特許第6764946号(P6764946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6764946ベタイン誘導体に基づく動物用配合飼料用のマイコトキシン吸着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764946
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】ベタイン誘導体に基づく動物用配合飼料用のマイコトキシン吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20200928BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20200928BHJP
   C01B 33/40 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   B01J20/22 C
   B01J20/28 Z
   C01B33/40
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-559873(P2018-559873)
(86)(22)【出願日】2017年1月5日
(65)【公表番号】特表2019-521838(P2019-521838A)
(43)【公表日】2019年8月8日
(86)【国際出願番号】IB2017050037
(87)【国際公開番号】WO2017221079
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2019年10月16日
(31)【優先権主張番号】MX/A/2016/008358
(32)【優先日】2016年6月22日
(33)【優先権主張国】MX
(73)【特許権者】
【識別番号】516154543
【氏名又は名称】ヌテック,エセ.アー.デ セー.ウベ.
【氏名又は名称原語表記】NUTEK,S.A. DE C.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ララ アレジャーノ,ハビエル アルマンド
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ロサス,イルランダ ベロニカ
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/075686(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105541009(CN,A)
【文献】 国際公開第02/052950(WO,A1)
【文献】 米国特許第04769078(US,A)
【文献】 国際公開第02/007875(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/28、20/30−20/34
C01B 33/20−39/54
A23K 10/00−40/35、50/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩によって有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤。
【化1】
ここで、Rは1〜12個の炭素原子を有するアルキルを表し、nは1〜12である。
【請求項2】
前記アルミノケイ酸塩が、テクトケイ酸塩、フィロケイ酸塩又は両者の混合物である、請求項1に記載のマイコトキシン吸着剤。
【請求項3】
前記ベタイン誘導体が、以下の式(Ia)を有する、請求項1に記載のマイコトキシン吸着剤。
【化2】
【請求項4】
前記ベタイン誘導体の塩が、以下の式(Ib)を有する、請求項1に記載のマイコトキシン吸着剤。
【化3】
【請求項5】
前記アルミノケイ酸塩が、材料100グラム当たり少なくとも20ミリ当量の陽イオン交換容量を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイコトキシン吸着剤。
【請求項6】
前記アルミノケイ酸塩が、材料100グラム当たり55ミリ当量の陽イオン交換容量を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイコトキシン吸着剤。
【請求項7】
前記ベタイン誘導体又は該誘導体の塩が、使用される前記アルミノケイ酸塩の陽イオン交換容量の25%〜120%の割合で用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイコトキシン吸着剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイコトキシン吸着剤を含む、動物用配合飼料用の添加剤。
【請求項9】
請求項8の動物用配合飼料用の添加剤を調製するための事前混合物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイコトキシン吸着剤を含む、動物用配合飼料の配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイプA及びタイプBトリコテセンの、特にボミトキシン(すなわち、デオキシニバレノール)及びT−2トキシンの動物における有害作用を予防するための、配合飼料に用いられるマイコトキシン吸着剤の技術分野に関する。さらに、本発明は、本発明のマイコトキシン吸着剤を調製するための事前混合物、前記マイコトキシン吸着剤を含む動物用配合飼料又は該動物用配合飼料の配合物のための添加剤、及び、トリコテセン中毒に関連する、1つ以上の有害作用又は消化管における症状を治療又は予防するための、動物用配合飼料用の添加剤の調製における前記マイコトキシン吸着剤の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
マイコトキシンは、菌類によって生成される低分子量の化学物質であり、人間及び動物のいずれにも病理学的作用を生じさせる。多種多様な種類の菌類によって生成される何百ものマイコトキシンが存在しており、牧草地又は貯蔵サイロのいずれにおいても、それらは穀物や食料を汚染している。牧草地では、多くの場合に穀物が冒される菌類はフザリウムspであり、フザリウムspは、とりわけゼアラレノン、フモニシン及びトリコテセン(例えば、ボミトキシン、T−2トキシン又はジアセトキシスシルペノール(DAS))を生成する。
【0003】
特に、トリコテセンは、主にフザリウム属の菌類における様々な種(例えば、F. Sporotrichioides, F. graminearum, F. poae and F. culmorum)によって生成されるマイコトキシンであり、ミロセシウム、セファロスポリウム、トリコデルマ及びトリコセシウムなど他属の種によっても同様に生成されることがある。トリコテセンは、シルペノールの四環式の環による基本系の存在により化学的に特徴付けられる。
【0004】
化学的には、トリコテセンは、12,13−エポキシ−9−トリコテセンの中核によって特徴付けられるセスキテルペン環を有し、該分子の3、4、7、8及び15位にヒドロキシル基又はアセトキシ基による様々な数の置換基を有する化合物である。通常、いくつかのトリコテセンは、単一のアセチル基によってのみ区別される。
【0005】
全部で4つのトリコテセン群が存在しているが、フザリウム属のみがタイプA及びタイプBのトリコテセンを生成する。家畜に関して、フザリウム属のトリコテセンがますます注目されていることを考慮すると、これら2つのグループは、非常に興味深いものである。
【0006】
タイプAトリコテセンの例としては、T−2トキシン、HT−2トキシン、ジアセトキシスシルペノール(DAS)及びネオソラニオールが挙げられ、タイプBトリコテセンの最も重要なものとしては、ボミトキシンとして広く知られたデオキシニバレノール(DON)、及びニバレノールが挙げられる。
【0007】
トリコテセンの基本構造は式(I)に示され、グループA及びBを形成する該基本構造のための置換基は、以下の表1に列挙される。
【化1】
【0008】
【表1】
【0009】
通常、トリコテセンは、動物に以下の有害作用を生じさせる:嘔吐、下痢、消化管における炎症、出血及び壊死。特に、このグループにおいて最も強力なマイコトキシンは、T−2トキシン及びジアセトキシスシルペノール(DAS)であり、これらのマイコトキシンにより引き起こされる鳥の口腔病変が特徴的である。これに対し、穀物及び配合飼料において最も頻繁に高濃度で見られる最も蔓延しているトリコテセンは、デオキシニバレノール(DON)すなわちボミトキシンである。ボミトキシンの名前は、動物に嘔吐させることや、飼料を戻させることに由来している。
【0010】
動物用配合飼料内にトリコテセンが存在していると、飼料の摂取量が減少することが観測されている。特に、ブタはトリコテセンの作用に対して非常に敏感である。
【0011】
T−2トキシンの毒性作用とボミトキシン(DON)の毒性作用との違いは、飼料摂取量の観点からは広く知られていないが、両者の毒性は、それ以外の毒性作用の点では明確に異なっている。これらのトキシンの効果は、両方の場合において、齧歯動物及びブタの脳内のドーパミン、トリプトファン、セロトニンおよびセロトニン代謝産物のレベルが変化させられることに起因している(Prelusky et al, 1992)。
【0012】
これらの物質の脳内濃度は、食欲抑制物質と同じように変化することが観測されている。このことは、動物用飼料の摂取量の減少が、脳内の神経伝達物質レベルの変化に少なくとも部分的に起因していることを示唆している。将来的には、これらの毒性作用と末梢神経系との関係が発見されることも十分に考えられる。
【0013】
これまでのことを考慮して、業者は、動物用飼料中のマイコトキシンの問題に対処するための最善の方法は、予防であると評価している。そのために、穀物や飼料がこれらの毒素により汚染される可能性を低減する十分な穀物管理プログラムを実施するよう努めている。さらに、既に汚染されている穀物が貯蔵施設にまで到達することを防止するプログラムを実施する試みもなされている。
【0014】
良質な穀物を得るために、汚染された穀物を処理する様々な方法が調査され続けているが、これらの方法は全て、汚染を予防するには不十分であった。この点について、国際連合食糧農業機関(FAO)は、世界の穀物の大部分はマイコトキシンに汚染されており、そのような所見の理由は、まさに、今日まで業者において実施されてきたそのようなプログラムの失敗によるものであると推定している(Bhat and Vasanthi, 1999)。
【0015】
動物用飼料のマイコトキシン汚染の問題を解決するために提案される解決手段の1つには、マイコトキシン吸着剤を使用することが挙げられる。マイコトキシン吸着剤は、飼料の添加剤として利用され、いったん動物が汚染された飼料を摂取した後、動物の胃腸管内の水性環境にあるときにマイコトキシンを捕捉及び吸着することによって機能する。これらのマイコトキシン吸着剤は、主として、マイコトキシンが動物によって吸収され、循環系に到達した結果、有害作用を引き起こすことを防止する。
【0016】
何年も前から、アルミノケイ酸塩、粘土、ゼオライトをマイコトキシン吸着剤として使用することが既に知られており、これには有機アルミノケイ酸塩を使用することも含まれる(Phillips et al 1988, Kubena et al 1990)。
【0017】
先行技術では、マイコトキシン吸着剤に関する様々な文献が存在している。例えば、1991年9月19日に発行された公開番号WO91/13555の国際特許出願には、汚染された飼料中のマイコトキシンを吸着する添加剤として使用するための、金属封鎖剤により被覆されている固体の乾燥した生分解性組成物が記載されている。前記組成物は、カルシウムモンモリロナイト等のフィロケイ酸塩鉱物を含む。
【0018】
一方で、S.L. Lemke, P.G. Grant, T.D. Phillipsによる文献"Adsorption of Zearalenone by Organophilic Montmorillonite Clay(親有機性モンモリロナイト粘土によるゼアラレノンの吸着)" J Agric. Food Chem. (1998), pp. 3789-3796には、ゼアラレノンを吸着することが可能な有機修飾された(親有機性)モンモリロナイト粘土が記載されている。ここで、有機基は、とりわけ、例えばヘキサデシルトリメチルアンモニウム(塩化物)等の、メチル基と炭素16個の直鎖状脂肪族炭素鎖とを有する第四級アミンであり得るが、これらの基はいずれも極性基でない。
【0019】
2004年12月7日に発行された公開番号US6,827,959の米国特許には、第四級オニウム化合物を含む有機修飾された層状ケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤が開示されている。このオニウム化合物は、少なくとも1つのC10−C22アルキル基と、芳香族置換基とを含み、層状ケイ酸塩の交換可能なカチオンの2〜30%は、第四級オニウム化合物によって交換されている。該マイコトキシン吸着剤の第四級オニウム化合物のアルキル基は、脂肪族であるが、極性基でない。
【0020】
公開番号WO02/052950(2002)の国際特許出願には、長鎖第四級アミン、例えば、ジオクタデシルトリメチルアミン、オクタデシルトリメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン及び類似の化合物によって修飾された有機鉱物が記載されている。これらの全ては、メチル基と直鎖状脂肪族炭素鎖とを有する第四級アミンであり得るが、いずれの基も極性ではない。この修飾された有機鉱物は、動物においてマイコトキシンを吸着するための飼料添加物として使用される。
【0021】
一方で、2004年2月12日に発行された公開番号US2004/0028678の米国特許出願には、アフラトキシン、オクラトキシン、フモニシン、ゼアラレノン、デオキシニバレノール、T−2トキシン及びエルゴタミンを吸着するための、酸により活性化される層状ケイ酸塩の使用が開示されている。
【0022】
公開番号US2008/0248155の米国特許出願には、例えばT−2等のマイコトキシンを吸着するためのスチブンサイトを含む組成物の使用が記載されている。
【0023】
公開番号US2010/0330235(2010)の米国特許出願には、アモルファス構造を備えた有機ケイ酸塩とドデシルアミンとの組み合わせに基づく、アフラトキシン、ゼアラレノン、オクラトキシンA及びフモニシンB1等のマイコトキシンの吸着剤が記載されている。ドデシルアミンは、炭素12個の直鎖状かつ非極性の脂肪族炭素鎖を有する第一級アミンである。
【0024】
近年では、他の解決策もまた、マイコトキシンによる飼料の汚染を除去するという問題を解決するために提案されている。例えば、2012年3月22日に発行された公開番号US2012/0070516の米国特許出願には、基本的に植物のリグノセルロース系バイオマス又は単離されたバイオマスの成分を用いることにより、デオキシニバレノール及びT−2トキシン等のマイコトキシンに汚染された飼料の有害性を低減する方法が開示されている。本発明者らはまた、2012年8月30日に発行された公開番号US20120219683の米国特許出願において、飼料中の望ましくないマイコトキシンによる汚染を除去するための、デオキシニバレノール及びT−2トキシン等のマイコトキシンを吸着する、粘土材料及び活性炭を含むマイコトキシン吸着剤が記載されていることを発見した。
【0025】
一方で、公開番号WO2015/075686の国際特許出願には、エトキシル化されたアルキルフェノール鎖、より詳細にはノニルフェノールエトキシレート誘導体により官能化された第四級アンモニウム基を用いた有機アルミノケイ酸塩型の吸着剤が提示されている。これに由来するマイコトキシン吸着剤は、ボミトキシン及びT2トキシンの毒性作用に対して良好な保護を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上記の全ての努力にもかかわらず、本発明の技術分野では、動物用飼料中におけるボミトキシン、T−2トキシン、アフラトキシン及びフモニシンB1等のマイコトキシンの問題に対峙するための代替物が、未だに求められている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
広範な研究作業の結果、本願の発明者らは、実験的に、かつ予想外なことに、高いボミトキシン及び/又はT−2トキシン吸着性を可能にする、第四級アンモニウム化合物の脂肪族鎖の1つにカルボキシル官能基を使用した有機アルミノケイ酸塩型のマイコトキシン吸着剤を発見した。該マイコトキシン吸着剤は、対象となるボミトキシンの吸着レベルが特に高いことを示すと同時に、アフラトキシン、フモニシンB1等の他のマイコトキシンについても高い吸着率を維持していた。
【0028】
本発明の第1の態様では、本発明は、第四級アンモニウム化合物の脂肪族鎖の1つにカルボキシル官能基を使用した有機アルミノケイ酸塩型のマイコトキシン吸着剤に関する。該マイコトキシン吸着剤は、マイコトキシンの、特にタイプA及びタイプBトリコテセンの、特にボミトキシン(すなわち、デオキシニバレノール)及びT−2トキシンの動物における有害作用を予防するために、配合飼料に用いられる。アルミノケイ酸塩に使用される第四級アンモニウム化合物の脂肪族基内のカルボキシル基によって、本発明のマイコトキシン吸着剤の表面には高い極性が付与されることが見出された。
【0029】
第2の態様では、本発明は、本発明のマイコトキシン吸着剤を調製するための事前混合物、本発明の上記マイコトキシン吸着剤を含む動物用配合飼料用の添加剤及び動物用配合飼料の配合物に関する。
【0030】
第3の態様では、本発明は、動物用配合飼料用の添加剤の調製及び動物用配合飼料の調製における、トリコテセン中毒、特にタイプA及びタイプBトリコテセン中毒、特にボミトキシン(すなわち、デオキシニバレノール)中毒及びT−2トキシン中毒に関連する1つ以上の有害作用又は消化管における症状を治療又は予防するための、本発明のマイコトキシン吸着剤の使用に関する。
【0031】
第4の態様では、本発明は、材料100g当たり少なくとも20ミリ当量の陽イオン交換容量を備えたアルミノケイ酸塩基材と、一方の末端にカルボキシル基を有する両性有機化合物とを反応させることによる、トリコテセン吸着剤の調製プロセス、特にボミトキシン用のトリコテセン吸着剤の調製プロセスを提供する。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、本発明のマイコトキシン吸着剤の、マイコトキシンに汚染された飼料における使用に関する。本発明はまた、動物におけるマイコトキシン症の問題を防止する動物用配合飼料を調製する方法についても目的とする。
【0033】
本発明のマイコトキシン吸着剤は、マイコトキシン吸着性を向上させてマイコトキシンが動物の糞と共に排泄されるようにすることを達成するため、単独で又は既知のマイコトキシン吸着剤と併せて、粒状又は粉末状のいずれかにおいて、汚染された飼料に添加されることにより用いられる。
【発明の効果】
【0034】
したがって、本発明を実施することにより、汚染された飼料内のマイコトキシンが動物の消化管により吸収されることが防止される。その結果、動物がその食物を摂取する際に、動物の健康状態が実質的に改善され、動物の体重増加と、卵やミルク等の派生製品の生産性とのいずれにも反映されることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本出願の発明者らは、マイコトキシンを効率的に吸着させるために、第四級アンモニウム化合物の脂肪族鎖の1つにカルボキシル官能基を使用することによって、有機アルミノケイ酸塩型のマイコトキシン吸着剤の表面の極性が増加するという仮説を、実験的に調査した。
【0036】
このようにして、本発明は、本出願に記載される処理によるアルミノケイ酸塩の表面修飾が、マイコトキシンの吸着容量を増加するために用いられ得ることを基礎としている。続く処理工程は達成目標によるが、通常は、親水性と、疎水性すなわち親有機性との2つの主な表面特性の操作を含む(Lara et al 1998)。
【0037】
特に、本発明では、表面修飾は、表面が高極性を獲得するように、カルボキシル官能基を備えた有機両性化合物によって行われる。表面修飾に用いられる有機化合物は、アルミノケイ酸塩表面の活性部位の一部又は全部を占有し得る。
【0038】
用いられるアルミノケイ酸塩は、テクトケイ酸塩若しくはフィロケイ酸塩、又は両者の混合物であり得る。その場合には、用いられる材料は、材料100グラム当たり少なくとも20ミリ当量の陽イオン交換容量を有しており、好ましくは、材料100グラム当たり55ミリ当量の陽イオン交換容量を有している。
【0039】
有機化合物の選択は、マイコトキシン吸着剤において求められる特異性及び効率に応じて行われる。本発明の場合、好ましくは、用いられる有機化合物はベタイン(トリメチルグリシン、すなわちTMG)である。この有機化合物は、用いられるアルミノケイ酸塩の陽イオン交換容量の25%〜120%の割合で用いられる。反応は、水性媒体中にて15℃〜85℃の間の温度で0.25〜3時間該水性溶液を撹拌することによって行われる。生成物は濾過により分離され、40℃〜150℃の間の温度で乾燥させられて、100〜325盤の間のメッシュにより破砕又は粉砕される。
【0040】
本発明の添加物は、飼料の重量の0.025%〜0.2%の比率でトリコテセンで汚染された飼料に添加される、低含有量の吸着剤である。
【0041】
第1の態様によれば、本発明は、以下の式(I)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤に関する。
【化2】
ここで、Rは1〜12個の炭素原子を有するアルキル基を表し、nは1〜12である。
【0042】
Rが1に等しく、nが1に等しい場合には、式(I)のベタイン誘導体は、以下の式(Ia)に係る、単にベタインとして知られるトリメチルグリシンである。
【化3】
【0043】
一実施形態では、本発明は、式(I)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤であって、該アルミノケイ酸塩が、テクトケイ酸塩、フィロケイ酸塩又は両者の混合物であるマイコトキシン吸着剤に関する。
【0044】
また別の実施形態では、本発明は、式(I)のベタイン誘導体により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤であって、Rはメチル基を表し、nは1〜12であり、より好ましくは、nは1〜6であり、より好ましくは、nは1である、マイコトキシン吸着剤に関する。
【0045】
本発明はまた、式(I)のベタイン誘導体により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤であって、Rは1〜6個の炭素原子を備えたアルキルであり、好ましくは、Rは1〜3個の炭素原子を備えたアルキルであり、より好ましくは、Rは1個の炭素原子を備えたアルキルである、マイコトキシン吸着剤に関する。
【0046】
別のさらなる特定の実施形態では、本発明は、式(I)のベタイン誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を備えることを特徴とするマイコトキシン吸着剤に関する。好ましくは、前記塩は、以下の式(Ib)に係るベタイン塩酸塩である。
【化4】
【0047】
別の実施形態では、本発明に係るマイコトキシン吸着剤は、式(I)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩であって、材料100グラム当たり少なくとも20ミリ当量、より好ましくは、材料100グラム当たり55ミリ当量の陽イオン交換容量を有するアルミノケイ酸塩を含む。
【0048】
本発明のマイコトキシン吸着剤はまた、式(I)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩であって、該ベタイン誘導体が、用いられるアルミノケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)の25%〜120%の割合で用いられ、好ましくは、CECの60%〜120%の割合で用いられる、アルミノケイ酸塩を含み得る。
【0049】
別の実施形態では、本発明のマイコトキシン吸着剤は、式(I)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩であって、材料100グラム当たり少なくとも55ミリ当量の陽イオン交換容量を有するアルミノケイ酸塩を含む。
【0050】
本発明はまた、式(I)、(Ia)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩、特に、式(Ib)を有するベタイン塩酸塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤であって、式(I)のベタイン誘導体該誘導体の塩が、用いられるアルミノケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)の25%〜120%の割合で用いられ、好ましくは、CECの60%〜120%の割合で用いられる、マイコトキシン吸着剤にも関する。
【0051】
第2の態様によれば、本発明は、本発明のマイコトキシン吸着剤を調製するための事前混合物、本発明のマイコトキシン吸着剤を含む動物用配合飼料用の添加剤及び動物用配合飼料の配合物に関する。
【0052】
第3の態様によれば、本発明は、動物用配合飼料用の添加剤の調製及び動物用配合飼料の調製における、トリコテセン中毒、特にタイプA及びタイプBトリコテセン中毒、特にボミトキシン(すなわち、デオキシニバレノール)中毒及びT−2トキシン中毒に関連する1つ以上の有害作用又は消化管における症状を治療又は予防するための、本発明のマイコトキシン吸着剤の使用に関する。
【0053】
本発明は、トリコテセン中毒に関連する、消化管における嘔吐、下痢、炎症、出血又は壊死等の、タイプA及び/又はタイプBトリコテセン中毒に関連する1つ以上の有害作用又は消化管における症状を治療又は予防するための動物用配合飼料用の添加剤の調製における、式(I)に係るベタイン誘導体又は該誘導体の塩により有機修飾されたアルミノケイ酸塩を含むマイコトキシン吸着剤の使用を含む。
【0054】
本発明では、トリコテセン中毒に関連している1つ以上の有害作用又は消化管における1つ以上の症状は、ジアセトキシスシルペノール(DAS)、HT−2トキシン(HT−2)、T−2トキシン(T−2)、ネオソラニオール(NEO)、デオキシニバレノール(DON)すなわちボミトキシン、3−アセチルデオキシニバレノール(3−AcDON)、ニバレノール(NIV)、フザレノン−X(Fus−X)、トリコテコロン(TRI)及びそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0055】
また、本発明のさらに別の実施形態は、動物におけるトリコテセン中毒に関連する有害作用又は消化管における症状を低減又は排除するための配合飼料の配合物の調製、特にタイプA及び/又はタイプBトリコテセン、より具体的にはデオキシニバレノール(すなわち、ボミトキシン)及びT−2トキシンの有害作用を低減又は排除するための配合飼料の配合物の調製における、本発明に関する動物用配合飼料用の添加剤の使用に関する。
【0056】
本発明はまた、トリコテセン中毒に関連する1つ以上の有害作用又は消化管における1つ以上の症状を治療又は予防するための動物用飼葉のための添加剤として使用するための本発明に関するマイコトキシン吸着剤であって、該動物用飼葉のための添加剤が、嘔吐、下痢、炎症、出血、壊死又は口腔病変を治療又は予防するためのものである、マイコトキシン吸着剤を含む。
【0057】
本発明はさらに、本発明のマイコトキシン吸着剤を調製するためのプロセスに関する。該プロセスは、以下のステップを含む。
a)材料100グラム当たり少なくとも20ミリ当量の陽イオン交換容量を備えたアルミノケイ酸塩を、水性媒体中にて15℃〜85℃の間の温度で0.25〜3時間撹拌しながら、使用されるアルミノケイ酸塩の25%〜120%の割合の式(I)又は(Ia)のベタイン誘導体又は該誘導体の塩と、特に式(Ib)のベタイン誘導体の塩酸塩と、より詳細にはベタイン塩酸塩と接触させるステップ、
b)濾過により分離するステップ、
c)40℃〜150℃の間の温度で乾燥させるステップ、及び、
d)100〜325盤の間のメッシュにより破砕又は粉砕するステップ
【0058】
以下の実施例は、本発明のマイコトキシン吸着剤によるボミトキシン及びT−2トキシンの影響からの保護の客観的価値が、特に高いことを示している。これらの実施例は、本発明のマイコトキシン吸着剤の調製、及びその「生体内での(in vivo)」評価を含んでおり、これらの全ては限定ではなく例示の目的で提供されるものである。
【実施例】
【0059】
実施例1
本発明のマイコトキシン吸着剤の調製
(ベタインを用いる方法)
【0060】
使用する原材料
・表2に示されるような表面処理に用いられる有機化合物の特性
・使用されるアルミノケイ酸塩基材は、陽イオン交換容量55meq/100gのベントナイト型アルミノケイ酸塩である。
【0061】
【表2】
【0062】
配合
初期の実験計画は、アルミノシリケート基材の陽イオン交換容量(CEC)の置換率に基づいて進められた。基材として、CECの60%〜120%の置換率が得られた。
【0063】
配合物の実験的開発
【0064】
材料及び設備
1.実験室用ガラス器具
2.マグネチックスターラー
3.乾燥器
4.実験室用モータ又は破砕器
5.200メッシュ篩
【0065】
手順
・交換手順は、先行技術(S.L. Lemke, P.G. Grant and T.D. Phillips "Adsorption of Zearalenone by Organophilic Montmorillonite Clay(親有機性モンモリロナイト粘土によるゼアラレノンの吸着)" J Agric. Food Chem. (1998), pp. 3789-3796)に従って行う。この特定の場合には、窒素中に正電荷を得るために、塩酸を水に添加する。
・反応の最終段階を2時間行う。
・混合物を濾過する。
・乾燥器にて105℃付近の温度で試料を乾燥させる。
・試料を破砕する。
・試料を200メッシュ篩にかける。
・試料を適宜分析する。
【0066】
実施例2
本発明のマイコトキシン吸着剤の調製
(ベタイン塩酸塩を用いる方法)
【0067】
使用する原材料
・表3に示されるような表面処理に用いられる有機化合物の特性
・使用されるアルミノケイ酸塩基材は、陽イオン交換容量55meq/100gのベントナイト型アルミノケイ酸塩である。
【0068】
【表3】
【0069】
配合
初期の実験計画は、アルミノシリケート基材の陽イオン交換容量(CEC)の置換率に基づいて進められた。基材として、CECの60%〜120%の置換率が得られた。
【0070】
配合物の実験的開発
【0071】
材料及び設備
6.実験室用ガラス器具
7.マグネチックスターラー
8.乾燥器
9.実験室用モータ又は破砕器
10.200メッシュ篩
【0072】
手順
・交換手順は、先行技術(S.L. Lemke, P.G. Grant and T.D. Phillips "Adsorption of Zearalenone by Organophilic Montmorillonite Clay(親有機性モンモリロナイト粘土によるゼアラレノンの吸着)" J Agric. Food Chem. (1998), pp. 3789-3796)に従って行う。この場合には、使用されるベタイン中の塩酸のため、塩酸は添加しない。
・反応の最終段階を2時間行う。
・混合物を濾過する。
・乾燥器にて105℃付近の温度で試料を乾燥させる。
・試料を破砕する。
・試料を200メッシュ篩にかける。
・試料を適宜分析する。
【0073】
実施例3
ボミトキシン(すなわち、デオキシニバレノール)を吸着するように設計された本発明のマイコトキシン吸着剤を用いた、ラットにおける「生体内での(in vivo)」評価
【0074】
本実施例では、マイコトキシン吸着剤として、ベタイン塩酸塩で有機修飾されたアルミノケイ酸塩を用いる。このベタイン塩酸塩を、Zeotri B2又はZB2と称する。
【0075】
この試験では、離乳直後の雄Sprague Dawleyラット30匹を用いて、これらを3つの群に分け、1週間の適応期間を与えた。単独のラットを、反復として使用した。陰性対照群及び陽性対照群、並びに投与群は、各処置あたり10匹のラットを有した。これらのラットは、プエブラ栄誉州立自治大学(BUAP)のバイオテリウムから受領した。実験時間は35日間であった。ボミトキシン(すなわち、DON)による汚染レベルは、飼料中にて12mg/kg(12ppm、すなわち12,000ppb)であった。Zeotri B2吸着剤の投与量は、1.5kg/Ton(飼料)であった。
【0076】
飼料中に存在するDONは、動物の成長速度に影響を与えた。このことは、飼料摂取量の減少の結果による体重増加量において観測される。
【0077】
使用されたDONの濃度12,000ppbでは、3つの処置の間で成果パラメータに統計的に有意な差があった:体重増加量、飼料摂取量及び飼料要求率。重要な観測として、Zeotri B2により処置した群は最終体重の変動が少ないことが挙げられる。このことは、標準誤差が少ないことによって確認される。
【0078】
欧州連合は、40%を保護する際のバイオマーカーに基づいて、製品が有効であると考えていると述べている。今回の場合、有効性は、陽性対照群に関する体重増加量に基づいて推定した。この体重増加量は、吸着剤を摂取した群によって回復された体重である。本発明のマイコトキシン吸着剤の有効性は、体重増加量に基づけば、驚くべきことにZB2=64.1%であった。
【0079】
以下の表4〜表6は、初期体重及び最終体重、並びに、体重増加量、飼料摂取量及び飼料要求率における成果結果を示す。
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
得られた実験結果は、陽性対照群の食餌中にDONが存在する場合に、飼料摂取量にDONが影響を及ぼすことを示している。DONの効果は、食物摂取量の第3週目から明らかになった。投与群ZB2においても同じことが起こったが、その程度はより低かった。
【0084】
この実験(12,000ppb)におけるDONの含有レベルは、食物摂取量に影響を及ぼし、それによって体重増加量に影響を及ぼした。これらの結果は、上記群の間でこれらのパラメータに統計的に有意な差を示した。
【0085】
投与量1.5kg/TのZB2マイコトキシン吸着剤は、評価されたパラメータにおいて、12,000ppbのDONの効果を、陽性対照群との統計学的差異をもって減少させることができた。
【0086】
実施例4
ボミトキシン(すなわち、デオキシニバレノール)をより高い含有投与量で吸着するように設計された本発明のマイコトキシン吸着剤を用いた、ラットにおける生体内での(in vivo)評価
【0087】
第2の実験は、2kg/Tよりわずかに多い投与量にて吸着剤の有効性を評価するために、ラットを用いて実施した。このときのDON汚染は、12.5ppmであった。
【0088】
この試験では、離乳直後の雄Sprague Dawleyラット60匹を用いて、これらを3つの群に分けた。1週間の適応期間もまた考慮して、実験は35日間続いた。1匹のラットを、反復として使用した。
【0089】
上記のように、本発明(ZB2)のマイコトキシン吸着剤の投与量は、2kg/T(飼料)であり、DON汚染レベルは12.5ppmであったが、それに加えて10.2ppmのゼアラレノン汚染レベルがあった。結果を表7に示す。
【0090】
【表7】
【0091】
本発明のマイコトキシン吸着剤であるZeotri B2では、驚くべきことに、59.5%の体重増加に基づく保護が、統計学的差異をもって認められたことが観測される。
【0092】
実施例5
成長期のブロイラーニワトリ(生後1〜28日)における、フザリウム スポロトリキオイデス(Fusarium Sporotrichioides)培養物より得られたT−2トキシン1.8ppmの有害作用に対抗する、本発明のマイコトキシン吸着剤の生体内での(in vivo)評価
【0093】
本明細書に記載のマイコトキシン吸着剤の有効性についての情報を得るために、養鶏場において、ブロイラーを用いて実験を実施した。このとき、T2トキシン、すなわち別のトリコテセンにて汚染された飼料を使用した。
【0094】
生後1日のニワトリ112匹を用いて、これらを4つの処置群に分けた。各処置群は、各反復あたり7匹のニワトリを備えた4つの反復からなる。以下の表7に、処置の分布及びトキシンT2による汚染レベルを示す。この汚染レベルは、1900ppbのオーダーであった。本発明のマイコトキシン吸着剤は、2kg/Tにて使用した。実験は28日間続き、基礎となる飼料は市販のものであった。
【0095】
【表8】
【0096】
実験期間の終わりに、ニワトリの体重を測定して、体重増加量及び飼料要求率を計算した。表9に最終結果を示す。
【0097】
【表9】
【0098】
この実験から、本発明のマイコトキシン吸着剤は、トキシンT2の負の作用に対し、統計学的差異をもって良好な保護を提供することが観測される。
【0099】
今日に関して、前述の発明を実施するために本出願人に知られている最良の方法は、本発明のこの説明から明らかであることを特筆しておく。