特許第6764503号(P6764503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6764503-アクチュエータ制御装置 図000002
  • 特許6764503-アクチュエータ制御装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764503
(24)【登録日】2020年9月15日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】アクチュエータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20200917BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-85800(P2019-85800)
(22)【出願日】2019年4月26日
(62)【分割の表示】特願2015-52439(P2015-52439)の分割
【原出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2019-151327(P2019-151327A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】西尾 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】松永 康寛
(72)【発明者】
【氏名】内山 元広
【審査官】 内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−208718(JP,A)
【文献】 特開昭54−017217(JP,A)
【文献】 特開2010−234841(JP,A)
【文献】 特開2009−219223(JP,A)
【文献】 特開平04−145810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右の車輪を左右一対のアクチュエータによりそれぞれ独立して転舵させる装置における前記一対のアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置であって、
前記各アクチュエータは、モータと、このモータの回転角を検出する回転角検出器と、前記モータで駆動されるアクチュエータの出力部の絶対位置の検出が可能な絶対位置検出器とを有し、
前記アクチュエータ制御装置は、前記一対のアクチュエータをそれぞれ制御する一対の電子制御装置を有し、かつ
前記一対のアクチュエータを各々構成する前記モータ、回転角検出器、および絶対位置検出器と、前記一対の電子制御装置との接続を交互に切り替える接続切替部と、
前記一対の電子制御装置のうちのいずれか一方の電子制御装置に前記アクチュエータを正常に駆動できなくなる異常が発生したことを検出する異常判定部と、
この異常判定部によりいずれか一方の前記電子制御装置に前記異常が発生したことが検出されると、その異常が検出された電子制御装置に通常接続されているアクチュエータにおける前記モータ、回転角検出器、および絶対位置検出器が他方の電子制御装置と接続されるように前記接続切替部に切り替え動作を行わせる異常対応制御部とを備え、
前記異常対応制御部は、前記異常判定部によりいずれかの前記電子制御装置に前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部への切り替え動作の指令および前記各アクチュエータへの指令を、定められた規則に従って行うものであり、
前記異常対応制御部は、前記異常判定部によりいずれかの前記電子制御装置に前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部へ所定の切り替え動作を行わせる指令を与え、いずれか一方のアクチュエータのモータを、このモータで転舵させる車輪の転舵角が固定されるように制御し、他方のアクチュエータのモータを、このモータで転舵させる車輪を目標舵角へ転舵させるように制御し、
異常発生初期では、前記異常対応制御部は、前記接続切替部により前記電子制御装置と前記アクチュエータとの接続を所定の時間毎に切替えながら左右の車輪を少しずつ目標舵角へ転舵させる
アクチュエータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などに装備されるアクチュエータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の安定走行性能を図る目的で、前輪転舵に加え、後輪を転舵させる後輪転舵装置が知られている。後輪転舵装置の制御装置は、マイクロコンピュータを内蔵し、車両の状態を常に監視するための各種センサ群の値から的確な転舵角やトー角の制御量を決定し、転舵のためのアクチュエータを駆動している。後輪転舵装置は車両の走行性能を左右する重要な機能であり、車両の状態や路面の状況に応じて最適な転舵角を推定し、車両安定化制御を実施する。
そのため、そのシステムに異常が発生した場合は、確実に異常を検知し、極力安全性能を維持することが望まれる。
【0003】
後輪の左右を独立に転舵制御する制御装置に関わるシステムに起因する異常時に車両の挙動が不安定になることを回避する対策として、次の技術が提案されている。例えば、後輪転舵システムの異常時の車両走行安定性の低下を防止するために、車両挙動安定化制御システムを備えた後輪転舵車両がある。この車両において、後輪転舵制御の異常(トー角の変更不能、検出不能など)が発生し、特にトーアウト状態においては、その異常を検知し車両挙動安定化制御システムをオンにすることで車両挙動の安定化を図っている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5320286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、システム側の異常発生に限定し、例えばトーアウト状態で異常となった場合に、車両を安定化させるための制御を実行しており、不安定な挙動を回避することができる。しかし、正常時に比べ車両挙動安定性は大きく低下する。
【0006】
この発明の目的は、一対のアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置において、アクチュエータを制御する電子制御装置の異常により、左右どちらか一方が制御不能になった場合に、車両の挙動が不安定に陥ることを防止するアクチュエータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のアクチュエータ制御装置は、車両1の左右の車輪を左右一対のアクチュエータ14L,14によりそれぞれ独立して転舵させる装置12における前記一対のアクチュエータ14L,14Rを制御するアクチュエータ制御装置であって、
前記各アクチュエータ14L,14Rは、モータ25L,25Rと、このモータ25L,25Rの回転角を検出する回転角検出器26L,26Rと、前記モータ25L,25Rで駆動されるアクチュエータ14L,14Rの出力部の絶対位置の検出が可能な絶対位置検出器27L,27Rとを有し、
前記アクチュエータ制御装置は、前記一対のアクチュエータ14L,14Rをそれぞれ制御する一対の電子制御装置13L,13Rを有し、かつ前記一対のアクチュエータ14L,14Rを各々構成する前記モータ25L,25R、回転角検出器26L,26R、および絶対位置検出器27L,27Rと、前記一対の電子制御装置13L,13Rとの接続を交互に切り替える接続切替部31と、
前記一対の電子制御装置13L,13Rのうちのいずれか一方の電子制御装置13L,13Rに前記アクチュエータ14L,14Rを正常に駆動できなくなる異常が発生したことを検出する異常判定部32と、
この異常判定部32によりいずれか一方の前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されると、その異常が検出された電子制御装置13L,13Rに通常接続されているアクチュエータ14L,14Rにおける前記モータ25L,25R、回転角検出器26L,26R、および絶対位置検出器27L,27Rが他方の電子制御装置13L,13Rと接続されるように前記接続切替部31に切り替え動作を行わせる異常対応制御部33とを備え、
前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31への切り替え動作の指令および前記各アクチュエータ14L,14Rへの指令を、定められた規則に従って行うものであり、
前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31へ所定の切り替え動作を行わせる指令を与え、いずれか一方のアクチュエータ14L(14R)のモータ25L(25R)を、このモータ25L(25R)で転舵させる車輪の転舵角が固定されるように制御し、他方のアクチュエータ14R(14L)のモータ25R(25L)のモータを、このモータで転舵させる車輪を目標舵角へ転舵させるように制御し、
異常発生初期では、前記異常対応制御部33は、前記接続切替部31により前記電子制御装置13L,13Rと前記アクチュエータ14L,14Rとの接続を所定の時間毎に切替えながら左右の車輪を少しずつ目標舵角へ転舵させるように制御する。
前記アクチュエータ制御装置は、例えば、車両の後輪10,11の転舵角とトー角をそれぞれ制御可能な後輪転舵装置12を制御する後輪転舵制御装置13に適用されるものであって、
前記後輪転舵装置12は、左右の後輪10,11を独立して転舵させる一対のアクチュエータ14L,14Rを備え、前記各アクチュエータ14L,14Rは、転舵モータ25L,25Rと、この転舵モータ25L,25Rの回転角を検出する回転角検出器26L,26Rと、前記転舵モータ25L,25Rで駆動されるアクチュエータ14L,14Rの出力部の絶対位置の検出が可能な絶対位置検出器27L,27Rとを有し、
前記後輪転舵制御装置13は、前記一対のアクチュエータ14L,14Rをそれぞれ制御する一対の電子制御装置13L,13Rを有し、かつ
前記一対のアクチュエータ14L,14Rを各々構成する前記転舵モータ25L,25R、回転角検出器26L,26R、および絶対位置検出器27L,27Rと、前記一対の電子制御装置13L,13Rとの接続を交互に切り替える接続切替部31と、
前記一対の電子制御装置13L,13Rのうちのいずれか一方の電子制御装置13L,13Rに前記アクチュエータ14L,14Rを正常に駆動できなくなる異常が発生したことを検出する異常判定部32と、
この異常判定部32によりいずれか一方の前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されると、その異常が検出された電子制御装置13L,13Rに通常接続されているアクチュエータ14L,14Rにおける前記転舵モータ25L,25R、回転角検出器26L,26R、および絶対位置検出器27L,27Rが他方の電子制御装置13L,13Rと接続されるように前記接続切替部31に切り替え動作を行わせる異常対応制御部33とを備える。
【0008】
この構成によると、アクチュエータ14L,14Rを制御する電子制御装置13L,13Rの異常により、左右どちらか一方が転舵制御不能になった場合、もう一方の電子制御装置13L,13Rと左右のアクチュエータ14L,14Rとが接続されるように切替える。そのため、転舵制御不能になったアクチュエータ14L,14Rについても転舵の制御が行え、車両の挙動が不安定に陥ることを防止することができる。
【0009】
前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31への切り替え動作の指令および前記各アクチュエータ14L,14Rへの転舵の指令を、定められた規則に従って行う。
異常発生時に、単にもう一方の電子制御装置13L,13Rと左右のアクチュエータ14L,14Rとが接続されるように切替えた場合、左右の後輪10,11が同じ転舵動作を行うことになるが、接続の切替えを行った場合に、定められた転舵の指令を与えるようにすることで、適切な後輪10,11の転舵が行え、車両の挙動が不安定に陥ることを、より一層良好に防止することができる。
【0010】
参考提案例として、前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31へ所定の切り替え動作の指令を行い、両側のアクチュエータ14L,14Rを転舵の中立位置へ戻すように駆動する指令を与えるようにしても良い。
電子制御装置13L,13Rのいずれかの異常により、左右どちらか一方が転舵制御不能になった場合、もう一方の電子制御装置13L,13Rと左右のアクチュエータ14L,14Rとが接続されるように切り替えると、転舵制御不能になったアクチュエータ14L,14Rについても転舵の制御が行えるが、電子制御装置13L,13Rと接続される時間が限られるので、十分な後輪転舵の制御が行えない場合がある。左右の転舵のアクチュエータ14L,14Rを中立位置へ転舵させるようにすると、自由な後輪転舵は行えないが、車両の挙動が不安定に陥ることを無難に防止することができる。
なおこの明細書において「所定の切り替え動作の指令」とは、任意に定めた切り替え動作の指令で良く、例えば、一定時間毎に交互に切り替えるようにしても良く、また一時的に切り替えを行い、その後は元の接続状態に戻すようにしても良い。
【0011】
前記前提構成において、前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31への切り替え動作の指令および前記各アクチュエータ14L,14Rへの転舵の指令を、定められた規則に従って行うものであり、前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31へ所定の切り替え動作を行わせる指令を与え、前記車両の旋回走行の内輪側となる後輪10,11は中立位置に固定したままとし、外輪側の後輪10,11のみ転舵させるように駆動する指令を与えてもよい。
このように、内輪側の後輪10,11は中立位置に固定したまま、外輪側の後輪10,11のみ転舵させる場合、車両の挙動が不安定に陥ることを良好に防止しながら、一方の電子制御装置13L,13Rに異常が生じたと言う条件下で、できるだけ後輪転舵の機能を残すことができる。特に、後輪外輪側を転舵させることで、後輪が中立位置の場合と比べて車両挙動安定性を高めることができる。このように、車両の挙動が不安定になることを未然に防止し、さらに車両挙動安定性を高めることができる。
【0012】
前記前提構成において、前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部31への切り替え動作の指令および前記各アクチュエータ14L,14Rへの転舵の指令を、定められた規則に従って行うものであり、前記異常対応制御部33は、前記異常判定部32によりいずれかの前記電子制御装置13L,13Rに前記異常が発生したことが検出されたときに、異常発生初期は、前記接続切替部31により前記アクチュエータ14L,14Rと前記電子制御装置13L,13Rとの接続を所定の時間毎に切替えながら内輪側を徐々に中立位置へ移動させ、同時に旋回走行の外輪側となる後輪を所定の角度へ移動させる制御を行ってもよい。
このように、アクチュエータ14L,14Rと電子制御装置13L,13Rとの接続を所定の時間毎に切替えながら内輪側を徐々に中立位置へ移動させ、同時に外輪側を所定の角度へ移動させる制御をする場合も、車両の挙動が不安定に陥ることを防止しながら、一方の電子制御装置13L,13Rに異常が生じたと言う条件下で、できるだけ安全に後輪転舵の機能を残すことができる。この場合も、特に、後輪外輪側を転舵させることで、後輪が中立位置の場合と比べて車両挙動安定性を高めることができる。このように、車両の挙動が不安定になることを未然に防止し、さらに車両挙動安定性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のアクチュエータ制御装置は、車両の左右の車輪を左右一対のアクチュエータによりそれぞれ独立して転舵させる装置における前記一対のアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置であって、前記各アクチュエータは、モータと、このモータの回転角を検出する回転角検出器と、前記モータで駆動されるアクチュエータの出力部の絶対位置の検出が可能な絶対位置検出器とを有し、前記アクチュエータ制御装置は、前記一対のアクチュエータをそれぞれ制御する一対の電子制御装置を有し、かつ前記一対のアクチュエータを各々構成する前記モータ、回転角検出器、および絶対位置検出器と、前記一対の電子制御装置との接続を交互に切り替える接続切替部と、前記一対の電子制御装置のうちのいずれか一方の電子制御装置に前記アクチュエータを正常に駆動できなくなる異常が発生したことを検出する異常判定部と、この異常判定部によりいずれか一方の前記電子制御装置に前記異常が発生したことが検出されると、その異常が検出された電子制御装置に通常接続されているアクチュエータにおける前記モータ、回転角検出器、および絶対位置検出器が他方の電子制御装置と接続されるように前記接続切替部に切り替え動作を行わせる異常対応制御部とを備え、前記異常対応制御部は、前記異常判定部によりいずれかの前記電子制御装置に前記異常が発生したことが検出されたときに、前記接続切替部へ所定の切り替え動作を行わせる指令を与え、いずれか一方のアクチュエータのモータを、このモータで転舵させる車輪の転舵角が固定されるように制御し、他方のアクチュエータのモータを、このモータで転舵させる車輪を目標舵角へ転舵させるように制御し、異常発生初期では、前記異常対応制御部は、前記接続切替部により前記電子制御装置と前記アクチュエータとの接続を所定の時間毎に切替えながら左右の車輪を少しずつ目標舵角へ転舵させる。 このため、一対のアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置において、アクチュエータを制御する電子制御装置の異常により、左右どちらか一方が制御不能になった場合に、車両の挙動が不安定に陥ることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の一実施形態に係る後輪転舵制御装置を適用する後輪転舵装置を搭載した自動車の概略説明図である。
図2】同後輪転舵制御装置の概念構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、この実施形態に係るアクチュエータ制御装置である後輪転舵制御装置を適用する後輪転舵装置を搭載した自動車の概略説明図である。自動車である車両1の左右の前輪2,3は、ステアリングホイール4の転舵角を、主転舵装置である前輪転舵装置5に伝達することで左右に転舵される。前輪転舵装置5は、例えばラックアンドピニオンからなる。ステアリングホイール4の転舵軸に対して設けた舵角センサ6、車速センサ7、およびヨーレートセンサ8の出力は、電子制御ユニット9に入力される。この電子制御ユニット9は、自動車1の全体の協調制御、統括制御等の制御を行うメインの制御手段であり、一般的にECUと略称されている。
【0016】
左右の後輪10,11は、シャシー(車体)(図示せず)に固定された後輪転舵装置12により、この後輪転舵装置12と連結された各タイロッドに対応するナックルアームNa,Nbを介して転舵される。後輪転舵装置12は、左右の後輪10,11を左右一対の転舵モータ(左)25L、転舵モータ(右)25Rによりそれぞれ独立に転舵可能である。後輪10,11の転舵角については、舵角センサ6、車速センサ7、ヨーレートセンサ8などの、自動車1の走行情報の入力に応じて電子制御ユニット9で決定された目標転舵角を、後輪転舵制御装置13が受信し、この後輪転舵制御装置13により左右の後輪10,11がそれぞれ独立して制御される。
【0017】
後輪転舵装置12は、前輪転舵角に対して後輪10,11を同位相や逆位相に転舵するアクチュエータを配置する。例えば、このアクチュエータは、逆入力の無い滑りねじ、または逆入力防止機構付きのボールねじで構成される直動アクチュエータであり、これらに螺合するナットを、減速機を介して前記転舵モータ25L、25Rで回転させ、アクチュエータの出力部の直進運動に変換している。この直動型のアクチュエータは、左右の後輪10,11を独立して駆動させるため、第1のアクチュエータ14Lと、第2のアクチュエータ14Rで構成される。第1のアクチュエータ14Lは左側の後輪10を転舵する駆動手段であり、第2のアクチュエータ14Rは右側の後輪11を転舵する駆動手段である。第1,第2のアクチュエータ14L,14Rは互いに同じ構成であるため、特に必要な場合を除き、片方のアクチュエータ14L,または14Rについてのみ説明し、もう片方については説明を省略する場合がある。
【0018】
図2は、前記構成の後輪転舵装置12(図1)を制御する後輪転舵制御装置13の概念構成のブロック図である。この後輪転舵制御装置13は、それぞれ左右の後輪10,11(図1)の転舵を行う第1,第2のアクチュエータ14L,14Rを独立して制御する一対の電子制御装置13L,13Rを有する。これら電子制御装置13L,13Rは、互いに同じ制御構成となっている。このため、以下に説明では、第1の電子制御装置13Lについてのみ説明し、第2の電子制御装置13Rについては説明を省略する場合がある。また、第1のアクチュエータ14Lの構成部品である転舵モータ(左)25L、回転角検出器26L、絶対位置検出器27Lについては、第2のアクチュエータ14Rも同一の構成部品を有し、左右の対応する構成部品については、Lの符号をRに変えて示してある。
【0019】
接続切替部31は、モータ駆動部20L、20Rと転舵モータ(左)25L、転舵モータ(右)25Rとを、入力I/F部18L、18Rと回転角検出器26L、26R、および絶対位置検出器27L、27Rとを接続切替えするものである。接続切替部31は、通常はモータ駆動部20Lが転舵モータ(左)25Lへ接続、入力I/F部18Lが回転角検出部26L、および絶対位置検出器27Lへ接続される。モータ駆動部20Rは転舵モータ(右)25Rへ接続、入力I/F部18Rが回転角検出部26Rおよび絶対位置検出器27Rに接続されている。
【0020】
接続切替部31は電子制御ユニット9の指令により、電子制御装置13Lと第1のアクチュエータ14Lとの接続と、電子制御装置13Rと第2のアクチュエータ14Rとの接続を入れ替えることができる。よって必要に応じて、モータ駆動部20Lを転舵モータ(右)25Rへ接続、入力I/F部18Lを回転角検出部26Rおよび絶対位置検出器27Rへ接続、モータ駆動部20Rを転舵モータ(左)25Lへ接続、入力I/F部18Rを回転角検出部26Lおよび絶対位置検出器27Lへ接続切替えさせることができる。
【0021】
電子制御装置13Lは、マイクロプロセッサ16L、上位の制御手段である電子制御ユニット9から得られる指令側の入力信号の入力インターフェース部17L、第1のアクチュエータ14Lから得られる検出側の入力信号の入力インターフェース部18L、出力インターフェース部19L、およびモータ駆動部20Lを有する。なお指令側および検出側の入力インターフェース部17L、18Lは、互いに別の電子素子であっても、一つの電子素子の一部ずつであっても良い。
【0022】
電子制御ユニット9で決定された後輪転舵角の目標値は、指令側の入力インターフェース部17Lを介してマイクロプロセッサ16Lに送信され、モータ制御目標値演算部22Lへ送信される。マイクロプロセッサ16Lでは、転舵モータ(左)25Lの制御を実行するため、モータ制御目標値演算部22Lで演算された結果(この実施形態では、転舵角から算出された転舵モータ(左)25Lの回転数)に基づくモータ駆動指令が、出力インターフェース部19Lを経由してモータ駆動部20Lへ送信される。
【0023】
転舵モータ(左)25Lとして、例えばブラシレスモータを使用した場合、制御の基本は、トルク(電流)、速度、位置の制御となり、この制御システムの制御対象は位置(舵角)であるため、マイクロプロセッサ16Lに実装される図示外の制御系は、電流制御系の上位に速度制御系と位置制御系を構成する複合制御系となる。よって、モータ駆動指令値は、電子制御ユニット9からの指令によって算出された演算結果の他、モータ電流検出部24Lから得られるモータ電流検出値や回転角検出値などのフィードバック値に基づき目標舵角に到達するよう制御される。
【0024】
絶対位置検出器27Lは、第1のアクチュエータ14Lの絶対位置を監視する。絶対位置は、電源投入時、例えば、車両のイグニッション(図示せず)がオンの時点で検知され、その後の制御は、検出された絶対位置を基準に回転角検出器26Lから得られる回転角で位置制御を実施する。これらの制御系は例えばソフトウエアの演算によって制御を行うようにマイクロプロセッサ16に実装される。
【0025】
次に、以上の構成における課題とその対策手法について説明する。
例えば、車両走行中、電子制御装置13Lの内部のモータ駆動部20Lや出力I/F部19L、モータ制御目標値演算部22L、入力I/F部18L等、いずれかに不具合が発生すると、左側後輪10が意図しない角度に転舵する、または転舵しないことがある。その結果、ドライバの意図しない方向に車両が流れる等の状態になる。
【0026】
この対策として、この実施形態は、前記接続切替部31を設けると共に、異常対処手段34を設けた。異常対処手段34は、例えば、電子制御ユニット9に設ける。異常対処手段34は、異常判定部32と異常対応制御部33とで構成される。異常判定部32は、一対の電子制御装置13L,13Rのうちのいずれか一方の電子制御装置13L,13Rに前記アクチュエータ14L,14Rを正常に駆動できなくなる異常が発生したことを検出する手段である。異常判定部32による異常判定は、電子制御装置13L,13Rのいずれかの箇所の信号と、電子制御装置13L,13Rの他の箇所、または電子制御装置9やアクチュエータ14L,14R内のいずれかの信号とを比較することなどで行われる。
異常対応制御部33は、異常判定部32によりいずれか一方の前記電子制御装置13L,13Rに前記正常に駆動できなくなる異常が発生したことが検出されると、その異常の発生が検出された電子制御装置13L,13Rに通常接続されているアクチュエータ14L,14Rにおける前記転舵モータ25L,25R、回転角センサ26L,26R、および絶対位置検出器27L,27Rが他方の電子制御装置13L,13Rと接続されるように前記接続切替部31に切り替え動作を行わせる手段である。異常対応制御部33は、前記接続切替部31への切り替え動作の指令および前記各アクチュエータ14L,14Rへの転舵の指令を、定められた規則に従って次のように行う。この定められた規則は、その内容は問わず、任意に定められていれば良いが、後に複数の例を説明する。
【0027】
前記異常対応制御部33は、具体的には、異常判定部32が、例えば電子制御装置13Lに上記の正常に駆動できなくなる異常を検出すると、第1のアクチュエータ14Lが正常かどうか判定する。例えば、異常判定部32が接続切替部31に、電子制御装置13Rを第1のアクチュエータ14Lへの接続するように指令する。これにより接続切替部31はモータ駆動部20Lを転舵モータ(右)25Rへ接続させ、入力I/F部18Lを回転角検出部26Rおよび絶対位置検出器27Rへ接続させる。また、モータ駆動部20Rを転舵モータ(左)25Lへ接続させ、入力I/F部18Rを回転角検出部26Lおよび絶対位置検出器27Lへ接続させる。このとき、電子制御装置13Lへの電源を切るなどして電子制御装置13Lの機能は無効化させる。接続切替え後、電子制御装置13Rから第1のアクチュエータ14Lを駆動すれば、第1のアクチュエータ14Lの位置、転舵モータ(左)25Lの電流値等からアクチュエータ14Lが正常かどうか判定できる。
なお、上記とは左右反対の電子制御装置13Rの異常が検出された場合は、上記と同様な制御を左右逆、つまり第1,第2のうち逆の各手段について行い、アクチュエータ14Rが正常かどうかの判定を行う。
【0028】
前記異常対応制御部33は、第1のアクチュエータ14Lが正常の場合、後輪転舵制御方式を通常の内外輪両方を転舵する制御から「後輪内側を中立位置に固定し、後輪外側のみ目標舵角へ転舵させる制御」に切替える。
【0029】
この「後輪内側を中立位置に固定して後輪外側のみ目標舵角へ転舵させる制御」について説明する。異常対応制御部33は、ステアリングホイール4の転舵角から第1のアクチュエータ14Lおよび、第2のアクチュエータ14Rのうち、どちらが旋回走行における内輪側の車輪を駆動するものであるかが判定できる。ここでは異常発生時当初は第1のアクチュエータ14Lが内輪側とし、第1のアクチュエータ14Lは後輪転舵装置12の中立位置にいないとする。
異常対応制御部33は、接続切替部31へ接続切替えを指令し、電子制御装置13Rと第1のアクチュエータ14Lおよび、第2のアクチュエータ14Rとの切替えをしながら電子制御装置13Rを介して両アクチュエータ14L,14Rを制御する。
【0030】
異常発生初期では、異常対応制御部33は、まず、電子制御装置13Rと内輪側である第1のアクチュエータ14L側とを接続した時には第1のアクチュエータ14Lを中立位置へ移動するように制御する。また、異常対応制御部33は、電子制御装置13Rを外輪側である第2のアクチュエータ14Rへ接続した時には所定の転舵位置に移動するように制御する。
このとき接続切替部31は、所定の時間毎に電子制御装置13Rと第1のアクチュエータ14Lおよび第2のアクチュエータ14Rとの接続を交互に切替えることにより、内輪および外輪となる後輪を少しずつ目標位置へ転舵させる。前記交互に切替える所定の時間は、任意に設定すれば良いが、例えばミリ秒単位の時間とされる。
内輪側である第1のアクチュエータ14Lが中立位置へ到達すると、接続切替部31による所定の時間毎の内輪外輪の交互切替え駆動制御を止め、電子制御装置13Rを外輪側である第2のアクチュエータ14Rへ接続し外輪を転舵制御する。
【0031】
また、ドライバがハンドルを逆方向に切り、第1のアクチュエータ14Lが外輪側に切替わると、電子制御装置13Rが第1のアクチュエータ14Lへ接続するように接続切替部31は接続を切替え、電子制御装置13Rは外輪側である第1のアクチュエータ14Lを転舵させる。このように外輪側のアクチュエータに電子制御装置13Rが常に接続されるように接続切替部31は都度接続を切替える。
また、ステアリングホイール4の転舵角が中立の場合はどちらか一方のアクチュエータ14L,14R側に電子制御装置13Rを接続する。
【0032】
前記の「後輪内側を中立位置に固定して後輪外側のみ目標舵角へ転舵させる制御」は、通常の両輪で転舵する場合よりも後輪のコーナリングフォースの合計は小さく、車両挙動安定性を高めるため外輪の転舵量を通常より大きくしてもよい。
上記手法により、車両の挙動が不安定に陥ることを未然に防止し、後輪が中立位置の場合と比較して車両挙動安定性を高めることができる。
前記とは左右逆の電子制御装置13Rに不具合が発生した場合も、左右逆であることを除き、前記と同様に電子制御装置13Lにより第1,第2のアクチュエータ14L,14Rを制御して同様の手法で対策をする。
【0033】
なお、接続切替部31は、電子制御装置13Lの異常発生により電子制御装置13Rと第1,第2のアクチュエータ14L,14Rと接続して制御している間、電子制御装置13Lと第1,第2のアクチュエータ14L,14Rとの接続をしなくてもよい。同様に電子制御装置13Rの異常発生により電子制御装置13Lと第1,第2のアクチュエータ14L,14Rと接続して制御している間、電子制御装置13Rと第1,第2のアクチュエータ14L,14Rとの接続をしなくてもよい。
また、転舵モータ(左)25Lおよび転舵モータ(右)25Rとモータ駆動部20L,20Rとの切替えは、モータ駆動部電流をOFFの状態(電流値ゼロ)、または通常時よりも小さい電流値にしてから切替える。
【0034】
次に、異常対応制御部33が行う制御の規則の別の例を説明する。この例では、前記の例と同様に、第1の電子制御装置13Lが上記の正常に駆動できなくなる異常が発生した場合につき説明する。まず、上記の例と同様にして、アクチュエータ14Lが正常かどうか判定を行う。この後、次のように制御する。
【0035】
第1のアクチュエータ14Lが正常の場合、電子制御ユニット9の異常対応制御部33は、第1のアクチュエータ14Lおよび第2のアクチュエータ14Rを中立位置へ転舵させる制御に移行する。
【0036】
異常対応制御部33は、接続切替部31へ接続切替えを指令し、電子制御装置13Rと第1のアクチュエータ14Lおよび、第2のアクチュエータ14Rとの切替えをしながら、電子制御装置13Rを介して両アクチュエータ14L,14Rを中立位置へ転舵させる。このとき接続切替部31は、所定の時間毎に電子制御装置13Rと第1のアクチュエータ14Lおよび、第2のアクチュエータ14Rとの接続を交互に切替えることにより、内輪および外輪を少しずつ同時に移動するように中立位置へ転舵させる。第1のアクチュエータ14Lおよび、第2のアクチュエータ14Rの中立位置への移動については、例えば旋回時に荷重が大きくかかる外輪側を先に中立位置へ転舵させた後に内輪側を中立位置へ転舵させるなど両アクチュエータを順序付けして動かしてもよい。
【0037】
上記手法によっても、第1のアクチュエータ14Lおよび第2のアクチュエータ14Rを中立位置へ転舵させることで、車両1の挙動が不安定に陥ることを防止することができる。
この手法の場合も、前記とは左右逆の電子制御装置13Rに不具合が発生した場合も、左右逆であることを除き、前記と同様に電子制御装置13Lから第1,第2のアクチュエータ14L,14Rを制御して同様の手法で対策をする。
【0038】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1…車両
5…前輪転舵装置
6…転舵角センサ
9…電子制御ユニット
10,11…後輪
12…後輪転舵装置
13…後輪転舵制御装置
13L,13R…電子制御装置
14L,14R…アクチュエータ
20L,20R…モータ駆動部
24L,24R…モータ電流検出部
25L,25R…転舵モータ(モータ)
26L,26R…回転角検出器
27L,27R…絶対位置検出器
31…一接続切替部
32…異常判定部
33…異常対応制御部
34…異常対処手段
図1
図2