特許第6764580号(P6764580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6764580チョップド繊維束の製造装置および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764580
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】チョップド繊維束の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 3/02 20060101AFI20200928BHJP
   D06H 7/00 20060101ALI20200928BHJP
   B26D 1/22 20060101ALI20200928BHJP
   B29B 15/08 20060101ALN20200928BHJP
【FI】
   B26D3/02
   D06H7/00
   B26D1/22
   !B29B15/08
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-197089(P2016-197089)
(22)【出願日】2016年10月5日
(65)【公開番号】特開2018-58159(P2018-58159A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰幹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/002582(WO,A1)
【文献】 特開2009−114612(JP,A)
【文献】 特開平9−119025(JP,A)
【文献】 特開平6−108319(JP,A)
【文献】 特開2014−205942(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105121718(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 3/02
B26D 1/22
D06H 7/00 − 7/10
D01G 1/04
B29B 15/08
B26D 1/28
B26D 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール軸方向に複数の円盤刃が間隔をもって配列された回転されるカッターロールと、前記カッターロールのロール軸方向と平行に配置され前記カッターロールとの間に強化繊維糸条をニップ可能な回転されるニップロールと、前記ニップロールと前記カッターロールとの間へと強化繊維糸条を案内するガイドと、前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの少なくとも一方を、前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動させる往復動駆動機構とを備え、前記ガイドを介して前記ニップロールと前記カッターロールとの間に送り込まれる前記強化繊維糸条の糸道を、前記往復動駆動機構を介して前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動するように移動させながら、前記強化繊維糸条を前記カッターロールにより連続的に切断するチョップド繊維束の製造装置であって、前記往復動駆動機構に、前記強化繊維糸条の糸道の前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向の往復動のストロークの折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の移動速度を、該折り返し端部に至るまでの移動速度に対し増大させる、折り返し端部移動速度制御手段を設けたことを特徴とするチョップド繊維束の製造装置。
【請求項2】
前記折り返し端部移動速度制御手段は、前記折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の平均移動速度を、該折り返し端部に至るまでの平均移動速度に対し少なくとも1.5倍に増大させる、請求項1に記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項3】
前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの両方が独立に制御可能な前記往復動駆動機構を有し、前記折り返し端部移動速度制御手段は、前記折り返し端部においては両往復動駆動機構の作動を制御する、請求項1または2に記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項4】
前記折り返し端部移動速度制御手段は、前記折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の折り返しの瞬間およびその近傍のみ、前記ガイドの往復動駆動機構を作動させる、請求項3に記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項5】
前記カッターロールにおける隣接円盤刃間にスペーサーが設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項6】
前記強化繊維糸条が炭素繊維糸条からなる、請求項1〜5のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【請求項7】
ロール軸方向に複数の円盤刃が間隔をもって配列された回転されるカッターロールと、前記カッターロールのロール軸方向と平行に配置され前記カッターロールとの間に強化繊維糸条をニップ可能な回転されるニップロールと、前記ニップロールと前記カッターロールとの間へと強化繊維糸条を案内するガイドと、前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの少なくとも一方を、前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動させる往復動駆動機構とを備え、前記ガイドを介して前記ニップロールと前記カッターロールとの間に前記強化繊維糸条を送り込み、該送り込まれる前記強化繊維糸条の糸道を、前記往復動駆動機構を介して前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動するように移動させながら、前記強化繊維糸条を前記カッターロールにより連続的に切断するチョップド繊維束の製造方法であって、前記強化繊維糸条の糸道の前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向の往復動のストロークの折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の移動速度を、該折り返し端部に至るまでの移動速度に対し増大させることを特徴とする、チョップド繊維束の製造方法。
【請求項8】
前記折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の平均移動速度を、該折り返し端部に至るまでの平均移動速度に対し少なくとも1.5倍に増大させる、請求項7に記載のチョップド繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料として用いた場合、良好な含浸性、流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学物性を発現するチョップド繊維束を所望の形状に安定して製造することが可能なチョップド繊維束の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。その中でも、3次元形状等の複雑な形状に適した成形方法として、不連続の強化繊維(例えば、炭素繊維)の束状集合体(以下、繊維束ということもある。)とマトリックス樹脂からなる成形材料を用いて、加熱、加圧成形により、所望形状の成形品を製造する技術が知られており、SMC(シートモールディングコンパウンド)やスタンパブルシートを用いた成形等が主なものとして挙げられる。
【0003】
SMC成形品は、強化繊維の繊維束を例えば繊維長が25mm程度になるように繊維直交方向に切断してチョップド繊維束を作製し、該チョップド繊維束に熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を含浸せしめ半硬化状態としたシート状基材(SMC)を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧することにより得られる。スタンパブルシート成形品は、例えば25mm程度に切断したチョップド繊維束や連続の強化繊維よりなる不織布マット等に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状基材(スタンパブルシート)を一度赤外線ヒーターで熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、所定の温度の金型に積層して冷却加圧することにより得られる。多くの場合、加圧前にSMCやスタンパブルシートを成形体の形状より小さく切断して成形型上に配置し、加圧により成形体の形状に引き伸ばして(流動させて)成形を行う。これらは繊維が不連続であるため、樹脂と共に強化繊維束が自由に流動することができるので、3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。
【0004】
ところで、上述した不連続の強化繊維からなる繊維強化プラスチックの材料の性能を向上させる技術として、不連続繊維のカット角度を繊維方向に対して90°より小さくする知見に関する開示がある(例えば特許文献1〜3)。かかる開示には、斜めの切断面を有するチョップドストランドを用いることにより、樹脂とストランド端部接合面積が増大し、応力集中が回避され破壊強度が向上する。また、チョップドストランドが容易に単繊維にまで開繊し、樹脂とストランド接合面積が増大し、応力集中が回避され破壊強度が向上するといった効果が挙げられている。
【0005】
しかしながら、実際に強化繊維束を斜めに切断する方法について、特許文献1には具体的な方法は全く挙げられていない。
【0006】
特許文献2においては、回転ロール上に斜めに切断刃を配置した切断ロールが挙げられているが、形状が複雑なため製作費用が高くなり、また通常のカッターロールのように刃部分のみの交換もできないため、刃交換によるコストが非常に大きくなり、実際の生産に適用するには非現実的であった。特に、炭素繊維やアラミド繊維等の高強度繊維においては、繊維自身の強度が高いため刃の減耗が早く、この問題が顕著であった。
【0007】
特許文献3においては、通常のカッターロール同様、ロール周方向に直線刃を配置した形のカッターロールに、繊維糸条を傾けて導入する方法が挙げられており、この方式であれば刃部分のみの交換が可能であるため、上記の問題は回避される。ただこの方法において糸の繊維方向を斜め方向に維持しながら連続的にカットするためには、ロールの引っ張りにより糸の形状・繊維方向が変化してしまってはならず、糸を固めたり、平板上に固定したりする等の処理が必要であった。特許文献3では、樹脂含浸により繊維を固める方法が挙げられているが、コストの向上につながる等、好ましい方法とはいえない。また、斜め切りの効果は、その角度が小さいほど効果が大きくなるため、出来るだけ小さい角度に切断することが好ましいが、この方式ではカッター刃の切断方向が繊維糸条の引き込み方向に対して垂直であり、切断角度=(90°−繊維糸条の導入角度)となるため、小さな切断角度を得るためには導入角度を非常に大きくする必要があった。例えば切断角度5°の繊維束を得ようとすると、繊維糸条の糸道を85°傾けてカッターロールに導入する必要があり、これはカッターの回転軸に対して繊維糸条方向をほぼ平行にしながら導入することを意味しており、このような角度で繊維糸条の形状を保ちつつ、導入角度を一定にして連続的に導入することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−165739号公報
【特許文献2】特開2009−114611号公報
【特許文献3】特開2009−114612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記のような問題点に着目し、簡便な装置で、強化繊維糸条を連続的に斜め切断でき、かつ、より小さい角度での斜め切断を可能とし、しかもその斜め切断により得られるチョップド繊維束を所望の形状に安定して製造することが可能なチョップド繊維束の製造装置および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るチョップド繊維束の製造装置は以下の構成を有する。
(1)ロール軸方向に複数の円盤刃が間隔をもって配列された回転されるカッターロールと、前記カッターロールのロール軸方向と平行に配置され前記カッターロールとの間に強化繊維糸条をニップ可能な回転されるニップロールと、前記ニップロールと前記カッターロールとの間へと強化繊維糸条を案内するガイドと、前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの少なくとも一方を、前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動させる往復動駆動機構とを備え、前記ガイドを介して前記ニップロールと前記カッターロールとの間に送り込まれる前記強化繊維糸条の糸道を、前記往復動駆動機構を介して前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動するように移動させながら、前記強化繊維糸条を前記カッターロールにより連続的に切断するチョップド繊維束の製造装置であって、前記往復動駆動機構に、前記強化繊維糸条の糸道の前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向の往復動のストロークの折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の移動速度を、該折り返し端部に至るまでの移動速度に対し増大させる、折り返し端部移動速度制御手段を設けたことを特徴とするチョップド繊維束の製造装置。
(2)前記折り返し端部移動速度制御手段は、前記折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の平均移動速度を、該折り返し端部に至るまでの平均移動速度に対し少なくとも1.5倍に、好ましくは少なくとも2倍に増大させる、(1)に記載のチョップド繊維束の製造装置。
(3)前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの両方が独立に制御可能な前記往復動駆動機構を有し、前記折り返し端部移動速度制御手段は、前記折り返し端部においては両往復動駆動機構の作動を制御する、(1)または(2)に記載のチョップド繊維束の製造装置。
(4)前記折り返し端部移動速度制御手段は、前記折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の折り返しの瞬間およびその近傍のみ、前記ガイドの往復動駆動機構を作動させる、(3)に記載のチョップド繊維束の製造装置。
(5)前記カッターロールにおける隣接円盤刃間にスペーサーが設けられている、(1)〜(4)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
(6)前記強化繊維糸条が炭素繊維糸条からなる、(1)〜(5)のいずれかに記載のチョップド繊維束の製造装置。
【0011】
また、本発明に係るチョップド繊維束の製造方法は以下の構成を有する。
(7)ロール軸方向に複数の円盤刃が間隔をもって配列された回転されるカッターロールと、前記カッターロールのロール軸方向と平行に配置され前記カッターロールとの間に強化繊維糸条をニップ可能な回転されるニップロールと、前記ニップロールと前記カッターロールとの間へと強化繊維糸条を案内するガイドと、前記カッターロールと前記ニップロール、前記ガイドの少なくとも一方を、前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動させる往復動駆動機構とを備え、前記ガイドを介して前記ニップロールと前記カッターロールとの間に前記強化繊維糸条を送り込み、該送り込まれる前記強化繊維糸条の糸道を、前記往復動駆動機構を介して前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向に往復動するように移動させながら、前記強化繊維糸条を前記カッターロールにより連続的に切断するチョップド繊維束の製造方法であって、前記強化繊維糸条の糸道の前記カッターロールのロール軸方向と平行な方向の往復動のストロークの折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の移動速度を、該折り返し端部に至るまでの移動速度に対し増大させることを特徴とする、チョップド繊維束の製造方法。
(8)前記折り返し端部における前記強化繊維糸条の糸道の平均移動速度を、該折り返し端部に至るまでの平均移動速度に対し少なくとも1.5倍に、好ましくは少なくとも2倍に増大させる、請求項7に記載のチョップド繊維束の製造方法。
【0012】
なお、本発明において、上述の「折り返し端部」とは、「強化繊維糸条の糸道が、複数の円盤刃の配列方向における終端の円盤刃の位置から強化繊維糸条の糸道の往復動の折り返し点を経由して再びその終端の円盤刃の位置に戻るまでの、強化繊維糸条の糸道が移動するカッターロールのロール軸方向部分」のことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便な装置および方法で、強化繊維糸条を連続的に斜め切断でき、かつ、より小さい角度での斜め切断を可能とし、しかも、その斜め切断により得られるチョップド繊維束を所望の形状に安定して製造することが可能なチョップド繊維束の製造装置および製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置および製造方法の一実施態様を示す概略構成図である。
図2】カッターロールに取り付けた円盤刃と、円盤刃によって切断される強化繊維糸条とのなす角度との関係を示す概略構成図である。
図3】チョップド繊維束の切断長を示す図2の部分拡大図である。
図4】本発明を実施するための糸道の往復動動作の一例を示す概略構成図である
図5】本発明を実施するためのカッターロールの構成の一例を示す概略構成図である。
図6】本発明を実施するためのカッターロールとニップロールのニップ部の一例を示す拡大概略構成図である。
図7】本発明を実施するためのカッターロールの折り返し端部における糸道の様子の一例を示す概略構成図である。
図8】本発明を実施するためのカッターロールの折り返し端部近傍におけるカッターロールとガイドの動作の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
<チョップド繊維束の製造装置の全体構成>
まず、本発明におけるチョップド繊維束の製造に用いる製造装置の全体構成と製造方法の概略について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施態様に係るチョップド繊維束の製造装置100の全体構成を示しており、該製造装置100は、ロール本体11の外周に、ロール本体41の回転軸と中心軸が一致するように、ロール軸方向X−Xに複数の円盤刃12が間隔をもって配列された回転されるカッターロール10と、カッターロール10のロール軸方向X−Xと平行に配置されカッターロール10との間に強化繊維糸条1(複数の連続強化繊維の束からなる強化繊維糸条)をニップ可能な回転されるニップロール20と、ニップロール20とカッターロール10との間へと強化繊維糸条1を案内するガイド30と、を有している。カッターロール10とニップロール20のセット、ガイド30の少なくとも一方には、これらをカッターロール10のロール軸方向X−Xと平行な方向に往復動させる往復動駆動機構が設けられている。図示例では、カッターロール10とニップロール20のセットを往復動させる往復動駆動機構(A)41と、ガイド30を往復動させる往復動駆動機構(B)42の両方が設けられている。
【0016】
ガイド30を介してニップロール20とカッターロール10との間に送り込まれる強化繊維糸条1の糸道が、往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42の少なくとも一方を介してカッターロール10のロール軸方向X−Xと平行な方向に往復動するように移動されながら、強化繊維糸条1がカッターロール10により連続的に切断されてチョップド繊維束50が製造される。往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42はそれぞれ独立に駆動制御されることが好ましい。図1に示す状態では、往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42の少なくとも一方の作動により、強化繊維糸条1の糸道が、カッターロール10とニップロール20のセットに対し、相対的に矢印Aの方向に移動されている。強化繊維糸条1の糸道が、カッターロール10とニップロール20のセットに対し、斜めに進入されることにより、強化繊維糸条1がカッターロール10により連続的に斜めに切断されて、両端部が斜め切断されたチョップド繊維束50が得られる。
【0017】
上記往復動駆動機構(A)41および/または往復動駆動機構(B)42には(図示例では、往復動駆動機構(A)41と往復動駆動機構(B)42の両方に対して)、強化繊維糸条1の糸道のカッターロール10のロール軸方向X−Xと平行な方向の往復動のストロークの折り返し端部における強化繊維糸条1の糸道の移動速度を、該折り返し端部に至るまでの移動速度に対し増大させる、折り返し端部移動速度制御手段43が設けられている。折り返し端部移動速度制御手段43による折り返し端部における強化繊維糸条1の糸道の移動動作例の詳細については後述する。
【0018】
<カッターロールとニップロール>
カッターロール10は、ロール本体11と円盤刃12より形成されるロール状回転体全体を指し、ロール表面に円盤刃12の刃部が突出した形状を有する。円盤刃12は、ロール本体11の外周部分に固定もしくは一体化されていてもよいが、刃のメンテナンスの観点から、着脱可能であることが好ましい。またニップロール20は、カッターロール10に隣接もしくは接触するように、カッターロール10の回転軸方向と略平行に設置され、比較的平坦な表面形状を有する。ニップロール20、カッターロール10の材質としては、特に限定されるものではないが、ゴム、ウレタン等の弾力性のある材質を用いると、強化繊維糸条1をグリップする力を向上させることができる。特に、ニップロール20に弾力性のある材質を用いると、カッターロール10との密着性が向上するため、強化繊維糸条1の切断が確実に行われやすくなる。
【0019】
<強化繊維糸条>
本発明に用いる強化繊維糸条1は、特に限定されるものではないが、円盤刃12の減耗が早く頻繁に円盤刃12の交換の必要がある高強度の強化繊維、その中でも特に硬度の高い炭素繊維の場合に、本発明は好適である。
【0020】
<切断手順の全容>
強化繊維糸条1は、ガイド30に導かれるが、その糸道がカッターロール10とニップロール20のセットに対し相対的に左右に往復動されながら、カッターロール10と、その対となるニップロール20との間に挟み込まれ、カッターロール10の表面に突出した円盤刃12によって、チョップド繊維束50の形に切断される。ニップロール20はカッターロール10と常に接触しており、例えば、カッターロール10が駆動することによりニップロール20も摩擦で従動する。また、この場合ニップロール20を駆動、カッターロール10をフリーとして従動させても構わない。また、スリップ等により摩擦でうまく従動しないような場合であれば、ニップロール20、カッターロール10の両方を駆動させてもよい。
【0021】
<強化繊維糸条への張力付与>
強化繊維糸条1は、カッターロール10とニップロール20との間に挟まれ、カッターロール10および/またはニップロール20の回転により引き込まれ、張力が付与される。これにより、ガイド30とニップロール20との間で強化繊維糸条1は所定の角度を保ったまま固定される。したがって、強化繊維糸条1をガイド等により固定したり、強化繊維糸条1に樹脂を含浸させる等してあらかじめ固化したりする等の特別な処理をすることなく、直接カットすることが出来る。
【0022】
<角度調整の説明>
次に、強化繊維糸条1をチョップド繊維束50に切断する際の角度について、図2を用いて説明する。ガイド20の移動速度とカッターロール10のロール軸方向の移動速度との相対速度により、強化繊維糸条1はカッターロール10上の円盤刃12に対し、角度θ[°]をもって進入し、切断される。その結果、角度θ[°]を有する平行四辺形形状のチョップド繊維束50が形成される。なお、角度θ[°]は、円盤刃12と強化繊維糸条1とのなす角度のうち、鋭角の角度として規定する。
【0023】
ここで、V[m/分]は強化繊維糸条1を案内するガイド30の移動速度と、カッターロール10のロール軸方向の移動速度との相対速度、つまり、強化繊維糸条1の糸道のカッターロール10に対する相対移動速度を示し、Rω[m/分]はカッターロール10の周速を示し、角度θ[°]はこの両者の関係により決定される。つまり、これらの速度を適宜変化させることにより、円盤刃12を交換することなく、角度θ[°]を随時容易に、しかも無段階的にコントロールすることが可能である。
【0024】
また、相対速度V[m/分]を任意に変動させることにより、角度θ[°]の変更を連続的に行うことができる。このような切断方法を活用すれば、種々の角度θ[°]を有するストランドを混在させることも可能である。なかでも、往復動駆動機構(A)41と往復動駆動機構(B)42の少なくとも一方の速度を任意に調整する機構を設けておくと、相対速度V[m/分]を容易に変動させることができる。
【0025】
また、相対速度V[m/分]に対して周速Rω[m/分]を大きくしたり、相対速度V[m/分]自身を小さい値に調整したりすることにより、角度θ[°]のきわめて小さい,例えばθ<5°のようなチョップド繊維束を得ることが可能である。このような切断角度θ[°]のきわめて小さいチョップド繊維束は、例えば不連続繊維強化プラスチックに適用した際、その強度向上を図ることができる。
【0026】
<切断長の説明>
強化繊維糸条1の切断長は、図3に示すように、円盤刃12の間隔がP[mm]で、強化繊維糸条1が角度θ[°]で進入した場合、強化繊維糸条1の切断長はP/sinθ[mm]となる。すなわち、角度θ[°]を変化させるだけで、円盤刃12の間隔P[mm]を変更することなく、切断長を任意に、しかも無段階的にコントロールすることが可能である。
【0027】
<往復動ターン時の制御>
図4に示すようにガイド30に案内される強化繊維糸条1が往復動においてカッターロール10の端部まで達したとき、往復動方向を切り替えることで、連続して強化繊維糸条1を切断することができる。例えばガイド30が往復動されている場合、ガイド30が端部でターンし、逆方向に折り返すことにより、切断角度はθ[°]から−θ[°]へと変化する。ここで、−θ[°]は、円盤刃12に対して左右が異なる向きであることを示すものである。折り返し前後で相対速度V[m/分]が一定の場合、切り出されるチョップド繊維束50、52は互いに線対称の形となり、切断長、切断角度は実質同一となる。これを強化繊維糸条1がロール端部に達するごとに繰り返すことにより、切れ目無く、連続的に効率よく行うことが可能となる。
【0028】
上記動作において、ガイド30のターン時、切断角度をθ[°]から−θ[°]へと切り替える過程で、角度θ[°]が0°に近づき、切断長がP/sinθ[mm]より長くなるチョップド繊維束51が切り出される。切断長があまりに長くなり、通常時の切断長との差異が拡大してしまうと、品質の不均一を招く等の悪影響が考えられる。このようなチョップド繊維束51の繊維長を抑えるためにも、往復動のストロークの折り返し端部における強化繊維糸条1の糸道の移動速度が、折り返し端部移動速度制御手段43による制御により、折り返し端部に至るまでの移動速度に対して増大される。この制御例については後述する。
【0029】
次に、カッターロール10の構成の一例を図5に示す。外縁に刃が取り付けられ、中心に取付用の開口部を備えた円盤刃12と、同じく中心に取付用の開口部を備えた円盤形状のスペーサー13とを交互に並べ、円盤刃12およびスペーサー13の開口部にロール本体11を挿通させることにより、カッターロール10を構成することができる。このような構成とすれば、円盤刃12が損耗した場合、損耗した円盤刃12のみを交換すればよく、円盤刃12の交換に伴う作業時間の短縮、交換費用の低減が可能となる。特に、円盤刃12の減耗が早く頻繁に円盤刃12の交換の必要がある高強度の強化繊維、その中でも特に硬度の高い炭素繊維を切断する場合に好適である。また、この構成であれば、スペーサー13を交換もしくは並べ替えすることにより、円盤刃12の間隔を容易に、しかも正確に変更することができる。さらに、複数のカッターロール10を所有しなくても、1種類のカッターロール10にて様々な角度θ[°]、繊維長P/sinθ[mm]に対応することができる。またさらに、円盤刃12もしくはスペーサー13の直径を変更することにより、カッターロール10表面からの刃の突出量を変化させることが可能となる。これによって様々な厚みの強化繊維糸条1に対応することが可能である。
【0030】
このような構成の場合、円盤刃12の形状が非常に単純になることから、円盤刃12の材料として加工の難しいハイス鋼等高硬度の材料を選定することができる。また、スペーサー13についても、同様の理由で様々な材質を用いることができる。
【0031】
上記のように構成されたカッターロール10とニップロール20との間に強化繊維糸条1が送り込まれて切断されるが、ニップされて切断される強化繊維糸条1は、例えば図6に示すようになる。すなわち、強化繊維糸条1は、カッターロール10とニップロール20との間に確実にニップされ、必要な円盤刃12が使用されて、送り込まれてくる強化繊維糸条1が連続的に切断されていく。
【0032】
次に、本発明における往復動の折り返し端部での動作制御について説明する。図7に示すように、強化繊維糸条1の糸道がカッターロール10の端部に達し、その往復動の動作方向が折り返される折り返し端部においては、端部の円盤刃12により切断されるチョップド繊維束53の繊維長が長くなる傾向にある。特にカッターロール10側が往復動駆動機構(A)41によって往復動される場合、カッターロール10側の重量(質量)が大きくなると、その慣性のため、迅速な折り返しが困難になる場合があり、それに伴って強化繊維糸条1の糸道の迅速な折り返しが困難になる場合がある。このような場合に、折り返し端部移動速度制御手段43により、往復動駆動機構(A)41および/または往復動駆動機構(B)42による往復動のストロークの折り返し端部における強化繊維糸条1の糸道の移動速度を、該折り返し端部に至るまでの移動速度に対し増大させる(少なくとも1.5倍に増大させる、好ましくは2倍以上に増大させる)制御を行うことにより、糸道の迅速な折り返しの実現が可能になり、繊維長を短縮したチョップド繊維束54の形成が可能になる。カッターロール10側の重量(質量)が大きくなる
【0033】
強化繊維糸条1を斜め切断するために強化繊維糸条1の糸道をカッターロール10のロール軸方向に往復動させる場合、ガイド30を通過する強化繊維糸条1を極力安定した形態に保つためには、カッターロール10側を(つまり、カッターロール10とニップロール20のセットを)往復動駆動機構(A)41により往復動させることが好ましい。しかし、往復動駆動機構(A)41のみにより強化繊維糸条1の糸道を往復動させると、上述の如く、特にカッターロール10側の重量(質量)が大きくなると、往復動の折り返し端部において迅速な折り返しが困難になる場合がある。このような場合には、往復動駆動機構(B)42も併用してガイド30にも好ましい動作を行わせることにより、折り返し端部における糸道の迅速な折り返しの実現が可能になる。
【0034】
これを考慮して、図8に、カッターロール10とニップロール20のセットをカッターロール10で代表して示し、そのカッターロール10側の強化繊維糸条1の糸道の往復動の折り返し端部近傍における、カッターロール10とガイド30の動作の一例を示す。
【0035】
図8において、折り返し端部に至るまでの往復動位置である通常横行時(1)においては、往復動駆動機構(B)42は作動されずにガイド30は往復動されず予め定められた所定の位置(例えば、カッターロール10のロール軸方向中央位置)に位置固定され、カッターロール10側のみ往復動駆動機構(A)41の作動により往復動され、それによって強化繊維糸条1の糸道がカッターロール10側に対して相対的に往復動される。ガイド30が往復動されずに位置固定されることにより、ガイド30を通過される強化繊維糸条1の形態が安定する。図8(1)における矢印の長さは、カッターロール10側の移動速度の大きさを表している。以下の図8(2)〜(5)においても、同様に、図における矢印の長さは、カッターロール10側またはガイド30の移動速度の大きさを表す。
【0036】
強化繊維糸条1の糸道が往復動の折り返し端部に近づくと、カッターロール10側の移動速度が減速され、ガイド30がカッターロール10側の移動方向と逆方向に移動開始される(図8(2))。ガイド30とカッターロール10側の移動方向が逆方向のカウンター動作となるため、ガイド30とカッターロール10側の移動にプラス側、マイナス側を考慮した速度差が付与され、折り返し端部において、強化繊維糸条1の糸道の往復動の移動速度の増大が可能となる。
【0037】
強化繊維糸条1の糸道の往復動のストロークが折り返し点に至ると、図8(3)に示すように、カッターロール10側の移動速度が瞬間的にゼロとなり、重量(質量)の小さいガイド30は、その移動速度が増速されるとともに往復動の折り返し点で急速に方向転換されて折り返される。ガイド30の移動速度の増速および急速な折り返しにより、強化繊維糸条1の糸道が迅速に屈曲され、迅速に折り返されて、図7に示したように繊維長を短縮しながら(繊維長が長くなるのを防止しながら)、切断により目標とするチョップド繊維束54(図7)が作製される。
【0038】
折り返し点が過ぎると、図8(4)に示すように、カッターロール10側の図8(2)に示したのとは反対側への移動が開始され、その移動速度が加速されるとともに、図8(3)で折り返されたガイド30の移動の速度が減速される。このときにも、ガイド30とカッターロール10側の移動方向が逆方向のカウンター動作となるため、ガイド30とカッターロール10側の移動にプラス側、マイナス側を考慮した速度差が付与され、強化繊維糸条1の糸道の往復動の移動速度が通常横行時の移動速度に近づけられる。
【0039】
折り返しが完了すると、あるいは、 折り返しが完了し折り返し端部からある程度遠ざかると、図8(5)に示すように、ガイド30の移動が停止されて図8(1)に示した元の位置に位置固定され、カッターロール10側の移動速度が通常横行時の速度に復帰される(図8(1)に示した移動方向とは逆方向)。このような折り返し端部における一連の移動速度の制御は、折り返し端部移動速度制御手段43を介して行われる。上記のような折り返し端部における移動速度の制御により、強化繊維糸条1の糸道の往復動のストロークの折り返し端部を含めた全域において、所望のチョップド繊維束の製造を安定して連続的に行うことが可能になる。
【0040】
なお、上記折り返し端部における動作例では、カッターロール10側とガイド30との両方の移動速度の制御を行うようにした、折り返し端部移動速度制御手段43により往復動駆動機構(A)41、往復動駆動機構(B)42のいずれか一方のみを制御し、上記折り返し端部において強化繊維糸条1の糸道の往復動方向の移動速度を増大させることも可能である。特にカッターロール10側の慣性がそれ程大きくない場合には、この方法の方が制御が簡素になる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、強化繊維糸条の斜め切断によりチョップド繊維束を連続的に安定して製造することが求められるあらゆる用途に適用でき、とくに強化繊維糸条が炭素繊維糸条である場合に好適なものである。
【符号の説明】
【0042】
1:強化繊維糸条
10:カッターロール
11:ロール本体
12:円盤刃
13:スペーサー
20:ニップロール
30:ガイド
41:往復動駆動機構(A)
42:往復動駆動機構(B)
43:折り返し端部移動速度制御手段
50、51、52、53、54:チョップド繊維束
100:チョップド繊維束の製造装置
θ:繊維のカット角度[°]
V:ガイドの移動速度に対する、カッターロールのロール軸方向の移動速度との相対速度[m/分]
Rω:カッターロールの周速[m/分]
P:円盤刃の配置ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8