特許第6764429号(P6764429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764429
(24)【登録日】2020年9月15日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/0132 20060101AFI20200917BHJP
   B60R 21/0134 20060101ALI20200917BHJP
   B60R 21/02 20060101ALI20200917BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20200917BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20200917BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20200917BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20200917BHJP
【FI】
   B60R21/0132
   B60R21/0134
   B60R21/02
   G08G1/16 C
   B60W30/095
   B60W40/02
   B60W40/08
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-20256(P2018-20256)
(22)【出願日】2018年2月7日
(65)【公開番号】特開2019-137135(P2019-137135A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2018年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 将太
(72)【発明者】
【氏名】枝田 健志
(72)【発明者】
【氏名】山根 和也
【審査官】 鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−145381(JP,A)
【文献】 特開2003−276539(JP,A)
【文献】 特表2016−515275(JP,A)
【文献】 特開2009−292417(JP,A)
【文献】 特開2001−322532(JP,A)
【文献】 特開2007−314015(JP,A)
【文献】 特開平09−132111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/0132
B60R 21/0134
B60R 21/02
B60W 30/095
B60W 40/02
B60W 40/08
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外及び車内の環境を検知する検知部と、
シートに着座する乗員の着座姿勢を正規位置に矯正することが可能な規制部と、
前記規制部の作動制御を行う制御部と、
前記検知部による車外の環境の検知結果に基づいて、車外の対象物と自車両との予測される衝突までの間に、時間毎に画分されて成る複数の時間領域を設定する設定部と、
を備え、
前記規制部は、
複数回の作動が可能な可逆的部材と、
一度のみの作動が可能な不可逆的部材と、を有し、
前記可逆的部材は、
第1可逆的部材と、
前記第1可逆的部材とは異なる第2可逆的部材と、
を備えており、
前記制御部は、
前記検知部による車外及び車内の検知結果に基づいて前記規制部の作動制御を行う際に、対象物が矯正領域に侵入している場合は、前記検知部による車外及び車内の検知結果に基づいて前記可逆的部材の作動制御を行い、対象物が拘束領域に侵入している場合は、検知部による車外の検知結果に基づいて前記不可逆的部材の作動制御を行い、
前記矯正領域は、
第1矯正領域と、
第2矯正領域と、が設けられており、
前記第1可逆的部材が作動するまでの所要時間と、前記第2可逆的部材が作動するまでの所要時間とに基づいて、前記第1矯正領域と、前記第2矯正領域との順番を入れ替える、
乗員保護装置。
【請求項2】
前記矯正領域は、前記乗員を異なる着座姿勢に矯正する複数の領域を含み、
前記制御部は、前記複数の領域において、前記規制部の作動制御を複数段階に分けて行う、
請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記規制部は、前記乗員を前記シートに拘束することが可能であり、
前記設定部は、前記時間領域において前記乗員を前記シートに拘束する拘束領域を設定し、前記拘束領域に対して隣接する前領域に前記矯正領域を設定する、
請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記検知部の検知結果に基づいて前記対象物との衝突が回避可能となった場合、前記制御部は前記矯正領域における前記規制部の作動制御を停止する、
請求項1〜3のいずれかに記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置、特に乗員の着座姿勢に関わらず、衝突時にエアバッグなどの保護デバイスの安定した保護性能の発揮を可能とする乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周辺環境の検知結果に基づく運転支援制御などを行う乗員保護装置が様々提案されてきた。例えば、衝突回避を必要とする車両の存在をドライバに煩わしさを感じさせることなく報知するために、認知エリア、判断エリア及び物理限界領域などの複数に分けられた領域毎に警報の発報、及びプリクラッシュシステムの作動などを行う乗員保護装置がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−210102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、衝突直前までプリクラッシュシステムを作動させない上述の車両では、プリクラッシュシステムの作動、及び衝突時のエアバッグなどの作動の際に、乗員が正常な保護を受けられる着座姿勢となっていない可能性があった。これにより、エアバッグ及びシートベルトなどの乗員を保護するための部材が本来の保護性能を十分に発揮することができない可能性、又は、保護部材による乗員への加害性が発生する可能性があった。
【0005】
これに鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、乗員の着座姿勢に関わらず、衝突時にエアバッグなどの保護デバイスの安定した保護性能の発揮を可能とする乗員保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る乗員保護装置は、車外及び車内の環境を検知する検知部と、シートに着座する乗員の着座姿勢を正規位置に矯正することが可能な規制部と、前記規制部の作動制御を行う制御部と、前記検知部による車外の環境の検知結果に基づいて、車外の対象物と自車両との予測される衝突までの間に、時間毎に画分されて成る複数の時間領域を設定する設定部と、を備え、前記規制部は、複数回の作動が可能な可逆的部材と、一度のみの作動が可能な不可逆的部材と、を有し、前記可逆的部材は、第1可逆的部材と、前記第1可逆的部材とは異なる第2可逆的部材と、を備えており、前記制御部は、前記検知部による車外及び車内の検知結果に基づいて前記規制部の作動制御を行う際に、対象物が矯正領域に侵入している場合は、前記検知部による車外及び車内の検知結果に基づいて前記可逆的部材の作動制御を行い、対象物が拘束領域に侵入している場合は、検知部による車外の検知結果に基づいて前記不可逆的部材の作動制御を行い、前記矯正領域は、第1矯正領域と、第2矯正領域と、が設けられており、前記第1可逆的部材が作動するまでの所要時間と、前記第2可逆的部材が作動するまでの所要時間とに基づいて、前記第1矯正領域と、前記第2矯正領域との順番を入れ替える。
【0007】
本発明に係る乗員保護装置において、前記矯正領域は、前記乗員を異なる着座姿勢に矯正する複数の領域を含み、前記制御部は、前記複数の領域において、前記規制部の作動制御を複数段階に分けて行うことが好ましい。
【0008】
本発明に係る乗員保護装置において、前記規制部は、前記乗員を前記シートに拘束することが可能であり、前記設定部は、前記時間領域において前記乗員を前記シートに拘束する拘束領域を設定し、前記拘束領域に対して隣接する前領域に前記矯正領域を設定することが好ましい。
【0011】
本発明に係る乗員保護装置において、前記検知部の検知結果に基づいて前記対象物との衝突が回避可能となった場合、前記制御部は前記矯正領域における前記規制部の作動制御を停止することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、対象物との衝突までの間に設定される時間領域の中に少なくとも矯正領域が設定され、該矯正領域では乗員が様々な着座姿勢であっても乗員の着座姿勢を矯正することによって、保護デバイスの正常な保護性能を衝突時に安定的に発揮させることのできる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態である乗員保護装置を概略的に示すブロック図である。
図2図2は、図1に示した設定部による時間領域を模式的に示す平面図である。
図3図3は、図1に示した乗員保護装置を用いる際の制御フローについて示すフローチャート図である。
図4図4は、図1に示した乗員保護装置を用いる際の別の制御フローについて示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る乗員保護装置の一実施形態について、図1図3を参照しつつ説明する。
なお、図1は、本発明の一実施形態である乗員保護装置1を概略的に示すブロック図である。図2は、図1に示した設定部5による時間領域を模式的に示す平面図である。図3は、図1に示した乗員保護装置1を用いる際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【0015】
図1に示すように、乗員保護装置1は、検知部2と、規制部3と、制御部4と、設定部5とを備える。
【0016】
検知部2は、車外検知部21及び車内検知部22を有する。
車外検知部21は、自車両の外側の環境、具体的には自車両周辺の他車両及び障害物(以下において「対象物」と称する)の有無、対象物の大きさ、対象物の移動方向、対象物の絶対速度又は自車両との相対速度などを検知する。車外検知部21としては、例えば車載用のカメラ、及びレーダーなどを採用することができる。車外検知部21は、検知結果を設定部5に出力するようになっている。
車内検知部22は、自車両の内側の環境、具体的には車室内の各シートにおける乗員の着座の有無、乗員が着座するシートの位置、及びリクライニング状態、乗員の着座位置及び着座姿勢などを検知する。車内検知部22としては、例えばドライバモニタリングシステムなどで用いられる乗員監視用カメラ、赤外線センサ、シートクッションの圧力分布を検知する感圧センサ、シートの傾斜角度センサなどを採用することができる。車内検知部22は、検知結果を制御部4に出力するようになっている。
なお、本発明における検知部は、少なくとも車外の環境を検知可能であれば良い。
【0017】
規制部3は、シートに設けられ、シートに着座する乗員の着座姿勢を少なくとも正規位置に矯正するものであり、矯正部31及び拘束部32を有する。規制部3の矯正部31及び拘束部32は、いずれも制御部4からの作動信号が入力されることで作動するようになっている。
矯正部31は乗員の様々な着座姿勢を変位させることで矯正すると共に、拘束部32は矯正部31により正規位置に着座姿勢を矯正された乗員を拘束することでシートに拘束する。
【0018】
矯正部31は、シート作動部311、矯正用エアバッグ作動部312、及びベルト移動部313を有する。
シート作動部311は、シートを移動させる部材であり、具体的にはシートの前後スライド、シートバックの傾斜角度の調整を可能とするアクチュエータなどである。
矯正用エアバッグ作動部312は、シートに対する乗員の位置を変位させる部材であり、具体的には少なくともシートクッション及びシートバックのいずれかに設けられて成り、任意の位置に凸状部位を形成可能なシート内エアバッグなどである。本発明において着座姿勢の矯正のための凸状部位の形成は、シート内エアバッグに代えて弾力性を有する突起物をシート内からシートクッション及びシートバックの表面に対してアクチュエータにより進退させる機構などであっても実現可能である。
ベルト移動部313は、シート作動部311及び矯正用エアバッグ作動部312と協働して作動する部材であり、具体的にはシートベルトの位置を乗員の保護に適した位置に上下、前後、左右に移動させるためのスライド機構などである。
【0019】
矯正部31における特にシート作動部311及び矯正用エアバッグ作動部312は、衝突時に作動するエアバッグの展開及びシートベルトの巻取り又はロックなどの乗員保護性能を、乗員が適切な姿勢及び位置で受けることができるように、乗員を適宜に移動させるために設けられる。つまり、乗員の正規位置における着座姿勢は、衝突時に作動する乗員保護デバイスが想定している乗員の着座姿勢及び着座位置である。
乗員の着座姿勢の矯正は、シート作動部311によるシートの前後スライド、及びリクライニングの元位置又は適正位置への移動、並びに、矯正用エアバッグ作動部312による乗員の着座位置と正規位置とのズレを解消又は小さくするようなエアバッグの展開などによって達成される。
【0020】
拘束部32は、ベルト巻取部321及び拘束用エアバッグ作動部322を有する。
ベルト巻取部321は、シートベルトを巻取る部材であり、具体的にはシートベルトの巻取り部分に付設され、モータ又は火薬の爆発などを用いて乗員を拘束可能な程度の力でシートベルトを巻取る。
拘束用エアバッグ作動部322は、シートに対する乗員の位置を維持させる部材であり、具体的には少なくともシートクッション及びシートバックのいずれかに設けられて成り、任意又は所定の位置に凸状部位を形成可能なシート内エアバッグなどである。本発明において乗員の拘束のための凸状部位の形成は、シート内エアバッグに代えて弾力性を有する突起物をシート内からシートクッション及びシートバックの表面に対してアクチュエータにより進退させる機構などであっても実現可能である。
【0021】
なお、矯正用エアバッグ作動部312と拘束用エアバッグ作動部322とは、本実施形態においては別体の部材であり、図示しない矯正用エアバッグと拘束用エアバッグとについても別体の部材を採用している。
本発明において、矯正用エアバッグによる乗員の姿勢の矯正と、拘束用エアバッグによる乗員のシートへの拘束とを略同時に、又は、矯正を行いつつ拘束も行うなどの連続的に行う場合は、矯正及び拘束が可能なエアバッグの形状、大きさ、配置を採用すると共に、エアバッグ作動部材も同一部材としても良い。
【0022】
制御部4は、規制部3の作動制御を行うものであり、具体的には様々な車載機器の電子制御を行うECUなどである。制御部4は、車内検知部22の検知結果及び設定部5の設定領域に係る信号が入力され、規制部3に作動制御のための信号を出力するようになっている。制御部4の制御及び動作については後述する。
【0023】
設定部5は、検知部2の検知結果に基づいて、車外の対象物と自車両との予測される衝突までの間に、時間毎に画分されて成る複数の時間領域を設定するものであり、具体的には車載機器の電子制御を行うECUなどであり、上記制御部4と同一部材内に組み込むことが可能である。設定部5は、設定した時間領域に係る信号を制御部4に出力するようになっている。
【0024】
ここで、設定部5が設定する時間領域について、図2を参照しつつ説明する。
【0025】
設定部5は、図2に示すように、自車両Aの前方を対向方向に走行する対象物B(他車両)と、自車両Aとの間に時間領域6を設定する。本実施形態において時間領域6は、自車両Aと対象物Bとの衝突までの予測される時間を複数領域に画分して設定され、矯正領域61と拘束領域62とが含まれている。更に、矯正領域61に第1矯正領域611及び第2矯正領域612が含まれている。
時間領域6の設定は、予測される衝突までの時間を等分することで設定しても良く、各領域における矯正部31及び拘束部32の作動の所要時間に基づいた比率に分けて設定しても良い。
【0026】
矯正領域61は、乗員の着座姿勢を矯正するために図1に示した矯正部31を作動させる領域である。矯正領域61には第1矯正領域611と第2矯正領域612とが含まれ、第1矯正領域611が第2矯正領域612より前領域に設定されている。これにより、第1矯正領域611は第2矯正領域612より時間的に早いタイミングで制御部4による制御が行われることとなる。
第1矯正領域611は、制御部4により矯正部31のシート作動部311の作動制御を行う領域である。第2矯正領域612は、制御部4により矯正部31の矯正用エアバッグ作動部312の作動制御を行う領域である。
第1矯正領域611と第2矯正領域612とは、乗員をそれぞれ異なる着座姿勢に矯正する領域であり、各領域に応じた矯正部31の作動制御が複数段階に分けて行われる。
なお、本実施形態においては、制御部4によるベルト移動部313の作動制御は、矯正領域61内であればいつ行うこととしても良い。
【0027】
なお、本実施形態においては、シート作動部311によるシートの移動の所要時間が、矯正用エアバッグ作動部312による矯正用エアバッグの展開の所要時間より長いことを想定した第1矯正領域611及び第2矯正領域612の順序の設定となっている。本発明においては、上記車内検知部22などによる車内環境の検知結果に応じて、シート移動の所要時間が矯正用エアバッグの展開の所要時間より短い可能性があれば第1矯正領域と第2矯正領域との順序を入れ替える、又は同時の作動制御を行うこととしても良い。これにより、矯正部の作動制御の所要時間、つまり矯正領域全体の時間の短縮化を図り、乗員の着座姿勢を確実かつ早期に安全なものとすることができ、衝突に備えることができるので好ましい。
【0028】
拘束領域62は、乗員をシートに対して拘束するために図1に示した拘束部32を作動させる領域である。つまり、拘束領域62は、制御部4によりベルト巻取部321及び拘束用エアバッグ作動部322の作動制御を行う領域である。拘束領域62は矯正領域61に隣接する領域であり、拘束領域62の前領域として矯正領域61が設定されている。
本実施形態において拘束領域62は、1つの領域のみを設けているが、衝突までの時間的猶予が確保することが可能であれば上記矯正領域61のように複数領域に更に画分し、矯正部31の各部材の作動制御を複数段階に分けても良い。
【0029】
なお、矯正部31では複数回の作動が可能な可逆的部材を用いると共に、拘束部32では一度のみの作動が可能な不可逆的部材を用いるのが好ましい。
具体的には、矯正部31において、シート作動部311によるシートの移動、矯正用エアバッグ作動部312による矯正用エアバッグの収縮、及び、ベルト移動部313によるシートベルトの移動は、複数回の作動制御が可能となっている。また、ベルト巻取部321によるシートベルトの巻取り、及び拘束用エアバッグ作動部322による拘束用エアバッグの展開は一度のみの作動制御が可能となっている。特に矯正用エアバッグはエア又はガスの注入及び除去による収縮が可能な可逆的部材であり、拘束用エアバッグは火薬の爆発で発生するガスの注入による展開が一度だけ可能な不可逆的部材である。拘束用エアバッグは矯正用エアバッグに比べてエアバッグの展開する力が大きいので、乗員の着座姿勢を規制する力、つまり矯正する力よりも大きな拘束する力を確保することができる。
【0030】
矯正部31に可逆的部材を用いることにより、矯正領域61において衝突の可能性が無くなった場合、換言すると自車両Aが対象物Bとの衝突を回避可能であると判断された場合、矯正部31の作動制御を停止し、別の対象物との衝突可能性が生じるときに再度備えることができる。これにより、その後において乗員の着座姿勢を矯正部31の作動制御前の状態に復帰させることも可能となるので、乗員がリラックスした着座姿勢であった場合は着座姿勢を戻して再度リラックス状態にすることが可能である。また、拘束部32では不可逆的部材を用いることにより、最も時間領域6の中では遅いタイミング、つまり対象物Bが自車両Aに最も接近して真に危険が迫ったときに、確実かつ強固な乗員の拘束が可能となるので好ましい。
【0031】
ここで、上記乗員保護装置1を用いる際の制御について、図3を参照しつつ説明する。
なお、図3は、図1及び2に示した乗員保護装置1を用いて、規制部3の作動制御を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【0032】
先ず、衝突の可能性の有無を、設定部5が判別する(ステップS1)。本工程では、車外検知部21の検知結果に基づいて、図2に示した対象物Bと自車両Aとの衝突の可能性が高い、具体的には衝突の可能性が所定のしきい値を超えていると判別された場合に、次工程に移る(ステップS1のYES)。対象物Bは検知されているが衝突の可能性が無い又はしきい値より低いと判別された場合、本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。衝突可能性の高低の導出は、自車両Aと対象物Bとの距離、相対速度、それぞれの進行方向、対象物Bの大きさ、対象物Bが車両であれば対象物Bの運転者の状態(自車両Aの認識度合い、視線、)、道路幅などの走行環境などに基づいて判別することが可能である。
【0033】
衝突の可能性が高いと判別された場合は(ステップS1のYES)、続いて設定部5が図2に示した時間領域6を設定する(ステップS2)。本工程における時間領域6の設定は、車外検知部21による自車両Aと対象物Bとの距離、相対速度、それぞれの進行方向などの検知結果に基づいて、衝突が生じるまでの時間を設定部5が導出し、導出された衝突までの時間を適宜の比率に画分することで達成される。ここで設定される時間領域6は、図2に示した第1矯正領域611、第2矯正領域612及び拘束領域62からなる領域である。なお、設定部5は設定した時間領域6に係る信号を制御部4に出力する。
【0034】
次いで、対象物Bが第1矯正領域611内に進入したか否かを、制御部4が判別する(ステップS3)。本工程では、設定部5が設定した時間領域6と、車外検知部21の検知結果とに基づいて、対象物Bが第1矯正領域611内に進入していると判別された場合に、次工程に移る(ステップS3のYES)。対象物Bが第1矯正領域611内に進入していないと判別された場合、第1矯正領域611内への対象物Bの進入が検知されるまで本工程を繰り返すこととする(ステップS3のNO)。
【0035】
対象物Bが第1矯正領域611内に進入していると判別された場合は(ステップS3のYES)、制御部4は、車内検知部22の検知結果に基づいて矯正部31のシート作動部311の作動制御を行う(矯正部31の第1作動制御)(ステップS4)。本工程では、シート作動部311の作動によって、車内検知部22が検知したシートの現在位置及び傾斜が、保護デバイスの正常な保護機能が発揮され得る位置及び傾斜となるまで、シートを移動させる。
保護デバイスの正常な保護機能が発揮され得る位置及び傾斜は、保護デバイスで想定している乗員の正規位置及び傾斜であり、通常は手動運転を無理なく行うことのできるシート位置及び傾斜であることが多い。よって、本工程では、例えば手動運転時に通常よりステアリングホイールに近い前方位置にシートが配置されている場合、自動運転時に大きく後傾させてリラックスした姿勢である場合などに、シートの前後位置及び傾斜などを、正規位置及び傾斜に戻すことになる。
【0036】
次に、対象物Bが第2矯正領域612内に進入したか否かを、制御部4が判別する(ステップS5)。本工程では、設定部5が設定した時間領域6と、車外検知部21の検知結果とに基づいて、対象物Bが第2矯正領域612内に進入していると判別された場合に、次工程に移る(ステップS5のYES)。対象物Bが第2矯正領域612内に進入していないと判別された場合、第2矯正領域612内への対象物Bの進入が検知されるまで本工程を繰り返すこととする(ステップS5のNO)。
【0037】
対象物Bが第2矯正領域612内に進入していると判別された場合は(ステップS5のYES)、制御部4は、車内検知部22の検知結果に基づいて矯正部31の矯正用エアバッグ作動部312の作動制御を行う(矯正部31の第2作動制御)(ステップS6)。本工程では、矯正用エアバッグ作動部312による矯正用エアバッグの作動によって、車内検知部22が検知した乗員の現在の着座位置が、保護デバイスの正常な保護機能が発揮され得る位置となるまで、乗員をシート上で移動させる。
矯正用エアバッグは、シートクッション及びシートバックの表面に凸状部位を形成し、乗員が該凸状部位に押圧されることで乗員のシートに対する前後位置及び左右位置が正規位置となる。特に本実施形態では自車両Aと対象物Bとの前方衝突が想定されていることで、衝突時にフロントエアバッグによる乗員保護の可能性が高いので、矯正用エアバッグにより乗員の着座位置をシートの幅方向略中央部に移動させるのが好ましい。
なお、想定される衝突形態が側方衝突である場合、衝突時に窓及びドアへの接触を小さくかつ遅らせるのが好ましいので、乗員の着座位置をシートに対して検知された対象物とは左右方向で反対側に移動させると良い。
【0038】
続いて、対象物Bが拘束領域62内に進入したか否かを、制御部4が判別する(ステップS7)。本工程では、設定部5が設定した時間領域6と、車外検知部21の検知結果とに基づいて、対象物Bが拘束領域62内に進入していると判別された場合に、次工程に移る(ステップS7のYES)。対象物Bが拘束領域62内に進入していないと判別された場合、拘束領域62内への対象物Bの進入が検知されるまで本工程を繰り返すこととする(ステップS7のNO)。
【0039】
対象物Bが拘束領域62内に進入していると判別された場合は(ステップS7のYES)、制御部4は、拘束部32のベルト巻取部321及び拘束用エアバッグ作動部322の作動制御を行う(ステップS8)。本工程では、ベルト巻取部321によるシートベルトの巻取り、及び拘束用エアバッグ作動部322による拘束用エアバッグの展開によって、シートに対して乗員を拘束することで、上記工程によって矯正部31が正規位置に矯正した乗員の着座姿勢を略固定状態とすることができる。
拘束用エアバッグは、矯正されて移動した乗員を側方から挟み込むようにシートクッション及びシートバックの少なくともいずれかから展開することで、シートベルトだけに依らない強固な拘束が可能となる。特に側方衝突が予測される場合は、乗員は衝突時に左右に移動しにくいのが好ましいので、拘束用エアバッグの左右からの挟み込み形態の拘束を採用するのが良い。
【0040】
衝突までの時間的猶予が少ない場合は、矯正部31を作動している途中で対象物Bが拘束領域62内に進入することもあり得る。このような状況が検知部2の検知結果に基づいて予測される場合は、矯正部31の第1作動制御及び第2作動制御のいずれかにおいて、ベルト移動部313を作動するのが好ましい。具体的には、例えば矯正部31の第1作動制御及び第2作動制御によって乗員を移動させている途中で拘束部32の作動制御が開始される場合は、シートベルトが乗員から離れている、又は巻取りを開始するべき位置からずれている可能性がある。この場合、車内検知部22の検知結果に基づいて、制御部4はベルト移動部313の作動制御によって、シートベルトを乗員に近付ける又は巻取りの適正位置にずらすような移動を行わせるのが良い。これにより、衝突までの時間的猶予が少ない状況下でも、乗員を円滑に拘束状態にすることができるようになる。
【0041】
以上により、自車両Aと対象物Bとの衝突に備えるための、乗員の着座姿勢の矯正及び拘束を含む規制工程が完了する。
将来的に自動運転制御又は高度運転支援制御を行う車両の増加にともなって、手動運転を行っていた既存の車両に比べて、車両内での乗員の着座姿勢の自由度も向上する。これにより、従来のエアバッグ及びシートベルトのプリテンショナなどの保護デバイスが作動したとしても、想定していない着座姿勢の乗員に対して正常の乗員保護性能が発揮されないことが増えると考えられる。
これに対して、本実施形態に係る乗員保護装置1を用いることで、例えば自動運転時に運転席の乗員がシートを後方に移動し、更にリクライニングしている状態であっても、保護デバイスが乗員保護性能を正常に発揮し得る着座姿勢まで移動させ、更に拘束することができる。これによって、保護デバイスからの乗員保護を適切に受けることができ、想定されていない着座姿勢に起因した保護デバイス自体の加害性も低減又は解消することができる。
【0042】
図3に示した実施形態では、矯正部31の作動制御を第1作動制御(ステップS4)と第2作動制御(ステップS6)との複数段階に分けることで、工程毎の乗員の着座姿勢の変化を想定し易く、明確化することができる。また、シート作動部311によるシートの移動などのように長い所要時間を確保することが好ましい作動制御を、前領域である第1矯正領域611に設定し、かつ第1作動制御を行うことで、余裕をもって乗員の着座姿勢を正規位置に変化させることができる。
【0043】
続いて、自車両Aの状況が変化したときの対応も含めた制御について、図4を参照しつつ説明する。
なお、図4は、図1及び2に示した乗員保護装置1を用いて、規制部3の作動制御を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。図4に示す制御フローにおいて、図3に示した制御フローと共通した工程については同一の参照符号を付すこととし、詳細な説明は省略する。
【0044】
先ず、図3に示した制御フローとの相違点の一つは、設定部5による衝突の可能性の有無の判別工程(ステップS1)、及び、設定部5による時間領域6の設定工程(ステップS2)の後に、対象物Bの第1矯正領域611内への進入の有無の判別工程(ステップS3)において進入していないと判別された場合である(ステップS3のNO)。
【0045】
対象物Bが第1矯正領域611内に進入していないと判別された場合(ステップS3のNO)、衝突が回避可能となっているか否かを制御部4が判別する(ステップS9)。本工程では、車外検知部21の検知結果に基づいて、自車両Aと対象物Bとの衝突可能性を再度導出し、例えば衝突可能性が所定のしきい値より超えたままであれば、衝突を回避困難な状態が維持されているので、対象物Bが第1矯正領域611内に進入したか否かの判別工程を繰り返す(ステップS9のNO)。再度導出した衝突可能性が所定のしきい値を下回っていれば、衝突を回避可能となっているので、次工程に移る(ステップS9のYES)。
【0046】
衝突が回避可能と判別された場合(ステップS9のYES)、設定部5が設定した時間領域6は不要となるので、制御部4は設定部5の時間領域6の設定を解除する(ステップS101)。本工程により時間領域6は消去され、衝突の可能性も無くなったので、本制御フローを完了する。
【0047】
更に、図3に示した制御フローとの別の相違点は、対象物Bの第2矯正領域612内への進入の有無の判別工程(ステップS5)において、進入していないと判別された場合である(ステップS5のNO)。
【0048】
対象物Bが第2矯正領域612内に進入していないと判別された場合(ステップS5のNO)、衝突が回避可能となっているか否かを制御部4が判別する(ステップS11)。本工程では、車外検知部21の検知結果に基づいて、自車両Aと対象物Bとの衝突可能性を再度導出し、例えば衝突可能性が所定のしきい値より超えたままであれば、衝突を回避困難な状態が維持されているので、対象物Bが第2矯正領域612内に進入したか否かの判別工程を繰り返す(ステップS11のNO)。再度導出した衝突可能性が所定のしきい値を下回っていれば、衝突を回避可能となっているので、次工程に移る(ステップS11のYES)。
【0049】
衝突が回避可能と判別された場合(ステップS11のYES)、矯正部31の第1作動制御におけるシート作動部311の作動制御と、設定部5が設定した時間領域6とが不要になるので、制御部4はシート作動部311の作動制御を停止し、好ましくは元位置に復帰させる(ステップS12)と共に、設定部5の時間領域6の設定を解除する(ステップS102)。本工程によりシートの移動は停止又は元位置まで復帰すると共に、時間領域6は消去され、衝突の可能性も無くなったので、本制御フローを完了する。
【0050】
図4に示した実施形態では、矯正部31の作動制御を第1作動制御(ステップS4)と第2作動制御(ステップS6)との複数段階に分けると共に、各部材の作動を停止する制御(ステップS101、S102及びS12)も適宜に行うようにすることで、自車両Aの状況に応じた細やかな制御が可能となるので好ましい。
【0051】
上記説明では前方衝突及び側方衝突に対する規制部3の各作動制御について説明したが、本発明においては斜め衝突に対しても、特に乗員の着座位置を矯正用エアバッグ作動部312などによって斜め衝突に対応した位置に移動させることで、保護デバイスに乗員保護性能を十分に発揮させることができるようになる。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0053】
1:乗員保護装置、2:検知部、21:車外検知部、22:車内検知部、3:規制部、31:矯正部、311:シート作動部、312:矯正用エアバッグ作動部、313:ベルト移動部、32:拘束部、321:ベルト巻取部、322:拘束用エアバッグ作動部、4:制御部、5:設定部、6:時間領域、61:矯正領域、611:第1矯正領域、612:第2矯正領域、62:拘束領域、A:自車両、B:対象物
図1
図2
図3
図4