(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス及び液体窒素などの貯蔵容器、海洋構造物及び極地方構造物に使用される鋼材は、極低温でも十分な靭性と強度を維持する低温用鋼板でなければならない。このような低温用鋼板は、優れた低温靭性と強度を有するだけでなく、熱膨張率と熱伝導率が小さくなければならない。
最近は、低温用鋼板として、ニッケルを完全に排除する代わりに、多量のマンガン及び炭素を添加してオーステナイトを安定化させ、アルミニウムを添加することで、極低温特性に優れた鋼材(特許文献1)、及びマンガンを添加してオーステナイトとイプシロンマルテンサイトの混合組織を得る低温靭性に優れた鋼材(特許文献2)などが報告されている。
オーステナイトを主組織とする低温用鋼板では、多量の炭素とマンガンを添加してオーステナイトを安定化させるが、これにより、オーステナイトの再結晶挙動に影響を与えて、通常の圧延温度区間における部分再結晶及び不均一な結晶粒成長によって特定の少数のオーステナイト結晶粒のみが過度に成長するようになり、微細組織内のオーステナイト結晶粒の大きさが著しく不均一となる。
【0003】
通常、炭素とマンガンの含量が高いオーステナイト組織の場合、変形挙動は、一般的な炭素鋼とは異なってスリップと双晶によって行われ、変形初期には主に均一変形であるスリップによって行われるが、その後は不均一変形である双晶が伴って現れる。結晶粒が大きいほど、双晶形成に必要な応力が減少し、変形が小さくても双晶が発生しやすくなる。少数の粗大な結晶粒が微細組織内に存在すると、変形初期に粗大結晶粒で双晶変形が発生して不均一変形を起こすため、材料の表面特性を劣位させ、最終構造物の厚さ不均一をもたらし、特に、低温圧力容器のように均一な鋼材の厚さを確保した内圧抵抗性が求められる構造物では、構造の設計及び使用に大きな問題をもたらす。
したがって、炭素とマンガンの添加によって微細組織をオーステナイト化した鋼材の場合、粗大結晶粒の早期双晶変形による表面ムラを解決することで、経済的かつ構造安定性が確保された低コストの極低温用鋼材の開発への要求が切実になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表面加工品質に優れた低温用鋼板、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表面加工品質に優れた低温用鋼板は、マンガン(Mn):15〜35質量%、炭素(C):23.6C+Mn≧28、及び33.5C−Mn≦23を満たす範囲、銅(Cu):5質量%以下(0質量%は除く)、クロム(Cr):28.5C+4.4Cr≦57(0質量%は除く)の条件を満たす範囲、Ti(チタニウム):0.01〜0.5質量%、N(窒素):0.003〜0.2質量%、残りの鉄(Fe)、及びその他の不可避な不純物からなり、
TiとNは下記関係式1を満たし、0.012〜0.025μmの大きさを有するTiN析出物を1mm
2当たり2.7×10
8〜5.4×10
8個含み、
微細組織として、オーステナイトを面積分率で95%以上含み、前記微細組織内において200μm以上の大きさを有するオーステナイトの結晶粒の数が単位cm
2当たり5個以下であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の表面加工品質に優れた低温用鋼板の製造方法は、マンガン(Mn):15〜35質量%、炭素(C):23.6C+Mn≧28、及び33.5C−Mn≦23を満たす範囲、銅(Cu):5質量%以下(0質量%は除く)、クロム(Cr):28.5C+4.4Cr≦57(0質量%は除く)の条件を満たす範囲、Ti(チタニウム):0.01〜0.5質量%、N(窒素):0.003〜0.2質量%、残りの鉄(Fe)、及びその他の不可避な不純物からなり、
前記TiとNは下記関係式1を満たすスラブを準備する段階と、
スラブを1050〜1250℃の温度で加熱する段階と、
加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、を含み、
前記熱延鋼板は、0.012〜0.025μmの大きさを有するTiN析出物を1mm
2当たり2.7×10
8〜5.4×10
8個含み、
前記熱延鋼板は、微細組織として、オーステナイトを面積分率で95%以上含み、
前記鋼板の微細組織内において200μm以上の大きさを有するオーステナイトの結晶粒の数が単位cm
2当たり5個以下であることを特徴とする。
【0008】
[関係式1]
1.0≦Ti/N≦4.5
(但し、各数式中のMn、C、Cr、Ti、及びNは各成分含量の質量%を意味する。)
さらに、課題の解決手段は、本発明の特徴を全て列挙したものではない。本発明の様々な特徴と、それによる長所及び効果は、以下の具体的な実施形態を通じてより詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、粒度が均一なオーステナイト組織を有するため、加工後にも表面品質に優れた低温用鋼板、及びその製造方法を提供できる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願の発明者らは、炭素及びマンガンを多量に含有したオーステナイト組織の鋼材に対して、通常の圧延温度領域でオーステナイト組織の部分再結晶及び結晶粒成長が起こり、非理想的に粗大なオーステナイトが生成することがあり、一般的に双晶形成に必要な臨界応力はスリップの場合より高いが、上記の原因で結晶粒が大きい場合には、双晶形成に必要な応力が減少し、変形初期に双晶変形が発生し、不連続変形によって表面品質の劣化が起こるという問題点があることを認知し、これらを解決するために鋭意研究した。
その結果、オーステナイト結晶粒の過度な粗大化を抑制するために、Ti添加によりTi系析出物を適切に析出させることで、微細なオーステナイトが均一に分布する低温用鋼材が得られることを確認し、本発明の完成に至った。
以下、本発明の一側面による表面品質に優れた低温用鋼板について詳細に説明する。
【0012】
本発明による表面品質に優れた低温用鋼板は、マンガン(Mn):15〜35質量%、炭素(C):23.6C+Mn≧28、及び33.5C−Mn≦23を満たす範囲、銅(Cu):5質量%以下(0質量%は除く)、クロム(Cr):28.5C+4.4Cr≦57(0質量%は除く)の条件を満たす範囲、Ti(チタニウム):0.01〜0.5質量%、N(窒素):0.003〜0.2質量%、残りの鉄(Fe)、及びその他の不可避な不純物からなり、TiとNは下記関係式1を満たす。
[関係式1]
1.0≦Ti/N≦4.5
(但し、各数式中のMn、C、Cr、Ti及びNは各成分含量の質量%を意味する。)
先ず、本発明の一側面による表面品質に優れた低温用鋼板の合金組成を挙げて詳細に説明する。以下、各合金元素の単位は質量%である。
【0013】
マンガン(Mn):15〜35%
マンガンは、本発明においてオーステナイトを安定化させる役割を果たす元素である。本発明において、極低温でのオーステナイト相を安定化させるためには、15%以上含まれることが好ましい。即ち、マンガンの含量が15%未満では、炭素含量が小さいと、準安定相であるイプシロンマルテンサイトが形成され、極低温での加工誘起変態によってアルファマルテンサイトに変態しやすくなるため、靭性を確保することができず、これを防止するために、炭素含量を増加させてオーステナイトの安定化を図ろうとすると、かえって炭化物が析出して物性が急激に劣化するため好ましくない。そのため、マンガンの含量は、15%以上とすることが好ましい。これに対して、マンガンの含量が35%を超えると、鋼材の腐食速度の低下をもたらし、含量の増加によって経済性が減少するという問題点がある。そのため、マンガンの含量は、15〜35%に限定することが好ましい。
【0014】
炭素(C):23.6C+Mn≧28、及び33.5C−Mn≦23の関係を満たす範囲
炭素は、オーステナイトを安定化させながら強度を増加させる元素であり、特に、冷却過程若しくは加工によるオーステナイトからイプシロン若しくはアルファマルテンサイトへの変態点であるMs及びMdを低くする役割を果たす。そのため、炭素の添加量が不十分であると、オーステナイトの安定度が足りなくなるため、極低温で安定したオーステナイトが得られず、また、外部応力によってイプシロン若しくはアルファマルテンサイトへの加工誘起変態を起こしやすいため、靭性を減少させ、さらに、鋼材の強度も減少させる。これに対して、炭素の含量が多すぎると、炭化物が析出して靭性が急激に劣化し、強度が増加しすぎて加工性が悪くなる短所がある。
特に、本発明において、炭素の含量は、炭素及びその他の共に添加される元素との関係に留意しながら決定することが好ましい。本願発明者らが見出した炭化物形成に対する炭素とマンガンとの関係を
図4に示した。
図4から分かるように、炭化物は炭素によって形成されることが明白であるが、炭素が独立して炭化物の形成に影響を及ぼすのではなく、マンガンと複合的に作用してその形成傾向に影響を及ぼす。
【0015】
図4には適正炭素含量が示されている。炭化物の形成を防止するためには、他の成分が本発明で規定する範囲を満たすという前提の下で23.6C+Mn(ここで、C、Mnは各成分の含量を質量%単位で示したものである。)の値を28以上に制御することが好ましい。これは、図面の平行四辺形領域の傾斜した左側境界を意味する。23.6C+Mnが28未満では、オーステナイトの安定度が減少し、極低温での衝撃によって加工誘起変態を起こすため、衝撃靭性を低下させる。炭素含量が多がすぎると、即ち33.5C−Mnが23より大きいと、炭素の添加過多により炭化物が析出し、低温衝撃靭性を低下させる問題が発生する。結論として、Mn:15〜35%、23.6C+Mn≧28、及び33.5C−Mn≦23を全て満たすように、Cを添加することが好ましい。また、図面からも分かるとおり、上記数式を満たす範囲内におけるC含量の最下限は0%である。
【0016】
銅(Cu):5%以下(0%は除く)
銅は、炭化物内の固溶度が非常に低く、オーステナイト内での拡散が遅いため、オーステナイトと核生成した炭化物の界面に濃縮されるが、そのため、炭素の拡散を妨害することで炭化物成長を効果的に遅らせることができ、その結果、炭化物生成を抑制するという効果がある。また銅は、オーステナイトを安定化させて極低温靭性を向上させるという効果もある。但し、Cuの含量が5%を超えると、鋼材の熱間加工性を低下させる問題点があるため、その上限を5%に制限することが好ましい。さらに、上述した炭化物の抑制効果を得るためには、銅の含量が0.5%以上であることがより好ましい。
【0017】
クロム(Cr):28.5C+4.4Cr≦57(0%は除く)
クロムは、適正な添加量の範囲までは、オーステナイトを安定化させて低温での衝撃靭性を向上させ、オーステナイト内に固溶して鋼材の強度を増加させる役割を果たす。また、クロムは、鋼材の耐食性を向上させる元素でもある。但し、クロムは炭化物元素であって、特に、オーステナイト粒界に炭化物を形成して低温での衝撃を減少させる元素でもある。そのため、本発明で添加されるクロムの含量は、炭素及び、その他の共に添加される元素との関係に留意しながら決定することが好ましい。炭化物の形成を防止するためには、他の成分が本発明で規定する範囲を満たすという前提の下で28.5C+4.4Cr(ここで、C、Crは各成分の含量を質量%単位で示したものである。)の値を57以下に制御することが好ましい。28.5C+4.4Crの値が57を超えると、過度なクロム及び炭素含量によってオーステナイト粒界における炭化物の生成を効果的に抑制することが困難となり、これに伴い、低温での衝撃靭性が減少する問題点がある。そのため、本発明において、クロムの含量は、28.5C+4.4Cr≦57を満たすように添加することが好ましい。
【0018】
Ti(チタニウム):0.01〜0.5%
チタニウム(Ti)は、鋼中の窒素(N)と結合してTiN析出物を形成する元素である。本発明では、高温熱間圧延時に一部のオーステナイト結晶粒の過度な粗大化が発生することがあるため、TiNを適切に析出させることで、オーステナイトの結晶粒成長を抑制することができる。この目的のために、Tiは、少なくとも0.01%以上添加する必要がある。但し、その含量が0.5%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、かえって粗大なTiNが晶出することで、その効果が半減することもあり、好ましくない。そのため、本発明では、Tiの含量を0.01〜0.5%に制限することが好ましい。
【0019】
N(窒素):0.003〜0.2質量%
本発明では、上記のTi添加の目的が効果的に達成されるよう、窒素(N)が同時に添加される必要がある。特に、TiNの効果的な析出のためには、Nを0.003%以上 添加することが好ましいが、Nの固溶度が0.2%以下であるため、それ以上添加するのは非常に困難であり、さらに、TiNの析出のためには0.2%以下の添加で足りるため、その上限は0.2%に制限することが好ましい。本発明においてNの含量は、0.003〜0.2%に制限することが好ましい。
【0020】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者には周知であるため、本明細書では全ての内容について特に言及しない。
【0021】
また、Nに対するTiの質量比、即ちTi/Nは、下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1]
1.0≦Ti/N≦4.5
Ti/N比を1.0以上に制御すると、固溶Tiが窒素と結合して微細なTiNが析出するようになり、また、このように析出したTiNが安定して存在するようになるため、オーステナイトの結晶粒成長を抑制するのに非常に効果的である。
但し、Ti/N比が4.5を超えると、溶鋼中で粗大なTiNが晶出するため、鋼材の物性に悪影響を与え、TiNの均一な分布が得られず、さらに、TiNとして析出せず余分なTiが固溶状態で存在して、溶接熱影響部の靭性に悪影響を与えるようになる。しかしながら、Ti/N比が1.0未満であると、母材の固溶窒素量が増加して、溶接熱影響部の靭性に悪影響を与えるようになるため、Ti/N比は1.0以上4.5以下に制御することが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る低温用鋼板は、0.01〜0.3μmの大きさを有するTiN析出物を含むことが好ましい。
TiN析出物の大きさが0.01μm未満であると、母材に再固溶しやすくなり、結晶粒成長を抑制する効果が十分でなくなる。これに対して、TiN析出物の大きさが0.3μmを超えると、オーステナイト結晶粒界のピン止め(pinning)効果が減少し、かえって粗大な大きさに起因して靭性に悪影響を及ぼす。そのため、TiN析出物の大きさは0.01〜0.3μmであることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る低温用鋼板は、TiN析出物を1mm
2当たり1.0×10
7〜1.0×10
10個含むことが好ましい。
TiN析出物が1mm
2当たり1.0×10
7個未満であると、結晶粒界のピン止め効果が微々たるものであり、粗大結晶粒の成長を効果的に抑制できなくなる。これに対して、TiN析出物が1mm
2当たり1.0×10
10個を超えると、析出物の大きさが相対的に小さくなって不安定になり、さらに、材料の衝撃靭性を劣位にする。そのため、TiN析出物の数は1mm
2当たり1.0×10
7〜1.0×10
10個であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る低温用鋼板は、微細組織内において200μm以上の大きさを有する粗大オーステナイトの結晶粒の数を単位cm
2当たり5個以下に限定する。
通常、200μm未満の結晶粒大きさを有するオーステナイトは、双晶発生応力がスリップ発生応力に比べて十分に大きく、構造物を作製するときに、通常の低温用鋼材の変形率の範囲内では不均一変形を起こさないため、その大きさは200μm以上に限定することが好ましい。また、200μm以上の大きさを有する結晶粒の密度がcm
2当たり5個を超えると、粗大結晶粒の高い密度により不均一変形が表面品質に影響を与える程度に劣化するため、200μm以上の大きさを有する結晶粒の密度は、cm
2当たり5個以下に限定することが好ましい。
【0025】
一方、本発明に係る低温用鋼板は、オーステナイト組織を面積分率で95%以上含むことが好ましい。低温でも延性破壊を示す代表的な軟質組織であるオーステナイトは、低温靭性を確保するための必須の微細組織として面積分率で95%以上含まなければならず、95%未満では、十分な低温靭性、即ち−196℃で41J以上の衝撃靭性を確保するのに十分でないため、その下限は95%に制限することが好ましい。
また、オーステナイト粒界に存在する炭化物は、面積分率で5%以下であることが好ましい。本発明において、オーステナイト以外に存在できる組織としては、炭化物が代表的であるが、これは、オーステナイト結晶粒界に析出して粒界破断の原因となり、低温靭性及び延性を劣位にするため、その上限は5%に制限することが好ましい。
【0026】
以下、本発明の表面加工品質に優れた低温用鋼板の製造方法について詳細に説明する。
本発明の表面加工品質に優れた低温用鋼板の製造方法は、上述した合金組成を満たすスラブを準備する段階と、スラブを1050〜1250℃の温度で加熱する段階と、加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、を含む。
【0027】
スラブを準備する段階
上述した合金組成を満たすスラブを準備する。合金組成を制御した理由も上述の通りである。
【0028】
加熱する段階
スラブを1050〜1250℃の温度で加熱する。
これは、スラブの製造段階で生成する鋳造組織、偏析及び2次相の固溶及び均質化のためのものであって、1050℃未満では、均質化が足りなかったり、加熱炉の温度が低すぎるため、熱間圧延時に変形抵抗が大きくなるという問題があり、1250℃を超えると、鋳造組織内の偏析帯における部分溶融及び表面品質の劣化が生じ、TiNが晶出してオーステナイトの微細化に寄与できず、かえって物性の劣化を招くことがある。そのため、スラブの加熱温度は、1050〜1250℃の範囲を有することが好ましい。
【0029】
熱間圧延段階
加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を得る。
本発明では、上述した合金組成及びスラブの加熱温度を満たすことで、表面加工品質に優れた低温用鋼板を得ることができる。したがって、熱間圧延段階の条件を制御する必要は特になく、一般的な方法によって熱間圧延を行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、後述する実施例は本発明をより詳細に説明するための例示であり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意すべきである。これは、本発明の権利範囲が、特許請求の範囲に記載の事項と、これから合理的に類推される事項により決定されるためである。
表1に記載の成分系を満たすスラブを、表2に記載の条件で製造した後、微細組織、降伏強度、延伸率、−196℃でのシャルピー衝撃靭性などを測定し、それぞれを表2又は表3に示した。
表3において、表面不均一(表面ムラ)は、低温用鋼板の表面を肉眼で観察して評価したものである。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
発明例1〜5は、本発明で制御する成分系及び組成範囲を満たす鋼種であって、TiNの微細な析出により粗大オーステナイトの結晶粒の密度を単位面積1cm
2当たり5個以下に制御することで、加工後に表面ムラのない優れた品質の低温用鋼材が得られることが分かり、また、微細組織内のオーステナイト分率が95%以上に制御され、炭化物は5%未満に制御される安定したオーステナイトが得られることから、極低温で優れた靭性が得られることを示している。
これに対して、比較例1〜3は、Tiが未添加であるためTiNの析出ができず、粗大結晶粒が発生して加工後に表面ムラが発生したことが分かった。
特に、比較例4は、本発明で制御する成分系及び組成範囲を満たしておらず、フェライトが生成することで衝撃靭性が非常に劣位にあることが分かった。また、本発明で制御するTiNの大きさ及び個数も満たしておらず、粗大結晶粒の個数が多くなり、表面ムラが発生したことが分かった。
一方、比較例5〜6では、本発明で制御する範囲内でTi及びNが添加されているが、Ti及びNの質量比、TiN析出物の大きさ及び個数が本発明で制御する範囲を満たしておらず、粗大なTiNが析出することで粗大結晶粒が過度に生成し、加工後に表面ムラが発生したことが分かった。
【0035】
図1は、オーステナイト結晶粒が粗大化して非理想的な粗大結晶粒を形成した従来の鋼材の微細組織を撮影した写真であり、
図2は、
図1の鋼材を引張した後、鋼材の表面に不均一が発生した写真である。このように、鋼材の微細組織におけるオーステナイト結晶粒が粗大化して非理想的な粗大結晶粒を形成すると、加工後には、
図2に示したとおり表面品質が劣化することが確認できる。しかしながら、発明例における微細組織を撮影した
図3では、非理想的な粗大オーステナイト結晶粒のない均一な結晶粒を形成しているため、加工後においても表面加工品質に優れたものとなることが確認できる。
【0036】
以上、実施例を参照して説明したが、当該技術分野の熟練された当業者は、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から外れない範囲内で本発明を多様に修正及び変更できるということが理解できるだろう。