(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763952
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】自動車の油圧ブレーキ装置を操作する方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20200917BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T8/17 D
【請求項の数】11
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-529228(P2018-529228)
(86)(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公表番号】特表2018-536577(P2018-536577A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】EP2016074477
(87)【国際公開番号】WO2017097467
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2018年6月6日
(31)【優先権主張番号】102015224711.2
(32)【優先日】2015年12月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100175743
【弁理士】
【氏名又は名称】田渕 周作
(72)【発明者】
【氏名】ガウリク,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】コッホ,マテウス
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−030423(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第10316413(DE,A1)
【文献】
特開2012−076621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の油圧ブレーキ装置を操作する方法において、該油圧ブレーキ装置を通じてホイール個別的に油圧ブレーキ圧を生成可能であり、ブレーキプロセスが実行される場合に、自動車の前後方向ダイナミクスおよび/または左右方向ダイナミクスに関してセンサで判定されるデータに依存して該油圧ブレーキ圧が調整される状況において、目標走路からの自動車の現在の側方間隔を認識するための周辺区域センサ装置のデータを用いてホイール個別的なブレーキ圧が調整され、前記自動車が目標走路から逸脱することを低減して安定的に目標走路に保つ、方法。
【請求項2】
自動車の直進走行時に前記方法が実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
目標走路からの自動車の現在の側方間隔を判定するための前記周辺区域センサ装置はビデオセンサを含んでいることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
目標走路からの自動車の現在の側方間隔を判定するための前記周辺区域センサ装置はレーダーセンサを含んでいることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ホイール個別的なブレーキ圧の調整時にブレーキ圧低減だけが実行されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記油圧ブレーキ装置のマスタブレーキシリンダにおけるブレーキフィード圧を下回るブレーキ圧コントロールによって前記方法が実施されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記油圧ブレーキ装置のマスタブレーキシリンダにおけるブレーキフィード圧を上回るブレーキ圧コントロールによって前記方法が実施されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記目標走路はナビゲーションシステムの情報から決定されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記目標走路は側方の車道区切りに対する自動車の側方間隔から決定されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法を実施する制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の制御装置を有している車両のブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の油圧ブレーキ装置を操作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキプロセス中の自動車の1つまたは複数のホイールのブロックを防止するためにアンチブロックシステムを装備する、自動車の油圧ブレーキ装置が知られている。その場合、ホイールの回転数がセンサで判定され、該当するホイールのホイール回転数が他のホイールに比べて不釣り合いに大きく低下していると、ホイールのブレーキ圧が低減される。
【0003】
これに加えて、車両の前後方向ダイナミクスと左右方向ダイナミクスに関してセンサで検出された情報を基礎として、ブレーキ装置のブレーキ圧を自動的に変更するエレクトロニックスタビリティシステムが知られている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の方法により、自動車が高い信頼度で目標走路に追従するように、自動車の油圧ブレーキ装置を操作することができる。目標走路は特に道路経過によって設定され、たとえば、車両のナビゲーションシステムおよび/または側方の車道区切りとの目標間隔に由来する情報を通じて設定される。この方法では、自動車がブレーキプロセス中に安定して目標走路に保たれ、特に、望ましくない側方へのスリップや、ブレーキプロセス中の車両運動に対する車両の斜め位置が回避される。
【0005】
自動車の油圧ブレーキ装置は、油圧ブレーキ圧を車両ホイールごとに各々のブレーキユニットでホイール個別的に調整することができるように施工される。このとき、車両ホイールのブレーキユニットのブレーキ圧は、ブレーキ圧上昇なしに、ホイールブレーキ圧が個別に低減されるだけであるように変更されるのが好ましい。あるいは、場合によっては油圧ポンプを用いて、ブレーキ圧上昇も実行することができるようにホイールブレーキ圧を変更することができる。
【0006】
油圧ブレーキ装置は制御プロセスで操作される。ブレーキ装置にはセンサ装置が付属しており、これを通じて自動車の前後方向ダイナミクスおよび/または左右方向ダイナミクスに関するデータが判定される。判定されたデータを基礎としてコントローラ信号が生成され、これによって、特に油圧ブレーキ装置の取込弁と吐出弁が圧力変更のために制御される。
【0007】
車両の前後方向ダイナミクスまたは左右方向ダイナミクスに関する情報が判定されるセンサ装置は、ホイール回転数センサならびに場合により特に左右方向加速度を判定するための加速度センサ、および/または現在のステアリングホイール角を判定するためのステアリングアングルセンサ、および/または車両の現在のヨー角ないしヨーレートを判定するためのヨー角センサを含んでいるのが好ましい。
【0008】
本発明による方法では、車両の周辺区域センサ装置のデータが追加的に援用され、これによって目標走路からの自動車の現在の横方向間隔を判定することができる。このことは、車両がブレーキプロセス中に目標走路の中心を走っているものの、目標走路に対して浮動角を変化させながら往復運動している車両位置と車両状況を検知することを可能にする。ブレーキプロセス時に発生し得る別の走行状況では、制動開始時に車両が振れて側方への軽い回転運動を行い、それに続いて、車両がゼロに等しいヨーレートの値をもって目標走路から外れる。
【0009】
このような走行状況を周辺区域センサ装置を通じて認識することができ、それは、目標走路からの自動車の側方への現在の逸脱が判定されることによる。ホイール個別のブレーキ圧を、目標走路に対する現在の側方間隔を考慮したうえで調整することができ、それにより、前述した走行状況を防止し、もしくは少なくとも目標走路からの逸脱の程度を減らすことが可能である。このように、周辺区域センサ装置のデータの考慮はブレーキプロセス中の走行安定性を改善する。
【0010】
好ましい実施形態では、油圧ブレーキ装置を操作する方法は自動車の直進走行時に実施される。直進走行時には、ステアリングホイール角とヨーレートについての目標値がゼロに等しい。あるいはカーブ走行時に、特に一定の曲率半径を有するカーブの通過走行時に、場合により一定でないカーブ曲率のときにも、本発明によるブレーキ方法を実施することが可能である。いずれのケースでも、周辺区域センサ装置のデータが、車両安定化のために目標走路からの自動車の現在の側方間隔を認識するために援用される。
【0011】
周辺区域センサ装置は、たとえばビデオセンサおよび/またはレーダーセンサを含んでいる。周辺区域センサ装置により記録されたデータが車両でコントロール装置ないし制御装置へ供給され、そこでデータが評価されて、データを基礎としたうえで、1つまたは複数のアクチュエータを制御するための、特に油圧ブレーキ装置の取込弁および/または吐出弁を制御するための調節信号が生成される。さらにコントロール装置ないし制御装置で、自動車の前後方向ダイナミクスおよび/または左右方向ダイナミクスの判定のためにセンサ装置のデータが処理される。
【0012】
別の好都合な実施形態では、ホイール個別的なブレーキ圧の調整時にブレーキ圧低減だけが実行される。このような方式は、特にブレーキ装置のマスタブレーキシリンダにおける現在のブレーキフィード圧が十分であり、この圧力に対して圧力上昇を行う必要がなく、それにより、圧力上昇のための追加の油圧ポンプも必要ないという利点がある。むしろブレーキ圧の調整は、さまざまな車両ホイールの1つまたは複数のホイールブレーキユニットでのブレーキ圧低減によって行われる。
【0013】
代替的な実施形態では、ブレーキ装置のマスタブレーキシリンダにおけるブレーキフィード圧を上回るブレーキ圧コントロールを実行することも可能である。そのために特に追加の油圧ポンプ、たとえばブレーキ装置のエレクトロニックスタビリティプログラムの油圧ポンプが制御される。このように、車両安定化のためのホイール個別的な調整は、ホイール個別的なブレーキ圧の上昇を通じても低減を通じても実行することが可能である。
【0014】
油圧ブレーキ装置を操作するためのさまざまな方法ステップは、場合により油圧ブレーキ装置の構成要素であってよいコントロール装置ないし制御装置を通じて実行される。
【0015】
その他の利点や好都合な実施形態は、その他の請求項、図面の説明、および自動車の油圧ブレーキ装置を操作する方法手順が模式的な形で示されている図面から読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る装置ないし方法を概略的に表したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1のブロック1は、自動車4の目標挙動2および実際挙動3を部分ブロックとして含んでいる。目標挙動2は車両のさまざまな情報を含んでおり、これらの情報を用いて車両の現在の目標走路が決定され、さらには運転者の希望が確認される。これらの情報は車両のセンサ装置を通じて確認することができる;たとえば車両の目標走路は、好ましくはレーダーセンサおよび/またはビデオセンサを含む周辺区域センサ装置を用いて判定することができる。周辺区域センサ装置を用いて、たとえば側方の車道区切りからの自動車の側方の間隔が判定される。
【0018】
車道区切りからの側方の間隔がわかれば、たとえば側方の車道区切りに対する定義された目標間隔を通じて、目標走路を判定することができる。
【0019】
その追加または代替として目標走路は、道路地図が追加的に格納された、車両に携行されるナビゲーションシステムの情報から決定することもできる。このようなデータから、車両の実際位置ならびに目標走路を決定することができる。
【0020】
自動車4が制動される油圧ブレーキ装置を操作する本方法については、直線状の目標走路も曲がった目標走路も考慮の対象となる。
【0021】
特にハンドル操作やブレーキペダルの操作に照らしたときの運転者の希望も、場合により車両に携行されるセンサ装置を通じて決定することができる。
【0022】
部分ブロック3の実際挙動は、自動車4の前後方向ダイナミクスおよび/または左右方向ダイナミクスを決定するための車両に携行されるセンサ装置を用いて判定される。このとき、たとえばホイール回転数、左右方向加速度、およびヨーレートがセンサ装置を通じて決定される。ステアリングアングルの判定を通じても自動車4の実際挙動を確認することができ、それは、たとえば特に左右方向の加速度値が、ステアリングアングルを基礎においたうえで判定されることによる。
【0023】
さらに、車両に存在するセンサ装置を通じて、車両の油圧ブレーキ装置の現在の状態に関して、特に各ホイールのさまざまなホイールブレーキユニットにおけるホイール個別的なブレーキ圧に関して、情報が提供される。
【0024】
ブレーキプロセスが実行されるとき、自動車4の走行安定性を改善するために、もしくは走行不安定性を回避するために、各ホイールにおけるホイールブレーキユニットがホイール個別的に制御される。このとき、目標挙動2と実際挙動3に由来する情報がコントローラ5で処理され、このコントローラで、油圧ブレーキ装置のアクチュエータ6を、特に取込弁と吐出弁を制御するための調節信号が生成される。
【0025】
自動車4をブレーキプロセス中に安定的に保つために、特に、目標走路からの側方へのスリップを防止するために、一方では、自動車の前後方向ダイナミクスおよび/または左右方向ダイナミクスに関するセンサ装置のデータが援用され、特に、ホイール回転数センサ、左右方向加速度センサ、およびステアリングアングルセンサに由来する横方向加速度値が援用される。他方では、レーダーセンサやビデオセンサを含む周辺区域センサ装置の情報も援用され、これを通じて、目標走路からの自動車4の実際位置の側方への逸脱を検出することができる。このようにして、ブレーキプロセスの開始時における車両の側方へのスリップや、目標走路を中心とする車両の繰り返される往復運動を、これらにそれぞれ伴って生じる車両垂直軸を中心とするわずかな回転運動も含めて回避し、もしくは少なくとも最小化することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 ブロック
2 目標挙動
3 実際挙動
4 自動車
5 コントローラ
6 アクチュエータ