(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1センサの検出値を用いた複数の値の中から抽出された値を抽出値とするとき、複数の前記抽出値の平均値と目標量との偏差の絶対値が予め定められた基準値以上である場合に、前記平均値を前記目標量に近づける制御を行う、
請求項1に記載の車高調整装置。
前記平均値を複数回演算し、前記平均値と前記目標量との偏差の絶対値が、予め定められた期間内に複数回に亘って基準値以上となった場合に、前記平均値を前記目標量に近づける制御を行う、
請求項2に記載の車高調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に示す形態は本発明の実施の形態の一例であり、本発明は、以下に示す形態に限定されない。
【0011】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る自動二輪車1の概略構成の一例を示す図である。
図2は、減衰装置23dの概略構成の一例を示す図である。
図3は、車高調整装置150の概略構成の一例を示す図である。
鞍乗型車両の一例としての自動二輪車1は、前側の車輪である前輪2と、後側の車輪である後輪3と、前輪2の回転速度を検出する車輪速センサ4と、後輪3の回転速度を検出する車輪速センサ5と、を備えている。
また、自動二輪車1は、自動二輪車1の骨格をなす車体フレーム11と、ハンドル12と、ブレーキレバー13と、シート14とを有する車両本体の一例としての車両本体10を備えている。
なお、以下の説明において、前輪2と後輪3とをまとめて「車輪」と称し、車両本体10を「車体」と称する場合もある。また、車輪速センサ4と車輪速センサ5とをまとめて「車輪速センサ6」と称する場合もある。
【0012】
また、自動二輪車1は、前輪2と車両本体10とを連結する懸架装置の一例としてのフロントフォーク21を有している。また、自動二輪車1は、前輪2の左右それぞれに配置された2つのフロントフォーク21を保持する2つのブラケット15と、2つのブラケット15の間に配置されたシャフト16と、を備えている。シャフト16は、車体フレーム11に回転可能に支持されている。フロントフォーク21は、路面等から前輪2に加わった衝撃を吸収する懸架スプリング21sと、懸架スプリング21sの振動を減衰する減衰装置21dと、を備えている。
【0013】
また、自動二輪車1は、後輪3と車両本体10とを連結する懸架装置の一例としてのリヤサスペンション22を、後輪3の左側と右側にそれぞれ1つずつ有している。リヤサスペンション22は、路面等から後輪3に加わった衝撃を吸収する懸架スプリング22sと、懸架スプリング22sの振動を減衰する減衰装置22dと、を備えている。
なお、以下の説明において、フロントフォーク21とリヤサスペンション22とをまとめて「懸架装置23」と称する場合もある。また、懸架スプリング21sと懸架スプリング22sとをまとめて「スプリング23s」と称する場合もある。また、減衰装置21dと減衰装置22dとをまとめて「減衰装置23d」と称する場合もある。
【0014】
また、自動二輪車1は、フロントフォーク21のストローク量を検出するストロークセンサ26と、リヤサスペンション22のストローク量を検出するストロークセンサ27と、を備えている。ストローク量は、フロントフォーク21、リヤサスペンション22が最も縮んだ状態のときからの変位量であることを例示することができる。なお、以下の説明において、ストロークセンサ26とストロークセンサ27とをまとめて「ストロークセンサ25」と称する場合もある。
また、自動二輪車1は、車両本体10における、前後方向、左右方向、及び、上下方向の各方向の加速度を検出する加速度センサ28を有している。
また、自動二輪車1は、車両本体10の重心を通る、ピッチ軸、ロール軸、及び、ヨー軸の各軸周りの角速度を検出する角速度センサ29を有している。
【0015】
ここで、ストロークセンサ25、加速度センサ28、及び、角速度センサ29は、それぞれ、検出値を時系列で平滑化するローパスフィルタを通過した値を出力する。そして、ストロークセンサ25のローパスフィルタの時定数は、加速度センサ28、及び、角速度センサ29のローパスフィルタの時定数よりも小さい。これは、道路の凹凸等により車輪が頻繁に上下変動するため、実際のストローク量とストロークセンサ25の出力値との偏差が大きくなることを抑制するためである。他方、加速度センサ28、及び、角速度センサ29には、例えば、道路の凹凸等による車輪の上下変動が、懸架装置23を介して伝達される。そのため、実際の加速度と加速度センサ28の出力値との偏差や、実際の角速度と角速度センサ29の出力値との偏差は、実際のストローク量とストロークセンサ25の出力値との偏差ほど、大きくならない。そのため、ストロークセンサ25の応答速度は、加速度センサ28、及び、角速度センサ29の応答速度よりも大きい。
【0016】
また、自動二輪車1は、スプリング23sに付与する初期荷重(プリロード)を変更することにより、車両本体10の高さ、言い換えれば、車高を調整する調整部の一例としての調整部70を備えている。
また、自動二輪車1は、減衰装置23dの減衰力や、スプリング23sの初期荷重を制御する処理装置100(以下において、処理装置100を「制御装置100」と称することがある。)を備えている。
【0017】
(減衰装置23d)
減衰装置23dは、
図2に示すように、シリンダ23c内にピストン23pが収容されていることにより、シリンダ23c内に、懸架装置23の圧縮時に圧力が高まる油室23fと、伸長時に圧力が高まる油室23sと、を有している。
【0018】
また、減衰装置23dは、油室23fに接続された第1油路31と、油室23sに接続された第2油路32と、を有している。また、減衰装置23dは、第1油路31と第2油路32との間に設けられた第3油路33と、第3油路33に設けられた制御弁40と、を有している。また、減衰装置23dは、第1油路31と第3油路33の一方の端部とを接続する第1分岐路51と、第1油路31と第3油路33の他方の端部とを接続する第2分岐路52と、を有している。また、減衰装置23dは、第2油路32と第3油路33の一方の端部とを接続する第3分岐路53と、第2油路32と第3油路33の他方の端部とを接続する第4分岐路54と、を有している。
【0019】
また、減衰装置23dは、第1分岐路51に設けられ、第1油路31から第3油路33へと向かうオイルの移動を許容し、第3油路33から第1油路31へと向かうオイルの移動を禁止する第1チェック弁61を有している。また、減衰装置23dは、第2分岐路52に設けられ、第3油路33から第1油路31へと向かうオイルの移動を許容し、第1油路31から第3油路33へと向かうオイルの移動を禁止する第2チェック弁62を有している。
また、減衰装置23dは、第3分岐路53に設けられ、第2油路32から第3油路33へと向かうオイルの移動を許容し、第3油路33から第2油路32へと向かうオイルの移動を禁止する第3チェック弁63を有している。また、減衰装置23dは、第4分岐路54に設けられ、第3油路33から第2油路32へと向かうオイルの移動を許容し、第2油路32から第3油路33へと向かうオイルの移動を禁止する第4チェック弁64を有している。
また、減衰装置23dは、オイルを貯留するとともにオイルを給排する機能を有するリザーバ室23rと、リザーバ室23rと第3油路33の他方の端部とを接続するリザーバ通路34と、を有している。
【0020】
制御弁40は、ソレノイドを有しており、ソレノイドに通電する電流量が制御されることによって、弁を通過するオイルの圧力を制御可能である。制御弁40は、ソレノイドに供給される電流量が大きくなるのに従って弁を通過するオイルの圧力を高くする。ソレノイドに通電する電流量は、制御装置100によって制御される。
【0021】
ピストン23pが油室23fの方に移動すると、油室23fの油圧が上昇する。そして、油室23f内のオイルが、第1油路31、及び、第1分岐路51を介して、制御弁40に向かう。制御弁40を通過するオイルの圧力が制御弁40の弁圧にて調整されることにより、圧縮側の減衰力が調整される。制御弁40を通過したオイルは、第4分岐路54、及び、第2油路32を介して、油室23sに流入する。
【0022】
他方、ピストン23pが油室23sの方に移動すると、油室23sの油圧が上昇する。そして、油室23s内のオイルが、第2油路32、及び、第3分岐路53を介して、制御弁40に向かう。制御弁40を通過するオイルの圧力が制御弁40の弁圧にて調整されることにより、伸長側の減衰力が調整される。制御弁40を通過したオイルは、第2分岐路52、及び、第1油路31を介して、油室23fに流入する。
【0023】
(調整部70)
調整部70は、懸架装置23に設けられて、スプリング23sの長さを調整するジャッキ部80と、ジャッキ部80のジャッキ室82にオイルを供給する供給装置90と、を備えている。
ジャッキ部80は、
図3に示すように、スプリング23sの車体側の端部を支持する支持部材81と、支持部材81とともにジャッキ室82を形成する形成部材83とを有して、ジャッキ室82内のオイルの量に応じて支持部材81が移動することで、スプリング23sの長さを調整する。支持部材81、ジャッキ室82、形成部材83は、それぞれ、特許文献1に記載されたリヤサスペンション又はフロントフォークの支持部材、ジャッキ室、油圧ジャッキにて実現されることを例示することができる。
【0024】
また、ジャッキ部80は、支持部材81の移動量を検出する移動量センサ84を備えている。移動量センサ84が検出する支持部材81の移動量は、支持部材81が基準位置に位置するときの移動量を0とした場合の移動量である。基準位置は、ジャッキ室82内のオイルが0のときの支持部材81の位置である。移動量センサ84は、例えば、形成部材83の外周面にコイルを巻くとともに、支持部材81を磁性体とし、形成部材83に対する支持部材81の移動に応じて変化するコイルのインピーダンスを用いて支持部材81の移動量を検出するセンサであることを例示することができる。
【0025】
供給装置90は、
図3に示すように、円筒状のシリンダ91と、シリンダ91内を摺動する円柱状のピストン92と、シリンダ91における一方側(
図2では右側)の端部を塞ぐ円板状の蓋部93と、を備えている。シリンダ91、ピストン92、及び、蓋部93にて囲まれる空間に、オイルを貯留する貯留室94が形成される。ピストン92には、他方側(
図2では左側)の端面から凹んだ円柱状の凹部が形成されており、この凹部には、雌ねじ92fが形成されている。
【0026】
また、供給装置90は、
図3に示すように、ピストン92に形成された雌ねじ92fと噛み合う雄ねじ95mが形成されたねじ部材95を備えている。また、供給装置90は、ねじ部材95を回転させるモータ96と、モータ96の駆動力を、回転速度を減速させてねじ部材95に伝達する減速部97と、を備えている。
モータ96は、ブラシ付きの直流(DC)モータであることを例示することができる。モータ96の駆動は、制御装置100によって制御される。減速部97は、
図3に示すように、モータ96の出力軸に装着された駆動ギア97dと、ねじ部材95に装着された受動ギア97rと、駆動ギア97dと噛み合う第1中間ギア97mと受動ギア97rと噛み合う第2中間ギア97nとを有するギアユニット97uと、を備えている。
また、供給装置90は、貯留室94と、ジャッキ部80のジャッキ室82との間に設けられて、貯留室94とジャッキ室82との間でオイルを流通させるホース98を備えている。
【0027】
調整部70においては、供給装置90のモータ96が一方の方向に回転することにより、ピストン92が貯留室94からオイルを排出する。これにより、ホース98を介して、ジャッキ室82内にオイルが供給される。そして、支持部材81が形成部材83に対して車輪側(
図3では右側)に移動し、言い換えれば、支持部材81の基準位置からの移動量が大きくなり、スプリング23sのバネ長が短くなる。
【0028】
スプリング23sのバネ長が短くなると、支持部材81が形成部材83に対して移動する前と比べてスプリング23sが支持部材81を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体から車輪側へ力が作用したとしても、両者の相対位置を変化させない初期荷重が大きくなる。かかる場合、車体側から車輪側に同じ力が作用した場合には、懸架装置23の沈み込み量(車体と車輪との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材81が形成部材83に対して移動することでスプリング23sのバネ長が短くなると、支持部材81が形成部材83に対して移動する前と比べて、車両本体10の高さが上昇する(車高が高くなる)。
【0029】
一方、供給装置90のモータ96が他方の方向に回転することにより、貯留室94の容積が大きくなる。すると、支持部材81がジャッキ室82内のオイルを排出し、貯留室94に供給する。これにより、支持部材81が形成部材83に対して車体側(
図3では左側)に移動し、言い換えれば、支持部材81の基準位置からの移動量が小さくなり、スプリング23sのバネ長が長くなる。
【0030】
スプリング23sのバネ長が長くなると、支持部材81が形成部材83に対して移動する前と比べてスプリング23sが支持部材81を押すバネ力が小さくなる。その結果、車体側から車輪側に同じ力が作用した場合には、懸架装置23の沈み込み量が大きくなる。それゆえ、支持部材81が形成部材83に対して移動することでスプリング23sのバネ長が長くなると、支持部材81が形成部材83に対して移動する前と比べて、車両本体10の高さが下降する(車高が低くなる)。
【0031】
以上のように構成された調整部70、及び、制御装置100等により自動二輪車1の車高を調整する車高調整装置150が構成される。
【0032】
(制御装置100)
図4は、制御装置100のブロック図の一例を示す図である。
制御装置100は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、不揮発性メモリであるEEPROMと、を備えている。
制御装置100には、上述した車輪速センサ6、ストロークセンサ25、加速度センサ28、角速度センサ29、及び、移動量センサ84等からの出力信号が入力される。
【0033】
制御装置100は、減衰装置23dの減衰力を制御する制御部110と、スプリング23sの初期荷重を制御する制御部120と、を有している。これら制御部110及び制御部120は、CPUがROM等の記憶領域に記憶されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0034】
制御部110は、単位時間当たりのストローク量の変化量、言い換えれば、ストローク量の変化の速度である速度Vpを算出する、算出部111を有している。算出部111は、ストロークセンサ25の出力値を微分することにより速度Vpを算出する。
また、制御部110は、制御弁40のソレノイドに供給する目標電流Itsを設定するとともに、ソレノイドに供給される電流が目標電流Itsとなるように制御する設定部112を備えている。設定部112は、例えば電源の正極側ラインと、制御弁40のソレノイドのコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(Field Effect Transistor:FET)を備えている。そして、設定部112は、制御弁40へ供給される電流が、目標電流Itsとなるように、トランジスタをスイッチング動作させる。
【0035】
設定部112は、算出部111が算出した速度Vpを用いて目標電流Itsを設定する。設定部112は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記録しておいた、目標電流Itsと速度Vpとの関係を示す制御マップに、速度Vpを代入することにより目標電流Itsを算出する。
【0036】
制御部120は、モータ96に供給する目標電流Itmを設定する設定部123と、モータ96の駆動を制御する駆動部124と、を有している。
駆動部124は、例えば、電源の正極側ラインとモータ96のコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(FET)を有している。そして、駆動部124は、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、モータ96の駆動を制御する。
【0037】
設定部123は、ジャッキ部80の支持部材81の移動量の目標値Ltと、移動量センサ84の出力値を用いて把握した検出値Laとが一致するように、ピストン92を移動させる。目標値Ltは、自動二輪車1に設けられたユーザインターフェースを介してユーザにより選択された目標車高に応じた値であることを例示することができる。
設定部123は、貯留室94からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させる場合には、目標電流Itmを、予め定められた上昇値に設定する。他方、設定部123は、ジャッキ室82からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させる場合には、目標電流Itmを、予め定められた下降値に設定する。なお、貯留室94からオイルを排出させるべくピストン92を移動させるようにモータ96を回転させる方向の電流をプラス、ジャッキ室82からオイルを排出させるべくピストン92を移動させるようにモータ96を回転させる方向の電流をマイナスとした場合に、上昇値は8A、下降値は−8Aであることを例示することができる。
【0038】
設定部123は、ピストン92の移動方向を決定するにあたって、先ず、目標値Ltから、移動量センサ84の出力値を用いて把握した検出値Laを減算した減算値ΔL(=Lt−La)が0より大きいか否かを判断する。そして、減算値ΔLが0より大きい場合(ΔL>0)、設定部123は、ピストン92を、貯留室94からオイルを排出させる方向に移動させるべく、目標電流Itmを上昇値に設定する。他方、減算値ΔLが0より小さい場合(ΔL<0)、設定部123は、ピストン92を、ジャッキ室82からオイルを排出させる方向に移動させるべく、目標電流Itmを下降値に設定する。一方、減算値ΔLが0である場合(ΔL=0)、設定部123は、目標電流Itmを0に設定する。
【0039】
なお、設定部123は、減算値ΔLの絶対値が予め定められた基準偏差より大きいか否かを判断し、減算値ΔLの絶対値が基準偏差以下である場合には目標電流Itmを0Aに設定し、減算値ΔLの絶対値が基準偏差より大きい場合には、目標電流Itmを、減算値ΔLの符号に応じて、上昇値又は下降値に設定しても良い。
【0040】
(補正)
以上が、設定部123が行う基本制御であるが、例えば、二人乗りの場合や、自動二輪車1に荷物を積載する場合等に、支持部材81の移動量が目標値Ltであるにもかかわらず、懸架装置23が目標長さとならず、車高が目標高さにならない場合がある。そのため、制御部120は、懸架装置23が目標長さであるか否かを判断し、目標長さではない場合には、目標長さとするべく、支持部材81の移動量を補正する補正制御を行う。より具体的には、制御部120は、支持部材81の移動量が目標値Ltとなった後に、通常走行時の懸架装置23の長さが目標長さであるか否かを判断し、目標長さではない場合には支持部材81の移動量の補正を行う。
【0041】
そして、制御部120は、懸架装置23の長さが目標長さであるか否かを判断する際に、ストロークセンサ25の検出値を用いる。さらに、懸架装置23の長さを精度高く把握するために、ストロークセンサ25の検出値を予め定められた所定数抽出するとともに、これら抽出した値の平均値を用いる。また、平均値を演算するために用いる値として、通常走行時であるときの値を用いる。ここで、通常走行時とは、例えば、凹凸が小さい平坦な道路を加減速することなく、予め定められた所定車速以上で走行しているときのことである。通常走行時であるときの値を用いるのは以下の理由による。例えば、自動二輪車1が、凹凸が大きい道路を走行しているときのストロークセンサ25の出力値には、スプリング23sが道路の凹凸に追従するように伸縮することから、凹凸が大きい道路を走行しているときの値を用いると、凹凸に追従する値となってしまうおそれがある。また、自動二輪車1が減速している場合には、ノーズダイブというピッチングが生じ、自動二輪車1が加速している場合には、スクォートというピッチングが生じる。そのため、自動二輪車1が加速又は減速しているときのストロークセンサ25の出力値を用いると、ピッチングが生じているときの値となってしまうおそれがある。また、自動二輪車1が旋回しているときのストロークセンサ25の出力値を用いると、ローリングが生じているときの値となってしまうおそれがある。
【0042】
以上説明した補正制御を行うために、制御部120は、所定条件を満たしているか否か、言い換えれば、通常走行時であるか否かを判定する判定部130と、判定部130が所定条件を満たしていると判定したときに抽出した値を用いて平均値を演算する演算部140と、を備えている。また、制御部120は、車輪速センサ4が検出した前輪2の回転速度及び車輪速センサ5が検出した後輪3の回転速度の少なくともいずれかを用いて、自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する把握部121を備えている。
【0043】
判定部130は、把握部121が把握した車速Vc、加速度センサ28が検出した加速度、及び、角速度センサ29が検出した角速度を用いて所定条件を満たしているか否かを判定する。所定条件は、把握部121が把握した車速Vcが所定車速以上であり、かつ、加速度センサ28が検出した加速度の絶対値が予め定められた所定加速度以下であり、かつ、角速度センサ29が検出した角速度の絶対値が予め定められた所定角速度以下であることを例示することができる。なお、所定車速は時速20km、所定加速度は1m/s
2、所定角速度は1rad/sであることを例示することができる。
【0044】
演算部140は、ストロークセンサ25の出力値を平滑化処理するフィルタの一例としてのフィルタ141と、フィルタ141の出力値を抽出する抽出部142と、を備えている。また、演算部140は、抽出部142にて抽出された、フィルタ141の複数の出力値の平均値を演算する平均化部143を備えている。
【0045】
フィルタ141は、ストロークセンサ25の出力値のうち、遮断周波数より低い周波数の成分は減衰させず、遮断周波数より高い周波数の成分を減衰させるフィルタリング処理を施す。つまり、フィルタ141は、ローパスフィルタであることを例示することができる。そして、フィルタ141の時定数は、ストロークセンサ25のローパスフィルタの時定数よりも大きく設定されている。これにより、フィルタ141は、ストロークセンサ25の応答速度を、加速度センサ28、及び、角速度センサ29の応答速度に近づける処理を行う。
【0046】
抽出部142は、判定部130が所定条件を満たしていると判定したときに、フィルタ141の出力値を抽出するとともに、抽出した出力値(以下、「抽出値」と称する場合がある。)をRAMに記憶する。
【0047】
図5は、ストロークセンサ25の出力値と、フィルタ141の出力値と、抽出値と、の関係の一例を示す図である。
図5においては、横軸が時間軸であり、縦軸が出力値を示しており、ストロークセンサ25の出力値を破線で、フィルタ141の出力値を実線で示している。また、黒丸が抽出値である。黒丸の時間のときに、自動二輪車1が所定条件を満たす走行状態となった抽出タイミングで、抽出部142がフィルタ141の出力値を、平均値を演算するのに用いるために抽出する。
図5から明らかなように、抽出タイミングでストロークセンサ25の出力値を抽出する場合よりも、フィルタ141の出力値を抽出する方が、抽出された値の相互のばらつきが小さい。
【0048】
なお、ストロークセンサ25の出力値は、ストロークセンサ25がストローク量を検出した値である検出値が、ストロークセンサ25が有するローパスフィルタにて平滑化された後の値である。ゆえに、ストロークセンサ25の出力値は、ストロークセンサ25の検出値を用いた値である。また、フィルタ141の出力値は、ストロークセンサ25の出力値がフィルタ141にてフィルタリング処理された後の値である。それゆえ、フィルタ141の出力値は、ストロークセンサ25の検出値を用いた値である。
【0049】
平均化部143は、抽出部142が抽出した抽出値の数が予め定められた複数である所定数に到達した場合に、これら所定数の抽出値の平均値を演算する。所定数は、例えば、制御部120の制御周期が1ミリ秒である場合には4秒分に相当する数である4000個であることを例示することができる。
【0050】
そして、設定部123は、演算部140が演算した平均値を用いて、支持部材81の移動量を補正するべく、目標電流Itmを設定する。より具体的には、設定部123は、演算部140が演算した平均化後のストローク量(以下、「平均量」と称する場合がある。)と、予め定められた目標のストローク量(以下、「目標量」と称する場合がある。)とが一致するように、ピストン92を移動させる。
【0051】
設定部123は、ピストン92の移動方向を決定するにあたって、先ず、目標量から平均量を減算した減算量(=目標量−平均量)の絶対値が予め定められた基準値より大きいか否かを判断する。そして、減算量の絶対値が基準値より大きい場合であって、減算量が0より大きい場合、設定部123は、貯留室94からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させるべく、目標電流Itmを上昇値に設定する。他方、減算量の絶対値が基準値より大きい場合であって、減算量が0より小さい場合、設定部123は、ジャッキ室82からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させるべく、目標電流Itmを下降値に設定する。一方、減算量の絶対値が基準値より小さい場合、設定部123は、目標電流Itmを0に設定する。
【0052】
図6は、設定部123が行う目標電流設定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
設定部123は、この処理を、例えば予め定めた期間(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し実行する。
設定部123は、先ず、減算値ΔL(=Lt−La)が0であるか否かを判断する(S601)。減算値ΔLが0ではない場合(S601でNo)、設定部123は、車高の調整が完了した旨のフラグを、RAMに設けられた所定のフラグ記録領域においてOFFにし(S602)、減算値ΔLが0より大きいか否かを判断する(S603)。そして、減算値ΔLが0より大きい場合(S603でYes)、設定部123は、貯留室94からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させるべく、目標電流Itmを上昇値に設定する(S604)。他方、減算値ΔLが0より小さい場合(S603でNo)、設定部123は、ジャッキ室82からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させるべく、目標電流Itmを下降値に設定する(S605)。
【0053】
一方、減算値ΔLが0である場合(S601でYes)、設定部123は、車高の調整が完了した旨のフラグをONにし(S606)、目標電流Itmを0に設定する(S607)。
【0054】
図7は、制御部120が行う、第1の実施形態に係る補正処理の手順の一例を示すフローチャートである。
制御部120は、この処理を、例えば予め定めた期間(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し実行する。
制御部120は、先ず、フラグがONであるか否かを判断する(S801)。そして、フラグがONである場合(S801でYes)、制御部120は、所定条件が成立したか否かを判断する(S802)。所定条件が成立した場合(S802でYes)、フィルタ141の出力値を抽出するとともに、RAMに記憶する(S803)。そして、カウント値nを1加算する(S804)。S801、S802、S803、及び、S804の処理は、抽出部142が行う処理である。所定条件が成立していない場合(S802でNo)、制御部120は、S801以降の処理を行う。
【0055】
その後、カウント値nが所定数であるか否かを判断する(S805)。カウント値nが所定数に到達した場合(S805でYes)、制御部120は、カウント値nを0とし(S806)、平均値を演算する(S807)。S805、S806、及び、S807の処理は、平均化部143が行う処理である。カウント値nが所定数に到達していない場合(S805でNo)、制御部120は、S801以降の処理を行う。
【0056】
その後、目標量からS807にて演算した平均値(平均量)を減算した減算量(=目標量−平均量)の絶対値が基準値以上であるか否かを判断する(S808)。減算量の絶対値が基準値以上である場合(S808でYes)、減算量が0より大きいか否かを判断する(S809)。そして、減算量が0より大きい場合(S809でYes)、制御部120は、貯留室94からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させるべく、目標電流Itmを上昇値に設定する(S810)。他方、減算量が0より小さい場合(S809でNo)、制御部120は、ジャッキ室82からオイルを排出させる方向にピストン92を移動させるべく、目標電流Itmを下降値に設定する(S811)。一方、減算量の絶対値が基準値より小さい場合(S808でNo)、目標電流Itmを0に設定する(S812)。S808、S809、S810、S811、及び、S812の処理は、設定部123が行う処理である。
【0057】
一方、フラグがONではない場合(S801でNo)、制御部120は、補正処理を終了する。つまり、制御部120は、支持部材81の移動量が目標値Ltとなるようにモータ96を制御しているときには、ストロークセンサ25の出力値を用いた補正制御を行わない。
【0058】
以上説明したように、制御装置100は、第1センサの一例としてのストロークセンサ25とは応答速度が異なる第2センサの一例としての加速度センサ28の出力値を用いて定めたタイミングにて、ストロークセンサ25の検出値を用いた値を抽出する際に、ストロークセンサ25の応答速度を加速度センサ28の応答速度に近づける処理を行う。つまり、演算部140の抽出部142は、判定部130が所定条件を満たしていると判定したときに、ストロークセンサ25の出力値がフィルタ141により平滑化された後の値(フィルタ141の出力値)を抽出する。この点で、制御部110の算出部111が、ストロークセンサ25の出力値を微分することにより速度Vpを算出するのとは異なる。ストロークセンサ25のローパスフィルタの時定数は、加速度センサ28のローパスフィルタの時定数よりも小さく、フィルタ141の時定数は、ストロークセンサ25のローパスフィルタの時定数よりも大きく設定されているので、フィルタ141は、ストロークセンサ25の応答速度を、加速度センサ28の応答速度に近づける処理を行う。これにより、ストロークセンサ25とは応答速度が異なる加速度センサ28の出力値を用いて定めたタイミングにて、ストロークセンサ25の検出値を用いた値を抽出する場合であっても、ストロークセンサ25の検出値を用いた値と加速度センサ28の出力値との時間的な位相差が小さくなる。その結果、ストロークセンサ25が検出するストローク量と、実際のストローク量との偏差が小さくなり易くなるので、ストロークセンサ25の検出精度が高まり易くなる。
【0059】
同様に、制御装置100は、ストロークセンサ25とは応答速度が異なる第2センサの一例としての角速度センサ29の出力値を用いて定めたタイミングにて、ストロークセンサ25の検出値を用いた値を抽出する際に、ストロークセンサ25の応答速度を角速度センサ29の応答速度に近づける処理を行う。
なお、所定条件は、上述した条件に限定されない。例えば、所定条件は、車速Vcが所定車速以上であり、かつ、加速度センサ28が検出した加速度の絶対値が所定加速度以下である場合であっても良い。また、車速Vcが所定車速以上であり、かつ、角速度センサ29が検出した角速度の絶対値が所定角速度以下である場合であっても良い。
【0060】
また、フィルタ141を用いて、ストロークセンサ25の応答速度を、加速度センサ28及び角速度センサ29の少なくともいずれかの応答速度に近づける処理を行っているが、特にかかる態様に限定されない。ストロークセンサ25の出力値を平滑化処理するのであれば、他に移動平均を演算するものであっても良い。また、制御装置100のCPUがROM等に記憶されたソフトウェアを実行することによりフィルタ141の機能を実現しているが、特にかかる態様に限定されない。例えば、抵抗器、コンデンサ、トランジスタ等の電子部品の物理的な構成によって、フィルタ141が構成されていても良い。
【0061】
<第2の実施形態>
図8は、制御部120が行う、第2の実施形態に係る補正処理の手順の一例を示すフローチャートである。
第2の実施形態に係る補正処理は、第1の実施形態に係る補正処理に対して、支持部材81の移動量を補正するために、目標電流Itmを、上昇値、又は、下降値に設定するタイミングが異なる。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。第1の実施形態と第2の実施形態とで、同じ処理については同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0062】
設定部123は、複数の抽出値の平均値(平均量)を連続的に演算し、演算した平均値と目標量との偏差の一例としての減算量(=目標量−平均量)の絶対値が、予め定められた所定回数に亘って連続して、予め定められた基準値以上である場合に、平均値を目標値に近づけるべく、目標電流Itmを、上昇値、又は、下降値に設定する。所定回数は2回であることを例示することができる。
【0063】
より具体的には、
図8に示すように、制御部120は、目標量からS807にて演算した平均値(平均量)を減算した減算量(=目標量−平均量)の絶対値が予め定められた基準値以上である場合(S808でYes)、カウント値mを1加算する(S921)。その後、カウント値mが2であるか否かを判断する(S922)。カウント値mが2に到達している場合(S922でYes)、制御部120は、カウント値mを0とし(S923)、減算量が0より大きいか否かを判断する(S809)。そして、減算量が0より大きい場合(S809でYes)、制御部120は、目標電流Itmを上昇値に設定し(S810)、減算量が0より小さい場合(S809でNo)、制御部120は、目標電流Itmを下降値に設定する(S811)。他方、カウント値mが2に到達していない場合(S922でNo)、制御部120は、処理を終了する。S921、S922、及び、S923の処理は、設定部123が行う処理である。
【0064】
第2の実施形態に係る補正処理によれば、支持部材81の移動量が目標値Ltであるにもかかわらず、懸架装置23が目標長さとなっていないことを精度高く把握することができる。その結果、車高の高さを目標高さに精度高く調整することが可能となる。
なお、上記実施形態においては、減算量の絶対値が連続した場合、つまり、2回続いた場合(m=2の場合)に、抽出値の平均値を目標値に近づける処理を行うが、連続する回数は2回に限定されない。3以上の回数であっても良い。回数が多いほど、車高の高さを目標高さに精度高く調整することが可能となる。
【0065】
<第3の実施形態>
図9は、制御部120が行う、第3の実施形態に係る補正処理の手順の一例を示すフローチャートである。
第3の実施形態に係る補正処理は、第1の実施形態に係る補正処理に対して、支持部材81の移動量を補正するために、目標電流Itmを、上昇値、又は、下降値に設定するタイミングが異なる。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。第1の実施形態と第2の実施形態とで、同じ処理については同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0066】
設定部123は、複数の抽出値の平均値(平均量)を複数回演算し、演算した平均値と目標量との偏差の一例としての減算量(=目標量−平均量)の絶対値が、予め定められた所定期間内に、予め定められた所定回数に亘って、予め定められた基準値以上となった場合に、演算した平均値を目標値に近づけるべく、目標電流Itmを、上昇値、又は、下降値に設定する。所定期間は30秒、所定回数は2回であることを例示することができる。
【0067】
より具体的には、
図9に示すように、制御部120は、目標量からS807にて演算した平均値(平均量)を減算した減算量(=目標量−平均量)の絶対値が予め定められた基準値以上である場合(S808でYes)、カウント値mを1加算する(S1021)。その後、カウント値mが予め定められた所定回数(
図9の例では2)に到達したか否かを判断する(S1022)。カウント値mが2に到達している場合(S1022でYes)、制御部120は、カウント値mを0とし(S1023)、減算量が0より大きいか否かを判断する(S809)。そして、減算量が0より大きい場合(S809でYes)、制御部120は、目標電流Itmを上昇値に設定し(S810)、減算量が0より小さい場合(S809でNo)、制御部120は、目標電流Itmを下降値に設定する(S811)。
【0068】
他方、カウント値mが所定回数に到達していない場合(S1022でNo)、制御部120は、予め定められた所定期間が経過したか否かを判断する(S1024)。所定期間が経過していない場合(S1024でNo)、制御部120は、処理を終了する。所定期間が経過した場合(S1024でYes)、制御部120は、カウント値mを0とし(S1025)、処理を終了する。S1021、S1022、S1023、S1024、及び、S1025の処理は、設定部123が行う処理である。
【0069】
第3の実施形態に係る補正処理によれば、支持部材81の移動量が目標値Ltであるにもかかわらず、懸架装置23が目標長さとなっていないことを精度高く把握することができる。その結果、車高の高さを目標高さに精度高く調整することが可能となる。
処理装置100は、ストロークセンサ25とは応答速度が異なる加速度センサ28の出力値を用いて定めたタイミングにて、ストロークセンサ25の検出値を用いた値を抽出する際に、ストロークセンサ25の応答速度を加速度センサ28の応答速度に近づける処理を行う。