【実施例】
【0025】
図1ないし
図9を参照して,本発明の実施例に係るしゅう動部品について説明する。
なお,以下の実施例においては,しゅう動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明するが,これに限定されることなく,例えば,円筒状しゅう動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸としゅう動する軸受のしゅう動部品として利用することも可能である。
なお,メカニカルシールを構成するしゅう動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側),内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが,本発明はこれに限定されることなく,高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0026】
図1は,メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって,しゅう動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり,高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方のしゅう動部品である円環状の回転側密封環3と,ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方のしゅう動部品である円環状の固定側密封環5とが設けられ,固定側密封環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって,ラッピング等によって鏡面仕上げされたしゅう動面S同士で密接しゅう動するようになっている。すなわち,このメカニカルシールは,回転側密封環3と固定側密封環5との互いのしゅう動面Sにおいて,被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
なお,
図1では,回転側密封環3のしゅう動面の幅が固定側密封環5のしゅう動面の幅より広い場合を示しているが,これに限定されることなく,逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。
【0027】
回転側密封環3及び固定側密封環5の材質は,耐摩耗性に優れた炭化ケイ素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが,例えば,両者がSiC,あるいは,回転側密封環3がSiCであって固定側密封環5がカーボンの組合せが可能である。
相対しゅう動する回転側密封環3あるいは固定側密封環5の少なくともいずれか一方のしゅう動面には,
図2に示すように,ディンプル10が配設されている。
本例では,固定側密封環5のしゅう動面Sに複数のディンプル10が配設されている。この場合,回転側密封環3にはディンプルは設けられなくてもよく,また,設けられてもよい。
【0028】
図2において,しゅう動部品1の断面形状は,
図1(c)に示すように凸形状をしており,その頂面が平坦なしゅう動面Sを構成している。このしゅう動面Sには,
図2(b)に示すような多数のディンプル10が独立して設けられている。これらのディンプル10は,しゅう動面Sの径方向の幅全体ではなく,低圧流体側においては平坦なランド部Rが
一定幅で全周に残るように形成された低圧流体側密封面ISを除いた部分に設けられる。しゅう動面Sの高圧流体側においては,ディンプル10は縁部まで設けられてもよい。
【0029】
本発明において,「ディンプル」とは,平坦なしゅう動面Sに形成されるくぼみのことであり,その形状は特に限定されるものではない。例えば,くぼみの平面形状は円形,楕円形,長円形,もしくは多角形など種々の形が包含され,くぼみの断面形状もお椀状,または,方形など種々の形が包含される。
そして,しゅう動面Sに形成された多数のディンプル10は,このしゅう動面Sと相対しゅう動する相手側しゅう動面との間に流体力学的な潤滑液膜として介入する液体の一部を保持して,潤滑液膜を安定化させる機能を有するものである。
【0030】
個々のディンプル10は,
図3に示すようなレイリーステップを構成するものとみなすことができる。
図3において,固定側密封環5のしゅう動面S(R)には図の断面と直交する方向に延びるレイリーステップ10aが形成されており,回転側密封環3のしゅう動面Sは平坦に形成されている。回転側密封環3が矢印で示す方向に相対移動すると,両しゅう動面間に介在する流体が,その粘性によって矢印方向に追随移動しようとし,その際,レイリーステップ10aの存在によって動圧(正圧)を発生する。動圧の発生によりしゅう動面間の潤滑液膜が増大され,潤滑性能が向上されるものである。動圧効果により潤滑性能が向上させられる一方,漏れ量が増える恐れがあり,漏れ量を減らすため潤滑液膜を薄くするようにディンプルの量を少なくすると,しゅう動面Sが接触し摩耗を起こしやすくなる。
【0031】
図4は,本発明の実施例に係るしゅう動部品のしゅう動面にランダムに配置されたディンプルを示すしゅう動面の平面図である。
図4において,
図2の符号と同じ符号は
図1と同じ部材を示しており,詳しい説明は省略する。
図4において,しゅう動面に形成された複数のディンプル2は,相互に他のディンプ
と独立して設けられ,ランダムに分布するように配置されている。
【0032】
本例では,複数のディンプル2の開口径は,全て同一である場合の他,一定の範囲に分布されてもよい。
例えば,
図4の場合,好ましくは10〜500μm,より好ましくは30〜100μmの範囲に分布されている。このため,より一層,しゅう動特性を向上することができる。
また,複数のディンプル2の深さは,摩擦係数低減の面から50〜10000nmの範囲内に設定されることが好ましいが,極低速でのしゅう動特性を重視する場合には,好ましくは50〜1000nm,より好ましくは50〜500nmの範囲内に設定される。
また,密封と潤滑の両立を図るため,複数のディンプルのしゅう動面に対する面積率は40%を採用したが,これに限らず30〜50%でもよい。
【0033】
次に,
図5を参照しながら,本発明の摺動部品の摺動面に複数のディンプル10を加工する加工方法について説明する。
なお,
図5は,本発明の摺動部品の摺動面の加工工程において用いられる加工装置20の概略構成を示す模式図である。
【0034】
加工装置20は,超短パルスレーザを発振する超短パルスレーザ発振器21と,当該超短パルスレーザを被加工物である固定側密封環5の所定位置に照射する走査光学系22と,制御部24と,XYZステージ25と,架台26と,昇降部材27とを備える。本例では,走査光学系22は,ガルバノスキャナー23を備えており,一方向,例えばX軸方向の走査をガルバノスキャナー23で行い,Y軸方向の走査をXYZステージ25の移動で行い,ガルバノスキャナー23の高速走査性を利用するものとしている。このため,XYZステージ25は,少なくともY及びZ方向に移動可能であればよい。架台26の上面にはXYZステージ25が設置され,XYZステージ25には被加工物である固定側密封環5が搭載されている。昇降部材27はシャフト28を介して架台26と接続される。
【0035】
超短パルスレーザ発振器21から発生した超短パルスレーザ光は,走査光学系22に入る。走査光学系22は超短パルスレーザ光を所望のビーム形状に成形しXYZステージ25上の被加工物である固定側密封環5の表面の所定の位置に集光させる。被加工物である固定側密封環5の材質は,例えばSiC,Al2O3,セラミックス,超硬合金,ステンレスなどである。本実施例では,被加工物である固定側密封環5としてSiCを用いる。
【0036】
制御部24は,超短パルスレーザ発振器21,走査光学系22及びXYZステージ25の駆動を制御する制御装置として機能する。すなわち,制御部24は,駆動信号を超短パルスレーザ発振器21,走査光学系22及びXYZステージ25に出力する。超短パルスレーザ発振器21は,制御部24からの駆動信号で指示されたフルエンスとパルス幅に基づき超短パルスレーザを生成して装置外にレーザを照射する。具体的には,制御部24からの駆動信号により超短パルスレーザ発振器21内の例えば回折格子,プリズム,遮光フィルタ等の構成要素の駆動を制御する。
【0037】
本実施例では,超短パルスレーザ発振器21はパルスの繰り返し周波数は5kHz以上,レーザ波長1030nm又は515nm,パルス幅20ピコ秒未満まで変更可能な光源を用いる。
【0038】
次に,上記加工装置20の動作を説明する。
まず,制御部24を用いて照射すべき超短パルスレーザ光の基本パラメータを設定する。基本パラメータの設定は,例えば制御部24に設けられた入力装置を用いて入力すればよい。入力する基本パラメータとしては,例えばフルエンス,パルス幅,ショット数などであるが,これら基本パラメータは,制御部24内に設けられたアプリケーションプログラムが自動で算出してもよい。得られた基本パラメータに基づき制御部24は超短パルスレーザ発振器21に駆動信号を出力する。
【0039】
制御部24からの駆動信号を超短パルスレーザ発振器21が受けると,超短パルスレーザ発振器21は駆動信号で指定されるフルエンス及びパルス幅のレーザ光を生成して出力する。超短パルスレーザ発振器21から発生した超短パルスレーザ光は,走査光学系22に入り,走査光学系22は超短パルスレーザ光を所望のビーム形状に成形しXYZステージ25上の被加工物である固定側密封環5の表面の所定の位置に集光させる。ある一点におけるレーザ照射が指定されたショット数に達すると,ガルバノスキャナー23及びXYZステージ25を駆動して超短パルスレーザと被加工物である固定側密封環5を相対的に移動させる。これにより,1つの被加工物である固定側密封環5に対して複数の位置にレーザ照射することができる。
【0040】
図6は,基本パラメータの各々についての加工試験結果を示したもので,超短パルスレーザの波長は1030nm,パルス幅は10ps以下のピコ秒レーザを使用した。
【0041】
図7は,基本パラメータの各々についての加工試験結果を示したもので,超短パルスレーザの波長は515nm,パルス幅は10ps以下のピコ秒レーザを使用した。
【0042】
図8は,超短パルスレーザの波長が1030nm,及び,515nmである場合において,各照射フルエンスで加工した際の加工面の状態及び加工部際の盛上がりの評価結果を示す図であって,評価項目としては,(1)加工面の状態及び加工部の際のデブリによる盛り上がりの状態である。
図6では,加工面の状態に関しては,加工面(ディンプルの底面をいう。以下,同じ。)の粗さRaが加工深さの1/10以下である場合はOK,それ
以外はNGとし,また,加工部際の盛上がりに関しては,加工部の際(ディンプルの際)のデブリによる盛上がりが0.01μm未満である場合はOK,それ以外はNGとした。
【0043】
図8によれば,超短パルスレーザの波長が1030nmの場合,加工面の状態は,フルエンスが0.5,1,2,3,5,7において粗さRaが加工深さの1/10以下であった。また,加工部の際の盛り上がりの状態は,フルエンスが0.1,0.2,0.4,0.5,1,2,3,5,7,8,9,10,30において盛り上がりが0.01μm未満であった。
また,超短パルスレーザの波長が515nmの場合,加工面の状態は,フルエンスが0.5,1,2,3,5,7において粗さRaが加工深さの1/10以下であった。また,加工部の際の盛り上がりの状態は,フルエンスが0.1,0.2,0.4,0.5,1,2,3,5,7,8,9において盛り上がりが0.01μm未満であった。
以上の結果から,加工工程において用いられる超短パルスレーザのエネルギーフルエンスは,0.5J/(cm2.pulse)〜7J/(cm2.pulse)の範囲において好適であることが判明した。
【0044】
図9は,超短パルスレーザとしてピコ秒レーザを使用して加工した場合の加工面の状態を示すものであって,(a)は加工面の顕微鏡写真,(b)は(a)のA−A断面を表したもので加工面の粗さを示している。なお,使用した超短パルスレーザの波長は1030nmであって,エネルギーフルエンスは2.5J/(cm2.pulse)であり,1ショットの加工深さは0.02μmである。
図9(b)から,加工面(ディンプルの底面をいう。以下,同じ)の深さは1.025μmであって加工面の粗さRaは約0.03μmであり,加工面の面粗さRaは,加工深さの約3/100であり,加工深さの1/10より十分小さいものであった。また,加工部の際(ディンプルの際)のデブリによる盛り上がりは0.01μmときわめて小さいものであった。
【0045】
図10は,パルスレーザとしてナノ秒レーザを使用して加工した場合の加工面の状態を示すものであって,(a)は加工面の顕微鏡写真,(b)は(a)のB−B断面を表したもので加工面の粗さを示している。
図10(b)から,加工面(ディンプルの底面)の粗さRaは約0.75μmである。また,加工部の際(ディンプルの際)のデブリによる盛り上がりは約0.784μmである。
【0046】
以上によれば,ナノ秒レーザを使用して加工した場合の加工面の状態は,ピコ秒レーザを使用して加工した場合の加工面の状態に比べて,加工面(正圧発生溝及び負圧発生溝の底面)の粗さRaにおいて約25倍,加工部の際(ディンプルの際)のデブリによる盛り上がりは約78倍であることが分かる。
【0047】
本発明においては,極めてパルス幅の短い超短パルスレーザを用いてSiCなどからなる摺動部品を加工するので,超短パルスレーザを照射した領域の周囲の温度が従来のナノ秒レーザを照射した場合より上昇し難い。これは,超短パルスレーザにおいては1つのパルスによる熱の発生が通常のナノ秒レーザに比べて極めて少ないためである。したがって,超短パルスレーザを照射した部分を当該レーザの照射によるアブレーションで除去して平坦な溝を形成する一方,溝の際がレーザの照射に起因するデブリで盛り上がったりすることなく,極めてきれいな加工面を得ることができる。特に,超短パルスレーザのエネルギーフルエンスを制御することにより,きわめて平坦な加工面及び加工際にデブリによる盛り上がりのない高精度な溝を正確に形成できる。
【0048】
また,上述のように超短パルスレーザを加工に用いるので,当該レーザの照射領域の周
囲への熱影響を極めて小さくできる。そのため,レーザの照射に起因してSiCなどからなる摺動部品の摺動面のレーザ照射領域の周囲の温度が上昇して,その熱の影響により当該摺動面にうねりが生じるといった問題の発生を抑制できる。また,従来の機械加工では溝深さが0.05μm〜5μmの加工を行うことは無理である。さらに,公知のイオンミーリングは加工時間がかかり,また,エッチングでは時間もコストもかかるという問題がある。
【0049】
本発明の超短パルスレーザを用いた加工では,エネルギーフルエンスを,0.5J/(cm2.pulse)〜7J/(cm2.pulse)の範囲に設定することにより,きわめて平坦な加工面及び加工際にデブリによる盛り上がりのない高精度な摺動面を得ることができ,かつ,作業効率もよい。
エネルギーフルエンスが8J/(cm2.pulse)以上では,1回のショットのパルスエネルギが大きすぎるため,加工面が荒れて粗さRaが大きくなる。
さらに,波長が1030nmにおいては,エネルギーフルエンスが50J/(cm2.pulse)以上では,また,波長が515nmにおいては,エネルギーフルエンスが10J/(cm2.pulse)以上では,デブリが発生し,加工部の際が盛り上がる。
【0050】
摺動部品がSiC,Al2O3,セラミックス,超硬合金,ステンレスのいずれか1つの材料から形成される場合,超短パルスレーザのエネルギーフルエンスは,0.5J/(cm2.pulse)〜7J/(cm2.pulse)の範囲であることが好ましい。
【0051】
本発明の実施の形態に係るしゅう動部品の作用・効果は以下のとおりである。
(1)複数のディンプルは相互に他のディンプルと独立して設けられると共にランダムに分布するように配置され,それぞれのディンプルは超短パルスレーザの照射により形成され,深さは0.05μm〜5μmの範囲の浅い溝であって,前記ディンプルの底面の粗さRaは加工深さの1/10以下であることにより,軸受特性数の広い範囲において摩擦係数を低減させることができると共に摺動面間の流体膜を増加させ,潤滑性能を向上させると共に,精度のよい正圧発生溝により所定の動圧を発生させることができ,また,加工時における熱の影響が少ないため摺動面にうねりがなく,密封性のよい摺動面を備えた摺動部品を提供することができる。
(2)加工部の際のデブリによる盛り上がりが0.01μm未満であることにより,より一層,密封性のよい摺動面を備えた摺動部品を提供することができる。
(3)複数のディンプルは開口径が好ましくは10〜500μm,より好ましくは30〜100μmの範囲に設定されることにより,しゅう動面における軸受特性数の広い範囲において,より一層,しゅう動特性を向上することができる。
(4)複数のディンプルは深さが50〜10000nmの範囲に設定されることにより,しゅう動面における摩擦係数を低減することができる。
(5)複数のディンプルは深さが好ましくは50〜1000nm,より好ましくは50〜500nmの範囲に設定されることにより,極低速でのしゅう動特性を良好にすることができる。
(6)複数のディンプルはしゅう動面に対する面積率が30〜50%の範囲に設定されることにより,密封と潤滑の両立を図ることができる。
(7)超短パルスレーザの繰返し周波数は5kHz以上であることにより,パルスの重ね数が多い場合でも加工時間を適度な値に設定することができる。
(8)超短パルスレーザのパルス幅は10ピコ秒未満であることにより,1つのパルスによる熱の発生を少なくすることができる。
【0052】
以上,本発明の実施の形態を実施例により説明してきたが,具体的な構成はこれら実施例の形態に限られるものではなく,本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0053】
例えば,前記実施例では,しゅう動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環の少なくともいずれか一方に用いる例について説明したが,円筒状しゅう動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸としゅう動する軸受のしゅう動部品として利用することも可能である。
【0054】
また,例えば,前記実施例では,外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが,内周側が高圧流体の場合にも適用でき,その場合,ディンプルを内周側に連通させて配設すればよい。
【0055】
また,例えば,前記実施例では,複数のディンプルは,開口径が好ましくは10〜500μm,より好ましくは30〜100μmの範囲に設定されている場合を説明したが,これらは好ましい1つの例を示したものであり,これらに限定されず,複数のディンプルがランダムに分布されていることが重要であり,分布の割合は,しゅうどう面の軸受特性数G(流体の粘度×速度/荷重)に応じて最適な値に設定されればよい。
【0056】
また,例えば,前記実施例では,複数のディンプルの深さとして,摩擦係数低減の面からは50〜10000nmの範囲から選定されるのが好ましいとと説明したが,極低速でのしゅう動特性を良好にするには好ましくは50〜1000nm,より好ましくは50〜500nmの範囲に設定される。
【0057】
また,例えば,前記実施例では,密封と潤滑の両立を図る観点から,複数のディンプルのしゅう動面に対する面積率として40%を採用した場合について説明したが,これに限定されず,30〜50%の範囲でもよい。
【0058】
また,例えば,前記実施例では,ディンプル10は,低圧流体側においては平坦なランド部Rが一定幅で全周に残るように形成された低圧流体側密封面ISを除いたほぼ全域の部分に設けられる場合について説明したが,これに限らず,
図11に示すように,開口径が同一の複数のディンプル10を,摺動面の径方向における高圧流体側にのみランダムに配置し,低圧流体側(低圧流体側密封面ISを含む。)にはディンプルを設けずにフラットな状態にしてもよい。
図11の場合,摺動面の径方向における高圧流体側の略60%の幅にディンプルが設けられ,低圧流体側の略40%の幅はディンプルのないフラットな状態に形成されている。このため,密封領域の幅が増大し,ほぼ全域にディンプルを設ける場合に比較して漏れ量を低減させることができる。
なお,ディンプルを設ける範囲は略60%の幅に限らず,例えば,20〜80%の幅でもよい。
【0059】
また,例えば,
図12に示すように,摺動面の径方向の略中央に全周にわたる深溝11を設け,該深溝11の径方向の両側のしゅう動面に開口径が同一の複数のディンプル10をランダムに配置してもよい。その際,深溝11より低圧流体側のしゅう動面において低圧流体側密封面ISにはディンプル10は設けられない。
この場合,高圧流体側から低圧流体側に漏れようとする流体は深溝11に貯留されるため漏れ量を低減させることができると共に,しゅう動面の摩耗粉も深溝11に捕獲されるためしゅう動面の摩耗を低減させることができる。
なお,深溝11は半径方向の溝を介して高圧流体側に連通されるようにしてもよい。