特許第6764593号(P6764593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764593
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】合成地下壁を備えた構造物
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/045 20060101AFI20200928BHJP
   E02D 29/00 20060101ALI20200928BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   E02D29/045 Z
   E02D29/00
   E02D5/20 102
   E02D5/20 101
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-200277(P2016-200277)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62745(P2018-62745A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−002078(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0005650(US,A1)
【文献】 特開2006−125141(JP,A)
【文献】 特開平04−277219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00−5/20
E02D 29/00、29/045−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーガーによって掘削されたソイルセメント柱列壁の内部にH形鋼の芯材を所定の間隔をあけて複数埋設してなる山留壁と、前記H形鋼のフランジに植設した合成壁用のスタッドを用いて床付け面より浅い部分の前記山留壁に本設の鉄筋コンクリート壁を一体に接合してなる合成地下壁を備えた構造物であって、
床付け面より深い部分の前記H形鋼のウェブに本設杭用のスタッドが植設され、該本設杭用のスタッドが植設された本設杭部の芯材及びソイルセメントを本設の支持杭として構成されており、
且つ、前記本設杭部の前記芯材のうち前記オーガーが干渉し得る部位の芯材のみの前記本設杭用のスタッドが、該本設杭用のスタッドを植設するウェブ面が向く前記H形鋼の幅方向に沿って延設された前記H形鋼の一対のフランジの対峙する両角部を通り、その中心が前記角部よりも前記幅方向外側にある仮想円の外側に配設されていることを特徴とする合成地下壁を備えた構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留壁と鉄筋コンクリート壁とを一体化してなる合成地下壁を備えた構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ソイルミキシングウォール(SMW:ソイルセメント柱列壁)や横矢板工法等で使用されるH形鋼の芯材と建物の鉄筋コンクリート地下外壁(鉄筋コンクリート壁)をスタッドを用いて一体に接合して合成壁とするケースが増えている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このように合成壁を構築することによって、従来仮設として扱われてきた芯材を本設構造の一部として活用することができ、地下外壁の厚さを低減できる。これにより、地下階の有効空間の拡大、仮設資材の有効活用、ひいてはコストダウンを実現することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4253795号公報
【特許文献2】特開2007−070807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記従来の合成壁(合成地下壁)を備えた構造物を施工する際には、SMW等による山留壁の施工時に、通常、深層機械撹拌機を用い3〜5本ずつオーガーで柱列掘削を行い、端の1本を残して芯材のH形鋼を挿入する。これに続き、H形鋼を入れなかった1本に端のオーガーを重ねて次の掘削(隣接ユニットの掘削)を行う。
【0006】
この施工時、施工深さが長いと施工の芯ずれが大きくなるため、オーガーがH形鋼に取り付けた本設杭用のスタッドにあたり、スタッド等が損傷するおそれがあった。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、スタッドの破損を確実に防止でき、好適に合成地下壁を構築することを可能にする合成地下壁を備えた構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の合成地下壁を備えた構造物は、オーガーによって掘削されたソイルセメント柱列壁の内部にH形鋼の芯材を所定の間隔をあけて複数埋設してなる山留壁と、前記H形鋼のフランジに植設した合成壁用のスタッドを用いて床付け面より浅い部分の前記山留壁に本設の鉄筋コンクリート壁を一体に接合してなる合成地下壁を備えた構造物であって、床付け面より深い部分の前記H形鋼のウェブに本設杭用のスタッドが植設され、該本設杭用のスタッドが植設された本設杭部の芯材及びソイルセメントを本設の支持杭として構成されており、且つ、前記本設杭部の前記芯材のうち前記オーガーが干渉し得る部位の芯材のみの前記本設杭用のスタッドが、該本設杭用のスタッドを植設するウェブ面が向く前記H形鋼の幅方向に沿って延設された前記H形鋼の一対のフランジの対峙する両角部を通り、その中心が前記角部よりも前記幅方向外側にある仮想円の外側に配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の合成地下壁を備えた構造物においては、本設杭用のスタッドが、芯材のH形鋼の一対のフランジの対峙する両角部を通り、その中心が角部よりも幅方向外側にある仮想円の外側に配されるように設けられているため、ソイルセメント柱列壁の施工時に、施工の芯ずれによってオーガーが芯材のスタッドに当り、スタッド等に損傷を生じさせることを確実に防止できる。これにより、好適に合成地下壁を構築することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物を示す図である。
図2図1のX1−X1線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物の床付け面より浅い部分(合成壁部)を示す断面図である。
図3図1のX2−X2線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物の床付け面より深い部分(本設杭部)を示す断面図である。
図4】従来の合成地下壁を備えた構造物(山留壁)の構築時の状況を示す図であり、本設杭用のスタッドとオーガーの施工誤差余裕長を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物(山留壁)の構築時の状況を示す図であり、本設杭用のスタッドとオーガーの施工誤差余裕長を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物(山留壁)の構築時の状況を示す図であり、本設杭用のスタッドとオーガーの施工誤差余裕長を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物(山留壁)で用いる芯材(本設杭部)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1から図7を参照し、本発明の一実施形態に係る合成地下壁を備えた構造物について説明する。
【0013】
本実施形態の合成地下壁を備えた構造物Aは、図1から図3に示すように、H形鋼を芯材1とするソイルミキシングウォールからなる山留壁2に沿って本設の鉄筋コンクリート壁3が配設され、本設構造物の床付け面4よりも浅い部分の山留壁2と鉄筋コンクリート壁3を一体に接合してなる本設の合成地下壁/合成壁部5を備えて構成されている。
【0014】
また、山留壁2が鉄筋コンクリート壁3と接する側の芯材(H形鋼)1のフランジ1aに溶接などによって合成壁用のスタッド(シアコネクタ)6が植設されている。また、この合成壁用のスタッド6は芯材1の延設方向に沿う鉛直方向に所定の間隔をあけて複数植設されている。そして、これら合成壁用のスタッド6を介して山留壁2の芯材1と本設の鉄筋コンクリート壁3が接合され、芯材1と鉄筋コンクリート壁3の間の応力を伝達するように構成されている。
【0015】
さらに、合成壁部5よりも下方に配設された構造物Aの床付け面4より深い部分の芯材(H形鋼)1のウェブ1bに、本設杭用のスタッド7が植設されている。これにより、本実施形態の合成地下壁を備えた構造物Aにおいては、合成壁部5よりも下方に延設された山留壁2(本設杭部10)の芯材1及びソイルセメントを本設杭として活用するように構成されている。
【0016】
なお、スタッド6、7としては、例えば頭付きスタッドやTヘッドバースタッドなどの頭部に拡径部を備えたスタッドを用いればよい。
【0017】
一方、本実施形態の合成地下壁を備えた構造物Aを施工する際には、SMW等による山留壁2の施工時に、図4に示すように、深層機械撹拌機を用い3〜5本ずつオーガー8で柱列掘削を行い、端の1本を残して芯材1のH形鋼を挿入する。これに続き、H形鋼1を入れなかった1本に端のオーガー8を重ねて次の掘削(隣接ユニットの掘削)を行う。
【0018】
このとき、施工深さが長く、施工の芯ずれが大きくなる等の影響で、オーガー8がH形鋼1に取り付けたスタッド7に当り、スタッド7等の損傷が発生するおそれがある。なお、図4(及び図5図6)中の符号Pは施工誤差の余裕/許容量を示す。
【0019】
これに対し、本実施形態の合成地下壁を備えた構造物Aにおいては、図5及び図7(a)(スタッド7の間隔tを拡げた場合)に示すように、予め、深層機械撹拌機による柱列掘削の施工誤差を考慮し、芯材1のH形鋼のウェブ1bに本設杭用のスタッド7が植設されている。
【0020】
具体的に、本実施形態の合成地下壁を備えた構造物Aでは、本設杭用のスタッド7が、この本設杭用のスタッド7を植設するウェブ面が向くH形鋼1の幅方向T1に沿って延設されたH形鋼1の一対のフランジ1aの対峙する両角部1cを通り、その中心O1が角部1cよりも幅方向T1外側にある仮想円Sの外側に配されるようにして、植設されている。
【0021】
ここで、芯材1のウェブ1bに打設される本設杭用のスタッド7の役目は、芯材1のH形鋼に作用する軸力をソイルセメントにせん断力として伝達させることであるから、その植設位置の影響を受けにくい。
【0022】
このため、本実施形態では、隣接ユニットのオーガー8の中心O1からH形鋼1のフランジ1aの端(角部1c)を通る前記仮想円Sの外側に位置するようにして、本設杭用のスタッド7をウェブ1bに植設することとした。なお、オーガー8が干渉し得る部位の芯材1のみ、本実施形態のように本設杭用のスタッド7を前記仮想円Sの外側に位置するようにしてもよい。
【0023】
これにより、本設杭用のスタッド7を設けない場合と同等の施工誤差まで許容できるようになる。すなわち、ソイルセメント柱列壁の施工するにあたり、芯材1をソイルセメント柱列壁に挿入し、次の柱列掘削を行う際に、深層機械撹拌機のオーガー8と本設杭用のスタッド7の間の間隔(施工誤差余裕長)が従来よりも大きく確保され、オーガー8が本設杭用のスタッド7に当たることがない。
【0024】
また、図6及び図7(b)(短いスタッド7を用い、スタッド7の設置段数を増やした場合)に示すように、芯材1の本設杭利用では、ソイルセメントの強度が小さいことから、スタッド7は短くてもよく、JISで規定された範囲内で極力短いスタッド7を用いることにより、この本設杭用のスタッド7が前記仮想円Sの外側に配されるようにしてもよい。
【0025】
すなわち、本設杭用のスタッド7として、従来よりも短いスタッド7を用い、芯材1のウェブ1bの幅方向T1に隣り合う本設杭用の一対のスタッド7の間隔を拡げる量を小さく抑えつつ、オーガー8と本設杭用のスタッド7の間の間隔(施工誤差余裕長)を従来よりも大きくするようにしてもよい。また、このように短いスタッド7を用いる場合には、芯材1の延設方向(鉛直方向)のスタッド7の間隔を小さくし、スタッド7の段数(本数)を増やすなどして、所望の強度を確保することができる。
【0026】
さらに、図7(c)(短いスタッド7を用い、スタッド7の設置段数を増やすとともにスタッド7を千鳥配置した場合)に示すように、スタッド7を千鳥配置で設置するなどすれば、せん断による破壊面を連続しにくくすることができ、所望の耐力を得ることが可能である。
【0027】
ちなみに、1本あたりの本設杭用のスタッド7の耐力Vsuを下記の式(1)を用いて設定し、所定の耐力を確保できるようにスタッド7の長さ、本数を設定すればよい。
【0028】
【数1】
ここで、Vsuはスタッドのせん断耐力(N)、Assはスタッドの軸部の断面積(mm)、dssはスタッドの軸径(mm)、hssはスタッドの高さ(長さ)(mm)、f’はソイルセメントの圧縮強度(N/mm)である。また、f’は例えば0.5〜5(N/mm)とすることが好ましい。
【0029】
したがって、本実施形態の合成地下壁を備えた構造物Aにおいては、SMW等で本設杭用のスタッド7をウェブ1bに植設した芯材1とし、長尺の柱列壁を構築する際に、施工の芯ずれによってオーガー8がスタッド7に干渉し、スタッド7等に損傷が生じることを確実に防止できる。これにより、好適に合成地下壁を構築することが可能になる。
【0030】
以上、本発明に係る合成地下壁を備えた構造物の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 芯材(H形鋼)
1a フランジ
1b ウェブ
1c 角部
2 山留壁
3 鉄筋コンクリート壁
4 床付け面
5 合成壁部(合成地下壁)
6 合成壁用のスタッド
7 本設杭用のスタッド
8 オーガー
10 本設杭部
A 合成地下壁を備えた構造物
O1 仮想円の中心
S 仮想円
T1 芯材の幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7