(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に設けられた耐火樹脂層とを備え、前記耐火樹脂層が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物からなる耐火シート。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐火樹脂組成物又は請求項6〜8のいずれか1項に記載の耐火シートを、バッテリーセルの周囲に配置することで、バッテリーセルが熱暴走した際の発火を抑制する、バッテリーセルの発火抑制方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
[耐火樹脂組成物]
本発明の耐火樹脂組成物は、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上である吸熱剤及び樹脂を含有する。本発明においては、樹脂100質量部に対する吸熱剤の含有量は、10〜10000質量部である。すなわち、吸熱剤100質量部に対する樹脂の含有量は、1〜1000質量部である。
樹脂100質量部に対する吸熱剤の含有量が10質量部より少ないと、耐火樹脂組成物からなる耐火材を周囲に配置したバッテリーセルが発火した場合に、速やかに消火することが難しくなる。また、樹脂100質量部に対する吸熱剤の含有量が10000質量部を超えると、耐火樹脂組成物の成形性や、樹脂による吸熱剤の保持性能、樹脂における吸熱剤の分散性などが悪くなり、耐火シートの機械的強度が低下しやすい。
本発明は、上記のように第1の形態及び第2の形態を提供するものである。以下、第1及び第2の形態について、詳細に説明する。
【0012】
(第1の形態)
第1の形態の耐火樹脂組成物は、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上である吸熱剤及び樹脂を含有し、樹脂100質量部に対する吸熱剤の含有量が、10〜1600質量部である。本発明の第1の形態の耐火樹脂組成物は、特定の熱分解開始温度及び吸熱量を有する吸熱剤と、樹脂とを特定の割合で有するため、例えばこの耐火樹脂組成物からなる耐火材を周囲に配置したバッテリーセルが発火した場合であっても、速やかに消火することが可能になる。
【0013】
また、本発明の第1の形態の耐火樹脂組成物は、吸熱剤の平均粒子径が0.1〜90μmであることが好ましく、また、樹脂のメルトフローレートが1.0g/10min以上であることが好ましい。本発明では、吸熱剤の平均粒子径と、樹脂のメルトフローレートを一定の範囲にすることで、シートなどにするときの成形性が良好となる。成形性が良好となると、例えば、耐火シートとしたときにロール状に巻き取ることが可能になる。
【0014】
<樹脂>
第1の形態における樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、及びエラストマー樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0015】
エラストマー樹脂としては、アクリロニトリルブタジエンゴム、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、液状エチレン−プロピレン−ジエンゴム(液状EPDM)、エチレン−プロピレンゴム、液状エチレン−プロピレンゴム、天然ゴム、液状天然ゴム、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、液状スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、液状水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、液状水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、液状水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、及び液状水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
本発明の第1の形態においては、これら樹脂のうち1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
上記樹脂の中でも、成形性を向上させる観点から、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等の熱可塑性樹脂が好ましく、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が更に好ましい。
【0017】
本発明の第1の形態において、上記したように樹脂のメルトフローレートは、1.0g/10min以上であることが好ましい。樹脂のメルトフローレートを1.0g/10min以上とすると、吸熱剤の分散性が良好となり、吸熱剤が均一に分散し、吸熱剤を多量に配合してもシート成形性が良好に維持される。メルトフローレートは、2.4g/10min以上がより好ましく、10g/10min以上がさらに好ましく、20g/10min以上がよりさらに好ましい。メルトフローレートをこれら下限値以上とすることで、吸熱剤の分散性を向上させて吸熱剤をより多量に配合しやすくなる。
また、樹脂のメルトフローレートは、40g/10min以下が好ましく、35g/10min以下がより好ましい。
なお、メルトフローレートは、JIS K 7210−2:1999に従って190℃、2.16kg荷重の条件によって測定されたものである。
【0018】
第1の形態における耐火樹脂組成物中の樹脂の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。耐火樹脂組成物中の樹脂の含有量をこれら下限値以上とすると、耐火樹脂組成物を耐火シートに成形する際の成形性が向上する。また、上記含有量は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、よりさらに好ましくは15質量%以下である。また、本発明では、これら上限値以下とすることで吸熱剤を多量に配合することが可能になる。また、15質量%以下などの少ない樹脂量においても、樹脂のメルトフローレートや吸熱剤の平均粒径を調整することで、成形性が良好となる。
【0019】
<吸熱剤>
本発明の第1の形態において吸熱剤として、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上であるものを用いる。熱分解開始温度、及び吸熱量のいずれかが上記範囲外となると、バッテリーなどが発火した場合に速やかに消火することが難しくなる。
また、吸熱剤は、平均粒子径が0.1〜90μmであるものが好ましい。平均粒子径が上記範囲内とすることで、樹脂中に吸熱剤が分散しやすくなり、樹脂中に吸熱剤を均一に分散でき、多量に配合させることも可能になる。
なお、以下の第1の形態の説明においては、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上である吸熱剤は、単に吸熱剤というが、第1の吸熱剤ということもある。
【0020】
吸熱剤の熱分解開始温度は、500℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましく、250℃以下がよりさらに好ましい。吸熱剤の熱分解開始温度がこれら上限値以下とすることで発火時に速やかに吸熱剤が分解し、迅速に消火することが可能になる。また、吸熱剤の熱分解開始温度は、例えば50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
なお、熱分解開始温度は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
前記吸熱剤の吸熱量は、好ましくは500J/g以上、より好ましくは600J/g以上、さらに好ましくは900J/g以上である。吸熱剤の吸熱量が上記範囲内であると、熱の吸収性が向上するため、耐火性がより良好となる。前記吸熱剤の吸熱量は、通常、4000J/g以下、好ましくは3000J/g以下、さらに好ましくは2000J/g以下である。
なお、吸熱量は熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
吸熱剤の平均粒子径は、0.5〜60μmがより好ましく、0.8〜40μmがさらに好ましく、0.8〜10μmがよりさらに好ましい。吸熱剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火樹脂組成物中における吸熱剤の分散性が向上し、吸熱剤を樹脂中に均一に分散させたり、樹脂に対する吸熱剤の配合量を多くしたりすることができる。
なお、吸熱剤及び後述する難燃剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
【0023】
吸熱剤としては、上記した熱分解開始温度、吸熱量、及び平均粒子径を満たせば特に制限はないが、例えば、金属水酸化物、ホウ素系化合物、金属塩の水和物などが挙げられ、中でも金属水酸化物が好ましい。金属水酸化物を用いた場合、発火により生じた熱によって水が生成し、速やかに消火することができるため好ましい。また、金属水酸化合物と金属塩の水和物との組み合わせも好ましい。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト等が挙げられ、中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウムが好ましい。ホウ素系化合物としては、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。ホウ酸亜鉛は例えば2ZnO・3B
2O
5・3.5H
2Oなどの水和物であるとよい。また、金属塩の水和物としては、硫酸カルシウムの水和物(例えば、2水和物)、硫酸マグネシウムの水和物(例えば、7水和物)、カオリンクレー、ドーソナイト、ベーマイトなどが挙げられる。また、吸熱剤としては、アルミン酸カルシウム、タルクなどであってもよい。
これらの中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及びホウ酸亜鉛が好ましく、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムがより好ましい。
【0024】
第1の形態における耐火樹脂組成物中の吸熱剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、10〜1600質量部である。10質量部未満とすると、バッテリーなどが発火した場合に速やかに消火することができなくなる。また、1600質量部より多くなると、吸熱剤が樹脂中に均一に分散することが難しくなり、成形性などが悪化する。
上記吸熱剤の含有量は、好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは500質量部以上、より更に好ましくは900質量部以上である。また、好ましくは1550質量部以下、更に好ましくは1300質量部以下、より更に好ましくは1150質量部以下である。吸熱剤の含有量をこれら下限値以上とすることで、急激な温度上昇を緩和でき、かつ発火した場合でも速やかに消火することができる。また、これら上限値以下とすることで、樹脂中に均一に分散しやすくなり、成形性などが優れたものとなる。
【0025】
耐火樹脂組成物は、好ましい一態様として、上記吸熱剤として、熱分解開始温度が500℃以下、吸熱量が500J/g以上である吸熱剤を使用する。このような吸熱剤を使用すると、バッテリーセルが発火した場合であっても、より速やかに消火することが可能になる。
【0026】
また、耐火樹脂組成物は、好ましい一態様として、上記吸熱剤として、熱分解開始温度が互いに異なる2種以上の吸熱剤を含有する。熱分解開始温度が互いに異なる2種以上の吸熱剤を使用すると、温度上昇する過程で吸熱反応を連続的に生じさせ、効果的に消火できるようになる。また、バッテリーは例えば電解液が燃焼することが多いが、2種以上の吸熱剤を含有させると、電解液の引火点及び発火点それぞれに対応した熱分解開始温度を有する吸熱剤を使用することで、より効果的に消火できるようになる。
上記観点から、吸熱剤は、熱分解開始温度が互いに異なる2種以上を含む場合には、熱分解開始温度が50℃以上互いに異なることが好ましく、より好ましくは70℃以上互いに異なる。
吸熱剤としては、例えば異なる金属水酸化物を2種以上併用してもよいし、金属水酸化物と金属塩の水和物とを併用してもよいし、その他の組み合わせてあってもよい。
【0027】
熱分解開始温度が互いに異なる2種以上を含む場合、例えば一態様として、熱分解開始温度が250℃以上の吸熱剤(高温側吸熱剤)と、熱分解開始温度が250℃未満の吸熱剤(低温側吸熱剤)とを併用するとよい。この場合、高温側吸熱剤の熱分解開始温度は、275℃以上が好ましく、低温側吸熱剤の熱分解開始温度は225℃以下が好ましい。また、高温側吸熱剤の熱分解開始温度は800℃以下であるが、500℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましく、低温側吸熱剤の熱分解開始温度は110℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。このような態様における高温側吸熱剤としては、例えば水酸化マグネシウムが挙げられ、低温側吸熱剤としては、例えば、水酸化アルミニウムが挙げられる。
【0028】
また、別の一態様として、例えば、熱分解開始温度が150℃以上の吸熱剤(高温側吸熱剤)と、熱分解開始温度が150℃未満の吸熱剤(低温側吸熱剤)とを併用するとよい。この場合、高温側吸熱剤の熱分解開始温度は、175℃以上が好ましく、低温側吸熱剤の熱分解開始温度は130℃以下が好ましい。また、高温側吸熱剤の熱分解開始温度は800℃以下であるが、500℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、低温側吸熱剤の熱分解開始温度は50℃以上が好ましい。本態様における高温側吸熱剤としては、例えば水酸化アルミニウムが挙げられ、低温側吸熱剤としては、例えば、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物などが挙げられる。
【0029】
上記のように各態様において、2種以上を併用する場合、高温側吸熱剤の含有量に対する低温側吸熱剤金属塩の水和物は、特に限定されないが、1/9以上9/1以下が好ましく、2/8以上8/2以下がより好ましく、3/7以上7/3以下がさらに好ましい。
【0030】
<任意成分>
〔上記以外の吸熱剤〕
本発明の第1の形態における耐火性樹脂組成物は、上記吸熱剤(第1の吸熱剤)に加えて、熱分解開始温度が800℃より高い吸熱剤(以下、「第2の吸熱剤」ともいう)を含有していてもよい。この場合、第2の吸熱剤としては、熱分解開始温度が800℃より高く、かつ吸熱量が300J/g以上の吸熱剤が好ましい。熱分解開始温度が高く、かつ吸熱量も高い第2の吸熱剤を、上記した第1の吸熱剤と併用することで、例えば、一定量の燃焼が継続した後で、第2の吸熱剤により燃焼が抑制されるので、例えばバッテリーが燃え広がることなどが防止できる。
第2の吸熱剤の熱分解開始温度は、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1000℃以下である。これら上限値以下とすることで、第2の吸熱剤により効果的に燃焼を抑制できる。
また、第2の吸熱剤の吸熱量は、燃焼の抑制効果を高める観点から、好ましくは500J/g以上、より好ましくは600J/g以上、さらに好ましくは900J/g以上、よりさらに好ましくは1500J/g以上である。また、第2の吸熱剤の吸熱量は、通常、4000J/g以下、好ましくは3000J/g以下、さらに好ましくは2000J/g以下である。
第2の吸熱剤としては、例えば、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウムなどの炭酸金属塩が挙げられる。
第2の吸熱剤の含有量は、特に限定されないが、第1の吸熱剤の含有量に対する質量比(第2の吸熱剤/第1の吸熱剤)として、1/9以上7/3以下が好ましく、2/8以上6/4以下がより好ましく、2/8以上4/6以下がさらに好ましい。含有量の質量比を上記範囲内とすることで、第2の吸熱剤を使用する効果を発揮しやすくなる。
第2の吸熱剤の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1〜90μmが好ましい。平均粒子径を上記範囲内とすることで、成形性が良好となる。第2の吸熱剤の平均粒子径は、0.5〜60μmがより好ましく、0.8〜40μmがさらに好ましく、0.8〜10μmがよりさらに好ましい。なお、第2の吸熱剤の平均粒子径の測定方法は、上記したとおりである。
【0031】
〔難燃剤〕
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物は、更に難燃剤を含有することが好ましい。本発明の耐火樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、これを用いた耐火シートに着火した場合であっても延焼を抑制することができる。
難燃剤としては、例えば、赤リン、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0033】
前記一般式(1)中、R
1及びR
3は、同一又は異なって、水素、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は炭素数6〜16のアリール基を示す。R
2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は炭素数6〜16のアリールオキシ基を示す。
【0034】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n−プロピルホスホン酸、n−ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。前記難燃剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記難燃剤の中でも、耐火シートの難燃性を向上させる観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、及び前記一般式(1)で表される化合物が好ましく、難燃性能、安全性、及びコスト等の観点からポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
【0035】
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は樹脂成分100質量部に対して、1〜200質量部が好ましく、5〜100質量部がより好ましく、5〜50質量部が更に好ましい。難燃剤の含有量が前記範囲内であると、耐火樹脂組成物を用いた耐火シートが着火した場合に延焼を抑制することができる。
【0036】
〔熱膨張性黒鉛〕
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物は熱膨張性黒鉛を含有してもよい。耐火樹脂組成物が熱膨張性黒鉛を含有する場合、熱膨張性黒鉛は加熱されることで膨張して大容量の空隙を形成し、難燃剤として機能するため、耐火樹脂組成物を用いた耐火シートに着火した場合に延焼を抑制することができる。
【0037】
熱膨張性黒鉛としては、加熱時に膨張する黒鉛であれば特に制限はなく、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、及びキッシュグラファイト等の粉末を無機酸と強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものが挙げられ、これらは炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物になっている。
前記無機酸としては濃硫酸、硝酸、及びセレン酸等が挙げられ、強酸化剤としては濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、及び過酸化水素等が挙げられる。
熱膨張性黒鉛は更に中和処理を行ったものでもよい。具体的には、前記酸処理により得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することが好ましい。
熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。膨張性黒鉛の粒度が前記範囲内であると、膨脹して大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。また、樹脂への分散性も向上する。
【0038】
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、熱膨張性黒鉛の割れ防止の観点から、1,000以下であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が2以上であることにより、膨張して大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、10個の熱膨張性黒鉛について、それぞれ最大寸法(長径)及び最小寸法(短径)測定し、最大寸法(長径)を最小寸法(短径)で除した値の平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の長径及び短径は、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて測定することができる。
【0039】
第1の形態における耐火樹脂組成物が熱膨張性黒鉛を含有する場合、その含有量は樹脂100質量部に対して、10〜200質量部が好ましく、20〜150質量部がより好ましく、30〜100質量部が更に好ましい。熱膨張性黒鉛の含有量が前記範囲内であると、耐火樹脂組成物中に大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
【0040】
〔無機充填剤〕
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物は、吸熱剤、難燃剤及び膨張性黒鉛以外の無機充填剤を更に含有してもよい。
吸熱剤及び膨張性黒鉛以外の無機充填剤としては特に制限されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、シリカ、珪藻土、硫酸バリウム、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、及び脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
無機充填剤の平均粒子径は、0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。無機充填剤は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
【0042】
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物が、吸熱剤及び膨張性黒鉛以外の無機充填剤を含有する場合、その含有量は樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、より好ましくは10〜200質量部である。無機充填剤の含有量が前記範囲内であると、これを用いた耐火シートの機械的物性を向上させることができる。
【0043】
〔可塑剤〕
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物は、更に可塑剤を含有してもよい。特に樹脂成分がポリ塩化ビニル樹脂である場合、成形性を向上させる観点から可塑剤を含むことが好ましい。
可塑剤は、一般にポリ塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている可塑剤であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のアジピン酸エステル可塑剤、トリー2−エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、鉱油等のプロセスオイル等が挙げられる。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、樹脂100質量部に対して5〜40質量部が好ましく、5〜35質量部がより好ましい。可塑剤の含有量が前記範囲内であると、押出成形性が向上する傾向があり、また成形体が柔らかくなり過ぎることを抑制することができる。
【0044】
<その他成分>
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択でき、添加剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
<製造方法>
本発明の第1の形態における耐火樹脂組成物は、前記樹脂、吸熱剤、及び任意成分をバンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて混合することにより得ることができる。
【0046】
[耐火シート]
本発明の第1の形態の耐火シートは、上記耐火樹脂組成物からなるものである。本発明では、耐火シートをバッテリーなどの周囲に使用することで、バッテリーなどが発火した場合でも、吸熱して迅速に消火することができる。
第1の形態の耐火シートの厚さは特に限定はないが、5〜10000μmが好ましく、20〜4000μmがより好ましく、50〜2000μmがさらに好ましく、100〜1800μmがさらに好ましく、500〜1500μmがより更に好ましい。耐火シートの厚さが上記範囲内であると、機械強度を維持しつつ小型のバッテリーセルにも使用することができる。なお、本明細書における耐火シートの「厚さ」とは、耐火シートの幅方向3点の平均厚さを指す。
【0047】
本発明の第1の形態の別の一側面において、耐火シートは、吸熱剤と樹脂を含有する耐火性樹脂組成物からなるものであって、耐火シートの吸熱量が120J/g以上となるものである。なお、本明細書において、「耐火シートの吸熱量」とは、23℃から1000℃まで加熱した際に発生する吸熱量のことを意味する。
耐火シートの吸熱量が、120J/g未満となると、バッテリーなどが発火した場合に速やかに消火することが難しくなる。バッテリーの発火を速やかに消火する観点からは、耐火シートの吸熱量は、120J/g以上であることが好ましく、400J/g以上であることがより好ましく、700J/g以上であることがさらに好ましい。
また、耐火シートに一定の樹脂を含有させて、成形性などを良好とする観点から、耐火シートの吸熱量は、2500J/g以下であることが好ましく、2000J/g以下であることがより好ましく、1500J/g以下であることがさらに好ましい。
【0048】
また、第1の形態の上記別の側面において耐火シートの吸熱開始温度は、800℃以下である。吸熱開始温度が800℃を超えると、発火したときに短時間で適切に消火できなくなる。また、耐火シートの吸熱開始温度は、500℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましく、250℃以下がよりさらに好ましい。耐火シートの吸熱開始温度がこれら上限値以下とすることで発火時に速やかに耐火シートが分解して吸熱して、迅速に消火することが可能になる。
また、耐火シートの吸熱開始温度は、例えば50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
別の一側面における耐火シートは、上記で示したように、耐火シートに樹脂と、吸熱剤を含有させ、吸熱剤の量、種類などを上記したとおりに適宜調整することで、耐火シートの吸熱量や吸熱開始温度を上記範囲内に調整できる。この別の一側面における耐火シートは、上記した第1の形態の耐火樹脂組成物からなるとよく、耐火シートのその他の構成も上記したとおりである。
【0049】
<耐火シートの製造方法>
本発明の第1の形態の耐火シートは、本発明の耐火樹脂組成物を成形することにより製造することができる。具体的には、押出成形、プレス成形、及び射出成形が挙げられ、中でも押出成形が好ましく、単軸押出機、二軸押出機、射出成型機等を用いて成形することができる。
【0050】
(第2の形態)
本発明の第2の形態の耐火樹脂組成物は、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上である吸熱剤及び樹脂を含有し、吸熱剤100質量部に対する樹脂の含有量は、1〜20質量部である耐火樹脂組成物である。
本発明に用いる吸熱剤は、上記した特定の熱分解開始温度を有するため、発火時に速やかに分解し、迅速に消火できる。また該吸熱剤は、上記した特定の吸熱量を有するため、熱の吸収性がよく、耐火性、消火性能が良好になる。さらに、このような特定の吸熱剤に対する樹脂の含有量を一定範囲とすることにより、機械強度と、耐火性及び消火性能のバランスに優れる耐火シートを提供できる耐火樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
(樹脂)
耐火樹脂組成物に含有される樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及びエラストマー樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0052】
エラストマー樹脂としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
本発明においては、これら樹脂のうち1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
耐火樹脂組成物に含有される樹脂は、吸熱剤の樹脂中の分散性、耐火シートの機械的強度を向上させる観点から、上記した中でも、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の中でも、耐火シートの機械的強度をより向上させる観点から、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、エチレン―酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、中でも、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0054】
また、耐火樹脂組成物に含有される樹脂は、上記した中でも、溶解度パラメーター(SP値)が9以上の樹脂を用いることが好ましい。SP値が9以上の樹脂を用いた場合は、耐火樹脂組成物により形成される耐火シートの機械的強度が向上しやすくなる。さらに、SP値が9以上の樹脂を用い、かつ吸熱剤として水和金属化合物を用いた場合に耐火シートの機械的強度はより高まる。これは、水和金属化合物は比較的極性が高いため、SP値が9以上の樹脂との相溶性がよく、樹脂と水和金属化合物との分散性が高まり、その結果、耐火樹脂組成物により形成される耐火シートの機械的強度が向上するものと考えられる。
また、SP値が9以上の樹脂を用いると、水和金属化合物の分散性が高まり、これにより、耐火樹脂組成物中の吸熱剤の含有量を比較的多くすることができる。
本発明の耐火樹脂組成物に含有される樹脂のSP値はより好ましくは10以上であり、そして、好ましくは15以下であり、より好ましくは13以下である。
SP値が9以上の樹脂として好適に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、エチレン―酢酸ビニル共重合体樹脂などを挙げることができる。
本発明においてSP値は、Fedors法により測定された値である。
【0055】
(ポリビニルアセタール樹脂)
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されないが、ポリビニルブチラール樹脂が好適である。ポリビニルブチラールを用いることで、吸熱剤に対する樹脂の量が比較的少ない場合でも、機械的強度を高くすることが可能となる。そのため、耐火シートの厚さを薄くしても、一定の機械的強度を確保することができる。
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は、好ましくは20〜40モル%である。水酸基量を20モル%以上とすることで、ポリビニルアセタール樹脂の極性が高くなり、吸熱剤との結着力が強くなり、耐火樹脂組成物により形成される耐火シートの機械的強度が向上しやすくなる。また、水酸基量を40モル%以下とすることで、耐火シートが硬くなり過ぎたりすることを防止する。上記水酸基量は、より好ましくは23モル%以上、さらに好ましくは26モル%以上である。また、上記水酸基量は、より好ましくは37モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下である。
【0056】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、好ましくは40〜80モル%である。アセタール化度を上記範囲内とすることで、上記する水酸基量を所望の範囲内として、耐火シートの機械的強度が向上しやすくなる。アセタール化度は、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは65モル%以上であり、また、より好ましくは76モル%以下である。
また、上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量は、好ましくは0.1〜30モル%である。アセチル基量がこの範囲内であると、耐湿性に優れ、可塑剤との相溶性に優れ、高い柔軟性を発揮して取扱い性が向上する。また、アセチル基量をこれら範囲内とすることで、上記する水酸基量を所望の範囲内として、耐火シートの機械的強度が向上しやすくなる。これら観点から、アセチル基量は、0.2モル%以上がより好ましく、0.5モル%以上がさらに好ましく、また、15モル%以下がより好ましく、7モル%以下がさらに好ましい。
なお、アセタール化度、水酸基量、及びアセチル基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定し、また算出することができる。
【0057】
ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましくは200〜3000である。重合度をこれら範囲内にすることで、吸熱剤を適切に耐火シート中に分散させることがきる。重合度は、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上である。
ポリビニルアセタール樹脂の重合度を低くすると粘度も下がり、耐火シート中に吸熱剤を分散しやすくなり、耐火シートの機械的強度が向上する。そのような観点から、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1000以下である。
なお、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、JIS K6728に記載の方法に基づいて測定した粘度平均重合度をいう。
【0058】
ポリビニルアセタール樹脂の10質量%エタノール/トルエン粘度は、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上であり、さらに好ましくは15mPa・s以上である。また、10質量%エタノール/トルエン粘度は、好ましくは500mPa・s以下、より好ましくは300mPa・s以下であり、更に好ましくは200mPa・s以下である。ポリビニルアセタール樹脂の10質量%エタノール/トルエン粘度を上記のとおりにすることにより、耐火シート中に吸熱剤を分散しやすくなり、耐火シートの機械的強度が向上する。
なお、10質量%エタノール/トルエン粘度は、次のように測定した値である。
エタノール/トルエン(重量比1:1)混合溶剤150mlを三角フラスコにとり、これに秤量した試料を加え、樹脂濃度を10wt%とし、20℃の恒温室にて振とう溶解する。その溶液を20℃に保持しBM型粘度計を用いて粘度を測定して、10質量%エタノール/トルエン粘度を求めることができる。
【0059】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
(ポリビニルアルコール樹脂)
ポリビニルアルコール樹脂は、従来公知の方法に従って、ビニルエステルを重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化、すなわち加水分解することにより得られる。
上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。
ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、好ましくは80〜99.9モル%であり、より好ましくは85〜99モル%である。ケン化度をこのような範囲とすると、ポリビニルアルコール樹脂の極性が高まることで吸熱剤との分散性が良好になり、耐火樹脂組成物により形成される耐火シートの機械的強度が向上しやすくなる。
上記ケン化度は、JIS K6726に準拠して測定される。ケン化度は、ケン化によるビニルアルコール単位に変換される単位のうち、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合を示す。
【0061】
ポリビニルアルコール樹脂の重合度は特に限定されないが、好ましくは400以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上である。また、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、更に好ましくは1000以下である。重合度をこれら範囲内にすることで、吸熱剤を適切に耐火シート中に分散させることができ、耐火シートの機械的強度が向上する。上記重合度は、JIS K6726に準拠して測定される。
【0062】
ポリビニルアルコール樹脂の4質量%水溶液粘度は、好ましくは8mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上であり、さらに好ましくは12mPa・s以上である。 また、4質量%水溶液粘度は、好ましくは25mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下であり、更に好ましくは16mPa・s以下である。
ポリビニルアルコール樹脂の4質量%水溶液粘度を上記のとおりすることにより、耐火シート中に吸熱剤を分散しやすくなり、耐火シートの機械的強度が向上する。
なお、4質量%水溶液粘度は、20℃において、JIS K 6726に準じて測定することができる。
【0063】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂)
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、非架橋型のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよいし、また、高温架橋型のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよい。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体のけん化物、エチレン−酢酸ビニルの加水分解物などのようなエチレン−酢酸ビニル変性体樹脂も用いることができる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂は、JIS K 6730「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定される酢酸ビニル含量が好ましく10〜50質量%、より好ましくは25〜45質量%である。酢酸ビニル含量をこれら下限値以上とすることで、後述する基材への接着性が高くなる。また、酢酸ビニル含量をこれら上限値以下とすることで、耐火シートの機械的強度が良好となる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の重量平均分子量は5000〜200000が好ましく、10000〜150000がより好ましい。重量平均分子量をこのような範囲とすることにより、吸熱剤を適切に耐火シート中に分散させることができ、耐火シートの機械的強度が向上する。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0064】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーを含むモノマー成分を重合したものである。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、「アクリル酸アルキルエステル、又はメタクリル酸アルキルエステル」を意味する。他の類似の用語も同様である。
本発明における(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、(メタ)アクリル酸と脂肪族アルコールとのエステルであって、前記脂肪族アルコールのアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜14、より好ましくは1〜10である。
具体的な(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
また、アクリル樹脂を得るためのモノマー成分としては、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの他に、極性基含有モノマーを含んでもよい。
極性基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、及びイタコン酸等のビニル基を含有するカルボン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、及びポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等の水酸基を有するビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、及びジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート等の窒素含有ビニルモノマーが挙げられる。
【0066】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの単独重合体が好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートの単独重合体である、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレートなどが好ましく、ポリメチル(メタ)アクリレートがより好ましく、ポリメチルメタクリレートが更に好ましい。
【0067】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、吸熱剤を適切に耐火シート中に分散させることができ、耐火シートの機械的強度を向上させる観点から、1,000〜100,000が好ましく、5,000〜90,000がより好ましく、20,000〜80,000が更に好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
第2の形態における耐火樹脂組成物に含まれる樹脂の含有量は、吸熱剤100質量部に対して1〜20質量部である。樹脂の含有量が、吸熱剤100質量部に対して1質量部未満であると、耐火樹脂組成物の成形性や、樹脂による吸熱剤の保持性能、樹脂における吸熱剤の分散性などが悪くなり、耐火シートの機械的強度が低下しやすい。樹脂の含有量が、吸熱剤100質量部に対して20質量部を超えると、耐火性、消火性能が悪くなる。樹脂の含有量は、耐火シートの耐火性、消火性能を良好にしつつ、機械的強度を向上させる観点から、吸熱剤100質量部に対して、好ましくは3〜17質量部であり、より好ましくは5〜15質量部である。
【0069】
第2の形態における耐火樹脂組成物における樹脂の含有量は、耐火樹脂組成物全量基準で、好ましくは0.5〜50質量%であり、より好ましくは4〜20質量%であり、より好ましくは6〜15質量%である。下限値以上であると、吸熱剤の分散性が向上し、耐火シートの機械的強度が高くなりやすく、上限値以下であると、耐火シートの耐火性、消火性能が向上しやすくなる。
【0070】
(吸熱剤)
本発明の第2の形態における耐火樹脂組成物は、吸熱剤を含有する。吸熱剤は、耐火性を有し、発火が生じたときに、消火性能を発揮するものである。吸熱剤は、耐火シートにおいて樹脂中に分散され、かつ樹脂によって保持される。
吸熱剤の具体例としては、水和金属化合物などが挙げられる。水和金属化合物としては、火炎の接触により分解して水蒸気を発生し、吸熱する効果を有する化合物である。水和金属化合物としては、金属水酸化物、金属塩の水和物が挙げられる。具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウム−マグネシウム系水酸化物、ハイドロタルサイト、ベーマイト、タルク、ドーソナイト、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物、ホウ酸亜鉛[2ZnO・3B
2O
5・3.5H
2O]などが挙げられる。
これらの中では、耐火性、消火性能などの観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム2水和物、及び硫酸マグネシウム7水和物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特に水酸化アルミニウムが好ましい。
【0071】
本発明で使用する吸熱剤は、熱分解開始温度が800℃以下である。吸熱剤の熱分解開始温度が800℃を超えると、発火時に吸熱剤が分解し難くなり、迅速に消火することができなくなる。
また、本発明の第2の形態で使用する吸熱剤は、吸熱量が300J/g以上である。吸熱剤の吸熱量が300J/g未満であると、熱の吸収性が低下し、耐火性、消火性能が悪くなる。
吸熱剤の熱分解開始温度は、500℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましく、250℃以下がより更に好ましい。吸熱剤の熱分解開始温度をこれら上限値以下とすることで発火時に速やかに吸熱剤が分解し、迅速に消火することが可能になる。また、吸熱剤の熱分解開始温度は、通常30℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。吸熱剤の熱分解開始温度をこれら下限値以上とすることで、非発火時の吸熱剤の分解を抑制できる。
【0072】
吸熱剤の吸熱量は、好ましくは500J/g以上、より好ましくは600J/g以上、更に好ましくは900J/g以上である。吸熱剤の吸熱量が上記範囲内であると、熱の吸収性が向上するため、耐火性、消火性能がより良好となる。吸熱剤の吸熱量は、通常、4000J/g以下、好ましくは3000J/g以下、さらに好ましくは2000J/g以下である。
すなわち、吸熱剤としては、熱分解開始温度が500℃以下、吸熱量が500J/g以上であるものが好ましい。熱分解開始温度、及び吸熱量のいずれかが上記範囲内となると、バッテリーなどが発火した場合に速やかに消火することができる。
【0073】
例えば、熱分解開始温度が800℃以下、吸熱量が300J/g以上である化合物としては、上記した水和金属化合物が挙げられるが、より具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム2水和物、硫酸マグネシウム7水和物、ハイドロタルサイト、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。これら化合物は、熱分解開始温度が500℃以下、吸熱量が500J/g以上である吸熱剤でもある。
【0074】
また、第2の形態における吸熱剤は、平均粒子径が0.1〜90μmであるものが好ましい。平均粒子径が上記範囲内とすることで、樹脂中に吸熱剤が分散しやすくなり、吸熱剤を多量に配合させやすくなる。
吸熱剤の平均粒子径は、0.1〜40μmがより好ましく、0.2〜30μmがさらに好ましく、0.5〜10μmがよりさらに好ましい。吸熱剤の平均粒子径が上記範囲内であると、吸熱剤の分散性が向上して、耐火シートの機械的強度が高まり、また吸熱剤に対する樹脂の配合量を少なくしたりすることができる。さらに、耐火性、消火性能も向上させやすくなる。
【0075】
第2の形態の耐火樹脂組成物における吸熱剤の含有量は、耐火樹脂組成物全量基準で、好ましくは50〜99.5質量%であり、より好ましくは70〜98質量%であり、さらに好ましくは80〜95質量%である。吸熱剤の含有量が上記下限値以上であると、耐火シートの耐火性、消火性能が向上し、上記上限値以下であると、機械的強度が高くなる。
【0076】
(難燃剤)
本発明の第2の形態の耐火樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することで、耐火性、消火性能がより向上する。
本発明に使用する難燃剤としてはリン原子含有化合物が挙げられる。リン原子含有化合物の具体例としては、第1の形態で難燃剤として列挙した化合物が挙げられる。また、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩も挙げられる。これらリン含有化合物を使用することで、耐火シートに適切な耐火性、消火性能を付与できる。難燃剤は、これら1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記した難燃剤の中では、耐火シートの耐火性、消火性能を向上させる観点から、リン酸エステル、亜リン酸金属塩、及びポリリン酸アンモニウムから選択される1種又は2種以上が好ましい。なお、これら3成分は、全てを使用してもよいし、3成分のうち2成分を使用してもよい。複数種の難燃剤を使用することで、効果的に耐火性、消火性能を向上させやすくなる。
【0077】
難燃剤は、好ましくは、常温(23℃)及び常圧(1気圧)で固体状となるものである。第2の形態において難燃剤の平均粒子径は、1〜200μmが好ましく、1〜60μmがより好ましく、3〜40μmがさらに好ましく、5〜20μmがよりさらに好ましい。難燃剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火樹脂組成物中における難燃剤の分散性が向上し、難燃剤を樹脂中に均一に分散させたり、樹脂に対する難燃剤の配合量を多くしたりすることができる。
第2の形態において難燃剤は、吸熱剤100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.3〜10質量部であり、さらに好ましくは0.5〜5質量部である。難燃剤の含有量をこれら下限値以上とすることで、耐火シートの耐火性、消火性能を向上させ易くなり、上限値以下とすることで、樹脂の量を一定割合以上とすることができ、吸熱剤、難燃剤の分散性が高まり、機械的強度が向上しやすくなる。
【0078】
(熱膨張性層状無機物)
本発明の第2の形態において耐火樹脂組成物は、熱膨張性層状無機物を含有してもよい。熱膨張性層状無機物を含有することで、耐火性、消火性能がより向上する。
熱膨張性層状無機物は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、例えば、バーミキュライト、熱膨張性黒鉛などが挙げられ、中でも熱膨張性黒鉛が好ましい。熱膨張性層状無機物としては、粒子状やりん片状のものを用いてもよい。熱膨張性層状無機物は、加熱されることで膨張して大容量の空隙を形成するため、耐火積層体に着火した場合に延焼を抑制したり、消火したりする。熱膨張性黒鉛は、上記第1の形態において説明したとおりである。
熱膨張性層状無機物を使用する場合の配合量は、特に限定されないが、耐火シートの耐火性、消火性能、機械的強度などを考慮し、例えば、吸熱剤100質量部に対して、1〜300質量部の範囲で適宜調整すればよい。
【0079】
(無機充填剤)
本発明の耐火樹脂組成物は、上記した吸熱剤、難燃剤、熱膨張性層状無機物以外の無機充填剤を更に含有してもよい。このような無機充填剤としては特に制限されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、炭酸カルシウムなどの水和金属化合物以外の金属化合物、ガラス繊維、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、木炭粉末、各種金属粉、炭化ケイ素、ステンレス繊維、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、及び脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
無機充填剤の平均粒子径は、0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。無機充填剤は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
【0081】
本発明の耐火樹脂組成物が、吸熱剤、難燃剤、熱膨張性層状無機物以外の無機充填剤を含有する場合、その含有量は、耐火シートの耐火性、消火性能、機械的強度などを考慮し、例えば、吸熱剤100質量部に対して1〜300質量部の範囲で適宜調整すればよい。
【0082】
(可塑剤)
本発明の耐火樹脂組成物は、更に可塑剤を含有してもよい。特に樹脂成分がポリビニルアルコール樹脂やポリビニルアセタール樹脂である場合、成形性などを向上させる観点から可塑剤を含むことが好ましい。
可塑剤は、一般にポリビニルアルコール樹脂やポリビニルアセタール樹脂と併用される可塑剤であれば特に限定されない。可塑剤の具体例としては、第1の形態で列挙したものが挙げられる。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の耐火樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、可塑剤の含有量は、樹脂100質量部に対して1〜60質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましく、10〜40質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量が前記範囲内であると、成形性が向上する傾向にあり、また耐火シートが柔らかくなり過ぎることを抑制できる。
【0083】
(その他成分)
本発明の第2の形態における耐火樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて上記以外の添加成分を含有させることができる。この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、分散剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択でき、添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
[耐火シート]
本発明の第2の形態における耐火シートは、上記した耐火樹脂組成物からなるものである。該耐火シートは、本発明では、耐火シートをバッテリーなどの周囲に使用することで、バッテリーなどが発火した場合でも、吸熱して迅速に消火することができ、かつ機械的強度にも優れる。
第2の形態における耐火シートの厚さは、例えば、2〜1000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは20〜50μmである。耐火シートの厚さを下限値以上とすることで、適切な耐火性、消火性能を有する。また、上限値以下とすることで、耐火シートの厚さが必要以上に厚くなることを防止し、携帯電話、スマートフォンなどの携帯機器に使用される小型のバッテリーにも適用しやすくなる。なお、上記した耐火シートの厚さは、基材の両面に設けられる場合は、各耐火シートの厚さである。
【0085】
[耐火シートの製造方法]
本発明の第2の形態における耐火シートは、耐火樹脂組成物を調製し、該耐火樹脂組成物を成形することにより製造することができる。耐火樹脂組成物は、樹脂、吸熱剤、及び必要に応じて配合される難燃剤、可塑剤等の任意成分をバンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等の公知の混合装置を用いて混合することにより得られる。耐火樹脂組成物を耐火シートに成形する方法としては、具体的には、押出成形、プレス成形、及び射出成形が挙げられ、中でも押出成形が好ましく、単軸押出機、二軸押出機、射出成型機等を用いて成形することができる。
【0086】
第2の形態における耐火シートは、耐火樹脂組成物の希釈液を離型シート上に塗布し乾燥することで成形してもよい。希釈液を用いる場合、樹脂は、通常、熱可塑性樹脂であり、好ましくはポリビニルアセタール樹脂である。
耐火樹脂組成物に吸熱剤が比較的多く配合されている場合(例えば、耐火樹脂組成物全量基準で吸熱剤の含有量が50質量%以上の場合)は、吸熱剤の分散性がよい耐火シートを得る観点から、希釈液を用いて、耐火シートを得ることが好ましい。
【0087】
耐火樹脂組成物を希釈する際に使用する溶剤としては、特に限定されないが、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶媒、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。
耐火樹脂組成物の希釈液は、通常、樹脂が溶剤により溶解され、かつ吸熱剤を含む無機粉末が溶剤中に分散されスラリーとなる。スラリーとする場合、例えば、まず、溶媒、分散剤、吸熱剤を含む無機粉末をビーズミルなどの分散混合機により攪拌して無機分散液を作製する。その後、無機分散液に、予め溶剤に溶解した樹脂溶液を添加し、上記分散混合機によりさらに攪拌することで、耐火樹脂組成物の希釈液を作製するとよい。
耐火樹脂組成物の希釈液における固形分濃度は、例えば30〜70質量%、好ましくは35〜65質量%、より好ましく40〜60質量%である。固形分濃度が下限値以上であると、効率的に耐火シートを形成することができる。また、上記上限値以下とすることで、樹脂を溶媒に溶解させ、かつ吸熱剤を溶媒に分散させやすくなる。
【0088】
本発明の第1及び第2の形態における耐火シートは、耐火シート単体で用いられてもよいし、耐火シート以外の層が積層されて耐火多層シートを構成してもよい。例えば、耐火シート以外の層として、基材を採用すると、耐火多層シートは、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる耐火シートとを有する耐火積層体となる。
耐火積層体は、
図1に示すように、基材21と、基材21の片面に耐火樹脂層22が設けられた耐火積層体20でもよいし、
図2に示すように、基材21と、基材11の両面に耐火樹脂層22、22が設けられた耐火積層体25でもよい。これらの中では、
図1に示すように、基材21の片面に耐火樹脂層22が設けられた耐火積層体20が好ましい。
また、耐火樹脂層22は、基材21に直接積層されてもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、基材21の表面上に形成されたプライマー層、接着層などを介して基材21に積層されてもよいが、直接積層されることが好ましい。
【0089】
本発明の第1の形態、第2の形態においては、基材は、可燃層であっても準不燃層又は不燃層であってもよい。基材の厚さは特に限定されないが、例えば5μm〜1mmである。可燃層に使用される素材としては、例えば、布材、紙材、木材、樹脂フィルム等の一種もしくは二種以上を挙げることができる。基材が準不燃層又は不燃層である場合、準不燃層又は不燃層に使用される素材としては、例えば、金属、無機材等を挙げることができる。
【0090】
第1の形態、第2の形態において耐火多層シートは、耐火シートと、耐火シートの少なくともいずれか一方の面に設けられる粘着剤層とを備えるものでもよい。粘着剤層は、上記基材の上に設けられてもよいし、耐火シートの表面に直接形成されてもよい。また、耐火シートの少なくともいずれか一方の面に、基材の両表面に粘着剤層が設けられた両面粘着テープが貼り付けられてもよい。すなわち、耐火シートの一方の面に、粘着剤層、基材、及び粘着剤層がこの順に設けられてもよい。
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられるが、これらに限定されない。粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、例えば、3〜500μm、好ましくは10〜200μmである。
【0091】
(第3の形態)
本発明は、以下の第3の形態も提供する。本発明の第3の形態は、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる耐火シートとを有する耐火積層体(耐火多層シート)を提供する。基材は、耐火シートの支持体として機能させることができる。耐火シートは、上記した第1又は第2の形態における耐火シートである。
基材の軟化点又は融点は、耐火性、及び消火性能をより優れたものとする観点から、300℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましい。また、基材の軟化点又は融点は、高ければ高いほどよいが、例えば5000℃以下、実用的には3000℃以下である。
【0092】
基材の軟化点又は融点は、その使用される材料によって測定方法が異なり、例えば、基材が樹脂などの有機材料から形成される場合には、熱機械分析装置(TMA)により測定される軟化点を意味する。具体的にはセイコーインスツルメンツ社製「TMA−6000」を用い、厚さ30μmのフィルムを作成し、3mm×15mmに切り出したサンプルを、装置にセットし、5℃/分の条件で加熱し、5gの荷重をかけながら下に変位し始める温度を軟化点とする。
また、基材が、金属などの無機材料により形成される場合には、示差走査熱分析(DSC)により測定される融点を意味する。具体的にはセタラムインスツルメンツ社製「LABSYS EVO」を用い、アルゴン雰囲気下、20℃/分の条件で加熱し、吸熱ピークが観測される温度を融点とする。
なお、基材が、有機材料と無機材料の複合材料で形成される場合には、上記DSCにより測定し、ピークが2つ観測される場合には、上記示差走査熱分析(DSC)により測定されるうち、高い方の融点を意味する。また、融点又は軟化点を有しない材料(すなわち、上記方法では、軟化点などが測定されない材料)についても、本明細書では、上記示差走査熱分析(DSC)により測定した際、基材が分解する分解温度を融点又は軟化点とする。
【0093】
基材としては、樹脂、金属、金属以外の無機材料、又はこれらの複合体などにより形成されるが、これらの中では金属により形成された金属基材が好ましい。また、基材の形態としては、フィルム、箔などでもよいし、クロス、メッシュなどでもよい。したがって、例えば、樹脂フィルム、金属箔、金属クロス、金属メッシュ、有機繊維クロス、金属以外の無機材料のクロス(無機繊維クロス)などが挙げられる。
【0094】
樹脂フィルムとしては、ポリアミドイミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリベンゾイミダゾール(PBI)樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂フィルム、ポリフェニレンスルフィド樹脂フィルム、これら樹脂の2種以上を含む樹脂フィルムなどが挙げられ、これらの中では、ポリイミド樹脂フィルムが好ましい。ポリイミド樹脂フィルムを使用することで、耐火シートとの接着性が良好となりやすい。また、ポリイミド樹脂フィルムは、耐熱性が高いため発火時においても効果的に支持体として機能しやすくなる。
【0095】
金属としては、亜鉛、金、銀、クロム、チタン、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル又はこれらを含む合金が挙げられ、合金としてはSUSなどのステンレス、黄銅、ベリリウム銅、インコネルなどが挙げられる。これら金属は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これら金属は、金属クロスとしてもよいし、金属メッシュにしてもよいし、金属箔としてよい。また、金属箔は、パンチングなどにより、複数の孔が開けられてよい。金属メッシュ又はパンチングされた金属箔は、軽量でありながらも、効果的に支持体としての機能を発揮できる。
【0096】
また、クロスとしては、金属クロス以外にも、ガラス繊維クロス、炭素繊維クロスなどの無機繊維クロス、アラミド繊維クロス、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維クロス、ポリイミド繊維クロス、PEEK繊維クロス、PBI繊維クロスなどの有機繊維クロス、またはこれら無機繊維及び有機繊維から選択される2種以上を含むクロスであってもよい。なお、クロスは、織布であってもよいし、編布であってもよいし、不織布であってもよい。
【0097】
上記した中では、消火性能と、耐火シートとの接着性を両立する観点から、金属箔、金属メッシュ、金属クロスなど、金属から形成される金属基材、樹脂フィルムなどが好ましく、中でも、金属基材、特に金属箔が好ましい。
また、引張り強度を高くして支持機能を効果的に向上させる観点から、金属としては、銅、アルミニウム、ステンレスから選択される1種以上が好ましい。また、樹脂フィルムとしては、ポリイミド樹脂フィルムが好ましい。
【0098】
基材の厚さは、特に限定されないが、2〜1000μmが好ましく、好ましくは3〜200μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは8〜50μmである。厚さをこれら下限値以上とすることで、発火したときでも耐火シートを基材により支持しやすくなる。一方、上限値以下とすることで、基材を必要以上に厚くすることなく良好な性能を発揮しやすくなる。さらには、基材を薄くすることで耐火シートに柔軟性を付与し、例えばバッテリー表面が曲面を有していたり、凹凸を有したりしても、耐火積層体をバッテリー表面に追従させることが可能になる。
【0099】
基材の厚さに対する耐火樹脂層の厚さの比は、特に限定されないが、2/8〜9/1であることが好ましく、3/7〜7/1であることがより好ましく、4/6〜6/1であることがさらに好ましい。厚さ比を上記範囲内とすると、耐火積層体と基材の厚さのバランスが良好となり、耐火積層体の厚さを必要以上に大きくすることなく、良好な耐火性、消火性能を得ることができる。
【0100】
基材は、200℃における引張り強度が3GPa以上であることが好ましい。200℃における引張り強度が3GPa以上であると、基材は、耐火シートが発火し又は高温に加熱されたときに、十分に支持体としての機能を果たすことが可能である。上記引張り強度は、より好ましくは8GPa以上、さらに好ましくは40GPa以上、よりさらに好ましくは50GPa以上である。引張り強度の上限値は、特に限定されないが、例えば1000GPa、実用的には500GPaである。
なお、基材の200℃における引張り強度は、JIS7113に準拠してAUTOGRAPH(島津製作所製、AGS−J)を用い、引張速度20mm/分により測定したものである。
【0101】
(第4の形態)
本発明は、第4の形態も提供する。以下、本発明の第4の形態について、第3の形態との相違点を説明する。第4の形態では、基材として1又は2以上の孔を有する基材を使用する。以下、第4の形態について、本発明の第4の形態の耐火積層体は、第3の形態と同様に、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる耐火樹脂層とを備える。第4の形態においては、基材は1又は2以上の孔を有し、その際、基材の開口率を5〜60%の範囲に選択している。
本発明の第4の形態の耐火積層体では、基材に設けられた孔により、バッテリーから噴き出す火炎を効率的に分散させて火炎の勢いを低減させることができる。
【0102】
本発明の第4の形態において、基材の開口率は5〜60%であり、好ましい前記開口率は7〜58%であり、更に好ましい前記開口率は8〜55%である。前記開口率が5%未満であると、吸熱剤と火炎の接触で発生する水蒸気を前記孔より効率的に分散できず、バッテリーから噴き出す火炎を効率的に分散させて火炎の勢いを低減できない。また、前記開口率が60%より大きいと、火炎がバッテリーから噴き出した時、基材が耐火樹脂層を支持できなくなる。
なお、本発明の耐火積層体が備える基材の開口率とは、基材を平面視したときに、孔を含む基材全体の面積に対する孔の面積の割合である。
【0103】
基材に設けられる孔の形状と配置は特定のものに限定されない。基材の開口率が5〜60%である限り、任意の形状の孔が任意に配置される。例えば、
図3(a)に示されるように、基材21に円形の孔3が規則的に配置されていてよく、
図3(b)に示されるように、円形の孔3が不規則に配置されていてもよい。また、
図3(c)に示されるように、四角の孔3が規則的に配置されていてよく、
図3(d)に示されるように、網目状の孔が配置されていてもよい。
また、基材21に設けられる孔は、基材を貫通するように形成されるものであれば特に限定されず、金属箔、クロスなどにパンチングなどで形成される孔でもよい。また、メッシュなどにおいては、メッシュを構成する線材と線材との間に形成される隙間によって構成される孔でもよいし、クロスにおいては、繊維と繊維の間に形成される隙間によって構成される孔でもよい。
【0104】
図4(a)に示されるように、基材21に設けられる孔3の内部は、耐火樹脂層22で完全に塞がれていてよく、図示されていないが、前記孔の内部の一部が耐火樹脂層22で塞がれていてよい。また、
図4(b)に示されるように、基材21に設けられる孔3は、耐火樹脂層22によって覆われるが、内部が耐火樹脂層22によって塞がれていなくてもよい。さらに、
図4(c)に示されるように、基材21と耐火樹脂層22に連通する孔3’が設けられていてもよい。
なお、第4の形態において、基材は、上記した第3の形態と同様であるが、第4の形態においては、軟化点又は融点が300℃以上となるもの以外の基材であってもよい。
【0105】
(耐火積層体の製造方法)
本発明の各形態における耐火積層体は、耐火樹脂組成物を押出成形などすることで、基材の一方の面又は両面上に耐火シートを形成することで製造することができる。また、本発明の耐火積層体は、溶剤により希釈した耐火樹脂組成物の希釈液を、基材の一方の面又は両面に塗布し、乾燥することで、基材の一方の面又は両面上に耐火シートを形成することで製造してもよい。
さらに、本発明の耐火積層体は、予め成形した耐火シートを、基材の一方の面又は両面に圧着などすることで積層させて製造してもよい。
なお、基材の両面に、耐火シートを形成する場合には、両面に同時に耐火シートを形成してもよいし、片面ずつ順次、耐火シートを形成してもよい。
本発明では、溶剤により希釈した耐火樹脂組成物の希釈液を用いて耐火シートを形成することが好ましい。希釈液を用いる場合、樹脂は、通常、熱可塑性樹脂であり、好ましくはポリビニルアセタール樹脂である。
耐火樹脂組成物を希釈する際に使用する溶剤は上記したとおりであり、希釈液の調整方法や詳細も上記のとおりである。
【0106】
ただし、本発明の第4の形態の耐火積層体の製造方法では、耐火樹脂組成物と積層される基材に、開口率が5〜60%となるように予め孔が設けられているとよい。その場合、基材に設けられた孔は、耐火樹脂組成物により完全に孔埋めされるか、又はその一部が耐火樹脂組成物により孔埋めされる。
また、本発明の第4の形態の耐火積層体の製造方法では、耐火樹脂組成物と孔を有さない基材が積層された後、パンチング等により基材及び耐火樹脂組成物に連通する孔を設けてもよい。その場合、基材に設けられた孔は、耐火樹脂組成物により孔埋めされていない。
【0107】
[粘着材]
本発明の各形態における耐火積層体は、耐火積層体の少なくとも一方の面に粘着材を備えてもよい。粘着材は、耐火シートが基材の一方の面のみに設けられる場合、基材の他方の面に設けられてもよいし、耐火シート上に設けられてもよいが、耐火シート上に設けられることが好ましい。耐火シート上に粘着材が設けられると、耐火積層体は、粘着材を介してバッテリーに貼り合わせた場合、バッテリー側から、耐火シート、基材の順で配置されることになる。このような配置により、消火性能が高めやすくなる。
また、耐火シートが基材の両面に設けられる場合、粘着材は、一方の耐火シート上に設けられてもよいし、両方の耐火シート上に設けられてもよいが、両方の耐火シート上に設けられることが好ましい。粘着材が両方の耐火シート上に設けられることで、例えば、2つのバッテリーセルの間に耐火積層体が配置される場合、耐火積層体は両方のバッテリーセルに貼り合わせることができる。
【0108】
粘着材は、粘着剤層からなるものでもよいし、基材の両表面に粘着剤層が設けられた両面粘着テープでもよいが、粘着剤層からなることが好ましい。なお、両面粘着テープは、一方の粘着剤層が耐火積層体に貼り合わせられることで、耐火積層体上に積層されて粘着材を構成することになる。
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられるが、これらに限定されない。粘着材の厚さは、特に限定されないが、例えば、3〜500μm、好ましくは10〜200μmである。
また、両面粘着テープに使用する基材は、樹脂フィルム、不織布など、両面粘着テープに使用される公知の基材を使用するとよい。
【0109】
[バッテリー]
本発明の耐火シート及び耐火積層体は、バッテリーに用いられることが好ましい。バッテリーは、通常、少なくとも1つのバッテリーセルを有し、そのバッテリーセルに耐火シート又は耐火積層体が取り付けられるとよい。耐火シート又は耐火積層体は、通常、バッテリーセルの表面に取り付けられる。また、耐火積層体は、耐火シートがバッテリーセル側に向けられることが好ましい。すなわち、耐火積層体は、バッテリーセル側から、耐火シート、基材の順に配置されることが好ましい。耐火シートがバッテリーセルに向けられることで、バッテリーセルで発火が生じたときに、その発火を耐火シートにより迅速に消火できるようになる。バッテリーは、バッテリーセルを1つ有してもよいし、2つ以上有してもよい。
【0110】
バッテリーセルは、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、及び負極端子等が外装部材に収容されたバッテリーの構成単位を指す。また、バッテリーセルは、セルの形状により、円筒型、角型、ラミネート型に分類される。
バッテリーセルが円筒型の場合、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、負極端子、絶縁材、安全弁、ガスケット、及び正極キャップ等が外装缶に収容されているバッテリーの構成単位を指す。一方、バッテリーセルが角型の場合、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、負極端子、絶縁材、及び安全弁等が外装缶に収容されているバッテリーの構成単位を指す。バッテリーセルがラミネート型の場合、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、及び負極端子等が外装フィルムに収容されているバッテリーの構成単位を指す。ラミネート型のバッテリーでは、2枚の外装フィルムの間、或いは、1枚の外装フィルムが例えば2つ折りで折り畳まれ、その折り畳まれた外装フィルムの間に、正極材、負極材、セパレータ、正極端子、及び負極端子等が配置され、外装フィルムの外縁部がヒートシールによって圧着されている。外装フィルムとしては例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されたアルミニウムフィルム等が挙げられる。
また、バッテリーセルは、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル・水素電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・鉄電池、ニッケル・亜鉛電池、ナトリウム・硫黄電池、鉛蓄電池、空気電池等の二次電池であり、これらの中でもリチウムイオン電池が好ましい。
バッテリーは、例えば、携帯電話及びスマートフォン等の小型電子機器、ノートパソコン、自動車等に使用されるが、これらに限定されない。
【0111】
耐火シート又は耐火積層体は、バッテリーセルのいずれの表面上に設けられるとよいが、バッテリーセルの大部分(例えば、表面積の40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上)の表面を覆うことが好ましい。耐火シートが表面の大部分を覆うことでバッテリーセルの発火に対して、迅速に消火しやすくなる。
また、バッテリーセルは、安全弁を有することが多いが、安全弁を有する場合、耐火シート又は耐火積層体によって安全弁を覆うように設けられることが好ましい。このとき、耐火シート又は耐火積層体は、安全弁の機能を担保するために、安全弁を密封させないように覆うとよい。さらに、ラミネート型のバッテリーセルの場合には、ヒートシールによって圧着されるヒートシール部を覆うように設けられることが好ましい。
バッテリーセルは、安全弁又はヒートシール部から発火することが多いため、これらを耐火シート又は耐火積層体で覆うことでバッテリーセルの発火より有効に消火しやすくなる。
さらに、耐火シート又は耐火積層体は、バッテリーセルの大部分の表面を多い、かつ安全弁又はヒートシール部を有する場合、安全弁又はヒートシール部も覆うように配置されることがより好ましい。例えば、耐火シート又は耐火積層体はバッテリーセルに巻くように配置されるとよい。
【0112】
例えば、
図5に示すようにバッテリーセル11が角型の場合、耐火シート12は、バッテリーセル11の外周面を巻き付けられるように配置され、例えば、その主面11A,11Bと、端面11C,11Dの上に配置されることが好ましい。なお、主面11A,11Bとは、角型のバッテリーセル11において、最も面積が大きくなる両面であり、端面11C,11Dは、主面11A,11Bを接続する端面である。角型セルでは、一般的に、端面11C,11Dのいずれかに安全弁(図示しない)が設けられるため、
図5の構成においても、耐火シート11がバッテリーセル11の安全弁を覆う。
また、例えば、
図6に示すようにバッテリーセル11が角型の場合、耐火シート12は、主面11A,11Bの両方のみに設けられてもよい。さらに、主面11A,11Bのうち、一方のみに設けられてもよい。
【0113】
バッテリーセル11がラミネート型の場合、
図7に示すように、耐火シート12は、例えば、バッテリーセル11の両面11X,11Yそれぞれを覆うように設けられるとよい。このとき、耐火シート12は、ヒートシール部11Zも覆うように配置されるとよい。 なお、ラミネート型においても、耐火シート12は、一方の面11Xのみを覆うように設けられてもよい。さらに、ラミネート型においても、耐火シート12は、バッテリーセル11の外周面を巻くように配置されてもよい。
さらに、
図8に示すように、バッテリーセル11が円筒型の場合、耐火シート12は、バッテリーセル11の外周面に巻き付けられるように配置されればよい。
さらに、
図9に示すように、複数のバッテリーセル11が設けられている場合は、耐火シート12をバッテリーセル11の間に配置することができる。このような構成によれば、1つのバッテリーセル11が熱暴走により発火しても、耐火シート12によって有効に消火されることになるので、隣接するバッテリーセル11が連続的に発火したりすることを防止できる。
図9に示すバッテリーは、模式的にバッテリーセル11を2つのみ示すが、3つ以上のバッテリーセルが設けられてもよい。その場合、バッテリーセル11、11の間それぞれには、耐火シート12が配置されるとよい。
なお、
図1〜4において、耐火シート12は、耐火シート12の一方の面に設けられた粘着剤層を介してバッテリーセル11に接着されてもよいし、
図5において、耐火シート12は、耐火シート12の両方の面に設けられた粘着剤層を介して2つのバッテリーセル11に接着されてもよい。
また、
図5〜9に示した構成は、バッテリーの構成の一例に過ぎず、様々な態様を採用することが可能である。例えば、
図9に示す複数のバッテリーセル11は、角型のバッテリーセル11である構成を示したが、このような構成に限定されず、ラミネート型のバッテリーセルなどでもよい。
【0114】
上記した
図5〜9は、耐火シートをバッテリーセルに使用する際の実施形態の一例を示したものであるが、耐火積層体を用いる場合も耐火シートと同様に、角型のバッテリーセル、ラミネート型のバッテリーセル、円筒形のバッテリーセル、複数のバッテリーセルなどに使用することができる。耐火積層体は、バッテリーセルから耐火シート、基材がこの順に配置されることが好ましい。このように配置されることで、バッテリーセルで発火が生じたときに、その発火を耐火シートにより迅速に消火できるようになる。
上記した
図9に示すような、複数のバッテリーセルに耐火積層体を使用する場合は、基材と、基材の両面に設けられる耐火シートとを有する耐火積層体を用いることが好ましい。この場合は、耐火シートがバッテリーセルに向けて配置されるとよい。すなわち、バッテリーセル/耐火シート/基材/耐火シート/バッテリーセルの順に並べられることとなる。このような構成によれば、1つのバッテリーセルが熱暴走により発火しても、耐火シートによって有効に消火されることになるので、隣接するバッテリーセルが連続的に発火したりすることを防止できる。
また、耐火積層体は、耐火積層体の一方の面又は両方の面に設けられた粘着材を介してバッテリーセルに接着されてもよい。すなわち、耐火シートの表面上に配置された粘着材を介してバッテリーセルに取り付けられてもよい。
【0115】
本発明の別の一態様に係るバッテリーは、上記のように、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる耐火樹脂層とを備える耐火積層体でバッテリーセルが被覆されたものであり、基材によるバッテリーセルの被覆率が40〜95%となるものである。被覆率とは、バッテリーセルの表面の部分が、基材によって被覆されている割合を意味する。基材に孔が設けられ、その孔によりバッテリーセルの表面が基材により被覆されていない部分は基材によって被覆されない部分とする。もちろん、バッテリーセルの表面上に耐火積層体が設けられない部分も、基材により被覆されていない部分となる。
【0116】
本発明の上記した別の一態様のバッテリーにおいて、好ましい前記被覆率は45〜90%であり、更に好ましい前記被覆率は50〜85%である。前記被覆率が40%未満であると、耐火樹脂層が基材に十分に支持されなくなるか、バッテリーセルが耐火積層体で十分に被覆されなくなり、高い耐火性及び消火性能を有する耐火積層体の機能が発揮されない。また、前記被覆率が95%を超えると、吸熱剤と火炎の接触で発生する水蒸気等を効率的に分散できず、バッテリーから噴き出す火炎を効率的に分散させて火炎の勢いを低減できない。
本発明の上記した開口率が所定の範囲内であるバッテリーに使用する耐火積層体は、上記した本発明の第4の形態の耐火積層体であってよいし、開口率が0%より大きく5%未満である孔を有する基材を備える耐火積層体であってもよい。また、耐火積層体は、開口率が0%の基材を備える耐火積層体、すなわち、孔を有しない耐火積層体であってもよい。なお、開口率が0%より大きい基材は、開口率以外の構成は、上記した本発明の第4の形態の耐火積層体と同様であり、また、孔を有しない耐火積層体は、基材に孔が設けられない以外は、本発明の第4の形態の耐火積層体と同様であり、これらの説明を省略する。
【0117】
バッテリーは、開口率が所定の範囲内である態様においても、
図5〜8で例示して示したように、各種のバッテリーセルの表面に配置されるとよい。その配置方法は、上記で説明したとおりであるので、その説明は省略する。
さらに、開口率が所定の範囲内である態様のバッテリーにおいては、例えば、
図10に示すようにバッテリーセル11が角型の場合、耐火積層体20は、バッテリーセル11の四隅以外の部分に設けられてもよい。図示されていないが、角形のバッテリーセルの耐火積層体20が設けられない隅の数は1つであっても、2つであっても、また3つであってもよい。吸熱剤と火炎の接触で発生する水蒸気等の効率的な分散の観点から、耐火積層体20がバッテリーセル11の四隅以外の部分に設けられることが好ましい。
【0118】
開口率が所定の範囲内である態様のバッテリーでは、
図5〜8、10に示す各構成において、上記のとおり、基材21が孔を有していてもよいし、有していなくてもよい。ただし、開口率が所定の範囲内であるバッテリーにおいては、可燃性のガスを効率的に外部に逃がし、耐火樹脂層22により発火を抑制できる観点から、基材21は孔を有することが好ましい。また、基材21が孔を有しない場合には、バッテリーセルを耐火樹脂層20(すなわち、基材21)により部分的に被覆するようにすればよい。
【0119】
開口率が所定の範囲内である態様のバッテリーにおいても、耐火積層体20は、耐火樹脂層22側がバッテリーセル11の表面に向けられて配置され、したがって、バッテリーセル11から耐火樹脂層22、基材21がこの順に配置されることが好ましい。このように配置されることで、バッテリーセル11で発火が生じたときに、その発火を耐火樹脂層22により迅速に消火できるようになる。
また、開口率が所定の範囲内である態様のバッテリーにおいても、耐火積層体20は、耐火積層体20の一方の面に設けられた粘着材を介してバッテリーセル11に接着されてもよい。すなわち、耐火樹脂層22の表面上に配置された粘着材を介してバッテリーセル11に取り付けられてもよい。
【0120】
なお、
図5〜8、10に示したバッテリーは、開口率が所定の範囲内である態様においても、バッテリーの構成の一例に過ぎず、様々な態様を採用することが可能である。また、バッテリーセルが本発明の耐火積層体で被覆されている場合、
図5〜8、10において、基材に設けられる孔、基材と耐火樹脂層に連通して設けられる孔は図示されていない。
【0121】
本発明の各形態の耐火シート又は耐火積層体をバッテリーに用いる例について上述したが、本発明では、本発明の各形態の耐火シート又は耐火積層体を、バッテリーセルを構成する外装フィルムとして用いることもできる。
通常、外装フィルムは、基材層、バリア層及びシーラント層が、必要に応じて接着層を介して、この順で積層され構成されている。基材層は外装フィルムの最外層を形成する層であり絶縁性が要求され、一般的には、ナイロン、ポリエステル等が用いられている。バリア層は外装フィルムの強度向上や、バッテリー内部に水蒸気、酸素、光などが浸入することを防止するために設けられ、一般的には、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属箔や無機化合物を蒸着したフィルムなどが用いられている。シーラント層は外装フィルムの最内層に位置し、シーラント層同士が熱溶着することで、収容された各部材を密封するために設けられている。
本発明の各形態の耐火シートを用いて外装フィルムを構成する場合、耐火シートを、基材層とバリア層との間、バリア層とシーラント層との間、基材層の外層側、又はこれらの組み合わせた位置に配置して外装フィルムを構成することもできる。より好ましい態様では、少なくとも、耐火シートをバリア層とシーラント層との間に設けることが好ましい。バッテリーセルで発火が生じた際、その火を迅速に消火することができる。
【0122】
また、本発明の各形態の耐火積層体を用いて外装フィルムを構成する場合、耐火樹脂層を基材層とバリア層との間、バリア層とシーラント層との間、或いはそれらを組み合わせた位置に配置することができる。この場合、バリア層を本発明の各形態の耐火積層体を構成する基材として使用してもよい。より好ましい態様では、少なくとも、耐火樹脂層をバリア層とシーラント層との間に設けることが好ましい。バッテリーセルで発火が生じた際、その火を迅速に消火することができる。
また、本発明の各形態の耐火積層体を、基材層とバリア層との間、バリア層とシーラント層との間、基材層の外層側、又はこれらの組み合わせた位置に配置して外装フィルムを構成することもできる。この場合、本発明の各形態の耐火積層体の基材がバッテリーセルの外側に、耐火積層体の耐火樹脂層がバッテリーセルの内側に向かうように配置することが好ましい。
【実施例】
【0123】
(第1の形態)
以下、実施例を挙げて本発明の第1の形態の耐火樹脂組成物をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<実施例1A〜14A、比較例1A〜2A>
表1に示した樹脂、吸熱剤、及び難燃剤を含有する耐火樹脂組成物を、一軸押出機に供給し、150℃で押出成形し、厚さ1.0mmの耐火シートを得た。各成分としては以下のものを使用した。
【0124】
<樹脂>
樹脂として、下記エチレン−酢酸ビニル(EVA)樹脂を用いた。
EVA(1):エバフレックスEV460、三井デュポンポリケミカル株式会社
EVA(2):エバフレックスEV150、三井デュポンポリケミカル株式会社
EVA(3):エバフレックスV5274、三井デュポンポリケミカル株式会社
【0125】
<吸熱剤>
吸熱剤として、以下の化合物を用いた。
水酸化アルミニウム(1):BF013、日本軽金属株式会社製
水酸化アルミニウム(2):B53、日本軽金属株式会社製
水酸化アルミニウム(3):SB93、日本軽金属株式会社製
水酸化マグネシウム :キスマ、協和化学工業社製
水酸化カルシウム :CAOH−2、鈴木工業株式会社製
硫酸マグネシウム7水和物:試薬、ナカライテスク社製
ホウ酸亜鉛 :Firebreak ZB、ボラックス社製
炭酸カルシウム :ホワイトンBF−300 備北粉化株式会社
【0126】
<難燃剤>
難燃剤として、以下の化合物を用いた。
ポリリン酸アンモニウム:AP422、クラリアント社
【0127】
<メルトフローレート(MFR)の測定方法>
メルトフローレートは、JIS K 7210−2:1999に従って190℃、2.16kg荷重の条件によって測定した。
<吸熱剤の熱分解開始温度の測定方法>
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定した。測定条件は、室温から1000℃まで、昇温速度4℃/min、吸熱剤重量10mgであった。得られたTG曲線から重量が減少し始める温度を熱分解開始温度とした。
<吸熱剤の吸熱量の測定方法>
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて、測定条件は、室温から1000℃まで、昇温速度4℃/min、吸熱剤重量10mgであった。得られたDTA曲線から吸熱量(凹部の面積)を算出した。
<吸熱剤の平均粒子径の測定方法>
各成分の平均粒子径はレーザー回折法で測定した。具体的には、レーザー回折散乱方式粒度分布計等の粒度分布計によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を平均粒子径とした。
【0128】
<耐火シートの吸熱量の測定方法>
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定を行い、測定条件は、室温(23℃)から1000℃まで、昇温速度4℃/min、耐火シート重量10mgであった。得られたDTA曲線から吸熱量(凹部の面積)を算出した。
<吸熱シートの吸熱開始温度の測定方法>
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定を行い、測定条件は、室温(23℃)から1000℃まで、昇温速度4℃/min、耐火シート重量10mgであった。得られたDTA曲線から耐火シートの吸熱量の20%に達する温度を算出し、その値を吸熱シートの吸熱開始温度とした。
【0129】
<バッテリー消火テスト>
スマートフォンに使用されるラミネート型のリチウムイオン電池の周囲に、実施例及び比較例で作成した耐火シートを巻くように配置し、300℃に設定したホット、プレート上に試験体を載せて火の放出から火が消されるまでの時間を評価した。消火時間が2秒以内であった場合を「AA」、5秒以内であった場合を「A」、消火時間が5秒超10秒以内であった場合を「B」、消火時間が10秒超であった場合を「C」として評価し、消火時間が短い方が消火性能に優れていることを表す。結果を表1に示す。
【0130】
<シート成形性>
一軸押出機を用いて上記実施例の条件でシートに成形したとき、巻取りロールで巻取りができ、シートのロール体ができた場合を「A」、巻取りロールで巻取りができず、シートのロール体ができなかった場合を「B」として評価した。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
※表1において、吸熱剤が2種ある場合には、上段の吸熱剤の特性の欄が上側の吸熱剤の特性を示し、下段の吸熱剤の特性の欄が下側の吸熱剤の特性を示す。
【0132】
以上の実施例の結果から明らかなように、本発明によればバッテリーセルの熱暴走時における急激な温度上昇等に伴う発火に対して、短時間で消火することができる耐火性樹脂組成物を提供できた。また、実施例1A〜8A、11A〜14Aでは、吸熱剤の平均粒子径及び樹脂のメルトフローレートを所定の範囲内とすることで、耐火シートへのシート成形性も良好であった。
【0133】
(第2及び第3の形態)
以下、実施例を挙げて本発明の第2及び第3の形態をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0134】
各物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
吸熱剤の熱分解開始温度、吸熱量、及び各成分の平均粒子径については、第1の形態の実施例、比較例と同様に行った。また、基材の物性は、以下の測定方法により測定した。
<基材の引張り強度>
引張り強度は、JIS7113に準拠してAUTOGRAPH(島津製作所製、AGS−J)により測定した。
<基材の融点又は軟化点>
明細書記載の方法により測定した。
【0135】
<バッテリー発火テスト>
スマートフォンに使用されるラミネート型のリチウムイオン電池の周囲に、実施例及び比較例で作成した耐火シート又は耐火積層体を巻くように配置し、300℃に設定したホット、プレート上に試験体を載せて火の放出から火が消されるまでの時間を評価した。消火時間が5秒以内であった場合を「A」、消火時間が5秒超10秒以内であった場合を「B」、消火時間が10秒超であった場合を「C」として評価し、消火時間が短い方が消火性能に優れていることを表す。結果を表1に示す。
【0136】
<耐火シートの引張り強度>
実施例および及び比較例で得られた耐火シートの常温(23℃)における引張り強度をJIS7113に準拠してAUTOGRAPH(島津製作所製、AGS−J)により測定して、下記で判定した。なお実施例20〜24は基材を有している耐火積層体であるが、基材を設ける前の耐火シートの状態で引張り強度を測定した。
A:弾性率1500MPa以上
B:弾性率1200MPa以上1500MPa未満
C:弾性率900MPa以上1200MPa未満
D:弾性率900MPa未満
【0137】
<碁盤目試験残存率>
JIS D0202−1988に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行った。セロハンテープ(商品名「CT24」,ニチバン株式会社製)を用い、実施例で得られた耐火積層体の耐火シートに指の腹で密着させた後剥離した。判定は100マスの内、基材から剥離しないマス目のパーセントで表し,下記で判定した。
A:80%以上
B:40%以上80%未満
C:10%以上40%未満
D:10%未満
【0138】
実施例、比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
<樹脂>
PVB1:ポリビニルブチラール樹脂、重合度800、アセタール化度69mol%、アセチル基量1mol%、水酸基量30mol%、10質量%エタノール/トルエン粘度142mPa・s、SP値10.6
PVB2:ポリビニルブチラール樹脂、重合度320、アセタール化度75mol%、アセチル基量3mol%、水酸基量22mol%、10質量%エタノール/トルエン粘度21mPa・s、SP値10.2
PVB3:ポリビニルブチラール樹脂、重合度1,100、アセタール化度64mol%、アセチル基量1mol%、水酸基量35mol%、10質量%エタノール/トルエン粘度280mPa・s、SP値10.9
PVA:ポリビニルアルコール樹脂、重合度800、ケン化度98mol%、4質量%水溶液粘度142mPa・s、SP値12.4
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、商品名「エバフレックス」、三井デュポンポリケミカル社製、酢酸ビニル含量40質量%、重量平均分子量110,000、SP値9.1
アクリル樹脂:ポリメタクリル酸メチル、重量平均分子量53,000、SP値9.5
NBR:アクリロニトリルブタジエンゴム,重量平均分子量72,000、SP値8.8
<可塑剤>
DIDP:ジイソデシルフタレート
<吸熱剤>
水酸化アルミニウム1:C301−N、住友化学社製、平均粒子径1μm、熱分解開始温度201℃、吸熱量1000J/g
水酸化アルミニウム2:B−325、アルモリックス社製、平均粒子径27μm、熱分解開始温度200℃、吸熱量1000J/g
水酸化マグネシウム:タテホ化学社製、平均粒子径3μm、熱分解開始温度250℃、吸熱量1500J/g
硫酸カルシウム2水和物:ナカライテスク社製、平均粒子径40μm、熱分解開始温度120℃、吸熱量750J/g
硫酸マグネシウム7水和物:ナカライテスク社製、平均粒子径40μm、熱分解開始温度50℃、吸熱量1150J/g
水酸化カルシウム:富田製薬社製、平均粒子径40μm、熱分解開始温度440℃、吸熱量980J/g
<難燃剤>
ポリリン酸アンモニウム:AP422、クラリアント社、平均粒子径15μm
<無機充填剤>
炭酸カルシウム:ホワイトンBF−300 備北粉化株式会社
【0139】
<実施例1B〜6B、13B〜19B、比較例1B、3B>
表2−1、2−2に示した配合を有する耐火樹脂組成物をエタノール/トルエンを重量比で50:50にてブレンドした混合溶剤で固形分濃度55質量%に希釈したスラリー液を用意した。そのスラリー液を離型シート(リンテック社製PETフィルム)の片面に塗布して、80℃、30分間で乾燥させて、離型シート上に形成された耐火シートを得た。次いで、耐火シートを離型シートから剥離し、単体の耐火シートを得た。
<実施例7B、11B>
エタノール/トルエンを重量比で50:50にてブレンドした混合溶剤の代わりに、水を用いた以外は実施例1Bと同様にして、耐火シートを得た。
<実施例8B、9B、12B、比較例2B>
エタノール/トルエンを重量比で50:50にてブレンドした混合溶剤の代わりに、トルエンを用いた以外は実施例1Bと同様にして、耐火シートを得た。
<実施例10B>
表2−1、2−2に示した配合を有する耐火樹脂組成物を一軸押出機に供給し、150℃で押出成形して、耐火シートを得た。
【0140】
<実施例20B>
表2−3に示した配合を有する耐火樹脂組成物を、エタノール/トルエンを重量比で50:50にてブレンドした混合溶剤で固形分濃度50質量%に希釈したスラリー液を用意した。そのスラリー液を厚さ20μmのステンレス箔の片面に塗布して、80℃、30分間で乾燥させて、厚さ40μmの耐火シートを形成して、基材の片面に耐火シートを設けた耐火積層体を得た。
【0141】
<実施例21B〜23B>
基材の種類を表2−3に示すものに変更した以外は、実施例20Bと同様にして、基材の片面に耐火シートを設けた耐火積層体を得た。
【0142】
<実施例24B>
表2−3に示した配合を有する耐火樹脂組成物を、エタノール/トルエンを重量比で50:50にてブレンドした混合溶剤で固形分濃度50質量%に希釈したスラリー液を用意した。そのスラリー液を厚さ20μmのステンレス箔の両面に塗布して、80℃、30分間で乾燥させて、各面に厚さ40μmの耐火シートを形成して、基材の両面に耐火シートを設けた耐火積層体を得た。
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
【表4】
【0146】
以上の実施例に示すように、特定の吸熱剤を用い、かつ吸熱剤に対する樹脂の含有量を特定範囲とした本発明の耐火樹脂組成物からなる耐火シートは、消火性能が良好であり、かつ引っ張り強度が高いことより、優れた機械的強度を有することが分かった。それに対して、樹脂の量が少ない比較例1B,3Bの耐火シートは、機械的強度が低く、樹脂の量が多い比較例2B,4Bの耐火シートは消火性能に劣ることが分かった。特定の吸熱剤を用いない比較例5B,6Bの耐火シートは、消火性能に劣ることが分かった。