するように、局所最大値フィルタをフィルタ処理カラーチャネル画像に適用するステップと、局所最大値フィルタ画像を閾値化し、関心領域を含むバイナリ画像を生成するステップと、分離されたバイナリの領域を候補視野(FOV)として識別するステップと、のような動作を実行する。いくつかの実施形態では、バイナリ画像は、画像内の複数の局所最大を識別し、識別された局所最大に基づいて、複数の候補FOVをさらに識別してもよい。他の実施態様では、複数の候補FOVは、画像内の他の強度値に対する強度値に関連付けられる。
【0035】
[0036]さらに他の実施形態では、動作は、複数の候補FOVを昇順又は降順でランク付けするステップと、所定数の複数の候補FOVを受け取り、出力するステップと、所定数のFOVを最高強度領域から選択するステップと、をさらに含んでもよい。
【0036】
[0037]さらに、本発明は、高速に有意な診断指標を収集するのに驚くほど効果的であり、診断作業者は、診断による重要領域の予め選択された収集を高速に調べることができる。本発明をいかなる特定の動作又は機構にも制限せずに、局所最大値フィルタをフィルタ処理カラーチャネル画像に適用するステップの前の、空間的周波数フィルタ、例えばガウスフィルタ又は局所平均フィルタを単一カラー画像に適用するステップ(関心がある構造特徴に対応する空間的周波数は高められ、他のすべての空間的周波数は減少する)は、有意な診断指標のこの迅速な収集を可能にする。組織学スライドにおける有意な診断指標のコンピュータ実装収集に関する従来技術は、これらのステップを有さない。
【0037】
[0038]組織スライド画像は、多くの特徴を含み、そのうちの少数のみが、任意の特定の研究に関心がある。それらの関心領域は、選択的な染色取り込みによってもたらされる特定色を有することができる。それらは、広い空間範囲を有してもよい。重要なことに、非関心領域は、空間周波数フィルタリングを用いて、画像から除去することができるいくつかの特定の空間的周波数を有してもよい。この種のフィルタは、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ及びバンドパスフィルタを含むが、これらに限定されるものではない。より慎重に調整された空間周波数フィルタは、整合フィルタとして公知のフィルタでもよい。空間周波数フィルタの非限定的な例は、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、マルチバンドパスフィルタ及び整合フィルタを含むが、これらに限定されるものではない。この種のフィルタは、静的に定められてもよいし、適応的に生成されてもよい。
【0038】
[0039]それゆえ、関心領域を位置決めするプロセスにおいて、分解プロセスによって最初に、画像の主要なカラーチャネル、R、G及びBに適用される線形演算として見られることができる適当な色を選択することは、有用である。空間周波数フィルタリングは、画像内の関心特徴を優先するためにもまた適用される。これらの動作は、両方とも線形演算であるので、いずれの順序で適用されてもよい。
【0039】
[0040]この領域選択と並行して、例えば、組織が存在するスライド画像の総領域のみを選択し、空の領域を排除するように、完全に異なって調整された空間周波数フィルタを用いて形成されるより幅広いセグメンテーションマスクが、存在してもよい。それゆえ、複数の異なる空間周波数フィルタは、同一の組織スライド画像に適用されてもよい。
【0040】
[0041]いったんフィルタ処理されると、関心領域は、局所最大値フィルタ、結果の各ピクセルに、最大フィルタのカーネルの下にあるソース画像から最大ピクセル値の値を保持させることによって、画像を生成する一種の形態学的な非線形フィルタを適用することによって位置決めされてもよい。カーネルは、任意の形状及びサイズの幾何学的なマスクであるが、この目的のために、関心特徴のオーダの寸法を有するように構成される。局所最大値フィルタからの出力画像は、カーネルのように形成される島を有し、その領域内の最大ピクセル値に等しい一定値を有する傾向がある。
【0041】
[0042]いくつかの実施形態では、局所最大値フィルタ画像の現在の構造を用いて、1のバイナリマスク値を、閾値を上回る対応するフィルタ画像ピクセルに割り当て、0の値を、閾値を下回る対応するフィルタ画像ピクセルに割り当てることによって、閾値は、フィルタ画像をバイナリマスクに変換するために適用されてもよい。結果は、領域としてラベル付け可能であり、計測可能な空間範囲を有する1の塊である。ともに、これらの領域ラベル、位置及び空間範囲は、関心領域(ROI)又は視野(FOV)の記録を提供する。