特許第6763868号(P6763868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6763868光吸収を使用する脈管のサイズを決定するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763868
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】光吸収を使用する脈管のサイズを決定するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/29 20060101AFI20200917BHJP
   A61B 18/08 20060101ALI20200917BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   A61B17/29
   A61B18/08
   A61B5/107
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-543824(P2017-543824)
(86)(22)【出願日】2016年2月19日
(65)【公表番号】特表2018-507047(P2018-507047A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】US2016018798
(87)【国際公開番号】WO2016134327
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2019年2月13日
(31)【優先権主張番号】62/118,429
(32)【優先日】2015年2月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514226350
【氏名又は名称】ブライトシード・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】BRITESEED,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ハリハラン・サブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・ガン
(72)【発明者】
【氏名】アマル・チャターベディ
【審査官】 北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/134411(WO,A1)
【文献】 特表2011−502592(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0222655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/29
A61B 5/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定するために使用される外科用システムであって、
前記外科用器具の前記作業端部に配置される少なくとも1つの発光体と、
前記少なくとも1つの発光体の反対側の前記外科用器具の作業端部に配置される少なくとも1つの光センサであって、第1脈動成分と第2非脈動成分とを含む信号を生成するように構成される少なくとも1つの光センサと、
前記少なくとも1つの光センサに連結された制御装置であって、前記第1脈動成分を前記第2非脈動成分から分離するように構成されるスプリッタと、前記外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを定量化するように構成される分析器とを備える制御装置とを備え、
前記分析器が前記第2非脈動成分の振幅に対する前記第1脈動成分の振幅の比に従って脈管のサイズを定量化するように構成される外科用システム。
【請求項2】
前記分析器が前記第1脈動成分及び第2非脈動成分の振幅比と振幅及び脈管サイズのデータベースとを比較するように構成される、請求項1に記載の外科用システム。
【請求項3】
前記第1脈動成分が交流信号成分を含み、前記第2非脈動成分が直流信号成分を含む、請求項1又は2に記載の外科用システム。
【請求項4】
前記制御装置はプロセッサとメモリとを備え、前記スプリッタは、前記第1脈動成分を前記第2非脈動成分から分離するようにプログラムされた前記プロセッサを備え、前記分析器は、前記分析器が前記第2非脈動成分の振幅に対する前記第1脈動成分の振幅の比に従って前記外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを定量化するようにプログラムされた前記プロセッサを備える、請求項1に記載の外科用システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの発光体は、少なくとも3つの異なる波長の光を放射するように構成され、前記少なくとも1つの光センサは、前記少なくとも3つの異なる波長を検出するように構成される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の外科用システム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの光センサが可視領域、近赤外線領域及び赤外線領域における光を検出するように構成される、請求項5に記載の外科用システム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの光センサは、660nm、810nm及び940nmの波長で光を検出するように構成される、請求項6に記載の外科用システム。
【請求項8】
作業端部を有する外科用器具を更に備える請求項1〜7のいずれか一項に記載の外科用システム。
【請求項9】
前記外科用器具は、第1及び第2の対向するジョー部構成要素を備え、前記少なくとも1つの発光体は前記第1ジョー部構成要素上に配置され、前記少なくとも1つの光センサは対向する前記第2ジョー部構成要素上に配置される、請求項8に記載の外科用システム。
【請求項10】
外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定するための、請求項1〜9のいずれかに記載の外科用システムの作動方法であって、
前記外科用器具の作業端部で光を放射し、
前記外科用器具の作業端部で光を感知し、
前記外科用器具の作業端部で感知される光に基づいて第1脈動成分及び第2非脈動成分を有する信号を生成し、
前記第2非脈動成分の振幅に対する前記第1脈動成分の振幅の比に従って前記外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定すること
を含む、方法。
【請求項11】
前記脈管のサイズを決定することが、前記第1脈動成分及び第2非脈動成分の振幅比と振幅及び脈管サイズのデータベースとを比較することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1脈動成分を前記第2非脈動成分から分離することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記光を放射することが少なくとも3つの異なる波長の光を放射することを含み、前記光を検出することが少なくとも3つの異なる波長の光を感知することを含む、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記光を感知することが可視領域、近赤外線領域及び赤外線領域における光を感知することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記光を感知することが660nm、810nm及び940nmの波長で光を感知することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記外科用器具は把持器又は熱結紮装置である請求項8に記載の外科用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明は、血管などの脈管のサイズを決定するためのシステム及び方法、特に、血管などの脈管のサイズを決定するために光吸収を使用するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外科的処置中に術野内のアーチファクト、特に脈管を識別するシステム及び方法は、外科医又は外科チームに貴重な情報を提供する。米国の病院は、手術中の偶発的な脈管損傷のために、払い戻し不可能な費用において何十億ドルを失っている。加えて、その関連患者は最高32%の死亡率に直面し、また矯正治療が必要となるため更に9日間入院することになり、数十万ドルではなくとも数万ドルの追加費用が生じるおそれがある。結果として、術野内の血管などの脈管の存在を正確に決定することのできる方法及びシステムから得られる重要な価値があり、これらの費用を削減又は回避することができるようになる。
【0003】
術野内の血管の存在に関する情報を提供するシステム及び方法は、低侵襲外科的処置中に特に重要である。伝統的に、外科医は、外科的処置中、触感に頼って血管を識別し、またこれらの脈管に対して不用意な損傷を回避してきた。腹腔鏡手術及びロボット手術などの低侵襲処置への移行のため、外科医は術野内の血管の存在に関して決定を下すための触感覚を使用する能力を失っている。結果的に、外科医は主に慣例及び経験に基づいて術野内に血管が存在するかどうかを決定しなければならない。残念なことに、先天性異常、以前の手術による瘢痕及び体質(例えば、肥満)のために、解剖学的不規則性が生じる場合が多い。
【0004】
術野内の脈管の有無を決定する能力は、外科医又は外科チームに価値のある利点を提供し、かつ、触感の識別方法が失われている低侵襲性処置にとって特に重要なものであると同時に、識別された脈管系を特徴付ける能力は、更なる重要な利点を提供する。例えば、脈管の内径又は外径などの脈管のサイズに関する情報を提供することが有利であろう。
【0005】
加えて、この情報を脈管検出と脈管分析との間で最小限の遅れで提供することが好ましく、それによって情報をリアルタイムなものとして特徴づけることができる。分析にかなりの時間を要する場合には、最低限でもこの遅延によって処置の実施に必要な時間が増大することになる。さらに、外科医は、器具の動きと情報の伝達との間の遅延を埋め合わせるために慎重なペースで動く必要があるため、遅延によって外科医の疲労が増える場合がある。実際にそのような遅延によって、提供される情報が脈管損傷のリスクを低減させる場合であっても、システムの採用が妨害される場合がある。
【0006】
更に、造影媒体又は造影剤の使用を要することなく脈管系を検出及び分析することが有利であろう。造影剤を使用して脈管系を識別することは従来型となっているが、造影剤を使用することにより依然として処置の複雑さが増す。造影剤の使用は、そうでなければ必要とされない追加の設備を必要とし、処置によって生じる医療廃棄物を増加させる場合がある。更に、造影剤の使用によって、患者による副作用のリスクが増える。
【0007】
以下により詳細に示すように、本発明は、既存の方法に対する有利な選択肢を具現化し、脈管を回避又は隔離するために識別の改善を与えることができる、脈管のサイズを決定するための脈管検出器及び方法を含めた外科用システムを説明する。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明の一態様によれば、外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定するために使用される外科用システムは、外科用器具の作業端部に配置される少なくとも1つの発光体と、少なくとも1つの発光体の反対側の外科用器具の作業端部に配置される少なくとも1つの光センサとを備え、当該少なくとも1つの光センサは、第1脈動成分と第2非脈動成分とを含む信号を生成するように構成される。システムはまた、少なくとも1つの光センサに連結された制御装置を備え、当該制御装置は、第1脈動成分を第2非脈動成分から分離するためのスプリッタと、第1脈動成分に基づいて外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを定量化するための分析器とを備える。
【0009】
本発明の別の態様によれば、外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定する方法は、外科用器具の作業端部で光を放射し、外科用器具の作業端部で光を感知し、外科用器具の作業端部で感知された光に基づいて第1脈動成分と第2非脈動成分とを有する信号を生成することを含む。方法はまた、信号の第1脈動成分に基づいて外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定することも含む。
【0010】
本発明は、添付の図面と併せて以下の説明からより完全に理解されるであろう。いくつかの図面は、他の要素をより明確に示すために選択された要素の省略によって簡略化されている場合がある。いくつかの図面における要素のそのような省略は、対応する記載に明示的に表示される場合を除いて、例示的な実施形態のいずれにおいて特定の要素の有無を必ずしも示すものではない。これらの図のいずれも、必ずしも縮尺通りではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る外科用システムの概略図である。
図2図2は、血液の光吸収を示すグラフである。
図3図3は、図1のシステムを使用して実施することができる本発明の一実施形態に係る外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定する方法のフロー図である。
図4図4は、図1のシステムを使用して実施することができる本発明の更なる実施形態に係る方法のフロー図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る発光体と光センサを有する外科用器具の概略図である。
図6図6は、光発体と光センサとの間に配置されるように例示された脈管の部分に関する、図5に係る光発体と光センサとを備える外科用器具の拡大部分図である。
図7図7は、実験の第1セットにおける脈管(チューブ)内径に対する透過率値のグラフである。
図8図8は、脈管が4つの異なる組織型(組織なし、脂肪組織、結合脂肪組織、及び肝臓組織)に囲まれた、実験の第2セットについての脈管(チューブ)内径に対する透過信号の脈動及び非脈動成分の対数の比のグラフである。
図9図9は、異なるタイプの組織(各欄は異なる組織型を表す)に囲まれた6mmの内径を有する脈管についての透過信号の脈動及び非脈動成分の対数の比のグラフである。
図10図10は、脈管が骨格化ブタ頸動脈である、実験の第3セットについての脈管の内径に対する透過信号の脈動及び非脈動成分の対数の比のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
様々な実施形態の詳細な説明
本発明の一実施形態に係る外科用システムは、少なくとも1つの発光体と少なくとも1つの光センサと制御装置とを備える。また、システムは、外科用器具を同様に備えることもできる。
【0013】
このシステムは、外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定する。特に、このシステムを使用して、脈管を取り囲む組織の存在又はタイプにかかわらず、外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定することができると考えられる。以下に説明するシステムの実施形態は、光センサによって決定される光透過率に基づいて対象領域内の脈管の存在及びサイズに関連する決定を行うため、実施形態は、酸素飽和度(すなわち、酸素と結合した血液ヘモグロビンの割合)を決定するために透過型パルスオキシメトリで使用される技術に表面的に類似しているようにもみえるかもしれない。以下の開示を慎重に考慮することにより、開示されるシステムは、発光体及び光センサを制御装置(独自の回路又は独自にプログラムされたプロセッサの形態)と共に使用して、パルスオキシメータでは提供されないであろう脈管の存在及びサイズに関する情報を提供することが明らかになるであろう。また、開示される技術は血管以外の脈管に使用してもよく、開示されるシステム及び方法を透過型パルスオキシメータと更に区別することができる。
【0014】
図1は、このような外科用システム100を使用して、外科用器具106の作業端部104に近接する組織Tの領域102内の脈管Vのサイズ(例えば、直径)を決定する実施形態を示す。脈管Vは、組織Tの領域102と共に他の脈管に繋がっていてもよく、加えて、脈管Vは患者の体内においても見られる他の器官(例えば、心臓)と流体連通するように領域102を越えて延びていてもよいと解される。更に、図1において、組織Tは脈管Vを特定の深さまで完全に囲んでいるようにみえる(円周及び長さの両方に関して)が、これはシステム100を使用する全ての例においてそうである必要はない。例えば、組織Tは、脈管Vの長さの周囲を部分的に取り囲む及び/又は該長さの一部を囲むに過ぎないものであってもよく、或いは、組織Tは、非常に薄い層で脈管Vを覆っていてもよい。更なる非限定的な例として、脈管Vは血管であってもよく、組織Tは結合組織、脂肪組織又は肝臓組織であってもよい。
【0015】
外科用システム100は、少なくとも1つの発光体110(又は単に発光体110)と少なくとも1つの光センサ又は検出器112(又は単に光センサ112)と発光体110及び光センサ112に連結した制御装置114とを備える。上記のように、システム100は、外科用器具106を備えていてもよい。
【0016】
発光体110は、外科用器具106の作業端部104に配置される。また、光センサ112も、外科用器具106の作業端部104に配置される。図示のとおり、光センサ112は発光体110の反対側に配置できる。以下に詳細に説明するように、発光体110及び光センサ112は外科用器具106の対向する構成要素上に配置されるからである。
【0017】
発光体110は、少なくとも1つの波長の光を放射するように構成される。例えば、発光体110は、940nmの波長を有する光を放射することができる。これは単一の素子又は複数の素子(これらの素子は、例えば以下に詳細に説明するように、アレイに配置又は構成されてもよい)によって達成されてもよい。同様に、光センサ112は、少なくとも1つの波長(例えば、940nm)で光を検出するように構成される。これもまた、単一の素子又は複数の素子(例えば、素子をアレイに配置又は構成してもよい)によって達成されてもよい。
【0018】
実際に、発光体110は少なくとも2つの異なる波長の光を放射するように構成されてもよく、光センサ112は少なくとも2つの異なる波長で光を検出するように構成されてもよい。例えば、発光体110は3つの波長の光を放射することができると共に、光センサは3つの波長の光を検出することができる。一例として、発光体110は可視領域の光、近赤外線領域の光及び赤外線領域の光を放射することができ、光センサ112は当該光を検出することができる。具体的には、発光体110は660nm、810nm及び940nmで光を放射することができ、光センサ112は当該光を検出することができる。このような実施形態を使用して、例えば生体内条件下での血管V及び周囲組織Tの最適な透過を確実にすることができる。
【0019】
特に、810nmで放射される光を、動き及び/又は血液灌流による光出力の変動を除去するための基準として使用してもよい。810nmの波長は、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの両方の吸収が等しい等吸収点に相当する(図2参照)。結果的に、この波長での吸収は血液の酸素化とは無関係であり、動き及び/又は灌流変化による光の透過率の変化に影響を受けるにすぎない。
【0020】
本発明の実施形態によれば、光センサ112は、第1脈動成分と第2非脈動成分とを含む信号を生成するように構成される。第1脈動成分は信号の交流(AC)信号成分であってよく、一方で第2非脈動成分は直流(DC)信号成分であってよいことが分かるであろう。
【0021】
例えば、血管は毎分約60パルス(又は脈拍)の特徴的な脈動を有するものであると説明できる。これは患者の年齢及び状態によって変化し得るが、脈動の範囲は典型的には毎分60〜100パルス(又は脈拍)の間である。光センサ112は、脈管を通る血液の動きに相当する特定のAC波形を有する信号(制御装置114に通される)を生成することになる。特に、AC波形は、脈管内の脈動血流による光吸収に相当する。一方、DC成分は、主として周辺組織による光の吸収及び散乱に相当する。
【0022】
制御装置114は光センサ112に連結され、第1脈動成分を第2非脈動成分から分離するためのスプリッタ116を備える。また、制御装置114は、第1脈動成分に基づいて外科用器具106の作業端部104に近接する領域102内の脈管Vのサイズを定量化するための分析器118も備える。領域102内の脈管Vのサイズを表示し、示し又はそうでなければ伝達するために、制御装置114は、視覚的、可聴的、触覚的又は他の信号を外科用器具106のユーザに提供することのできる出力装置又はインジケータ130に連結されていてもよい。
【0023】
特定の実施形態によれば、スプリッタ116及び分析器118は、1つ以上の電気回路構成要素によって画定されてもよい。他の実施形態によれば、1つ以上のプロセッサ(又は単にプロセッサ)を、スプリッタ116及び分析器118の動作を実行するようにプログラムしてもよい。更なる別の実施形態によれば、スプリッタ116及び分析器118は、電気回路構成要素によって部分的に、及び、スプリッタ116及び分析器118の動作を実行するようにプログラムされたプロセッサによって部分的に画定されてもよい。
【0024】
例えば、スプリッタ116は、第1脈動成分を第2非脈動成分から分離するようにプログラムされたプロセッサを備える又はそれによって画定されてもよい。更に、分析器118は、第1脈動成分に基づいて外科用器具106の作業端部104に近接する領域102内の脈管Vのサイズを定量化するようにプログラムされたプロセッサを備える又はそれによって画定されてもよい。プロセッサをプログラムする命令は、プロセッサに関連するメモリに格納されてもよく、そのメモリは1つ以上の有形の非一時的なコンピュータ可読メモリを含むことができ、プロセッサによって実行されると一つ以上のプロセッサが一つ以上の動作を実施させることができる、それに格納される実行可能なコンピュータ命令を有することができる。
【0025】
システム100の実施形態によれば、分析器118は、少なくとも1つの光センサ112からの信号の第1成分の振幅に従って脈管のサイズを定量化することができる。実際、特定の実施形態によれば、分析器118は第2成分の振幅に対する第1成分の振幅の比に従って脈管のサイズを定量化する。特に、分析器118は第1成分の振幅の対数と第2成分の振幅の対数との比に従って脈管のサイズを定量化することができる。システム100は、脈管を取り囲む組織のタイプ又は厚さに関係なく血管のサイズを定量化することと考えられる。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、分析器118は第1成分の振幅、第1成分及び第2成分の振幅比又は第1及び第2成分の振幅の対数比の比を、振幅及び脈管サイズのデータベース又はテーブル140と比較することができる。データベース/テーブル140はシステム100を使用して第1及び第2成分の振幅の様々な比(又は特には、第1及び第2成分の様々な比又は対数比)と脈管サイズの間との関係を決定する実験データに基づいて生成されてもよく、このサイズは、脈管の断面及び顕微鏡分析によってシステム100を使用してデータが収集された後に明確に決定される。
【0027】
システム100に加えて、本発明は外科用器具106の作業端部104に近接する領域102内の脈管Vのサイズを決定する方法150の実施形態を含む。方法150は、例えば、図1に関して説明されたシステム100を使用して実施してもよい。
【0028】
図3のフロー図に示すとおり、方法150は、外科用器具の作業端部で光を放射し(ブロック152)、外科用器具の作業端部で光を感知し(ブロック154)、外科用器具の作業端部で感知された光に基づいて第1脈動成分と第2非脈動成分とを有する信号を生成する(ブロック156)ことを含む。方法150は、信号の第1脈動成分に基づいて外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定する(ブロック158)ことを含むこともできる。
【0029】
方法の更なる実施形態を図4に示す。本実施形態によれば、方法150’は、外科用器具の作業端部で光を放射し(ブロック152’)、外科用器具の作業端部で光を感知し(ブロック154’)、外科用器具の作業端部で感知された光に基づいて第1脈動成分と第2非脈動成分とを有する信号を生成する(ブロック156’)ことを含む。これらの動作は、方法150、150’に共通であるため、同様の参照番号が使用されており、図3の方法150’の要素はプライム記号を含めて示されている。
【0030】
方法150’によれば、脈管のサイズを決定することは、信号の第1脈動成分の振幅に従って外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定することを含むことができる。方法150’に従って脈管のサイズを決定することは、第2成分の振幅に対する第1脈動成分の振幅の比に従って外科用器具の作業端部に近接する領域内の脈管のサイズを決定することを更に含むことができる。更に、方法150’に従って脈管のサイズを決定することは、第1及び第2成分の振幅比と振幅及び脈管サイズのデータベースとを比較することを含むこともできる。他の実施形態によれば、脈管のサイズを決定する方法は、これらの動作の全てよりも少ない動作を含むことができる。
【0031】
図示のとおり、方法150’は、第1脈動成分を第2非脈動成分から分離する(ブロック160)ことを含む。更に、方法150’は、第1成分の振幅を決定し(ブロック162)、第2成分の振幅を決定する(ブロック164)ことを含む。加えて、方法150’は、第1成分の振幅の対数を決定し(ブロック166)、第2成分の振幅の対数を決定する(ブロック168)ことを含む。ブロック160、162、164、166は、並行して実施する代わりに連続的に実施できることが分かるであろう。
【0032】
さらに、方法150’は、第1及び第2成分の振幅の対数比を決定し(ブロック170)、第1及び第2成分の振幅の対数比に基づいて脈管Vのサイズを定量化する(ブロック172)ことを含む。上記のように、ブロック172は、比をデータベース又はルックアップテーブルと比較する動作を含むことができる。方法150’は、インジケータ130を通して出力を提供する(ブロック174)ことも含む。
【0033】
上記のように、放射された光は少なくとも2つの異なる波長の光を含むことができるため、感知するステップは、少なくとも2つの異なる波長の光を検出することを含むことができる。上記のように、3つの異なる波長の光を、例えば可視領域及び近赤外線領域において使用することができる。一実施形態によれば、使用する光は、660nm、810nm及び940nmの波長を有することができる。
【0034】
このようにして、外科用システム100、方法150、150’、またシステム100及び方法150、150’の原理を一般的に説明してきたが、システム100及びその操作を更に詳細に説明する。
【0035】
最初に、発光体110及びセンサ112は外科用器具106の作業端部104に配置されるものとして説明されているが、発光体110及びセンサ112を画定する構成要素の全てを器具106の作業端部に配置する必要はないことが分かるであろう。すなわち、発光体110は発光ダイオードを備えてもよく、その構成要素は作業端部104に配置してもよい。あるいは、発光体110は、所定の長さの光ファイバと光源とを備えてもよく、ここで光源は作業端部104から離れて配置され、光ファイバは光源に光学的に結合される第1端部とセンサ112に面している作業端部104に配置される第2端部とを有する。本発明によれば、そのような発光体110は、光が器具106の作業端部104で組織内に放射されるので、依然として作業端部104に配置されるものとして説明される。同様の構成を、センサ112について説明することができ、その際、光ファイバは、発光体110に面して配置された第1端部(又は、特に発光体110を部分的に画定する光ファイバの端部)とセンサ112を集合的に画定する他の構成要素に光学的に結合された第2端部とを有する。
【0036】
また上記のように、発光体110及び光センサ112は、互いに対向して配置される。このことは、発光体110とセンサ112とが互いに直接向き合うことを必要とするものではないが、これが好ましい。特定の実施形態によれば、発光体110及びセンサ112は、外科用器具106のジョー部180と一体的に(すなわち、一部として)形成できる。図1、4及び5を参照されたい。このようにして、ジョー部180間で、且つ、関心組織を通して発光体110によって放射される光を、光センサ112が捕捉することができる。
【0037】
発光体110は、1つ以上の素子を含むことができる。図5及び6に概略的に示す実施形態によれば、光センサ112は、第1発光体110−1、第2発光体110−2及び第3発光体110−3を含むことができる。第1発光体110−1は可視領域における光を放射するように構成でき、第2発光体110−2は近赤外線領域における光を放射するように構成でき、第3発光体110−3は赤外線領域における光を放射するように構成できる。例えば、第1発光体110−1は、600nm又は660nmで光を放射するように構成でき、第2発光体110−2は、810nmで光を放射するように構成でき、第3発光体110−3は、940nmで光を放射するように構成できる。
【0038】
発光体110が例えば器具106の作業端部104に配置される1つ以上の発光ダイオードの形である実施形態に関して、これらのダイオードは、1次元、2次元又は3次元アレイの形態で配置できる。1次元アレイの例としては、ダイオードを単一の平面における線に沿って配置することを挙げることができ、一方で2次元アレイの例としては、ダイオードを単一の平面において複数の行及び列に配置することが挙げることができる。二次元アレイの更なる例としては、曲面上又は曲面内に線に沿ってダイオードを配置することを挙げることができる。3次元アレイは、曲面上又は曲面内における複数の行及び列など、2以上の平面に配置されたダイオードを含むことができる。
【0039】
また、光センサ112も、1つ以上の個々の素子を含むことができる。図5及び6に概略的に示す実施形態によれば、光センサ112は、第1光センサ112−1、第2光センサ112−2及び第3光センサ112−3を含むことができる。第1光センサ112−1は可視領域における光を検出するように構成でき、第2光センサ112−2は近赤外線領域における光を検出するように構成でき、第3光センサ112−3は赤外線領域における光を検出するように構成できる。例えば、第1光センサ112−1は、600nm又は660nmで光を検出するように構成でき、第2光センサ112−2は、810nmで光を検出するように構成でき、第3光センサ112−3は、940nmで光を検出するように構成できる。他の実施形態によれば、各センサ112−1、112−2、112−3は、3つの波長全てでの光を検出することができる。発光体110−1、110−2、110−3の場合と同様に、光センサ112−1、112−2、112−3はアレイ状に配置でき、上記のアレイに関する説明をここでも同様に適用する。
【0040】
上記のように、システム100は、発光体110、センサ112及び制御装置114に加えて、ハードウェア及びソフトウェアを含むことができる。例えば、1つ以上の発光体110を使用する場合には、駆動コントローラを設けて個々の発光体素子の切り替えを制御することができる。同様に、1つ以上のセンサ112を含む場合にはマルチプレクサを設けることができ、このマルチプレクサをセンサ112と増幅器とに連結することができる。更に、制御装置114は、必要に応じてフィルタ及びアナログ/デジタル変換を含むことができる。
【0041】
制御装置114と共に使用するインジケータ130に関して、様々な出力装置を使用することができる。例えば、発光ダイオード130−1を、関連する外科用器具106に装着し又は組み込むことができ、器具106の作業端部104にさらに配置することができる。あるいは、手術に使用するビデオモニタ130−2にアラートを表示してもよく、又はモニタ上の画像の色を変え、フラッシュさせ、サイズを変え、又は別の方法で外観を変えることができる。また、インジケータ130は、聴覚アラームを与えるスピーカ130−3の形態とすることができ又はスピーカ130−3を含むことができる。また、インジケータ130は、器具106の使用を中断する外科用器具106に関連する安全ロックアウト130−4の形態とすることができ又は安全ロックアウト130−4を組み込むことができる。例えば、ロックアウトは、外科用器具106が熱結紮装置である場合には結紮又は焼灼を防止することができるだろう。更に他の例として、インジケータ130は、外科用器具106のハンドル又はハンドピースに装着され又はそれと一体的に形成されて触覚表示又はアラームを提供することのできるバイブレータ130−5などの触覚フィードバックシステムの形態であってもよい。インジケータ130のこれらの特定の形態の様々な組合せを使用することができる。
【0042】
上記のように、外科用システム100は、発光体110と光センサ112とが装着された(選択肢として、取外し可能に又は永久的に/不可逆的に)作業端部104を有する外科用器具106も含むことができる。その代わりに、発光体110及び光センサ112は、外科用器具106と一体的に(すなわち、一部として)形成できる。更に、発光体及び光センサを、外科用器具又はツール106と共に使用する別個の器具又はツールに装着することが可能である。
【0043】
上記のように、一実施形態では、外科用器具106は熱結紮装置とすることができる。別の実施形態では、外科用器具は、例えば解剖器具、把持器又は把持鉗子、外科用ステープラ、クリップアプライア及びロボット外科用システムなどの他の外科用器具であってもよい。単一の実施形態の図示は、システム100を他の外科用器具又は器具106と共に使用することを排除することを意図するものではない。
【実施例】
【0044】
上記システムの実施形態を使用して一連の実験を行った。実験及び結果を以下に報告する。
【0045】
実験のために使用されたシステムの実施形態は、単一の発光体(発光ダイオード)と、調整可能な試験リグに取り付けられた単一の光センサとを備え、光センサを発光体の反対側の試験領域にわたって配置した。このリグは、フレーム又は基部(これには光センサが取り付けられている)と、フレームに装着された2つの直線ガイドロッド(試験領域のどちらかの側に間隔を置いて配置されている)と、ブロック(これには発光体が取り付けられている)とを備え、このブロックは基部に対して調節可能に移動することができるようにガイドロッドに摺動自在に取り付けられた。発光体とセンサの間の距離を良好に制御できるように、ガイドロッドの1つを螺合させた。
【0046】
例えば、血管(例えば、動脈)といった脈管に見られる流体の脈動流れをシミュレートするために、潜水型DCポンプを使用した。ポンプは毎分40〜80サイクルで作動することができ、特定の値に設定することができる流量を供給することができた。使用した流体は、ヘパリンを添加したウシ全血であり、生理的粘度を維持するために高温に維持した。以下に説明する実験について、血液を毎分60サイクル及び毎分500mLの流量で圧送した。
【0047】
実験の最初の2セットの脈管をシミュレートするために、様々な内径(4mm、4.8mm、6mm、8mm)の透明なPVCチューブを、流体がチューブを通過している間に発光体と光センサとの間のリグの試験領域に配置した。実験の第3セットでは、様々な内径の骨格化ブタ頸動脈を使用した。
【0048】
実験の第1セットの間に、チューブを発光体/センサのペアとチューブとの間には物質を追加することなくリグ内に配置した。ポンプを作動させて血液をチューブに通し、センサからの信号の脈動成分を測定した。
【0049】
図7は、脈動成分とチューブの直径との間の相関関係を示す。脈動成分と脈管サイズとの間の直接的な相関が認められる。
【0050】
実験の第2セットの間、チューブを様々なタイプのブタ組織で包んで(で取り囲んで)リグ内に配置した。特に、ブタ脂肪組織、ブタ脂肪及びブタ結合組織の組み合わせ、及びブタ肝臓組織を使用した。4つの異なるチューブ内径(4mm、4.8mm、6mm、8mm)のそれぞれと、3つの異なる組織タイプのそれぞれと、非組織対照についてサンプルを調製した。合計で、60個のサンプルを調製し、試験のために試験リグ内に配置した。
【0051】
図8は、それぞれの直径及び組織の範囲(組織なし、脂肪、脂肪結合、肝臓)についての脈動及び非脈動の光透過信号の対数比間の相関関係を示し、一方で、図9は、内径6mmの脈管に関する異なる組織タイプ(組織なし、脂肪、結合/脂肪、肝臓)について計算された比間の相関関係を示す。図8から分かるように、組織のタイプにもかかわらず、比は脈管直径と非常によく相関した(R2=0.987)。加えて、図9から分かるように、異なる組織のタイプについて計算された比は本質的に同じであったが、これはこのメトリック(比)が周辺組織とは無関係であることを示している。重要なことに、様々な組織タイプと組織の厚さによって、ANOVA試験(p>0.05)に従う信号出力に差異が生じることはなかったが、これは脈管内径に対するメトリックの特異性を示している。
【0052】
実験の第3セットの間、様々な内径の骨格化ブタ頸動脈を、発光体/センサのペアと動脈との間に物質を追加することなくリグ内に配置した。ポンプを作動させて動脈に血液を通し、センサからの信号の脈動成分を測定した。脈管の直径を、NIH ImageJソフトウェアを用いて脈管に沿った測定点で脈管の断面を定量化することによって得た。
【0053】
図10は、様々な内径の脈管についての脈動及び非脈動の光透過信号の対数比間の相関を示す。脈動成分と脈管サイズとの間の相関が認められ、R2=0.987である。
【0054】
結論として、前述の内容は本発明の異なる実施形態の詳細な説明を示すが、本発明の法的範囲は本明細書の最後に示される特許請求の範囲の用語によって定義されることを理解すべきである。あらゆる可能な実施形態を説明することは不可能ではないにしても非現実的であるため、詳細な説明は単に例示的なものと解釈され、本発明のあらゆる可能な実施形態を説明するものではない。現在の技術又は本願の出願日後に開発された技術のいずれかを使用して、本発明を規定する特許請求の範囲内に依然として含まれるであろう多数の別の実施形態を実施することができる。
【0055】
なお、「本明細書で使用するときに、用語‘ ’とは、...を意味すると定義される」又は同様の文を使用して本明細書において用語が明示的に定義されていない限り、この用語の意味をその明白な又は通常の意味を超えて明示的又は黙示的に限定する意図はなく、このような用語は、本明細書の任意の節でなされた任意の記述(特許請求の範囲の用語以外)に基づいて範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書の最後にある特許請求の範囲に記載されている用語は、単一の意味に一致する態様で本明細書において言及されている程度まで、読者を混乱させないようにするためのみに明確化されており、当該特許請求の範囲の用語は、暗示その他によってその単一の意味に限定されることを意図しない。最後に、特許請求の範囲の要素が、用語「手段」及び構造の記載のない機能を記載することによって定義されていない限り、いかなる特許請求の範囲の要素の範囲も米国特許法第35条§112(f)の条項に基づいて解釈されることを意図しない。
図1
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