特許第6763814号(P6763814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763814
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20200917BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20200917BHJP
【FI】
   A63B53/04 A
   A63B102:32
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-67874(P2017-67874)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-166916(P2018-166916A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】今井 資人
【審査官】 宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−007484(JP,A)
【文献】 特表2014−532469(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0346647(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0132355(US,A1)
【文献】 特開2006−075594(JP,A)
【文献】 実開平04−099967(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00 − 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソール部、クラウン部、フェース部、及び、バック部を構成する外殻体を備えたヘッド本体を有するゴルフクラブヘッドであって、
前記クラウン部は、前記フェース部と前記バック部との間に最頂部を有する湾曲面を備え、
前記湾曲面には、前記最頂部よりも前記バック部側のみに位置して、ダウンスイングからインパクトにかけて前記湾曲面に沿って流れる空気流を整流するための突起状のタービュレータが配設され、前記タービュレータは、該タービュレータが設けられていない状態で前記空気流が前記ヘッド本体の表面から剥離する剥離部が生じ得るクラウン部の部位のフェース部側に位置されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記ヘッド本体がトウ側及びヒール側を有するサイド部を更に備え、
前記タービュレータは、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向に略直線状の配列を成して複数設けられることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記ヘッド本体がトウ側及びヒール側を有するサイド部を更に備え、
前記タービュレータは、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向に前記バック部の輪郭にほぼ沿う配列を成して複数設けられることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
トウ側の前記タービュレータは、トウ側に近いほど前記最頂部側に配置され、ヒール側の前記タービュレータは、ヒール側に近いほど前記最頂側に配置されることを特徴とする請求項3に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記各タービュレータは、前記フェース部側から前記バック部側へ向けて延びることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
トウ側の前記各タービュレータは、前記トウ側に近いほどそのヒール側で隣り合うタービュレータからトウ側へ離れるようにフェース部側からバック部側へ向けて斜めに延び、ヒール側の前記各タービュレータは、前記ヒール側に近いほどそのトウ側で隣り合うタービュレータからヒール側へ離れるようにフェース部側からバック部側へ向けて斜めに延びることを特徴とする請求項5に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ウッド型のゴルフクラブヘッド(ドライバークラブ)では、その大型化に伴ってスイング時の空気抵抗の影響が大きくなる。すなわち、ダウンスイングからインパクトにかけて、打撃フェース部からヘッド表面に沿って空気流が発生するが、ヘッド後方でヘッド表面から空気流層が剥離する剥離現象が生じることにより、空気流層とヘッド表面との間に空間が形成され、この空間で空気流が渦を巻く乱流が起こるようになる。そのような乱流は、ヘッドに作用する空気抵抗を大きくし、その結果、ヘッドスピードが落ちて、打球の飛距離が低下する。
【0003】
そのため、従来から、ヘッドに作用する空気抵抗を減らすための様々な工夫がなされている。例えば、特許文献1では、フェース部を除くヘッド外表面の全面にディンプル(凹部)を設けて空気抵抗を減らすようにしている。また、クラウン部のフェース部側前方に凸部を設けて空気抵抗を減らすようにした構造も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−259089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヘッド外表面にディンプル(凹部)を設けただけでは、ヘッドに作用する空気抵抗を十分に抑制又は軽減できるとは言い難く、ヘッドスピードの向上にも限界がある。また、クラウン部に凸部を設けて空気抵抗を減らす構造においても、乱流が生じるヘッド後方ではなくフェース部側前方で凸部により空気流を整流するにすぎないため、空気抵抗の低減に限界がある。
【0006】
また、前述した従来技術のようにクラウン部の全面にディンプル等を設けると、製造工程が複雑化し、生産性が低下するとともに、製造不良も生じ易くなる。更に、前述した従来技術のようにフェース部の近傍に凹凸が存在すると、スイング時及び打球時の視認性にも悪影響を与える場合がある。
【0007】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、ダウンスイングからインパクトにかけて空気流の乱流を効率的かつ効果的に抑制して従来よりも空気抵抗を大幅に低減できるとともに、製造工程を簡略化でき、スイング時及び打球時の視認性に悪影響を与えないゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明は、ソール部、クラウン部、フェース部、及び、バック部を構成する外殻体を備えたヘッド本体を有するゴルフクラブヘッドであって、前記クラウン部は、前記フェース部と前記バック部との間に最頂部を有する湾曲面を備え、前記湾曲面には、前記最頂部よりも前記バック部側のみに位置して、ダウンスイングからインパクトにかけて前記湾曲面に沿って流れる空気流を整流するための突起状のタービュレータが配設され、前記タービュレータは、該タービュレータが設けられていない状態で前記空気流が前記ヘッド本体の表面から剥離する剥離部が生じ得るクラウン部の部位のフェース部側に位置されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、クラウン部の湾曲面の最頂部よりもバック部側のみに特化して、クラウン部の湾曲面に沿って流れる空気流を整流するための突起状のタービュレータが配設されているため、ダウンスイングからインパクトにかけて、特にダウンスイングからインパクトへの移行時からインパクトし終わるスイング段階(以下、本明細書中では、「インパクト付近の領域」又は「インパクト前後」とも称する)で、ヘッド本体の前方で圧縮された空気をタービュレータによって効率的かつ効果的に真っ直ぐに流れるように案内(整流)することができ(空気流を拡散させることなく効率的かつ効果的に乱流を抑制でき)、言い換えると、ヘッド本体に沿って流れる空気流層がヘッド本体表面から剥離する(空気流が拡散されて乱流を生じる)であろう剥離部を従来よりもバック部側へ移行させ或いは究極的には剥離部をほぼ生じさせないようにすることができ、それにより、従来(ディンプルなど)と比べて空気抵抗を大幅に低減することができる。その結果、ヘッドスピードを上げることができ、打球の飛距離を伸ばすことができる。
【0010】
また、上記構成によれば、前述した従来技術のようにクラウン部の全面に凹凸部を設けることなく、クラウン部の最頂部よりもバック部側のみに凸状のタービュレータを設けるため、製造工程が複雑化せず、したがって、生産性が向上して、歩留まりを上げることができる。更に、上記構成では、フェース部の近傍に凹凸が設けられていないため、スイング時及び打球時の視認性も良好である。
【0011】
なお、上記構成において、「最頂部」とは、ゴルフクラブヘッドをそのソール部を接地させて規定のライ角にセットした状態の断面形状において接地面から最も高い位置にあるクラウン部の部位を意味する。また、そのような最頂部は、ヘッド本体の形状に応じて、フェース・バック方向に沿うヘッド本体の断面で見た場合、必ずしもトウ・ヒール方向の任意の位置で一致するとは限らないため、上記構成の「最頂部よりもバック部側」とは、トウ・ヒール方向の任意の位置でヘッド本体をフェース・バック方向に沿う断面で見た場合に、ライ角セット時の接地面から最も高い位置にあるクラウン部の部位よりもバック部側に位置する領域を意味するものとする。特に、この場合、「最頂部よりもバック部側のみに位置してタービュレータが配設される」という要件は、少なくともインパクトエリア内で満たされていればよい。ここで、インパクトエリアとは、例えばフェースセンターを中心にトウ側及びヒール側にそれぞれ1.68インチ(約22mm)の幅寸法にわたって広がる打球領域のことである。
【0012】
また、上記構成において、タービュレータの形状、数、位置、配列形態、間隔等は任意に設定できるが、特に乱流を効率的かつ効果的に抑制するように整流するために、タービュレータは、空気流層の前記剥離部を極力バック部側へ移行させるような位置、例えばタービュレータが設けられていない状態で剥離部が生じ得るクラウン部位の付近、特にその部位の前方側(フェース部側)に位置される。この場合、タービュレータは、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向に略直線状の配列を成して複数設けられてもよい。このようにすると、空気流の速度変化をトウ側〜ヒール側で少なくすることができる。また、タービュレータは、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向にバック部の輪郭にほぼ沿う配列を成して複数設けられてもよい。そのようにすると、トウ側及びヒール側部分の空気流層が早めに剥離し易い部位をよりバック側へ移行させることができる。
【0013】
また、トウ側のタービュレータは、トウ側に近いほど最頂部側に配置され、ヒール側の前記タービュレータは、ヒール側に近いほど最頂側に配置されることが好ましい。このようにすると、ウッドヘッド形状の特徴(クラウン中央付近が最も高い)によりヘッド本体のクラウンのトウ・ヒール側から空気流の剥離が始まって剥離された空気流がヘッド中央側へ流れ込むが、それを効率良く防止することができる。更に、トウ側の各タービュレータは、トウ側に近いほどそのヒール側で隣り合うタービュレータからトウ側へ離れるようにフェース部側からバック部側へ向けて斜めに延び、ヒール側の各タービュレータは、ヒール側に近いほどそのトウ側で隣り合うタービュレータからヒール側へ離れるようにフェース部側からバック部側へ向けて斜めに延びることが好ましい。このようにすると、少ない数のタービュレータにより乱流を効果的に抑制できるだけでなく、トウ-ヒール側の空気流が中央バックサイド側に湾曲して流れようとすることを防止し、フェース-バック方向に直線的に流れ易くすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダウンスイングからインパクトにかけて空気流の乱流を効率的かつ効果的に抑制して従来よりも空気抵抗を大幅に低減できるとともに、製造工程を簡略化でき、スイング時及び打球時の視認性に悪影響を与えないゴルフクラブヘッドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、タービュレータを有さない従来のゴルフクラブヘッドにおいてダウンスイングからインパクトにかけて生じる空気流層の剥離を示す横断面図、(b)は、タービュレータを有する本発明のゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた空気の流れを示す横断面図である。
図2】(a)は図1のゴルフクラブヘッドの平面図、(b)はヒール側から見た図1のゴルフクラブヘッドの側面図である。
図3】ゴルフクラブヘッドのクラウン部の湾曲面上に設けられるタービュレータの断面図である。
図4】(a)は本発明の第2の実施形態に係るゴルフクラブヘッドの平面図、(b)はヒール側から見た(a)のゴルフクラブヘッドの側面図である。
図5】(a)は本発明の第3の実施形態に係るゴルフクラブヘッドの平面図、(b)はヒール側から見た(a)のゴルフクラブヘッドの側面図である。
図6】(a)は本発明の第4の実施形態に係るゴルフクラブヘッドの平面図、(b)はヒール側から見た(a)のゴルフクラブヘッドの側面図である。
図7】(a)は本発明の第5の実施形態に係るゴルフクラブヘッドの平面図、(b)はヒール側から見た(a)のゴルフクラブヘッドの側面図である。
図8】(a)は、タービュレータを有さない従来のゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果を示す図、(b)は、クラウン部の湾曲面の最頂部よりもバック部側のみに特化してタービュレータを設けた本発明のゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果を示す図、(c)は、フェース部側にタービュレータを設けた比較例に係るゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(b)、図2、及び、図3には本発明の第1の実施形態に係るゴルフクラブヘッド1が示されている。図示のように、本実施形態に係るゴルフクラブヘッド1は、ウッド型の中空ゴルフクラブヘッドとして形成されており、ソール部5、クラウン部3、フェース部2、及び、バック部6を構成する外殻体を備えたヘッド本体1Aを有する。
【0017】
具体的に、ヘッド本体1Aは、打球面(フェース面)を有するフェース部2と、フェース部2の上縁から後方に延出するクラウン部3と、フェース部2の下縁から後方に延出するソール部5と、フェース部2と対向するバック部6と、フェース部2からバック部6を経由するトウ部(トウ側)8及びヒール部(ヒール側)9とを備える。なお、バック部6、トウ部8、ヒール部9は、クラウン部3及びソール部5の縁部を繋ぐことから、これらをサイド部7とも称する。
【0018】
フェース部2、クラウン部3、ソール部5、及び、バック部6(サイド部7)は、鋳造や鍛造等によって形成された複数の外殻体によって構成されてもよいが、本実施形態では、クラウン部3、ソール部5、バック部6(サイド部7)が鋳造により一体に成形され、この一体成形品に対してフェース部2がレーザ溶接、プラズマ溶接、ろう付け、接着等によって接合される。
【0019】
無論、ヘッド本体1Aは、このような構成に限定されず、任意の構造形態を採用できる。例えば、サイド部7は、クラウン部3やソール部5との間で稜線によって区画されて個別の外殻体で構成されていてもよく、ソール部5と一体化されて面一状に構成されてもよい。
【0020】
また、クラウン部3には、ヒール部9側に、図示しない円筒状のホーゼルが一体的に設けられる開口13が形成されており、前記ホーゼルにシャフト(図示せず)が取着されることによりウッド型のゴルフクラブが構築される。
【0021】
本実施形態において、フェース部2を除くヘッド本体1A(クラウン部3、ソール部5、及び、バック部6(サイド部7)を有する一体成形品)は、軽比重のチタン合金、例えば低弾性率のβ型チタン合金(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al,Ti-15Mo-5Zr-3Al,Ti-15Mo-5Zr-4Al-4V,Ti-15Mo-3Al,Ti-13V-9.5Cr-3Al,Ti-15V-6Cr-4Al等)、或いは、それよりも高弾性率のα+β型チタン合金(Ti-6Al-4V,Ti-5Al-1Fe,Ti-4.5Al-3V-2Fe-2Mo,Ti-8Al-1Mo-1V,Ti-5.5Al-1Fe,Ti-3Al-2.5V等)をプレス加工、CNC加工、或いは、鋳造等することによって形成することが可能である。
【0022】
また、フェース部2も同種の金属材料(チタン系の合金)によって形成され、好ましくは、チタン系の合金でも低弾性率のチタン合金(例えば上記したβ型チタン合金)によって形成される。すなわち、フェース部2に低弾性率の金属材料を用いることで、打球した際の撓み性(反発性)が向上し、飛距離を伸ばすことが可能となる。なお、フェース部2は、板状の部材(外殻体)として構成されており、クラウン部3、ソール部5、及び、バック部6(サイド部7)を有する一体成形品の前方に形成される開口にこれを塞ぐように溶接等によって接合される。勿論、フェース部2に関しては、打球面を板状に構成しておき、これをフェース部2に形成された開口に止着しても構わない。
【0023】
また、ヘッド本体1Aの材料については、小さい容量のヘッド(ユーティリティヘッド)の場合は、フェース部2も含めてステンレス系合金を用いてもよい。
【0024】
ここで、本実施形態のゴルフクラブヘッド1は、その特徴的な構成要素として、ダウンスイングからインパクトにかけて打撃フェース部2からヘッド本体1Aの表面に沿って生じる空気流の乱流を効率的かつ効果的に抑制して従来よりも空気抵抗を大幅に低減できるようにする突起状のタービュレータ30を備えている。
【0025】
具体的に、本実施形態において、フェース部2とバック部6との間に最頂部Xを有するクラウン部3の湾曲面28には、最頂部Xよりもバック部6側のみに位置して、ダウンスイングからインパクトにかけて、特にインパクト付近の領域又はインパクト前後で湾曲面28に沿って流れる空気流F(図1に矢印で示される)を整流するための突起状のタービュレータ30が配設されている。特に、本実施形態では、図2の(a)に示されるように、複数のタービュレータ30が所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向に略直線状の配列を成して(例えば、フェース部2と略平行に)複数設けられる。このようなタービュレータ30は、ヘッド本体1Aの前方で圧縮された空気を効率的かつ効果的に真っ直ぐに流れるように案内(整流)することができる(空気流を拡散させることなく効率的かつ効果的に乱流を抑制できる)。言い換えると、タービュレータ30は、タービュレータ30を有さない従来のゴルフクラブヘッドにおいてダウンスイングからインパクトにかけて生じる空気流F層の剥離部Pを示す図1の(a)と比較すれば分かるように、ヘッド本体1Aに沿って流れる空気流F層がヘッド本体1A表面から剥離する(空気流が拡散されて乱流を生じる)であろう剥離部Pを従来よりもバック部6側へ移行させ或いは究極的には剥離部Pをほぼ生じさせないようにすることができる。特に、本実施形態において、タービュレータ30は、空気流F層の剥離部P(図1の(a)参照)を極力バック部側へ移行させるような位置、例えばタービュレータ30が設けられていない状態で剥離部Pが生じ得るクラウン部3の部位の付近、特にその部位の前方側(フェース部2側)に位置されることが好ましい。
【0026】
ここで、湾曲面28の「最頂部」とは、ゴルフクラブヘッド1をそのソール部5を接地させて規定のライ角にセットした状態の断面形状(図1参照)において接地面から最も高い位置にあるクラウン部3の部位を意味し、例えばフェース部2からバック部6側へ10mm以上離れた位置にある。また、そのような最頂部Xは、ヘッド本体1Aの形状に応じて、フェース・バック方向に沿うヘッド本体1Aの断面で見た場合、必ずしもトウ・ヒール方向の任意の位置で一致するとは限らない(しかしながら、図2では、便宜上、一致するものとして最頂部Xが直線的に示される;図4以降も同様)ため、本明細書中の「最頂部よりもバック部側」とは、トウ・ヒール方向の任意の位置でヘッド本体1Aをフェース・バック方向に沿う断面で見た場合に、ライ角セット時の接地面から最も高い位置にあるクラウン部3の部位よりもバック部6側に位置する領域を意味するものとする。特に、この場合、「最頂部Xよりもバック部6側のみに位置してタービュレータ30が配設される」という要件は、少なくともインパクトエリアR(図2の(a)参照)内で満たされていればよい。ここで、インパクトエリアRとは、例えばフェースセンターCを中心にトウ側及びヒール側にそれぞれ1.68インチ(約22mm)の幅寸法Lにわたって広がる打球領域のことである。
【0027】
このようなタービュレータ30はそれぞれ、図3に示されるように、角部が円弧状に面取りされた(面取りを有さず、角張っていてもよい)滑らかな湾曲した外表面を有する突起として形成されており、一例として、その高さBが0.5mm〜1.5mm(例えば0.7mm)、その幅(長さ)Aが1.5mm〜4.0mm(例えば2.41mm)、その円弧状の面取り部の曲率半径R1,R2がそれぞれ0.3mm〜1.5mm(例えば0.5mm)に設定され、例えば最頂部Xからバック部6側へ1mm以上(2×Bmm以上)離れた位置に設けられる。
【0028】
また、このようなタービュレータ30としての突起は、フェース部2を除くヘッド本体1A(クラウン部3、ソール部5、及び、バック部6(サイド部7)を有する一体成形品)と鋳造により一体形成された後、研磨されてもよく、又は、プレス加工されてもよい。或いは、これらのタービュレータ30を塗装により凸状に形成してもよく、又は、タービュレータ30としての突起をヘッド本体1Aとは別個に形成し、これをクラウン部3に固着してもよい。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、クラウン部3の湾曲面28の最頂部Xよりもバック部6側のみに特化して、クラウン部3の湾曲面28に沿って流れる空気流Fを整流するための突起状のタービュレータ30が配設されているため、ダウンスイングからインパクトにかけて、特にインパクト付近の領域又はインパクト前後で、ヘッド本体1Aの前方で圧縮された空気をタービュレータ30によって効率的かつ効果的に真っ直ぐに流れるように案内(整流)することができ(空気流Fを拡散させることなく効率的かつ効果的に乱流を抑制でき)、言い換えると、ヘッド本体1Aに沿って流れる空気流F層がヘッド本体1A表面から剥離する(空気流が拡散されて乱流を生じる)であろう剥離部P(図1の(a)参照)を従来(図1の(a)参照)よりもバック部6側へ移行させ或いは究極的には剥離部Pをほぼ生じさせないようにすることができ、それにより、従来(ディンプルなど)と比べて空気抵抗を大幅に低減することができる。その結果、ヘッドスピードを上げることができ、打球の飛距離を伸ばすことができる。
【0030】
ここで、図8には、ゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果が示される。図8の(a)は、タービュレータ30を有さない従来のゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果を示し、図8の(b)は、クラウン部3の湾曲面28の最頂部Xよりもバック部6側のみに特化してタービュレータ30を設けた本実施形態のゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果を示し、また、図8の(c)は、フェース部2側にタービュレータを設けた比較例に係るゴルフクラブヘッドにおけるダウンスイングからインパクトにかけた気流解析(シミュレーション)結果を示す。これらのシミュレーション結果から分かるように、本実施形態のゴルフクラブヘッド(図8の(b))は、図8の(a)(c)と比べて空気流F層の剥離部がバック部6側へと大きく移行され空気抵抗が大幅に低減される(本明細書に添付された図8のカラーバージョンである補足資料では、空気流の速度が青→緑→黄→赤へと移行するにしたがって増大する)。
【0031】
また、本実施形態によれば、前述した従来技術のようにクラウン部3の全面に凹凸部を設けることなく、クラウン部3の最頂部Xよりもバック部6側のみに凸状のタービュレータ30を設けるため、製造工程が複雑化せず、したがって、生産性が向上して、歩留まりを上げることができる。更に、本実施形態では、フェース部2の近傍に凹凸が設けられていないため、スイング時及び打球時の視認性も良好である。
【0032】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を示している。このゴルフクラブヘッド1は、タービュレータ30の長さ及び配置形態のみが前述した第1の実施形態と異なり、その他の構成が第1の実施形態と同じであるため、以下、異なる点についてのみ説明する。
【0033】
図4の(a)に示されるように、本実施形態のタービュレータ30は、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向にバック部3の輪郭にほぼ沿う配列を成して複数設けられている。この場合、各タービュレータ30は、フェース部2側からバック部6側へ向けて所定の長さ(例えば5mm)で延びており、トウ部8側に近いほど及び/又はヒール部9側に近いほど最頂部X側に配置されている。
【0034】
したがって、このような配置形態によれば、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、タービュレータ30の配置形態がヘッド本体1Aの輪郭に近いため、アドレス時の違和感を少なくすることもできる。
【0035】
図5は、本発明の第3の実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を示している。このゴルフクラブヘッド1も、タービュレータ30の長さ及び配置形態のみが前述した第1の実施形態と異なり、その他の構成が第1の実施形態と同じであるため、以下、異なる点についてのみ説明する。
【0036】
図5の(a)に示されるように、本実施形態のタービュレータ30も、第2の実施形態と同様、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向にバック部3の輪郭にほぼ沿う配列を成して複数設けられている。この場合、各タービュレータ30は、フェース部2側からバック部6側へ向けて所定の長さ(例えば7mm)で延びており、トウ部8側に近いほど及び/又はヒール部9側に近いほど最頂部X側に配置されている。
【0037】
また、これに加え、本実施形態の各タービュレータ30は、トウ部8側に近いほどそのヒール部9側で隣り合うタービュレータ30からトウ部8側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに延び、また、ヒール部9側に近いほどそのトウ部8側で隣り合うタービュレータ30からヒール部9側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに延びている。
【0038】
具体的には、クラウン部3のほぼ中央に位置されるタービュレータ30cは、トウ部8側又はヒール部9側へ向けて殆ど傾くことなく、フェース・バック方向にほぼ延びるが、このタービュレータ30cよりもトウ部8側に位置されるタービュレータ30aは、そのヒール部9側で隣り合う前記中央のタービュレータ30cからトウ部8側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに広がって延び、また、このタービュレータ30aよりも更にトウ部8側に位置されるタービュレータ30bは、そのヒール部9側で隣り合う前記タービュレータ30aからトウ部8側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに広がって延びている。また、同様に、中央のタービュレータ30cよりもヒール部9側に位置されるタービュレータ30aは、そのトウ部8側で隣り合う前記中央のタービュレータ30cからヒール部9側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに広がって延び、また、このタービュレータ30aよりも更にヒール部9側に位置されるタービュレータ30bは、そのトウ部8側で隣り合う前記タービュレータ30aからヒール部9側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに広がって延びている。
【0039】
したがって、このような配置形態によれば、第1及び第2の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、トウ-ヒール側の空気流が中央バックサイド側に湾曲して流れようとすることを防止し、フェース-バック方向に直線的に流れ易くすることもできる。
【0040】
また、このようなタービュレータ30は、それらの間隔を任意に設定できるが、一般に、タービュレータ30同士の間隔が長くなればなるほど、すなわち、タービュレータ30の数が減少されればされるほど、所望の空気抵抗軽減効果を得るために各タービュレータ30の長さが長く設定される。そのような実施形態が図6及び図7に示される。
【0041】
図6に示される第4の実施形態に係るゴルフクラブヘッド1のタービュレータ30は、第2及び第3の実施形態と同様、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向にバック部3の輪郭にほぼ沿う配列を成して設けられるが、タービュレータ30同士の間隔が例えば30mmに設定されることにより、タービュレータ30の数が例えば3つに制限されることから、各タービュレータ30は、フェース部2側からバック部6側へ向けて比較的長い長さ(例えば20mm)にわたって延びている。この場合、第3の実施形態と同様に、タービュレータ30は、トウ部8側に近いほど及び/又はヒール部9側に近いほど最頂部X側に配置され、また、トウ部8側に近いタービュレータ30eは、そのヒール部9側で隣り合うタービュレータ30dからトウ部8側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに延び、また、ヒール部9側に近いタービュレータ30eは、そのトウ部8側で隣り合うタービュレータ30dからヒール部9側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに延びている。
【0042】
これに対し、図7に示される第5の実施形態に係るゴルフクラブヘッド1のタービュレータ30も、第2及び第3の実施形態と同様、所定の間隔を隔てた状態でトウ・ヒール方向にバック部3の輪郭にほぼ沿う配列を成して設けられるが、タービュレータ30同士の間隔が第4の実施形態よりも短く設定されることにより、タービュレータ30の数が第4の実施形態よりも多い例えば5つに設定できることから、各タービュレータ30は、フェース部2側からバック部6側へ向けて第4の実施形態と同様又はそれよりも短い長さ(例えば15mm)にわたって延びている。この場合も、第3の実施形態と同様に、タービュレータ30は、トウ部8側に近いほど及び/又はヒール部9側に近いほど最頂部X側に配置され、また、トウ部8側に近いタービュレータ30fは、そのヒール部9側で隣り合うタービュレータ30gからトウ部8側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに延び、また、ヒール部9側に近いタービュレータ30fは、そのトウ部8側で隣り合うタービュレータ30gからヒール部9側へ離れるようにフェース部2側からバック部6側へ向けて斜めに延びている。
【0043】
このように、タービュレータ30は、その間隔に応じて長さを設定することにより、所望の空気抵抗軽減効果を得ることができる。
【0044】
以上、添付図面に関連して本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した実施形態では、タービュレータがフェース部側からバック部側へ向けて直線状に延びているが、タービュレータの延在形態は、直線状に限らず、湾曲されていてもよい。また、前述した実施形態では、タービュレータが1つの列を成して設けられるが、複数列を成して形成されていてもよく、或いは、列を成していなくても構わない。
【符号の説明】
【0045】
1 ゴルフクラブヘッド
1A ヘッド本体
2 フェース部
3 クラウン部
5 ソール部
6 バック部
7 サイド部
8 トウ部
9 ヒール部
30(30a,30b,30c,30d,30e,30f,30g) タービュレータ
P 剥離部位
X 最頂部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8