【文献】
大根久美子、可児里美、大橋実 等,免疫複合体転移ー化学発光酵素免疫測定法(ICT-CLEIA法)による超高感度HBs抗原測定の臨床的有用性の検討,臨床病理,日本,2013年,Vol.61,No.9,Page.787-794
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酵素が、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ及びルシフェラーゼから選択される少なくとも1つである請求項5に記載の方法。
前記第2結合物質が、アビジン及びアビジン様タンパク質から選択される少なくとも1つであり、前記第2結合パートナーがビオチンである請求項8又は9のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.抗体試薬]
本実施形態の抗体試薬(以下、単に「抗体試薬」ともいう)は、被検物質に結合可能な標識抗体を含み、免疫複合体転移法により試料中の被検物質を検出するのに適した試薬である。ここで、免疫複合体転移法(以下、「ICT法」ともいう)は、本実施形態の抗体試薬に含まれる標識抗体と、被検物質と、該被検物質に結合可能な捕捉物質とを少なくとも含む免疫複合体を固相上に形成した後、この免疫複合体を別の固相に転移させる工程を含む。
【0015】
ICT法自体は当該技術において公知である。一般的なICT法では、被検物質を検出するための標識抗体(検出用標識抗体)と、被検物質を捕捉するための抗体(捕捉抗体)とを用いて、次のような手順で被検物質を検出する。まず、検出用標識抗体と、被検物質と、捕捉抗体とを含む免疫複合体を第1固相上に形成する。この免疫複合体において、被検物質は、検出用標識抗体と捕捉抗体とで挟まれている。次に、この免疫複合体を第1固相から、第1固相とは異なる第2固相へ移す。そして、第2固相上の免疫複合体に含まれる検出用標識抗体に基づくシグナルを測定し、シグナルの測定値に基づいて被検物質を検出する。ICT法では、免疫複合体を第2固相へ移す際に、第1固相を除去する。このとき、第1固相に非特異的に結合した夾雑物も同時に除去されるので、非特異的シグナルが低減される。
【0016】
本実施形態の抗体試薬は、ICT法を応用した免疫学的測定法によって試料中の被検物質を検出するために用いてもよい。そのような測定法としては、例えば、酵素標識抗体を用いるICT法である免疫複合体転移-酵素免疫測定法(ICT-EIA法)、化学発光を生じる反応を触媒する酵素で標識した抗体を用いるICT法である免疫複合体転移-化学発光酵素免疫測定法(ICT-CLEIA法)などが挙げられる。
【0017】
本実施形態の抗体試薬が対象とする試料は、被検物質を含み得るかぎり、特に限定されない。試料としては、例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、細胞又は組織の可溶化液などの生体試料、尿や糞便などの排泄物、河川水、海水、土壌などの環境サンプルなどが挙げられる。
【0018】
被検物質の種類は、被検物質に結合可能な抗体が存在するか又はそのような抗体を製造できるかぎり、特に限定されない。すなわち、抗原性を有する物質はいずれも被検物質になり得る。被検物質の例としては、タンパク質、ペプチド、核酸、生理活性物質、ベシクル、細菌、ウイルス、ハプテン、治療薬剤、治療薬剤の代謝物などが挙げられるが、特に限定されない。抗体も被検物質になり得る。タンパク質は、天然に存在するタンパク質だけでなく、組換えタンパク質などの非天然のタンパク質も含む。ペプチドは、アミノ酸残基数の多いポリペプチドだけでなく、ジペプチドやトリペプチドなどのアミノ酸残基数の少ないオリゴペプチドも含む。核酸は、天然に存在する核酸だけでなく、核酸アナログなどの人工的に合成された核酸も含む。多糖類は、細胞又はタンパク質の表面に存在する糖鎖、及び、細菌の外膜成分であるリポ多糖も含む。生理活性物質としては、例えば、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子、酵素、サイトカイン、ホルモン、糖鎖、脂質などが挙げられるが、特に限定されない。ベシクルは、膜で構成された小胞であれば特に限定されない。ベシクルは、内部に液相を含んでいてもよい。ベシクルとしては、例えば、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体などの細胞外小胞や、リポソームなどの人工のベシクルなどが挙げられる。
【0019】
本実施形態の抗体試薬に含まれる、被検物質に結合可能な標識抗体は、被検物質に対する特異的な抗原抗体反応により被検物質と結合し、且つ標識物質で標識された抗体であればよい。この標識抗体は、ICT法における検出用標識抗体に相当する。標識抗体自体は、被検物質に結合可能な抗体を、当該技術において公知の標識物質で標識することにより得ることができる。被検物質に結合可能な抗体自体は、当該技術において公知の抗体作製法によって得ることができる。
【0020】
本実施形態の抗体試薬は、1種類の標識抗体を含んでもよいし、互いに異なる被検物質に結合可能な2種類以上の標識抗体を含んでもよい。抗体試薬が2種類以上の標識抗体を含む場合は、各標識抗体は、互いに区別可能なシグナルが検出される標識物質で標識されることが好ましい。そのような標識物質としては、例えば、互いに区別可能な程度に異なる波長又は強度の蛍光を発生できる蛍光色素の組み合わせなどが挙げられる。
【0021】
標識抗体に用いられる抗体の種類は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体の由来は特に限定されず、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ラクダなどのいずれの哺乳動物に由来する抗体であってもよい。また、抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgE、IgAなどのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。標識抗体には、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いてもよく、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、単鎖抗体(scFc)などが挙げられる。
【0022】
標識物質は、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)、又は他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質を用いることができる。シグナル発生物質としては、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、酵素が挙げられる。好ましい標識物質は、酵素及び蛍光物質である。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)、シアニン系色素などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、
125I、
35S、
32P、
14Cなどが挙げられる。それらの中でも酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼが特に好ましい。
【0023】
本実施形態の抗体試薬は、この抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数に占める、免疫複合体転移法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数の割合(以下、「非特異的抗体の割合」ともいう)が、約3.34×10
-7以下であることを特徴とする。ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体は、非特異的シグナルの発生原因となる。本実施形態の抗体試薬では、固相と非特異的に結合する標識抗体が上記の割合にまで低減されているので、ICT法において非特異的シグナルを低く抑えることが可能となる。ここで、「非特異的に結合する」とは、抗原抗体反応によらない結合を意味し、例えば、物理的吸着、静電相互作用などが挙げられる。
【0024】
本実施形態において、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数に占める、ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数の割合は、好ましくは約3.34×10
-7以下であり、より好ましくは約2.81×10
-7以下である。さらなる実施形態では、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数に占める、ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数の割合は、3.34×10
-7以下であり、好ましくは2.81×10
-7以下である。
【0025】
非特異的抗体の割合は、標識抗体の分子数を反映する値に基づいて算出してもよい。そのような値としては、例えば、抗体試薬におけるタンパク質の濃度又は量、抗体試薬における標識物質の濃度又は量、標識抗体に基づくシグナルの測定値などが挙げられる。非特異的抗体の割合は、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数を反映する値で、ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数を反映する値を除することにより算出できる。このとき、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数を反映する値の単位と、ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数を反映する値の単位は同じであることが好ましい。
【0026】
抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数を反映する値は、タンパク質の濃度又は量、標識物質の濃度又は量、標識抗体に基づくシグナルの測定値のいずれであってもよい。ここで、本実施形態の抗体試薬に含まれるタンパク質成分は主に標識抗体であるので、抗体試薬におけるタンパク質の濃度及び量は、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数を反映する。抗体試薬に含まれるタンパク質の濃度及び量は、当該技術において公知のタンパク質定量法で測定すればよい。
【0027】
標識抗体において、標識物質は抗体に結合又は固定されているので、抗体試薬における標識物質の濃度及び量は、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数を反映する。抗体試薬に含まれる標識物質の濃度又は量は、標識物質の種類に応じて、当該技術において公知の方法で測定すればよい。あるいは、抗体試薬における標識物質の濃度及び量は、標識抗体の作製時に使用した標識物質の量から算出してもよい。
【0028】
標識抗体に基づくシグナルの量又は強度は、使用した抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数に応じて変化するので、所定量の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルの測定値は、その量の抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数を反映する。標識抗体に基づくシグナルの量又は強度は、標識物質の種類に応じた公知の測定法で、所定量の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルを測定すればよい。標識抗体の濃度が高い場合は、希釈した抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルを測定してもよい。この場合、得られたシグナルの測定値に希釈率を乗じることで、希釈前の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルの値を算出してもよい。
【0029】
本実施形態では、所定量の抗体試薬におけるタンパク質又は標識物質の量と、該所定量の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルの測定値とから、シグナルの測定値をタンパク質又は標識物質の量に変換するための係数(以下、「変換係数」ともいう)を算出してもよい。この係数は、ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数を反映する値を取得するために用いることができる。
【0030】
ICT法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数を反映する値としては、そのような標識抗体に基づくシグナルの測定値を取得することが好ましい。例えば、固相が磁性粒子である場合は、次のようにして、固相と非特異的に結合する標識抗体に基づくシグナルの測定値を得ることができる。まず、所定量の本実施形態の抗体試薬と、磁性粒子とを混合して、37〜42℃で60〜600秒間インキュベートする。抗体試薬及び固相の量は、特に限定されず、通常の検出アッセイを行う場合に用いられる量であればよい。次に、得られた混合物中の遊離成分(未反応の標識抗体)を除去するために、磁性粒子を磁石又は集磁装置で回収して洗浄する。そして、磁性粒子を回収し、該磁性粒子に非特異的に結合した標識抗体に基づくシグナルを測定して、シグナルの測定値を取得する。上記の変換係数を取得している場合は、シグナルの測定値とこの係数とから、固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数を反映する値として、タンパク質又は標識物質の量を算出してもよい。
【0031】
本実施形態の抗体試薬の一例を、
図1に示す。
図1において、10は、抗体試薬を収容した第1容器を示す。本実施形態の抗体試薬の形態は、液体であってもよいし、粉末(凍結乾燥品)であってもよい。抗体試薬が液体である場合、溶媒は、標識抗体を溶解して保存できるかぎり、特に限定されない。溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液(PBS)、グッドの緩衝液などが挙げられる。グッドの緩衝液としては、例えば、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどが挙げられる。
【0032】
本実施形態の抗体試薬は、必要に応じて、公知の添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)などタンパク質安定化剤、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、塩化ナトリウムなどの無機塩類などが挙げられる。
【0033】
近年、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染したことのあるリウマチ患者やがん患者に免疫抑制剤を用いると、HBVが再活性化して重症肝炎を引き起こすことが知られている。このような肝炎の劇症化の予防のためには、HBVの再活性化を早期に発見することが重要である。そのためには、HBVエンベロープに存在する抗原であるHBs抗原を高い感度で検出可能な検査が必要となる。本実施形態の抗体試薬は、検出感度の高いICT法を実現できるので、HBs抗原の検出に好適に用いられる。よって、ICT法により試料中のHBs抗原を検出するための本実施形態の抗体試薬は、標識された抗HBs抗体を含み、該抗体試薬における非特異的抗体の割合が約3.34×10
-7以下であり、好ましくは3.34×10
-7以下である、抗体試薬である。
【0034】
本発明の範囲には、免疫複合体転移法により試料中の被検物質を検出するための抗体試薬を製造するための、該被検物質に結合可能な標識抗体の使用であって、抗体試薬に含まれる標識抗体の分子数に占める、免疫複合体転移法に用いられる固相と非特異的に結合する標識抗体の分子数の割合が、約3.34×10
-7以下であり、好ましくは3.34×10
-7以下である、標識抗体の使用も含まれる。
【0035】
[2.試薬キット]
本実施形態の抗体試薬は、該抗体試薬を収容した容器を箱に梱包した試薬キットの形態でユーザに提供されてもよい。この箱には、試薬の添付文書を同梱していてもよい。この添付文書には、例えば、抗体試薬の組成、被検物質の検出プロトコールなどが記載されることが好ましい。試薬キットの形態で提供される抗体試薬の一例を、
図2Aに示す。
図2Aにおいて、20は、試薬キットを示し、21は、本実施形態の抗体試薬を収容した第1容器を示し、22は、添付文書を示し、23は、梱包箱を示す。
【0036】
本実施形態では、上記の抗体試薬に加えて、免疫複合体転移法により試料中の被検物質を検出するために用いられる各種試薬をさらに含む試薬キットをユーザに提供してもよい。すなわち、本発明の範囲には、免疫複合体転移法により試料中の被検物質を検出するための試薬キット(以下、単に「試薬キット」ともいう)が含まれる。本実施形態の試薬キットは、本実施形態の抗体試薬と、被検物質に結合可能な捕捉物質を含む試薬と、遊離剤と、第1固相と、第2固相とを含む。本実施形態の抗体試薬については上述のとおりである。
【0037】
本実施形態の試薬キットの一例を、
図2Bに示す。
図2Bにおいて、30は、試薬キットを示し、31は、本実施形態の抗体試薬を収容した第1容器を示し、32は、被検物質に結合可能な捕捉物質を含む試薬を収容した第2容器を示し、33は、遊離剤を収容した第3容器を示し、34は、粒子である第1固相を収容した第4容器を示し、35は、粒子である第2固相を収容した第5容器を示し、36は、添付文書を示し、37は、梱包箱を示す。
【0038】
被検物質に結合可能な捕捉物質(以下、単に「捕捉物質」ともいう)は、被検物質に特異的に結合する物質であって、且つ、第1結合物質に結合可能な第1結合パートナー、及び第2結合物質に結合可能な第2結合パートナーを有する。結合物質及び結合パートナーについては後述する。捕捉物質は、被検物質において、本実施形態の抗体試薬に含まれる標識抗体が結合する部位とは異なる部位に結合することが好ましい。そのような捕捉物質は、被検物質と標識抗体との抗原抗体反応において、該標識抗体に対する競合的阻害を生じない。また、ICT法において、標識抗体と捕捉物質とで挟まれた被検物質を含む免疫複合体を得ることができる。
【0039】
捕捉物質の種類は、特に限定されず、被検物質に応じて適宜選択できる。捕捉物質の種類としては、例えば、抗体及びそのフラグメント、アプタマー、アフィボディ(登録商標)、レクチン、核酸などが挙げられる。レクチンは糖鎖に結合するので、糖鎖を有する被検物質に対する捕捉物質として用いることができる。被検物質が核酸である場合、捕捉物質として核酸を用いれば、相補的塩基対の形成を利用して該被検物質を捕捉できる。それらの中でも、抗体が好ましい。抗体の種類及び由来の詳細は、標識抗体について述べたことと同様である。本明細書では、捕捉物質としての抗体を「捕捉抗体」とも呼ぶ。
【0040】
第1固相は、標識抗体と被検物質と捕捉物質とを含む免疫複合体を捕捉するための固相である。固相の素材は、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム、コバルト及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、粒子、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましい。全自動免疫測定装置によりICT法を行う場合、第1固相は磁性粒子であることが特に好ましい。
【0041】
本実施形態では、第1固相上には、免疫複合体中の捕捉物質を固定するための第1結合物質が固定されている。本実施形態では、捕捉物質が、第1結合物質と結合可能な第1結合パートナーを有するので、該第1結合パートナーと、第1固相上に固定された第1結合物質とが結合することにより、免疫複合体中の捕捉物質が第1固相上に固定される。これにより、免疫複合体が第1固相に捕捉される。
【0042】
第1結合物質及び第1結合パートナーは、両者の結合を解離することが可能な物質が存在するかぎり、特に限定されない。そのような第1結合物質及び第1結合パートナーの組み合わせとしては、例えば、ビオチンとアビジン又はアビジン様タンパク質、ハプテンと抗ハプテン抗体、ニッケルとヒスチジンタグ、グルタチオンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼなどの組み合わせが挙げられる。ここで、アビジン様タンパク質とは、アビジンと同様にビオチンに対して高い親和性を有するタンパク質であり、例えばストレプトアビジン、タマビジン(登録商標)などが挙げられる。それらの中でも、ビオチンとアビジン又はアビジン様タンパク質、ハプテンと抗ハプテン抗体が好ましい。好ましくは、第1結合物質がハプテンであり、第1結合パートナーが抗ハプテン抗体である。より好ましくは、第1結合物質がジニトロフェニル(DNP)基であり、第1結合パートナーがDNP基に特異的に結合する抗体(抗DNP抗体)である。
【0043】
遊離剤は、第1結合物質と第1結合パートナーとの結合を解離することが可能な試薬である。遊離剤を添加することにより、第1固相上に固定された免疫複合体は、該第1固相から遊離する。遊離剤は、第1結合物質及び第1結合パートナーの組み合わせに応じて適宜選択できる。例えば、ビオチンとアビジン又はアビジン様タンパク質との結合は、ビオチンの過剰添加により解離できる。ハプテンと抗ハプテン抗体との結合は、ハプテンの添加により解離できる。ニッケルとヒスチジンタグとの結合は、イミダゾールの添加により解離できる。グルタチオンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼとの結合は、還元型グルタチオンの添加により解離できる。第1結合物質がDNP基であり、第1結合パートナーが抗DNP抗体である場合、遊離剤はDNP誘導体であることが好ましい。DNP誘導体としては、例えば、DNPで修飾されたアミノ酸などが挙げられ、それらの中でも、N-(2, 4-ジニトロフェニル)-L-リジン(以下、「DNPリジン」ともいう)が特に好ましい。
【0044】
第2固相は、遊離剤によって第1固相から遊離した免疫複合体を捕捉するための固相である。固相の素材及び形状の詳細は、第1固相について述べたことと同様である。全自動免疫測定装置によりICT法を行う場合、第2固相は磁性粒子であることが特に好ましい。
【0045】
本実施形態では、第2固相上には、免疫複合体中の捕捉物質を固定するための第2結合物質が固定されている。本実施形態では、捕捉物質が、第2結合物質と結合可能な第2結合パートナーを有するので、該第2結合パートナーと、第2固相上に固定された第2結合物質とが結合することにより、免疫複合体中の捕捉物質が第2固相上に固定される。これにより、免疫複合体が第2固相に捕捉される。
【0046】
第2結合物質及び第2結合パートナーの組み合わせは、第1結合物質及び第1結合パートナーの組み合わせとは異なるかぎり、上記の第1結合物質及び第1結合パートナーの組み合わせから適宜選択できる。第1結合物質がDNP基であり、第1結合パートナーが抗DNP抗体である場合、第2結合物質がアビジン又はアビジン様タンパク質であり、第2結合パートナーがビオチンであることが好ましい。
【0047】
標識抗体の標識物質が酵素である場合、本実施形態の試薬キットは、該酵素の基質をさらに含んでもよい。基質は、酵素に応じて当該技術において公知の基質から適宜選択できる。酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0048】
基質をさらに含む本実施形態の抗体試薬キットの一例を、
図2Cに示す。
図2Cにおいて、40は、試薬キットを示し、41は、本実施形態の抗体試薬を収容した第1容器を示し、42は、被検物質に結合可能な捕捉物質を含む試薬を収容した第2容器を示し、43は、遊離剤を収容した第3容器を示し、44は、粒子である第1固相を収容した第4容器を示し、45は、粒子である第2固相を収容した第5容器を示し、46は、基質を収容した第6容器を示し、47は、添付文書を示し、48は、梱包箱を示す。
【0049】
本実施形態の試薬キットは、検出感度の高い免疫複合体転移法を実現できるので、HBs抗原の検出に好適に用いられる。よって、ICT法により試料中のHBs抗原を検出するための本実施形態の試薬キットは、標識された抗HBs抗体を含む本実施形態の抗体試薬と、捕捉物質として、HBs抗原において、該抗体試薬に含まれる標識抗体が結合する部位とは異なる部位に結合する抗HBs抗体とを含むことが好ましい。
【0050】
[3.抗体試薬の製造方法]
本実施形態の抗体試薬を製造する方法(以下、単に「製造方法」ともいう)について、以下に説明する。本実施形態の製造方法では、まず、被検物質に結合可能な抗体を含む抗体溶液と、免疫複合体転移法に用いられる固相とを接触させる。上述のとおり、抗体溶液には、固相に非特異的に吸着する抗体が一定量含まれ得る。抗体溶液と固相とを接触させた後、固相と抗体溶液とを分離し、溶液成分を回収することにより、固相に非特異的に吸着する抗体を除去することができる。この溶液成分を抗体試薬として用いてICT法を行うことにより、非特異シグナルを低減することができる。
【0051】
被検物質に結合可能な抗体を含む抗体溶液は、被検物質に対する特異的な抗原抗体反応により被検物質と結合する抗体を含む溶液であればよい。また、市販の抗体溶液を用いてもよい。該抗体溶液における抗体の濃度は特に限定されないが、通常10〜1000 ng/mLである。抗体の種類及び由来の詳細は、標識抗体について述べたことと同様である。被検物質に結合可能な抗体は、標識物質で標識されていてもよい。標識物質としては、酵素及び蛍光物質が好ましい。標識物質の詳細は上述のとおりである。
【0052】
抗体溶液は、1種類の抗体を含んでもよいし、互いに異なる被検物質に結合可能な2種類以上の抗体を含んでもよい。抗体溶液が2種類以上の抗体を含む場合は、各抗体は、互いに区別可能なシグナルが検出される標識物質で標識された標識抗体であることが好ましい。そのような標識物質の例については上述のとおりである。
【0053】
抗体溶液と接触する固相は、第1固相、第2固相又はその両方であり得る。抗体がいずれの固相に非特異吸着するかが予めわかっている場合は、抗体が非特異吸着する固相を添加すればよい。固相は、免疫複合体中の捕捉物質を固定できることが好ましい。固相上には、捕捉物質(好ましくは捕捉抗体)を固定するための結合物質が固定されていてもよい。そのような結合物質の詳細は、第1結合物質について述べたことと同様である。本実施形態では、固相は、第1結合物質を有する磁性粒子であることが好ましい。
【0054】
抗体溶液と固相とを接触する操作は、固相の形状に応じて適宜決定できる。固相が、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などの容器の形状にある場合は、適量の抗体溶液を固相としての容器内に入れることで、抗体溶液と固相とが接触する。固相が磁性粒子などの粒子の形状にある場合は、抗体溶液に粒子を添加するか、又は抗体溶液と粒子の懸濁液とを混合することで、抗体溶液と固相とが接触する。固相が粒子である場合、粒子の量は特に限定されないが、例えば、抗体1mgに対して粒子を通常0.5 g程度用いればよい。抗体溶液と固相とを接触するときの温度及び時間は特に限定されないが、例えば、4〜27℃で10〜30時間インキュベートすればよい。インキュベーションの間に、攪拌又は振とうを行ってもよい。
【0055】
本実施形態の製造方法では、次に、固相と、該固相に接触した抗体溶液とを分離し、該固相に接触した抗体溶液から本実施形態の抗体試薬を調製する。固相に接触した抗体溶液を固相から分離して回収する手段は、固相の形状に応じて適宜決定できる。固相が容器の形状にある場合は、固相としての容器に収容されている抗体溶液を回収すればよい。固相が粒子の形状にある場合は、粒子と抗体溶液との混合物から上清を分離して回収すればよい。上清を分離する方法としては、遠心分離、ろ過などが挙げられる。固相が磁性粒子である場合は、磁石又は集磁装置により磁性粒子を集めることで、上清が分離される。
【0056】
固相と、該固相に接触した抗体溶液とを分離することにより、抗体溶液からは、固相に非特異的に結合又は吸着する抗体が固相と共に除去される。よって、固相から分離された抗体溶液においては、非特異的シグナルの原因となる抗体が低減される。固相から分離された抗体溶液は、そのまま本実施形態の抗体試薬として用いてもよい。必要に応じて、固相から分離された抗体溶液を、濃縮、希釈、精製、凍結乾燥などの処理に付してもよい。抗体が標識されていない場合は、回収した抗体溶液に含まれる抗体を標識物質で標識してもよい。
【0057】
上記のように、本実施形態の製造方法おいては、抗体溶液と固相とを接触させた後、該固相を除去することにより、該抗体溶液に含まれる固相と非特異的に結合する抗体が低減され、本実施形態の抗体試薬が得られる。本実施形態の製造方法により得られる抗体試薬は、上記の非特異的抗体の割合が約3.34×10
-7以下(好ましくは3.34×10
-7以下)となっている。必要に応じて、本実施形態の製造方法によって得た抗体試薬について、上述のようにして非特異的抗体の割合を確認してもよい。
【0058】
本実施形態の製造方法は、ICT法により試料中の被検物質の検出を行う前に実施することを意図している。すなわち、ICT法における、試料と、被検物質に結合可能な抗体を含む抗体溶液と、固相とを混合する工程は、本実施形態の製造方法における接触工程には該当しない。よって、本実施形態の製造方法において、上記の接触工程及び調製工程は、試料と抗体溶液とを混合する前に行われる。
【0059】
本実施形態の製造方法によって、ICT法により試料中のHBs抗原を検出するための抗体試薬を製造する場合は、抗体溶液として、抗HBs抗体を含む抗体溶液を用い、ICT法に用いられる固相として、HBs抗原において該抗体溶液に含まれる抗HBs抗体が結合する部位とは異なる部位に結合する抗HBs抗体を固定するための結合物質を有する固相を用いればよい。
【0060】
[4.抗体溶液の前処理方法]
本実施形態の製造方法は、ICT法において非特異的シグナルを低減可能な抗体試薬を得るための、抗体溶液を前処理する方法とも解釈できる。よって、本発明の範囲には、試料中の被検物質に結合可能な抗体を含む抗体溶液の前処理方法(以下、単に「前処理方法」ともいう)が含まれる。ここで、抗体溶液の前処理とは、ICT法により試料中の被検物質の検出を行う前に、抗体溶液を処理して本実施形態の抗体試薬を調製することを意図する。
【0061】
本実施形態の前処理方法では、まず、被検物質に結合可能な抗体を含む抗体溶液と、ICT法に用いられる固相とを接触させる。抗体溶液、固相及び接触の操作の詳細は、本実施形態の製造方法について述べたことと同様である。次に、固相と、該固相に接触した抗体溶液とを分離して、該固相に接触した抗体溶液から、ICT法により試料中の被検物質を検出するための抗体試薬を調製する。固相と抗体溶液とを分離する手段及び分離した抗体溶液から抗体試薬を調製する手順の詳細は、本実施形態の製造方法について述べたことと同様である。
【0063】
本発明の範囲には、本実施形態の製造方法により調製された抗体試薬を用いて、ICT法により試料中の被検物質を検出する方法(以下、単に「検出方法」ともいう)も含まれる。本実施形態の検出方法は、用手法で行ってもよいし、全自動免疫測定装置によって行ってもよい。
【0064】
本実施形態の検出方法では、まず、本実施形態の製造方法により調製された抗体試薬と、被検物質を含む試料と、該被検物質に結合可能な捕捉物質を含む試薬と、第1固相とを混合する。混合の順序は特に限定されない。これらを混合することにより、抗体試薬に含まれる標識抗体と、被検物質と、捕捉物質とを含む免疫複合体を形成して、該複合体を第1固相上に固定する。ここで、抗体試薬、被検物質を含む試料、被検物質に結合可能な捕捉物質を含む試薬、及び第1固相の詳細は、これまでに述べたことと同様である。
【0065】
試料又は被検物質の種類によっては、試料と上記の各種試薬と混合する前に、試料に対して検出に適するように前処理を行ってもよい。そのような前処理は、当該技術において公知である。例えば、試料がHBs抗原を含む血清である場合、HBs抗原に内因性抗体が結合していることがあるので、アルカリ性物質及び界面活性剤を含む緩衝液で血清を前処理してもよい。
【0066】
本実施形態では、捕捉物質は、上記の第1結合物質に結合可能な第1結合パートナー、及び第2結合物質に結合可能な第2結合パートナーを有する抗体が好ましい。また、第1固相は、上記の第1結合物質が固定された磁性粒子が好ましい。結合物質及び結合パートナーの詳細は、本実施形態の試薬キットについて述べたことと同様である。本実施形態では、第1結合物質は抗DNP抗体であり、第1結合パートナーはDNP基であり、第2結合パートナーはビオチンであることが好ましい。
【0067】
免疫複合体を第1固相上に固定する工程(固定工程)における温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば37〜42℃で60〜600秒間インキュベートすればよい。インキュベーションの間に、攪拌又は振とうを行ってもよい。
【0068】
次に、上記の固定工程で得られた混合物から、免疫複合体に含まれていない遊離成分を除去する。この遊離成分の除去工程は、固相に固定された分子(Bound)と、固相に固定されていない遊離状態の分子(Free)とを分離することにより行われる。このような分離は、B/F分離とも呼ばれる。免疫複合体に含まれていない遊離成分としては、未反応の標識抗体、未反応の捕捉物質、標識抗体及び捕捉物質と結合していない被検物質などが挙げられる。B/F分離は、当該技術において公知の方法により行うことができる。例えば、第1固相が粒子である場合、混合物を遠心分離して、遊離成分を含む上清を除去することによりB/F分離を行うことができる。第1固相が磁性粒子である場合は、磁石又は集磁装置によって磁性粒子を集めて、遊離成分を含む液相を除去することによりB/F分離を行うことができる。必要に応じて、免疫複合体が固定された第1固相を適切な洗浄液で洗浄してもよい。
【0069】
遊離成分を除去した後、免疫複合体を第1固相から遊離させる。この操作は、遊離剤を添加して、免疫複合体中の捕捉物質と、第1固相との結合を解離することにより行うことが好ましい。例えば、免疫複合体中の捕捉物質と、第1固相とが物理的吸着により結合している場合は、遊離剤として、界面活性剤を含む溶液を用いることで、該複合体を遊離できる。また、イオン結合の場合は、イオンを含む溶液を用いることで該複合体を遊離できる。免疫複合体中の捕捉物質と、第1固相とが、第1結合物質及び第1結合パートナーを介して結合している場合は、本実施形態の試薬キットに用いられる遊離剤を添加すればよい。免疫複合体を第1固相から遊離させる工程(遊離工程)における温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば37〜42℃で120〜240秒間インキュベートすればよい。インキュベーションの間に、攪拌又は振とうを行ってもよい。
【0070】
上記のようにして遊離した免疫複合体を、第1固相とは異なる第2固相上に転移する。この操作は、遊離した免疫複合体と第2固相とを接触させて、該免疫複合体を該第2固相上に固定することにより行われる。本実施形態では、第2固相は、上記の第2結合物質が固定された磁性粒子が好ましい。第2結合物質は、アビジン又はアビジン様タンパク質が好ましい。
【0071】
遊離した免疫複合体を第2固相に転移する工程(転移工程)では、遊離した免疫複合体が、第1固相に再び結合することを意図していない。したがって、本実施形態では、遊離工程と転移工程との間にB/F分離を行って、遊離した免疫複合体を含む液相を回収することが好ましい。回収した液相と第2固相とを接触させることにより、免疫複合体を第2固相上に転移することができる。転移工程における温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば37〜42℃で約240秒間インキュベートすればよい。インキュベーションの間に、攪拌又は振とうを行ってもよい。
【0072】
遊離した免疫複合体を第2固相に転移した後、該第2固相上の免疫複合体に含まれる標識抗体に基づくシグナルを測定し、該シグナルに基づいて被検物質を検出する。ここで、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナルの量又は強度を定量すること、及び、シグナルを、「シグナル発生せず」、「弱」、「強」などのように複数の段階に半定量的に検出することを含む。また、「被検物質を検出する」とは、シグナルの検出結果に応じて、被検物質の定性的な検出、定量的な検出及び半定量的な検出を含む。被検物質の半定量的な検出とは、「陰性」、「弱陽性」、「陽性」、「強陽性」などのように、試料中の被検物質の量又は濃度を段階的に示すことをいう。
【0073】
標識抗体に基づくシグナルの検出方法自体は当該技術において公知である。シグナルの検出方法は、標識抗体に用いた標識物質の種類に応じて適宜選択できる。例えば、該標識物質が酵素である場合、酵素と、該酵素に対する基質とを反応させることによって発生する光、色などのシグナルを公知の測定装置を用いて測定することにより行うことができる。そのような測定装置としては、分光光度計、ルミノメータなどが挙げられる。標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0074】
本実施形態では、検出のシグナル/ノイズ比(S/N比)を確認するために、被検物質を含まない試料を検出方法に付して、被検物質の非存在下の非特異的シグナルの値を定量的に検出してもよい。この検出は、被検物質を含み得る試料に代えて、被検物質を含まない試料を用いること以外は、上記に述べたようにして行うことができる。必要に応じて、本実施形態の抗体試薬以外の試薬(例えば、基質溶液など)によるバックグラウンドの値も測定してよい。このようなバックグラウンドは、試薬ブランクとも呼ばれる。
【0075】
本実施形態の検出方法において、非特異的シグナルがどの程度低減されたかを確認するために、下記の式(1)に示される第1の比を算出してもよい。
【0076】
第1の比 = a/b ・・・(1)
(式中、aは、被検物質の非存在下の非特異的シグナルの値であり、
bは、1回の検出に用いられる量の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルの値である)
【0077】
1回の検出に用いられる量の抗体試薬とは、上記の固定工程において、1つの試料に対して添加される量の抗体試薬である(以下、「1アッセイ分の抗体試薬」ともいう)。1アッセイ分の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナルの値は、次のようにして測定できる。標識抗体の標識物質が酵素である場合は、1アッセイ分の抗体試薬と、酵素の基質とを反応させて、発生したシグナルの量又は強度を定量的に検出する。標識抗体の標識物質が蛍光色素である場合は、1アッセイ分の抗体試薬に励起光を照射して、発生した蛍光の強度を定量的に測定する。
【0078】
第1の比は、1回の検出に用いられる量の本実施形態の抗体試薬に含まれる標識抗体に基づくシグナル値に対する、被検物質を含まない試料を測定したときのシグナル値の比である。本実施形態においては、第1の比の値は通常約1.02×10
-7以下であり、好ましくは約6.80×10
-8以下である。さらなる実施形態では、第1の比の値は1.02×10
-7以下であり、好ましくは6.80×10
-8以下である。第1の比はシグナル値に基づくので、非特異的シグナルの低減効果を異なるアッセイ間で比較することが可能になる。
【0079】
本実施形態の検出方法において、非特異的シグナルがどの程度低減されたかを確認するために、下記の式(2)に示される第2の比を算出してもよい。
【0080】
第2の比 = a/c ・・・(2)
(式中、aは、被検物質の非存在下の非特異的シグナルの値であり、
cは、転移工程を行わない場合の被検物質の非存在下の非特異的シグナルの値である)
【0081】
転移工程を行わない場合の被検物質の非存在下の非特異的シグナルの値は、次のようにして取得できる。まず、被検物質を含まない試料を、本実施形態の検出方法における固定工程及び遊離成分の除去工程に付す。そして、第1固相を回収して、該第1固相に非特異的に結合した標識抗体に基づくシグナルを定量的に検出する。すなわち、式(2)中のcの値は、転移工程を含まない免疫学的測定法における、被検物質の非存在下の非特異的シグナルの値である。
【0082】
第2の比は、免疫複合体の転移工程を含まない測定法で得られた非特異的シグナルの値に対する、被検物質を含まない試料を測定したときのシグナル値の比である。第2の比は、免疫複合体の転移工程を含まない測定法と比較して、ICT法が非特異的シグナルをどの程度低減できるかを示す指標である。本実施形態においては、第2の比の値は通常約4.68×10
-2以下であり、好ましくは約3.12×10
-2以下である。さらなる実施形態では、第2の比の値は4.68×10
-2以下であり、好ましくは3.12×10
-2以下である。第2の比の値が小さいほど、非特異的シグナルの低減効果が、免疫複合体の転移工程を含まない測定法に比べて、高いことを意味する。
【0083】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載の「HISCL」は、シスメックス株式会社の登録商標である。
【実施例】
【0084】
実施例1: 検出用標識抗体を含む試薬の調製及びその性能の評価
実施例1では、検出用標識抗体を含む溶液を固相と接触させることによって前処理し、検出用標識抗体を含む試薬を調製した。得られた試薬について、検出用標識抗体の固相への非特異的反応が低減されているかを検討した。
【0085】
(1) 検出用標識抗体の調製
検出用標識抗体として、アルカリホスファターゼ(ALP)で標識された抗HBs抗体フラグメントを2種類用いた(以下、それぞれ「ALP標識HBs149Fab'」及び「ALP標識HBs85Fab'」という)。ALP標識HBs149Fab'は、受託番号FERM BP-10583で2006年3月27日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(郵便番号292-0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託したハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体から作製した。ALP標識HBs85Fab'は、受託番号NITE BP-1483で2012年12月13日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託したハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体から作製した。具体的な検出用標識抗体の作製手順は、次のとおりである。各モノクローナル抗体をペプシン消化及び還元して、Fab'フラグメントを得た。また、ALP(オリエンタル酵母株式会社)をEMCS(N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド)(株式会社同仁化学研究所)を用いてマレイミド化した。そして、得られたFab'フラグメントと、マレイミド化したALPとを混合して反応させることで、検出用標識抗体(Fab'-ALP)を得た。得られた検出用標識抗体を、希釈液(0.1 M MES (pH6.5)、0.15 M NaCl、1.0% BSA、0.1% NaN
3、10 mM MgCl
2及び1mM ZnCl
2)で希釈した。各検出用標識抗体の希釈液を1:1で混合して、検出用標識抗体を含む溶液(ALP濃度10 pmol/mL)を調製した。以下、得られた溶液を「前処理なしの抗体試薬」ともいう。
【0086】
(2) 抗DNP抗体固定磁性粒子の調製
磁性粒子(Micromer M、Micromod社)の表面に抗DNP抗体(DNP-1753)を固定して、第1固相を得た。得られた第1固相を希釈液(0.1 M MES(pH6.5)、0.15 M NaCl、0.25% BSA及び0.1% NaN
3)で希釈して、抗DNP抗体固定磁性粒子を含む溶液(粒子濃度1.0%)を得た。ここで、磁性粒子への抗体の固定はSulfo-SMCC(ピアス社)を用いて行った。上記のDNP-1753抗体は、受託番号NITE P-845で2009年11月25日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託したハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である。
【0087】
(3) 検出用標識抗体を含む試薬の調製(抗体溶液の前処理)
上記(1)で得た検出用標識抗体を含む溶液500μL当たり、上記(2)で得た抗DNP抗体固定磁性粒子を含む溶液を10μL加え、4℃で一晩、転倒攪拌した。その後、磁石を用いて溶液中の磁性粒子を集磁して、上清のみを回収することにより、溶液から磁性粒子を取り除いた。以下、得られた上清を、検出用標識抗体を含む試薬(以下、「前処理した抗体試薬」ともいう)として用いた。
【0088】
(4) 検出用標識抗体の標識物質の量とシグナル値との関係
実施例1の検出用標識抗体では、抗体フラグメントと標識物質(ALP)とが共有結合している。したがって、前処理した抗体試薬におけるALPの量は、該試薬に含まれる検出用標識抗体の分子数を反映する。ALPと基質との反応により発生する化学発光のシグナル値は、基質の量が一定であるとき、その反応に使用したALPの量を反映する。そこで、非特異的反応に関与した検出用標識抗体の分子数の割合をシグナル値に基づいて算出するために、検出用標識抗体を含む試薬におけるALPのモル数とシグナル値との関係を表す係数(以下、「変換係数」ともいう)を、以下のようにして算出した。なお、この係数は、本実施形態の抗体試薬の説明で述べた変換係数に当たる。
【0089】
(4-1) 試薬及び測定装置
・r3試薬:上記(3)で得た検出用標識抗体を含む試薬
・ALP活性用バッファー:0.1 M MES (pH6.5)、0.15 M NaCl、0.25% BSA及び0.1% NaN
3
・発光基質用バッファー:HISCL R4試薬 (シスメックス株式会社)
・発光基質:HISCL R5試薬(CDP-Star(登録商標))(シスメックス株式会社)
・測定装置:全自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス株式会社)
【0090】
(4-2) 測定の手順
以下の操作は、HISCL-800(シスメックス株式会社)により行った。r3試薬をALP活性用バッファーで1/1000の濃度となるよう希釈した(1000倍希釈)。HISCL-800をALP活性モードに設定して、希釈したr3試薬(20μL)、HISCL R4試薬(50μL)及びHISCL R5試薬(100μL)を混合した。そして、HISCL-800をICT測定モードに設定して、得られた混合液を42℃で5分間インキュベートして、シグナル値として発光強度を測定した。
【0091】
(4-3) 結果
上記の測定により得られた発光強度は、3,997,991カウントであった。この値は、1000倍希釈したr3試薬(20μL)に含まれる検出用標識抗体のALPと、基質との反応から得られた値である。この値に希釈率(1000倍)を乗じて、3,997,991,000カウントを算出した。算出した値は、希釈前のr3試薬(20μL)に含まれる全ての検出用標識抗体のALPが基質と反応したときに得られる発光強度の理論値である。次に、希釈前のr3試薬(20μL)中のALPのモル数を次のようにして算出した。上記(3)で得た検出用標識抗体を含む試薬のALP濃度は、上記(1)で得た検出用標識抗体を含む溶液のALP濃度と同じ10 pmol/mLとした。よって、r3試薬(20μL)に含まれるALPのモル数は200 fmolである(10 pico mol/mL×20μL = 200 femto mol)。上記のシグナル値をALPのモル数で除して、変換係数として「20カウント/zmol」を算出した(3,997,991,000カウント/200 fmol = 約20カウント/zepto mol)。
【0092】
(5) 検出用標識抗体を含む試薬による非特異的シグナルの検討
(5-1) 試料、試薬及び測定装置
・試料:HISCL HBsAgキャリブレーター(HBs抗原濃度0IU/mL)(シスメックス株式会社)
・試料処理用バッファー:0.1 M MES (pH6.5)、1.0% BSA、10 mM MgCl
2及び1mM ZnCl
2
・r3試薬:上記(3)で得た検出用標識抗体を含む試薬
・r5 試薬(第1固相):上記(2)で得た抗DNP抗体固定磁性粒子を含む溶液
・洗浄液:HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)
・基質用バッファー:HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)
・発光基質:HISCL R5試薬(CDP-Star(登録商標))(シスメックス株式会社)
・測定装置:全自動免疫測定装置HISCL-800プロトタイプ(シスメックス株式会社)
【0093】
(5-2) 測定の手順
以下の操作は、HISCL-800プロトタイプ(シスメックス株式会社)により行った。試料(70μL)と試料処理用バッファー(60μL)とを混合し、42℃で72秒間インキュベートした。得られた混合液にr3試薬(20μL)を加えて、42℃で584秒間インキュベートした。得られた混合液にr5試薬(20μL)を加えて、42℃で720秒間インキュベートした。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した(B/F分離)。B/F分離をさらに3回行った。上清を除き、磁性粒子にHISCL R4試薬(50μL)及びHISCL R5試薬(100μL)を加えた。得られた混合液を42℃で300秒間インキュベートして、発光強度を測定した。また、r3試薬を加えなかったこと以外は上記と同様にして、試薬ブランクの値を測定した。比較のため、r3試薬に代えて、上記(1)で得た検出用標識抗体を含む溶液(20μL)を用いたこと以外は上記と同様にして、前処理なしの抗体試薬を用いたときの発光強度を測定した。
【0094】
(5-3) 結果
測定されたシグナル値から試薬ブランクの値(360カウント)を差し引いて、正味のシグナル値を得た。実施例1で用いた試料は、被検物質であるHBs抗原を含まないので、得られた値は、第1固相に非特異的に結合した検出用標識抗体に由来する発光強度を示す。正味のシグナル値を変換係数(20カウント/zmol)で除して、第1固相に非特異的に結合した検出用標識抗体のALPのモル数を算出した。ここで、r3試薬及び前処理なしの抗体試薬におけるALP濃度はいずれも10 pmol/mLである。よって、1アッセイ分(20μL)の抗体試薬中のALPのモル数は200 fmolである。ALPのモル数は、検出用標識抗体の分子数を反映する値である。これらの値を用いて、検出用抗体を含む試薬に含まれる検出用標識抗体の分子数に占める、第1固相に非特異的に反応する検出用標識抗体の分子数の割合を、ALPのモル比として算出した。各値を表1に示す。表1中、「Ave.」は、2つの値の平均値を示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示されるように、前処理した抗体試薬を用いたときのシグナル値の方が、前処理なしの抗体試薬を用いたときのシグナル値よりも低かった。また、検出用抗体試薬に含まれる検出用標識抗体の分子数に占める、第1固相に非特異的に反応する検出用標識抗体の分子数の割合も、前処理した抗体試薬の方が前処理なしの抗体試薬よりも低かった。よって、検出用抗体試薬を固相と接触させて前処理することにより、検出用標識抗体の非特異的結合に由来する非特異的シグナルを低減できることが示された。
【0097】
実施例2: 検出用標識抗体を含む試薬を用いる免疫複合体転移法
実施例1で調製した検出用標識抗体を含む試薬(前処理した抗体試薬)を用いて、HBs抗原をICT-EIA法により測定した。比較のため、実施例1で調製した前処理なしの抗体試薬を用いて、同様にHBs抗原を測定した。
【0098】
(1) 試料、試薬及び測定装置
・試料:HISCL HBsAgキャリブレーター(HBs抗原濃度0IU/mL及び0.25 IU/mL)(シスメックス株式会社)
・試料前処理液:0.3 N NaOH、5 mM NaH
2PO
4、25 mM Na
2HPO
4、2.4 M尿素及び0.8% Brij(登録商標)35
・中和液:0.1 Mクエン酸、20 mMメルカプトエチルアミン、20 mM NaCl及び0.1% NaN
3
・r3試薬(検出用抗体):実施例1で得た検出用標識抗体を含む試薬
・r4試薬(捕捉用抗体):ビオチン及びDNPで修飾した抗HBs Ag抗体フラグメント(Fab’-BSA-Bio-DNP)を含む試薬(この試薬は、WO 2014/115878 A1に記載の手順で調製した。)
・r5試薬(第1固相):実施例1で得た抗DNP抗体固定磁性粒子を含む溶液
・r6試薬(遊離剤):5 mM N-(2, 4-ジニトロフェニル)-L-リジン(DNP-Lys)、0.1 M MES (pH6.5)、2%カゼインナトリウム及び0.1% NaN
3
・r7試薬(第2固相):ストレプトアビジンを固定した磁性粒子(MAG2201、JSR株式会社)を含む溶液
・洗浄液:HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)
・基質用バッファー:HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)
・発光基質:HISCL R5試薬(CDP-Star(登録商標))(シスメックス株式会社)
・測定装置:全自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス株式会社)
【0099】
(2) 測定の手順
以下の操作は、HISCL-800(シスメックス株式会社)により行った。試料(70μL)と試料前処理液(20μL)とを混合し、42℃で504秒間インキュベートした。ここに中和液(20μL)を加え、42℃で72秒間インキュベートした。得られた混合液にr4試薬(20μL)を加え、42℃で216秒間インキュベートした。得られた混合液にr3試薬(20μL)を加え、42℃で584秒間インキュベートして、HBs抗原と検出用標識抗体と捕捉用抗体とを含む免疫複合体を形成した。ここにr5試薬(20μL)を加え、42℃で720秒間インキュベートして、免疫複合体を第1固相上に捕捉した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した(B/F分離)。B/F分離をさらに3回行った。上清を除き、磁性粒子にr6試薬(41μL)を加え、42℃で144秒間インキュベートして、第1固相上に捕捉された免疫複合体を溶液中に遊離した。上清(30μL)を回収して別のキュベットに移した。ここにr7試薬(30μL)を加え、42℃で288秒間インキュベートして、免疫複合体を第2固相上に捕捉した(免疫複合体の転移)。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した(B/F分離)。B/F分離をさらに3回行った。上清を除き、磁性粒子にHISCL R4試薬(50μL)及びHISCL R5試薬(100μL)を加えた。得られた混合液を42℃で300秒間インキュベートして、発光強度を測定した。比較のため、r3試薬に代えて、実施例1で得た検出用標識抗体を含む溶液(20μL)を用いたこと以外は上記と同様にして、前処理なしの抗体試薬を用いたときの発光強度を測定した。また、r7試薬(30μL)、HISCL R4試薬(50μL)及びHISCL R5試薬(100μL)を混合し、発光強度を測定して試薬ブランクの値を得た。
【0100】
(3) 結果
測定されたシグナル値から試薬ブランクの値(434カウント)を差し引いて、正味のシグナル値を得た。ここで、HBs抗原濃度が0IU/mLの試料を測定して得られたシグナル値は、被検物質を含まない試料の測定値であり、検出用標識抗体の非特異的反応によるノイズに当たる。得られたシグナル値から、下記の式によりS/N比を算出した。正味のシグナル値(counts)及びS/N比を、表2に示す。
【0101】
(S/N比) = [(HBs抗原濃度0.25 IU/mLの試料のシグナル値)−(HBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値)]/(HBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値)
【0102】
【表2】
【0103】
表2に示されるように、HBs抗原濃度0IU/mLの試料については、前処理した抗体試薬を用いたときのシグナル値は、前処理なしの抗体試薬を用いたときのシグナル値の1/4程度まで低下した。よって、検出用抗体試薬を固相と接触させて前処理することにより、免疫複合体転移法において、検出用標識抗体の非特異的結合に由来する非特異的シグナルを低減できることが示された。一方、HBs抗原濃度0.25 IU/mLの試料については、シグナル値に大きな変化は認められなかった。これは、検出用抗体試薬の前処理は、被検物質の検出性能には影響しないことを示唆する。結果として、検出用抗体試薬の前処理により、シグナルには影響せずにノイズが大幅に低減されるので、S/N比が顕著に向上する。表2に示されるように、前処理した抗体試薬を用いたときのS/N比は、前処理なしの抗体試薬を用いたときのS/N比の約4倍高くなっていた。
【0104】
実施例3: 非特異的シグナルの低減効果の評価(1)
本実施形態の被検物質の検出方法による非特異的シグナルの低減効果を、シグナル値に基づいて評価した。具体的には、実施例1及び2で得たシグナル値を用いて第1の比を算出し、算出した値に基づいて非特異的シグナルの低減効果を評価した。第1の比とは、1回の検出に用いられる量(1アッセイ分)の検出用抗体試薬に含まれる検出用標識抗体に基づくシグナル値に対する、被検物質を含まない試料を測定したときのシグナル値の比である。以下、第1の比を「非特異レシオ(X)」とも呼ぶ。実施例3において、非特異レシオ(X)は、下記の式により算出した
【0105】
(非特異レシオ(X)) = [(HBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値)−(試薬ブランクの値)]/(20μLのr3試薬に含まれるALP標識抗体に基づくシグナル値)
【0106】
実施例1より、20μLのr3試薬(1アッセイ分の検出用抗体試薬)に含まれる全ての検出用標識抗体に由来するシグナル値は、3,997,991,000カウントであった。また、実施例2より、試薬ブランクの値を差し引いたHBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値は、128カウントであった。よって、前処理した抗体試薬を用いるICT-EIA法の非特異レシオ(X)は、3.2×10
-8であった(128/3997991000 = 約3.2×10
-8)。同様にして、前処理なしの抗体試薬を用いるICT-EIA法の非特異レシオ(X)を算出すると、12.1×10
-8であった(484/3997991000 = 約12.1×10
-8)。前処理した抗体試薬を用いたときの非特異レシオ(X)は、前処理なしの抗体試薬を用いたときの非特異レシオ(X)の1/4程度まで低下した。
【0107】
非特異レシオ(X)を比較することにより、前処理した抗体試薬を用いたときの非特異的シグナル低減効果は、前処理なしの抗体試薬を用いたときよりも約4倍高くなることがわかる。上述のように、非特異レシオ(X)はシグナル値に基づいているので、非特異的シグナルの低減効果を異なるアッセイ間で比較することが可能になる。
【0108】
参考例: 免疫複合体の転移工程を含まない測定法における検出用抗体試薬の前処理の効果
免疫複合体の転移工程を含まない測定法(サンドイッチ免疫測定法)に、前処理した抗体試薬を用いた場合に、ICT-EIA法と同様に、非特異的シグナルの低減効果が認められるかを検討した。
【0109】
(1) 試料、試薬及び測定装置
・試料:HISCL HBsAgキャリブレーター(HBs抗原濃度0IU/mL及び0.25 IU/mL)(シスメックス株式会社)
・試料前処理液:0.3 N NaOH、5 mM NaH
2PO
4、25 mM Na
2HPO
4、2.4 M尿素及び0.8% Brij(登録商標)35
・中和液:0.1 Mクエン酸、20 mMメルカプトエチルアミン、20 mM NaCl、及び0.1% NaN
3
・r3試薬(検出用抗体):実施例1で得た検出用標識抗体を含む試薬
・r4試薬(捕捉用抗体):実施例2と同じ試薬(Fab’-BSA-Bio-DNPを含む試薬)
・r5試薬(第1固相):実施例1で得た抗DNP抗体固定磁性粒子を含む溶液
・洗浄液:HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)
・基質用バッファー:HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)
・発光基質:HISCL R5試薬(CDP-Star(登録商標))(シスメックス株式会社)
・測定装置:全自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス株式会社)
【0110】
(2) 測定の手順
以下の操作は、HISCL-800(シスメックス株式会社)により行った。試料(70μL)と試料前処理液(20μL)とを混合し、42℃で504秒間インキュベートした。ここに中和液(20μL)を加え、42℃で72秒間インキュベートした。得られた混合液にr4試薬(20μL)を加え、42℃で216秒間インキュベートした。得られた混合液にr3試薬(20μL)を加え、42℃で584秒間インキュベートして、HBs抗原と検出用標識抗体と捕捉用抗体とを含む免疫複合体を形成した。ここにr5試薬(20μL)を加え、42℃で720秒間インキュベートして、免疫複合体を第1固相上に捕捉した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した(B/F分離)。B/F分離をさらに3回行った。上清を除き、磁性粒子にHISCL R4試薬(50μL)及びHISCL R5試薬(100μL)を加えた。得られた混合液を42℃で300秒間インキュベートして、発光強度を測定した。比較のため、r3試薬に代えて、実施例1で得た検出用標識抗体を含む溶液(20μL)を用いたこと以外は上記と同様にして、前処理なしの抗体試薬を用いたときの発光強度を測定した。また、r5試薬(20μL)、HISCL R4試薬(50μL)及びHISCL R5試薬(100μL)を混合し、発光強度を測定して試薬ブランクの値を得た。
【0111】
(3) 結果
測定されたシグナル値から試薬ブランクの値を差し引いて、正味のシグナル値を得た。得られたシグナル値から、実施例2と同様にしてS/N比を算出した。正味のシグナル値(counts)及びS/N比を、表3に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
表3に示されるように、HBs抗原濃度0IU/mLの試料については、前処理した抗体試薬を用いたときのシグナル値は、前処理なしの抗体試薬を用いたときのシグナル値よりも低下した。しかし、S/N比はあまり向上しなかった。よって、前処理した抗体試薬をサンドイッチ免疫測定法に用いても、S/N比を顕著に向上させるほどの非特異的シグナルの低減効果は認められないことがわかった。すなわち、検出用抗体試薬の前処理の効果は、免疫複合体転移法において、より顕著に発揮されることが示された。
【0114】
実施例4: 非特異的シグナルの低減効果の評価(2)
本実施形態の被検物質の検出方法による非特異的シグナルの低減効果を、免疫複合体の転移工程を含まない測定法で得た非特異的シグナルの値との比較に基づいて評価した。具体的には、実施例2及び参考例で得たシグナル値を用いて第2の比を算出し、算出した値に基づいて非特異的シグナルの低減効果を評価した。第2の比とは、免疫複合体の転移工程を含まない測定法で得られた非特異的シグナルの値に対する、被検物質を含まない試料を測定したときのシグナル値の比である。以下、第2の比を「非特異レシオ(Y)」とも呼ぶ。実施例4において、非特異レシオ(Y)は、下記の式により算出した
【0115】
(非特異レシオ(Y)) = [(HBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値)−(試薬ブランクの値)]/(サンドイッチ免疫測定法によるHBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値)
【0116】
参考例より、サンドイッチ免疫測定法によるHBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値は、3269及び3996カウントであった。実施例4では、これらシグナル値の平均値(3633カウント)を用いた。また、実施例2より、試薬ブランクの値を差し引いたHBs抗原濃度0IU/mLの試料のシグナル値は、128カウントであった。よって、前処理した抗体試薬を用いるICT-EIA法の非特異レシオ(Y)は、3.5×10
-2であった(128/3633 = 約3.5×10
-2)。同様にして、前処理なしの抗体試薬を用いるICT-EIA法の非特異レシオ(Y)を算出すると、13.4×10
-2であった(484/3633 = 約13.4×10
-2)。
【0117】
非特異レシオ(Y)は、免疫複合体の転移工程を含まない測定法と比較して、免疫複合体転移法が非特異的シグナルをどの程度低減できるかを示す指標である。非特異レシオ(Y)の値が小さいほど、非特異的シグナルの低減効果が、免疫複合体の転移工程を含まない測定法に比べて、高いことを意味する。前処理なしの抗体試薬を用いるICT-EIA法の非特異レシオ(Y)は13.4×10
-2であったので、この方法は、従来知られているように、サンドイッチ免疫測定法よりも非特異的シグナルの低減効果が高いといえる。一方、前処理した抗体試薬を用いるICT-EIA法の非特異レシオ(Y)は3.5×10
-2であった。よって、本実施形態に係る検出方法は、前処理なしの抗体試薬を用いるICT-EIA法よりもさらに非特異的シグナルの低減効果が高いことがわかる。