(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶接工程では、前記鉄心片以外の磁性部材を外部から供給し、シールドガスで前記磁性部材を覆いながら前記磁性部材を溶融させて前記溶接ビードを形成することを特徴とする請求項1記載の積層鉄心の製造方法。
前記溶接工程後に、前記カバー部材の表面に気体を吹き付け、当該カバー部材を冷却および清掃する冷却清掃工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の積層鉄心の製造方法。
前記カバー部材は、前記溶接溝に接する先端部が当該溶接溝の形状に対応した形状に形成されており、前記溶接溝の幅方向において少なくとも一部が当該溶接溝に面接触した状態で取り付けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の積層鉄心の製造方法。
前記カバー部材は、溶接が開始される側の端部に前記溶接部位からの距離が広がった逃げ部を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の積層鉄心の製造方法。
前記カバー部材は、銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料、あるいは、各材料の組み合わせにより形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の積層鉄心の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において実質的に共通する部位には同一の符号を付して説明する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について
図1から
図9を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における積層鉄心としての固定子鉄心1(
図9参照)の製造工程の流れの概略を示している。固定子鉄心1の製造工程では、まず鉄心片2(
図3参照)の打ち抜きが行われる(S1)。このS1の工程は、打ち抜き工程に相当する。
【0008】
打ち抜き工程では、周知のように、薄い帯状の電磁鋼板を図示しないプレス機により環状に打ち抜くこと等によって鉄心片2を形成する。このとき、電磁鋼板は、例えばシリコン含有量が比較的高く、高周波特性を改善するために板厚が比較的薄く形成されているもの等を採用することができる。また、電磁鋼板は、周知のようにその表面が絶縁皮膜によって覆われている。
【0009】
図2は、プレス機によって打ち抜かれた鉄心片2の形状の一態様を模式的に示している。本実施形態の場合、鉄心片2は、概ね円環状且つ薄板状に形成され、その外周側に、固定子鉄心1を固定するための貫通孔3aを有する複数の固定部3と、後述する溶接溝10(
図4参照)を形成する複数の溶接部4とが形成されている。本実施形態では、固定部3は、鉄心片2の周方向に均等な位置に3箇所、溶接部4は、鉄心片2の周方向に均等な位置に6箇所設けられている。
【0010】
また、鉄心片2は、その内周側に、図示しない回転子を収容するための中空部5と、中空部5側に開口し、図示しない巻線を収容するための複数のスロット6とが形成されている。なお、溶接部4の数や位置、固定部3の数や位置あるいは形状、およびスロット6の数や位置あるいは形状は、一例であり、本実施形態で例示したものに限定されない。
【0011】
溶接部4は、
図3に示すように、2つの凹部7と、それら凹部7に挟まれた1つの凸部8とを有する概ねω字状に形成されている。以下、周方向における溶接部4の幅をW1、各凹部7の幅をW2、凸部8の幅をW3とする。この凸部8は、その先端側つまりは鉄心片2の径方向における外周の部位が概ね平坦に形成されている。また、凸部8は、後述するように溶接ビード40(
図8参照)が形成される部位であり、本実施形態における溶接部位に相当する。
【0012】
この凸部8の平坦な部位は、破線にて示す鉄心片2の仮想的な外周線(CL1)よりも径方向において所定距離(L1)だけ内側に位置するように形成されている。この所定距離(L1)は、後述する溶接ビード40が形成された際に溶接ビード40が外周線(CL1)よりも内側に位置する距離に設定されている。また、凸部8とそれぞれの凹部7との間、および、凹部7と鉄心片2の外周との間は、曲線状に滑らかに接続されている。
【0013】
打ち抜き工程の後、鉄心片2は、板厚方向に複数枚が積層される(S2)。このS2の工程は、積層工程に相当する。積層工程では、本実施形態の場合、所定枚数の鉄心片2を溶接部4および固定部3の位置を合わせたブロック(2A〜2C)単位で積層した後、プレス機による打ち抜き位置が同じ固定部3が積層方向に重ならない状態で、また、各溶接部4の積層方向における位置が合う状態で、ブロック(2A〜2C)を周方向に相対的にずらして積層するいわゆる回し積みが行われる。以下、鉄心片2を積層したものを、便宜的に積層体9と称する。
【0014】
これにより、帯状の電磁鋼板においてその板厚が幅方向は長手方向にばらつきがあったとしても、回し積みすることによりそのばらつきが吸収され、積層体9の厚み(以下、積層高さとも称する)や周方向における重量バランスを概ね均等にすることができる。なお、図示は省略するが、鉄心片2を積層した際には、打ち抜き時に生じる可能性のあるバリを取るため、あるいは、積層高さの寸法を規定するための加圧工程等も行われる。
【0015】
この積層体9には、概ね円筒状に形成されるとともに、上記したように溶接部4の位置を合わせて積層したことによって、その外周面に2つの凹部7と1つの凸部8とを有する溶接溝10が積層方向に延びて形成されている。また、積層体9の内周面には、積層方向に貫通する中空部5と、積層方向に延びているスロット6とが形成されている。
【0016】
このように形成された積層体9は、一般的に、溶接やカシメ等によって固定される。本実施形態の場合、積層体9を、鉄心片2以外の溶接部4材を供給しながら溶接するいわゆるMAG(Metal Active Gas)溶接により溶接することを想定している。
【0017】
ところで、溶接中には、飛散したスラグや金属粒等のスパッタが発生することがある。そして、飛散したスパッタが積層体9に付着すると、後工程となる巻線工程やワニス含浸工程において異物として混入するおそれがあるため、溶接工程後には付着したスパッタを除去する作業が必要になる。
【0018】
また、付着したスパッタは、その大きさにもよるものの、概ね0.5mm以上の場合には積層体9に強固に固着してしまうことから、スパッタを取り除くために多大な労力が必要になることもある。このとき、本実施形態で採用するMAG溶接は、固定子鉄心1を製造する際に一般的に利用されてきたTIG溶接に比べると、スパッタが発生し易くなる。
【0019】
そのため、本実施形態では、溶接工程を行う前に、積層体9へのスパッタの付着を防止するためのカバー部材20(
図5参照)を溶接溝10に取り付けている(S3)。このS3の工程は、取り付け工程に相当する。
【0020】
まず、積層体9は、溶接時には溶接溝10が鉛直方向となるように配置される。そのため、以下では、溶接溝10の向きを上下と定義し、積層体9の側方から溶接溝10を見た場合において凸部8を基準として左右を定義する。具体的には、
図5は、溶接溝10が上下方向に配置されており、凸部8の左右に凹部7がそれぞれ位置している状態を示している。また、以下では、溶接溝10の上下方向の長さを全長とも称する。なお、溶接溝10の全長は、積層体9の積層高さと一致する。
【0021】
さて、本実施形態のカバー部材20は、凸部8の左側に位置する凹部7を覆う左カバー21と、凸部8の右方側の凹部7を覆う右カバー22とを有している。これら左カバー21および右カバー22は、銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料、あるいはそれらの組み合わせ等、積層体9に比べて熱伝導率が高い材料により形成されている。これら左カバー21および右カバー22は、溶接溝10に向かって付勢された状態あるいは溶接溝10を押圧する状態で取り付けられる。
【0022】
左カバー21および左カバー21は、溶接溝10の全長以上の長さに形成されて溶接溝10外に配置される保持部23と、保持部23の溶接溝10側の端部から溶接溝10内に向かって延びる接触部24とを有している。保持部23は、本実施形態では概ね平板状に形成されており、例えば図示しないロボットアーム等によって保持される。
【0023】
これにより、左カバー21および右カバー22は、溶接溝10に対して適切な位置で保持されて取り付けられる。つまり、左カバー21および右カバー22は、凸部8の左右側において、溶接溝10の内部から外部に渡って覆った状態になる。ここで、適切な位置とは、後述する接触面25(
図6参照)が凹部7の表面に密に接触した状態になることを意味している。
【0024】
なお、簡易的には、保持部23は、積層体9を上下から挟み込むように配置された上部抑え蓋や下部抑え蓋にボルト止めすること等により付勢あるいは押圧した状態とする構成を採用することもできる。また、カバー部材20は、必ずしも左カバー21および右カバー22のような別体に形成されたものである必要はなく、例えば枠状に形成されているものを用いることもできる。
【0025】
接触部24は、
図6に示すように、凹部7に接触する接触面25、接触面25の凸部8側の端部から概ね外側に向かって立ち上がっている壁部26、壁部26の図示上端部から溶接溝10外に向かって傾斜している傾斜面27等を有する立体的な形状に形成されている。これら接触面25、壁部26および傾斜面27は、溶接溝10のほぼ全長に対応して設けられている。
【0026】
接触面25は、凹部7つまりは溶接溝10の表面形状に対応した例えば曲面状に形状に形成されており、少なくとも一部が凹部7の幅方向において面接触する。本実施形態の場合、接触面25は、所定の接触幅(W4)の範囲で凹部7の表面と面接触する。このとき、接触幅(W4)は、凹部7の幅(W2)未満に設定されている。
【0027】
上記したようにカバー部材20は付勢あるいは押圧された状態で取り付けられているため、接触面25と凹部7とは密に接触する。そのため、凸部8側から凹部7側への物体の侵入、より厳密に言えば、接触面25と接触している範囲への物体の侵入が阻害されている。このため、もし溶接時にスパッタが生じたとしても、凹部7の表面へのスパッタの付着が防止される。つまり、カバー部材20は、凹部7へのスパッタの付着を防止する保護部材として機能する。
【0028】
壁部26は、溶接ビード40の幅を規制するものであり、凸部8から所定の離間幅(W5)だけ離間した位置から立ち上がっている。本実施形態では、離間幅(W5)は、それぞれ0.5〜1.0mm程度となるように設定されている。つまり、カバー部材20は、凹部7を凸部8側のごく近傍まで覆っている。これにより、溶接ビード40を形成した際に、溶接ビード40が凸部8から大きく外れた位置に形成されることを防止できる。
【0029】
また、壁部26は、凸部8から上端までの距離(L2)が、外周線(CL1)を超えない範囲に設定されている。このため、溶接ビード40が外周線を越えること、つまりは、積層体9の外径が大きくなることを抑制できる。この凸部8と壁部26との間の空間は、後述するシールドガス(G。
図8参照)の逃げ道としても機能する。
【0030】
傾斜面27は、壁部26の図示上端から概ね45度〜60度程度の角度で、凸部8から離間する向きに傾斜している。このため、左カバー21と右カバー22とを取り付けた状態において、互いの傾斜面27のなす角(α)は、概ね90度〜120度となる。これにより、溶接が行われている位置においては、溶接時に供給するシールドガス(G)を傾斜面27に沿って凸部8に向かうように案内することができる。
【0031】
また、凸部8と壁部26との間に空間を設けていることから、供給されたシールドガス(G)を凸部8の両側へ逃がすことが可能になるとともに、左カバー21と右カバー22との間の距離が壁部26の図示上端側から互いに広がっていることから、溶接が行われている位置以外においてはシールドガス(G)の拡散を促すことができ、壁部26間に余剰のシールドガス(G)が滞留することを抑制できる。
【0032】
また、接触部24には、傾斜面27を保持部23の表面まで仮想的に延長した仮想線(CL2)よりも外側に膨らむ表肉厚部20a、および、積層体9側において接触面25と保持部23の裏面側とを仮想的に繋ぐ仮想線(CL3)よりも外側に膨らむ裏肉厚部20bが形成されている。換言すると、接触部24には、単純な平板を曲げ加工したものに比べて厚みが増大している箇所が設けられている。これにより、接触部24の熱容量を大きくすることが可能となり、スパッタが付着した場合においてスパッタの冷却を促すことができる。
【0033】
また、左カバー21および右カバー22は、
図7に示すように、溶接溝10の上端側において、つまりは、溶接が開始される側の端部において、凸部8からの距離が広がった逃げ部28を有している。本実施形態では、左カバー21および右カバー22は、角部が斜めに切り取られたテーパー状の逃げ部28を有している。各逃げ部28のなす角(β)は、概ね5度〜10度に設定されている。
【0034】
溶接を開始する位置は、どうしても溶接ビード40の幅が大きくなり易く、カバー部材20を凸部8の近傍に配置していると、カバー部材20まで固着されてしまうおそれがある。そのため、溶接を開始する位置に対応させて逃げ部28を設けることにより、カバー部材20が固着されてしまうことを抑制できる。
【0035】
また、カバー部材20全体を凸部8から離間させてしまうと凹部7を十分に覆うことができなくなってしまうが、逃げ部28を端部に設けたことにより、カバー部材20が固着されることを防止しつつ、凹部7を十分に覆うことができるようになる。さらに、接触部24は、壁部26とは反対側の部位が積層体9の表面から若干浮いた状態なっており、カバー部材20を傾けるためのクリアランスが積層体9との間に確保されている。
【0036】
また、本実施形態では、取り付け工程において、積層体9の上下に部抑え蓋29を配置している。各抑え蓋29には、溶接溝10に対応する位置に、溶接溝10とほぼ同形状の仮溝29aが設けられている。この仮溝29aは、銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料あるいはそれらの組み合わせにより形成されている。このように抑え蓋29を設けることにより、積層体9の上面および下面へのスパッタの付着を抑制することができる。なお、抑え蓋29そのものを銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料あるいはそれらの組み合わせ等により形成してもよい。
【0037】
カバー部材20が取り付けられた後、
図1に示すように溶接が行われる(S4)。このS4の工程は、溶接工程に相当する。
溶接工程では、
図8に示すように、凸部8が露出した状態、且つ、カバー部材20によって凹部7が覆われた状態で、溶接トーチ30を用いて溶接つまりは溶接ビード40の形成が行われる。溶接トーチ30は、積層体9側が開口した有底円筒状の本体部31の中を、外部からワイヤ状に供給される電極材料である磁性部材32が貫通する構造となっている。この磁性部材32は、溶接に必要な量がその都度回転リール33によって供給される。
【0038】
また、溶接トーチ30は、図示しないガス供給部を有しており、本体部31内にシールドガス(G)が供給されるとともに、そのシールドガス(G)が、本体部31の開口から放出される。このシールドガス(G)は、炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されている。
【0039】
このため、磁性部材32は、その先端側つまりは積層体9側において、シールドガス(G)に包まれた状態で溶融して溶接ビード40を形成する。つまり、本実施形態の溶接ビード40は、鉄心片2以外の磁性部材32を含んで外部から供給される磁性部材32を主たる材料として形成される。より平易に言えば、本実施形態では、MAG溶接により溶接が行われている。なお、MAG溶接の代わりに、MIG(Metal Inert Gas)溶接を採用してもよい。
【0040】
これにより、従来の製造方法で一般的に採用されていたTIG(Tungsten Inert Gas)溶接に比べると、鉄心片2の溶融量が少なくなり、積層体9への入熱量も少なくなる。そのため、端面の波打ち変形による直角度の狂いや、回転子との間のギャップが不均衡になる可能性や、熱による影響による鉄損の悪化等を抑制することができる。
【0041】
また、溶接ビード40が鉄心片2の特性や材質に因らないため、例えば0.2mm以下の薄板材の鉄心片2の溶接にも対応することができ、鉄心片2の薄板状化による絶縁材料の増加による影響を受けにくいことから、溶接ビード40の強度の低下等を招くおそれが少なくなり、設計通りの強度を得ることができるようにもなる。
【0042】
また、溶接工程では、積層体9の外周の複数箇所に形成される溶接溝10に対して溶接が行われるが、その場合には、1つの溶接トーチ30を用いて各溶接溝10を順番に溶接を行うこともできるし、複数の溶接トーチ30を用いて複数の溶接溝10を同時に溶接することもできる。
【0043】
また、2つの溶接トーチ30を用いて2箇所の溶接溝10を同時に溶接することを3回繰り返すことで、全ての溶接溝10を溶接することもできる。これにより、1箇所ずつ溶接する場合に比べて溶接時間を大きく短縮することができ、作業効率を改善することができる。
【0044】
このとき、溶接溝10の凹部7は、上記したようにカバー部材20によって覆われている。そのため、カバー部材20によって覆われている部位には、スパッタが付着しない。一方、仮にカバー部材20にスパッタが付着しても、カバー部材20の熱伝導率が高いことから、付着したスパッタの冷却が促され、スパッタが固着することを抑制できる。
【0045】
溶接工程が終わると、
図1に示すように、カバー部材20が取り外される(S5)。このS5の工程は、取り外し工程に相当する。また、取り外し工程では、抑え蓋29も取り外される。
続いて、カバー部材20に気体、例えば空気や冷却ガスあるはシールドガス(G)等を吹き付け、カバー部材20の表面を冷却・清掃する(S6)。このS6の処理は、いわゆるエアブローを施す工程であり、冷却清掃工程に相当する。これにより、カバー部材20の表面へのスパッタ等の堆積を防止することができるとともに、カバー部材20が冷却され、次に溶接を行う際にスパッタ等が付着することを抑制することができる。
【0046】
なお、取り外し工程と冷却清掃工程とは、その順序を入れ替えてもよい。つまり、カバー部材20を取り付けている状態で冷却および清掃を行ってもよい。この場合、カバー部材20によって気体が溶接部位に向かって流れるため、溶接部位に気体が集中し、溶接部位の周囲を強力に清掃することができる。勿論、カバー部材20の表面も清掃することができる。また、複数回の溶接を行った後や1つの積層体に対する溶接が完了した後等に冷却清掃工程を行うようにすることもできる。
【0047】
続いて、未溶接部位がある場合には(S7:YES)、S3に移行して未溶接部位にカバー部材20を取り付け(S3)て溶接を行う(S4)。これにより、複数の溶接溝10の全てに対して溶接が施される。その後、固定子鉄心1は、例えば溶接時の煤や0.5mm未満の微小なスパッタをワイヤーブラシ等で除去する除去工程や巻線を巻装する巻装工程等の後工程に送られる。
このような製造方法により、固定子鉄心1が製造される。
【0048】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
実施形態の固定子鉄心1の製造方法は、2つの凹部7とそれら凹部7に挟まれた凸部8とを有する溶接部4が外周側の複数箇所に形成されている複数の鉄心片2を、溶接部4の位置を合わせて積層する積層工程と、積層された鉄心片2の外周面に溶接部4によって形成される溶接溝10に、溶接部位である凸部8を露出させつつ凹部7に接触して当該凹部7つまりは溶接部4の表面を覆うカバー部材20を取り付ける取り付け工程と、カバー部材20を取り付けた状態で凸部8に溶接ビード40を形成することにより鉄心片2を溶接する溶接工程と、を含む。
【0049】
溶接中には、飛散したスラグや金属粒等のスパッタが発生することがある。そして、飛散したスパッタが積層体9に付着すると、後工程となる巻線工程やワニス含浸工程において異物として混入するおそれがあるため、溶接工程後には付着したスパッタを除去する作業が必要になる。
【0050】
また、付着したスパッタは、その大きさにもよるものの、概ね0.5mm以上の場合には積層体9に強固に固着してしまうことから、ワイヤーブラシ等による手作業では取り除くことが困難になり、多大な労力が必要になることもある。また、本実施形態で採用したMAG溶接は、固定子鉄心1を製造する際に一般的に利用されてきたTIG溶接に比べると、スパッタが発生し易くなる。
【0051】
そこで、溶接工程の前に、凸部8を露出させつつ凹部7を覆うカバー部材20を溶接溝10に取り付ける。これにより、凹部7を含む溶接溝10の周辺、つまりは、溶接時にスパッタが飛散する範囲がカバー部材20によって覆われ、積層体9つまりは固定子鉄心1へのスパッタの付着を抑制することができる。
【0052】
また、実施形態の固定子鉄心1の製造方法は、溶接工程において、積層体9の外周面に積層方向に延びて形成される溶接溝10に、鉄心片2以外の磁性部材32を供給しつつ、シールドガス(G)で磁性部材32を覆いながら溶接ビード40を形成する。これにより、電極部材となる磁性部材32が溶融することから、鉄心片2の溶融量は相対的に少なくなる。その結果、鉄心片2への入熱量が少なくなり、熱変形による鉄心の変形も相対的に少なくなる。
【0053】
また、入熱量が少なくなることから、固定子鉄心1の端面の波打ち変形による直角度の狂いや、回転子との間のギャップが不均衡になる可能性や、熱による影響による鉄損の悪化等を少なくすることができる。したがって、鉄損の増加を抑制することができる。
【0054】
また、溶接ビード40が鉄心片2の性質や材質に因らないため、例えば0.2mm以下の薄板材の鉄心片2の溶接にも対応することができる。これにより、溶接ビード40中に言わば不純物となる絶縁材料の混入が少なくなり、溶接ビード40の強度の低下等を招くおそれが少なくなり、設計通りの強度を得ることができるようになる。
【0055】
また、実施形態の固定子鉄心1の製造方法は、溶接工程後にカバー部材20を溶接溝10から取り外す取り外し工程を含む。これにより、それ以降の後工程においては、従来の製造方法と変わらない態様での取り扱いが可能となる。
【0056】
このとき、カバー部材20は、接触面25、つまりは、溶接溝10に接する側の先端部が凹部7つまりは溶接溝10表面の形状に対応した形状に形成されており、凹部7の幅方向において少なくとも一部が当該凹部7に面接触した状態で取り付けられる。これにより、溶接時にスパッタが凹部7に付着することをより一層抑制することができる。
【0057】
また、カバー部材20の表面を冷却・清掃する冷却清掃工程を含んでいる。これにより、カバー部材20の表面へのスパッタ等の堆積を防止することができるとともに、カバー部材20が冷却され、次に溶接を行う際にスパッタ等が付着することを抑制することができる。
【0058】
また、カバー部材20は、凸部8に向かって傾斜する傾斜面27を有する。これにより、溶接が行われている位置においてはシールドガス(G)を傾斜面27に沿って凸部8に向かうように案内することができるとともに、溶接が行われている位置以外においては、シールドガス(G)の拡散を促すことができる。したがって、余剰のシールドガス(G)が滞留してしまうことを抑制できる。
【0059】
また、カバー部材20は、溶接が開始される側の端部に凸部8からの距離が広がった逃げ部28を有する。上記したように溶接を開始する位置はどうしても溶接ビード40の幅が大きくなり易いが、その位置に対応して逃げ部28を設けることにより、カバー部材20そのものが誤って固着されてしまうことを抑制できる。また、逃げ部28を端部に設けたことにより、カバー部材20が固着されることを防止しつつも、凹部7を十分に覆うことができる。
【0060】
また、カバー部材20は、銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、またはクロームメッキ材料あるいはそれらの各材料の組み合わせにより形成されている。銅材料は熱伝導率が鉄材料に比べると大きいため、カバー部材20にスパッタが付着してもスパッタの冷却を促すことができる。特に、概ね0.2〜0.5mm未満のスパッタはワイヤーブラシ等により容易に除去できるため、0.5mmのスパッタは強固に固着してしまうことから、大きなスパッタを迅速に冷やすことができる銅材料を用いるメリットが大きくなる。
【0061】
カバー部材20は、左カバー21と右カバー22とで構成している。これにより、各カバー間の距離の調整を容易に行うことが可能となるとともに、溶接溝10に対する取り付け角度の調整も可能となる。したがって、様々な大きさや形状の溶接溝10に対応することが可能となる。
【0062】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、
図10を参照しながら説明する。第2実施形態は、主として溶接部4の形状が第1実施形態と異なっている。
図10に示すように、本実施形態の溶接部4は、鉄心片2の外周に、1つの凹部50により、当該鉄心片2の径方向内側に窪んだ形状に形成されている。このとき、凹部50は、鉄心片2の外縁に対して、外縁に繋がる傾斜部分のなす角(γ)が概ね90度に形成されている。なお、凹部50の形状は一例である。
【0063】
また、凹部50は、その深さつまりは仮想線(CL1)との間の距離(L10)が、溶接ビード40を形成できる程度、例えば第1実施形態の凸部8と外周線(CL1)との間の所定距離(L1)と同程度に形成されている。また、凹部50の幅(W10)は、カバー部材20で覆った際に溶接ビード40(
図8等参照)を形成できる程度の幅に形成されている。なお、本実施形態ではカバー部材20の壁部26の高さ(L11)を溶接部4の深さ(L10)よりも低くしているが、溶接部4の深さよりも高いものであってもよい。
【0064】
第1実施形態で例示した溶接部4は、従来からよく用いられている形状であり、溶接時におけるシールドガスの逃げ道を確保するために、比較的深い凹部7が設けられている。一方、本実施形態の溶接部4は、その表面をカバー部材20により覆うため、シールドガスの逃げ道を形成する必要はなく、凹部50の深さおよび幅を小さくすることができる。
【0065】
このため、本実施形態の場合、積層体9の直径が同じであれば、第1実施形態の溶接部4を形成する場合に比べて溶接溝10の深さが浅くなる。換言すると、磁性鋼板の量が多くなる。その結果、外形寸法が同じものであれば、鉄心密度が向上し、固定子鉄心1つまりは回転電機の特性を向上させることができる。
【0066】
このような形状の溶接部4においても、カバー部材20つまりは、左カバー21と右カバー22とにより、溶接部位つまりは凹部50の概ね中央部分を露出した状態で溶接部4つまりは溶接溝10の表面を覆って溶接を施すことにより、第1実施形態と同様に、溶接部位以外へのスパッタの付着を防止することができる等の効果を得ることができる。
また、1つの凹部50により溶接部4を形成することにより、鉄心密度を向上させ、回転電機の特性を向上させることができる。
【0067】
(その他の実施形態)
実施形態では積層鉄心として固定子鉄心1を例示したが、鉄心片2を積層したものであれば例えば回転子鉄心等の他の積層鉄心にも本発明を適用することができる。また、積層鉄心は、回転電機用および発電機用のものを対象とすることができる。また、実施形態で例示した形状以外の形状の鉄心片も対象とすることができる。
【0068】
実施形態では積層体9を上下から抑え蓋29により挟む構成を例示したが、必ずしも抑え蓋29を設ける必要は無い。
実施形態ではテーパー状の逃げ部28を例示したが、逃げ部28の形状は、矩形や円形あるが楕円形等、他の形状とすることができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。