(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(固体アルカリ形燃料電池システム100)
実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池システム100について図面を参照しながら説明する。
図1は、固体アルカリ形燃料電池システム100の構成を示す模式図である。
【0012】
固体アルカリ形燃料電池システム100は、固体アルカリ形燃料電池10と、作動温度制御部11とを備える。
【0013】
固体アルカリ形燃料電池10は、水酸化物イオンをキャリアとする固体アルカリ形燃料電池の一例である。
【0014】
図1に示すように、固体アルカリ形燃料電池10は、カソード12、アノード14、及び電解質16を備える。カソード12、アノード14、及び電解質16は、本発明に係る「発電部」を構成する。
【0015】
固体アルカリ形燃料電池10は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、100℃以上250℃以下)で発電する。ただし、下記の電気化学反応式では、燃料の一例としてメタノールが用いられている。
【0016】
・カソード12: 3/2O
2+3H
2O+6e
−→6OH
−
・アノード14: CH
3OH+6OH
−→6e
−+CO
2+5H
2O
・全体 : CH
3OH+3/2O
2→CO
2+2H
2O
【0017】
固体アルカリ形燃料電池10の構成については後述する。ただし、本発明に係る固体アルカリ形燃料電池システムには、周知の固体アルカリ形燃料電池を適用することができる。
【0018】
作動温度制御部11は、固体アルカリ形燃料電池10の運転中、固体アルカリ形燃料電池10の作動温度を制御する。具体的には、作動温度制御部11は、固体アルカリ形燃料電池10の作動温度を、100℃以上、かつ、固体アルカリ形燃料電池10について昇温脱離法によってH
2Oの脱離量を測定した場合におけるH
2Oの最大脱離量の1/100の脱離量が最初に検出される温度(以下、「脱離特性指標温度T0」という。)以上に制御する。
【0019】
このように、作動温度を100℃以上、かつ、脱離特性指標温度T0以上に制御することによって、カソード12に供給されるH
2Oの総量を増大させることができるとともに、H
2Oをカソード12の電気化学反応に効率的に利用することができる。その結果、カソード12にH
2Oを効率的に供給できるため、固体アルカリ形燃料電池10の出力を向上させることができる。このことについては、実験的に確認済みである。
【0020】
脱離特性指標温度T0は、固体アルカリ形燃料電池10からのH
2Oの脱離のし易さを示す指標である。脱離特性指標温度T0は、H
2Oの最大脱離量が検出される温度よりも低い温度である。脱離特性指標温度T0は、後述する手法により、固体アルカリ形燃料電池10の作動前に予め測定しておけばよい。
【0021】
固体アルカリ形燃料電池10の作動温度は、固体アルカリ形燃料電池10の温度制御のために管理される温度である。作動温度としては、定常的に作動する固体アルカリ形燃料電池10に近接又は当接する所定位置における温度を用いることができる。定常的に作動するとは、1時間内における温度変化が±5度以内に収まる状態で作動することを意味する。本実施形態において、作動温度は、100℃以上に設定される。本実施形態において、作動温度の上限値は特に制限されないが、例えば250℃以下に設定することができる。
【0022】
なお、作動温度制御部11は、例えば、ヒーターによる外部加熱量、発電量による内部加熱量、空冷または水冷等による冷却量などを調整することによって、固体アルカリ形燃料電池10の作動温度を制御することができる。
図1において、作動温度制御部11は、カソード12に近接する位置の温度を測定するように構成されているが、固体アルカリ形燃料電池10に近接又は当接する所定位置における温度を測定できるように構成されていればよい。
【0023】
ここで、脱離特性指標温度T0は、以下に説明するようにH
2Oを用いた昇温脱離法(いわゆる、H
2O−TPD)により検出される。
【0024】
(1)固体アルカリ形燃料電池10のうち発電部の一部を切り出して試験片とし、TPD装置(Micromeritics社製 AutoChemII 2920)のサンプルホルダーに試験片を保持する。
【0025】
(2)試験片をArガス中で250℃まで昇温し、3時間保持する。
【0026】
(3)試験片を室温(50℃以下)まで冷却する。
【0027】
(4)室温で試験片に水加湿Arガスを供給し、試験片にH
2Oを物理的に吸着させる。
【0028】
(5)ドライArガス中に試験片を30分間パージする。
【0029】
(6)試験片を室温から250℃まで10℃/minの昇温速度で昇温する。
【0030】
(7)ガス検出器で検出されるH
2Oの脱離量の経時変化を示す脱離曲線において、H
2Oの最大脱離量(ピーク値)を特定する。この際、脱離曲線において2つのピークが重なり合って存在する場合には、2つのピークを多変量解析で分離して、低温側のピーク値を最大脱離量として採用する。H
2Oの脱離量は特に制限されないが、0.1μmol-H
2O/m
2以上が好ましく、1μmol-H
2O/m
2以上がより好ましい。このH
2Oの脱離量(μmol-H
2O/m
2)は、BET比表面積(m
2/g)に対してH
2O−TPDにてH
2O脱離量を規格化することで算出される。H
2O脱離量の全量は、四重極質量分析器(Quadrupole Mass Spectrometer:QMS、Pfeiffer Vacuum製 ThermoStar GSD320)で測定することができる。
【0031】
(8)脱離曲線において、H
2Oの最大脱離量の1/100の脱離量を最初に示した温度(すなわち、H
2Oの脱離量が最大脱離量に向かって徐々に増加する曲線上において、H
2Oの最大脱離量の1/100の脱離量を示す温度)を、脱離特性指標温度T0として特定する。H
2Oの最大脱離量の1/100の脱離量は特に制限されないが、脱離特性指標温度T0までに脱離するH
2O量は0.3μmol-H
2O/m
2以上が好ましく、0.8μmol-H
2O/m
2以上がより好ましい。
【0032】
なお、昇温脱離法による脱離特性指標温度の検出方法については、住化分析センター Technical News TN136「固体触媒の酸・塩基性測定 (昇温脱離法(TPD))」、[平成30年11月22日検索]、インターネット〈URL:https://www.scas.co.jp/technical-informations/technical-news/pdf/tn136.pdf〉に詳細が記載されている。
【0033】
また、作動温度制御部11は、固体アルカリ形燃料電池10の運転中、固体アルカリ形燃料電池10の作動温度を、100℃以上、かつ、上述したH
2Oの最大脱離量の1/10の脱離量が最初に検出される温度(以下、「脱離特性指標温度T1」という。)以上に制御することが好ましい。
【0034】
このように、作動温度を100℃以上、かつ、脱離特性指標温度T1以上に制御することによって、カソード12に供給されるH
2Oの総量を更に増大させることができるとともに、H
2Oをカソード12の電気化学反応に更に効率的に利用することができる。その結果、カソード12にH
2Oを更に効率的に供給できるため、固体アルカリ形燃料電池10の出力を更に向上させることができる。このことについても、実験的に確認済みである。
【0035】
脱離特性指標温度T1は、上述した脱離特性指標温度T0と同様、固体アルカリ形燃料電池10からのH
2Oの脱離のし易さを示す指標である。脱離特性指標温度T1は、脱離特性指標温度T0よりも高い温度であり、かつ、H
2Oの最大脱離量が検出される温度よりも低い温度である。
【0036】
固体アルカリ形燃料電池10の脱離特性指標温度T1は、上述した脱離特性指標温度T0の検出手法において、H
2Oの最大脱離量の1/10の脱離量を最初に示した温度を特定することによって検出される。脱離特性指標温度T1は、固体アルカリ形燃料電池10の作動前に予め測定しておけばよい。
【0037】
(固体アルカリ形燃料電池10の構成)
図1に示すように、固体アルカリ形燃料電池10は、カソード12、アノード14、及び電解質16を備える。
【0038】
(カソード12)
カソード12は、電解質16に接続される。カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、カソード12には、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O
2)を含む酸化剤が供給される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。カソード12の厚みは特に制限されないが、例えば10〜200μmとすることができる。
【0039】
カソード12は、AFCに使用される公知のカソード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0040】
カソード触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、カーボン粒子が好ましい。カソード12の構成材料の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)などが挙げられる。カソード12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜10mg/cm
2、より好ましくは、0.05〜5mg/cm
2である。
【0041】
カソード12の作製方法は特に限定されないが、例えば、カソード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のカソード側表面16Sに塗布することによって形成することができる。
【0042】
(アノード14)
アノード14は、電解質16に接続される。アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。アノード14は、内部に燃料を拡散可能な多孔質体である。アノード14の気孔率は特に制限されない。アノード14の厚みは特に制限されないが、例えば10〜500μmとすることができる。
【0043】
水素原子を含む燃料は、アノード14において水酸化物イオン(OH
−)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。
【0044】
燃料化合物としては、例えば、(i)ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)、炭酸ヒドラジン((NH
2NH
2)
2CO
2)、硫酸ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2SO
4)、モノメチルヒドラジン(CH
3NHNH
2)、ジメチルヒドラジン((CH
3)
2NNH
2、CH
3NHNHCH
3)、及びカルボンヒドラジド((NHNH
2)
2CO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NH
2CONH
2)、(iii)アンモニア(NH
3)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NH
2OH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH
2OH・H
2SO
4)等のヒドロキシルアミン類、及びこれらの組合せが挙げられる。これらの燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため特に好適である。
【0045】
燃料化合物は、そのまま燃料として用いてもよいが、水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であるので、そのまま液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶である。1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。このように、固体の燃料化合物は、水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば30〜99.9重量%であり、好ましくは66〜99.9重量%である。
【0046】
また、メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などは、そのまま燃料として用いることができる。特に、本実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び、気液混合状態のいずれであってもよい。
【0047】
アノード14は、AFCに使用される公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。アノード14及びそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0048】
アノード14の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のアノード側表面16Tに塗布することにより形成することができる。
【0049】
(電解質16)
電解質16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質16は、カソード12及びアノード14のそれぞれに接続される。電解質16は、カソード12と接触するカソード側表面16Sと、アノード14と接触するアノード側表面16Tとを有する。電解質16は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。
【0050】
図2は、電解質16の断面を拡大して示す模式図である。電解質16は、多孔質基材20と無機固体電解質体22とを有する。
【0051】
多孔質基材20は、三次元網目構造を有する。「三次元網目構造」とは、基材の構成物質が立体的かつ網目状に繋がった構造である。多孔質基材20は、連続孔20aを形成する。連続孔20aは、立体的かつ網目状に孔が繋がることによって構成されており、多孔質基材20の外表面に露出している。連続孔20aには、後述する無機固体電解質体22が含浸されている。
【0052】
多孔質基材20は、金属材料、セラミックス材料及び高分子材料から選択される少なくとも1種によって構成することができる。
【0053】
多孔質基材20を構成する金属材料としては、ステンレス(Fe−Cr系合金、Fe−Ni−Cr系合金など)、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、又は、チタンなどを用いることができる。このような金属材料は、セラミックス材料や高分子材料に比べて熱伝導性が高いため、多孔質基材20の放熱効率を向上させることができるとともに、多孔質基材20内の温度分布を低減させることができる。三次元網目構造を有する限り、多孔質基材20の形態は特に制限されず、例えば、多孔質金属材料(例えば、発砲金属材料)によって構成されるセル状又はモノリス状の構造物であってもよいし、細線金属材料によって構成されるメッシュ状の塊であってもよい。
【0054】
また、多孔質基材20が金属材料によって構成される場合、多孔質基材20の表面には絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、Cr
2O
3、Al
2O
3、ZrO
2、MgO、MgAl
2O
4などによって構成することができる。多孔質基材20をステンレスによって構成する場合、ステンレスを酸化処理することにより、絶縁膜としてのCr
2O
3膜を簡便に形成することができる。ただし、本実施形態では、後述する第1及び第2膜状部22b,22cが、カソード12及びアノード14それぞれとの間で絶縁膜として機能するため、多孔質基材20の表面には、絶縁膜が形成されていなくてもよい。
【0055】
多孔質基材20を構成するセラミックス材料としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、カルシア、コージェライト、ゼオライト、ムライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0056】
多孔質基材20を構成する高分子材料としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド及びこれらの任意の組合せが挙げられる。多孔質基材20をフレキシブル性の高分子材料で構成する場合には、連続孔20aの体積を大きくしながら厚さを薄くしやすいため、水酸化物イオン伝導性を向上させることができる。高分子材料によって構成される多孔質基材20としては、市販の微多孔膜を用いることができる。
【0057】
多孔質基材20の厚さは特に制限されないが、例えば、200μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下であり、5μm以下が最も好ましい。多孔質基材20の厚さの下限値は、用途に応じて適宜設定すればよいが、ある程度の堅さを確保するには1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。
【0058】
多孔質基材20の断面における連続孔20aの平均内径は特に制限されないが、例えば、0.001〜1.5μmとすることができ、好ましくは0.001〜1.25μm、より好ましくは0.001〜1.0μm、さらに好ましくは0.001〜0.75μm、特に好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を付与しつつ、無機固体電解質体22の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの平均内径とは、多孔質基材20の断面を電子顕微鏡で観察した場合に、観察画像上で無作為に選出した20箇所における連続孔20aの円相当径を算術平均することによって得られる。連続孔20aの円相当径とは、観察画像において、連続孔20aの断面積と同じ面積を有する円の直径である。なお、電子顕微鏡の倍率は、連続孔20aの断面サイズに応じて適宜設定すればよい。
【0059】
連続孔20aの体積率は特に制限されないが、例えば、10〜60%とすることができ、好ましくは15〜55%、より好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を確保しつつ、無機固体電解質体22の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの体積率は、アルキメデス法により測定することができる。
【0060】
また、
図2では図示されていないが、多孔質基材20は、それ自体の内部に複数の細孔を有することが好ましい。複数の細孔は、多孔質基材20の内部において、互いに繋がっていてもよい。そして、各細孔は多孔質基材20の表面に開口する開気孔であって、各細孔には無機固体電解質体22が含浸していることがより好ましい。これによって、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→連続孔20aという短距離イオン伝導パスや、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→第2膜状部22c、或いは、第1膜状部22b→多孔質基材20内の細孔→第2膜状部22cという長距離イオン伝導パスを形成することができる。その結果、複合部22a内のイオン伝導可能領域が広がるため、電解質16全体としてのイオン伝導性を向上させることができる。
【0061】
無機固体電解質体22は、水酸化物イオン伝導性を有する。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、無機固体電解質体22は、カソード12側からアノード14側に水酸化物イオン(OH
−)を伝導させる。無機固体電解質体22の水酸化物イオン伝導率は特に制限されないが、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは1.0mS/cm以上である。無機固体電解質体22の水酸化物イオン伝導率は、高いほど好ましく、その上限値は特に制限されないが、例えば10mS/cmである。
【0062】
無機固体電解質体22は、緻密であることが好ましい。アルキメデス法で算出される無機固体電解質体22の相対密度は特に制限されないが、90%以上が好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上である。無機固体電解質体22は、例えば水熱処理によって緻密化することができる。
【0063】
無機固体電解質体22は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。このようなセラミックス材料としては、水酸化物イオン伝導性を有する周知のセラミックスを用いることができるが、以下に説明する層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が特に好適である。
【0064】
LDHは、M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオン、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M
2+の例としてはMg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、及びZn
2+が挙げられ、M
3+の例としては、Al
3+、Fe
3+、Ti
3+、Y
3+、Ce
3+、Mo
3+、及びCr
3+が挙げられ、An
−の例としてはCO
32−及びOH
−が挙げられる。M
2+及びM
3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0065】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びH
2Oで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
【0066】
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi
2+であると考えられるが、Ni
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl
3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi
4+であると考えられるが、Ti
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
【0067】
LDHの中間層は、陰イオン及びH
2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH
−及び/又はCO
32−を含む。
【0068】
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi
2+、Al
3+、Ti
4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni
2+1−x−yAl
3+xTi
4+y(OH)
2A
n−(x+2y)/n・mH
2O(式中、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni
2+、Al
3+、Ti
4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0069】
本実施形態において、無機固体電解質体22は、複合部22a、第1膜状部22b、及び第2膜状部22cを有する。
【0070】
複合部22aは、第1膜状部22bと第2膜状部22cとの間に配置される。複合部22aは、多孔質基材20の連続孔20a内に配置される。複合部22aは、連続孔20a内に含浸されており、多孔質基材20と一体化している。このように、無機固体電解質体22を多孔質基材20で支持することによって、無機固体電解質体22の強度を向上できるため、無機固体電解質体22を薄くすることができる。その結果、電解質16の低抵抗化を図ることができる。
【0071】
本実施形態において、複合部22aは、多孔質基材20の連続孔20a内の略全域に広がっているが、無機固体電解質体22が第1膜状部22b及び第2膜状部22cの少なくとも一方を有さない場合、複合部22aは、多孔質基材20の一部にのみ含浸されていてもよい。
【0072】
第1膜状部22bは、複合部22aのカソード12側に連なる。第1膜状部22bは、膜状に形成される。第1膜状部22bは、複合部22aと一体的に形成される。第2膜状部22cは、複合部22aのアノード14側に連なる。第2膜状部22cは、膜状に形成される。第2膜状部22cは、複合部22aと一体的に形成される。第1膜状部22b及び第2膜状部22cそれぞれは、水酸化物イオン伝導性セラミックス成分によって構成される。第1膜状部22b及び第2膜状部22cそれぞれの厚さは特に制限されないが、例えば、10μm以下とすることができ、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。第1膜状部22b及び第2膜状部22cそれぞれは、一様な平面状に形成されていてもよいし、縞状など所望の平面形状にパターン化されていてもよい。
【0073】
電解質16の作製方法は特に限定されないが、例えば、以下の手法を採用することができる。まず、アルミナ及びチタニアの混合ゾルを調製し、この混合ゾルを多孔質基材20内部の全体又は大部分に浸透させる。次に、混合ゾルが浸透した多孔質基材20を熱処理(大気雰囲気、50〜150度、1〜30分)することによって、多孔質基材20の各孔内にアルミナ・チタニア層を形成する。次に、ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材20を浸漬させる。次に、原料水溶液中で多孔質基材20を水熱処理する。この際、水熱処理条件(100〜150度、10〜100時間)を適宜調整することによって、多孔質基材20内に複合部22aが形成されるとともに、多孔質基材20の両主面に第1膜状部22b及び第2膜状部22cが形成されて電解質16となる。
【0074】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0075】
上記実施形態において、電解質16は、
図2に示す構成を有することとしたが、これに限られない。例えば、電解質16は、無機固体電解質体22を支持する多孔質基材20を有することとしたが、多孔質基材20を有していなくてもよい。この場合、電解質16は、板状に形成された無機固体電解質体によって構成することができる。また、電解質16は、第1膜状部22b及び第2膜状部22cの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0076】
また、電解質16は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体22を膜状に形成することによって形成してもよい。さらに、電解質16は、水酸化物イオン伝導性材料粉末とバインダー材料粉末との混合粉末を圧粉成形することによって形成してもよい。