【実施例】
【0030】
実施例1
以下の実施例は、HIV関連脂肪組織萎縮症症候群(HIV−LS)の進行が、体脂肪の蓄積、欠損または再分配に寄与する血清中の低下レプチンによって影響を受け得ることを示す。
【0031】
具体的には、本研究は、HIV−LSの脂肪組織萎縮症表現型が高活性抗レトロウイルス剤療法(HAART)の開始に続く血清レプチンにおける変化と関連するかどうかを決定する目的で行った。本研究は、血清レプチン濃度をHAART前および後で比較した146人(146)のHIV陽性男性を含む。身体検査により、男性を2つの主な表現型に評価し階層化した:それは、脂肪組織萎縮症単独、および中枢性脂肪増大を伴う脂肪組織萎縮症(「混合型」HIV−LS)である。
【0032】
146人のうち42人(42/146)の男性が、HAART後、1つ以上の身体領域中に中度または重度の脂肪組織萎縮症あるいは脂肪肥大を有することを発見した。146人中27人(27/146)が脂肪組織萎縮症を単独で有し、146人中15人(15/146)がHAART後に「混合型」に変化した。146人中39人(39/146)が身体体質の変化を有せず、これらの患者を対照として利用した。一般に、HIV−LSを有する男性はより年配であり、プロチアーゼ阻害物質のより長期にわたる使用を行っていた。彼らは、より低い基準CD4数を有し、基準から平均4kg、体重が減少していた。
【0033】
HAART前では脂肪組織萎縮症および「混合型」群両方の中央値基準レプチンレベルが3.6ng/mlであり、対照の中央値レプチンレベルが4.1ng/mlであった。HAART後に脂肪組織萎縮症のみを発症した人では、血清レプチン濃度が3.6から2.8ng/ml(Wilcoxon p= 0.06)に著しく減少した。他方、「混合型」HIV−LS群(4.0ng/ml)[p=NS]およびHIV−LSを発現しなかった39人のHIV陽性対照(3.7ng/ml)[p=NS]の両方では、血清レプチンレベルは安定なままであった。
【0034】
これらのデータは、HIV陽性患者における高活性抗レトロウイルス剤療法に続くレプチンレベルの減少が脂肪組織萎縮症症候群の進行に寄与しうることを示唆する。
【0035】
実施例2
ヒトにおける脂肪組織萎縮症を処置するためにレプチンを用いることの効果を決定するため、様々な形態の脂肪組織萎縮症と診断された9人の女性患者に対し、レプチン置換治療も行った。本研究の患者は、米国およびヨーロッパにて多数の内科医によって調査された。適格性として、患者には、脂肪組織萎縮症に関連する低レベル(男性にて3.0ng/ml未満、女性にて4.0ng/ml未満の血清レプチン濃度として定義する)を有すること、および以下の少なくとも1つの代謝異常を伴うことを要求した。:それは、(1)米国糖尿病連合協会による糖尿病の存在(Peters et al. 1998参照。);(2)空腹時血清トリグリセリド濃度が200mg/dLより高い;および/または(3)空腹時血清インスリン濃度が300μU/mlより高い、である。脂肪組織萎縮症の診断は、当業者によって周知の臨床上の観点に基づいて行われた。
【0036】
表1は、本研究にて処置した患者の基準臨床特性の概要を示す。
【表1】
【表2】
【0037】
本研究へ採用された9人の患者はみな女性であった。本研究は両方の性別に利用できるが、女性はより早期におよびより頻繁に認識される傾向がある。9人の患者のうちの5人は、先天的な一般化された脂肪組織萎縮症またはSeip-Beradinelli症候群を有していた。本分析は、他の臨床基準(Online Mendelian Inheritance in Man,OMIM #269700;Garg et al. , 1992)と関連した出生からの一般化した脂肪欠損の証拠にて規定された。3人の患者が、幼年期の明白な脂肪欠損の歴史の全身性リポジストロフィを獲得していたことが分かった。これらの患者(UTSW−2)の1人は、若年性皮膚筋炎を備えた一般化されたリポジストロフィを発現した。もう1人の患者(NIH−7)はダニガン家族性全身性リポジストロフィを有していた(OMIM #151660;Garg, 1999; and Cao et al., 2000)。
【0038】
研究設計
本研究は、糖尿病、消化および腎臓疾患(NIDDK)の国立研究所の糖尿病部門、およびダラスのテキサス大学南西(UT Southwestern)医療センターにて、予期される非盲検研究として設計された。Amgen Inc.(Thousand Oaks, CA)は、試みとして組換えメチオニルヒトレプチン(組換えレプチン)を提供した。各々の患者の応答を、各自の基準状態と比較した。脂肪組織萎縮症症候群の希少性および臨床特性の変動性のため、無作為化された偽薬処置した対照群を含むことは実現不可能であった。NIDDKおよびテキサス大学南西医療センターの施設内倫理委員会は、本研究を承認した。書面による同意書は、患者または法定後見人から得られた。
【0039】
患者は、レプチン治療前およびレプチン治療の1、2および4か月後に再び国立衛生研究所の臨床センター、およびテキサス大学南西医療センターの一般臨床研究センターにて、入院患者として検討された。すべての患者は、レプチンを始める前に少なくとも6週間の併用薬物の安定した投与量下にあった。本研究期間にて、随時低血糖薬物を徐々に減らすか中止した。
【0040】
本研究の目標は、血漿中にてレプチンのほぼ生理学的な濃度を達成することであった。生理学的置換投与量が、すべての年齢の男性では0.02mg/kg/日、18歳以下の女性では0.03mg/kg/日および成人女性では0.04mg/kg/日であると推測された。組換えレプチンを、12時間ごとに皮下に投与した。置換投与量が肥満試験の中で最も一般的に使用される投与量の約10分の1であることに注目することが重要である。患者を、第1月間に置換投与量の50%、その翌月に100%置換投与量および次の2か月間に200%置換投与量にて処置した。組換えレプチンの効果を決定する一次終点は、ヘモグロビンAic、および空腹時血清トリグリセリドレベルとして決定した。
【0041】
生物化学分析
血清グルコースおよびトリグリセリドレベルは、自動日立機器(Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN)およびベックマン機器(Beckman, CA)を使用し、標準の方法によって決定した。ヘモグロビンAicは、イオン交換高圧液体クロマトグラフィー(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ社、ヘラクレス、CA)によって決定した。血清遊離脂肪酸(FFA)レベルは、業務用キット(Wako,Richmond, VA)にて決定した。血清インスリンレベルは、Abbott Imx機器 (Abbott Park, IL)および業務用キット(Linco Research, Inc. , St. Charles, MO)によって提供された試薬を用いた免疫分析によって決定した。血清レプチンレベルは、業務用キット(Linco Research, Inc. St. Charles, MO)を用いた免疫分析によって決定した。
【0042】
手順
安静時エネルギー消費は、Deltatrac設備(Sensormedics, Yorba Linda, CA)を用いて測定した。試験は、午前6時および8時の間に起きた安静時の患者にて8時間以上の一晩の断食後に行った。経口グルコース耐性試験は、75gのブドウ糖を用いた一晩の断食後に行った。血清グルコースは、グルコース負荷の−10、0、30、60、90、120および180分に測定した。
【0043】
高投与量インスリン耐性試験は、インスリン感度を評価するために0.2IU/kg調整インスリンを用いて行った。インスリンは、一晩の断食後に静脈内に投与した。グルコースのためのサンプルは、インスリン投与の−10、0、5、10、15、20および30分にて集めた。K定数(全身インスリン感度の反映としてのグルコース欠損の割合)は、第1系列動力学を用いて静脈内インスリン後の血中グルコース降下の一定割合として計算した(Harrision et al. , 1976)。
【0044】
身体脂肪は、二重エネルギーX線吸収測定装置を用いて決定した(DEXA, Hologic QDR 4500)(Hologic, Inc. , Bedford, MA)(Lambrinoudaki et al. , 1998)。肝臓のTl軸加重MR走査は、1.5テスラスキャナ上で得られた(General Electric Medical Systems, Milwaukee)(Abate et al., 1994)。肝臓容量は、サン・ワークステーション上にてMEDxイメージ分析ソフトウェアパッケージを用いて計算した(Sensor Systems, Inc., Sterling, VA)。以下のアルゴリズムの先の先端を決定することにより、肝臓の外相端の透写図を、個々の接触スライス上にて作製した。肝臓容量はその後、ピクセル領域およびスライス厚に基づいて計算した。NIH部にて参加する被験者には、推定した毎日の食物摂取を計算するために最後の3日の基準および4か月後の食物摂取を報告するように依頼した(Feskanich et al., 1993)。
【0045】
統計分析
測定値は平均±SEMとして示す。様々な研究期間にて研究変数を比較するため、反復手段分散分析を用いた。トリグリセリド濃度および測定したK定数のような非対称データは、対数変換した。対応のあるt検定は、適用可能な限り様々な時間ポイントと基準データを比較するために用いた。経口グルコース耐性試験期間中の血漿グルコース濃度は、繰り返された因子としてモデル化されたテスト期間での研究期間および時間の2−因子分散分析を用いて比較した。平均間の相違の95パーセントの信頼区間は、分散分析および平均間の相違に由来した(Hanh et al.,1991)。変換は、p<0.05で統計的に有意であると考えられた。同時比較のための調節は、特別な優先仮説の統計分析のために行われなかった。
【0046】
結果
基準患者の特性
本研究にて9人中8人は糖尿病であり、全員が高脂血症であった(表1)。すべての糖尿病患者は、本研究前に薬物療法を受け(表1、2)、4人の患者は、脂肪管理のための薬物療法を受けていた(表1)。糖尿病患者の平均HbAicは、9.1±0.5%(通常:<5.6%)であった。平均トリグリセリドレベルは、1405mg/dLに上がっていた(範囲:322〜7420mg/dL;通常範囲:35〜155mg/dL)[16mmol/L、範囲:3.6〜8.7mmol/L]。遊離脂肪酸(FFA)レベルは、通常の上限のおよそ3倍に増加していた(1540±407μmol/L;通常:350〜550μmol/L)。7人のNIH患者のうち6人は、超音波での脂肪肝および物理的試験での肥大肝臓を有していた。患者のうち3人は肝臓生検を経験し、3人のうち2人は、組織病理学の基準に基づいた非アルコール性脂肪性肝炎と診断された。(Manton et al. , 2000; Berasain et al. , 2000; Luyckx, et al., 2000)。
【0047】
平均血清レプチン濃度は基準(表1)にて1.3±0.3ng/mLであり、処置の第1月の月末に2.3±0.5ng/mL、第2月の月末に5.5±1.2ng/mL、および第4月の月末に11.1±2.5ng/mLまでの治療で増加した。したがって、本研究にて使用した投与量の組換えレプチン投与は、これらの患者にてほぼ正常な血清レプチンレベルを与える。
【0048】
第1の患者のレプチン効果:事例(
図1)
本研究にて処置した最初の患者(NIH−1)は最も重度に罹患しており、彼女の経過は、他のすべての可能性のある治療が中止された後でさえこの集団におけるレプチン置換の劇的な効果を示すことにて示唆的である。この患者は、健康に生まれたが10および12歳の間に脂肪欠損を経験した。彼女は13歳で重度高トリグリセリド血症および14歳で糖尿病を発現した。彼女は、トリグリセリドレベルが一貫して10000mg/dLより高く(113nmol/Lより高く)、9.5%のHbAicを備えた糖尿病に罹患した15歳の時にNIH臨床センターに来院した。彼女は、散在性の有痛性発疹性皮膚黄色腫を身体および骨盤の縁まで及ぶ巨大肝腫の全体に持っていた。週間血漿交換治療およびオーリスタット(Orlistat)を、高トリグリセリド血症を軽減するために加えた(
図1A)(Bolan et al)。他の顕著な臨床特徴は、大変な食欲(彼女は3200kcal/日を越えて食べることを報告した)および予測値の180%である2010kcal/日の非常に高い安静時代謝率を含んでいた。4か月以上の組換えレプチンは、血漿交換および糖尿病薬物を中止したための高トリグリセリド血症および高血糖症における著しい進歩的な改良を起こした(
図1A)。代謝パラメーターにおける改善には、皮膚黄色腫の消失が伴った。さらに、彼女の肝臓容量は、(
図1Bにて示される基準の4213mLから、4か月後の2644mLまで)40%減少した。
【0049】
レプチンは、すべての糖尿病性脂肪組織萎縮症患者における代謝制御を改善した
レプチン治療の開始に先立って、8人の糖尿病性脂肪組織萎縮症患者は弱い代謝制御を有していた。4か月のレプチン置換治療で、HbAicは、平均1.9パーセンテージポイント(95%CI、1.1〜2.7%、p=0.0012)減少した(
図2)。患者の個々の反応は、表3に示す。減少または中止の基準抗糖尿病治療にもかかわらず血糖制御が改善したことは特記できる(表2)。
【表3】
【0050】
インスリン耐性試験期間の血漿グルコースレベルは、基準と4か月の終端の比較での著しい改善を示した(
図3A)。K値(グルコース消失の割合)は、全身インスリン感度の改善を示す、0.0071±0.0012から0.0169±0.0039まで増加した(p=0.035)。さらに、経口グルコース耐性も基準と比較して著しく改善された(
図3B)。
【0051】
4か月の組換えレプチン治療の終わりにて、空腹時トリグリセリドレベルは、60%に下がった(CI、43〜77%、p<0.001、
図4)。この同じ期間に、空腹時遊離脂肪酸は、1540±407μmol/Lから790±164μmol/Lまで下がった(p=0.045)。個々の反応は、表3に示す。
【表4】
【0052】
肝臓容量の変化、および肝機能検査法
基準平均肝臓容量は、3097±391mLであった(年齢および性別一致の正常体重の個人の比較にて約4倍上昇した)。レプチンは、基準から平均28%(CI、20〜36%)肝臓容量を減少させた。肝臓容量の平均減少は、987mL(CI、546〜1428mL、p=0.0024)であった。肝臓サイズにおける改善は、肝機能検査法における改善に関連していた。基準アラニンアミノ基転移酵素濃度は、4か月の終端にて66±16U/Lから24±4U/Lに減少した(p=0.023)。同様に、血清アスパラギン酸アミノ基転移酵素濃度は、4か月の終端にて基準および21±2U/Lで53±12U/Lであった(p=0.03)。
【0053】
エネルギーバランスにおける変化
自己報告された日々の摂取カロリーは、2680±250kcal/日の基準から1600±150kcal/日に非常に減少した(p=0.005、n=7)。正確な安静時代謝率1920±150 kcal/日から1580±80kcal/日に並列の減少があった(p=0.003、n=9)。
【0054】
1人の被験者(NIH−3)以外のすべては、4か月末にて減量していた。平均減量は、−1.7および7.3kg間の範囲にて3.6±0.9kgであった。減量の重要な部分(50−65%)は、肝臓重量の損失に起因することができる。
【0055】
耐性および副作用
注入部位での皮膚反応は、報告または観察されなかった。所定の生化学的または血液パラメーターでの副作用効果の傾向はなかった。患者NIH−1は、第1投与量後に吐き気および嘔吐の発作を有していた。患者NIH−6は、洗浄に関連する第2投与量後に高血圧症の悪化を有していた。
【0056】
患者NIH−7は、治療の第3月期間に連鎖球菌感染により入院した。これらの出来事のどれも継続的な治療にて再発しなかった。
【0057】
考察
本研究では、レプチン置換が、リポジストロフィおよびレプチン欠損に罹患した患者の1群にて明瞭および劇的な代謝上の利益を与えた。本研究期間にて、組換えレプチンとの置換が、HbAicを1.9パーセンテージポイント改善させ、これは糖尿病人口(英国PDS、1998年)の〜22%に網膜症を発現する関係リスクを減少させると推定される。さらに、トリグリセリドレベルは60%に減少し、これは母集団全体中の心臓血管事象のための相対的な危険を35〜65%に減少させると推定される(Kreisberg、1998年;Garg、2000年)。
【0058】
これらの結果は、レプチンの作用メカニズムに対する新規な見識を提供する。レプチンシグナルは、エネルギー恒常性の制御におけるその既知の役割に加え、全身インスリン感受性およびトリグリセリドレベルを調節していると思われる。本研究は、レプチンがヒトにてインスリン感作物質およびインスリン予備物質としてインビボで機能するという最初の証拠である。
【0059】
無作為化された研究設計を用いなかったが、証拠の重要性は、改善した代謝制御が研究への参加者のコンプライアンスの改善ではなくレプチンによって引き起こされたことを示唆する。第1に、HbAicの改善の大きさおよび再現性は、プラシーボ効果ではなく薬物結果と最も一致する。本研究に含まれた患者の不均性にもかかわらず我々は、すべての糖尿病患者における代謝制御の一定の改善を観察した。患者NIH−2にはノンコンプライアンスの証拠があり、これは長期治療により矯正された、第2および4月の間の彼女のHbAicの悪化から説明される(表3)。この患者における薬物中止の改善は、改善したHbAicレベルがレプチン投与による効果である強い証拠である。
【0060】
食物摂取におけるレプチンの効果
脂肪組織萎縮性糖尿病におけるカロリー摂取の制限は、グルコースおよび脂質異常を改善すると認識されている(Trygstad et al.,1977)。しかしながら、患者は自らの食欲のために食事制限に従うことが困難である。レプチンは、明白にこれらの患者における食物摂取を減少させた。代謝パラメーター上の減少した食物摂取の貢献を決定するため、制限した研究を患者NIH−1に行った。病院では、彼女は、9日間レプチンを使用中止し、カロリー摂取を使用中止前のレベルに固定した。安定したダイエット中にもかかわらず、彼女の空腹時インスリン、トリグリセリドおよびグルコース濃度は48時間以内に増加した。これらの観察は、レプチンが食物摂取に対する効果と無関係に、インスリン感受性およびトリグリセリド代謝に対して効果を有することを示す。レプチン投与ありの場合またはなしの場合の脂肪組織萎縮症マウスにおけるペア摂食実験(pair-feeding)を用いた同様のデータが報告されている(Shimomura et al., 1999;Ebihara et al., 2001)。
【0061】
マウスモデルとの相関性
脂肪組織萎縮症の様々なマウスモデルは、脂肪組織の不存在がこの症候群におけるインスリン抵抗性の原因であることを示唆した(Burant et al., 1997; Moitra et al., 1998; Shimomura et al., 2000)。脂肪組織萎縮症マウスにて脂肪組織の移植が劇的にインスリン抵抗性を改善し、代謝制御を改善するという証明は、本仮説を強く支持する(Gavrilova et al., 2000)。しかしながら、なぜ全身インスリン感受性を維持するために脂肪組織が必要なのかは、不明なままであった。上述のシモムラ(Shimomura)らと共に、前記考察した観察および結果は、全身インスリン感受性における脂肪組織の調節作用の大部分がレプチンを介して作用することを示唆する。
【0062】
レプチンがインスリン感受性および脂質代謝の両方を調節する可能なメカニズムは、脂質生成を刺激する転写因子であるSREBP1cに基づくかもしれない。肝臓では、SREBP1cは脂肪組織萎縮症で見られる高インスリン血症によって上方調節される。レプチン欠損および高インスリン血症は、インスリン受容体基質であるIRS−2の下方調節を引き起こし、インスリン作用を障害し、肝臓グルコース生産を増加させる。増加した脂質生成および肝臓グルコース生産は、悪循環を引き起こす。増加した組織脂質レベルは、減少した全身インスリン感受性およびさらなる肝臓グルコース生産に関連する。レプチンの置換は、この悪循環を補正することが示されている。トリグリセリド合成の割合は脂肪組織萎縮症に罹患したヒトにて研究されていないが、間接的な熱量研究は脂質生成が実際に無調節にされうるいくつかの証拠を提供する(Arioglu et al., 2000)。他の観察では、本研究にて処置した患者における安静時エネルギー消費が減少した。このことは、減少された食事誘導熱産生に帰着する、減少した食物摂取によるかもしれない。
【0063】
レプチン:抗脂肪症ホルモン
Zuckerラットにおけるレプチン投与が、脂質蓄積部位として機能する様々な器官にて脂肪症の補正を導くことが報告された;それは、肝臓または心臓細胞の島細胞のような部位にてである(Unger, 1995; Unger et al., 1999)。脂肪細胞の外側の脂質蓄積は、トリグリセリドを貯蔵する最大容積に達した脂肪細胞に起因する現象に波及するかもしれない。リポジストロフィでは、これらの器官が脂質を貯蔵できるただ一つの部位である。リポジストロフィを備えたマウスにおけるレプチン処置は、肝臓トリグリセリド貯蔵に劇的な低下を引き起こす。並行して、リポジストロフィに罹患したヒトにおけるレプチン治療が、肝臓容積の著しく、極めて大きな減少を引き起こす。
【0064】
レプチン置換のためのタイミング
脂肪組織が内分泌器官であるという概念は、レプチンの発見によって強く支持された。レプチンは、脳、肝臓、筋肉、脂肪および膵臓を含む代謝の主要な器官にて直接および/または間接的両方の効果がある。レプチンは確かに、唯一の循環型脂肪細胞シグナルではない。例えば、他の脂肪細胞ホルモンとしては、筋肉および肝臓にて脂肪酸化を引き起こすことにおいて重要に見える脂肪細胞特異的組成物関連タンパク質(ACRP)30/アディポネクチン/AdipoQがある(Yamauchi et al., 2001;Fruebis et al., 2001; Berg et al., 2001)。脂肪細胞の欠損が、既知および未だ発見されていないすべての脂肪誘導シグナルの欠損に帰着するのであれば、従って脂肪の欠失によって特徴づけられた症候群で見られた異常の多くに寄与する。本研究は、脂肪欠損の状態における脂肪誘導ホルモンを置換する代謝効果から判断する最初のヒト研究である。脂肪組織萎縮症に関連して見られた代謝異常に対して(それだけではないが)レプチン欠損が主に貢献することが明らかとなった。そのため、本研究は、ヒトにおけるレプチン置換治療を考慮する重要な理由を強調する;それは、すなわち重度のリポジストロフィである。
【0065】
実施例III
成熟組換えメチオニルヒトレプチンのためのアミノ酸配列は、配列番号1として本明細書に示し、ここでマチュアなタンパク質の第1のアミノ酸がバリン(1位)で、メチオニル残基が−1位(本明細書にてrHu−レプチン1−146、配列番号1と定義する)に位置する。
【数1】
【0066】
別法として、以下に示したrHu−レプチン1−146と比較して28位にグルタミン欠損を有する、145アミノ酸を有するヒトレプチンの天然変異形を用いることができる(本明細書にてrHu−レプチン1−145、配列番号2と定義し、ここで空白「*」はアミノ酸がないことを示す)。
【数2】
【0067】
レプチンタンパク質、類似体、誘導体、調製、剤形化、医薬組成物、投与量および投与ルートの他の実施例は、以前に以下のPCT出願にて述べており、本明細書で以下に完全に示すように本明細書に参考のために示す。PCT国際出願番号WO 96/05309;WO 96/40912;WO 97/06816;WO 00/20872; WO 97/18833;WO 97/38014;WO 98/08512 およびWO 98/28427である。
【0068】
レプチンタンパク質、類似体および関連分子もまた、以下の刊行物にて報告されている;しかしながら、報告した任意の組成物の作用に関しては説明がない。
米国特許番号 US5,521,283;US 5,525,705;US 5,532,336;US 5,552,522;US 5,552,523;US 5,552,524;US 5,554,727;US 5,559,208;US 5,563,243;US 5,563,244;US 5,563,245;US 5,567,678;US 5,567,803;US 5,569,743;US 5,569,744;US 5,574,133;US 5,580,954;US 5,594,101;US 5,594,104;US 5,605,886;US 5,614,379;US 5,691,309;US 5,719,266(Eli Lilly and Company);
PCT WO96/23513;WO96/23514;WO96/23515;WO96/23516;WO96/23517;WO96/23518;WO96/23519;WO96/34111;WO 96 37517;WO96/27385;WP 97/00886;EP 725078;EP 725079;EP 744408;EP 745610;EP 835879 (Eli Lilly and Company);
PCT WO96/22308 (Zymogenetics);
PCT WO96/31526 (Amylin Pharmaceuticals, Inc.)
PCTWO96/34885;WO 97/46585 (SmithKline Beecham, PLC);
PCT WO 96/35787 (Chiron Corporation);
PCT WO97/16550 (Bristol-Myers Squibb);
PCT WO 97/20933 (Schering Corporation)
EP 736599 (Takeda) ;
EP 741187 (F. Hoffman La Roche)がある。
【0069】
有用なレプチンタンパク質または類似体、または関連する組成物あるいは方法、そのような組成物および/または方法のために提供するこれらの参考文献の範囲で、本方法と共に用いることが可能である。上記の条件で、これらの刊行物は本明細書に参考のために示す。
【0070】
実施例IV
標準酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)は、本発明の1つの実施例による脂肪組織萎縮症患者の血清中のレプチンレベルを決定するために用いることができる。ELISA法は、血清からのレプチンを捕らえるために精製ラットモノクローナル抗−rmetHu−レプチン抗体を用いることができる。ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合親和性精製ラビット抗−rmetHu−レプチンポリクローナル抗体も捕獲したレプチンを検知するために用いられることができる。これらの抗体を用いた該分析の検知の限界は、0.5−0.8ng/mlの範囲にあるかもしれない。ある抗体が使用されたかもしれないが、好ましい抗体は天然のヒトレプチンと特異的に反応し、5ng/ml血清以下のレプチン量を検知するために感度がよい。
【0071】
好適には、患者の基準レプチンレベルを決定するためのタイミングは、午前中のような断食後8〜12時間である。基準レプチンレベルは、例えば食事後など、またはほとんどの個人で観察されたレプチンの睡眠サイクル上昇(例えば、午前3時にレプチンレベルが上昇する)による、上昇レベルによって混乱されなかった。そのような基準レベルは、例えば夜間のレプチンレベル上昇の観察などに用いられてもよいが、それらのレベルは同様の状態の患者における同様のレベルと比較されるべきである。
【0072】
上記のデータに基づいて、レプチンを備えた処置に対する脂肪組織萎縮症患者の素因を決定する方法は、血清レプチン濃度に対応するレプチンレベルを決定すること、および血清レプチン濃度が約4ng/ml以下であることにより、実行することができる。