特許第6764582号(P6764582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6764582樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、金属箔張積層板及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764582
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、金属箔張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20200928BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20200928BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20200928BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20200928BHJP
   C08L 61/18 20060101ALI20200928BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20200928BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20200928BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   C08L63/00 A
   C08K5/3415
   C08K5/3445
   C08J5/24CEZ
   C08J5/24CFC
   C08L61/18
   C08L61/06
   C08G59/32
   H01L23/14 R
【請求項の数】20
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-527446(P2017-527446)
(86)(22)【出願日】2016年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2016069755
(87)【国際公開番号】WO2017006898
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2019年5月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-135270(P2015-135270)
(32)【優先日】2015年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】富澤 克哉
(72)【発明者】
【氏名】濱嶌 知樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔平
(72)【発明者】
【氏名】志賀 英祐
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 環
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/061812(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/075654(WO,A1)
【文献】 特開2013−127022(JP,A)
【文献】 特開2012−197336(JP,A)
【文献】 特開2004−224817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08L 79/00
C08L 79/08
C08J 5/24
C08K 5/3415
C08K 5/3417
C08K 5/3445
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル置換ナジイミドと、マレイミド化合物と、エポキシ変性環状シリコーン化合物と、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中における前記アルケニル置換ナジイミドのアルケニル基数αと前記マレイミド化合物のマレイミド基数βとの比(β/α)が、0.9以上4.3以下である、樹脂組成物
【請求項2】
前記エポキシ変性環状シリコーン化合物として、脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ変性環状シリコーン化合物として、下記式(10)で表される化合物を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子又は置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示し、R'は、エポキシ基を有する有機基を示し、複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、R'が複数ある場合も互いに同一であっても異なっていてもよく、cは3〜5の整数を示し、dは0〜2の整数を示し、cとdとの和は3〜5の整数であり、各重合単位はランダムに重合してもよい。)
【請求項4】
前記エポキシ変性環状シリコーン化合物として、下記式(10c)で表される化合物を含む、請求項3に記載の樹脂組成物。
【化2】
【請求項5】
前記アルケニル置換ナジイミドとして、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化3】
(式中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜6のアルキレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、又は下記式(2)若しくは(3)で表される基を示す。)
【化4】
(式中、R3は、メチレン基、イソプロピリデン基、CO、O、S、又はSO2で表される置換基を示す。)
【化5】
(式中、R4は、それぞれ独立に選ばれた、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数5〜8のシクロアルキレン基を示す。)
【請求項6】
前記アルケニル置換ナジイミドとして、下記式(4)及び/又は(5)で表される化合物を含む、請求項5に記載の樹脂組成物。
【化6】
【化7】
【請求項7】
前記マレイミド化合物として、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン及び下記式(6)で表されるマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化8】
(式中、R5は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n1は1以上の整数を表す。)
【請求項8】
シアン酸エステル化合物を更に含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記シアン酸エステル化合物として、下記式(7)及び/又は(8)で表される化合物を含む、請求項8に記載の樹脂組成物。
【化9】
(式中、R6は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n2は1以上の整数を表す。)
【化10】
(式中、R7は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n3は1以上の整数を表す。)
【請求項10】
前記エポキシ変性環状シリコーン化合物以外のエポキシ化合物を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記エポキシ変性環状シリコーン化合物を、前記樹脂組成物中の樹脂を構成する成分の合計100質量部に対して1〜20質量部含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
更に無機充填材を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
更に下記式(11)で表されるイミダゾール化合物を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化11】
(式中、Arは、各々独立して、フェニル基、ナフタレン基、ビフェニル基若しくはアントラセン基又はそれらを水酸基で変性した1価の基を示し、R11は水素原子又はアルキル基若しくはそれを水酸基で変性した1価の基、あるいはアリール基を示す。)
【請求項14】
前記イミダゾール化合物が、2,4,5−トリフェニルイミダゾールである、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
基材と、該基材に含浸又は塗布された請求項1〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物と、を備えるプリプレグ。
【請求項16】
前記基材が、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス及び有機繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項15に記載のプリプレグ。
【請求項17】
支持体と、該支持体に塗布された請求項1〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物と、を備えるレジンシート。
【請求項18】
請求項15及び16に記載のプリプレグ、並びに請求項17に記載のレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種を1枚以上重ねてなる積層板であって、前記プリプレグ及び前記レジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む、積層板。
【請求項19】
請求項15及び16に記載のプリプレグ、並びに請求項17に記載のレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種と、前記プリプレグ及び前記レジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種の片面又は両面に配された金属箔と、を有する金属箔張積層板であって、前記プリプレグ及び前記レジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む金属箔張積層板。
【請求項20】
絶縁層と、前記絶縁層の表面に形成された導体層とを含むプリント配線板であって、前記絶縁層が、請求項1〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、金属箔張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機、パーソナルコンピューター等に広く用いられている半導体パッケージの高機能化、小型化が進むに従い、半導体パッケージ用の各部品の高集積化や高密度実装化が近年益々加速している。それに伴い、半導体素子と半導体プラスチックパッケージ用プリント配線板との熱膨張率の差によって生じる半導体プラスチックパッケージの反りが問題となっており、様々な対策が講じられてきている。
【0003】
その対策の一つとして、プリント配線板に用いられる絶縁層の低熱膨張化が挙げられる。これは、プリント配線板の熱膨張率を半導体素子の熱膨張率に近づけることで反りを抑制する手法であり、現在盛んに取り組まれている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
半導体プラスチックパッケージの反りを抑制する手法としては、プリント配線板の低熱膨張化以外にも、積層板の剛性を高くすること(高剛性化)や積層板のガラス転移温度を高くすること(高Tg化)が検討されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-216884号公報
【特許文献2】特許第3173332号公報
【特許文献3】特開2009−035728号公報
【特許文献4】特開2013−001807号公報
【特許文献5】特開2011−178992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の従来の手法によるプリント配線板の低熱膨張化は既に限界が近づいており、さらなる低熱膨張化が困難となっている。
【0007】
一方、プリント配線板の低熱膨張化を図る目的で、プリント配線板の原材料である樹脂組成物にシリコーン樹脂を含有させることが考えられる。ところが、シリコーン樹脂を樹脂組成物に含有させると、シリコーン樹脂はプリント配線板の原材料である樹脂組成物に含まれる他の成分との相互作用が弱いために、得られたプリント配線板からシリコーン樹脂に由来する物質がブリードアウトしてしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ガラス転移温度を高く維持しつつ、従来よりも更にプリント配線板の熱膨張を抑制すると共に、プリント配線板からの物質のブリードアウトを防止する樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、金属箔張積層板及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、プリント配線板の原材料となる樹脂組成物が特定の複数の成分を含有することにより、高Tg化、プリント配線板の低熱膨張化、及びブリードアウト抑制の全てを成し遂げられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]アルケニル置換ナジイミドと、マレイミド化合物と、エポキシ変性環状シリコーン化合物と、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中における前記アルケニル置換ナジイミドのアルケニル基数αと前記マレイミド化合物のマレイミド基数βとの比(β/α)が、0.9以上4.3以下である、樹脂組成物
[2]前記エポキシ変性環状シリコーン化合物として、脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記エポキシ変性環状シリコーン化合物として、下記式(10)で表される化合物を含む、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子又は置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示し、R'は、エポキシ基を有する有機基を示し、複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、R'が複数ある場合も互いに同一であっても異なっていてもよく、cは3〜5の整数を示し、dは0〜2の整数を示し、cとdとの和は3〜5の整数であり、各重合単位はランダムに重合してもよい。)
[4]前記エポキシ変性環状シリコーン化合物として、下記式(10c)で表される化合物を含む、[3]に記載の樹脂組成物。
【化2】
[5]前記アルケニル置換ナジイミドとして、下記式(1)で表される化合物を含む、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【化3】
(式中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜6のアルキレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、又は下記式(2)若しくは(3)で表される基を示す。)
【化4】
(式中、R3は、メチレン基、イソプロピリデン基、CO、O、S、又はSO2で表される置換基を示す。)
【化5】
(式中、R4は、それぞれ独立に選ばれた、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数5〜8のシクロアルキレン基を示す。)
[6]前記アルケニル置換ナジイミドとして、下記式(4)及び/又は(5)で表される化合物を含む、[5]に記載の樹脂組成物。
【化6】
【化7】
[7]前記マレイミド化合物として、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン及び下記式(6)で表されるマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【化8】
(式中、R5は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n1は1以上の整数を表す。)
[8]シアン酸エステル化合物を更に含む、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[9]前記シアン酸エステル化合物として、下記式(7)及び/又は(8)で表される化合物を含む、[8]に記載の樹脂組成物。
【化9】
(式中、R6は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n2は1以上の整数を表す。)
【化10】
(式中、R7は、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n3は1以上の整数を表す。)
[10]前記エポキシ変性環状シリコーン化合物以外のエポキシ化合物を更に含む、[1]〜[9]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[11]前記エポキシ変性環状シリコーン化合物を、前記樹脂組成物中の樹脂を構成する成分の合計100質量部に対して1〜20質量部含む、[1]〜[10]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[12]更に無機充填材を含む、[1]〜[11]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[13]更に下記式(11)で表されるイミダゾール化合物を含む、[1]〜[12]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【化11】
(式中、Arは、各々独立して、フェニル基、ナフタレン基、ビフェニル基若しくはアントラセン基又はそれらを水酸基で変性した1価の基を示し、R11は水素原子又はアルキル基若しくはそれを水酸基で変性した1価の基、あるいはアリール基を示す。)
[14]前記イミダゾール化合物が、2,4,5−トリフェニルイミダゾールである、[13]に記載の樹脂組成物。
[15]基材と、該基材に含浸又は塗布された[1]から[14]のいずれか1つに記載の樹脂組成物と、を備えるプリプレグ。
[16]前記基材が、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス及び有機繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[15]に記載のプリプレグ。
[17]支持体と、該支持体に塗布された[1]〜[14]のいずれか1つに記載の樹脂組成物と、を備えるレジンシート。
[18][15]及び[16]に記載のプリプレグ、並びに[17]に記載のレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種を1枚以上重ねてなる積層板であって、前記プリプレグ及び前記レジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む、積層板。
[19][15]及び[16]に記載のプリプレグ、並びに[17]に記載のレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種と、前記プリプレグ及び前記レジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種の片面又は両面に配された金属箔と、を有する金属箔張積層板であって、前記プリプレグ及び前記レジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む金属箔張積層板。
[20]絶縁層と、前記絶縁層の表面に形成された導体層とを含むプリント配線板であって、前記絶縁層が、[1]〜[14]のいずれか1つに記載の樹脂組成物を含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラス転移温度を高く維持しつつ、従来よりも更にプリント配線板の熱膨張を抑制すると共に、プリント配線板からの物質のブリードアウトを防止することができる樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、金属箔張積層板及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物は、アルケニル置換ナジイミドと、マレイミド化合物と、エポキシ変性環状シリコーン化合物とを含むものである。この樹脂組成物は、アルケニル置換ナジイミド及びマレイミド化合物の両方を含むことにより高いガラス転移温度(Tg)と弾性率維持率を有するものであり、それに加えて、低弾性特性を示すエポキシ変性環状シリコーン化合物を含むことに主に起因して、プリント配線板の熱膨張を抑制することができる。さらに、エポキシ変性環状シリコーン化合物は、硬化系に組み込まれることによりシリコーン化合物の中でもブリードアウトの抑制に対する寄与の程度が高いため、そのことに主に起因して、本実施形態の樹脂組成物は、プリント配線板からのブリードアウトを防止することができる。ただし、考えられる要因はこれに限定されない。なお、本発明において、400℃以下の温度でTgを有しない場合も、高いTgを有すること(高Tg化)を意味する。また、「弾性率維持率」は、25℃における曲げ弾性率に対する250℃における曲げ弾性率の割合を意味し、弾性率維持率に優れる(弾性率維持率が高い)とは、例えば25℃における曲げ弾性率と250℃における曲げ弾性率(熱時弾性率)との差が小さいことを意味する。弾性率維持率は、具体的には下記の方法により求められる。すなわち、JIS C 6481に規定される方法に準じて、オートグラフにて、それぞれ25℃、250℃で曲げ弾性率(曲げ強さ)を測定する。測定された25℃の曲げ弾性率(a)と250℃の熱時曲げ弾性率(b)とから、下記式によって弾性率維持率を算出する。
弾性率維持率=(b)/(a)×100
【0014】
本実施形態に用いるアルケニル置換ナジイミドは、分子中に1個以上のアルケニル置換ナジイミド基を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。その具体例としては下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化12】
式(1)中、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、又は下記式(2)若しくは(3)で表される基を示す。
【化13】
式(2)中、Rはメチレン基、イソプロピリデン基、CO、O、S、又はSOで表される置換基を示す。
【化14】
式(3)中、Rは、それぞれ独立に選ばれた、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数5〜8のシクロアルキレン基を示す。
【0015】
また、式(1)で表されるアルケニル置換ナジイミドは、市販のものを用いることもできる。市販されているものとしては、特に限定されないが、例えば、下記式(4)で表される化合物(BANI−M(丸善石油化学(株)製))、及び下記式(5)で表される化合物(BANI−X(丸善石油化学(株)製))が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化15】
【化16】
【0016】
本実施形態の樹脂組成物において、アルケニル置換ナジイミドの含有量は、後述するようにその官能基のひとつであるアルケニル基とマレイミド化合物のマレイミド基との官能基数の比によって決定されることが好ましいが、樹脂組成物中の樹脂を構成する成分(重合により樹脂を形成する成分も含む。以下同様。)の合計100質量部に対して10〜60質量部とすることが好ましく、20〜40質量部とすることがより好ましい。アルケニル置換ナジイミドの含有量をこのような範囲とすることで、無機充填材充填時においても成形性に優れ、硬化性、例えば250℃における曲げ弾性率や半田リフロー温度下での曲げ弾性率のような熱時弾性率、耐デスミア性、耐薬品性に優れるプリント配線板を得ることができる。
【0017】
本実施形態に用いるマレイミド化合物は、分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。その具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタン、下記式(6)で表されるマレイミド化合物、これらマレイミド化合物のプレポリマー、若しくはマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーが挙げられる。これらは1種若しくは2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0018】
その中でも、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、下記式(6)で表されるマレイミド化合物が好ましく、とりわけ、下記式(6)で表されるマレイミド化合物が好ましい。このようなマレイミド化合物を含むことにより、得られる硬化物の熱膨張率がより低下し、耐熱性により優れ、更に高いガラス転移温度を有するプリント配線板を得ることができる。
【化17】
式(6)中、Rは各々独立に水素原子又はメチル基を表し、中でも水素原子が好ましい。また、式中、nは1以上の整数を表す。nの上限値は、好ましくは10、より好ましくは7である。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物において、アルケニル置換ナジイミド及びマレイミド化合物の含有量は各々に指定される官能基数の比によって決定されることが好ましい。ここで指定されるアルケニル置換ナジイミドの官能基は分子末端に結合しているアルケニル基で、マレイミド化合物の官能基はマレイミド基である。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物において、マレイミド化合物の含有量は、アルケニル置換ナジイミドの官能基のひとつであるアルケニル基数(α)とマレイミド化合物のマレイミド基数(β)との官能基数の比(〔β/α〕)によって決定されることが好ましい。具体的には、アルケニル置換ナジイミドのアルケニル基数(α)とマレイミド化合物のマレイミド基数(β)の比(〔β/α〕)が、0.9〜4.3であることが好ましく、1.5〜4.0であることがより好ましく、1.5〜3.0とすることが更に好ましい。当該官能基の比(〔β/α〕)をこのような範囲とすることで、低熱膨張、熱時弾性率、耐熱性、吸湿耐熱性、耐デスミア性、耐薬品性、易硬化性に優れるプリント配線板を得ることができる。
【0021】
本実施形態に用いるエポキシ変性環状シリコーン化合物は、主骨格にシロキサン結合(Si−O−Si結合)を有するシリコーン化合物であって、シロキサン結合が環構造体をなしているものである。かかるエポキシ変性環状シリコーン化合物を、アルケニル置換ナジイミド及びマレイミド化合物と共に用いることで、従来よりも更にプリント配線板の熱膨張を抑制すると共に、プリント配線板からの物質のブリードアウトを防止することができる傾向にある。
【0022】
上記のエポキシ変性環状シリコーン化合物としては、ケイ素に結合した有機基が炭化水素基として脂肪族炭化水素基のみを有する脂肪族エポキシ変性環状シリコーン化合物、ケイ素に結合した有機基が芳香環を有する芳香族エポキシ変性環状シリコーン化合物、及び、ケイ素に結合した有機基が脂環を有する脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物が挙げられる。エポキシ変性環状シリコーン化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、本発明の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物が好ましい。脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物としては、後述のものが挙げられる。
【0023】
エポキシ変性環状シリコーン化合物は、例えば、シロキサン結合が環構造体をなしている下記式(10)で表される化合物が挙げられ、これが好ましい。
【化18】
ここで、式中、Rは、水素原子又は置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示し、R’は、エポキシ基を有する有機基を示す。複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、R’が複数ある場合も互いに同一であっても異なっていてもよい。また、cは3〜5の整数を示し、好ましくは3又は4であり、dは0〜2の整数を示し、好ましくは0又は1であり、cとdとの和は3〜5の整数であり、好ましくは4である。また、各重合単位はランダムに重合してもよい。
【0024】
上記式(10)で表されるエポキシ変性環状シリコーン化合物のなかでも、下記式(10a)で表されるエポキシ変性環状シリコーン化合物がより好ましい。
【化19】
ここで、式中、R、R’、c及びdは、上記式(10)におけるものと同義である。
【0025】
上記式中、Rで表される1価の炭化水素基の具体例としては、置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基が挙げられ、炭素数1〜20のものが好ましく、炭素数1〜8のものがより好ましい。より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基等のアルキル基、並びに、これらの1価の炭化水素基の水素原子の一部又は全部が、グリシジル基(ただし、エポキシシクロヘキシル基を除く。)、メタクリル基、アクリル基、メルカプト基又はアミノ基で置換された基が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのなかでも、Rとしては、メチル基、エチル基及び水素原子が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0026】
上記式中、R’で表されるエポキシ基を有する有機基の具体例としては、エポキシ基を有する置換若しくは非置換の炭化水素基が挙げられ、本発明の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、エポキシ基及び脂環を有する炭化水素基が好ましい。R’の炭素数は1〜20であると好ましく、炭素数1〜12のものがより好ましい。R’として、より具体的には、グリシドキシプロピル基及び3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基が挙げられるが、これらに特に限定されない。特に、硬化収縮が小さく低熱膨張化により大きく貢献できるという観点から、R’は、3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する有機基であることが好ましく、末端の置換基として3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する主鎖の炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基がより好ましい。
【0027】
また、上記式(10a)で表されるエポキシ変性環状シリコーン化合物は、下記式(10b)で表されるエポキシ変性環状シリコーン化合物であることがまた更に好ましい。
【化20】
ここで、式中、R’は、上記式(10)におけるものと同義であり、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基であると特に好ましく、fは3〜5の整数を示し、4であると特に好ましい。
【0028】
上述のエポキシ変性環状シリコーン化合物は、公知の方法により製造することができ、また、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、下記式(10c)で表される化合物であるX−40−2670(信越化学工業(株)製)が好適に用いられる。
【化21】
【0029】
本実施形態の樹脂組成物において、エポキシ変性環状シリコーン化合物の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物中の樹脂を構成する成分の合計100質量部に対して1〜20質量部であると好ましく、5〜20質量部であるとより好ましい。エポキシ変性環状シリコーン化合物の含有量を上述の範囲にすることにより、プリント配線板の熱膨張を更に抑制することができると共に、プリント配線板の反りをより防止することができる。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物は、上述の各成分に加えて、シアン酸エステル化合物を更に含むことが好ましい。シアン酸エステル化合物を用いることにより、エポキシ変性環状シリコーン化合物をより容易に硬化系に組み込むことができるため、ブリードアウトを更に抑制することが可能となる。シアン酸エステル化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
本実施形態に用いるシアン酸エステル化合物の種類としては特に限定されないが、例えば下記式(7)で表されるナフトールアラルキル型シアン酸エステル、下記式(8)で表されるノボラック型シアン酸エステル、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル、ビス(3,3−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、1,3−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、1,3−ジシアナトナフタレン、1,4−ジシアナトナフタレン、1,6−ジシアナトナフタレン、1,8−ジシアナトナフタレン、2,6−ジシアナトナフタレン、2、7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4、4’−ジシアナトビフェニル、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、及び2、2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンが挙げられる。
【0032】
この中でも、下記式(7)で表されるナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、下記式(8)で表されるノボラック型シアン酸エステル、及びビフェニルアラルキル型シアン酸エステルが難燃性に優れ、硬化性が高く、かつ硬化物の熱膨張係数が低いことから特に好ましい。
【0033】
【化22】
ここで、式中、Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、中でも水素原子が好ましい。また、式中、nは1以上の整数を示す。nの上限値は、好ましくは10、より好ましくは6である。
【化23】
ここで、式中、Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、中でも水素原子が好ましい。また、式中、nは1以上の整数を示す。nの上限値は、好ましくは10、より好ましくは7である。
【0034】
これらのシアン酸エステル化合物の製法は、特に限定されず、シアン酸エステル合成法として現存するいかなる方法で製造してもよい。具体的に例示すると、下記式(9)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂とハロゲン化シアンとを不活性有機溶媒中で、塩基性化合物存在下反応させることにより得ることができる。また、同様なナフトールアラルキル型フェノール樹脂と塩基性化合物による塩とを、水を含有する溶液中にて形成させ、その後、ハロゲン化シアンと2相系界面反応を行い、合成する方法を採ることもできる。
【0035】
【化24】
ここで、式中、Rは各々独立に水素原子又はメチル基を示し、中でも水素原子が好ましい。また、式中、nは1以上の整数を示す。nの上限値は、好ましくは10、より好ましくは6である。
【0036】
また、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物は、α−ナフトールあるいはβ−ナフトール等のナフトール類とp−キシリレングリコール、α,α’−ジメトキシ−p−キシレン、1,4−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン等との反応により得られるナフトールアラルキル樹脂とシアン酸とを縮合させて得られるものから選択することができる。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物において、シアン酸エステル化合物の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物中の樹脂を構成する成分の合計100質量部に対して、5〜15質量部であることが好ましく、5〜10質量部であることがより好ましい。本発明の課題達成のためには、樹脂組成物がシアン酸エステル化合物を含有しなくてもよいが、シアン酸エステル化合物を上述の範囲内で含有することで、その他の諸特性(例えば、無機充填材の充填時における成形性、熱時弾性率、耐デスミア性及び耐薬品性)に優れるプリント配線板を得ることができる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物においては、所期の特性が損なわない範囲において、上述した各成分に加え、他の樹脂を添加することも可能である。当該他の樹脂の種類については絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、エポキシ変性環状シリコーン化合物以外のエポキシ化合物、ベンゾオキサジン化合物、フェノール樹脂及び熱可塑性樹脂等の樹脂が挙げられる。これらの樹脂を適宜併用することで、金属密着性や応力緩和性といった特性を付与することができる。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物は、上述したエポキシ変性環状シリコーン化合物以外のエポキシ化合物(以下、「その他のエポキシ化合物」ともいう。)を含んでもよい。その他のエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、3官能フェノール型エポキシ樹脂、4官能フェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、及び脂環式エポキシ樹脂、あるいは、これらのハロゲン化物が挙げられるが、これらに特に限定されない。その他のエポキシ化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物において、エポキシ化合物(エポキシ変性環状シリコーン化合物及びその他のエポキシ化合物)におけるエポキシ基数(γ)と、シアン酸エステル化合物におけるシアノ基数(δ)との比(〔δ/γ〕)が、0.1〜0.7であると好ましく、0.1〜0.4であるとより好ましい。当該官能基の比(〔δ/γ〕)をこのような範囲とすることで、低熱膨張特性に優れるプリント配線板を得ることができる。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物は、更に無機充填材を含むと好ましい。無機充填材は絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、天然シリカ、溶融シリカ、アモルファスシリカ及び中空シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベーマイト、酸化モリブデン、酸化チタン、シリコーンゴム、シリコーン複合パウダー、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、ガラス短繊維(EガラスやDガラスなどのガラス微粉末類)、中空ガラス、並びに球状ガラスが挙げられる。無機充填材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、より低い熱膨張性を実現する観点からシリカが好ましく、より高熱伝導性を実現する観点から、アルミナ及び窒化アルミニウムが好ましい。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物において、無機充填材の含有量は特に限定されないが、樹脂組成物中の樹脂を構成する成分の合計100質量部に対して、50〜500質量部であることが、更なる低熱膨張や、更なる高熱伝導といった特性の観点から好ましく、その中でも、100〜300質量部であることがより好ましく、100〜250質量部であることが更に好ましい。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、更にイミダゾール化合物を含むことが好ましい。イミダゾール化合物は、硬化促進剤として作用するものである。イミダゾール化合物としては、特に限定されないが、本発明の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、下記式(11)で表されるイミダゾール化合物が好ましい。
【化25】
ここで、式中、Arは、各々独立して、フェニル基、ナフタレン基、ビフェニル基若しくはアントラセン基又はそれらを水酸基で変性した1価の基を示すが、その中でもフェニル基が好適である。R11は水素原子又はアルキル基若しくはそれを水酸基で変性した1価の基、あるいはアリール基を示し、上記アリール基としてはフェニル基が好ましく、Ar基及びR11基の両方がフェニル基であるとより好ましい。
【0044】
イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、及び2−フェニル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。これらの中でも、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、及び2−フェニル−4−メチルイミダゾールがより好ましく、2,4,5−トリフェニルイミダゾールが特に好ましい。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物において、イミダゾール化合物の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物中の樹脂を構成する成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがより好ましい。イミダゾール化合物の含有量をこのような範囲内とすることで、プリプレグの保存安定性、及び金属張積層板へ加工する際の成形性に優れるプリント配線板を得ることができる。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材の分散性、樹脂と無機充填材やガラスクロスとの接着強度を向上させるために、シランカップリング剤及び/又は湿潤分散剤を含んでもよい。シランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば、特に限定されるものではない。シランカップリング剤の具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのビニルシラン系、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、及びp−スチリルトリメトキシシランなどのスチリルシラン系が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、湿潤分散剤としては、塗料用に使用されている分散安定剤であれば特に限定されるものではない。湿潤防止剤の市販品としては、例えば、ビッグケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk−110、111、118、180、161、2009、BYK−W996、W9010、W903(いずれも製品名)が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
また、本実施形態の樹脂組成物は、所期の特性が損なわれない範囲において、上記イミダゾール化合物以外の硬化促進剤を併用することも可能である。そのような硬化促進剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチル−ジ−パーフタレート等で例示される有機過酸化物;アゾビスニトリル当のアゾ化合物;N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルトルイジン、2−N−エチルアニリノエタノール、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N−メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N−メチルピペリジンなどの第3級アミン類;フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどのフェノール類;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩;これら有機金属塩をフェノール、ビスフェノールなどの水酸基含有化合物に溶解してなるもの;塩化錫、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの無機金属塩;ジオクチル錫オキサイド、その他のアルキル錫、アルキル錫オキサイドなどの有機錫化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材などの固形分を含む場合に、その分散性を向上させるなどの目的で、表面調整剤を含んでもよい。表面調整剤としては、従来、界面活性剤として、樹脂組成物に含まれているものであれば特に限定されず、例えば、ポリジメチルシロキサン系、及びアクリル系が挙げられる。その市販品としては、例えば、ビッグケミー・ジャパン(株)製のBYK−310、330、346が挙げられる。表面調整剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0049】
また、本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて溶剤を含んでもよい。例えば、有機溶剤を用いると、樹脂組成物の調製時における粘度が低下し、ハンドリング性が向上すると共にガラスクロスへの含浸性が高められる。溶剤の種類は、樹脂組成物中の樹脂の一部又は全部を溶解可能なものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルセルソルブなどのケトン類、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、並びに、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びそのアセテートなど挙げられるが、これらに特に限定されない。溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物は、常法に従って調製することができる。例えば、上述の各成分を均一に含有する樹脂組成物が得られる方法が好ましい。具体的には、例えば、上述の各成分を順次溶剤に配合し、十分に攪拌することで本実施形態の樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物の調製時において、必要に応じて有機溶剤を用いることも可能である。有機溶剤の種類は、樹脂組成物中の樹脂を溶解可能なものであれば、特に限定されない。その具体例は、上述したとおりである。樹脂組成物の調製時には、各成分を均一に溶解又は分散させるための公知の処理(攪拌、混合、混練処理など)を行うことができる。例えば、無機充填材を用いる場合、その均一分散にあたり、適切な攪拌能力を有する攪拌機を付設した攪拌槽を用いて攪拌分散処理を行うことで、樹脂組成物に対する分散性が高められる。上記の攪拌、混合、混練処理は、例えば、ボールミル、ビーズミルなどの混合を目的とした装置、又は、公転又は自転型の混合装置などの公知の装置を用いて適宜行うことができる。
【0052】
本実施形態のプリント配線板用絶縁層(以下、単に「絶縁層」ともいう。)は、上記樹脂組成物を絶縁層として含むものである。プリント配線板用絶縁層の形態としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維布、有機繊維布、ガラス繊維不織布、有機繊維不織布等のプリント配線板用絶縁層に用いられる周知の基材に、任意の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等を含浸させたプリプレグ及びこれと金属箔を積層して作製される金属箔張積層板、これらの絶縁性樹脂を金属箔やフィルムに塗布した形態のレジンシート、ポリイミドを始めとするシート及びフィルム、並びにこれらのシート、フィルムと金属箔を積層して作製される金属箔張積層板が挙げられる。レジンシートとしては、具体的には、特に限定されないが、例えば、CRS(銅箔に樹脂を塗布、乾燥して得られるシート)、及びFRS(味の素ABF:フィルムに樹脂を塗布、乾燥して得られるシート)が挙げられる。また、シート及びフィルムとしては、具体的には、特に限定されないが、例えば、フィルムや樹脂に直接メッキをして配線をする、フレキシブル基板が挙げられる。
【0053】
また、本実施形態において、従来用いられる反り低減の技術を併用することが更なる反りの抑制の観点から好ましい。このような技術としては、特に限定されないが、例えば、無機充填材や応力緩和成分の添加によって低熱膨張性や高弾性率を付与する技術が挙げられる。これらの技術を1種又は2種以上組み合わせて用いることで、さらに効果的に半導体プラスチックパッケージの反りを低減することが可能である。
【0054】
本実施形態のプリプレグは、基材と、該基材に含浸又は塗布された上記の樹脂組成物とを備えるプリプレグである。プリプレグの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、本実施形態における樹脂成分を基材に含浸又は塗布させた後、100〜200℃の乾燥機中で1〜30分加熱するなどして半硬化(Bステ−ジ化)させることで、本実施形態のプリプレグを作製することができる。
【0055】
樹脂組成物(無機充填材を含む。)の含有量は、特に限定されないが、プリプレグの総量に対して、好ましくは30〜90質量%であり、より好ましくは35〜85質量%であり、更に好ましくは40〜80質量%である。樹脂組成物の含有量が上記範囲内であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0056】
基材としては、特に限定されず、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを、目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。その具体例としては、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス、球状ガラス、NEガラス、Lガラス、Tガラスなどのガラス繊維;クォーツなどのガラス以外の無機繊維;ポリパラフェニレンテレフタラミド(ケブラー(登録商標)、デュポン株式会社製)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド(テクノーラ(登録商標)、帝人テクノプロダクツ株式会社製)などの全芳香族ポリアミド;2,6−ヒドロキシナフトエ酸・パラヒドロキシ安息香酸(ベクトラン(登録商標)、株式会社クラレ製)、ゼクシオン(登録商標、KBセーレン製)などのポリエステル;ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(ザイロン(登録商標)、東洋紡績株式会社製)、ポリイミドなどの有機繊維が挙げられる。これらのなかでも低熱膨張率の観点から、Eガラス、Tガラス、Sガラス、Qガラス及び有機繊維が好ましい。これら基材は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
基材の形状としては、特に限定されないが、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなどが挙げられる。織布の織り方としては、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、綾織り等が知られており、これら公知のものから目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。また、これらを開繊処理したものやシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布が好適に使用される。基材の厚さや質量は、特に限定されないが、通常は0.01〜0.3mm程度のものが好適に用いられる。とりわけ、強度と吸水性との観点から、基材は、厚み200μm以下、質量250g/m以下のガラス織布が好ましく、Eガラス、Sガラス、及びTガラスのガラス繊維からなるガラス織布がより好ましい。
【0058】
本実施形態のレジンシートは、支持体(シート基材)と、該シート基材に塗布された上記樹脂組成物とを備え、上記樹脂組成物は、該シート基材の片面又は両面に積層されたものである。レジンシートとは、薄葉化の1つの手段として用いられるもので、例えば、金属箔やフィルムなどの支持体に、直接、プリプレグ等に用いられる熱硬化性樹脂(無機充填材を含む)を塗布及び乾燥して製造することができる。
【0059】
シート基材としては、特に限定されないが、各種プリント配線板材料に用いられている公知の物もの使用することができる。例えばポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、アルミニウム箔、銅箔、金箔など挙げられる。その中でも電解銅箔、PETフィルムが好ましい。
【0060】
塗布方法としては、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等でシート基材上に塗布する方法が挙げられる。
【0061】
レジンシートは、上記樹脂組成物をシート基材(支持体)に塗布後、半硬化(Bステージ化)させたものであることが好ましい。具体的には、例えば、上記樹脂組成物を銅箔などのシート基材に塗布した後、100〜200℃の乾燥機中で、1〜60分加熱させる方法などにより半硬化させ、レジンシートを製造する方法などが挙げられる。支持体に対する樹脂組成物の付着量は、レジンシートの樹脂厚で1〜300μmの範囲が好ましい。本実施形態のレジンシートは、プリント配線板のビルドアップ材料として使用可能である。
【0062】
本実施形態の積層板は、上述のプリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種を1枚以上重ねてなるものであって、上述のプリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む。この積層板は、例えば、上述のプリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種を1枚以上重ねて硬化して得ることができる。また、本実施形態の金属箔張積層板は、上述のプリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種と、上述のプリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種の片面又は両面に配された金属箔とを有する金属箔張積層板であって、上記プリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含むものである。この金属箔張積層板は、上述のプリプレグ及びレジンシートからなる群より選ばれる少なくとも1種を1枚以上重ね、その片面若しくは両面に金属箔を配して積層成形することにより、得ることができる。より具体的には、前述のプリプレグ及び/又はレジンシートを1枚あるいは複数枚重ね、所望によりその片面若しくは両面に銅やアルミニウムなどの金属箔を配置した構成とし、これを必要に応じて積層成形することにより、金属箔張積層板を製造することができる。ここで使用する金属箔は、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔などの公知の銅箔が好ましい。また、金属箔の厚みは、特に限定されないが、1〜70μmが好ましく、より好ましくは1.5〜35μmである。金属箔張積層板の成形方法及びその成形条件についても、特に限定されず、一般的なプリント配線板用積層板及び多層板の手法及び条件を適用することができる。例えば、金属箔張積層板の成形時には多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機などを用いることができる。また、金属箔張積層板の成形において、温度は100〜300℃、圧力は面圧2〜100kgf/cm、加熱時間は0.05〜5時間の範囲が一般的である。さらに、必要に応じて、150〜300℃の温度で後硬化を行うこともできる。また、上述のプリプレグと、別途作製した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることも可能である。
【0063】
本実施形態のプリント配線板は、絶縁層と、その絶縁層の表面に形成された導体層とを含むプリント配線板であって、上記絶縁層が、上述の樹脂組成物を含むものである。回路となる導体層は、上記の金属箔張積層板における金属箔から形成することができ、あるいは、絶縁層の表面に無電解めっきにより形成することもできる。このプリント配線板は、絶縁層のガラス転移温度が高く、ブリードアウトを抑制でき、更には低い熱膨張率を有し、そのような性能が要求される半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0064】
本実施形態のプリント配線板は、具体的には、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、上述の金属箔張積層板(銅張積層板等)を用意する。金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作成する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を行い、次いでその内層回路表面に上述のプリプレグを所要枚数重ね、更にその外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアを除去するためデスミア処理が行われる。その後この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、更に外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成し、プリント配線板が製造される。
【0065】
例えば、上述のプリプレグ(基材及びこれに添着された上述の樹脂組成物)、金属箔張積層板の樹脂組成物層(上述の樹脂組成物からなる層)が、上述の樹脂組成物を含む絶縁層を構成することになる。
【0066】
本実施形態において、絶縁層は、25℃の曲げ弾性率に対する250℃の熱時曲げ弾性率の割合(以下、「弾性率維持率」という。)が80〜100%であると、プリント配線板を加熱した時の反りを更に抑制できるので好ましい。弾性率維持率を80〜100%とするための手法は、特に限定されないが、例えば、絶縁層に用いられる樹脂組成物の各成分の種類及び含有量を、上記の範囲内で適宜調整する手法が挙げられる。
【0067】
当該手法の他にも、本発明の目的を阻害しなければ既存の方法を用いて、弾性率維持率を80〜100%にしてもよい。例えば、ナノフィラーの導入によって分子運動を拘束する手法や、絶縁層に用いられる樹脂の架橋点にゾル−ゲル法によってナノシリカをハイブリット化する手法、又は、絶縁層に用いられる樹脂自体の高Tg化や400℃以下の領域でのTgレス化などの手法が挙げられる。
【0068】
また、金属箔張積層板を用いない場合には、上記プリプレグ、又は上記レジンシートに、回路となる導体層を形成しプリント配線板を作製してもよい。この際、導体層の形成に無電解めっきの手法を用いることもできる。
【0069】
本実施形態のプリント配線板は、上述の絶縁層を備えることにより、半導体実装時のリフロー温度下においても優れた弾性率を維持することができ、ブリードアウトを抑制し熱膨張を抑制することができると共に、ブリードアウトをも防止することが可能となるので、半導体プラスチックパッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(合成例1)α−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂の合成
温度計、攪拌器、滴下漏斗及び還流冷却器を取りつけた反応器を予めブラインにより0〜5℃に冷却しておき、そこへ塩化シアン7.47g(0.122mol)、35%塩酸9.75g(0.0935mol)、水76mL、及び塩化メチレン44mLを仕込んだ。この反応器内の温度を−5〜+5℃、pHを1以下に保ちながら、撹拌下、上記式(9)におけるRがすべて水素原子であるα−ナフトールアラルキル型フェノール樹脂(SN485、OH基当量:214g/eq.、軟化点:86℃、新日鐵化学(株)製)20g(0.0935mol)、及びトリエチルアミン14.16g(0.14mol)を塩化メチレン92mLに溶解した溶液を滴下漏斗により1時間かけて滴下し、滴下終了後、更にトリエチルアミン4.72g(0.047mol)を15分間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で15分間撹拌後、反応液を分液し、有機層を分取した。得られた有機層を水100mLで2回洗浄した後、エバポレーターにより減圧下で塩化メチレンを留去し、最終的に80℃で1時間濃縮乾固させて、α−ナフトールアラルキル型フェノール樹脂のシアン酸エステル化物(α−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂、官能基当量:261g/eq.)、23.5gを得た。
【0072】
(実施例1)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)43質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)32質量部、ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物(NC−3000H、日本化薬(株)製、官能基当量:290g/eq.)10質量部、及び脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物(X−40−2670、信越化学工業(株)製、官能基当量:185g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔β/α〕は、2.07となった。ここで、〔β/α〕は、下記計算式で表される(以下同様。)。
〔β/α〕=(マレイミド化合物の質量部数/マレイミド化合物の官能基当量)/(アルケニル置換ナジイミドの質量部数/アルケニル置換ナジイミドの官能基当量)
【0073】
また、〔δ/γ〕は0.22となった。ここで、〔δ/γ〕は、下記計算式で表される(以下同様。)。
〔δ/γ〕=(シアン酸エステル化合物の質量部数/シアン酸エステル化合物の官能基当量)/(エポキシ化合物の質量部数/エポキシ化合物の官能基当量)
【0074】
さらに、弾性率維持率は86%であった。ここで、弾性率維持率は、下記のようにして求めた。まず、後述のようにして得られた銅張積層板(50mm×25mm×0.8mm)から銅箔を除去したものを試料として用い、JIS C 6481に規定される方法に準じて、オートグラフ((株)島津製作所製AG−Xplus)にて、それぞれ25℃、250℃で曲げ弾性率を測定した。上記によって測定された25℃の曲げ弾性率(a)と250℃の熱時曲げ弾性率(b)とから、下記式によって弾性率維持率を算出した(以下同様。)。
弾性率維持率=(b)/(a)×100
【0075】
(実施例2)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)45.4質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)34.5質量部、ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物(NC−3000H、日本化薬(株)製、官能基当量:290g/eq.)10質量部、及び脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物(X−40−2670、信越化学工業(株)製、官能基当量:185g/eq.)5質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔β/α〕は、2.03となり、〔δ/γ〕は0.31となった。また、弾性率維持率は89%であった。
【0076】
(実施例3)
ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)49質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)36質量部、ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物(NC−3000H、日本化薬(株)製、官能基当量:290g/eq.)5質量部、及び脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物(X−40−2670、信越化学工業(株)製、官能基当量:185g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔β/α〕は、2.03となった。また、弾性率維持率は90%であった。
【0077】
(実施例4)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)49質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)36質量部、及び脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物(X−40−2670、信越化学工業(株)製、官能基当量:185g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔β/α〕は、2.03となり、〔δ/γ〕は0.35となった。また、弾性率維持率は91%であった。
【0078】
(比較例1)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)49質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)36質量部、及びビフェニルアラルキル型エポキシ化合物(NC−3000H、日本化薬(株)製、官能基当量:290g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔β/α〕は、2.09となり、〔δ/γ〕は0.56となった。また、弾性率維持率は92%であった。
【0079】
(比較例2)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)49質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)36質量部、及びポリオキシナフチレン型エポキシ化合物(EXA−7311G4S、DIC(株)製、官能基当量:190g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔β/α〕は、2.09となり、〔δ/γ〕は0.36となった。また、弾性率維持率は92%であった。
【0080】
(比較例3)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂22.7質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)27.6質量部、ポリオキシナフチレン型エポキシ化合物(HP−6000、DIC(株)製、官能基当量:250g/eq.)29.7質量部、及び脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物(X−40−2670、信越化学工業(株)製、官能基当量:185g/eq.)20質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔δ/γ〕は0.38となった。また、弾性率維持率は76%であった。
【0081】
(比較例4)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂21.7質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)27.6質量部、ポリオキシナフチレン型エポキシ化合物(HP−6000、DIC(株)製、官能基当量:250g/eq.)40.7質量部、及び脂環式エポキシ変性環状シリコーン化合物(X−40−2670、信越化学工業(株)製、官能基当量:185g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。この時、〔δ/γ〕は0.38となった。また、弾性率維持率は72%であった。
【0082】
(比較例5)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)51.5質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)38.5質量部、及びアミン変性シリコーン化合物(X−22−161B、信越化学工業(株)製、官能基当量:1500g/eq.)5質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをEガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。
【0083】
(比較例6)
合成例1で得られたα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂5質量部、ノボラック型マレイミド化合物(BMI−2300、大和化成工業(株)製、官能基当量:186g/eq.)49質量部、ビスアリルナジイミド(BANI−M、丸善石油化学(株)製、官能基当量:286g/eq.)36質量部、及びアミン変性シリコーン化合物(X−22−161B、信越化学工業(株)製、官能基当量:1500g/eq.)10質量部に、スラリーシリカ(SC−2050MB、アドマテックス(株)製)200質量部、及び2,4,5−トリフェニルイミダゾール0.5質量部を混合し、メチルエチルケトンで希釈することでワニスを得た。このワニスをSガラス織布に含浸塗工し、160℃で3分間加熱乾燥して、樹脂組成物含有量45.0質量%のプリプレグを得た。
【0084】
[金属箔張積層板の作製]
上記で得られたプリプレグを、それぞれ1枚又は8枚重ねて12μm厚の電解銅箔(3EC−III、三井金属鉱業(株)製)を上下に配置し、圧力30kgf/cm、温度220℃で120分間の積層成型を行い、絶縁層厚さ0.1mm又は0.8mmの銅張積層板を得た。得られた銅張積層板を用いて、ガラス転移温度及び積層板の内観を評価した結果を表1に示す。
【0085】
[積層板内観]
上記で得られた銅張積層板の内観(絶縁層)を目視にて確認し、ブリードアウトが認められたものを「ブリードアウト」、認められなかったものを「良好」と判断した。ブリードアウトが認められた場合は、弾性率維持率、並びに、下記のガラス転移温度及び熱膨張係数を測定しなかった。
【0086】
[ガラス転移温度(Tg)]
上述のようにして銅張積層板を得た後、そこから両面の銅箔を剥離して試料を得た。その試料について、JIS K7244−3(JIS C6481)に準拠し、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント製)を用い、開始温度30℃、終了温度400℃、昇温速度10℃/分の条件にて、動的粘弾性を測定し、その際得られた損失弾性率(E”)の最大値をガラス転移温度とした。ガラス転移温度は耐熱性の指標である。なお、表1において、400℃以下の領域でガラス転移温度がある場合はその値を表記し、400℃以下の領域でガラス転移温度がない場合は「○」と表記した。
【0087】
[熱膨張係数]
JlS C 6481に規定されるTMA法(Thermo−mechanical analysis)により積層板の絶縁層についてガラスクロスの縦方向の熱膨張係数を測定し、その値を求めた。具体的には、上記で得られた銅張積層板の両面の銅箔をエッチングにより除去した後に、熱機械分析装置(TAインスツルメント製)で40℃から340℃まで毎分10℃で昇温し、60℃から120℃における線熱膨張係数(ppm/℃)を測定した。
【0088】
【表1】
【0089】
本出願は、2015年7月6日出願の日本特許出願(特願2015−135270)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、ガラス転移温度を高く維持しつつ、従来よりも更にプリント配線板の熱膨張を抑制すると共に、プリント配線板からの物質のブリードアウトを防止することができるので、半導体プラスチックパッケージに用いられるプリント配線板等の分野に産業上の利用可能性がある。