(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る地下構造体及びその構築方法について説明する。ここでは、地下構造体がシールド掘進機(不図示)の発進基地100である場合について説明する。
【0012】
図1に示すように、発進基地100は、既設の本線トンネル1と支線トンネル2との分岐・合流部が形成される拡幅空間3の構築に利用される。
【0013】
以下において、本線トンネル1の中心軸に沿う方向を「トンネル軸方向」と称し、本線トンネル1の中心軸を中心とする放射方向を「トンネル径方向」と称し、本線トンネル1の中心軸の周りの方向を「トンネル周方向」と称する。
【0014】
拡幅空間3を構築するためには、まず、地盤内に発進基地100を構築する。次に、発進基地100からトンネル軸方向に沿ってシールド掘進機(図示省略)を発進させ、複数の小断面シールドトンネル4を本線トンネル1及び支線トンネル2の周囲に構築する。次に、小断面シールドトンネル4におけるシールド掘進機の到達点付近に褄壁5を構築する。発進基地100と複数の小断面シールドトンネル4と褄壁5とによって囲まれた領域を掘削することにより、拡幅空間3が構築される。
【0015】
発進基地100は、地下空洞10を有しており、地下空洞10に小断面シールドトンネル4を構築するためのシールド掘進機が設置される。以下、発進基地100の構造及び発進基地100の構築方法について、詳述する。
【0016】
まず、発進基地100の構造を、
図2から
図4を参照して説明する。なお、
図2から
図4では、
図1に示す拡幅空間3及び小断面シールドトンネル4を構築する前の状態が示されている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、地下空洞10は、地盤の第1壁面W1及び第2壁面W2によって囲われている。第1壁面W1は、トンネル軸方向に沿って延びており、本線トンネル1及び支線トンネル2を囲うように略円形に形成されている。第2壁面W2は、第1壁面W1からトンネル径方向に延びている。
【0018】
発進基地100は、第1壁面W1に沿って設けられる殻部20と、第2壁面W2に沿って設けられる側部30と、を備えている。殻部20及び側部30は、地下空洞10の形成に先立って、地盤内に構築される。側部30の内側には、繊維補強コンクリート又は鉄筋コンクリートからなる褄壁36が構築されている。なお、
図2では、褄壁36の図示を省略している。
【0019】
殻部20は、環状に形成されている。具体的には、殻部20は、トンネル軸方向に並べられると共に本線トンネル1と支線トンネル2とを囲うようにトンネル周方向に並べられた複数のセグメント21から形成されている。
【0020】
セグメント21は、例えば、主にコンクリートから形成されるRCセグメント、主に鋼材から形成される鋼製セグメント、又は主にコンクリートと鋼材とから形成される合成セグメントである。トンネル周方向に隣り合うセグメント21どうしは互いに連結されており、中空の構造体である。複数のセグメント21によって、地盤の第1壁面W1が支持されている。
【0021】
側部30は、第2壁面W2に沿って延びて設けられた複数のパイプ31と、複数のパイプ31の外側に形成された凍土層(地盤改良体)32と、を有している。パイプ31は、例えば鋼製パイプであり、中空のパイプであることが好ましい。凍土層32は、地盤を凍結することによって形成される。
【0022】
パイプ31の一方の端部は、殻部20に形成された貫通孔(図示省略)に貫通されて連結、固定されている。パイプ31の他方の端部は、殻部20、本線トンネル1又は支線トンネル2に形成された貫通孔(図示省略)を介して連結、固定されている。パイプ31によって、地盤の第2壁面W2が支持されている。そのため、トンネル軸方向における地盤の圧力は、パイプ31に作用し、地盤の第2壁面W2はパイプ31によって受け止められる。したがって、地盤の安定性を向上させることができる。
【0023】
パイプ31は、互いに略平行に設けられている。そのため、隣り合うパイプ31の間隔は、パイプ31の全長に渡って略一定になる。したがって、パイプ31の全長に渡って地盤の圧力を略均等に受けることができ、地盤の安定性をより向上させることができる。
【0024】
パイプ31は、例えば鉛直方向に延びるように設けられる。パイプ31は、水平方向に延びるように設けられていてもよいし、水平方向に対して傾斜して延びるように設けられていてもよい。
【0025】
図4は、
図3に示すIV−IV線に沿う断面図である。なお、
図4では、褄壁36の図示を省略している。
【0026】
図4に示すように、パイプ31の断面は略円形である。パイプ31は、互いに間隔を空けて設けられている。隣り合うパイプ31の間には凍土層32が形成されており、凍土層32によって隣り合うパイプ31の間が止水されている。そのため、隣り合うパイプ31の間への地下水の流入が遮断される。したがって、地盤内の地下水がパイプ31の間を通って地下空洞10に流入することを防ぐことができ、止水される。
【0027】
隣り合うパイプ31の間には鉄板33が設けられており、鉄板33によって、凍土層32が覆われている。そのため、隣り合うパイプ31どうしの間から凍土層32が崩れ落ちるのを防止することができ、凍土層32の止水性を向上させることができる。
【0028】
パイプ31の内部には、凍結管34,35がパイプ31の中心軸に沿って配置されている。凍結管34,35は、冷媒が流通可能に形成されている。冷媒は、例えば液化二酸化炭素である。冷媒を凍結管34,35に流すことにより、パイプ31の外側が冷却されて地盤が凍結し、凍土層32が形成される。
【0029】
第2壁面W2は、地盤とパイプ31又は凍土層32との境界である。つまり、凍土層32の厚みの変化によって、第2壁面W2の位置は変化する。また、凍土層32は凍結状態により変状するので、第2壁面W2の位置も変動する。例えば、冷媒が凍結管34,35に流れておらず、凍土層32が形成されていない状態では、第2壁面W2は、地盤とパイプ31との境界となる。
【0030】
凍結管34,35がパイプ31の内部に配置されているため、凍結管34,35は、パイプ31によって保護される。したがって、凍結管34,35の破損を軽減することができ、凍土層32をより確実に形成することができる。
【0031】
パイプ31の強度は、凍結管34,35の強度よりも高いことが好ましい。この場合には、凍結管34,35がパイプ31によって支えられる。したがって、凍結管34,35の破損をより軽減することができ、凍土層32をより確実に形成することができる。また、パイプ31の外径は凍結管34,35の外径より大きいので断面性能(例えば断面二次モーメント等)が強度的に優れている。したがって、凍結管34,35よりも地盤の圧力をより高い強度で受け止めることができる。
【0032】
凍結管34は、パイプ31の中心軸に対して地盤側(地下空洞10とは反対側)に配置されている。そのため、凍結管34を流れる冷媒は、パイプ31の外側のうちパイプ31の中心軸に対して地盤側の領域を地下空洞10側の領域よりも冷却する。したがって、凍土層32を地盤側に容易に拡大することができ、凍土層32の止水性を向上させることができる。
【0033】
凍結管35は、隣に位置するパイプ31の外周面に最も近い位置に設けられている。つまり、他の部分と比較して、凍結管35と隣のパイプ31の外周面との間隔が最も小さくなっている。したがって、隣り合うパイプ31の間に渡って凍土層32を容易に形成することができ、凍土層32の止水性をより向上させることができる。
【0034】
図4に示す例では、凍結管35は、パイプ31の中心軸に対して複数のパイプ31における配列方向の一方側にのみ配置されているが、配列方向の両側に配置されていてもよい。この場合には、隣り合うパイプ31の間の地盤を、各パイプ31に設けられる凍結管35を流れる冷媒によって冷却することができる。したがって、隣り合うパイプ31の間に渡って凍土層32をより容易に形成することができ、凍土層32の止水性をより向上させることができる。
【0035】
凍結管34,35は、例えばアルミニウム材料で形成されており、複数の流路を有するICチャンネル構造(狭隘流路構造)を有している。そのため、凍結管34,35の各流路を流れる冷媒と凍結管34,35との周囲との間での熱伝達が生じる。したがって、凍結管34,35の伝熱性能を向上させることができ、凍土層32を効率的に形成することができる。
【0036】
図示を省略するが、パイプ31の内部は、コンクリート等のセメント系材料によって充填される。そのため、パイプ31が中空である場合と比較して、側部30の強度を高めることができる。したがって、地盤の安定性をより向上させることができる。
【0037】
次に、発進基地100の構築方法について、
図5を参照して説明する。
【0038】
まず、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、既設の支線トンネル2からトンネル径方向に地盤を掘削し、拡幅した地下空間である坑50を構築する。坑50は、既知の方法で構築可能であり、坑50の構築方法の詳細については省略する。
【0039】
坑50は、例えば支線トンネル2から略水平に地盤を掘削することによって構築される。支線トンネル2から略鉛直に地盤を掘削して坑50を構築してもよいし、支線トンネル2から水平方向に対して斜めに地盤を掘削して坑50を構築してもよい。また、本線トンネル1からトンネル径方向に地盤を掘削して坑50を構築してもよい。
【0040】
次に、
図5(c)及び
図5(d)に示すように、地盤内に殻部20を本線トンネル1及び支線トンネル2を囲うように形成する。殻部20は、いわゆる円周方向に掘進するシールド工法・推進工法により構築が可能である。具体的には、坑50内に不図示の矩形シールド掘進機を設置し、矩形シールド掘進機を坑50から発進させる。矩形シールド掘進機を、本線トンネル1及び支線トンネル2を囲うように円形の経路で前進させることにより、環状のシールドトンネル22が構築される。
図5(d)に示す例では、環状のシールドトンネル22を3つ構築しているが、環状のシールドトンネル22は、1つ、2つ、又は4つ以上であってもよい。
【0041】
矩形シールド掘進機による地盤の掘削に伴って、第1壁面W1が形成される。また、矩形シールド掘進機の前進に合わせてセグメント21を第1壁面W1に設置することにより、殻部20が形成され、第1壁面W1が殻部20によって支持される。
【0042】
次に、
図5(e)及び
図5(f)に示すように、地盤内に側部30を形成する。具体的には、シールドトンネル22の内部からトンネル軸方向と交差するように複数のパイプ31を地盤に挿入し、地盤に第2壁面W2を形成する。このとき、パイプ31の内部に凍結管34,35(
図4参照)を配置しながらパイプ31を地盤に挿入する。パイプ31の挿入は既知の方法により可能である。例えば、ボーリング工法や推進工法により地盤にパイプ31を挿入することが可能である。パイプ31の一端を殻部20に固定し他端を殻部20、本線トンネル1又は支線トンネル2に固定することにより、第2壁面W2を支持する。次に、凍結管34,35に冷媒を流し、パイプ31の外周における地盤を凍結させて凍土層32を形成する。
【0043】
次に、殻部20と側部30とによって囲まれた領域を掘削し、
図2及び
図3に示す地下空洞10を形成する。パイプ31が地盤の第2壁面W2を支持しているため、トンネル軸方向における地盤の圧力は、パイプ31に作用し、地盤の第2壁面W2はパイプ31によって受け止められる。したがって、第2壁面W2の崩落を防止することができ、地下空洞10を容易に形成することができる。
【0044】
地盤の掘削に伴って、隣り合うパイプ31どうしの間に鉄板33(
図4参照)を設置すると共に褄壁36(
図3参照)を構築する。鉄板33及び褄壁36は、例えば逆巻き工法により構築される。逆巻き工法では、上方からの掘削により地下空洞10を形成しつつ、鉄板33を隣り合うパイプ31どうしの間に設置すると共に褄壁36を構築する。
【0045】
以上により、発進基地100の構築が完了する。褄壁36の構築後は、凍結管34,35(
図4参照)への冷媒の流通を停止し、凍土層32を解凍する。つまり、褄壁36の構築後は、躯体によって止水する。
【0046】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0047】
発進基地100では、複数のパイプ31が第2壁面W2を支持する。そのため、地盤の第2壁面W2はパイプ31によって受け止められる。したがって、地盤の安定性を向上させることができる。また、凍土層32が隣り合うパイプ31の間を止水している。そのため、隣り合うパイプ31の間への地下水の流入が遮断される。したがって、地盤内の地下水がパイプ31の間を通って地下空洞10に流入することを防ぐことができる。
【0048】
また、複数のパイプ31は、互いに略平行に設けられている。そのため、隣り合うパイプ31の間隔は、パイプ31の全長に渡って略一定になる。したがって、パイプ31の全長に渡って地盤の圧力を略均等に受けることができ、地盤の安定性をより向上させることができる。
【0049】
また、側部30は、パイプ31の内部に配置され、地盤を凍結する冷媒が流通可能な凍結管34,35を更に備えている。そのため、凍結管34,35は、パイプ31によって保護される。したがって、凍結管34,35の破損を軽減することができ、凍土層32をより確実に形成することができる。
【0050】
また、発進基地100の構築方法では、側部30を設ける工程において、複数のパイプ31を地盤に挿入して殻部20に固定し第2壁面W2を支持すると共に、複数のパイプ31の外側に凍土層32を形成して隣り合うパイプ31の間を止水する。そのため、殻部20と側部30とによって囲まれた領域を掘削し地下空洞10を形成する工程において、地盤の第2壁面W2がパイプ31によって支持され受け止められる。したがって、第2壁面W2の崩落を防止することができ、地下空洞10を容易に形成することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0052】
上記実施形態では、発進基地100は、既設の本線トンネル1と支線トンネル2との分岐・合流部の構築に利用されるが、本発明に係る地下構造体は、別の用途であってもよい。例えば、鉄道トンネル等の駅舎部の構築に利用されてもよい。また、本線トンネル1及び支線トンネル2のいずれも形成されていなくてもよい。つまり、本発明は、所定の方向に沿って延びる第1壁面W1と、当該所定の方向と交差して延びる第2壁面W2と、によって囲われた地下空洞10を有する地下構造体に適用可能である。
【0053】
上記実施形態では、トンネル軸方向における両側に側部30が設けられているが、本発明は、トンネル軸方向における一方側に側部30が設けられており、他方側に側部30とは異なる構造が設けられていてもよい。
【0054】
上記実施形態では、第1壁面W1が略円形に形成されており殻部20が環状に形成されているが、本発明は、この形態に限られない。例えば、第1壁面W1が地下空洞10の上方にアーチ状に形成されており殻部20が第1壁面W1に沿ってアーチ状に形成されていてもよい。また、第1壁面W1が地下空洞10の側方にアーチ状に形成されており殻部20が第1壁面W1に沿ってアーチ状に形成されていてもよい。更に、第1壁面W1が平面状に形成されており殻部20は第1平面に沿って平面状に形成されていてもよい。つまり、地下空洞10は、第1壁面W1と第2壁面W2とを含む地盤の複数の壁面によって囲われており、殻部20及び側部30が第1壁面W1及び第2壁面W2にそれぞれ沿って設けられていればよい。
【0055】
上記実施形態では、凍土層32によって隣り合うパイプ31の間を止水しているが、本発明は、この形態に限られない。例えば、薬液を隣り合うパイプ31の間の地盤に注入して地盤改良体を形成し、隣り合うパイプ31の間を止水してもよい。
【0056】
上記実施形態では、パイプ31は、互いに間隔を空けて設けられているが、パイプ31が互いに隣接していてもよい。また、
図6に示す変形例のように、複数のパイプは、トンネル軸方向に重なり合うように設けられていてもよい。
【0057】
図6に示す変形例に係る側部30では、第1パイプ131と第2パイプ231とが交互に配置されており、第1パイプ131と第2パイプ231との間が凍土層32によって止水されている。第1パイプ131は、鋼製の芯材131aと、芯材131aよりも硬度が低い切削可能部131bと、を有有している。第2パイプ231は、パイプ31(
図4参照)と同様に、鋼製パイプである。第2パイプ231は、第1パイプ131を地盤に挿入した後に、第1パイプ131の切削可能部131bを切削しながら第1パイプ131と並列に地盤に挿入される。そのため、第2パイプ231は、切削可能部131bを切削することによって形成される空間に配置される。したがって、第1パイプ131と第2パイプ231との間の止水範囲を最小限にすることができ、側部30の止水性を向上させることができる。また、側部30の強度を向上させることができる。
【0058】
図6に示す変形例において、凍結管34は、第1パイプ131及び第2パイプ231の中心軸に対して地盤側(地下空洞10とは反対側)に配置されている。凍結管35は、第2パイプ231の内部における切削可能部131bと凍土層32との境界の延長線上に配置されている。したがって、切削可能部131bに隣接する領域を効率的に冷却することができ、切削可能部131bと第2パイプ231との間を容易に止水することができる。
【解決手段】発進基地100は、第1壁面W1に沿って設けられ第1壁面W1を支持する殻部20と、第2壁面W2に沿って設けられる側部30と、を備え、側部30は、殻部20に固定され、第2壁面W2を支持する複数のパイプ31と、複数のパイプ31の外側に形成され、隣り合うパイプ31の間を止水する凍土層32と、を有する。