(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
キャビティと、前記キャビティ上に配置されかつ前記キャビティの天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と、前記可動膜上に形成された圧電素子とを含み、前記圧電素子は、前記可動膜上に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成された圧電体膜と、前記圧電体膜上に形成された上部電極とを含み、前記下部電極は、前記圧電素子を構成している主電極部と、前記主電極部から前記可動膜形成層の表面に沿う方向に引き出された延長部とを含む、圧電体膜利用装置であって、
前記上部電極および上記圧電体膜の側面全域と、前記上部電極の上面の少なくとも一部と、前記下部電極の上面の少なくとも一部とを覆う水素バリア膜と、
前記水素バリア膜上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成され、前記上部電極を駆動回路に接続するための金製の上部配線と、
前記絶縁膜上に形成され、前記下部電極を前記駆動回路に接続するための金製の下部配線とを含み、
前記水素バリア膜および前記絶縁膜に、前記上部電極の一部を露出させる第1コンタクト孔と、前記延長部の一部を露出させる第2コンタクト孔が、それぞれ前記水素バリア膜および前記絶縁膜を連続して貫通するように形成されており、
前記上部配線は前記第1コンタクト孔を介して前記上部電極の上面に接続されており、
前記下部配線は前記第2コンタクト孔を介して前記延長部の上面に接続されており、
前記上部電極は、前記可動膜の主面に対して法線方向から見た平面視において、前記可動膜よりも前記キャビティの内方に後退した周縁を有しており、
前記上部配線は、前記平面視において、一端部が前記上部電極の上面に接続され、他端部が前記キャビティの天面部周縁の外側に引き出されており、
前記延長部は、前記主電極部から前記可動膜形成層の表面に沿う方向に引き出され、前記可動膜の主面に対して法線方向から見た平面視において、前記キャビティの天面部周縁を跨いで前記キャビティの外方に延びており、
前記下部配線は、前記延長部のうち、前記キャビティの天面部周縁よりも外側にある外側電極領域の上面に電気的に接続されており、
前記キャビティと連通するインク流入部を有し、前記下部配線は、前記延長部のうち、前記インク流入部よりもさらに外側にある外側電極領域の上面に電気的に接続されている、圧電素子利用装置。
前記可動膜の主面に対して法線方向から見た平面視において、前記キャビティの周縁の内側領域に前記絶縁膜の開口部が形成されており、前記第1コンタクト孔は前記開口部以外の領域に形成されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の圧電素子利用装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、特許文献1に記載と同様に、圧力室を有するアクチュエータ基板と、アクチュエータ基板上に形成された可動膜と、可動膜上に設けられ、下部電極、圧電体膜および上部電極からなる圧電素子とを含むインクジェットプリントヘッド(以下、「参考例に係るインクジェットプリントヘッド」という)を発明している。参考例に係るインクジェットプリントヘッドでは、下部電極は、圧電素子を構成する主電極部と、主電極部から可動膜の表面に沿う方向に引き出された延長部とを含む。そして、圧電素子および下部電極上に、水素バリア膜および絶縁膜が順に形成されている。水素バリア膜および絶縁膜には、上部電極の表面の一部を露出させる第1コンタクト孔と、下部電極の延長部の表面の一部を露出させる第2コンタクト孔とが形成されている。絶縁膜上には、第1コンタクト孔を介して一端部が上部電極に接続された第1上部配線と、第2コンタクト孔を介して一端部が下部電極に接続された第1下部配線とが形成されている。第1上部配線および第1下部配線は、アルミニウム等の金以外の金属からなる。
【0005】
絶縁膜上には、第1上部配線および第1下部配線を覆うパッシベーション膜が形成されている。パッシベーション膜には、第1上部配線の表面の一部を露出させる第1開口と、第1下部配線の表面の一部を露出させる第2開口とが形成されている。パッシベーション膜上には、第1開口を介して一端部が第1上部配線に接続された金製の第2上部配線(金リード線)と、第2開口を介して一端部が第1下部配線に接続された金製の第2下部配線(金リード線)とが形成されている。第2上部配線および第2下部配線は、駆動回路(圧電素子駆動用LSI)に接続される。
【0006】
参考例に係るインクジェットプリントヘッドでは、上部電極を駆動回路に接続するための上部配線として第1上部配線と第2上部配線とが必要であるため、上部配線を形成する工程が複雑である。同様に、下部電極を駆動回路に接続するための下部配線として第1下部配線と第2下部配線とが必要であるため、下部配線を形成する工程が複雑である。したがって、参考例に係るインクジェットプリントヘッドでは、インクジェットプリントヘッドの製造工程が煩雑となる。
【0007】
この発明の目的は、製造が簡単な圧電素子利用装
置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明
の一実施形態は、キャビティと、前記キャビティ上に配置されかつ前記キャビティの天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と、前記可動膜上に形成された圧電素子とを含み、前記圧電素子は、前記可動膜上に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成された圧電体膜と、前記圧電体膜上に形成された上部電極とを含
み、前記下部電極は、前記圧電素子を構成している主電極部と、前記主電極部から前記
可動膜形成層の表面に沿う方向に引き出された延長部とを含む
圧電体膜利用装置であって、前記上部電極および上記圧電体膜の側面全域と、前記上部電極の上面の少なくとも一部と、前記下部電極の上面の少なくとも一部とを覆う水素バリア膜と、前記水素バリア膜上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成され、前記上部電極を駆動回路に接続するための金製の上部配線と、前記絶縁膜上に形成され、前記下部電極を前記駆動回路に接続するための金製の下部配線とを含
み、前記水素バリア膜および前記絶縁膜に、前記上部電極の一部を露出させる第1コンタクト孔と、前記延長部の一部を露出させる第2コンタクト孔が形成されて
おり、前記上部配線は、前記第1コンタクト孔を介して前記上部電極の上面に接続されて
おり、前記下部配線は、前記第2コンタクト孔を介して前記延長部の上面に接続されている
、圧電素子利用装置を提供する。
【0009】
この構成では、上部電極を駆動回路に接続するための上部配線は1種類の配線から構成されている。同様に、下部電極を駆動回路に接続するための下部配線も1種類の配線から構成されている。このため、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、上部配線および下部配線を形成するための工程が簡単となる。これにより、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、インクジェットプリントヘッドの製造が簡単となる。
【0010】
また、この構成では、上部配線および下部配線は耐食性の高い金製であるため、これらの配線を保護するためのパッシベーション膜を省略することが可能となる。パッシベーション膜を省略した場合には、インクジェットプリントヘッドの製造がより簡単となる。
この発明の一実施形態では、前記上部電極は、前記可動膜の主面に対して法線方向から見た平面視において、前記可動膜よりも前記キャビティの内方に後退した周縁を有しており、前記上部配線は、前記平面視において、一端部が前記上部電極の上面に接続され、他端部が前記キャビティの天面部周縁の外側に引き出されている。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記延長部は、前記主電極部から前記振動膜形成層の表面に沿う方向に引き出され、前記可動膜の主面に対して法線方向から見た平面視において、前記キャビティの天面部周縁を跨いで前記キャビティの外方に延びている。前記下部配線は、前記延長部のうち、前記キャビティの天面部周縁よりも外側にある外側電極領域の上面に電気的に接続されている。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記平面視において、前記キャビティの天面部が所定の一方向に長い矩形状である。前記上部電極は、前記平面視において、前記キャビティの天面部の短手方向の幅より短い幅と、前記キャビティの天面部の長手方向の長さより短い長さとを有する前記一方向に長い矩形状であり、その両端縁および両側縁が前記キャビティの天面部の両端縁および両側縁よりも前記キャビティの内方にそれぞれ後退している。前記圧電体膜および前記主電極部は、それぞれ、前記平面視において、前記上部電極と同じパターンの形状を有している。前記延長部は、前記主電極部の周縁から前記キャビティの天面部の周縁を跨いで、当該天面部周縁の外方に延びている。前記上部配線は、前記平面視において、前記上部電極の一端部の上面から、前記キャビティの天面部の対応する一端部を跨いで外側に延びている。前記下部配線は、前記平面視において、前記キャビティの天面部の他端部の外側に配置された基部と、前記基部から前記キャビティの天面部の一側部に沿って延びた後、前記上部配線と平行に延びたリード部を含む。
【0013】
この発明
の一実施形態は、キャビティと、前記キャビティ上に配置されかつ前記キャビティの天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と、前記可動膜上に形成された圧電素子とを含み、前記圧電素子は、前記可動膜上に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成された圧電体膜と、前記圧電体膜上に形成された上部電極とを含
み、前記下部電極は、前記圧電素子を構成している主電極部と、前記主電極部から前記
可動膜形成層の表面に沿う方向に引き出された延長部とを含む
圧電体膜利用装置であって、前記上部電極および上記圧電体膜の側面全域と、前記上部電極の上面の少なくとも一部と、前記下部電極の上面の少なくとも一部とを覆う水素バリア膜と、前記水素バリア膜上に形成され、前記上部電極を駆動回路に接続するための金製の上部配線と、前記水素バリア膜上に形成され、前記下部電極を前記駆動回路に接続するための金製の下部配線とを含
み、前記水素バリア膜に、前記上部電極の一部を露出させる第1コンタクト孔と、前記下部電極の延長部の一部を露出させる第2コンタクト孔が形成されて
おり、前記上部配線は前記第1コンタクト孔を介して前記上部電極の上面に接続されて
おり、前記下部配線は前記第2コンタクト孔を介して前記下部電極の延長部の上面に接続されている
、圧電体膜利用装置を提供する。
【0014】
この構成では、上部電極を駆動回路に接続するための上部配線は1種類の配線から構成されている。同様に、下部電極を駆動回路に接続するための下部配線も1種類の配線から構成されている。このため、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、上部配線および下部配線を形成するための工程が簡単となる。これにより、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、インクジェットプリントヘッドの製造が簡単となる。
【0015】
また、この構成では、絶縁膜を設けなくて済む。このため、インクジェットプリントヘッドの製造がより簡単となる。また、この構成では、上部配線および下部配線は耐食性の高い金製であるため、これらの配線を保護するためのパッシベーション膜を省略することが可能となる。パッシベーション膜を省略した場合には、インクジェットプリントヘッドの製造がより簡単となる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記可動膜の主面に対して法線方向から見た平面視において、前記キャビティの天面部が所定の一方向に長い矩形状である。前記圧電素子は、前記平面視において、前記キャビティの天面部の短手方向の幅より短い幅と、前記キャビティの天面部の長手方向の長さより短い長さとを有する前記一方向に長い矩形状であり、その両端縁および両側縁が前記キャビティの天面部の両端縁および両側縁よりも前記キャビティの内方にそれぞれ後退している。前記圧電体膜は、前記圧電素子を構成している能動部と、前記能動部の一端から前記キャビティの天面部の対応する一端の外側まで延びた非能動部とを含む。前記上部電極は、前記能動部上に形成された主電極部と、前記非能動部上に形成された延長部とを含む。前記上部配線は、前記平面視において、一端部が前記上部電極の上面に接続され、他端部は前記上部電極の延長部側の一端を跨いで前記上部電極の主電極部とは反対側に延びている。前記下部電極は、前記平面視において、前記キャビティの天面部の前記一端の外方において、前記上部配線の下方に存在しない。この構成では、水素バリア膜と上部配線との間に絶縁膜を設けなくても、上部配線と下部電極との間に絶縁性を保つことができる。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記下部配線は、前記平面視において、前記キャビティの天面部の他端部の外側に配置された基部と、前記基部から前記キャビティの天面部の一側部に沿って延びた後、前記上部配線と平行に延びたリード部を含む。
この発明の一実施形態では、前記可動膜形成層は、SiO
2単膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記可動膜形成層は、前記基板上に形成されたSi膜と、前記Si膜上に形成されSiO
2膜と、前記SiO
2膜上に形成されたSiN膜との積層膜からなる。
【0018】
この発明の一実施形態では、前記圧電体膜は、PZT膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記上部電極は、Pt単膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記上部電極は、前記圧電体膜上に形成されたIr0
2膜と、前記Ir0
2膜上に形成されたIr膜との積層膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記下部電極は、前記可動膜側に形成されたTi膜と、前記Ti膜上に形成されたPt膜との積層膜からなる。
【0019】
この発明
の一実施形態は、基板上に可動膜形成領域を含む可動膜形成層を形成する工程と、前記可動膜形成層上に下部電極膜を形成した後、前記下部電極膜をパターニングして、下部電極を形成する工程と、前記可動膜形成層上に圧電体材料膜および上部電極膜を順に形成した後、前記上部電極膜および圧電体材料膜を順にパターニングして、上部電極および圧電体膜を形成することにより、前記下部電極と前記上部電極とそれらに挟まれた前記圧電体膜とを含む圧電素子を形成する工程と、前記可動膜形成層上に、前記圧電素子および前記下部電極を覆う水素バリア膜および絶縁膜を順に形成する工程と、前記水素バリア膜および前記絶縁膜に、前記上部電極の一部を露出させる第1コンタクト孔と、前記下部電極の一部を露出させる第2コンタクト孔を形成する工程と、前記絶縁膜上に金製の配線膜を形成した後、前記配線膜をパターニングすることにより、前記第1コンタクト孔を介して前記上部電極に接続され、前記上部電極を駆動回路に接続するための金製の上部配線と、前記第2コンタクト孔を介して前記下部電極に接続され、前記下部電極を前記駆動回路に接続するための金製の下部配線とを形成する工程と、前記基板を下方からエッチングすることにより、前記可動膜形成領域に対向するキャビティを形成する工程とを含む
、第1の圧電素子利用装置の製造方法を提供する。
【0020】
第1の圧電素子利用装置の製造方法では、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、上部配線および下部配線を形成するための工程が簡単となる。これにより、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、インクジェットプリントヘッドの製造が簡単となる。
この発明
の一実施形態は、基板上に可動膜形成領域を含む可動膜形成層を形成する工程と、前記可動膜形成層上に下部電極膜を形成した後、前記下部電極膜をパターニングして、下部電極を形成する工程と、前記可動膜形成層上に圧電体材料膜および上部電極膜を順に形成した後、前記上部電極膜および圧電体材料膜を順にパターニングして、上部電極および圧電体膜を形成することにより、前記下部電極と前記上部電極とそれらに挟まれた前記圧電体膜とを含む圧電素子を形成する工程と、前記可動膜形成層上に、前記圧電素子および前記下部電極を覆う水素バリア膜を形成する工程と、前記水素バリア膜に、前記上部電極の一部を露出させる第1コンタクト孔と、前記下部電極の一部を露出させる第2コンタクト孔を形成する工程と、前記水素バリア膜上に金製の配線膜を形成した後、前記配線膜をパターニングすることにより、前記第1コンタクト孔を介して前記上部電極に接続され、前記上部電極を駆動回路に接続するための金製の上部配線と、前記第2コンタクト孔を介して前記下部電極に接続され、前記下部電極を前記駆動回路に接続するための金製の下部配線とを形成する工程と、前記基板を下方からエッチングすることにより、前記可動膜形成領域に対向するキャビティを形成する工程とを含む
、第2の圧電素子利用装置の製造方法を提供する。
【0021】
第
2の圧電素子利用装置の製造方法では、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、上部配線および下部配線を形成するための工程が簡単となる。これにより、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、インクジェットプリントヘッドの製造が簡単となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1Aは、この発明の第1実施形態に係るインクジェットプリントヘッドの主要部の構成を説明するための図解的な平面図である。
図1Bは、インクジェットプリントヘッド1の主要部の図解的な平面図であって、保護基板が省略された平面図である。
図2は、
図1AのII-II線に沿う図解的な断面図である。
図3は、
図1AのIII-III線に沿った切断面のうちの一部を図解的に示す拡大断面図である。
図4は、前記インクジェットプリントヘッドの下部電極のパターン例を示す図解的な平面図である。
【0024】
図2を参照して、インクジェットプリントヘッド1の構成を概略的に説明する。
インクジェットプリントヘッド1は、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3と、保護基板4とを備えている。アクチュエータ基板2の表面には、可動膜形成層10が積層されている。アクチュエータ基板2には、インク流路(インク溜まり)5が形成されている。インク流路5は、この実施形態では、アクチュエータ基板2を貫通して形成されている。インク流路5は、
図2に矢印で示すインク流通方向41に沿って細長く延びて形成されている。インク流路5は、インク流通方向41の上流側端部(
図2では左端部)のインク流入部6と、インク流入部6に連通する圧力室7とから構成されている。
図2において、インク流入部6と圧力室7との境界を二点鎖線で示すことにする。
【0025】
ノズル基板3は、たとえばシリコン基板からなる。ノズル基板3は、アクチュエータ基板2の裏面2bに張り合わされている。ノズル基板3は、アクチュエータ基板2および可動膜形成層10とともにインク流路5を区画している。より具体的には、ノズル基板3は、インク流路5の底面部を区画している。ノズル基板3は、圧力室7に臨む凹部3aを有し、凹部3aの底面にインク吐出通路3bが形成されている。インク吐出通路3bは、ノズル基板3を貫通しており、圧力室7とは反対側に吐出口3cを有している。したがって、圧力室7の容積変化が生じると、圧力室7に溜められたインクは、インク吐出通路3bを通り、吐出口3cから吐出される。
【0026】
可動膜形成層10における圧力室7の天壁部分は、可動膜10Aを構成している。可動膜10A(可動膜形成層10)は、たとえば、アクチュエータ基板2上に形成された酸化シリコン(SiO
2)膜からなる。可動膜10A(可動膜形成層10)は、たとえば、アクチュエータ基板2上に形成されるシリコン(Si)膜と、シリコン膜上に形成される酸化シリコン(SiO
2)膜と、酸化シリコン膜上に形成される窒化シリコン(SiN)膜との積層膜から構成されていてもよい。この明細書において、可動膜10Aとは、可動膜形成層10のうち圧力室7の天面部を区画している天壁部を意味している。したがって、可動膜形成層10のうち、圧力室7の天壁部以外の部分は、可動膜10Aを構成していない。
【0027】
可動膜10Aの厚さは、たとえば、0.4μm〜2μmである。可動膜10Aが酸化シリコン膜から構成される場合は、酸化シリコン膜の厚さは1.2μm程度であってもよい。可動膜10Aが、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜から構成される場合には、シリコン膜、酸化シリコン膜および窒化シリコン膜の厚さは、それぞれ0.4μm程度であってもよい。
【0028】
圧力室7は、可動膜10Aと、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3とによって区画されており、この実施形態では、略直方体状に形成されている。圧力室7の長さはたとえば800μm程度、その幅は55μm程度であってもよい。インク流入部6は、圧力室7の長手方向一端部に連通している。
可動膜10Aの表面には、圧電素子9が配置されている。圧電素子9は、可動膜形成層10上に形成された下部電極11と、下部電極11上に形成された圧電体膜12と、圧電体膜12上に形成された上部電極13とを備えている。言い換えれば、圧電素子9は、圧電体膜12を上部電極13および下部電極11で上下から挟むことにより構成されている。
【0029】
上部電極13は、白金(Pt)の単膜であってもよいし、たとえば、導電性酸化膜(たとえば、IrO
2(酸化イリジウム)膜)および金属膜(たとえば、Ir(イリジウム)膜)が積層された積層構造を有していてもよい。上部電極13の厚さは、たとえば、0.2μm程度であってもよい。
圧電体膜12としては、たとえば、ゾルゲル法またはスパッタ法によって形成されたPZT(PbZr
xTi
1−xO
3:チタン酸ジルコン酸鉛)膜を適用することができる。このような圧電体膜12は、金属酸化物結晶の焼結体からなる。圧電体膜12は、上部電極13と平面視で同形状に形成されている。圧電体膜12の厚さは、1μm程度である。可動膜10Aの全体の厚さは、圧電体膜12の厚さと同程度か、圧電体膜12の厚さの2/3程度とすることが好ましい。
【0030】
下部電極11は、たとえば、Ti(チタン)膜およびPt(プラチナ)膜を可動膜形成層10側から順に積層した2層構造を有している。この他にも、Au(金)膜、Cr(クロム)層、Ni(ニッケル)層などの単膜で下部電極11を形成することもできる。下部電極11は、圧電体膜12の下面に接した主電極部11Aと、圧電体膜12の外方の領域まで延びた延長部11Bとを有している。下部電極11の厚さは、たとえば、0.2μm程度であってもよい。
【0031】
下部電極11の延長部11B上および圧電素子9上には、水素バリア膜14が形成されている。水素バリア膜14は、たとえば、Al
2O
3(アルミナ)からなる。水素バリア膜14の厚さは、50nm〜100nm程度である。水素バリア膜14は、圧電体膜12の水素還元による特性劣化を防止するために設けられている。
水素バリア膜14上に、絶縁膜15が積層されている。絶縁膜15は、たとえば、SiO
2、低水素のSiN等からなる。絶縁膜15の厚さは、500nm程度である。絶縁膜15上には、上部電極13を図示しない駆動回路(圧電素子駆動用LSI)に接続するための金製の上部配線17と、下部電極11を駆動回路に接続するための金製の下部配線18が形成されている。これらの配線17,18の厚さは、たとえば、1000nm(1μm)程度である。
【0032】
上部配線17の一端部は、上部電極13の一端部(インク流通方向41の下流側端部)の上方に配置されている。上部配線17と上部電極13との間において、水素バリア膜14および絶縁膜15を連続して貫通するコンタクト孔33が形成されている。上部配線17の一端部は、コンタクト孔33に入り込み、コンタクト孔33内で上部電極13に接続されている。上部配線17は、上部電極13の上方から、圧力室7の外縁を横切って圧力室7の外方に延びている。
【0033】
下部配線18は、インク流路5のインク流入部6に対して圧力室7とは反対側において、下部電極11の延長部11Bの上方に配置された基部18Aを含んでいる。下部配線18の基部18Aと下部電極11の延長部11Bとの間において、水素バリア膜14および絶縁膜15を連続して貫通する複数のコンタクト孔34が形成されている。下部配線18の基部18Aは、コンタクト孔34に入り込み、コンタクト孔34内で下部電極11の延長部11Bに接続されている。
【0034】
インク流路5におけるインク流入部6側の端部に対応する位置に、絶縁膜15、水素バリア膜14、下部電極11および可動膜形成層10を貫通するインク供給用貫通孔22が形成されている。下部電極11には、インク供給用貫通孔22を含み、インク供給用貫通孔22よりも大きな貫通孔23が形成されている。下部電極11の貫通孔23とインク供給用貫通孔22との隙間には、水素バリア膜14が入り込んでいる。インク供給用貫通孔22は、インク流入部6に連通している。
【0035】
保護基板4は、たとえば、シリコン基板からなる。保護基板4は、圧電素子9を覆うようにアクチュエータ基板2上に配置されている。保護基板4は、アクチュエータ基板2に、接着剤50を介して接合されている。保護基板4は、アクチュエータ基板2の表面2aに対向する対向面51に収容凹所52を有している。収容凹所52内に圧電素子9が収容されている。さらに、保護基板4には、インク供給用貫通孔22に連通するインク供給路53が形成されている。インク供給路53は、保護基板4を貫通している。保護基板4上には、インクを貯留したインクタンク(図示せず)が配置されている。
【0036】
圧電素子9は、可動膜10Aを挟んで圧力室7に対向する位置に形成されている。すなわち、圧電素子9は、可動膜10Aの圧力室7とは反対側の表面に接するように形成されている。インクタンクからインク供給路53、インク供給用貫通孔22、インク流入部6を通って圧力室7にインクが供給されることによって、圧力室7にインクが充填される。可動膜10Aは、圧力室7の天面部を区画していて、圧力室7に臨んでいる。可動膜10Aは、アクチュエータ基板2における圧力室7の周囲の部分によって支持されており、圧力室7に対向する方向(換言すれば可動膜10Aの厚さ方向)に変形可能な可撓性を有している。
【0037】
上部配線17および下部配線18は、駆動回路に接続されている。駆動回路から圧電素子9に駆動電圧が印加されると、逆圧電効果によって、圧電体膜12が変形する。これにより、圧電素子9とともに可動膜10Aが変形し、それによって、圧力室7の容積変化がもたらされ、圧力室7内のインクが加圧される。加圧されたインクは、インク吐出通路3bを通って、吐出口3cから微小液滴となって吐出される。
【0038】
図1A〜
図4を参照して、インクジェットプリントヘッド1の構成についてさらに詳しく説明する。
アクチュエータ基板2には、複数のインク流路5(圧力室7)が互いに平行に延びてストライプ状に形成されている。複数のインク流路5毎に、圧電素子9が配置されている。インク供給用貫通孔22は、複数のインク流路5毎に設けられている。保護基板4の収容凹所52およびインク供給路53は、複数のインク流路5毎に設けられている。
【0039】
複数のインク流路5は、それらの幅方向に微小な間隔(たとえば30μm〜350μm程度)を開けて等間隔で形成されている。各インク流路5は、インク流通方向41に沿って細長く延びている。インク流路5は、インク供給用貫通孔22に連通するインク流入部6とインク流入部6に連通する圧力室7とからなる。圧力室7は、平面視において、インク流通方向41に沿って細長く延びた長方形形状を有している。つまり、圧力室7の天面部は、インク流通方向41に沿う2つの側縁と、インク流通方向41に直交する方向に沿う2つの端縁とを有している。インク流入部6は、平面視で圧力室7とほぼ同じ幅を有している。インク流入部6における圧力室7とは反対側の端部の内面は、平面視で半円形に形成されている。インク供給用貫通孔22は、平面視において、円形状である(特に
図1B参照)。
【0040】
圧電素子9は、平面視において、圧力室7(可動膜10A)の長手方向に長い矩形形状を有している。圧電素子9の長手方向の長さは、圧力室7(可動膜10A)の長手方向の長さよりも短い。
図1Bに示すように、圧電素子9の短手方向に沿う両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ所定間隔を開けて内側に配置されている。また、圧電素子9の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。圧電素子9の長手方向に沿う両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。
【0041】
下部電極11は、可動膜形成層10の主要部の表面のほぼ全域に形成されている(特に
図4参照)。ただし、圧力室7のインク流通方向の下流側端から下流側に所定距離以上離れた領域には、下部電極11は形成されていない。下部電極11は、複数の圧電素子9に対して共用される共通電極である。下部電極11は、圧電素子9を構成する平面視矩形状の主電極部11Aと、主電極部11Aから可動膜形成層10の表面に沿う方向に引き出され、圧力室7の天面部の周縁の外方に延びた延長部11Bとを含んでいる。
【0042】
主電極部11Aの長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。主電極部11Aの両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、主電極部11Aの短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。主電極部11Aの両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。延長部11Bは、下部電極11の全領域のうち主電極部11Aを除いた領域である。
【0043】
上部電極13は、平面視において、下部電極11の主電極部11Aと同じパターンの矩形状に形成されている。すなわち、上部電極13の長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。上部電極13の両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、上部電極13の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。上部電極13の両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。
【0044】
圧電体膜12は、平面視において、上部電極13と同じパターンの矩形状に形成されている。すなわち、圧電体膜12の長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。圧電体膜12の両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、圧電体膜12の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。圧電体膜12の両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。圧電体膜12の下面は下部電極11の主電極部11Aの上面に接しており、圧電体膜12の上面は上部電極13の下面に接している。
【0045】
上部配線17は、圧電素子9の一端部の上面からインク流通方向41に沿って延びている。上部配線17は、平面視において、圧電素子9(上部電極13)の一端部の上面から、圧力室7の天面部の対応する一端部を跨いで外側に延びている。具体的には、上部配線17は、圧電素子9の一端部の上面からそれに連なる圧電素子9の端面に沿って延び、さらに下部電極11の延長部11Bおよび水素バリア膜14の表面に沿って延びている。上部配線17の先端部は、保護基板4のインク流通方向41の下流側に延びている。上部配線17の先端部には、接続端子部(図示略)が形成されている。
【0046】
下部配線18は、平面視において、インク流通方向41と直交する方向に長い矩形状の基部18Aと、基部18Aの一端部からインク流通方向41に沿って延びたリード部18Bとを有している。リード部18Bは、基部18Aの一端部(一側部)から圧力室7の天面部の一側部に沿って延びた後、上部配線17と平行に延びている。リード部18Bの先端部は、保護基板4のインク流通方向41の下流側端よりも下流側に延びている。リード部18Bの先端部には、接続端子部(図示略)が形成されている。
【0047】
図6は、前記インクジェットプリントヘッドのアクチュエータ基板側から見た保護基板の主要部の底面図である。
図1A、
図3および
図6に示すように、保護基板4の対向面51には、複数の収容凹所52が、インク流通方向41と直交する方向に間隔をおいて平行に形成されている。複数の収容凹所52は、平面視において、複数の圧力室7に対向する位置に配置されている。各収容凹所52に対してインク流通方向41の上流側にインク供給路53が配置されている。各収容凹所52は、平面視において、対応する圧電素子9の上部電極13のパターンよりも少し大きな矩形状に形成されている。そして、各収容凹所52に、対応する圧電素子9が収容されている。
【0048】
保護基板4のインク供給路53は、平面視において、アクチュエータ基板2側のインク供給用貫通孔22と同じパターンの円形状である。インク供給路53は、平面視でインク供給用貫通孔22に整合している。
図5は、前記インクジェットプリントヘッドの絶縁膜のパターン例を示す図解的な平面図である。
【0049】
この実施形態では、絶縁膜15は、アクチュエータ基板2上において、平面視で保護基板4の収容凹所52の外側領域のほぼ全域に形成されている。ただし、この領域において、絶縁膜15には、インク供給用貫通孔22およびコンタクト孔34が形成されている。保護基板4の収容凹所52の内側領域においては、絶縁膜15は、上部配線17が存在する一端部(上部配線領域)にのみ形成されている。換言すれば、絶縁膜15には、平面視で収容凹所52の内側領域のうち、上部配線領域を除いた領域に、開口37が形成されている。絶縁膜15には、さらに、コンタクト孔33が形成されている。
【0050】
この実施形態では、平面視で圧力室7の周縁の内側領域において、絶縁膜15は、上部配線17の存在する上部配線領域のみに形成されている。したがって、圧電素子9の側面および上面の大部分は絶縁膜15によって覆われていない。これにより、圧電素子9の側面および上面の全域が絶縁膜によって覆われている場合に比べて、可動膜10Aの変位を大きくすることができる。また、この実施形態では、絶縁膜15上に配線17,18を覆うパッシベーション膜は形成されていない。これにより、圧電素子9の側面および上面の少なくとも一部がパッシベーション膜で覆われている場合に比べて、可動膜10Aの変位を大きくすることができる。この実施形態では、配線17,18は金製で耐食性が高いため、パッシベーション膜によって被覆されていない。
【0051】
図7A〜
図7Jは、前記インクジェットプリントヘッド1の製造工程の一例を示す断面図であり、
図2に対応する切断面を示す。
まず、
図7Aに示すように、アクチュエータ基板2の表面2aに可動膜形成層10が形成される。ただし、アクチュエータ基板2としては、最終的なアクチュエータ基板2の厚さより厚いものが用いられる。具体的には、アクチュエータ基板2の表面に酸化シリコン膜(たとえば、1.2μm厚)が形成される。可動膜形成層10が、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜で構成される場合には、アクチュエータ基板2の表面にシリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、シリコン膜上に酸化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、酸化シリコン膜上に窒化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成される。
【0052】
可動膜形成層10の表面には、たとえば、Al
2O
3、MgO、ZrO
2などの下地酸化膜が形成されてもよい。これらの下地酸化膜は、後に形成される圧電体膜12からの金属原子の抜け出しを防ぐ。金属電子が抜け出すと、圧電体膜12の圧電特性が悪くなるおそれがある。また、抜け出した金属原子が可動膜10Aを構成するシリコン層に混入すると可動膜10Aの耐久性が悪化するおそれがある。
【0053】
次に、可動膜形成層10の上(前記下地酸化膜が形成されている場合には当該下地酸化膜の上)に、下部電極11の材料層である下部電極膜が形成される。下部電極膜は、たとえば、Ti膜(たとえば10nm〜40nm厚)を下層としPt膜(たとえば10nm〜400nm厚)を上層とするPt/Ti積層膜からなる。このような下部電極膜は、スパッタ法で形成されてもよい。この後、フォトグラフィによって、下部電極11のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図7Bに示すように、このレジストマスクをマスクとして、下部電極膜がエッチングされることにより、所定パターンの下部電極11が形成される。これにより、主電極部11Aと、貫通孔23を有する延長部11Bとからなる下部電極11が形成される。
【0054】
次に、圧電体膜12の材料膜(圧電体材料膜)が下部電極膜上の全面に形成される。具体的には、たとえば、ゾルゲル法によって1μm〜3μm厚の圧電体材料膜が形成される。このような圧電体材料膜は、金属酸化物結晶粒の焼結体からなる。次に、圧電体材料膜の全面に上部電極13の材料である上部電極膜が形成される。上部電極膜は、たとえば、白金(Pt)の単膜であってもよい。上部電極膜は、たとえば、IrO
2膜(たとえば40nm〜160nm厚)を下層とし、Ir膜(たとえば40nm〜160nm厚)を上層とするIr0
2/Ir積層膜であってもよい。このような上部電極膜は、スパッタ法で形成されてもよい。
【0055】
次に、フォトグラフィによって、上部電極13のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図7Cに示すように、このレジストマスクをマスクとして、上部電極膜および圧電体材料膜が連続してエッチングされることにより、所定パターンの上部電極13および圧電体膜12が形成される。これにより、下部電極11の主電極部11A、圧電体膜12および上部電極13からなる圧電素子9が形成される。
【0056】
次に、
図7Dに示すように、レジストマスクが剥離された後、全面を覆う水素バリア膜14が形成される。水素バリア膜14は、スパッタ法で形成されたAl
2O
3膜であってもよく、その膜厚は、50nm〜100nmであってもよい。この後、水素バリア膜14上の全面に絶縁膜15が形成される。絶縁膜15は、SiO
2膜であってもよく、その膜厚は、200nm〜300nmであってもよい。続いて、絶縁膜15および水素バリア膜14が連続してエッチングされることにより、コンタクト孔33,34が形成される。
【0057】
次に、
図7Eに示すように、コンタクト孔33,34内を含む絶縁膜15上に、スパッタ法によって、上部配線17および下部配線18を構成する配線膜(Au膜)が形成される。この後、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、配線膜がパターニングされることにより、上部配線17および下部配線18が同時に形成される。上部配線17および下部配線18を、ダンプ形成法を用いて形成してもよい。
【0058】
次に、フォトグラフィによって開口37およびインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、絶縁膜15がエッチングされる。これにより、
図7Fに示すように、絶縁膜15に、開口37およびインク供給用貫通孔22が形成される。
次に、レジストマスクが剥離される。そして、フォトグラフィによってインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、水素バリア膜14および可動膜形成層10がエッチングされる。これにより、
図7Gに示すように、水素バリア膜14および可動膜形成層10に、インク供給用貫通孔22が形成される。
【0059】
次に、
図7Hに示すように、保護基板4の対向面51に接着剤50が塗布され、インク供給路53とインク供給用貫通孔22とが一致するように、アクチュエータ基板2に保護基板4が固定される。
次に、
図7Iに示すように、アクチュエータ基板2を薄くするための裏面研削が行われる。アクチュエータ基板2が裏面2bから研磨されることにより、アクチュエータ基板2が薄膜化される。たとえば、初期状態で670μm厚程度のアクチュエータ基板2が、300μm厚程度に薄型化されてもよい。次に、アクチュエータ基板2に対して、アクチュエータ基板2の裏面からエッチング(ドライエッチングまたはウェットエッチング)を行うことによって、インク流路5(インク流入部6および圧力室7)が形成される。
【0060】
このエッチングの際、可動膜形成層10の表面に形成される下地酸化膜は、圧電体膜12から金属元素(PZTの場合は、Pb,Zr,Ti)が抜け出すことを防止し、圧電体膜12の圧電特性を良好に保つ。また、前述のとおり、可動膜形成層10の表面に形成される下地酸化膜は、可動膜10Aを形成するシリコン層の耐久性の維持に寄与する。
この後、
図7Jに示すように、ノズル基板3がアクチュエータ基板2の裏面に張り合わされることにより、インクジェットプリントヘッド1が得られる。
【0061】
前記第1実施形態では、上部電極13を駆動回路に接続するための上部配線17は1種類の配線から構成されている。同様に、下部電極11を駆動回路に接続するための下部配線18も1種類の配線から構成されている。このため、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、上部配線および下部配線を形成するための工程が簡単となる。これにより、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、インクジェットプリントヘッドの製造が簡単となる。
【0062】
また、前記第1実施形態では、上部配線17および下部配線18は耐食性の高い金製であるため、これらの配線17,18を保護するためのパッシベーション膜は設けられていない。このため、インクジェットプリントヘッドの製造がより簡単となる。
図8Aは、この発明の第2実施形態に係るインクジェットプリントヘッドの主要部の構成を説明するための図解的な平面図である。
図8Bは、インクジェットプリントヘッド1Aの主要部の図解的な平面図であって、保護基板が省略された平面図である。
図9は、
図8AのIX-IX線に沿う図解的な断面図である。
図10は、
図8AのX-X線に沿った切断面のうちの一部を図解的に示す拡大断面図である。
図11は、前記インクジェットプリントヘッドの下部電極のパターン例を示す図解的な平面図である。
図12は、前記インクジェットプリントヘッドの水素バリア膜のパターン例を示す図解的な平面図である。
図13は、前記インクジェットプリントヘッドのアクチュエータ基板側から見た保護基板の主要部の底面図である。
【0063】
図8A、
図8B、
図9および
図10において、前述の
図1A、
図1B、
図2および
図3に示された各部に対応する部分には同一参照符号を付して示す。
第2実施形態に係るインクジェットプリントヘッド1Aは、第1実施形態に係るインクジェットプリントヘッド1に比べて、下部電極11、圧電体膜12および上部電極13のパターンが異なっている点と、絶縁体膜が設けられていない点とが異なっている。以下、これらの点について説明する。
【0064】
図8Bおよび
図9には、インク流入部6と圧力室7との境界が二点鎖線で示されている。主として
図9を参照して、可動膜10Aの表面には、圧電素子9が配置されている。圧電素子9は、可動膜形成層10上に形成された下部電極11と、下部電極11上に形成された圧電体膜12と、圧電体膜12上に形成された上部電極13とを備えている。圧電素子9は、平面視において、下部電極11と圧電体膜12と上部電極13とが重なり合っている部分から構成されている。
【0065】
主として
図8Bを参照して、圧電素子9は、平面視において、圧力室7(可動膜10A)の長手方向に長い矩形形状を有している。圧電素子9の長手方向の長さは、圧力室7(可動膜10A)の長手方向の長さよりも短い。圧電素子9の短手方向に沿う両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ所定間隔を開けて内側に配置されている。また、圧電素子9の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。圧電素子9の長手方向に沿う両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。
【0066】
下部電極11は、圧電素子9を構成する平面視矩形状の主電極部11Aと、主電極部11Aから可動膜形成層10の表面に沿う方向に引き出され、圧力室7の天面部の周縁の外方に延びた延長部11Bとを含んでいる。
図9および
図11を参照して、下部電極11は、可動膜形成層10の主要部の表面のほぼ全域に形成されている。ただし、下部電極11におけるインク流通方向41の下流側端は、圧力室7のインク流通方向41の下流側端よりも所定間隔dだけ上流側に位置している。延長部11Bは、下部電極11の全領域(
図11参照)のうち主電極部11Aを除いた領域である。
【0067】
圧電体膜12は、下部電極11の主電極部11Aの上面に接している平面視矩形状の能動部12Aと、能動部12Aのインク流通方向41の下流側端から下流側に延び、可動膜形成層10の上面に接している平面視矩形状の非能動部12Bとを含む。能動部12Aは主電極部11A上に形成されているのに対し、非能動部12Bは可動膜形成層10上に形成されている。このため、能動部12Aの上面と、非能動部12Bの上面との境界部には段部が形成されている。
【0068】
上部電極13は、能動部12Aの上面に接した平面視矩形状の主電極部13Aと、主電極部13Aのインク流通方向41の下流側端から下流側に延び、非能動部12Bの上面に接した平面視矩形状の延長部13Bとを含む。主電極部13Aの上面と延長部13Bの上面との境界部には段部が形成されている。
図9および
図12を参照して、下部電極11の延長部11B上および圧電素子9上には、水素バリア膜14が形成されている。水素バリア膜14は、たとえば、Al
2O
3(アルミナ)からなる。第2実施形態では、水素バリア膜14上に絶縁膜は形成されていない。水素バリア膜14上には、上部電極13を図示しない駆動回路(圧電素子駆動用LSI)に接続するための金製の上部配線17と、下部電極11を駆動回路に接続するための金製の下部配線18が形成されている。
【0069】
上部配線17の一端部は、上部電極13の延長部13Bの上方に配置されている。延長部13Bと上部電極13との間において、水素バリア膜14を貫通するコンタクト孔33が形成されている。上部配線17の一端部は、コンタクト孔33に入り込み、コンタクト孔33内で上部電極13に接続されている。上部配線17は、平面視において、一端部が上部電極13の上面(この実施形態では延長部13Bの上面)に接続され、他端部は上部電極13の延長部13B側の一端を跨いで上部電極13の主電極部13Aとは反対側に延びている。上部配線17の先端部は、保護基板4のインク流通方向41の下流側に延びている。上部配線17の先端部には、接続端子部(図示略)が形成されている。
【0070】
前述したように、下部電極11におけるインク流通方向41の下流側端は、圧力室7のインク流通方向41の下流側端から所定間隔dだけ上流側に位置している。したがって、下部電極11は、平面視において、圧力室7の天面部のインク流通方向41の下流側端の外方において、上部配線17の下方には存在しない。これにより、水素バリア膜14と上部配線17との間に絶縁膜を設けなくても、上部配線17と下部電極11との間に絶縁性を保つことができる。
【0071】
下部配線18は、インク流路5のインク流入部6に対して圧力室7とは反対側において、下部電極11の延長部11Bの上方に配置された基部18Aを含む。下部配線18の基部18Aと下部電極11の延長部11Bとの間において、水素バリア膜14を貫通する複数のコンタクト孔34が形成されている。下部配線18の基部18Aは、コンタクト孔34に入り込み、コンタクト孔34内で下部電極11の延長部11Bに接続されている。
【0072】
図8Bを参照して、下部配線18は、平面視において、インク流通方向41と直交する方向に長い矩形状の基部18Aと、基部18Aの一端部からインク流通方向41に沿って延びたリード部18Bとを有している。リード部18Bは、基部18Aの一端部から圧力室7の天面部の一側部に沿って延びた後、上部配線17と平行に延びている。リード部18Bの先端部は、保護基板4のインク流通方向41の下流側端よりも下流側に延びている。リード部18Bの先端部には、接続端子部(図示略)が形成されている。
【0073】
図14A〜
図14Iは、前記インクジェットプリントヘッド1Aの製造工程の一例を示す断面図であり、
図2に対応する切断面を示す。
まず、
図14Aに示すように、アクチュエータ基板2の表面2aに可動膜形成層10が形成される。ただし、アクチュエータ基板2としては、最終的なアクチュエータ基板2の厚さより厚いものが用いられる。具体的には、アクチュエータ基板2の表面に酸化シリコン膜(たとえば、1.2μm厚)が形成される。可動膜形成層10が、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜で構成される場合には、アクチュエータ基板2の表面にシリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、シリコン膜上に酸化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、酸化シリコン膜上に窒化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成される。
【0074】
可動膜形成層10の表面には、たとえば、Al
2O
3、MgO、ZrO
2などの下地酸化膜が形成されてもよい。これらの下地酸化膜は、後に形成される圧電体膜12からの金属原子の抜け出しを防ぐ。金属電子が抜け出すと、圧電体膜12の圧電特性が悪くなるおそれがある。また、抜け出した金属原子が可動膜10Aを構成するシリコン層に混入すると可動膜10Aの耐久性が悪化するおそれがある。
【0075】
次に、可動膜形成層10の上(前記下地酸化膜が形成されている場合には当該下地酸化膜の上)に、下部電極11の材料層である下部電極膜が形成される。下部電極膜は、たとえば、Ti膜(たとえば10nm〜40nm厚)を下層としPt膜(たとえば10nm〜400nm厚)を上層とするPt/Ti積層膜からなる。このような下部電極膜は、スパッタ法で形成されてもよい。この後、フォトグラフィによって、下部電極11のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図14Bに示すように、このレジストマスクをマスクとして、下部電極膜がエッチングされることにより、所定パターンの下部電極11が形成される。これにより、主電極部11Aと、貫通孔23を有する延長部11Bとからなる下部電極11が形成される。
【0076】
次に、圧電体膜12の材料膜(圧電体材料膜)が可動膜形成層10上に下部電極11を覆うように形成される。具体的には、たとえば、ゾルゲル法によって1μm〜3μm厚の圧電体材料膜が形成される。このような圧電体材料膜は、金属酸化物結晶粒の焼結体からなる。次に、圧電体材料膜の全面に上部電極13の材料である上部電極膜が形成される。上部電極膜は、たとえば、白金(Pt)の単膜であってもよい。上部電極膜は、たとえば、IrO
2膜(たとえば40nm〜160nm厚)を下層とし、Ir膜(たとえば40nm〜160nm厚)を上層とするIr0
2/Ir積層膜であってもよい。このような上部電極膜は、スパッタ法で形成されてもよい。
【0077】
次に、フォトグラフィによって、上部電極13のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図14Cに示すように、このレジストマスクをマスクとして、上部電極膜および圧電体材料膜が連続してエッチングされることにより、所定パターンの上部電極13および圧電体膜12が形成される。これにより、主電極部13Aおよび延長部13Bからなる上部電極13と、能動部12Aおよび非能動部12Bからなる圧電体膜12が形成される。これにより、下部電極11の主電極部11A、圧電体膜12の能動部12Aおよび上部電極13の主電極部13Aからなる圧電素子9が形成される。
【0078】
次に、
図14Dに示すように、レジストマスクが剥離された後、全面を覆う水素バリア膜14が形成される。水素バリア膜14は、スパッタ法で形成されたAl
2O
3膜であってもよく、その膜厚は、50nm〜100nmであってもよい。この後、水素バリア膜14がエッチングされることにより、コンタクト孔33,34が形成される。
次に、
図14Eに示すように、コンタクト孔33,34内を含む水素バリア膜14上に、スパッタ法によって、上部配線17および下部配線18を構成する配線膜(Au膜)が形成される。この後、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、配線膜がパターニングされることにより、上部配線17および下部配線18が同時に形成される。上部配線17および下部配線18を、ダンプ形成法を用いて形成してもよい。
【0079】
次に、フォトグラフィによってインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、水素バリア膜14および可動膜形成層10がエッチングされる。これにより、
図14Fに示すように、水素バリア膜14および可動膜形成層10に、インク供給用貫通孔22が形成される。
次に、
図14Gに示すように、保護基板4の対向面51に接着剤50が塗布され、インク供給路53とインク供給用貫通孔22とが一致するように、アクチュエータ基板2に保護基板4が固定される。
【0080】
次に、
図14Hに示すように、アクチュエータ基板2を薄くするための裏面研削が行われる。アクチュエータ基板2が裏面2bから研磨されることにより、アクチュエータ基板2が薄膜化される。たとえば、初期状態で670μm厚程度のアクチュエータ基板2が、300μm厚程度に薄型化されてもよい。次に、アクチュエータ基板2に対して、アクチュエータ基板2の裏面からエッチング(ドライエッチングまたはウェットエッチング)を行うことによって、インク流路5(インク流入部6および圧力室7)が形成される。
【0081】
このエッチングの際、可動膜形成層10の表面に形成される下地酸化膜は、圧電体膜12から金属元素(PZTの場合は、Pb,Zr,Ti)が抜け出すことを防止し、圧電体膜12の圧電特性を良好に保つ。また、前述のとおり、可動膜形成層10の表面に形成される下地酸化膜は、可動膜10Aを形成するシリコン層の耐久性の維持に寄与する。
この後、
図14Iに示すように、ノズル基板3がアクチュエータ基板2の裏面に張り合わされることにより、インクジェットプリントヘッド1Aが得られる。
【0082】
前記第2実施形態では、上部電極13を駆動回路に接続するための上部配線17は1種類の配線から構成されている。同様に、下部電極11を駆動回路に接続するための下部配線18も1種類の配線から構成されている。このため、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、上部配線および下部配線を形成するための工程が簡単となる。これにより、参考例に係るインクジェットプリントヘッドに比べて、インクジェットプリントヘッドの製造が簡単となる。また、前記第2実施形態では、絶縁膜およびパッシベーション膜が設けられていないので、インクジェットプリントヘッドの製造がより簡単となる。
【0083】
以上、この発明の第1および第2実施形態について説明したが、この発明はさらに他の実施形態で実施することもできる。前述の第1実施形態では、水素バリア膜14の表面の一部に絶縁膜15が形成されているが、水素バリア膜14の表面の全域に絶縁膜15が形成されていてもよい。
また、前述の第1および第2実施形態では、圧電体膜の材料としてPZTを例示したが、そのほかにも、チタン酸鉛(PbPO
3)、ニオブ酸カリウム(KNbO
3)、ニオブ酸ノチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)などに代表される金属酸化物からなる圧電材料が適用されてもよい。
【0084】
前述の第1および第2実施形態では、この発明をインクジェットプリントヘッドに適用した場合について説明したが、この発明は、圧電素子を利用した圧電マイクロホン、圧力センサ等にも適用することができる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。