(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765211
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】ディスクブレーキパッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 69/00 20060101AFI20200928BHJP
F16D 69/04 20060101ALI20200928BHJP
B29C 43/14 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
F16D69/00 R
F16D69/04 M
B29C43/14
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-82944(P2016-82944)
(22)【出願日】2016年4月18日
(65)【公開番号】特開2017-194082(P2017-194082A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391033078
【氏名又は名称】日本ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118072
【弁理士】
【氏名又は名称】醍醐 美知子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−211031(JP,A)
【文献】
特開2006−083978(JP,A)
【文献】
特開平01−238914(JP,A)
【文献】
特開2004−324763(JP,A)
【文献】
特開2007−224945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 69/00−69/04
B29C 43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部金型と、摩擦部材の外周形状を形成する型孔を有する上部金型と、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型と、摩擦部材の上端面に形成される凹部を成形する第2成形型と、からなる金型装置を用いて、
下部金型と、上部金型の型孔とにより形成されるキャビティに摩擦部材組成物からなる原材料を充填するとともに、
前記摩擦部材の上端面に形成される凹部を成形する第2成形型を下降させて、第2成形型によって形成される凹部の体積分に相当する原材料を予め周囲に流動させ、
次いで、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型を降下させるとともに前記第2成形型を降下させて原材料を熱圧成形して予備成形を行い、上端面に凹凸を有する予備成形体を得る予備成形工程と、
成形面に前記予備成形体の凹凸の位置に対応する凹凸を有する熱圧成形用成形型を用いて熱圧成形して、上端面に凹凸を有する熱圧成形体を得る熱圧成形工程と、
前記上端面に凹凸を有する熱圧成形体の上端面を平坦に機械加工する機械加工工程を含むことを特徴とするディスクブレーキパッドの製造方法。
【請求項2】
前記予備成形工程において、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型を降下させて、前記第2成形型と前記第1成形型の凹凸を所定の位置で一致させた後、前記第1成形型と前記第2成形型を同期して降下させて予備成形をおこなうことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキパッドの製造方法。
【請求項3】
前記熱圧成形工程において、前記熱圧成形用成形型の成形面に形成された凹凸が、熱圧成形体の上端面における凹部と凸部とで圧縮比として等しくなる高さに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキパッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二輪車等の制動に用いられるディスクブレーキパッドに関するものであり、特に、繊維基材、結合材、有機充填材および無機充填材を含む摩擦材組成物からなる摩擦材が、直接バックプレートもしくは中間層を介してバックプレート(裏金)に固着されたディスクブレーキパッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や自動二輪車等の制動に用いられるディスクブレーキパッドは、キャリパ内に収容され、車軸とともに回転するディスクロータの側面を油圧等により挟み込み押さえつけることで摩擦力を発生し、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して制動を行う部品であり、
図1に示すように、キャリパに取り付けられるバックプレート(裏金)1上に、ディスクロータと摩擦摺動を行う摩擦材2が直接積層された構造、あるいは摩擦材2が接着等をになう中間層3を介して積層された構造となっている。
【0003】
ディスクブレーキパッドは、繊維基材、結合材、有機充填材および無機充填材を含む摩擦材組成物を金型の型孔に充填し、充填された摩擦材組成物を押圧して予備成形し、得られた予備成形体をバックプレート1とともに熱圧成形して一体化した後、必要に応じて熱処理をおこなって結合材の硬化を行い、摩擦材2の上端面2aやチャンファ2bの研削加工、スリット2cの切削加工等の機械加工を経て製造される(特許文献1等)。中間層3を有するディスクブレーキパッドの場合は、中間層を形成する組成物上に摩擦材組成物を積層して充填し、摩擦材組成物と中間層組成物を予備成形することで製造することができる。なお、中間層3を有するディスクブレーキパッドにおいては、摩擦材2を上張材、中間層3を下張材と称すこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−136255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ディスクブレーキパッドの製造方法においては、上記のように摩擦材2の上端面2aが研削加工等により機械加工されて製造されるが、摩擦材は既に熱硬化しているため除去される部分に関しては、再利用できず廃棄するしかなく、廃棄のためのコストが必要となっている。そこで、廃棄量を削減できれば、その分廃棄のためのコストが低減され、安価にディスクブレーキパッドを製造できることとなる。このことから、本発明は、廃棄量を削減できるディスクブレーキパッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者らは、後に機械加工され平坦にされ、摩擦面となる摩擦材上端面に凹凸を形成して、機械加工により摩擦材上端面の凸部のみ除去するようにすれば、摩擦材上端面の凹部の分だけ、廃棄量が削減できると考えた。ただし、単純に予備成形工程と熱圧成形工程において、成形面に凹凸を設けた成形型および熱圧成形型で成形を行うと、成形面に設けた凹部と凸部で圧縮比が異なるため、一様な密度の摩擦材とすることができない。このため本発明者らは、上端面に凹凸を形成しながら比較的一様な密度の摩擦材とする方法について鋭意研究を重ね、本発明を成し遂げた。
【0007】
上記目的を達成する本発明のディスクブレーキパッドの製造方法は、下部金型と、摩擦部材の外周形状を形成する型孔を有する上部金型と、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型と、摩擦部材の上端面に形成される凹部を成形する第2成形型と、からなる金型装置を用いて、下部金型と、上部金型の型孔とにより形成されるキャビティに摩擦部材組成物からなる原材料を充填するとともに、前記摩擦部材の上端面に形成される凹部を成形する第2成形型を下降させて、第2成形型によって形成される凹部の体積分に相当する原材料を予め周囲に流動させ、次いで、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型を降下させるとともに前記第2成形型を降下させて原材料を熱圧成形して予備成形を行い、上端面に凹凸を有する予備成形体を得る予備成形工程と、成形面に前記予備成形体の凹凸の位置に対応する凹凸を有する前記熱圧成形用成形型を用いて熱圧成形して、上端面に凹凸を有する熱圧成形体を得る熱圧成形工程と、前記上端面に凹凸を有する熱圧成形体の上端面を平坦に機械加工する機械加工工程を含むことを特徴とする。
【0008】
上記のディスクブレーキパッドの製造方法においては、前記予備成形工程において、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型を降下させて、前記第2成形型と前記第1成形型の凹凸を所定の位置で一致させた後、前記第1成形型と前記第2成形型を同期して降下させて予備成形をおこなうことが好ましく、また、前記熱圧成形工程において、前記熱圧成形用成形型の成形面に形成された凹凸が、熱圧成形体の圧縮比として等しくなる高さに形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のディスクブレーキパッドの製造方法は、摩擦材となる上端面に凹凸を形成するとともに、摩擦材を比較的一様な密度とし、機械加工により摩擦材上端面の凸部のみ除去するようにしたことから、摩擦材の機械加工による廃棄量が削減でき、その分、製造コストを小さくできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ディスクブレーキパッドの形状を示す模式図であり、
図1(a)は上面図であり、
図1(b)はバックプレート上に摩擦材が直接積層された構造の場合の
図1(a)のA−A断面を示す模式図であり、
図1(c)はバックプレート上に摩擦材が中間層を介して積層された構造の場合の
図1(a)のA−A断面を示す模式図である。
【
図2】本発明のディスクブレーキパッドの製造方法における、金型装置の構造と摩擦材組成物の充填工程を示す模式図である。
【
図3】本発明のディスクブレーキパッドの製造方法における、摩擦材組成物の予備成形工程において、第2成形型を降下させた状態を示す模式図である。
【
図4】本発明のディスクブレーキパッドの製造方法における、摩擦材組成物の予備成形工程において、第1成形型を降下させて、第1成形型と第2成形型の下端面のプロファイルを一致させた状態を示す模式図である。
【
図5】本発明のディスクブレーキパッドの製造方法における、摩擦材組成物の予備成形工程において、第1成形型と第2成形型を同期して降下させて摩擦材組成物の予備成形を行う状態を示す模式図である。
【
図6】本発明のディスクブレーキパッドの製造方法における、熱圧成形工程を示す模式図である。
【
図7】本発明のディスクブレーキパッドの製造方法における、機械加工部分を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明のディスクブレーキパッドの製造方法について説明する。
【0012】
図2に示すように、摩擦部材の下端面を成形する下部金型11と、摩擦部材の外周形状を形成する型孔12aを有する上部金型12と、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型13aと、摩擦部材の上端面に形成される凹部を成形する第2成形型13bからなる金型装置を用意する。すなわち、成形型13は、第1成形型13aと第2成形型13bから構成される。ここで、第1成形型13aの下端面と、第2成形型13bの下端面は滑らかに接続するプロファイルに形成されている。
【0013】
まず、摩擦部材の上端面に形成される凹部を成形する第2成形型13bを降下させて、
図3に示すように、摩擦材の凹部に相当する体積分の摩擦材組成物Mを、第2成形型13bの周囲に流動(図中矢印の方向)させる。次いで、
図4に示すように、摩擦部材の上端面に形成される凸部を成形する第1成形型13aを降下させて、第1成形型の下端面のプロファイルと、予め降下している第2成形型13bの下端面のプロファイルを一致させ、その後、
図5に示すように、第1成形型13aと第2成形型13bを同期して降下させて、摩擦材組成物Mの予備成形を行う。予備成形された予備成形体Pは上端面に凹凸を有するものとなるが、予め摩擦材の凹部に相当する体積分の摩擦材組成物Mを、第2成形型13bの周囲に流動させた後、予備成形を行うため、予備成形体Pの密度分布は比較的均一となる。
【0014】
得られた予備成形体Pを用いて熱圧成形を行う。熱圧成形は、
図6に示すように、熱圧成形用の金型22の型孔22aと熱成形用成形型23で形成されるキャビティに予備成形体Pを挿入するとともに、バックプレート1を予備成形体P上に積層して配置し、熱圧成形用の金型22と熱成形用成形型23により予備成形体Pを加熱して熱圧成形を行い、熱成形体Tとするとともに、熱圧成形体とバックプレートの一体化を行う。熱成形用成形型23の端面は、凹部23aと凸部23bが形成されており、熱成形用成形型23の凹部23aは予備成形体Pの凸部P2に、熱成形用成形型23の凹部22bは予備成形体Pの凸部P1に、それぞれ対応する位置に形成されている。このとき、熱成形用成形型の凹部23aと凸部23bのプロファイルは、熱圧成形体Tの上端面に形成される凹凸の各部で圧縮比が等しくなるよう形成することが好ましい。
【0015】
得られた熱成形体Tは、
図7(a)に示すように上端面に凹部Taおよび凸部Tbが形成されたものとなっている。この後、
図7(a)の点線部より上部にあたる凹部Taおよび凸部Tbを研削等の機械加工により除去して平坦な摩擦面を形成するとともに、チャンファ部および溝部の機械加工を行い、
図7(b)に示すディスクブレーキパッドとする。摩擦面の機械加工においては、摩擦材の凸部Taの分は廃棄することとなるが、摩擦材の凹部Tbの分だけ廃棄量が削減でき、その分製造コストを低減することができる。
【0016】
上記の形態は、凹凸を波形として形成した例であるが、矩形、台形等としてもよい。また、上記の形態は、成形型13および熱圧成形用成形型23の凹凸の間隔を等間隔に配置した例であるが、成形型13および熱圧成形用成形型23の凹凸の間隔を不等間隔に配置することもできる。また、凹凸は一方向に連続した形状とすることもできるし、斑状に形成することもできる。
【0017】
以上は、バックプレート上に直接摩擦材を積層したディスクブレーキパッドの製造方法の例であるが、充填工程において、下部金型10と、上部金型11の型孔11aにより形成されるキャビティに中間層を形成する中間層組成物を充填した後、充填された中間層組成物の上に摩擦材組成物を積層して充填し、後の工程は上記と同様にすることで、バックプレート上に、摩擦材が中間層を介して積層されたディスクブレーキパッドを製造することができる。
【0018】
なお、摩擦材の組成としては、従来の摩擦材組成物をそのまま用いることができる。すなわち、摩擦材組成物として、繊維基材、結合剤、有機充填材および無機充填材を含む摩擦材組成物を用いることができる。基材繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ロックウール、アラミド繊維、アクリル繊維等を用いることができる。結合材としては、熱硬化性樹脂であって、フェノール骨格を有する、熱劣化しても炭素として残りにくい樹脂が好ましく、フェノール樹脂やアクリルや各種エラストマで変性したフェノール樹脂等を用いることができる。有機充填材としては、カシューダスト、ゴムダスト等の有機粉末を用いることができる。無機充填材としては、アルミナやジルコニア等の無機粉末粒子、黒鉛、硫化アンチモン、硫化錫等の潤滑剤、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属粉末粒子を用いることができる。
【0019】
また、上記の予備成形工程、熱圧成形工程および機械加工工程の他、従来から行われている他の工程を必要に応じ追加してもよい。すなわち本発明のディスクブレーキパッドの製造方法においては、樹脂の硬化を促進する熱処理工程を設けてもよく、摩擦材の表面をスコーチ処理するスコーチ処理工程を設けてもよく、ディスクブレーキパッドの塗装工程を追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のディスクブレーキパッドは、機械加工により廃棄される素材の量を低減でき、その分廃棄コストが抑制できるものであり、自動車や自動二輪車等の制動に用いられるディスクブレーキパッドの製造方法として好適なものである。
【符号の説明】
【0021】
1…バックプレート、2…摩擦材、2a…摩擦材の上端面、2b…摩擦材のチャンファ、2c…摩擦材のスリット、3…中間層、
11…下部金型、12…上部金型、12a…上部金型の型孔、13…成形型、13a…第1成形型、13b…第2成形型、
22…熱圧成形用の金型、22a…熱圧成形用の金型の型孔、23…熱成形用成形型、23a…熱成形用成形型の凹部、23b…熱成形用成形型の凸部、
P…予備成形体、Pa…予備成形体の凹部、Pb…予備成形体の凸部、
T…熱成形体、Ta…熱成形体の凹部、Tb…熱成形体の凸部