【文献】
Umezawa ES、他8名,An improved serodiagnostic test for Chagas disease employing a mixture of Trypanosoma cruzi recombinant antigens,Transfusion,2003年 1月 1日,Vol.43,Page.91-97
【文献】
I.S. Marcipar他1名,Advances in serological diagnosis of Chagas disease by using recombinant proteins,Current Tpocis in Tropical Medicine,2012年 3月16日,Page.273-298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)に対する抗体の検出に好適なポリペプチドの組成物であって、トリパノソーマ・クルージに対して特異的な、遺伝子組み換えまたは合成により製造された3種のポリペプチドからなり、前記ポリペプチドが、1F8、JL7、およびクルジパインである、組成物。
ポリペプチドの1F8が配列番号1で表される配列を含み、ポリペプチドのJL7が配列番号2で表される配列を含み、およびポリペプチドのクルジパインが配列番号3で表される配列を含む、請求項1に記載のポリペプチドの組成物。
遺伝子組み換えにより製造された3種のポリペプチドからなる、トリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出に好適な可溶性で免疫反応性のポリペプチドの組成物を製造する方法であって、
a)第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの1F8をコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターによってトランスフォームされたホスト細胞を培養するステップ、
b)トリパノソーマ・クルージポリペプチドの発現ステップ、
c)トリパノソーマ・クルージポリペプチドの精製ステップ、
d)第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドのJL7をコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターを用いて、a)からd)のステップを繰り返すステップ、
e)第3のトリパノソーマ・クルージポリペプチドのクルジパインをコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターを用いて、a)からd)のステップを繰り返すステップ、ならびに、
f)ステップc)、d)、およびe)において得られたトリパノソーマ・クルージポリペプチドの混和物を形成し、それによって、トリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出に好適な可溶性で免疫反応性のポリペプチドの組成物を製造するステップ、
を含む、前記方法。
単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに特異的な抗体を検出する方法であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物または請求項4の方法によって得られるトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物が、前記トリパノソーマ・クルージ抗体に対する捕捉試薬としておよび/または結合パートナーとして使用される、前記方法。
請求項6に記載の単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに特異的な抗体を検出する方法であって、前記免疫反応が、下記を含む二重抗原サンドイッチ形式において実施される、前記方法:
a)前記試料に、固相に直接的または間接的に結合することができ、かつそれぞれが、バイオアフィン結合対の一部であるエフェクター基を有する第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物と、それぞれが検出可能な標識を有する第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物とを加えるステップであって、ここで第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドが、前記抗トリパノソーマ・クルージ抗体に特異的に結合する、
b)第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチド、試料抗体、および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドを含む免疫反応混和物を形成するステップであって、ここで前記バイオアフィン結合対における対応するエフェクター基を有する固相が、免疫反応混和物を形成する前、形成中、または形成後に加えられる、
c)体液試料中の第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドに対するトリパノソーマ・クルージ抗体を第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドと免疫反応させて免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、免疫反応混和物を維持するステップ、
d)固相から液相を分離するステップ、ならびに、
e)固相もしくは液相またはその両方において、いかなる免疫反応生成物についてもその存在を検出するステップ。
前記第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチドがビオチン部分を有し、および前記第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドが、電気化学ルミネセンス性のルテニウム錯体によって標識されている、請求項7に記載のトリパノソーマ・クルージに特異的な抗体を検出する方法。
請求項1〜3のいずれか一項に記載のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物または請求項4の方法によって得られるトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物を含む、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のための試薬キット。
【背景技術】
【0001】
シャーガス病は、鞭毛原生動物のトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)が引き起こす熱帯性の寄生虫症である。T.クルージは、一般的に、媒介昆虫であるオオサシガメ亜科の吸血性「オオサシガメ」(サシガメ科;ドイツ語では「Raubwanzen」)によってヒトおよび他の哺乳動物に感染する。当該疾患は、輸血および臓器移植、寄生生物で汚染された食べ物の摂取によって、ならびに母体から胎児へと広がり得る。
【0002】
トリパノソーマ・クルージは、様々な形態および成長段階において現れる。再生形態は上鞭毛型と呼ばれ、オオサシガメがヒトなどの感染した動物を吸血した直後にこの形態に変化する。当該上鞭毛型は、吸血動物の直腸細胞壁上に移動する。当該吸血動物は、次の吸血において排便することで、糞を介して病原体を次の宿主へと移す。感染形態は錐鞭毛型と呼ばれ、咬創によってヒトの体内へと侵入する。したがって、当該錐鞭毛型は、ヒトの血液中において見出すことができる。例えば、ヒトの心筋細胞の細胞質内などにおいて見出されるさらなる形態は、無鞭毛型(amastigoteまたはmicromastigote)と呼ばれる。T.クルージのライフサイクルの間、当該無鞭毛型は、錐鞭毛型へと変化し、これは、オオサシガメによる次の吸血において吸い込まれ得る。
【0003】
シャーガス病の症状は、感染の過程において変化する。多くの場合、急性期の後には慢性期が存在する。さらに、感染の後には潜伏期も存在し得る。各段階は、症状がないかまたは生命に危険を及ぼし得る。急性期である早期では、症状は、一般的に軽症で、通常、感染部位における単なる局所的腫れに過ぎない。初期の急性期は、60〜90%の治癒率において、抗寄生虫治療による効果がある。4〜8週間後、急性感染症の個体は、シャーガス病の慢性期に入るが、この慢性期は、慢性的感染個体の60〜80%がその生存期間において無症候性である。慢性期の間、何人かの患者は、拡張型心筋症、心臓麻痺、心拍変動、および突然死を引き起こす心合併症を発症する。摂食および排便の困難を引き起こす腸管合併症は、慢性段階において典型的である。
【0004】
抗寄生虫治療も、当該疾患の慢性期の間の疾患症状の発症を遅延または予防すると考えられるが、米国疾病対策センターによれば、これらの合併症の1つまたは複数を発症する平均生涯リスクは約30%であり、これは、これらの慢性的感染個体が、依然として、最終的に、生命に危険を及ぼす心臓および消化器系障害を発症するであろうことを意味している。シャーガス病に対して現在利用可能な抗寄生虫治療は、ベンズニダゾールおよびニフルチモックスであり、これらは、多くの患者において、皮膚障害、脳毒性、および消化器系の炎症を含む、一時的な副作用を引き起こし得る。
【0005】
シャーガス病は主に、メキシコおよび中央アメリカ、および南アメリカの貧しい田舎地域において見られ、アメリカ合衆国南部では、ごく稀にしか見出されていない。しかしながら、血液ドナーは、これらの国において、インビトロ診断法によって、トリパノソーマ・クルージの感染に対して検査される。
【0006】
今日、例えば、間接免疫蛍光法、間接赤血球凝集反応、補体結合、免疫ブロット法、およびELISAによるT.クルージに対する抗体の検出など、いくつかの血清学的診断法が、T.クルージの感染を検出するために利用可能である。分子生物学による方法(例えば、PCR)および入念な外因診断法も適用される。媒介生物による感染の外因診断では、研究室で育てられた無菌の昆虫(ここでは、オオサシガメ)に患者を吸血させる。当該昆虫の腸の内容物が、病原菌(ここでは、トリパノソーマ・クルージ)の存在について調べられる。
【0007】
これらの方法のそれぞれは、感度および特異度に関して、それ自体の短所および長所を示し、したがって、今のところ、利用可能なゴールドスタンダードとなる方法は存在しない。
【0008】
抗体の検出のためのシャーガス病アッセイの開発の当初、天然の抗原溶解物が適用されていたが、それは依然として用いられている。しかしながら、溶解物を使用する場合、この抗原組成物中に対応物が含まれるのはT.クルージの3つの発症段階のうちの1つについてのみであり、したがって、他の2つの段階の感染を見逃してしまう可能性がある程度ある。より現代的なアッセイは、遺伝子組み換え抗原の混合物を適用し、T.クルージ感染の全ての段階を示す。
【0009】
天然の抗原溶解物を使用する場合、当該診断的アッセイは、多くの場合、別の寄生虫であるリーシュマニア(Leishmania)に感染している患者の試料において観察される、特異度および交差反応性における問題に直面する。さらに、抗原溶解物の製造は、T.クルージの抗原組成物の複雑さから、かなりのロット間変動を生じる。その上、頻繁に、天然の溶解物ベースの希少試薬は、いくつかの溶解物が全てのライフサイクルの段階の抗原を十分には含んでいないかまたは全く含まないために、弱い感度を示す。
【0010】
遺伝子組み換え抗原を適用することにより、上記の課題を避けることができる。しかしながら、遺伝子組み換え抗原組成物をベースとしたシャーガス病を検出するための市販のアッセイキットは、感度および特異度に関してかなりの違いを示すため、顧客、すなわち民間試験所もしくは臨床検査室または血液検査ユニットは、多くの場合、信頼できる結果を得るためには、いくつかのキットを並行して使用しなければならない。結果として、患者の試料が反応しているかどうかについての判断は、異なる抗原組成物をベースとするいくつかのキットによって同じ試料に対して得られた、過半数を占める陽性または陰性の結果に基づいて為される。複数の診断試験を適用するこの時間のかかる手順は、実験設備および人手、時間、ワークロード、およびコストの増加を生じるために、経済的に妥当でないことは明白である。
【0011】
トリパノソーマ・クルージ抗原に対する抗体を検出するための血清学的アッセイは、従来技術の文献において広く説明されてきており、総説については、例えば、Silveiraら Trends in Parasitology 2001,Vol.17 No.6を参照されたい。血清学的診断に関連するT.クルージ遺伝子組み換え抗原は、いくつかの研究室によって単離されている。これらの遺伝子のうちのいくつかは、縦列反復配列を有する。トリパノソーマ・クルージは極めて多数の抗原タンパク質(公的データベースにおけるおよそ23000の予測されるタンパク質コード配列および偽遺伝子)を発現するため、イムノアッセイのための抗原の可能な組み合わせの数は、膨大である。遺伝子組み換え製造のための方法は、数十年間知られているが、診断アッセイを設定するためにどの抗原が必要かを見出すことは、依然として困難なままである。免疫学的診断アッセイのための好適な抗原を選択する場合、病原体のライフサイクルの全ての段階における抗原を考慮すること、ならびに感染の全ての段階(急性期、ウインドウ期、および慢性期)に対して抗体を見出すことができる抗原を適用することも心に留めておかなければならない。同時に、技術的問題(例えば、溶解性および安定性の不足、信号のクエンチを引き起こす望ましくない交差反応、例えばリーシュマニアに対する交差反応性の回避)から、さらには、各抗原を十分に開発し、評価し、および大規模において生産する必要があるという経済的問題からも、抗原の数は、約5または10を超えるべきではない。Silveriaら(上記)によれば、市販のアッセイは、多くの場合、6種または7種の異なるT.クルージ抗原の組み合わせを使用しており、場合により、T.クルージ全長抗原に由来するより短い合成ペプチドの組み合わせも使用する。
【0012】
高い感度の診断試験を提供するための別のアプローチは、個別に別々のビーズ上にコーティングされた多数の様々な種類のT.クルージ抗原を適用する、多成分アッセイに基づいている。WO 2009/017736および米国特許第8,329,411号には、生体試料において、トリパノソーマ・クルージによる感染を検出するための装置および方法が開示されている。この設定は、16種の異なるタンパク質(最初に59の候補タンパク質から選択され、抗原として働く)を含み、これらのタンパク質は、アレイ状の診断ツールを提供する、標識されたビーズ上に個別にコーティングしなければならない。抗体が試料中に存在する場合、当該抗体は、これらのコーティングされたタンパク質に結合する。その結果、結合した抗体は、標識された二次抗体による当該試料抗体への結合によって検出される。この手順は、研究手法のためには妥当であるが、抗原の数が多いと大きな生産コストを生じ、民間試験所もしくは臨床検査室でのルーチンアッセイとして使用するにはコストが高すぎる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
背景のセクションにおいて説明したように、感染個体由来の試料においてT.クルージ抗体を検出するための、先行技術において公知のイムノアッセイは、高い感度および特異度を実現するために、多数の異なる抗原を使用する。ほとんどの場合、患者が感染しているか否かの判断は、異なるイムノアッセイにおける多数を占める結果に基づいている。今のところ、ゴールドスタンダードであり、利用可能である経済的に手頃なアッセイは存在しない。
【0036】
驚くべきことに、本発明者らは、1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含む、トリパノソーマ・クルージ特異的抗原の組成物または混合物を使用することによって、先行技術の欠点を克服する診断的組成物および方法を提供することができた。当該新規の組成物は、単離された患者の試料においてトリパノソーマ・クルージに対する抗体を検出するための再現性、感度、および特異度に関して、先行技術に匹敵するか、さらには優れている。その上、T.クルージ特異的抗体を信頼性高く検出するための組成物またはキットに必要なのは、3種のトリパノソーマ・クルージ特異的抗原のみである。当該組成物は、少なくとも3種、4種、または5種のT.クルージポリペプチドを含む。ある実施形態において、T.クルージ特異的ポリペプチドの数は、3と5の間であり、さらなる実施形態では、3種のポリペプチド、すなわち、1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つである。さらなる実施形態において、当該組成物は、3種のトリパノソーマ・クルージ特異的抗原の1F8、JL7、およびクルジパインからなる。さらなる実施形態は、1F8、JL7、クルジパイン、およびKMP−11を含む組成物である。別の実施形態において、当該組成物は、1F8、JL7、クルジパイン、およびKMP−11からなる。さらに別の実施形態において、当該組成物は、配列番号1(1F8)、配列番号2(JL7)、および配列番号3(クルジパイン)において開示されるポリペプチドからなる。
【0037】
用語トリパノソーマ・クルージ(=T.クルージ)特異的抗原、T.クルージ特異的ポリペプチド、T.クルージポリペプチド、およびT.クルージ抗原は、同じ意味で使用することができ、それぞれが、UniProtなどの国際タンパク質データベースによってアクセス可能な任意の天然に存在するT.クルージ菌株に見出すことができるポリペプチド配列を意味する。本発明において、適用される抗原配列のアミノ酸鎖は、約90のアミノ酸(KMP−11)から最大約400のアミノ酸(C−PAR2)までの間の範囲の長さを示す。ある実施形態において、各T.クルージ抗原の長さは、この範囲内である。
【0038】
実施例4、表2(
図1aおよび1b)に見られるように、1F8、JL7、クルジパイン、KMP−11、またはPAR2ペプチド配列を含む個々のT.クルージポリペプチドは全て、各ポリペプチドが個別の単一の抗原として使用される場合のイムノアッセイにおいて著しい抗原性を示す。しかしながら、この実施例は、個々のT.クルージ抗原の反応性が個別の患者の血清に強く依存することも示している。単一の抗原の使用では検出されないいくつかの試料が常に存在している。この知見は、市販のシャーガス病アッセイとの比較によく対応している。表3(
図2)を見ると、全ての反応性の試料を検出する単一の市販のアッセイ(それぞれが、少なくとも4種から10種の異なる遺伝子組み換えT.クルージ特異的抗原を使用している)も存在しないということが分かる。T.クルージ特異的抗体を信頼性高く検出するためには、どの試料が反応性であり、T.クルージ特異的抗体を含むかを、過半数アプローチ(すなわち、3種の市販のアッセイのうち2種が感染を検出する)において決定するために、各試料を、3種全ての市販のアッセイによって分析しなければならない。
【0039】
本発明によれば、1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含む、当該トリパノソーマ・クルージ特異的ポリペプチドの組成物は、およそ99.8%の特異度を示し、これは、市販のアッセイに匹敵および合致している(表4、実施例5を参照のこと)。発明者らは、2種のキット例、すなわち、1F8、JL7、およびクルジパインを含むキット1と、1F8、JL7、およびクルジパイン、ならびにKMP−11を含むキット2を試験した。さらに、実施例6および表5/
図3から分かるように、両方のキット/組成物は、3種の市販の抗シャーガス病アッセイと比較した場合に優れた希釈感度を示す。
【0040】
組成物なる用語は、単離された別々のT.クルージポリペプチドが混和物へと混合されることを意味する。この用語は、全てのポリペプチドが多重抗原融合ポリペプチドとしての1つだけのポリペプチド鎖上に位置するように、アミノ酸からなる単一鎖上において遺伝子組み換え的に発現させたかまたは合成した(化学的に製造された)ポリペプチドを含まない。換言すれば、天然において単一のペプチド鎖上には現れないいくつかのエピトープの多重エピトープ融合抗原は除かれる。むしろ、T.クルージポリペプチドの1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つのそれぞれは、別々のポリペプチド鎖上に発現するか、別々のポリペプチド鎖として化学的に合成される。ある実施形態において、当該組成物は、T.クルージに対して特異的な、遺伝子組み換え的にまたは合成によって製造された3種のポリペプチドからなり、この場合、当該ポリペプチドは、1F8、JL7、およびクルジパインである。当該組成物は、個々のT.クルージポリペプチドを1つの容器または管において混合することによって作製され、結果として組成物を生じる。
【0041】
当該組成物は、液体であり得、すなわち、当該T.クルージポリペプチドは、水可溶形態または緩衝液可溶形態において混合物に加えられる。好適な緩衝液の原料成分は、当業者に既知である。当該組成物は、固体であってもよく、すなわち、T.クルージ抗原を凍結乾燥状態またはそれ以外の乾燥状態において含む。
【0042】
ある実施形態において、上記ポリペプチドの組成物は、配列番号1による1F8アミノ酸配列、配列番号2によるJL7配列を含み、クルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つは、配列番号3(クルジパイン)、配列番号4(KMP−11)、および配列番号5(PAR2)からなる群より選択される少なくとも1つの配列を含む。
【0043】
別の実施形態において、当該ポリペプチドの組成物は、ポリペプチド1F8、JL7、およびクルジパインを含む。さらに別の実施形態において、当該組成物は、配列番号1(1F8)、2(JL7)、および3(クルジパイン)によるポリペプチドを含む。さらなる実施形態において、上記組成物は、配列番号1(1F8)、2(JL7)、および3(クルジパイン)を含む3つのポリペプチドからなる。さらなる実施形態において、T.クルージに対して特異的な部分は、配列番号1(1F8)、2(JL7)、および3(クルジパイン)からなる。別の実施形態において、当該組成物は、配列番号1(1F8)、2(JL7)、3(クルジパイン)、および4(KMP−11)を含むポリペプチドからなる。
【0044】
表現「T.クルージに対して特異的な部分は、配列番号1(あるいは2、または3など)からなる」は、例えば、配列番号1が、このポリペプチド鎖上に存在しかつT.クルージ−特異的抗体と反応する、T.クルージに存在する抗原に由来するポリペプチド部分のみであることを意味する。しかしながら、非T.クルージ特異的リンカーもしくはペプチド状融合アミノ酸配列の追加は、これらの配列がT.クルージに特異的ではなく、T.クルージ特異的抗体によって認識されないであろうことから、可能である。
【0045】
本発明によれば、配列番号1、2、3、4、または5による1F8、JL7、クルジパイン、KMP−11、およびPAR2抗原の変異型も、当該組成物に含められる。これは、3種のT.クルージ特異的ポリペプチドからなる組成物中に存在するポリペプチド1F8、JL7、およびクルジパインについても当てはまる。これとの関連において、用語「変異型」は、上記タンパク質と実質的に同じタンパク質もしくはタンパク質断片(すなわち、ポリペプチドまたはペプチド)に関する。特に、変異型は、最も一般的なタンパク質のイソ体のアミノ酸配列と比較して、アミノ酸の交換、欠失、または挿入を示すイソ体であり得る。一実施形態において、そのような実質的に同じタンパク質は、当該タンパク質の最も一般的なイソ体に対して、少なくとも80%の配列類似性、別の実施形態では、少なくとも85%または少なくとも90%、さらに別の実施形態では少なくとも95%の配列類似性を有する。用語「変異型」は、翻訳後の修飾タンパク質、例えば、グリコシル化またはホスホリル化されたタンパク質などにも関する。本発明によれば、変異型は、インビトロ診断イムノアッセイにおける免疫反応性が維持される限り、そのようなものとして分類され、すなわち、当該変異型は、依然として、試料中に存在する抗T.クルージ抗体に結合することができ、それらを検出することができる。「変異型」は、例えば、ポリペプチドまたは抗原への、リンカーアミノ酸配列、標識、タグアミノ酸配列、または担体部分などの共有結合によって修飾された当該ポリペプチドまたは抗原でもある。
【0046】
本発明によるポリペプチド組成物は、当業者に既知であるように、生理的緩衝条件下において可溶性である。用語「T.クルージに対して特異的な」は、当該ポリペプチドが、ヒト血清などの単離された試料中に存在するトリパノソーマ・クルージに特異的な抗体に結合することができる、それらによって認識されることができる、またはそれらによって結合されることができることを意味する。
【0047】
本発明による全てのT.クルージ特異的ポリペプチドは、非T.クルージ特異的ポリペプチド配列を有する融合タンパク質、例えば、シャペロンのようなフォールディングヘルパー分子など、として発現し得る。これらの融合パートナーの目的は、検体特異的ポリペプチドのクローニング、発現、および精製を容易にすることである。しかしながら、本発明により、当該T.クルージ特異的ポリペプチドは、シャペロン融合パートナーを全く持たないスタンドアロンのポリペプチドとして、同様に製造することができる。ある実施形態において、本発明によるT.クルージ特異的抗原の組成物を形成する個別のポリペプチドは、シャペロン融合パートナーを用いずに製造される。実施例7および表6(
図4)は、T.クルージ特異的抗体を検出するためのイムノアッセイにおける抗原性が、各抗原に対するシャペロン融合パートナーの存在に依存しないことを示している。
【0048】
本発明は、トリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出に好適な、可溶性で免疫反応性のポリペプチドの組成物を製造する方法にも関する。全ての個別のT.クルージ特異的抗原は、実施例1または2において説明する方法に従って製造した。ある実施形態において、当該方法は、
a)第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの1F8をコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターによってトランスフォームされたホスト細胞を培養するステップ、
b)トリパノソーマ・クルージポリペプチドの発現ステップ、および
c)トリパノソーマ・クルージポリペプチドの精製ステップ、
d)第2のT.クルージポリペプチドのJL7をコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターを用いて、a)からd)のステップを繰り返すステップ、
e)クルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択される第3のT.クルージポリペプチドをコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターを用いて、a)からd)のステップを繰り返すステップ、
f)ステップc)、d)、およびe)において得られたT.クルージポリペプチドの混和物を形成し、それによって、トリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出に好適な、可溶性で免疫反応性のポリペプチドの組成物を製造するステップ、
を含む。
【0049】
ある実施形態において、上記において詳述した、ポリペプチドの組成物を製造する方法は、遺伝子組み換えにより製造された3種のポリペプチドからなる組成物に関するものである。この場合、ステップe)は、第3のT.クルージポリペプチドのクルジパインをコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターを用いて繰り返される。
【0050】
本発明の別の態様は、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する方法であって、ポリペプチド1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含むトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物が、上記トリパノソーマ・クルージ抗体に対する捕捉試薬および/または結合パートナーとして使用される、方法に関する。
【0051】
ある実施形態において、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する当該方法は、上記において詳細に説明した1F8、JL7、およびクルジパインである3種のトリパノソーマ・クルージポリペプチドからなる組成物を適用する。ある実施形態において、ポリペプチド1F8は配列番号1を含み、JL7は配列番号2を含み、クルジパインは配列番号3を含む。さらに別の実施形態において、1F8は配列番号1からなり、JL7は配列番号2からなり、クルジパインは配列番号3からなる。上記において説明した、T.クルージ特異的抗体の検出のための、上記トリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物は、先行の段落のポリペプチドの製造方法によっても得ることができる。さらなる態様において、当該方法は、シャーガス病診断にとって最も関連するサブクラスとしてIgGおよびIgMを含む、全ての可溶性の免疫グロブリンのサブクラスのT.クルージ抗体の検出に好適な方法である。
【0052】
抗体の検出のためのイムノアッセイは、全ての当業者に周知であり、そのようなアッセイおよび実用的応用および手順を行う方法も周知である。本発明によるT.クルージ特異的抗原の組成物は、使用される標識、ならびに検出の様式(例えば、放射性同位体アッセイ、酵素イムノアッセイ、電気化学ルミネセンスアッセイなど)またはアッセイ原理(例えば、試験片アッセイ、サンドイッチアッセイ、間接的試験概念、またはホモジニアスアッセイなど)に依存しない、抗T.クルージ特異的抗体の検出のためのアッセイを向上させるために使用することができる。専門家に既知の全ての生体液体が、抗T.クルージ抗体の検出のための試料として使用することができる。通常使用される試料は、血液、血清、血漿、尿、または唾液などの体液である。
【0053】
本発明のさらなる態様は、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する方法であって、
a)体液試料を、上記において定義されるトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物と、または上記において説明する方法によって得られるトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物と混和することによって免疫反応混和物を形成するステップ、
b)ポリペプチド試料の上記組成物に対する、体液試料中に存在する抗体を、トリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物と免疫反応させて、免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、免疫反応混和物を維持するステップ、および
c)いかなる免疫反応生成物についてもその存在および/または濃度を検出するステップ、
を含む方法である。
【0054】
ある実施形態において、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出するための上記方法は、二重抗原サンドイッチ(DAGS)形式において実施される。そのようなアッセイでは、少なくとも2種の異なる所定の抗原の分子をその2つ(IgG、IgA、IgE)または10(IgM)の抗原結合部位に結合させる抗体の能力が必要とされ、ならびにその能力を利用する。上記DAGSイムノアッセイにおいて、「固相抗原」および「検出抗原」の基本構造は、本質的に同じであり、そのため、当該試料の抗体は、2つの特異的抗原の間に橋かけを形成する。したがって、1つの抗体が両方の抗原に結合することができるように、両方の抗原は、同一であるかまたは免疫学的に交差反応性であるかのどちらかでなければならない。そのようなアッセイを実施するための必須要件は、関連するエピトープ(複数可)が両方の抗原に存在することである。2種の抗原の一方は、固相に結合し得、他方は検出可能な標識を有する。
【0055】
本発明によれば、DAGSアッセイ手順は、
a)単離された試料に、固相に直接的または間接的に結合することができ、かつそれぞれが、バイオアフィン結合対の一部であるエフェクター基を有する第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物と、それぞれが検出可能な標識を有する第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物とを加えるステップであって、第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドが、上記抗トリパノソーマ・クルージ抗体に特異的に結合する、ステップ、
b)第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチド、試料抗体、および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドを含む免疫反応混和物を形成するステップであって、上記バイオアフィン結合対における対応するエフェクター基を有する固相が、免疫反応混和物を形成する前、形成中、または形成後に加えられる、ステップ、
c)体液試料中の第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドに対するトリパノソーマ・クルージ抗体を、第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドと免疫反応させて、免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、免疫反応混和物を維持するステップ、
d)固相から液相を分離するステップ、
e)固相もしくは液相またはその両方において、いかなる免疫反応生成物についてもその存在を検出するステップ、
を含む。
【0056】
ある実施形態において、上記第1のトリパノソーマ・クルージポリペプチドは、バイオアフィン結合対ビオチン/ストレプトアビジンの一部としてビオチン部分を有し、上記第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドは、電気化学ルミネセンス性のルテニウム錯体によって標識されている。
【0057】
本発明の別の実施形態は、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のためのインビトロ診断試験における、ポリペプチド1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含むトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物の使用である。ある実施形態において、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のためのインビトロ診断試験での使用のための当該組成物は、3種のT.クルージポリペプチド1F8、JL7、およびクルジパインからなる。トリパノソーマ・クルージポリペプチドの当該組成物は、上記においてより詳細に説明されるポリペプチドの製造方法によっても得ることができる。
【0058】
本発明のさらなる別の態様は、ポリペプチド1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含む、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のための試薬キットである。ある実施形態において、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のための当該試薬キット中に存在するポリペプチドは、ポリペプチド1F8、JL7、およびクルジパインからなる。当該キットは、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のためのインビトロ診断試験にとって有用であり、さらに、別々のバイアル瓶での対照および標準溶液、ならびに一般的な添加剤、緩衝液、塩、洗浄薬などを伴う1つまたは複数の溶液形態もしくは凍結形態での追加の試薬、ならびに当業者に既知の使用のための取扱説明書も含み得る。当該キットに対しても、トリパノソーマ・クルージポリペプチドの当該組成物は、上記においてより詳細に説明されるポリペプチドの製造方法によっても得ることができる。
【0059】
本発明のさらに別の実施形態において、発明者らは、T.クルージ抗原1F8の反応性がカルシウムイオンの存在に依存していることを示すことができた。実施例8/表7(
図8)において説明されるように、1F8がT.クルージ抗原組成物の一部である場合、カルシウムイオンの添加は、免疫学的反応性における明確な利得を生じる。さらに、カルシウム結合タンパク質である1F8抗原がT.クルージ抗原組成物において使用される場合、アッセイ緩衝液へのカルシウムイオンを添加することによって、試料材料としての血漿の回復効果(すなわち、血漿採取管での抗凝血物質、例えば、クエン酸塩、EDTA、またはヘパリンなど、のCa
2+錯体形成効果)を減少させることができる。したがって、本発明は、ポリペプチド1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含む、単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出に好適なポリペプチドの組成物であって、カルシウムイオンを1リットルあたり0.001〜100ミリモル、ある実施形態では1リットルあたり0.1〜10ミリモル、別の実施形態では1リットルあたり0.5〜5ミリモル、別の実施形態では1リットルあたり1〜5ミリモル、さらなる別の実施形態では1リットルあたり5ミリモルの濃度において含有する、組成物にも関する。カルシウムは、例えば、塩化カルシウムなどのような、水可溶性塩の形態において加えられ得る。上記において詳述したカルシウムイオンの添加は、単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出に好適な3種のポリペプチドの組成物に対しても適用され、この場合、当該ポリペプチドは、1F8、JL7、およびクルジパインである。ある実施形態において、ポリペプチド1F8は配列番号1を含み、ポリペプチドJL7は配列番号2を含み、ポリペプチドクルジパインは配列番号3を含む。さらなる別の実施形態において、当該ポリペプチドの1F8、Jl7、およびクルジパインは、それぞれ、配列番号1、2、および3からなる。
【0060】
カルシウムイオンの添加および定義された濃度範囲も、ポリペプチド1F8、JL7、ならびにクルジパイン、KMP−11、およびPAR2からなる群より選択されるポリペプチドのうちの少なくとも1つを含む、上記においてより詳細に説明したキットに対する、ならびに1F8、JL7、およびクルジパインからなる3種のT.クルージ−特異的ポリペプチドを伴うキットに対する実施形態である。当該キットは、前述において定義した濃度範囲、ある実施形態では1リットルあたり0.1〜10ミリモルの範囲、においてカルシウムイオンを含有し得る。
【0061】
本発明はさらに、実施例のセクションによって説明される。特に、当該実施例は、少なくとも3種の異なる抗原の新規の組成物、ある実施形態では3種の抗原からなる新規の組成物、として適用される場合にT.クルージ特異的抗体を検出するためのイムノアッセイにおいて特異度および感度に関して優れた結果を示す、T.クルージ特異的ポリペプチドの変異型を本発明者らが開発し作製したことを説明する。
【実施例1】
【0062】
シャペロン融合を有するトリパノソーマ・クルージ抗原のクローニングおよび精製
接頭語「EcSS」を伴って表1に表される、T.クルージ抗原をコードする合成遺伝子は、Eurofins MWG Operon(エーバースベルク、ドイツ)から購入した。Novagen(マディソン、ウィスコンシン、米国)のpET24a発現プラスミドに基づいて、以下のクローニングステップを実施した。当該ベクターをNdeIおよびXhoIで消化し、縦列SlyDおよびそれぞれのT.クルージ抗原を含む半合成カセットを挿入した。結果として得られるプラスミドのインサートを配列決定し、所望の融合タンパク質をコードすることを見出した。結果として融合タンパク質を生じる、T.クルージポリペプチド(配列番号1〜5)および大腸菌SlyDシャペロン部分(配列番号6)のアミノ酸配列が、本発明の配列プロトコルに示されている。2つのSlyDユニット(縦列SlyD)を、それぞれのT.クルージポリペプチドのN末端に融合させる。全ての遺伝子組み換えT.クルージ融合ポリペプチド変異型は、Ni−NTA−補助精製およびリフォールディングを容易にするために、C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号8)を有した。配列番号を表1にまとめる。
【0063】
全てのT.クルージシャペロン融合抗原を、特定のポリペプチド鎖におけるシステイン残基の存在に関係なく、同じプロトコルに従って、精製し、リフォールディングさせた。発現プラスミドを宿す大腸菌BL21(DE3)細胞を、カナマイシン(30μg/ml)を伴うLB培地において1OD
600まで培養し、37℃の培養温度において、1mMの最終濃度までイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を加えることによって、サイトゾル過剰発現を誘発させた。誘発の4時間後、遠心分離(5000×gで20分間)によって細胞を収穫し、冷凍して、−20℃で保存した。細胞溶解物に対しては、緩衝液50ml中における25mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、6mMのMgCl
2、10U/mlのBenzonase(登録商標)、1タブレットのComplete(登録商標)、および1タブレットのComplete(登録商標)EDTA−フリー(プロテアーゼ阻害剤カクテル)に凍結ペレットを再懸濁させ、結果として得られる懸濁液を高圧ホモジナイゼーションによって溶解させた。粗溶解物に、7MのGuHCl(塩酸グアニジン)、50mMのリン酸ナトリウム、5mMのイミダゾールとなるようにこれらを補い、1時間撹拌した。遠心分離後、当該上澄みを、緩衝液A(50mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、7.0MのGuHCl、5mMのイミダゾール)で事前に平衡化させたNi−NTA(ニッケル−ニトリロトリアセテート)カラム上に適用した。特に、SS−C−クルジパインに対して、時期尚早の二硫化物の橋かけおよび二硫化物のシャッフリングを防ぐために、金属キレートカラムに適合する還元剤として5mMのTCEPを当該洗浄緩衝液に含ませた。洗浄ステップ後、マトリックス結合タンパク質の配座リフォールディングを誘発するために、カオトロピック緩衝液Aを、緩衝液50ml中における50mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、10mMのイミダゾール、5mMのTCEP、1タブレットのComplete(登録商標)EDTA−フリー(プロテアーゼ阻害剤カクテル)によって置き換えた。続いて、緩衝液50ml中における50mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、10mMのイミダゾール、1タブレットのComplete(登録商標)EDTA−フリーで洗浄することによって、酸化フォールディング(すなわち、システイン残基の酸化橋かけ)を誘発させた。二価のNi
2+イオンの高い有効濃度に起因して、マトリックス結合融合タンパク質内でのジスルフィド橋かけの形成は、非常に速いプロセスである。溶離の前に、汚染タンパク質を除去するためにイミダゾール濃度を40mMまで上げた。次いで、50mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム中における250mMの濃度のイミダゾールを適用することによって、天然融合タンパク質を溶離させた。タンパク質含有分画の純度をSDS−PAGEにより評価し、プールした。最終的に、当該タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィにかけて、タンパク質含有分画をプールして濃縮した。
【実施例2】
【0064】
シャペロン融合を用いないトリパノソーマ・クルージ抗原のクローニングおよび精製
表1に一覧される、T.クルージ抗原をコードする合成遺伝子は、Eurofins MWG Operon(エーバースベルク、ドイツ)から購入した。Novagen(マディソン、ウィスコンシン、米国)のpET24a発現プラスミドに基づいて、以下のクローニングステップを実施した。T.クルージ抗原の1F8、JL7、KMP−11、またはC−クルジパインの場合、ベクターをそれぞれNdeIまたはBamH1によって消化し、Xho IおよびそれぞれのT.クルージ抗原(配列番号1〜4)を含むカセットを挿入した。結果として得られるプラスミドのインサートを配列決定し、所望のタンパク質をコードすることを見出した。結果として得られるタンパク質のアミノ酸配列は、本発明の配列プロトコルに示されている。
【0065】
全ての遺伝子組み換えT.クルージポリペプチド変異型は、Ni−NTA−補助精製およびリフォールディングを容易にするために、C末端ヘキサヒスチジンタグを有していた。配列番号を表1にまとめる。シャペロン融合を有しない全てのT.クルージ抗原を、以下のプロトコルに従って精製した。発現プラスミドを宿す大腸菌BL21(DE3)細胞を、カナマイシン(30μg/ml)を伴うLB培地において、1OD
600まで培養し、37℃の培養温度において、1mMの最終濃度までイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を加えることによって、サイトゾル過剰発現を誘発させた。誘発の4時間後、遠心分離(5000×gで20分間)によって細胞を収穫し、冷凍して、−20℃で保存した。細胞溶解物に対しては、緩衝液50ml中における25mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、6mMのMgCl
2,10U/mlのBenzonase(登録商標)、1タブレットのComplete(登録商標)、および1タブレットのComplete(登録商標)EDTA−フリー(プロテアーゼ阻害剤カクテル)に凍結ペレットを再懸濁させ、結果として得られる懸濁液を高圧ホモジナイゼーションによって溶解させた。粗溶解物に、50mMのリン酸ナトリウム、10mMのイミダゾールとなるようにこれらを補った。遠心分離後、当該上澄みを、緩衝液A(50mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、10mMのイミダゾール)で事前に平衡化させたNi−NTA(ニッケル−ニトリロトリアセテート)カラム上に適用した。溶離の前に、汚染タンパク質を除去するためにイミダゾール濃度を40mMまで上げた。次いで、250mMの濃度のイミダゾールを適用することによって、当該タンパク質を溶離させた。最終的に、当該タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィにかけて、タンパク質含有分画をプールして濃縮した。表1において、接頭語としてのEcSSまたはSSは、T.クルージポリペプチドにN末端融合させた縦列SlyD部分を示している。
【0066】
【表1】
【実施例3】
【0067】
T.クルージ抗原へのビオチンおよびルテニウム部分のカップリング
遺伝子組み換えタンパク質のリジンε−アミノ基を、約10mg/mlのタンパク質濃度において、それぞれ、N−ヒドロキシ−スクシンイミド活性化ビオチンおよびルテニウム標識によって修飾した。標識/タンパク質のモル比は、それぞれのタンパク質に応じて、3:1から30:1まで変えた。反応緩衝液は、50mMのリン酸カリウム(pH8.5)、150mMのKCl、0.5mMのEDTAであった。当該反応を室温において30分間実施し、緩衝されたL−リシンを10mMの最終濃度まで加えることによって当該反応を止めた。当該カップリング反応後、粗タンパク質コンジュゲートをゲルろ過カラム(Superdex 200 HI Load)を通すことによって未反応の遊離標識を除去した。
【実施例4】
【0068】
免疫診断試験における遺伝子組み換えT.クルージ抗原の免疫学的反応性の評価:ヒト血清における抗T.クルージ抗体の検出
異なるタンパク質の免疫学的反応性を、自動化されたcobas(登録商標) e601アナライザ(Roche Diagnostics GmbH)において評価した。測定は、二重抗原サンドイッチ形式において実施した。それにより、ビオチン−コンジュゲート(すなわち、捕捉抗原)が、ストレプトアビジンをコーティングした磁性ビーズの表面に固定され、その一方で、当該検出抗原は、シグナリング部分として、錯体化されたルテニウムカチオンを有する。cobas(登録商標) e601におけるシグナル検出は、電気化学ルミネセンスに基づいている。
【0069】
特異的免疫グロブリン分析物の存在下で、当該発色性ルテニウム錯体は、固相に橋かけ結合し、白金電極での励起後に620nmにおいて発光する。シグナル出力は、光の任意単位による。測定は、いくつかの供給元から購入した、抗T.クルージ陽性および陰性のヒト血清およびヒト血漿試料において実施した。全ての試料は、3種の市販のシャーガス病アッセイ(Abbott LaboratoriesからのArchitect Chagas、Biokit S.A.からのbioelisa Chagas、NovaTecからのNovaLisa Chagas IgG ELISA)により、それぞれの製造元の取扱説明書に従って試験した。
【0070】
Architect Chagasアッセイは、いくつかの多重エピトープ融合ポリペプチドを使用し、それらは、それぞれが抗原PEP−2、TcD、TcE、TcLo1.2、TcR27、FCaBP(=1F8)、TcR39、FRA(=JL7)、SAPA、およびMAPを含有するいくつかの遺伝子組み換えT.クルージポリペプチドを含み、結果として10の異なる抗原を生じる。bioelisa Chagasは、遺伝子組み換え抗原であるPEP−2、TcD、TcE、およびTcLo1.2を使用する。NovaLisa Chagas IgG ELISAは、多重エピトープ融合ポリペプチドTcFを使用し、これは、抗原PEP−2、TcD、TcE、およびTcLo1.2を含む。T.クルージ抗原の命名において、同一のまたは非常に類似した抗原が、しばしば、例えばFCaBP=1F8またはPEP−2は、B13およびAg2およびTcR39と同義であるなど、いくつかの同義語を有していることに留意されたい。レビューについては、Silveiraら Trends in Parasitol.2001, Vol. 17 No. 6またはMarciparら, Current Topics in Trop.Med 16 March 2012, p. 273−398を参照されたい。
【0071】
本発明による遺伝子組み換えT.クルージ抗原変異型を、二重抗原サンドイッチ(DAGS)イムノアッセイ形式において対毎に評価した。例えば、SS−1F8−ビオチンコンジュゲートを、50mMのMES(pH6.5)、150mMのNaCl、0.1%のポリドカノール、0.2%のウシアルブミン、0.01%のN−メチルイソチアゾロン、0.1%のオキシ−ピリオンを含有するアッセイ緩衝液において、それぞれ800ng/mlの濃度において、SS−1F8−ルテニウム錯体コンジュゲートと共に評価した。全ての測定において、化学的に重合された、標識されていないEcSlyD−EcSlyD(SS)を、シャペロン融合ユニットによる免疫学的交差反応を避けるための干渉防止物質として、反応緩衝液中において大過剰(20μg/ml)で使用した。抗T.クルージ陰性ヒト血清を対照として使用した。使用した試料体積は49μlであった。
【0072】
表2(
図1aおよび1b)に、T.クルージ抗原シャペロン融合変異型の免疫学的活性(上述の配列リストおよび配列の概要を参照されたい)を示す。最初の5つの試料は、正常なヒト血清であり、以下の試料は、証明済みのT.クルージ−抗体陽性試料である。シャーガス病陽性試験体と陰性試験体を十分に区別するために、説明したシャーガス抗原の評価のための実用的カットオフは、5つの正常なヒト血清の平均の6倍として任意に選択した。陽性であると判断された全ての結果は、太字において記述されている。
【0073】
T.クルージ抗原変異型の反応性が個々の患者の血清に強く依存することは明白である。本発明による全ての抗原変異型は、かなりの抗原性を示している。
表3(
図2)は、3種の市販のシャーガス病アッセイ(Architect Chagas、bioelisa Chagas、およびNovalisa Chagas IgG ELISA;成分抗原は上記を参照のこと)で試験した試験体の結果を示している。全ての試料は、過半数を超えるアプローチによってシャーガス病陽性であると特定される。これは、3つのアッセイのうちの2つが陽性の結果を示し、3番目のアッセイが陰性の結果を示す場合、アッセイの結果の過半数(2:1)が陽性であることから、当該試料は陽性と判断されることを意味する。陽性であると判断された個々の結果の全てが、太字において印刷されている。
【0074】
表3から分かるように、本発明に記載される全ての遺伝子組み換え抗原と反応する試験体はいくつかしか存在しない。EcSS−C−クルジパインは、表3(
図2)における調査した全てのシャーガス病陽性試料と反応することができる唯一の抗原であったが、ヒト血清におけるシャーガス病抗体の信頼性高い検出は、複数の特異的抗原を含む組成物を必要とする。
【実施例5】
【0075】
遺伝子組み換えT.クルージ抗原混合物の特異度
前に言及した遺伝子組み換えシャーガス病抗原の特異度(すなわち、真の陰性率)を評価するために、異なる抗原の混合物によって2つのプロトタイプキットを作製した。キット例1は、EcSS−1F8、EcSS−JL7、およびEcSS−C−クルジパインで作製した。キット例2は、さらにEcSS−KMP−11を含んでいた。
【0076】
T.クルージ抗原のポリペプチド変異型のビオチンおよびルテニウムコンジュゲートを、それぞれ、100ng/mlの濃度において適用した。全ての測定において、化学的に重合された、標識されていない干渉防止試薬EcSlyD−EcSlyD(SS)を、反応緩衝液中において大過剰(20μg/ml)で使用した。使用した試料体積は30μlであった。
【0077】
【表2】
【0078】
バイエルン赤十字からの494の血液ドナー(正常な試料)について両方のキット例によって試験し、その結果を上記の表4にまとめる。
494のうちの1つのみが、本発明の両方のキット例と反応した。この試料をさらに、非反応性の知見と共に、NovaTecのNovaLisa Chagas IgG ELISAによって調査した。結果として得られる99.80%の特異度は、他の市販の抗シャーガス病アッセイと一致する。
【実施例6】
【0079】
遺伝子組み換えT.クルージ抗原混合物の感度
実施例5において説明した2つのキット例の感度(すなわち、真の陽性率)を、ヒト血清マトリックスにおいて、シャーガス病抗体((TcIおよびTcII、TcI=T.クルージ遺伝子型I;TcII=T.クルージ遺伝子型II)に対する2つの異なるWHO標準の線形希釈系列の測定によって、2つの市販のシャーガス病アッセイ(Biokit S.A.のbioelisa Chagas、Ortho−Clinical DiagnosticsのOrtho T. cruzi ELISA Test System)と比較した(表5、
図3)。陽性であると判断された全ての結果が、太字において印刷されている。
【0080】
希釈感度実験において、本発明のキット例1とキット例2の間に有意な差は存在しない。しかしながら、両方のキット例は、4から6の線形希釈段階において、比較相手のアッセイであるbioelisa Chagas、Ortho T. cruzi ELISA、またはArchitect Chagasよりも感度が高い。bioelisa ChagasおよびArchitect Chagasの成分であるT.クルージ抗原は、実施例4において説明されている。Ortho T. cruzi ELISAは、T.クルージ細胞溶解物に基づいており、遺伝子組み換え抗原を含有しない。
【0081】
本発明によって達成される希釈感度の向上により、非常に低い抗体濃度でも、当該抗体の存在を信頼性高く検出することができる。
【実施例7】
【0082】
シャペロン融合の有無における遺伝子組み換えT.クルージ抗原の免疫学的反応性の比較
シャペロン融合を伴う遺伝子組み換えT.クルージ抗原の免疫学的反応性を、前の実施例において示した。本発明によるT.クルージ抗原の免疫学的反応性が、融合パートナーの存在に依存しないことを示すために、実施例2において説明したようなシャペロン融合を伴わない遺伝子組み換えT.クルージ抗原を、その免疫学的反応性に関しても評価した。表6(
図4)に測定の結果をまとめる。
【0083】
T.クルージ抗原のポリペプチド変異型のビオチンおよびルテニウムコンジュゲートを、それぞれ、100ng/mlの濃度において適用した。全ての測定において、化学的に重合された、標識されていない干渉防止試薬EcSlyD−EcSlyD(SS)を、反応緩衝液中において大過剰(20μg/ml)で使用した。使用した試料体積は30μlであった。
【0084】
表6(
図4)の測定データから結論付けることができるように、シャペロン融合パートナーを伴わないT.クルージ抗原変異型も、著しい抗原性を示す。観測される信号における差は、アクセス可能なリジン残基(SlyD−融合の有無における)の数の違いの結果としての標識率の違いによって説明することができる。異なる部位が標識され、これにより、エピトープが妨げられる程度に違いが生じ得るという、別の解釈もあり得る。さらに、シャペロン融合を伴わない抗原のモル濃度は、上記融合パートナーを含有するそれらのカウンターパートより高い。まとめると、T.クルージ抗体の検出のためのT.クルージポリペプチドの適性は、シャペロン融合パートナーに依存しない。T.クルージ−特異的抗体を検出するためには、T.クルージ特異的ポリペプチド抗原配列のみが必要である。
【実施例8】
【0085】
遺伝子組み換えT.クルージ抗原1F8の免疫学的反応性に対するカルシウムイオンの影響
遺伝子組み換えT.クルージ抗原1F8は、TC24、TC28、またはFCaBP(鞭毛カルシウム結合タンパク質)とも呼ばれ、トリパノソーマ・クルージの既知のカルシウム結合タンパク質であるが、これの免疫学的反応性に対するカルシウムイオンの影響を調査するために、実施例4において説明したアッセイ緩衝液に、1mMの濃度において塩化カルシウムを補った。EcSS−1F8のビオチンおよびルテニウムコンジュゲートを、それぞれ、200ng/mlの濃度において適用した。全ての測定において、化学的に重合された、標識されていない干渉防止試薬EcSlyD−EcSlyD(SS)を、反応緩衝液中において大過剰(20μg/ml)で使用した。使用した試料体積は30μlであった。
【0086】
表7(
図5)のシャーガス病に感染した患者の血清のほとんどは、アッセイ緩衝液へのカルシウムイオンの添加により、T.クルージ−1F8抗原の免疫学的反応性において明白な利得を示した。いくつかのシャーガス病陽性血清では、信号は倍になり得た。観察される信号の違いは、表2(
図1aおよび1b)にも示されるような、個々の患者の免疫応答における異種パターンによって説明することができる。
【0087】
カルシウムイオンの添加によるT.クルージ1F8抗原の免疫学的反応性における利得は、3種のポリペプチド1F8、JL7、およびクルジパインからなる本発明によるポリペプチド組成物を適用した場合にも観察することができた(データは示されていない)。