特許第6764579号(P6764579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6764579全固体リチウム二次電池用電極材、その製造方法、及びそれを備える全固体リチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764579
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】全固体リチウム二次電池用電極材、その製造方法、及びそれを備える全固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20200928BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20200928BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200928BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200928BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20200928BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/1391
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
   C01G51/00 A
   C01G25/00
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-49570(P2016-49570)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-168201(P2017-168201A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰明
(72)【発明者】
【氏名】若山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘高
【審査官】 福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−179238(JP,A)
【文献】 特開2014−114193(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/115165(WO,A1)
【文献】 特開2009−138014(JP,A)
【文献】 特開2014−214068(JP,A)
【文献】 特開2013−065373(JP,A)
【文献】 特開2013−077563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
C01G 25/00
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiLaZr12及びLiCoOのうちの一方の無機成分からなり、平均一次粒子径が15〜20nmである無機粒子からなるマトリックス中に、LiLaZr12及びLiCoOのうちの他方の無機成分からなり、平均一次粒子径が15〜20nmである無機粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなることを特徴とする全固体リチウム二次電池用電極材。
【請求項2】
前記無機粒子の平均一次粒子径がいずれも15〜18.2nmであることを特徴とする請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用電極材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極材を正極材として備えることを特徴とする全固体リチウム二次電池。
【請求項4】
互いに混和しない少なくとも数平均分子量が250×10以上の第一ポリマーブロック成分と数平均分子量が250×10以上の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、LiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、LiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、が溶媒に溶解している原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記LiLaZr12前駆体及び前記LiCoO前駆体をそれぞれLiLaZr12及びLiCoOに変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、平均一次粒子径が15〜20nmであるLiLaZr12粒子と平均一次粒子径が15〜20nmであるLiCoO粒子とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含むことを特徴とする全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項5】
前記LiLaZr12粒子及び前記LiCoO粒子の平均一次粒子径がいずれも15〜18.2nmであることを特徴とする請求項4に記載の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項6】
前記第一ポリマーブロック成分がポリスチレン成分であり、前記第二ポリマーブロック成分がポリ(4−ビニルピリジン)成分であることを特徴とする請求項4又は5に記載の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項7】
前記変換処理において、前記ナノ相分離構造体を450〜750℃に加熱することを特徴とする請求項4〜6のうちのいずれか一項に記載の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項8】
前記ナノ相分離構造体を450〜750℃に加熱する前に、前記ナノ相分離構造体が450℃未満の温度雰囲気に曝される時間が6時間以下であることを特徴とする請求項7に記載の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノヘテロ構造を有する全固体リチウム二次電池用電極材、その製造方法、及びそれを備える全固体リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度の高い二次電池として知られており、様々な電子機器の電源として従来から使用されている。例えば、特開2014−179238号公報(特許文献1)には、LiLaZr12及びLiCoOのうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にLiLaZr12及びLiCoOのうちの他方の無機成分が三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなるリチウム二次電池用電極材が記載されており、このような電極材を備えるリチウム二次電池は、出力特性に優れていることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−179238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のリチウム二次電池は、放電容量が必ずしも十分なものではなく、蓄電性能の向上のためには放電容量を更に増加させる必要があった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ナノヘテロ構造を有し、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることが可能な電極材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ブロックコポリマーを構成する第一ポリマーブロック成分とLiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの一方の無機前駆体と、第二ポリマーブロック成分とLiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの他方の無機前駆体とをそれぞれ組み合わせる際に、前記第一及び第二ポリマーブロック成分としてそれぞれ所定の数平均分子量を有するポリマーブロック成分を用い、このようなブロックコポリマーの自己組織化を利用してナノ相分離構造体を形成せしめ、かつ、前記無機前駆体をそれぞれLiLaZr12及びLiCoOに変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することによって、LiLaZr12及びLiCoOうちの一方の無機成分からなり、所定の平均一次粒子径を有する無機粒子からなるマトリックス中に、他方の無機成分からなり所定の平均一次粒子径を有する無機粒子が、三次元的にナノスケールの周期性をもって配置した構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体が得られ、さらに、このナノヘテロ構造体を全固体リチウム二次電池の電極材として用いることによって、全固体リチウム二次電池の放電容量が更に増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材は、LiLaZr12及びLiCoOのうちの一方の無機成分からなり、平均一次粒子径が15〜20nm(好ましくは15〜18.2nm)である無機粒子からなるマトリックス中に、LiLaZr12及びLiCoOのうちの他方の無機成分からなり、平均一次粒子径が15〜20nm(好ましくは15〜18.2nm)である無機粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなることを特徴とするものである。また、本発明の全固体リチウム二次電池は、このような本発明の電極材を正極材として備えることを特徴とするものである。
【0008】
さらに、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法は、互いに混和しない少なくとも数平均分子量が250×10以上の第一ポリマーブロック成分と数平均分子量が250×10以上の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、LiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、LiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、が溶媒に溶解している原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記LiLaZr12前駆体及び前記LiCoO前駆体をそれぞれLiLaZr12及びLiCoOに変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、平均一次粒子径が15〜20nm(好ましくは15〜18.2nm)であるLiLaZr12粒子と平均一次粒子径が15〜20nm(好ましくは15〜18.2nm)であるLiCoO粒子とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0009】
このような本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法において、前記第一ポリマーブロック成分としてはポリスチレン成分が好ましく、前記第二ポリマーブロック成分としてはポリ(4−ビニルピリジン)成分が好ましい。
【0010】
また、前記変換処理においては、前記ナノ相分離構造体を450〜750℃に加熱することが好ましく、前記ナノ相分離構造体を450〜750℃に加熱する前に、前記ナノ相分離構造体が450℃未満の温度雰囲気に曝される時間が6時間以下であることがより好ましい。
【0011】
なお、本発明における「繰り返し構造の一単位の長さの平均値」とは、一方の無機成分からなるマトリックス中に配置されている他方の無機成分の隣接するもの同士の中心間の距離の平均値であり、いわゆる周期構造の間隔(d)に相当する。係る周期構造の間隔(d)は、以下のように小角X線回折により求められる。また、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状又は層状といった構造についても、以下のように小角X線回折により測定される特徴的な回折パターンにより規定することができる。
【0012】
すなわち、小角X線回折により、球状、柱状、ジャイロイド状、層状等の形状の構造体がマトリックス中に周期的に配置した擬似結晶格子の特徴的な格子面からのBragg反射が観察される。その際、周期構造が形成されていると回折ピークが観察され、それら回折スペクトルの大きさ(q=2π/d)の比から、球状、柱状、ジャイロイド状、層状等の構造を特定することができる。また、係る回折ピークのピーク位置から、Braggの式(nλ=2dsinθ;λはX線波長、θは回折角を示す。)により、周期構造の間隔(d)を求めることができる。以下の表1に、各構造とピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比の関係を示す。なお、表1に示すようなピークが全て確認される必要はなく、観察されたピークから構造が特定できればよい。
【0013】
【表1】
【0014】
さらに、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状、層状といった構造を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて特定することも可能であり、それによってその形状や周期性を判別・評価することができる。さらに、様々な方向からの観察や三次元トモグラフィーを用いることによって、三次元性をより詳しく判別することも可能である。
【0015】
また、本発明の製造方法によって、平均一次粒子径が小さい無機粒子からなるナノヘテロ構造の電極材が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、互いに混和しないA及びBの2種類のポリマーブロック成分が結合してなるブロックコポリマーは、ガラス転移点以上の温度で熱処理することでA相とB相とが空間的に分離したナノ相分離構造を構成する(自己組織化)。その際、ポリマーブロック成分として数平均分子量が100×10以上(好ましくは250×10以上)のものを用いることによって、折りたたみ鎖が多く形成され、原料の無機前駆体が高分散して相互作用が生じやすくなり、自己組織化構造のネットワーク形成が進み、その立体規則性等が生じやすいためと推察される。
【0016】
さらに、本発明の電極材を用いることによって全固体リチウム二次電池の放電容量が更に増加する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明にかかるナノヘテロ構造体は、平均一次粒子径が15〜25nm(好ましくは15〜20nm)の無機粒子によって形成されている。このようなナノヘテロ構造体からなる本発明の電極材は、ヘテロ界面の面積が大きく、ヘテロ界面において電荷移動がスムーズに起こるため、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることが可能になると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ナノヘテロ構造を有し、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることが可能な電極材を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】A−B型ブロックコポリマーから生成されるナノ相分離構造を示す模式図である。
図2】本発明にかかる相分離処理によって得られるナノ相分離構造体の一例を示す模式図である。
図3】本発明のリチウム二次電池の好適な実施態様の一例を示す模式図である。
図4実施例1及び比較例1〜5で作製した電極(正極)の厚み(アルミニウム円板部分又はアルミニウム箔部分を除く)と放電容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材について説明する。本発明の全固体リチウム二次電池用電極材は、LiLaZr12及びLiCoOのうちの一方の無機成分からなり、平均一次粒子径が15〜25nmである無機粒子からなるマトリックス中に、LiLaZr12及びLiCoOのうちの他方の無機成分からなり、平均一次粒子径が15〜25nmである無機粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなるものである。
【0021】
このような本発明の全固体リチウム二次電池用電極材は、球状構造、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造(好ましくは、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造)といったナノ構造を有するものであり、LiLaZr12とLiCoOとの組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケール等を様々に制御したナノヘテロ構造を有するものとして得ることが可能である。
【0022】
特に、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材においては、このようなナノヘテロ構造体が、平均一次粒子径が15〜25nmの無機粒子によって形成されているため、界面増大効果やナノサイズ効果が飛躍的に向上し、ヘテロ界面における電荷移動がスムーズに起こる。その結果、このような電極材を備える全固体リチウム二次電池においては、放電容量が更に増加し、電池特性が飛躍的に向上する。一方、ナノヘテロ構造体を構成する無機粒子の平均一次粒子径が前記下限未満になると、非晶部分を伴う微結晶の集合体が多く、電極材としての機能が少なくなるため、電池特性が低下し、他方、前記上限を超えると、上記の効果が少なくなるため、全固体リチウム二次電池の放電容量が小さくなる。また、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることが可能な電極材が得られるという観点から、ナノヘテロ構造体を構成する無機粒子の平均一次粒子径としては15〜20nmが好ましい。
【0023】
なお、本発明において、無機粒子の平均一次粒子径は、以下の方法によって測定されるものである。すなわち、先ず、ナノヘテロ構造体について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行い、得られたSTEM画像とEDX元素マッピングを対応させながら、LiLaZr12(以下、「LLZO」と略す。)一次粒子(La及びZrにより判別)及びLiCoO(以下、「LCO」と略す。)一次粒子(Coにより判別)をそれぞれ無作為に25個ずつ抽出する。抽出した各一次粒子において最大径と最小径を測定し、これらの算術平均値を求め、これをその一次粒子の直径とする。この測定を、25個のLLZO一次粒子及び25個のLCO一次粒子それぞれについて行い、25個のLLZO一次粒子の直径の算術平均値をLLZO粒子の平均一次粒子径、25個のLCO一次粒子の直径の算術平均値をLCO粒子の平均一次粒子径とする。
【0024】
本発明の全固体リチウム二次電池用電極材を構成するLLZOは電極材のリチウムイオン伝導体として機能するものであり、LCOは電極材の正極活物質として機能するものである。従って、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材は、全固体リチウム二次電池の正極材として機能するものである。
【0025】
本発明の全固体リチウム二次電池用電極材においては、LLZOとLCOのいずれがナノヘテロ構造のマトリックスを形成していてもよいが、電極材の体積当りあるいは質量当りの放電容量を最大にするという観点から、LCOがマトリックスを形成していることが好ましい。電極材の厚みとしては特に制限はなく、50μm以下(好ましくは30μm以下)であっても、十分に大きな放電容量を確保することができるが、薄すぎると電池全体に占める電極の割合が減少し、放電容量が小さくなるため、1μm以上が好ましい。また、電極材の密度としては特に制限はないが、密度が小さすぎると、電極抵抗が増大したり、電極強度が低下したりするため、2.0〜4.0g/cmが好ましい。さらに、マトリックス中に三次元的かつ周期的に配置している無機成分の断面直径としては、小さすぎると導電パスが形成しにくくなり、大きすぎると界面が減少するという観点から、15〜90nmが好ましい。
【0026】
また、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材において、LLZOとLCOとの割合としては、LCO1モルに対してLLZOが0.01〜0.1モルであることが好ましい。LLZOの割合が前記範囲から逸脱すると、全固体リチウム二次電池の放電容量が低下する傾向にある。
【0027】
次に、このような本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法について説明する。本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法は、互いに混和しない少なくとも数平均分子量が100×10以上の第一ポリマーブロック成分と数平均分子量が100×10以上の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、LiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、LiLaZr12前駆体及びLiCoO前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、が溶媒に溶解している原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記LiLaZr12前駆体及び前記LiCoO前駆体をそれぞれLiLaZr12及びLiCoOに変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、平均一次粒子径が15〜25nmであるLiLaZr12粒子と平均一次粒子径が15〜25nmであるLiCoO粒子とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含む方法である。以下、それぞれの工程について説明する。
【0028】
[第一の工程:原料溶液調製工程]
係る工程は、以下に説明するブロックコポリマーと以下に説明する無機前駆体とを溶媒に溶解して原料溶液を調製する工程である。
【0029】
本発明に用いられるブロックコポリマーは、互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものである。このようなブロックコポリマーは自己組織化により相分離するものである。このようなブロックコポリマーの具体例として、繰り返し単位aを有するポリマーブロック成分A(第一ポリマーブロック成分)と、繰り返し単位bを有するポリマーブロック成分B(第二ポリマーブロック成分)と、が末端同士で結合した、−(aa…aa)−(bb…bb)−という構造をもつA−B型、A−B−A型のブロックコポリマーがある。また、1種類以上のポリマーブロック成分が中心から放射状に伸びたスター型や、ブロックコポリマーの主鎖に他のポリマー成分がぶらさがった形でもよい。
【0030】
本発明において、前記第一ポリマーブロック成分及び前記第二ポリマーブロック成分の数平均分子量は100×10以上である。このような数平均分子量の第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合したブロックコポリマーを用いることによって、後述する無機前駆体を無機成分に変換する工程において、所定の平均一次粒子径を有する無機粒子が形成され、全固体リチウム二次電池の放電容量を増加させることが可能な電極材を得ることができる。一方、第一ポリマーブロック成分及び第二ポリマーブロック成分の数平均分子量が前記下限未満になると、ナノヘテロ構造体を構成する無機粒子の平均一次粒子径が大きくなり、全固体リチウム二次電池の放電容量が小さくなる。また、ナノヘテロ構造体を構成する無機粒子の平均一次粒子径がより小さくなり、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることが可能な電極材が得られるという観点から、第一ポリマーブロック成分の数平均分子量としては250×10以上が好ましく、第二ポリマーブロック成分の数平均分子量としては250×10以上が好ましい。なお、第一ポリマーブロック成分及び第二ポリマーブロック成分の数平均分子量の上限として特に制限はないが、繰り返し単位のスケールが小さいナノヘテロ構造体が得られるという観点から、10000×10以下が好ましく、1000×10以下がより好ましい。
【0031】
また、本発明において、前記ブロックコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)としては、1〜1.20が好ましく、1〜1.15がより好ましい。分子量分布が前記範囲にあるブロックコポリマーは、安定した状態で重合されたものであり、ポリマー分枝度の少ない良質な原料となる傾向にある。一方、分子量分布が前記上限を超えるブロックコポリマーは、静電相互作用による反発や引付が一部に生じて極性基や分枝を有した不均一な原料となる傾向にある。
【0032】
なお、本発明において、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーブロック成分の数平均分子量は、プロトン核磁気共鳴法(H−NMR法)により第一ポリマーブロック成分の側鎖末端基のプロトン数と第二ポリマーブロック成分の側鎖末端基のプロトン数とを測定して算出される重合度から求められるものである(末端定量法)。すなわち、ブロックコポリマーを重水素化クロロホルム(CDCl)に溶解し、H−NMR法により第一ポリマーブロック成分の側鎖末端基のプロトン数と第二ポリマーブロック成分の側鎖末端基のプロトン数とを測定して第一ポリマーブロック成分及び第二ポリマーブロック成分の重合度をそれぞれ算出する。これらの重合度から第一ポリマーブロック成分及び第二ポリマーブロック成分の分子量を算出し、これらをそれぞれ第一ポリマーブロック成分及び第二ポリマーブロック成分の数平均分子量とする。
【0033】
また、本発明において、ブロックコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法、サイズ排除クロマトグラフィー法(SEC法)ともいう。)により測定されるものである。すなわち、ブロックコポリマーをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、GPC法により標準ポリマー換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定し、ブロックコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)を算出する。なお、GPC法により求めたMw/Mnは、前記末端定量法における分散度(PDI)と同程度となる。
【0034】
また、本発明の電極材の製造方法においては、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二ポリマーブロック成分の数平均分子量の比を調整することによって、後述するナノ相分離構造体の形成工程において自己組織化により得られるナノ相分離構造を所望の構造とすることができ、ひいては、無機成分を所望の形態で配列した構造をもつナノヘテロ構造を有する全固体リチウム二次電池用電極材を得ることが可能になる。すなわち、互いに混和しないA及びBの2種類のポリマーブロック成分が結合してなるブロックコポリマーは、ガラス転移点以上の温度で熱処理することにより、A相とB相とが空間的に分離したナノ相分離構造を形成する(自己組織化)。その際、ポリマーブロック成分の分子量比によって一般的に相分離構造は変化する。具体的には、A:Bの分子量比が1:1の場合には一般的に層状の層状構造をとり、分子量比が1:1からずれるにしたがい、二つの連続相が絡み合ったようなジャイロイド状構造から柱状構造、さらに球状構造へと変化してゆく。なお、図1は、ブロックコポリマーから生成されるナノ相分離構造を示す模式図であり、左から、層状構造(a)、ジャイロイド状構造(b)、柱状構造(c)、球状構造(d)をそれぞれ示しており、右側の構造ほど一般的にAの割合が高い。
【0035】
本発明に用いられるブロックコポリマーを構成するポリマーブロック成分は、互いに混和しないものであれば、その種類に特に限定はない。したがって、本発明で用いられるブロックコポリマーは、極性がそれぞれ異なるポリマーブロック成分からなるものが好ましい。このようなブロックコポリマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド(PS−b−PEO)、ポリスチレン−ポリビニルピリジン(PS−b−PVP)、ポリスチレン−ポリフェロセニルジメチルシラン(PS−b−PFS)、ポリイソプレン−ポリエチレンオキシド(PI−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)、ポリエチルエチレン−ポリエチレンオキシド(PEE−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリビニルピリジン(PB−b−PVP)、ポリイソプレン−ポリメチルメタクリレート(PI−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリアクリル酸(PS−b−PAA)、ポリブタジエン−ポリメチルメタクリレート(PB−b−PMMA)等が挙げられる。中でも、平均一次粒子径が小さい無機粒子により形成されたナノヘテロ構造体からなり、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることが可能な電極材が得られるという観点や、ベンゼンやトルエン等の芳香族炭化水素に溶解しやすく、親電子置換反応(すなわち、カチオン分子種が置換する反応)を受けやすいため、ポリマーブロック成分中に化学的性質が大きく異なる無機前駆体(例えば、ポリマーブロック成分と非相溶の無機前駆体)を比較的導入しやすいという観点から、ポリスチレン系のブロックコポリマー(例えば、ポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド(PS−b−PEO)、ポリスチレン−ポリビニルピリジン(PS−b−PVP)、ポリスチレン−ポリフェロセニルジメチルシラン(PS−b−PFS)、ポリスチレン−ポリアクリル酸(PS−b−PAA))が好ましく、ポリスチレン−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS−b−P4VP)がより好ましい。また、後述する熱処理(焼成)又は光照射により容易に分解されるブロックコポリマーや、溶媒により容易に除去されるブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0036】
本発明において、LLZO前駆体は、Li前駆体、La前駆体及びZr前駆体の混合物であり、LCO前駆体は、Li前駆体及びCo前駆体の混合物である。このようなLLZO前駆体及びLCO前駆体は、それぞれ前述したLLZO及びLCOを後述する変換処理によって形成できる無機前駆体であれば特に制限はない。具体的には、前記LLZO及びLCOを構成する金属の塩(例えば、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、有機酸塩(アクリル酸塩、サリチル酸塩等))、前記金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド(例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド)、前記金属の錯体(例えば、アセチルアセトナート錯体、金属カルボニル)、前記金属を含む有機金属化合物(例えば、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の構造を備えるもの)が好ましい。このようなLLZO前駆体及びLCO前駆体は、目的とするナノヘテロ構造を有する全固体リチウム二次電池用電極材を構成するLLZOとLCOとの組み合わせに応じて、かつ、それらが前述の諸条件を満たすように1種又は2種以上を適宜選択して使用される。また、原料溶液中のLLZO前駆体とLCO前駆体との割合としては、LCO前駆体1モルに対してLLZO前駆体が0.01〜0.1モルであることが好ましい。LLZO前駆体の割合が前記範囲から逸脱すると、全固体リチウム二次電池の放電容量が低下する傾向にある。
【0037】
本発明で用いられる溶媒としては、用いるブロックコポリマーと第一及び第二無機前駆体とを溶解できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、クロロホルム、ベンゼン等が挙げられる。このような溶媒は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
なお、本明細書において、「溶解」とは、物質(溶質)が溶媒に溶けて均一混合物(溶液)となる現象であって、溶解後、溶質の少なくとも一部がイオンとなる場合、溶質がイオンに解離せず分子状で存在している場合、分子やイオンが会合して存在している場合、等が含まれる。
【0039】
本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分と前記LLZO前駆体及び前記LCO前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて使用する。特に、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて使用することが好ましい。これにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に第一無機前駆体が、第二ポリマーブロック成分中に第二無機前駆体がそれぞれ十分に導入された状態でブロックコポリマーの自己組織化と共にナノ相分離構造が構成され、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0040】
なお、本発明における「溶解度パラメータ」とは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義されたいわゆる「SP値」であり、以下の式:
溶解度パラメータδ[(cal/cm1/2]=(ΔE/V)1/2
(式中、ΔEはモル蒸発エネルギー[cal]、Vはモル体積[cm]を示す。)
に基づいて求められる値である。
【0041】
本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。また、前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
【0042】
さらに、本発明において、前記第一無機前駆体は前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2超であることが好ましい。また、前記第二無機前駆体は前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2超であることが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
【0043】
溶解度パラメータが前記条件を満たす第一及び第二ポリマーブロック成分と第一及び第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に不純物として第二無機前駆体の一部が、また、第二ポリマーブロック成分中に不純物として第一無機前駆体の一部が導入されてしまうことがより確実に防止される傾向にあり、得られるナノヘテロ構造を有する全固体リチウム二次電池用電極材におけるマトリックスを構成する無機成分の純度及び/又はマトリックス中に配置される無機成分の純度がより向上する傾向にある。
【0044】
溶解度パラメータが前記条件を満たす第一及び第二ポリマーブロック成分と第一及び第二無機前駆体との組み合わせとしては、第一ポリマーブロック成分がポリスチレン成分、ポリイソプレン成分及びポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さいポリマーブロック成分であり、第二ポリマーブロック成分がポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分及びポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きいポリマーブロック成分であり、第一無機前駆体が前記有機金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さい無機前駆体であり、第二無機前駆体が前記金属の塩、前記金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、ならびに前記金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きい無機前駆体である組み合わせが好ましい。
【0045】
また、前記第一無機前駆体及び前記第二無機前駆体のうちの少なくとも一方(より好ましくは両方)は、用いる溶媒との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体及び/又は第二無機前駆体を用いることにより、溶媒に無機前駆体がより確実に溶解し、後述するナノ相分離構造体を形成する工程においてポリマーブロック成分中に無機前駆体がより確実に導入される傾向にある。
【0046】
さらに、得られる原料溶液における溶質(ブロックコポリマー、第一無機前駆体及び第二無機前駆体)の割合は特に限定されないが、原料溶液の全量を100質量%としたときに、溶質の合計量を0.1〜30質量%程度とすることが好ましく、0.5〜10質量%とすることがより好ましい。また、ブロックコポリマーに対する第一及び第二無機前駆体の使用量を調整することにより、各ポリマーブロック成分に導入される各無機前駆体の量が調整されるため、得られるナノヘテロ構造を有する全固体リチウム二次電池用電極材におけるLLZOとLCOとの比率やこれらの構造スケール(球や柱等のサイズや間隔)等を所望の程度とすることができる。
【0047】
本発明において、原料溶液の調製方法としては特に制限はなく、前記ブロックコポリマーとLLZO前駆体(Li前駆体、La前駆体及びZr前駆体)とLCO前駆体(Li前駆体及びCo前駆体)とを1つの溶媒(又は1つの混合溶媒)に溶解してもよいし、溶媒にLLZO前駆体を溶解したLLZO前駆体溶液と、溶媒にLCO前駆体を溶解したLCO前駆体溶液とをそれぞれ調製し、これらの前駆体溶液を混合してもよい。後者の場合、ブロックコポリマーはLLZO前駆体溶液又はLCO前駆体溶液のいずれに添加してもよい。
【0048】
また、本発明においては、ポリマーブロック成分中に無機前駆体を確実に導入するために、ポリアミン類(モノアミン、ジアミン、トリアミン、テトラアミン)等のアミノ基を有する化合物を原料溶液に添加してもよい。特に、ベンゼンジアミン(1,4−フェニレンジアミン)等の芳香族アミノ基を有するアミン化合物(芳香族アミン化合物)を複素環式化合物の前駆体として原料溶液に添加することが好ましい。このようなアミノ基を有する化合物を添加することによって、アミノ基を有する化合物がポリマーブロック成分の一部となるため、無機前駆体と非共有結合可能な部位をポリマーブロック成分に選択的に導入することができる。
【0049】
[第二の工程:電極材形成工程]
この工程は、以下に詳述する相分離処理と変換処理と除去処理とを含み、LLZOとLCOとからなるナノヘテロ構造を有する電極材を調製する工程である。
【0050】
先ず、前記第一の工程において調製された原料溶液は、ブロックコポリマー、LLZO前駆体及びLCO前駆体を含むものであるが、本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分とLLZO前駆体及びLCO前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて使用する。特に、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて使用することが好ましい。これにより、第一無機前駆体及び第二無機前駆体はそれぞれ第一ポリマーブロック成分中及び第二ポリマーブロック成分中に十分に導入された状態で存在する。そのため、ブロックコポリマーの自己組織化により所望の構造のナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理により、第一無機前駆体が導入された第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と第二無機前駆体が導入された第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相とが規則的に配置し、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0051】
このような相分離処理としては、特に限定されないが、用いるブロックコポリマーのガラス転移点以上の温度で熱処理することにより、ブロックコポリマーは自己組織化され、相分離構造が得られる。
【0052】
また、本発明にかかるナノ相分離構造体においては、少なくとも数平均分子量が100×10以上(好ましくは250×10以上)の第一ポリマーブロック成分と数平均分子量が100×10以上(好ましくは250×10以上)の第二ポリマーブロック成分とが結合したものを使用しているため、図2に示すように、第一無機前駆体1aを構成する各無機前駆体が第一ポリマー相1b中にナノレベルで分散しており、第二無機前駆体2aを構成する各無機前駆体が第二ポリマー相2b中にナノレベルで分散している。具体的には、LLZO前駆体を構成するLi前駆体、La前駆体及びZr前駆体が一方のポリマー相中にナノレベルで分散しており、LCO前駆体を構成するLi前駆体及びCo前駆体が他方のポリマー相中にナノレベルで分散している。このように、本発明にかかるナノ相分離構造体においては、無機前駆体がナノレベルで分散しているため、後述する熱処理(焼成)によって、平均一次粒子径が小さい無機粒子が形成される。
【0053】
次に、本発明においては、相分離処理により形成されたナノ相分離構造体に対して、前記LLZO前駆体及び前記LCO前駆体をそれぞれLLZO及びLCOに変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とが施される。係る変換処理により前記LLZO前駆体及び前記LCO前駆体をそれぞれLLZO及びLCOに変換せしめると共に、係る除去処理によりブロックコポリマーを除去することによって、ナノ相分離構造の種類(形状)に応じてLLZO及びLCOのうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が球状、柱状、ジャイロイド状又は層状(好ましくは、柱状、ジャイロイド状又は層状)といった形状で三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置された構造を少なくとも一部に有するナノヘテロ構造体が得られる。
【0054】
また、本発明においては、上述したように、第一無機前駆体1aを構成する各無機前駆体が第一ポリマー相1b中にナノレベルで分散しており、第二無機前駆体2aを構成する各無機前駆体が第二ポリマー相2b中にナノレベルで分散しているため、前記変換処理により、平均一次粒子径が15〜25nm(好ましくは15〜20nm)である無機粒子からなるマトリックス中に、平均一次粒子径が15〜25nm(好ましくは15〜20nm)である無機粒子が、球状、柱状、ジャイロイド状又は層状(好ましくは、柱状、ジャイロイド状又は層状)といった形状で三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置された構造を少なくとも一部に有するナノヘテロ構造体が形成される。
【0055】
このような変換処理としては、前記無機前駆体が前記無機成分に変換される温度以上で加熱(焼成)して無機成分に変換する工程であってもよいし、前記無機前駆体を加水分解するとともに脱水縮合させて無機成分に変換する工程であってもよい。
【0056】
また、除去処理としては、ブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)することによってブロックコポリマーを分解する工程であってもよいが、溶媒によりブロックコポリマーを溶解して除去する工程や、紫外線等の光照射によりブロックコポリマーを分解する工程であってもよい。
【0057】
さらに、本発明における前記第二の工程においては、前記第一の工程において調製された原料溶液に対してブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)を施すことによって、前記相分離処理、前記変換処理及び前記除去処理を一度の熱処理で行うことができる。このように一度の熱処理により前記相分離処理、前記変換処理及び前記除去処理を完結させるためには、用いるブロックコポリマーや無機前駆体の種類によっても異なるが、450〜750℃で0.1〜50時間程度の熱処理を施すことが好ましい。
【0058】
また、このような熱処理は、酸化ガス雰囲気(例えば、空気等)中で行うことが好ましい。酸化ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめることにより、LLZO及びLCOを備えるナノヘテロ構造体を得ることができる。このような酸化ガス雰囲気中での熱処理の条件は特に制限されないが、450〜750℃で0.1〜50時間程度の処理が好ましい。
【0059】
さらに、本発明における前記第二の工程においては、前記熱処理を施す前に、前記ナノ相分離構造体が450℃未満の温度雰囲気にできる限り曝されないことが好ましい。前記熱処理を施す前に、前記ナノ相分離構造体が450℃未満の温度雰囲気に長時間曝されると、形成される無機粒子の平均一次粒子径が大きくなり、全固体リチウム二次電池の放電容量が小さくなる。従って、所定の平均一次粒子径を有する無機粒子からなるナノヘテロ構造体を得るためには、前記ナノ相分離構造体が450℃未満の温度雰囲気に曝される時間を6時間以下に抑えることが好ましく、1時間以下に抑えることがより好ましい。
【0060】
このようにして得られるナノヘテロ構造体は、その全てに、LLZO及びLCOのうちの一方の無機成分からなり、所定の平均一次粒子径を有する無機粒子からなるマトリックス中に、他方の無機成分からなる所定の平均一次粒子径を有する無機粒子が、三次元的且つ周期的に配置している構造(三次元的周期構造)が形成されていることが好ましいが、その少なくとも一部に前記三次元的周期構造が形成されていればよい。また、このようなナノヘテロ構造体は二次粒子により形成されていることが好ましい。
【0061】
本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法においては、前記第一の工程の後に、前記原料溶液を熱処理容器に装入して前記第二の工程を施し、前記ナノヘテロ構造体からなる電極材を形成してもよい。また、前記原料溶液を基材の表面に塗布した後、前記第二の工程を施して基材の表面に膜状のナノヘテロ構造体からなる電極材を直接形成してもよい。用いる基材の種類に特に限定はなく、得られる全固体リチウム二次電池用電極材の用途等に応じて適宜選択すればよい。また、原料溶液の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレー法、ディッピング法、スピン法、カーテンフロー法等が用いられる。
【0062】
また、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法においては、前記第二の工程において、ナノヘテロ構造体を得た後、これをプレス成形して電極材を形成することが好ましい。これにより、高密度(好ましくは2.0〜4.0g/cm)の電極材を得ることができる。なお、プレス成形によって高密度の電極材が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明にかかるナノヘテロ構造体においては、ポリマー成分由来のカーボンがナノヘテロ構造体中の二次粒子の表面に残存しやすい。このように表面にカーボンが付着した二次粒子はプレス成形によって固着しやすいため、バインダーを使用せずに二次粒子を高密着させることができ、その結果、高密度の電極材が形成されると推察される。
【0063】
プレス成形時の温度としては特に制限はないが、20〜150℃が好ましい。また、プレス成形時の圧力としては300〜1000MPaが好ましい。プレス成形時の圧力が前記下限未満になると、電極材の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、固着した二次粒子の破壊が生じ、二次粒子クラックが多数生じる傾向にある。
【0064】
また、本発明の全固体リチウム二次電池用電極材の製造方法においては、300MPa以上の圧力で高圧プレス成形することによって、十分な機械的強度を有する厚みが1000μm以上の電極材を形成することが可能となる。一方、圧力が前記下限未満の低圧プレス成形によって、厚みが1000μm以上の電極材を作製すると、十分な機械的強度が得られない傾向にある。なお、高圧プレス成形によって得られる、厚みが1000μm以上の電極材において、十分な機械的強度が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明にかかるナノヘテロ構造体を低圧プレスして得られる電極材においては、上述した二次粒子の固着が起こりにくいため、電極材の厚みの増加とともに、二次粒子の数が増加し、粒界の界面が増加する。この粒界の界面の増加が電極材の機械的強度の低下を引き起こすと推察される。一方、本発明にかかるナノヘテロ構造体を高圧プレス成形して得られる電極材においては、上述したカーボンの作用によりナノヘテロ構造体中の二次粒子が固着しやすいため、電極材の厚みが増加しても、二次粒子の粗大化により粒界の界面が減少し、電極材の機械的強度の低下が抑制される推察される。
【0065】
このようなプレス成形においては、本発明にかかるナノヘテロ構造体のみをプレス成形して本発明の電極材を製造してもよいが、本発明にかかるナノヘテロ構造体をアルミニウム円板やアルミニウム箔、リチウムイオン伝導体等の各種導電材とともにプレス成形することによって、導電材と本発明の電極材が一体化した全固体リチウム二次電池用部材を製造することも可能である。
【0066】
次に、本発明の全固体リチウム二次電池について説明する。本発明の全固体リチウム二次電池は、前記本発明の電極材を正極材として備えるものであり、具体的には、前記本発明の電極材と対極とによって電解質を挟持したリチウム二次電池である。前記対極及び電解質としては、公知のリチウム二次電池用の負極材及び電解質を使用することができる。
【0067】
また、本発明の全固体リチウム二次電池としては、図3に示すように、前記本発明の電極材を正極材として使用し、他のナノヘテロ構造体からなる電極材を負極材として使用した全固体リチウム二次電池が特に好ましい。このような全固体リチウム二次電池は、ヘテロ界面での電荷移動がスムーズに起こる本発明の電極材を正極材と負極材の両方に使用しているため、大きな放電容量を有する。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したブロックコポリマーの各ポリマーブロック成分の数平均分子量及びブロックコポリマーの分子量分布の測定方法を以下に示す。
【0069】
<ポリマーブロック成分の数平均分子量>
ポリマーブロック成分の数平均分子量は、プロトン核磁気共鳴法(H−NMR法)により第一ポリマーブロック成分の側鎖末端基のプロトン数と第二ポリマーブロック成分の側鎖末端基のプロトン数とを測定して重合度を算出することにより求めた(末端定量法)。具体的には、ポリスチレン−b−ポリビニルピリジン約20mgを重水素化クロロホルム(CDCl)約1mgに溶解し、H−NMR法により積算数256回の条件でポリスチレン成分のベンゼン環のプロトン数とポリビニルピリジン成分のピリジン環のプロトン数とを測定してポリスチレン成分及びポリビニルピリジン成分の重合度をそれぞれ算出し、これらの重合度から算出した分子量をそれぞれポリスチレン成分及びポリビニルピリジン成分の数平均分子量とした。
【0070】
<ブロックコポリマーの分子量分布>
ブロックコポリマーの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した。具体的には、ポリスチレン−b−ポリビニルピリジンをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、標準物質としてポリスチレンを使用して、GPC法により標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定して、ポリスチレン−b−ポリビニルピリジンの分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0071】
比較例1
アルゴン雰囲気下、トルエン48mlに、ポリマーブロック成分に無機前駆体と非共有結合可能な部位を導入するための化合物として1,4−フェニレンジアミン1.6019g(14.8mmol)を添加し、室温で2時間撹拌した。得られた溶液にCo前駆体として二コバルトオクタカルボニル(Co(CO))0.3108g(0.909mmol)を添加して室温で2時間撹拌した後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)30ml及びLi前駆体としてリチウムフェノキシド(PhOLi)0.4875g(4.87mmol)を更に添加して室温で2時間撹拌し、無機前駆体溶液Aを得た。なお、無機前駆体溶液A中のLi前駆体は、LiCoO(LCO)の原料だけでなく、LiLaZr12(LLZO)の原料にもなるため、Co前駆体の量に対して過剰に含まれている。
【0072】
また、テトラヒドロフラン(THF)約5mlに、ブロックコポリマーとしてポリスチレン成分の数平均分子量が110×10、ポリ(4−ビニルピリジン)成分の数平均分子量が107×10のポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS(110K)−b−P4VP(107K)、Mw/Mn=1.15)0.3gを添加し、室温で約5時間撹拌した後、得られた溶液に、ドラフト内で、大気中、室温で10時間以上の乾燥処理を施した。乾燥処理後のブロックコポリマー溶液に、アルゴン雰囲気下、トルエン30mlを添加して室温で2時間撹拌した後、Zr前駆体としてテトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)(Zr(CHCOCHCOCH)0.174g(0.357mmol)を添加して室温で2時間撹拌し、さらに、La前駆体としてトリス(ジイソブチリルメタナト)ランタン(III)(La(C15)1.254g(2.21mmol)を添加して室温で2時間撹拌し、PS(110K)−b−P4VP(107K)を含有する無機前駆体溶液Bを得た。
【0073】
その後、アルゴン雰囲気下で、前記無機前駆体溶液Aと前記無機前駆体溶液Bを混合して2時間撹拌し、原料溶液を得た。なお、この原料溶液中のLCO前駆体1molに対するLLZO前駆体の量は0.111molである。得られた原料溶液をルツボに入れ、マッフル炉を用いて、窒素気流下、室温で10時間以上の乾燥処理を施した後、450℃で6時間(室温から450℃までの昇温は1時間以内)、次に750℃で6時間加熱して焼成処理を行い、さらに、大気中、750℃で6時間加熱して追加焼成処理を行うことにより、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなる無機粉末を得た。
【0074】
得られた無機粉末のX線回折パターンを粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR」)を用いて測定し、LCO及びLLZOが形成されていることを確認した。
【0075】
また、得られた無機粉末について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なったところ、LLZO粒子は一様に分布し、LCO粒子は凝集して分布しており、LLZO粒子からなるマトリックス中にLCO粒子が三次元的かつ周期的に配置していることを確認した。
【0076】
さらに、得られたSTEM画像とEDX元素マッピングとを対応させながら、LCO一次粒子(Coにより判別)とLLZO一次粒子(La及びZrにより判別)をそれぞれ無作為に25個ずつ抽出した。各一次粒子において最大径と最小径を測定して算術平均し、これをその一次粒子の直径とし、さらに、LCO一次粒子及びLLZO一次粒子それぞれについて、25個の一次粒子の直径を算術平均して、平均一次粒子径を求めた。その結果、LCO粒子の平均一次粒子径は20.5nmであり、LLZO粒子の平均一次粒子径は19.4nmであった。なお、この方法による測定誤差は、最大値と最小値を考慮すると±5nm程度である。
【0077】
以上の結果から、得られた無機粉末は、平均粒子径が15〜25nmであるLLZO粒子からなるマトリックス中に、平均粒子径が15〜25nmであるLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.111モル)であることが確認された。
【0078】
実施例1
ブロックコポリマーとして、ポリスチレン成分の数平均分子量が350×10、ポリ(4−ビニルピリジン)成分の数平均分子量が450×10のポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS(350K)−b−P4VP(450K)、Mw/Mn=1.15)0.3gを用いた以外は比較例1と同様にして原料溶液を調製した。この原料溶液をルツボに入れ、マッフル炉を用いて、窒素気流下、室温で、10時間以上の乾燥処理を施した後、450℃で6時間(室温から450℃までの昇温は1時間以内)、次に750℃で6時間加熱して焼成処理を行うことにより、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなる無機粉末を得た。
【0079】
比較例1と同様に、得られた無機粉末のX線回折パターンを測定し、LCO及びLLZOが形成されていることを確認した。また、比較例1と同様に、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察及びエネルギー分散型X線(EDX)分光分析により、得られた無機粉末においては、LLZO粒子からなるマトリックス中にLCO粒子が三次元的かつ周期的に配置していることを確認した。さらに、比較例1と同様に、平均一次粒子径を求めたところ、LCO粒子の平均一次粒子径は16.4nmであり、LLZO粒子の平均一次粒子径は18.2nmであった。
【0080】
以上の結果から、得られた無機粉末は、平均粒子径が15〜25nmでLLZO粒子からなるマトリックス中に、平均粒子径が15〜25nmであるLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.111モル)であることが確認された。
【0081】
比較例2
比較例1と同様にして調製した原料溶液をルツボに入れ、マッフル炉を用いて、窒素気流下、室温で、10時間以上の乾燥処理を施した後、180℃で6時間、次に300℃で6時間加熱して予備焼成処理を行なった。その後、450℃で6時間、次に750℃で6時間加熱して焼成処理を行い、さらに、大気中、750℃で6時間加熱して追加焼成処理を行うことにより、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなる無機粉末を得た。
【0082】
比較例1と同様に、得られた無機粉末のX線回折パターンを測定し、LCO及びLLZOが形成されていることを確認した。また、比較例1と同様に、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察及びエネルギー分散型X線(EDX)分光分析により、得られた無機粉末においては、LLZO粒子からなるマトリックス中にLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置していることを確認した。さらに、比較例1と同様に、平均一次粒子径を求めたところ、LCO粒子の平均一次粒子径は22.0nmであり、LLZO粒子の平均一次粒子径は20.3nmであった。
【0083】
以上の結果から、得られた無機粉末は、平均粒子径が15〜25nmであるLLZO粒子からなるマトリックス中に、平均粒子径が15〜25nmであるLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.111モル)であることが確認された。
【0084】
比較例3
テトラヒドロフラン(THF)400mlに、ブロックコポリマーとしてポリスチレン成分の数平均分子量が40.5×10、ポリ(2−ビニルピリジン)成分の数平均分子量が40×10のポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)(PS(40.5K)−b−P2VP(40K)、Mw/Mn=1.14)2gと、LLZO前駆体のLi前駆体としてサリチル酸リチウム(C(OH)COOLi)0.483g(3.35mmol)、La前駆体としてトリス(2,4−ペンタンジオナト)ランタン(III)水和物(La(CHCOCHCOCH・xHO)0.642g(1.47mmol)、及びZr前駆体としてテトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)(Zr(CHCOCHCOCH)0.522g(1.07mmol)と、LCO前駆体のLi前駆体としてサリチル酸リチウム(C(OH)COOLi)1.384g(9.61mmol)、及びCo前駆体としてコバルトカルボニル(Co(CO))0.937g(2.74mmol)とを溶解して原料溶液を得た。なお、この原料溶液中のLCO前駆体1モルに対するLLZO前駆体の量は0.1モルである。
【0085】
得られた原料溶液を、窒素雰囲気下、90℃で、6時間加熱して乾燥させた後、管状炉中、窒素雰囲気下、180℃で6時間、次に300℃で6時間、次に450℃で6時間、次に650℃で6時間加熱して焼成処理を行い、さらに、大気中、650℃で5時間加熱して追加焼成処理を行うことにより、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなる無機粉末を得た。
【0086】
比較例1と同様に、得られた無機粉末のX線回折パターンを測定し、LCO及びLLZOが形成されていることを確認した。また、比較例1と同様に、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察及びエネルギー分散型X線(EDX)分光分析により、得られた無機粉末においては、LLZO粒子からなるマトリックス中にLCO粒子が三次元的かつ周期的に配置していることを確認した。さらに、比較例1と同様に、平均一次粒子径を求めたところ、LCO粒子の平均一次粒子径は65.0nmであり、LLZO粒子の平均一次粒子径は50.0nmであった。
【0087】
以上の結果から、得られた無機粉末は、平均粒子径が25nmを超えるLLZO粒子からなるマトリックス中に、平均粒子径が25nmを超えるLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.111モル)であることが確認された。
【0088】
比較例4
ブロックコポリマーとして、ポリスチレン成分の数平均分子量が20.5×10、ポリ(4−ビニルピリジン)成分の数平均分子量が36×10のポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS(20.5K)−b−P4VP(36K)、Mw/Mn=1.13)0.3gを用いた以外は比較例1と同様にして原料溶液を調製した。この原料溶液を用いた以外は比較例1と同様にして、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなる無機粉末を得た。
【0089】
比較例1と同様に、得られた無機粉末のX線回折パターンを測定し、LCO及びLLZOが形成されていることを確認した。また、比較例1と同様に、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察及びエネルギー分散型X線(EDX)分光分析により、得られた無機粉末においては、LLZO粒子からなるマトリックス中にLCO粒子が三次元的かつ周期的に配置していることを確認した。さらに、比較例1と同様に、平均一次粒子径を求めたところ、LCO粒子の平均一次粒子径は30.7nmであり、LLZO粒子の平均一次粒子径は25.5nmであった。
【0090】
以上の結果から、得られた無機粉末は、平均粒子径が25nmを超えるLLZO粒子からなるマトリックス中に、平均粒子径が25nmを超えるLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.111モル)であることが確認された。
【0091】
比較例5
ブロックコポリマーとして、ポリスチレン成分の数平均分子量が20.5×10、ポリ(4−ビニルピリジン)成分の数平均分子量が36×10のポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS(20.5K)−b−P4VP(36K)、Mw/Mn=1.13)0.3gを用いた以外は比較例1と同様にして原料溶液を調製した。この原料溶液を用いた以外は比較例2と同様にして、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなる無機粉末を得た。
【0092】
比較例1と同様に、得られた無機粉末のX線回折パターンを測定し、LCO及びLLZOが形成されていることを確認した。また、比較例1と同様に、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察及びエネルギー分散型X線(EDX)分光分析により、得られた無機粉末においては、LLZO粒子からなるマトリックス中にLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置していることを確認した。さらに、比較例1と同様に、平均一次粒子径を求めたところ、LCO粒子の平均一次粒子径は52.4nmであり、LLZO粒子の平均一次粒子径は34.3nmであった。
【0093】
以上の結果から、得られた無機粉末は、平均粒子径が25nmを超えるLLZO粒子からなるマトリックス中に、平均粒子径が25nmを超えるLCO粒子が、三次元的かつ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.111モル)であることが確認された。
【0094】
<電池特性>
金型(φ14mm×10mm)にアルミニウム円板(φ13.8mm×0.5mm)を入れ、その上に実施例又は比較例で得られた前記無機粉末5〜15mgを充填し、常温、5MPaで冷間プレスを行い、種々の厚みの電極材を作製した。得られた電極材を正極材として、リチウム金属箔(φ14mm×0.4mm)を負極材として用いてこれらの電極材によりポリエチレンオキサイド(PEO)にリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をドーピングしたポリマー電解質(φ14mm×1mm)を挟持し、電池セルを作製した。この電池セルの放電容量をサイクリックボルタメトリ法(CV法)により測定した。すなわち、掃引速度0.05mV/秒で電位を3Vから4.2Vの範囲で掃引し、各電位における電流を測定した。得られた電流値を測定時間に対して数値積分し、これを放電容量とした。なお、この方法で求めた放電容量は、通常の定電流電圧法(CC−CV法)比べて1/2程度になる。電極材(正極材)の厚み(アルミニウム円板部分を除く)と放電容量との関係を図4に示す。
【0095】
図4に示した結果から明らかなように、電極材の厚みが同じ場合、LCO及びLLZOの平均一次粒子径が25nm以下の電極材(実施例1及び比較例1〜2)を備える電池セルの放電容量は、LCO及びLLZOの平均一次粒子径が25nmを超える電極材(比較例3〜5)に比べて、増加することがわかった。また、LCO及びLLZOの平均一次粒子径が小さくなるにつれて放電容量が増加する傾向にあることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明によれば、LiLaZr12及びLiCoOのうちの一方の無機成分からなり、所定の平均一次粒子径を有する無機粒子からなるマトリックス中に、他方の無機成分からなる所定の平均一次粒子径を有する無機粒子が、三次元的に所定のナノスケールで周期的に配置しているナノヘテロ構造を有する電極材を得ることが可能となる。
【0097】
そして、このような本発明の電極材は、球状構造、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造といったナノ構造を有するものであり、LiLaZr12とLiCoOとの組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケール等を様々に制御したナノヘテロ構造体として得ることが可能である。
【0098】
このようなナノヘテロ構造を有する電極材は、界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性等の飛躍的な向上が発揮され、全固体リチウム二次電池の放電容量を更に増加させることができる。したがって、本発明の電極材は、電解質が固体である全固体リチウム二次電池の正極材として有用である。
【符号の説明】
【0099】
1a:第一無機前駆体、1b:第一ポリマー相、2a:第二無機前駆体、2b:第二ポリマー相、11:正極材、12:負極材、13:電解質、14,15:集電体、16:外部電気機器、111:LLZO、112:LCO、121:リチウムイオン伝導体、122:負極活物質。
図1
図2
図3
図4