特許第6765102号(P6765102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマデンタルの特許一覧

特許6765102歯科用樹脂複合材料、およびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765102
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】歯科用樹脂複合材料、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/15 20200101AFI20200928BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20200928BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20200928BHJP
   A61K 6/802 20200101ALI20200928BHJP
   A61K 6/884 20200101ALI20200928BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20200928BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20200928BHJP
   A61C 13/087 20060101ALI20200928BHJP
   A61C 5/00 20170101ALI20200928BHJP
【FI】
   A61K6/15
   A61K6/17
   A61K6/831
   A61K6/802
   A61K6/884
   A61K6/891
   A61K6/76
   A61C13/087
   A61C5/00
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-202464(P2016-202464)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-62490(P2018-62490A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】清水 朋直
(72)【発明者】
【氏名】山川 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−152150(JP,A)
【文献】 特開2009−161533(JP,A)
【文献】 特開2003−183406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
A61K 6/15
A61C 5/00
A61C 13/087
A61K 6/17
A61K 6/76
A61K 6/802
A61K 6/831
A61K 6/884
A61K 6/891
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を含む複合材料であって、該表面処理された金属酸化物が、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析による120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下である表面処理された金属酸化物であることを特徴とする歯科用樹脂複合材料。
【請求項2】
金属酸化物の平均体積粒径が0.1μm〜3μmの範囲である、請求項1に記載の歯科用樹脂複合材料。
【請求項3】
金属酸化物の含有量が、歯科用樹脂複合材料の20〜60質量%の範囲である請求項1又は2に記載の歯科用樹脂複合材料。
【請求項4】
金属酸化物をカップリング剤で下記式(1)を満足する条件で表面処理を行い、該表面処理された金属酸化物と融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂とを含む組成物を350〜450℃の条件下で混練することを特徴とする請求項1に記載の歯科用樹脂複合材料の製造方法。
X[g]=(A/B)×C (1)
(式中、Xは金属酸化物1g当たりのカップリング剤の添加量、Aは金属酸化物の比表面積[m/g]、Bはカップリング剤の最小被覆面積[m/g]、係数Cは0.05〜0.6である)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用樹脂複合材料を熱プレス成形することによって歯科補綴物を作製する、歯科補綴物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用樹脂複合材料を、射出成形または押出成形することによって厚さ10mm以上の歯科治療用材料を製造する歯科治療用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用樹脂複合材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、機械的・電気的な特性、軽量で加工性に優れるといった特徴を有しており、電気部材、建築材料、農業資材や日用雑貨まで幅広い分野で活用される重要な材料となっている。上記用途に関しては樹脂単体での使用例も多いが、その機械的特性、特に強度や耐熱性といった性能向上のためにフィラーを含有させることが広く行われている。
【0003】
これら樹脂材料は、強度を保ったままの軽量化への寄与、優れた耐薬品性、生産性の高さ、といった特性を活かして各種金属部品の代替材料としての用途に広がりを見せており、使用量は増加を続けており、特に近年では、医療用材料分野への活用も盛んに行われている。
【0004】
しかしながら、一般に樹脂材料は金属材料と比較すると耐熱温度や機械的強度が低く、単純にこれまでの用途全てを樹脂製部品に代替することは容易ではない。上記問題を解決するために、エンジニアリングプラスチックや、スーパーエンジニアリングプラスチックといった耐熱性や強度の高い樹脂が開発されており、目的に応じてさらに機能を向上するために、無機粒子などをフィラーとして配合する複合技術も提案されている(特許文献1)。
【0005】
例えば、スーパーエンジニアリングプラスチックにフィラーを添加して、歯科用材料として利用する技術が提唱されている(特許文献2〜5)。
【0006】
フィラーとしては、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアなどの金属酸化物が広く使用されている。金属酸化物をフィラーとして使用する場合、シランカップリング剤を始めとするカップリング剤にて表面処理を行うことで、フィラーの樹脂への分散性を向上させ、機械的強度などの物性を向上させることが可能な場合も多い。
【0007】
カップリング剤は通常、金属酸化物などの無機化合物と反応・相互作用する官能基と、樹脂などの有機化合物と反応・相互作用する官能基を有している。ここで、有機化合物と反応・相互作用をする官能基は、通常有機官能基である。有機官能基を有するカップリング剤で表面処理された金属酸化物を、熱可塑性樹脂と複合化する際、通常実施される熱を加えることによって熱可塑性樹脂を溶融させる溶融混練を行うと、カップリング剤の有機官能基の一部または全部が分解してしまったり、反応残渣として表面に残存していたカップリング剤が揮発してしまったりする場合がある。とりわけ、スーパーエンジニアリングプラスチックなどの融点または流動化温度が高い樹脂を使用する場合、その影響は顕著である。
【0008】
300℃以上の高い融点または流動化温度を有する樹脂と、フィラーとしてカップリング剤で表面処理された金属酸化物とを複合化した歯科用材料としては、例えば上述の特許文献2〜5が挙げられる。
【0009】
特許文献2では、アルミナファイバー(もしくはジルコニアファイバー)がセラミックに対するシラン(カップリング剤)の重量比率が約1:100として表面処理をし、それをポリエーテルエーテルケトン樹脂やポリエーテルケトンケトン樹脂に配合した歯科材料が記載されている。フィラー表面処理に際しての表面処理剤の量が及ぼす影響、表面処理後のフィラー表面の表面処理剤量およびその影響については、具体的に示されていない。
【0010】
特許文献3では、ポリアリールエーテルケトン樹脂およびポリスルホン樹脂から選択される少なくとも1種を主成分として含む熱可塑性樹脂に、無機粒子混合物を配合した有機無機複合体を、歯科用材料に用いる技術が提案されており、無機粒子はシランカップリング剤などによって表面処理されることが好ましく、カップリング剤は、無機粒子100質量部当たり1〜10質量部の範囲が好適であることが記載されている。
【0011】
特許文献4では、融点または流動化温度が200℃〜500℃の範囲内にある熱可塑性樹脂と、表面処理剤で表面処理された無機粒子からなる樹脂複合材料を歯科用材料として使用する技術が提案されている。無機粒子の表面処理に際しては、表面処理剤の配合量は、無機粒子の重量と無機粒子の比表面積との乗算値を表面処理剤の最小被覆面積で除することによって算出する最適表面処理剤量(理論値)に対して、0.7〜1.2の範囲にあることが好ましいことが記されている。具体的には、最適表面処理剤量(理論値)に対して1.0の条件で表面処理を行った無機粒子を使用した樹脂複合材料が記載されている。
【0012】
特許文献5では、ポリアリールエーテルケトン樹脂と非晶質シリカ粒子を含む歯科用樹脂複合材料が提案されている。非晶質シリカ粒子を表面処理する際に用いる表面処理剤の量が、非晶質シリカ粒子100質量部当たり1質量部〜10質量部が好適であることが記載されている。具体的には、非晶質シリカ100質量部当たり、2.4質量部の表面処理剤にて表面処理を行った例が記載されている。
【0013】
なお、いずれの文献にも、複合材料に使用する無機粒子の、最適な熱重量分析での重量減少率については、記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−330378号公報
【特許文献2】特表2008−541874号公報
【特許文献3】特開2013−144778号公報
【特許文献4】特開2013−144783号公報
【特許文献5】特開2014−152150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、ポリアリールエーテルケトン樹脂などの高い融点または流動化温度を有する熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理をしたフィラー(特に金属酸化物)とを含む複合材料の歯科用途への利用が提案されている。フィラーとして使用される金属酸化物の表面をカップリング剤で処理することにより、樹脂と金属酸化物の親和性を向上させることが出来、色調を良好にしたり、強度を向上させたりすることが容易となる。
【0016】
熱可塑性樹脂と金属酸化物を複合化する際は、通常熱によって熱可塑性樹脂を可塑化させて行われる。上記のような高い融点または流動化温度を有する熱可塑性樹脂を使用する場合、可塑化温度が高いため、複合化の際には通常高温が必要となる。
【0017】
上記のような高い融点または流動化温度を有する熱可塑性樹脂(特に融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂)と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物とを含む複合材料を用いて歯科用部材へと成形する際、歯科用部材に気泡の発生による外観不良、強度低下に加え、変色/色むらなどが発生してしまう場合があった。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、気泡や変色/色むらなどが発生しにくい、高い融点または流動化温度を有する熱可塑性樹脂とカップリング剤で表面処理された金属酸化物とを含む歯科用複合材料、および該歯科用複合材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、発明者らは鋭意検討を行った結果、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂とカップリング剤で表面処理された金属酸化物とを含む歯科用樹脂複合材料であって、かっプリング剤で表面処理された金属酸化物が大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下であることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0020】
すなわち本発明は、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を含む複合材料であって、該表面処理された金属酸化物が、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析による120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下である表面処理された金属酸化物であることを特徴とする歯科用樹脂複合材料である。
【0021】
金属酸化物の平均体積粒径は0.1μm〜3μmの範囲であることが好ましく、金属酸化物の含有量は、歯科用樹脂複合材料の20〜60質量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の歯科用樹脂複合材料は、金属酸化物をカップリング剤で下記式(1)を満足する条件で表面処理を行い、該表面処理された金属酸化物と融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂とを含む組成物を350〜450℃の条件下で混練することで製造することができる。
【0023】
X[g]=(A/B)×C (1)
(式中、Xは金属酸化物1gあたりのカップリング剤の添加量、Aは金属酸化物の比表面積[m/g]、Bはカップリング剤の最小被覆面積[m/g]、係数Cは0.05〜0.6である)
【0024】
上記の歯科用複合材料を熱プレス成形することによって歯科補綴物を作製することができる。また、上記の歯科用複合材料を、射出成形または押出成形することによって厚さ10mm以上の歯科治療用材料を製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、気泡や変色/色むらが抑制された歯科用部材を作製することが可能な歯科用樹脂複合材料を提供することができる。また、該歯科用樹脂複合材料を用いて製造した歯科補綴物及び歯科治療用材料は、気泡や変色/色むらが抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を含む複合材料において、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下である、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を用いることで、気泡や変色/色むらが抑制された歯科用部材を作製することが可能な歯科用樹脂複合材料を得ることが出来る。
【0027】
この原因は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推察している。
【0028】
カップリング剤で表面処理された金属酸化物を、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と複合化して樹脂複合材料を製造する場合、通常、該熱可塑性樹脂を、その融点または流動化温度以上の温度(以下、溶融温度ともいう。)で可塑化させて、溶融混練することで行われる。その際、取扱性を考慮して、通常は粒状(ペレット状)の樹脂複合材料を得る。その後、このようにして複合化された樹脂複合材料から歯科用部材を作製する手法としては、樹脂複合材料を再び溶融温度で可塑化させて所望の形状の型に流し込んだり押し込んだりする方法、樹脂複合材料を例えばブロック形状に成形した後に所望の形状に削りだす方法などが主要な手法である。樹脂複合材料を製造する際に、直接ブロック形状とした場合、ブロック形状とした樹脂複合材料を所望の形状に削りだすことも可能である。一般的に、溶融混練する際の好適な溶融温度は、融点または流動化温度〜融点または流動化温度よりも100℃高い温度の範囲から選択される。
【0029】
ここで、カップリング剤は通常分子量が小さく有機官能基を有するため、高い融点または流動化温度を有する熱可塑性樹脂とカップリング剤で表面処理された金属酸化物とを溶融混練する場合、金属酸化物表面のカップリング剤反応残渣や、金属酸化物表面に結合したカップリング剤の一部位(主に有機官能基)が、一部揮発したり分解したりして、気体が発生することがある。その結果、溶融混練にて得られた樹脂複合材料のペレットには、上述の気体がペレット中に含まれ、気泡として存在することがある。
【0030】
このような気泡を有する樹脂複合材料のペレットを可塑化させて型に流し込んだり押し込んだりして歯科用部材の成形を行う場合、その気泡を取り除くのが困難であり、成形された歯科用部材に気泡が発生しやすくなる。また、気泡を取り除くことが出来た場合でも、気泡が存在していた部位は他の部位と比較して酸素のような反応性の高い気体に高温で接していた時間が長くなるため、変色が起こりやすくなり、全体的な変色や色むらが発生しやすくなる。これは、樹脂複合材料をブロック形状のような大きな塊に成形した後に所望の形状に削りだす方法においても、大きな塊に成形する際の手法が、樹脂複合材料のペレットを可塑化させて型に流し込んだり押し込んだりする手法の場合、同様の問題が発生する
【0031】
ここで、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下である金属酸化物を使用することにより、溶融混練中に発生する気体成分を減少させることが出来、ペレット中の気泡を抑制することが容易となる。その結果、歯科用樹脂複合材料を、可塑化させて型に流し込んだり押し込んだりすることで、歯科用部材として所望の形状に成形した際に、気泡や変色/色むらの発生を抑制し、歯科用部材として好ましい状態に仕上げることが容易となる。
【0032】
また、ブロック形状等の大きな塊に成形した後に削りだして歯科用部材として所望の形に成形する場合において、大きな塊が射出成形や押出し成形といったスクリューを使用して成形する場合、スクリューによって十分攪拌することによって、材料であるペレット中に残存した気泡に起因する成形体中への気泡の発生は、ある程度抑制することが可能である。しかしながら、スクリューを用いて可塑化させる場合にも、気泡が多量に存在していた場合には十分に取り除くことが困難な場合もあり、また、気泡が存在していた部位は他の部位と比較して酸素のような反応性の高い気体に接していた時間が長くなるため、変色が起こりやすくなり、全体的な変色や色むらの原因となりうる。
【0033】
ここで、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下である金属酸化物を使用することにより、溶融混練中に発生する気体成分を減少させることが出来、ペレット中の気泡を抑制することが容易となる。その結果、歯科用樹脂複合材料を、射出成形や押出し成形などにより、歯科用部材として所望の形状に成形した際に、歯科用部材での気泡や変色/色むらの発生を抑制し、歯科用部材としてさらに好ましい状態に仕上げることが容易となる。
【0034】
また、ある程度の大きさの塊(インゴット)を可塑化させて型に流し込んだり押し込んだりして歯科用部材の成形を行う場合もあるが、インゴットに気泡が含まれる場合には同様の問題が発生する。インゴットをペレットから作製する場合、上記のように気泡を抑制したペレットから作製することで、インゴット中の気泡を抑制することが容易となる。
【0035】
<融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂>
本発明の歯科用樹脂複合材料に使用される、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂は、公知の熱可塑性樹脂を特に制限なく使用することが出来る。融点または流動化温度が300℃以上と高温の樹脂では、上述のように、金属酸化物との複合体を溶融混練する際に通常300℃以上(融点または流動化温度以上)の高温の溶融温度とすることが必要となるため、カップリング剤で表面処理された金属酸化物において、表面のカップリング剤反応残渣や、金属酸化物表面に結合したカップリング剤の一部位の、揮発や分解が発生しやすくなる。カップリング剤で表面処理された金属酸化物において、表面のカップリング剤反応残渣や、金属酸化物表面に結合したカップリング剤の一部位の、揮発や分解は、溶融混練時の温度が高い方が発生しやすいため、熱可塑性樹脂の融点または流動化温度が高い方が本発明の効果が大きくなり、好ましい。そのため、熱可塑性樹脂の融点または流動化温度は320℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂の融点または流動化温度は、材料選択・入手容易性などの観点から、500℃以下であればよく、430℃以下が好ましく、400℃以下がさらに好ましい。
【0036】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニルサルホン(PES、PESU:流動化温度360℃前後、好適な溶融温度360〜390℃)、ポリアミドイミド(PAI:融点300℃、好適な溶融温度320〜370℃)、ポリエーテルイミド(PEI:流動化温度340℃前後、好適な溶融温度340〜430℃)、液晶ポリマー(LCP:流動化温度320℃前後、好適な溶融温度320〜400℃)ポリアリールエーテルケトン(PAEK:融点340〜390℃、好適な溶融温度340〜400℃)が挙げられる。
【0037】
これら融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂の中でも、特に好ましいものとして、ポリアリールエーテルケトン樹脂が挙げられる。ポリアリールエーテルケトン樹脂は、特に高強度である点など、歯科用途として用いるための好ましい物性を具備していることや、成形性の良さの点から、好ましい熱可塑性樹脂として挙げられる。
【0038】
ポリアリールエーテルケトン樹脂は、その構造単位として、芳香族基、エーテル基(エーテル結合)およびケトン基(ケトン結合)を少なくとも含む熱可塑性樹脂であり、多くは、フェニレン基がエーテル基およびケトン基を介して結合した直鎖状のポリマー構造を持つ。ポリアリールエーテルケトン樹脂の代表例としては、上述のような、ポリエーテルケトン(PEK、融点370℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点340℃)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK、融点360℃)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK、融点390℃)などが挙げられる。なお、ポリアリールエーテルケトン樹脂の構造単位を構成する芳香族基は、ビフェニル構造などのようにベンゼン環を2つまたはそれ以上有する構造を持ったものでもよい。また、ポリアリールエーテルケトン樹脂の構造単位中には、スルホニル基または共重合可能な他の単量体単位が含まれていてもよい。
【0039】
これらポリアリールエーテルケトン樹脂の中でも、色調および物性の観点から、主鎖を構成するエーテル基とケトン基とが、エーテル・エーテル・ケトンの順に並んだ繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトン、もしく、エーテル・ケトン・ケトンの順に並んだ繰り返し単位を有するポリエーテルケトンケトンである事が用いることが好ましい。
【0040】
<カップリング剤で表面処理された金属酸化物>
本発明の歯科用樹脂複合材料は、カップリング剤によって表面処理された金属酸化物を含有する。カップリング剤で表面処理をすることによって、樹脂と金属酸化物の親和性を向上させることが出来、色調を良好にしたり、強度を向上させたりすることが容易となる。本発明で用いられるカップリング剤で表面処理された金属酸化物は、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で、120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下のものである。熱重量分析における120℃から800℃までの重量減少率が0.5%以下のカップリング剤で表面処理された金属酸化物を用いることにより、気泡や変色/色むらが抑制された歯科用部材を作製することが容易となる。
【0041】
金属酸化物としては、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナなど、またはシリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−アルミナなどの複合無機酸化物、あるいはこれらの複合無機酸化物に1族金属酸化物を添加した酸化物などが挙げられる。この中でも特に、歯科材料として良好な色調が得られやすい点などから、シリカまたはシリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−アルミナなどのシリカを主成分とする金属複合酸化物から選択されるシリカ系金属酸化物が好ましく、シリカが最も好ましい。ここで、シリカを主成分とするとは、金属酸化物中にシリカ成分を50質量%以上含むことを意味し、80質量%以上含まれることが好ましい。
【0042】
また、カップリング剤で表面処理を行う前の金属酸化物は熱安定性が高いものであることが好ましく、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で、120℃から800℃までの重量減少率が0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
【0043】
金属酸化物の形状・内部構造は特に限定されず如何様な形状および内部構造を有していてもよいが、好ましい形状としては、球状、不定形状、ウィスカー状などが挙げられ、好ましい内部構造としては中実構造が挙げられる。
【0044】
金属酸化物の比表面積は特に限定されないが、後述するように、表面処理して熱重量減少率が0.5%以下であるカップリング剤で表面処理された金属酸化物とし、複合材料とした場合に、本発明による効果が得られやすいとの観点から、金属酸化物の比表面積は3m/g以上であることが好ましく、10m/g以上であることがさらに好ましい。また、比表面積は50m/g以下が好ましく、25g/m以下がより好ましい。なお、本発明において、金属酸化物の比表面積は、窒素吸着BET法で測定したものである。
【0045】
金属酸化物の粒径は特に限定されないが、後述するように、表面処理して熱重量減少率が0.5%以下であるカップリング剤で表面処理された金属酸化物とし、複合材料とした場合に、本発明による効果が得られやすいとの観点から、体積平均粒径(D50)は3μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。また、体積平均粒径(D50)は100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明において、体積平均粒径(D50)は、レーザー散乱法(例えば、測定装置としてベックマン・コールター社製LS230を用い、分散媒としてエタノールを使用)にて測定したものである。測定に際しては、分散媒としてエタノール5ml中に測定試料を0.01〜1g加えた後、試料を懸濁した液を超音波分散器で約1〜5分間分散処理し、0.04〜2000μmの範囲の粒径の粒子の粒度分布を測定すればよい。このようにして測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャネル)に対して体積をそれぞれ小径側から累積分布を描いて、累積50%となる粒径を体積平均粒径(D50)とする。
【0047】
カップリング剤は、公知のものが特に限定なく利用でき、例えば、シランカップリング剤、ジルコネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などが挙げられる。これらのカップリング剤の中でも、好ましい金属酸化物であるシリカ系金属酸化物との反応性の観点から、シランカップリング剤が好ましい。
【0048】
好適なシランカップリング剤としては、下記一般式(I)が挙げられる。
【0049】
−SiRmBn (I)
一般式(I)中、Rは、末端にエチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基を有する、直鎖部分を構成する原子数が2〜30の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Bは炭素数1〜6の炭化水素基を有するアルコキシ基、ハロゲノ基、あるいはイソシアネート基である。ここで、m、nは整数であり、mとnとの和は3であり、mは0〜2の範囲の整数である。
【0050】
なお、エチレン性不飽和基としては、i)ビニル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基などを含む不飽和脂肪族基、および、ii)フェニル基、フェノキシ基、フェニルアミノ基、ベンゾフェノン基、ヒドロキシベンゾフェノン基、ビフェニル基、ナフチル基などの芳香族基の置換基としてのビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基を含む芳香族基が挙げられる。
【0051】
における、末端にエチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基を有する、直鎖部分を構成する原子数が2〜30の有機基としては、代表的には、エチレン性不飽和基、メチル基、芳香族基や、これらの官能基に炭素数1〜28の直鎖状のアルキレン基が結合している基が挙げられる、なお、上記Rにおける、直鎖部分を構成する原子数には、前記末端として示したエチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基の原子数も含まれるものである。末端が芳香環の場合、この部分における直鎖部分を構成する原子数は、Siに直接結合する炭素原子から最も遠い位置にある環を構成する原子までを繋ぐ最小の原子数をして数えるものとする。例えば、ベンゼン環であれば、Siに直接結合する炭素原子から最も遠い位置にある環を構成する原子までを繋ぐ最小の原子数は、ベンゼン環を構成する炭素原子4に、Siに直接結合する炭素原子から最も遠い位置にある環を構成する炭素原子に結合する水素原子を加えて5として数える。
【0052】
の直鎖部分の原子数を2〜30とすることにより、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂とカップリング剤で表面処理された金属酸化物との親和性を向上させることが容易となる。Rの直鎖部分の原子数は、3〜20であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。
【0053】
の炭素数1〜6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭化水素基が挙げられる。
【0054】
Bは炭素数1〜6の炭化水素基を有するアルコキシ基、ハロゲノ基、あるいはイソシアネート基であり、炭素数1〜6の炭化水素基を有するアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、ハロゲノ基としては、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。Bとして示される1〜6の炭化水素基を有するアルコキシ基、ハロゲノ基、あるいはイソシアネート基のうちでは、反応制御の容易さの観点から、アルコキシ基が好ましい。
【0055】
好ましいシランカップリング剤としては、11−メタクリロイルオキシウンデシルメチルジメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルメチルジメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリクロロシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルジメチルメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルトリクロロシラン、6−メタクリロイルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、4−メタクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリイソシアナトシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメチルイソシアナトシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリメトキシシラン、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリクロロシラン、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリイソシアナトシラン、スチリルプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)フェニルブチルトリメトキシシラン、O−(メタクリロイルオキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)カルバメート、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、これらメタクリレート化合物の各アクリレート体、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェノキシプロピルトリクロロシラン、フェノキシプロピルメチルジクロロシラン、フェノキシプロピルジメチルクロロシラン、ベンゾイルプロピルトリメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルプロピルメチルジクロロシラン、4−フェニルブチルトリクロロシラン、4−フェニルブチルメチルジクロロシラン、11−フェノキシウンデシルトリクロロシラン、2−ヒドロキシ−4−(3−トリエトキシシリルプロポキシ)ジフェニルケトン、6−フェニルヘキシルジメチルクロロシラン、N−1−フェニルエチル−N’−トリエトキシシリルプロピルウレア、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリメトキシシラン、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリクロロシラン、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリイソシアナトシラン、スチリルプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)フェニルブチルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。
【0056】
本発明で用いられるカップリング剤で表面処理された金属酸化物は、大気雰囲気下にて昇温速度10℃/分で行った熱重量分析で、120℃から800℃までの重量減少率(以下、「熱重量減少率」と表記する場合がある)が0.5%以下のものである。熱重量減少率が0.5%以下のカップリング剤で表面処理された金属酸化物を含む歯科用樹脂複合材料を用いることにより、気泡や変色/色むらが抑制された歯科用部材を作製することが容易となる。熱重量分析は、120℃での重量と、800℃での重量を測定出来れば、任意の方法を使用することが出来るが、プログラムに従って試料温度を変化させつつ、各温度における試料の重量を継続的に測定できる熱重量測定装置を使用して測定することが好ましい。なお、熱重量測定装置は、示差熱と同時に測定できる示差熱・熱重量同時測定装置(TG/DTA)を使用しても、何ら問題ない。熱重量測定装置を使用することによって、特定の温度(120℃)を起点とした熱重量測定を行うことや昇温速度の調整が容易となる。
【0057】
熱重量測定装置による熱重量減少率の測定は、15μg±5μgの、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を使用して、室温(25℃)から10℃/分で800℃まで昇温し、各温度における熱重量を計測することで行う。その後、800℃における重量と120℃における重量の差を算出する。これらの測定結果から、以下の式(2)に従って、熱重量減少率を求めることが出来る。
【0058】
熱重量減少率[%] = (Y−Z)/Z × 100 式(2)
ここで、Yは800℃におけるカップリング剤で表面処理された金属酸化物の重量[μg]であり、Zは120℃におけるカップリング剤で表面処理された金属酸化物の重量[μg]である。
【0059】
カップリング剤で表面処理された金属酸化物の熱重量減少率は、気泡の改善効果が高いことから、0.4%以下であることがより好ましい。
【0060】
カップリング剤で表面処理された金属酸化物の熱重量減少が少ない場合は、カップリング剤による表面処理が十分に行われていないことを意味し、樹脂と金属酸化物の親和性を向上させることが出来るという表面処理を行った利点が得られにくくなるため、熱重量減少率は0.03%以上であることが好ましく、0.07%以上であることがより好ましく、0.1%以上であることがさらに好ましい。
【0061】
金属酸化物の表面をカップリング剤にて処理するに当たり、表面処理反応時にカップリング剤の添加量を、金属酸化物の比表面積とカップリング剤の最小被覆面積から最適表面処理剤量(理論値)として算出する方法が広く用いられている。これは、無機粒子の質量と無機粒子の比表面積との乗算値を表面処理剤の最小被覆面積で除することで、最適表面処理剤量(理論値)を算出する方法である。すなわち、金属酸化物1gあたりのカップリング剤の添加量をX[g]、金属酸化物の比表面積をA[m/g]、カップリング剤の最小被覆面積をB[m/g]とした時に、最適表面処理剤量である、金属酸化物1gあたりのカップリング剤の添加量Xを、X=A/Bで算出することが一般的である。しかしながら、上記算出法に従ったカップリング剤の添加量にて表面処理を行った金属酸化物を使用して歯科用樹脂複合材料を製造した場合、カップリング剤で表面処理された金属酸化物の熱重量減少率が0.5%を超えたものとなりやすく、該歯科用樹脂複合材料を用いて歯科用部材を作製すると、得られる歯科用部材に気泡や変色/色むらが発生しやすくなる。熱重量減少率が0.5%以下となるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を得ることが容易となることから、金属酸化物の表面処理時の金属酸化物1gあたりのカップリング剤の添加量Xは、X=(A/B)×Cで表わすとすると、係数Cは0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。なお、カップリング剤量が少なすぎる場合には、樹脂と金属酸化物の親和性を向上させることが出来るという表面処理を行った利点が得られにくくなるため、Cは0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
【0062】
比表面積の大きい金属酸化物を用いる場合、上記の金属酸化物の比表面積とカップリング剤の最小被覆面積から算出した表面処理時のカップリング剤の添加量に従った場合、金属酸化物の量に対するカップリング剤の量が多くなり、熱重量減少率は、大きくなりがちである。従って、通常実施される方法で表面処理された金属酸化物の場合、金属酸化物の比表面積が大きい方が、本発明の課題である気泡や変色/色むらが顕著に現れやすくなる。そのため、金属酸化物の比表面積が大きい場合には、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を含む複合材料において、熱重量減少率が0.5%以下であるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を用いることの効果がより顕著に表れる。そのため、本発明による効果が得られやすいとの観点から、金属酸化物の比表面積は3m/g以上であることが好ましく、10m/g以上であることがさらに好ましい。また、比表面積が大きすぎる場合には必要なカップリング剤量が多くなるため本発明の効果が限定的になる場合があることから、比表面積は50m/g以下が好ましく、25g/m以下がより好ましい。
【0063】
金属酸化物をカップリング剤で表面処理する方法としては、公知の方法を特に限定せずに用いることができる。例えば、金属酸化物を攪拌羽などで激しく攪拌しながらカップリング剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ金属酸化物を分散させ、カップリング剤を溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中でカップリング剤を酸触媒などで加水分解してシラノール基などの金属酸化物と反応する官能基を生成させ、該水溶液中で金属酸化物表面にカップリング剤を付着させた後、スプレードライなどの方法で水を除去する方法、適当な分散媒中に金属酸化物を分散させ、カップリング剤を溶解して、リフラックスを行った後に無機粒子を濾別、分級回収する方法などが挙げられる。なお、いずれの方法においても、通常、好ましくは50℃〜200℃の範囲、より好ましくは100℃〜150℃の範囲で加熱することにより、金属酸化物とカップリング剤との反応を促進させることができる。
【0064】
カップリング剤で表面処理された金属酸化物の粒径は特に限定されないが、通常粒径が小さい場合には比表面積が大きくなるため、上記の金属酸化物の比表面積とカップリング剤の最小被覆面積から算出した表面処理時のカップリング剤の添加量に従った場合、金属酸化物に対するカップリング剤の量が大きくなり、熱重量減少率は、大きくなりがちである。すなわち、通常実施される方法で表面処理された金属酸化物の場合、金属酸化物の粒径が小さい方が、本発明の課題である気泡や変色/色むらが顕著に現れやすくなる。そのため、金属酸化物の粒径が小さい場合には、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を含む複合材料において、熱重量減少率が0.5%以下であるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を用いることの効果がより顕著に表れる。そのため、表面処理された金属酸化物の粒径は、本発明による効果が得られやすいとの観点から、体積平均粒径(D50)は3μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。一方、表面処理された金属酸化物の粒径が小さい場合には、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂に配合した際に、粘度上昇が起こりやすくなることから配合量を多くすることが難しい傾向にあるため、表面処理された金属酸化物の体積平均粒径(D50)は100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。
【0065】
<組成>
本発明の複合材料において、熱重量減少率が0.5%以下のカップリング剤で表面処理された金属酸化物の配合量は特に限定されず、通常充填材として複合材料に添加される金属酸化物同様、機械的特性などを考慮して用途に応じて適宜決定すればよい。歯科用途として適当な力学的特性などの物性を得ることが容易となることから、複合材料100質量部当たり、10質量部以上70質量部以下であることが好ましく、20質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。また、カップリング剤で表面処理された金属酸化物の配合量が多い場合には、溶融混練時に発生する気体の量が多くなりがちであるため、気泡や変色/色むらが抑制された歯科用部材を作製することができるという本発明の効果が顕著に得られる。そのため、熱重量減少率が0.5%以下のカップリング剤で表面処理された金属酸化物は、複合材料100質量部当たり、10質量部以上配合することが好ましく、15質量部以上配合することがより好ましく、20質量部以上配合することがさらに好ましい。
【0066】
本発明の複合材料には、フィラーとして、カップリング剤で表面処理された金属酸化物のほか、顔料、帯電防止剤、X線造影材、紫外線吸収材、蛍光剤などの無機粒子を配合しても良い。これらカップリング剤で表面処理された金属酸化物とその他の無機粒子を合わせた全ての無機フィラー(以下、単に無機フィラーともいう。)の配合量は、歯科材料として適切な物性を得られやすい観点から、複合材料100質量部当たり、10質量部〜70質量部の範囲であることが好ましく、15質量部〜60質量部の範囲であることがより好ましく、20質量部〜50質量部の範囲であることがさらに好ましい。無機フィラーの配合量を10質量部以上とすることにより、歯科用途として適当な力学的特性などの物性を得ることが容易となる。また、配合量を70質量部以下とすることにより、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と無機フィラーとを溶融混練する際に、粘度の増大が抑制され、取り扱いが容易となるとともに、粒子成分の分散性を向上させることが容易となる。
【0067】
熱重量減少率が0.5%を超える、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を配合しても良いが、多量に配合すると本発明の効果が限定的になるため、複合材料100質量部当たり、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。
【0068】
<製造方法>
本複合材料の製造方法は、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と、カップリング剤で表面処理された金属酸化物などの無機フィラーを、均一に混合することが可能であれば、いかなる手法を用いても良いが、通常、溶融させた熱可塑性樹脂に無機フィラーを配合して混練する、溶融混練によって行われることが多い。溶融混練は、簡便に、融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂と無機フィラーを複合化することが可能となるとともに、熱重量減少率が0.5%以下である金属酸化物を使用することで気泡や変色/色むらの発生が抑制されるという本発明の効果が得られやすい複合材料を得ることができるため、好ましい製造方法として挙げることが出来る。
【0069】
溶融混練を行う手法としては、公知の手法を特に限定せずに用いることが出来、例えば加熱装置付きミキサーによる溶融混練や、押出機(単軸溶融混練装置、二軸溶融混練装置、三軸溶融混練装置、四軸溶融混練装置など)による溶融混練を行う事ができる。これらの中でも、連続的に製造可能で次工程に取り扱いが容易な粒状(ペレット状)の複合材料を得ることが容易である押出機による溶融混練が好ましく、二軸溶融混練装置による溶融混練が最も好ましい。
【0070】
溶融混練を行う条件は、各試料に応じて適宜決定すればよい。混練温度が低すぎる場合には、熱可塑性樹脂の粘度が高く無機フィラーを均一に配合することが難しくなるとともに、混練時の過負荷によって装置の故障や試料の劣化の原因となりうるため、350℃以上であることが好ましい。一方、混練温度が高すぎる場合には、高温による熱可塑性樹脂の劣化が発生する場合がある。加えて、カップリング剤で表面処理された金属酸化物のカップリング剤の有機成分が過剰に揮発したり消失したりしてしまい、金属酸化物をカップリング剤で表面処理したことによる分散性の向上の効果が得られにくくなるとともに、複合材料中に気泡が発生して、本発明の効果が限定的なものとなってしまう場合がある。そのため、混練温度は500℃以下とすることが好ましく、450℃以下とすることがさらに好ましい。
【0071】
溶融混練後の本発明の複合材料の形状は、所望の形状の歯科用部材を作製することが可能であれば、ストランド状、ペレット状、粉末状、ブロック形状、インゴット形状、シート形状など如何様な形状であっても良いが、取り扱い易さの観点からペレット形状(特に直径0.5mm〜5mm、長さ1mm〜10mm程度の円柱状)であることが好ましい。ペレット形状の複合材料は、押出機(単軸溶融混練装置、二軸溶融混練装置、三軸溶融混練装置、四軸溶融混練装置など)からストランド状で押し出された複合材料を、所望の間隔で切断することで容易に得ることができる。
【0072】
<用途>
本発明の複合材料は、歯科用部材として用いることが出来る。その用途は特に制限されず、例えば、義歯、人工歯、義歯床、歯科用インプラント(フィクスチャー、アバットメント、上部構造)、歯冠修復材料、支台築造材料などに好適に使用することが出来る。
【0073】
溶融混練などにより得られた複合材料を歯科用途に用いる際に、所望の形状の歯科用部材に成形する手法としては、熱プレス成形、射出成形、押出成形、積層造形、切削加工、接着材による接合など公知の手法を特に限定せずに用いることが出来る。
【0074】
これらの成形法の中でも、本発明の効果が得られやすい点や簡便に所望の形状の歯科用部材を得られる点から、熱プレス成形が好ましい手法の一つとして挙げられる。熱プレス成形では、所望の形状の歯科用部材の型を用意し、そこに加熱により溶融状態もしくは半溶融状態とした複合材料を設置し、圧力を加えることによって複合材料を型内に充填する。その後、冷却して複合材料を硬化させた後に取り出すことによって、所望の形状の歯科用部材を得ることができる。通常、取り扱いやすさの観点からペレット形状の複合材料を使用することが多いが、この加熱溶融前の複合材料に気泡が多量に含まれている場合には、成形後の歯科用部材に気泡が残存してしまったり、変色/色むらが発生してしまったりしやすくなる。そのため、加熱溶融前の複合材料として、気泡が少ない本発明の複合材料を使用することが、特に好ましい。また、インゴット形状の複合材料から熱プレス成形によって所望の形状に成形する場合も同様である。なお、熱プレス成形により所望の形状とすることでいかなる歯科用部材でも製造することが可能であるが、本発明の複合材料を使用することで高度に色むらを抑制して審美性の高い歯科用部材を製造することが容易であることから、特に高い審美性が求められる歯科補綴物用途(義歯、人工歯、歯冠修復材料など)の歯科用部材を製造することが好ましい。
【0075】
また、射出成形または押出成形のような、加熱して溶融状態となった複合材料をスクリューにて移送し、その後金型内に充填し、冷却して所定の形状を得る成形方法も、本発明の効果が得られやすい点や取扱性の点から、好ましい手法の一つとして挙げられる。スクリューを使用する場合は、通常であれば溶融状態の材料を攪拌するため気泡は容易に除去されるが、複合材料を多量に使用する場合には、この加熱溶融前の複合材料に気泡が多量に含まれている場合には十分に気泡を除去することが困難となり、成形後の歯科用部材に気泡が残存してしまったり、変色/色むらが発生してしまったりしやすくなる。本手法によって、義歯、人工歯、義歯床、歯科用インプラント、歯冠修復材料、支台築造材料などの所望の形状の歯科用部材を成形することや、CAD/CAMシステムによる切削加工に用いられるブロック・ディスクなどの前記歯科用部材を製造するための歯科治療用材料を製造することが可能である。これらの成形の中でも、とりわけ厚さ10mm以上の部位を有する肉厚な成形体の場合、金型に充填する際にも気泡が取り除かれにくく、成形体に気泡や変色/色むらが発生しやすくなる。そのため、特に厚さ10mm以上の部位を有する歯科治療用材料、例えばCAD/CAMシステムによる切削加工に用いられるブロック・ディスクなどを成形する際に、本発明の複合材料を使用することが特に好ましい。
【0076】
本発明の複合材料を使用して成形を行う場合、複合材料の粘度が高い場合には、溶融前の複合材料に残存した気泡を成形中に除くことが比較的困難になるため、高粘度の材料を使用する場合には、本発明の複合材料を使用する効果がより顕著に表れる。そのため、ISO1133に基づいて、温度380℃、荷重5kgfで測定した複合材料のメルトボリュームレイト(MVR)が、50cm/10min以下であることが好ましく、40cm/10min以下であることがより好ましく、30cm/10min以下であることがさらに好ましく、20cm/10min以下であることがさらに好ましい。
【0077】
複合材料の色調の白色度が高い場合、歯科用途、特に歯冠修復用途において審美的な観点から好ましいが、色むらが発生した場合に目立ちやすくなってしまう。そのため、複合材料の白色度が高い場合には、本発明の効果がより顕著に表れやすくなるため好ましい。色差計を用いて黒背景下で測定し、CIELab表色系で表わした際の複合材料の色調が、L*が65以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、75以上であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例中に示した略号、称号については以下のとおりである。
【0079】
[融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂]
・PEEK:ポリエーテルエーテルケトン(ダイセルエボニック社製:VESTAKEEP2000G、融点340℃)
【0080】
[金属酸化物]
・F1:シリカ(球状、平均体積粒径1μm、BET比表面積11m/g)
・F2:シリカ(球状、平均体積粒径0.5μm、BET比表面積13.5m/g)
・F3:シリカ(球状、平均体積粒径5μm、BET比表面積3m/g)
【0081】
[カップリング剤]
・MPS:γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(最小被覆面積299m/g)
・OTS:オクチルトリメトキシシラン(最小被覆面積333m/g)
・FTS:フェニルトリメトキシシラン(最小被覆面積394m/g)
【0082】
各試験方法については、以下のとおりである。
【0083】
(カップリング剤で表面処理された金属酸化物の熱重量分析)
カップリング剤で表面処理された金属酸化物15μgを、示差熱熱重量同時測定装置(SIIナノテクノロジー社製:EXSTAR TG/DTA6300)を使用して、大気雰囲気化で昇温速度10℃/分で昇温させ、50℃〜800℃の範囲での各温度での重量を測定した。得られた各温度での重量から、熱重量減少率を算出した。
【0084】
(歯科用部材(or 歯科用樹脂複合材料の成形体)の気泡の評価)
成形された複合材料を中心付近出来切断して得られた切断面を目視で観察し、気泡の状態を次の基準で評価した。
A:5個のサンプルを評価して、全てのサンプルに気泡が見られない。
B:5個のサンプルを評価して、3個以上のサンプルに気泡が見られない。
C:5個のサンプルを評価して、気泡が見られないサンプルが2個未満である。
D:5個のサンプルを評価して、全てのサンプルで気泡が見られる。
E:5個のサンプルを評価して、全てのサンプルでDよりも多い著しい数の気泡が見られる。
【0085】
(歯科用部材(or 歯科用樹脂複合材料の成形体)の変色の評価)
射出成形によって成形された複合材料の外観の色調をペレット状態の色調との比較を目視で行い、次の基準で評価した。
A:ペレット状態と比較して、大きな色調の変化が見られない成形体が得られた。
B:ペレット状態と比較して、大きく色調の異なる成形体が得られた。
【0086】
(金属酸化物の表面処理方法)
金属酸化物300g、トルエン500gを計量混合した後、ホモジナイザーを使用して分散させたスラリーを作製した。次に、還流冷却管をセットした三口フラスコ中に、上記スラリーを投入した後、さらに所定量のカップリング剤を加えた。なお、所定量はX=(A/B)×Cの値と、表面処理される金属酸化物の量(300g)の積によって求めた。続いて、三口フラスコ内の溶液を攪拌しながら2時間加熱還流を行った。続いて、遠心分離機を用いて、加熱還流処理された溶液から固形分を分別した。その後、この固形分を、トルエンで2回洗浄した後、真空乾燥機にて90℃10時間乾燥を行った。これにより、カップリング剤で表面処理された金属酸化物を得た。
【0087】
(融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂とカップリング剤で表面処理された金属酸化物からなる複合材料の調製方法)
所定量の融点または流動化温度が300℃以上の熱可塑性樹脂とカップリング剤で表面処理された金属酸化物を二軸溶融混練装置に投入し、バレル温度360℃、回転数500rpmの条件で溶融混練を行った。ノズルから排出されたストランドは水槽で冷却後、ペレタイザーを使用して、直径1〜3mm程度、長さ2〜4mm程度の円柱状のペレットを得た。
【0088】
(熱プレス成形による複合材料の成形)
石膏内に大臼歯クラウン形状のワックスを埋没させ、加熱処理によってワックスを焼却することで型を得た。型内に複合材料のペレットを投入し、約400℃に昇温して20分保持することで複合材料を可塑化させた。加熱加圧成形機(熱プレス機:トクヤマデンタル社製TD−PF1)にて、400℃でプレスを行い、複合材料を型内に圧入し、5分間保持した後、室温まで冷却した。冷却後、石膏内から成形された複合材料を取り出した。
【0089】
(射出成形による複合材料の成形)
射出成形機SE18DUZ(住友重機械工業社製)に、12×14×18mmのキャビティーを設けた金型ユニットを設置した。予備乾燥機付きホッパーに複合材料を投入し、成形温度(シリンダ温度)を360〜400℃、流動化温度360℃、金型温度を180℃に設定し、射出圧力180MPa、射出速度50mm/secの条件で射出充填を行った。180MPaの保圧かけを40秒間保持した。金型による冷却時間300秒の後、金型ユニットを開いて樹脂ブロックを取り出した。
【0090】
<実施例1>
金属酸化物F1 300gに対して、カップリング剤MPS 6.62g(式(1)においてC=0.6として算出)を使用して表面処理を行い、熱重量減少率が0.48の、カップリング剤によって表面処理された金属酸化物を調製した。該金属酸化物200gと、PEEK300gとを二軸溶融混練装置で溶融混練し、ストランド状で排出された試料をペレタイザーにより切断して複合材料M1のペレットを得た。
【0091】
該複合材料M1のペレットを、加熱加圧成形機(熱プレス機)TD−PF1(トクヤマデンタル社製)を使用して、該複合材料を380℃で溶融させて大臼歯クラウンの型にプレス圧入し、圧力を加えたまま室温環境下で1時間保持した後、成形された複合材料を取り出した。
【0092】
成形された複合材料の外観の気泡と変色を観察した後に切断し、内部の気泡の観察を行い、外部・内部の双方の観察結果から、熱プレス成形品の気泡の評価(A〜E)を決定した。
【0093】
また、該複合材料M1のペレットを、射出成形によって12mm×14mm×18mmのブロック形状に成形し、その外観色調をペレットと比較しての色調の評価(A、B)を行った。
【0094】
複合材料の組成と使用したカップリング剤で表面処理された金属酸化物の各パラメーターを表1に、気泡及び変色の評価結果を表2に示す。
【0095】
<実施例2,3、比較例1>
表面処理を行う際のCの値を表1に示すものに変更した以外は、実施例1に従って複合材料を得た後に成形を行い、成形体の気泡及び変色の評価を行った。
【0096】
<実施例4,5、比較例2、3>
使用するフィラーの種類と表面処理を行う際のCの値を表1に示すものに変更した以外は、実施例1に従って複合材料を得た後に成形を行い、成形体の気泡及び変色の評価を行った。
【0097】
<実施例6,7>
使用するカップリング剤の種類と表面処理を行う際のCの値を表1に示すものに変更した以外は、実施例1に従って複合材料を得た後に成形を行い、成形体の気泡及び変色の評価を行った。
【0098】
<実施例8、9>
複合材料の組成を表1に示すものにした以外は、実施例1に従って複合材料を得た後に成形を行い、成形体の気泡及び変色の評価を行った。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
評価結果より、熱重量減少率が0.5%以下であるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を使用した実施例1〜9は、熱重量減少率が0.5%を超えるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を使用した比較例1〜3と比較して、熱プレス成形時に気泡の少ない歯科用部材が得られ、また、射出成形時に変色の少ない歯科治療用材料が得られた。また、熱重量減少率が0.4%以下であるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を使用した実施例2〜7は、熱重量減少率が0.4%を超えるカップリング剤で表面処理された金属酸化物を使用した実施例1,8,9と比較して、熱プレス成形時に気泡のより少ない歯科用部材が得られた。
【0102】
実施例2、4及び5と比較例1〜3とは、それぞれ、Cの値は同一であるが金属酸化物の平均体積粒径が異なっている。即ち、実施例2、4及び5は、Cの値が0.5で、金属酸化物の平均体積粒径がそれぞれ1μm、0.5μm及び5μmであり、比較例1〜3は、Cの値が1.0で、金属酸化物の平均体積粒径がそれぞれ1μm、0.5μm及び5μmである。Cの値が0.6以下である実施例2、4及び5は、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率が0.5%以下であり、熱プレス成形における気泡の状態も優れたもの(A評価)である。一方、Cの値が0.6超である比較例1〜3は、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率が0.5%超であり、熱プレス成形における気泡の状態も劣ったもの(E又はD評価)である。また、比較例1〜3より、Cの値を同一にして同じ条件で表面処理しても、熱重量減少率が0.5%超であると平均体積粒径が3μm以下の場合熱プレス成形における気泡の状態が平均体積粒径が3μm超の場合と比較してより劣ったもの(平均体積粒径が3μm以下である比較例1、2はE評価、3μmより大きな比較例3はD評価)となる。一方、実施例2、4及び5より、熱重量減少率が0.5%であると平均体積粒径によらず、いずれも優れたもの(A評価)となる。このように、金属酸化物の平均体積粒径が3μm以下の場合は、3μmを超える場合と比較して、熱重量減少率が0.5%以下であるカップリング剤で表面された金属酸化物を使用することによって気泡の状態を改善できる度合いが大きく、本発明の利点が大きい。
【0103】
実施例1〜3および比較例1は、金属酸化物の表面処理をするカップリング剤の使用量(Cの値)のみが異なっており、その結果、熱重量減少率が異なっている。これらを比較すると、Cの値が0.6超である比較例1は、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率が0.5%超となり、熱プレス成形における気泡が多く、Cの値が0.6以下である実施例1〜3は、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率が0.5%以下となり、気泡が少なかった。また、Cの値が0.5以下である実施例2,3は、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率が0.4%以下となり、気泡が見られなかった。このことから、Cの値を0.6以下として表面処理を行うことにより、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率を0.5%以下とすることができ、気泡の少ない歯科用部材を得ることが容易となり、さらにはCの値を0.5以下として表面処理を行うことにより、表面処理された金属酸化物の熱重量減少率を0.4%以下とすることができ、より気泡の少ない歯科用部材を得ることが容易となると言える。