(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークおよび工具を相対的に回転させる主軸と前記ワークおよび前記工具を相対的に送る複数の送り軸とを備え、加工により生じる切屑を細断するために、前記主軸と前記送り軸との協調動作により、前記工具および前記ワークを相対的に揺動させながら前記ワークの加工を行う工作機械の制御装置であって、
加工条件に基づいて揺動指令を作成する揺動指令作成部と、
前記揺動指令および移動指令に基づいて、前記工具および前記ワークを相対的に揺動させながら前記ワークの加工を行う制御部と、
を備え、
前記揺動指令作成部は、
前記加工条件が前記複数の送り軸のうちの1つの送り軸の補間動作による加工を示す場合には、加工経路に沿う方向に前記工具および前記ワークを相対的に揺動させるように前記揺動指令を作成し、
前記加工条件が前記複数の送り軸の同時補間動作による加工を示す場合には、加工経路に対して揺動方向を変更するように前記揺動指令を変更する、
工作機械の制御装置。
前記揺動指令作成部は、前記加工条件が前記複数の送り軸の同時補間動作による加工を示す場合には、前記複数の送り軸のうちの1つの送り軸の送り方向に前記工具および前記ワークを相対的に揺動させるように前記揺動指令を変更する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の工作機械の制御装置。
ワークおよび工具を相対的に回転させる主軸と前記ワークおよび前記工具を相対的に送る複数の送り軸とを備え、加工により生じる切屑を細断するために、前記主軸と前記送り軸との協調動作により、前記工具および前記ワークを相対的に揺動させながら前記ワークの加工を行う工作機械の制御装置であって、
加工条件に基づいて揺動指令を作成する揺動指令作成部と、
前記揺動指令および移動指令に基づいて、前記工具および前記ワークを相対的に揺動させながら前記ワークの加工を行う制御部と、
を備え、
前記揺動指令作成部は、
前記加工条件が前記複数の送り軸のうちの1つの送り軸の補間動作による加工を示す場合には、加工経路に沿う方向に前記工具および前記ワークを相対的に揺動させるように前記揺動指令を作成し、
前記加工条件が前記複数の送り軸の同時補間動作による加工を示す場合には、揺動を停止するように前記揺動指令を変更する、
工作機械の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0016】
図1は、本実施形態に係る制御装置を備えた加工システムを示す図である。
図1に示す加工システム1は、工作機械10と、工作機械10を制御する制御装置20とを備える。
【0017】
工作機械10は工具11を有する。工具11は、例えば円筒形、円柱形、円錐形、または円錐台形などを有するワークを切削加工する。
図1の例では、工具11は、ワークWの外周面を切削加工する。
図1の例では、ワークWの回転軸となる該ワークの中心軸線をZ軸、Z軸に対して垂直な軸線をX軸としている。
工作機械10は、Z軸に沿う方向の形状が直線状に限られず、円弧状であるワークの加工も可能である。また、工作機械10は、ワークの外周面に限られず、円筒形のようなワークの内周面の加工も可能である。また、工作機械10は、切削加工に限られず、研削や研磨など加工も可能である。
【0018】
工作機械10は、主軸M0と、主軸M0と協調動作する少なくとも2つの送り軸M1、M2とを有する。主軸M0はスピンドルモータまたはサーボモータを含み、送り軸M1、M2はサーボモータを含む。主軸M0および送り軸M1、M2は、制御装置20によって制御される。
主軸M0は、ワークWを該ワークの中心軸線(Z軸)まわりに回転させる。送り軸M1は、Z軸方向(第一方向)に工具11を送ることとZ軸方向に工具11を往復運動、すなわち揺動させることの両方を行うことができる。送り軸M2は、X軸方向(第二方向)に工具11を送ることとX方向に工具11を往復運動、すなわち揺動させることの両方を行うことができる。
【0019】
円柱形または円筒形のワークを旋削加工する場合、ワークWを該ワークの中心軸線(Z軸)まわりに回転するとともに、工具11はワークの外周面の母線に沿うZ軸方向(この場合の加工方向)のみに送られる。
【0020】
一方、円錐形または円錐台形、或いは円弧形のワークのように外径がZ軸方向において異なるワークを旋削加工する場合、ワークWが該ワークの中心軸線(Z軸)まわりに回転するとともに、工具11はワークの外周面の母線に沿う斜方向(Z軸方向およびX軸方向の合成方向)(この場合の加工方向)に送られる。この場合、工具11をワークWの外周面の母線に沿って斜め方向に送るために、少なくとも2つの送り軸M1、M2が必要とされる。送り軸M1と送り軸M2の両方を制御することにより、工具11はワークWの外周面の母線に沿って斜め方向に送られる。
【0021】
制御装置20は、バスを介して互いに接続された、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ、CPU(control processing unit)、および通信制御部を備えたコンピュータを用いて構成されている。さらに、制御装置20は、位置指令作成部22、揺動指令作成部23(後述する
図2の揺動振幅計算部231、揺動周波数計算部232、および揺動指令計算部233を含む)、制御部26(後述する
図2の加算器24、減算器25、学習制御器27、および位置速度制御器28を含む)、および記憶部29を備え、それら各部の機能もしくは動作は、上記コンピュータに搭載されたCPU、メモリ、および該メモリに記憶された制御プログラムが協働することにより達成されうる。
【0022】
記憶部29には、ワークWの加工条件などが記憶されている。ワークWの加工条件には、ワークWの中心軸線まわりにおけるワークWおよび工具11の相対的な回転速度、工具11およびワークWの相対的な送り速度、および、送り軸M1,M2の位置指令などが含まれる。
【0023】
制御装置20にはCNC(Computer Numerical Controller)、PLC(Programmable Logic Controller)等の上位コンピュータ(不図示)が接続されており、前述した回転速度や送り速度などは上位コンピュータから記憶部29に入力されてもよい。また、記憶部29や位置指令作成部22は制御装置20内ではなく、上記の上位コンピュータに備えられていてもよい。
【0024】
また、記憶部29は工作機械10に実行させる加工プログラムを記憶しており、制御装置20内のCPU(不図示)が、その加工プログラムから前述の回転速度および送り速度を加工条件として読みだして位置指令作成部22や制御部26に出力するようになっていてもよい。
【0025】
位置指令作成部22は、ワークWの中心軸線まわりにおけるワークWおよび工具11の相対的な回転速度ならびに工具11およびワークWの相対的な送り速度に基づいて、送り軸M1,M2の位置指令(移動指令)を作成する機能を有している。この位置指令は、工具11およびワークWをワークWの外周面の母線に沿う方向(加工方向)に相対的に送るときの目標位置を制御部26に対して指示する指令となるものである。
【0026】
揺動指令作成部23は、前述した回転速度および送り速度に基づいて、前述した回転速度に対して正の非整数倍の揺動周波数になるように且つ工具11がワークWを断続切削するように、送り軸M1の揺動指令を作成する。揺動指令は、前述した中心軸線まわりにおける回転速度に対して非同期になるように作成された周期的な指令であり、揺動周波数と揺動振幅とを含んでいる。後述する揺動指令の式(1)におけるS/60×Iの項による値が揺動周波数に相当し、式(1)におけるK×F/2の項による値が揺動振幅に相当する。揺動指令作成部23の詳細は後述する。
【0027】
なお、上記の断続切削とは、工具11が周期的にワークWに接触およびワークWから離間しながらワークWを切削加工することを意味し、揺動切削または振動切削ともいう。また、
図1においてはワークWが回転すると共に工具11がワークWに対して揺動するようになっているが、工具11がワークWの中心軸線まわりに回転すると共にワークWが工具11に対して揺動する構成であってもよい。また、
図1において一つの送り軸M1,M2によりワークWの送り動作と揺動動作の両方を行っているが、ワークWの送り動作と揺動動作のそれぞれを別々の送り軸で行う構成であってもよい。
【0028】
制御部26は、前述の位置指令と送り軸M1,M2の実位置との差である位置偏差に前述の揺動指令を加算して得られる合成指令(例えば位置指令値)に基づいて、トルク指令を作成して送り軸M1,M2を制御する機能を有する。送り軸M1,M2の実位置は、その送り軸M1,M2に搭載されたエンコーダ等の位置検出部(不図示)により得られる位置フィードバック値に相当する。
【0029】
以下、揺動指令作成部23について詳細に説明する。
図3は、送り量と回転角度との関係を示す図である。
図3における横軸はワークWの回転角度を示し、縦軸は加工方向(すなわち、
図1のワークWの外周面の母線に沿った方向)における工具11の送り量を示している。
図3には斜方向に延びる複数の直線状破線C1、C2、C3…が示されている。
図3から分かるように、破線C1と縦軸との間の交点の縦軸座標は、次の破線C2の開始点における縦軸座標に相当する。同様に、破線C2と縦軸との間の交点の縦軸座標は、次の破線C3の開始点における縦軸座標に相当する。これらの複数の直線状破線C1、C2、C3…は揺動指令が無い場合においてワークWにおける工具11の軌跡を示している。一方、
図3に示される曲線A1,A2,A3…は、揺動指令がある場合においてワークW上における工具11の軌跡を示している。つまり、破線C1、C2、C3等は、揺動指令が加算される前の位置指令(元の指令値)のみを示し、曲線A1,A2,A3等は、揺動指令が加算された後の位置指令を示しているものとする。よって、曲線A1,A2,A3は、破線C1、C2、C3により表される各位置指令に余弦波状の揺動指令を加算して得られる指令を示している。
【0030】
また、曲線A1はワークWの第一回転目における工具11の軌跡であり、曲線A2はワークWの第二回転目における工具11の軌跡であり、曲線A3はワークWの第三回転目における工具11の軌跡である。簡潔にする目的で、ワークWの第四回転目以降の工具11の軌跡は図示を省略している。
【0031】
揺動指令作成部23は以下のようにして揺動指令を作成する。揺動指令作成部23は、位置指令作成部22によって作成された送り軸M1,M2の位置指令である破線C1、C2、C3の各々を基準軸線とする曲線A1,A2,A3のような指令を作成するため、余弦波状の揺動周波数を決定する。後述する式(1)におけるS/60×Iの項による値が揺動周波数となる。
【0032】
上記の揺動周波数を決定する場合、
図3に示されるように、或る破線、例えば破線C2を基準軸線とする余弦波状の曲線A2の初期位相は、一つ前の破線、例えば破線C1を基準軸線とする余弦波状の曲線A1に対して半周期ズレるのが好ましい。その理由は、半周期ズレた場合には、揺動指令の揺動振幅を最小限にでき、その結果、最も効率的に切屑を細断できるためである。
【0033】
揺動指令作成部23は、破線C1、C2、C3の各々を基準軸線とする曲線A1,A2,A3のような指令を作成するため、前述した揺動指令の揺動振幅を決定する。後述する式(1)におけるK×F/2の項による値が揺動振幅となる。
図3に示される曲線A1と曲線A2とは、回転角度が約0度の箇所B1と回転角度が約240度の箇所B2とにおいて互いに重なっている。
図3から分かるように箇所B1、B2においては破線C1に対する曲線A1の最大値は、破線C2に対する曲線A2の最小値よりも大きい。言い換えれば、揺動指令作成部23は、前の曲線A1と後の曲線A2とが部分的に互いに重なるように揺動振幅を決定するのが望ましい。なお、曲線A1,A2,A3においては、送り速度が一定のため、各揺動指令の揺動振幅もすべて同じとなる。
【0034】
この重なり箇所B1、B2においては、工具11が曲線A2の軌跡で加工しているときにワークWから離間するので、ワークWは加工されない。本実施形態においては、このような重なり箇所B1、B2が周期的に発生するので、いわゆる断続切削を行うことができる。
図3に示される例においては、曲線A2に従った動作により切屑が箇所B1、B2においてそれぞれ発生することとなる。つまり、第二回転目の曲線A2においては二つの切屑が発生する。このような断続切削が周期的に行われるので振動切削が可能となる。
【0035】
さらに、破線C3に対して形成される曲線A3は曲線A1と同じ形状である。曲線A2と曲線A3とは、回転角度が約120°の箇所B3と約360°の箇所B4において重なっている。曲線A3に従った動作により切屑が箇所B3、B4においてそれぞれ発生することとなる。つまり、第三回転目の曲線A3においては二つの切屑が発生する。以降、ワーク一回転毎に二つの切屑が発生する。ただし、一回転目では切屑は発生しない。
【0036】
このようにして揺動周波数と揺動振幅とを定めることにより、制御部26内の揺動指令作成部23は揺動指令を作成する。
例えば、揺動指令は、次式(1)のように表される。
【数1】
式(1)において、Kは揺動振幅倍率、FはワークWの一回転当たりの工具11の移動量、すなわち毎回転送り量[mm/rev]、SはワークWの中心軸線まわりの回転速度[min
-1],or [rpm]、Iは揺動周波数倍率、である。ここで、前述の揺動周波数は式(1)におけるS/60×Iの項に相当し、前述の揺動振幅は式(1)におけるK×F/2の項に相当する。但し、揺動振幅倍率Kは1以上の数とし、揺動周波数倍率Iはゼロより大きい非整数とする(例えば0.5、0.8、1.2、1.5、1.9、2.3、又は2.5、…等の正の非整数)。揺動振幅倍率Kおよび揺動周波数倍率Iは定数である(
図3の例では、Iは1.5である)。
揺動周波数倍率Iを整数としない理由は、ワークWの中心軸線まわりの回転数と全く同じになる揺動周波数の場合には、前述した重なり箇所B1、B2、B3、B4等を発生させることができず、揺動切削による切屑の細断効果が得られなくなるからである。
【0037】
また、式(1)によると、揺動指令は、位置指令を示す各破線C1、C2、C3を基準軸線とする余弦波に対して(K×F/2)の項がオフセット値として減じられた指令となっている。このため、位置指令に揺動指令を加算して得られる合成指令値に基づく工具11の位置軌跡を、工具11の加工方向において位置指令による位置を上限として制御することができる。そのため、
図3の曲線A1、A2、A3等は、破線C1、C2、C3等を+方向(すなわち、工具11の加工方向)において超えないようになっている。
さらに、式(1)で表されるような揺動指令とすることで、
図3の曲線A1から分かるように、工具11の加工開始点(横軸の0°の位置)で工具11の送り方向に初めから大きな揺動が出ないようにしている。
なお、揺動周波数と揺動振幅とを定める際に調整される各パラメータ(式(1)におけるK、I)の初期値は、工作機械10の稼働前に記憶部29に記憶されているものとする。ワークWの回転速度(S)は、記憶部29に加工条件として事前に記憶されている。毎回転送り量Fは、その回転速度(S)と位置指令作成部22が作成した位置指令とから求められる。
【0038】
図2は、制御装置20、特に揺動指令作成部23および制御部26のより具体的な構成例を示すブロック図である。
図2に示された制御装置20は、記憶部29と、位置指令作成部22と、揺動指令作成部23と、制御部26とを備える。記憶部29と位置指令作成部22は、制御装置20に接続されたNC装置等の上位コンピュータ(不図示)に備えられてもよい。
【0039】
揺動指令作成部23は、加工条件に基づいて揺動指令を作成および変更する。
一般に、ワーク加工形状が円筒形、円柱形の場合、ワークWの外周面の母線に沿う送り軸M1(Z軸)方向である加工方向に沿って、揺動が行われる。
一方、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合、一般に、ワークWの外周面の母線に沿う斜め方向、すなわち送り軸M1(Z軸)方向と送り軸M2(X軸)方向との合成方向である加工方向に沿って、揺動が行われる。この場合、送り軸M1,M2で同時に揺動を行うことにより、工作機械の負荷が大きくなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、ワーク加工形状が円筒形、円柱形の場合、すなわち加工条件が複数の送り軸M1,M2のうちの1つの送り軸M1のみの補間動作による加工を示す場合には、揺動指令作成部23は、上述同様に、加工経路に沿う方向、すなわち加工方向(Z軸方向)に工具11およびワークWを相対的に揺動させるように揺動指令を作成する。
一方、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合、すなわち加工条件が複数の送り軸M1,M2の同時補間動作による加工を示す場合には、加工経路に沿う方向に対して揺動方向を変更するように(例えば、加工経路の接線方向に対して方向を変更してもよい)、揺動指令を変更する。例えば、送り軸M2を揺動させた方が機械の負荷がより大きくなる場合には、送り軸M2の揺動が小さくなるように揺動方向を変更することで、機械全体としての負荷を小さくすることができる。
揺動指令作成部23は、揺動振幅計算部231と、揺動周波数計算部232と、揺動指令計算部233とを備える。
【0041】
揺動振幅計算部231は、加工条件および機械条件に基づいて各送り軸M1,M2(Z軸、X軸)の揺動振幅倍率Kを計算し、これらの揺動振幅倍率Kおよび移動指令に基づいて各送り軸M1,M2(Z軸、X軸)の揺動振幅K×F/2を計算する。
ここで、加工条件は、ワークWのテーパ又は円弧のための複数の送り軸M1,M2の補間動作による加工を示す情報、およびワークWのテーパ角度θ1(
図4および
図6参照)を含む。機械条件は、工具11の角度θ2、すなわちワークWの中心軸(Z軸)に対する切り込み角度θ2(
図4および
図6参照)を含む。加工条件および機械条件は、例えば記憶部29に予め記憶されていてもよいし、加工プログラムから取得されてもよい。移動指令は、ワークWの一回転当たりの工具11の移動量F、すなわち毎回転送り量F[mm/rev]を含む。
【0042】
具体的には、ワーク加工形状が円筒形、円柱形の場合、すなわち加工条件が複数の送り軸M1,M2のうちの1つの送り軸M1のみの補間動作による加工を示す場合には、揺動振幅計算部231は、加工経路に沿う方向、すなわち加工方向(ワークの外周面の母線に沿うZ軸方向)に工具11およびワークWを相対的に揺動させるように、送り軸M1(Z軸)のみの揺動振幅倍率Kを計算し、この揺動振幅倍率Kに基づいて送り軸M1(Z軸)のみの揺動振幅K×F/2を計算する。より具体的には、揺動振幅計算部231は、所定の揺動振幅倍率Kに基づいて、揺動振幅K×F/2を計算する。
【0043】
一方、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合、すなわち加工条件が複数の送り軸M1,M2の同時補間動作による加工を示す場合には、加工経路に対して揺動方向を変更するように、すなわち加工方向(ワークの外周面の母線に沿うZ軸方向とX軸方向との合成方向)でない方向に工具11およびワークWを相対的に揺動させるように、各送り軸M1,M2(Z軸、X軸)の揺動振幅倍率Kを計算し、これらの揺動振幅倍率Kに基づいて各送り軸M1,M2(Z軸、X軸)の揺動振幅K×F/2を計算する。
【0044】
図4は、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合に、加工方向でないZ方向のみに揺動させる場合の送り軸M1(Z軸)の揺動振幅倍率Kの計算方法を説明するための図である。
図4において、FはワークWの一回転当たりの工具11の移動量、すなわち毎回転送り量[mm/rev]、θ1はワークWのテーパ角度[rad]、θ2は工具11の角度[rad]、Kは揺動振幅倍率[倍]、αはマージンである。
例えば、
図4の矢印部分の揺動振幅倍率Kは、次式(2)のように表される。
【数2】
なお、
図4および
図5では、マージンα=0としている。
【0045】
これにより、
図5に示すように、加工方向に揺動した場合のZ軸方向の揺動幅(破線矢印)およびX軸方向揺動幅(破線矢印)と比較して、Z軸方向の揺動幅(実線矢印)は少し増加するが、X軸方向の揺動幅(実線矢印)は0であるので、複数の送り軸の総揺動幅が低減される。そのため、工作機械全体の負荷が低減される。
【0046】
図4に示すように、1軸揺動にて切屑を細断するためには、ワークのテーパ角度θ1および工具の角度θ2により必要な揺動振幅倍率Kが変わる。最大の揺動振幅倍率を固定で設定してもよいが、ワークのテーパ角度が小さいほど揺動振幅が大きくなるため、負荷が大きくなり、それに耐えうる機械にするにはコストがかかる。
なお、ワーク加工形状が円弧の場合、切り込み角度に応じてワークのテーパ角度θ1が変わるものとして揺動振幅倍率を変更すればよい。
【0047】
また、
図6は、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合に、Z軸方向から少し傾いた加工方向でない方向に揺動させる場合の各送り軸M1,M2(Z軸、X軸)の揺動振幅倍率Kの計算方法を説明するための図である。
図6において、Fz、FxはZ軸又はX軸のワークWの一回転当たりの工具11の移動量、すなわち毎回転送り量[mm/rev]、θ3はZ軸方向からの傾き角度[rad]、Kz、KxはZ軸又はX軸の揺動振幅倍率[倍]、αz、αxはZ軸又はX軸のマージンである。
【0048】
例えば、毎回転送り量Fの場合の最小揺動幅Aは、次式(3)のように表される。
【数3】
【0049】
これにより、例えば、各Z軸およびX軸の揺動振幅倍率Kz,Kxは、次式(4)および次式(5)のように表される。
【数4】
【数5】
式(4)においてθ3=0とすると、Z軸方向のみに揺動する式(2)と同一となる。
なお、
図6および
図7では、マージンαz=0,αx=0としている。
【0050】
これにより、
図7に示すように、加工方向に揺動した場合のZ軸方向の揺動幅(破線矢印)およびX軸方向揺動幅(破線矢印)と比較して、Z軸方向の揺動幅Az(実線矢印)は少し増加するが、X軸方向の揺動幅Ax(実線矢印)は減少する。X軸方向の揺動の方が機械に与える影響が大きい場合、工作機械全体の負荷が低減される。
【0051】
揺動周波数計算部232は、加工条件に基づいて揺動周波数を計算する。具体的には、揺動周波数計算部232は、ワークWの中心軸線まわりの回転速度S[min
-1],or [rpm]と揺動周波数倍率Iとに基づいて、揺動周波数S/60×Iを計算する。
【0052】
揺動指令計算部233は、揺動振幅および揺動周波数に基づいて、式(1)より、揺動指令を計算する。
【0053】
次に、制御部26は、加算器24、減算器25、学習制御器27、および位置速度制御器28を備える。
減算器25は、位置指令作成部22により作成された位置指令(移動指令)と、送り軸M1,M2におけるエンコーダからの位置フィードバック(実位置)との差である位置偏差を求める。加算器24は、減算器25から出力された位置偏差と、揺動指令作成部23により作成された揺動指令とを加算して、合成指令を作成する。
【0054】
学習制御器27は、加算器24から出力された直後の合成指令を入力し、合成指令の補正量が小さくなるように学習制御を行うことにより合成指令の補正量を求めて、位置速度制御器28に入力される直前の合成指令に加算する。
【0055】
位置速度制御器28は、学習制御器27により補正された合成指令に基づいて、位置制御、速度制御および電流制御を行い、送り軸M1,M2におけるサーボモータを駆動制御する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の工作機械の制御装置20によれば、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合、加工方向(Z軸方向とX軸方向との合成方向)でない方向に揺動させるように揺動指令を自動で変更する。これにより、複数の送り軸の総揺動幅を低減することができ、工作機械全体の負荷を低減することができ、揺動切削に起因する工作機械の負荷の増加を低減することができる。また、負荷が大きい送り軸の揺動を低減することができ、揺動切削に起因する工作機械の負荷の増加を低減することができる。
【0057】
ところで、工具11の駆動機構部にバックラッシが在る場合やその駆動機構部の剛性が低い場合には、サーボの応答性を向上させるために制御ゲインを高く設定すると振動が発生し、工具11の位置精度が安定しないことがある。例えば、
図3に示される曲線A1、A2、A3等に対応した指令値に基づいて送り軸M1,M2を駆動したとしても、工具11の実位置は、曲線A1、A2、A3等に完全には追従しない場合がある。この場合、重なり箇所B1、B2、B3、B4等において工具11の実位置が曲線A1、A2、A3等のような指令値と一致しないと、断続切削が起きず、その結果、切屑が良好に形成されなくなる。
【0058】
このため、本実施形態では、学習制御を用いて揺動指令への追従性を向上させる。学習制御は「繰返しパターンの決まった周期指令」への追従性を向上する制御方式であり、1周期目より2周期目、2周期目より3周期目……と周期が進むにつれて位置偏差を減少させることができる。具体的には、ワークWおよび工具11の所定数の振動周期分の位置偏差を学習し補正量とすることにより、揺動指令による周期的な位置偏差の増加を抑制する。さらに言えば、例えば、学習の周期には、上述した式(1)の揺動指令の揺動周波数から求まる周期(例えば、1揺動周期=1/揺動周波数)を使用することができる。制御部26は、1揺動周期を回転角度での周期に換算し、その回転角度での周期を所定の分割数で分割して求まる各位相にて、合成指令の補正量を求める。制御部26において、それら位相ごとに合成指令の補正量を求めて学習1周期分記憶し、1学習周期前の各位相での補正量を位相ごとに現在の合成指令に加算することによって、合成指令に含まれる位相偏差をゼロ付近に低減させる。
その結果、工具11の実位置は、指令値の曲線A1、A2、A3等に次第に近づくようになり、最終的には指令値の曲線A1、A2、A3等に一致する。この場合には、指令値の曲線A1、A2、A3等は前述の重なり箇所B1、B2、B3、B4等を有することとなるので、断続切削が確実に起こり、細断化された切屑を確実に形成することができる。
【0059】
(変形例1)
上述した実施形態では、揺動振幅計算部231は、加工条件および機械条件に基づいて揺動振幅倍率を計算した。しかし、本発明はこれに限定されず、制御装置20は、複数の揺動振幅倍率とワークの複数のテーパ角度とが関連付けされたテーブルまたは関数(情報)を記憶部に予め記憶し、揺動振幅計算部231は、テーブルまたは関数におけるワークのテーパ角度に対応する揺動振幅倍率を取得してもよい。
【0060】
(変形例2)
また、上述した実施形態では、揺動指令作成部23は、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合、加工方向(Z軸方向とX軸方向との合成方向)でない方向に揺動させるように、すなわち揺動方向を変更するように揺動指令を自動で変更した。しかし、揺動指令作成部23は、これに限定されず、ワーク加工形状が円錐形、円錐台形(テーパ)の場合または円弧形を含む場合、すなわち加工条件が複数の送り軸M1,M2の同時補間動作による加工を示す場合には、揺動を停止するように揺動指令を変更してもよい。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、ワークWが回転すると共に工具11がワークWの外周面の母線に沿って揺動する構成を例示したが、本発明はこの構成に限定されない。
本発明に係る工作機械は、ワークWと工具11をワークWの中心軸線まわりに相対的に回転させる主軸M0と、該中心軸線に沿った加工方向にワークWと工具11とを相対的に送る少なくとも二つの送り軸M1、M2等とを制御して、ワークWを加工する構成であればよい。例えば、工具11がワークWの中心軸線まわりに回転すると共にワークWが工具11に対して揺動する構成、あるいは、ワークWが回転すると共に工具11に対してワークWがワークWの外周面の母線に沿った方向に揺動する構成が想定されうる。本発明では、工具11がワークWの中心軸線まわりに回転してワークWを切削する加工方法も加工の一種とする。