(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブレーキロータと、このブレーキロータに接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記ブレーキロータに接触させる摩擦部材操作手段と、この摩擦部材操作手段を駆動する電動モータと、前記摩擦部材と前記ブレーキロータの接触面に発生する押圧力、前記電動モータのモータ回転角およびモータ電流の少なくともいずれかの状態量を検出する複数種のセンサと、与えられた押圧力の指令および前記センサからの出力に基づいて前記電動モータを制御することにより前記押圧力を制御する制御装置と、この制御装置に前記押圧力の指令を与えるブレーキ操作手段とを備える電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記複数種のセンサのうちの定められたセンサが正常か異常かを判断するセンサ異常検出手段と、
このセンサ異常検出手段で前記定められたセンサが異常と判断されたとき、前記複数種のセンサのうち前記定められたセンサ以外のセンサである他のセンサからの出力を用いて、前記定められたセンサのセンサ出力を推定し、推定した推定センサ出力に基づいて、前記電動モータを制御するセンサ代替制御手段と、
前記電動ブレーキ装置が搭載される車両が停止しているか否かを判定する停車判定手段と、を備え、
前記センサ代替制御手段は、
前記センサ異常検出手段で前記定められたセンサが正常と判断され、且つ、前記停車判定手段により前記車両が停止していると判定されたとき、前記ブレーキ操作手段の操作状況によらず、前記他のセンサからの出力を用い、前記定められたセンサのセンサ出力を推定し前記電動モータを制御するセンサ代替制御の確認動作を実行し、
このセンサ代替制御の実行結果により推定された前記定められたセンサの推定センサ出力と、前記定められたセンサからの実際のセンサ出力との比較を行いセンサ代替制御の精度を確認する電動ブレーキ装置。
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記センサ代替制御手段は、前記推定センサ出力と前記実際のセンサ出力の誤差が定められた値より大きいとき、前記誤差が縮小するように前記推定センサ出力と前記押圧力、前記モータ回転角、および前記モータ電流のいずれかの状態量との関係を是正するセンサ代替制御調整機能部を有する電動ブレーキ装置。
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記停車判定手段が、少なくとも一つ以上の車輪速、前記車両の前後加速度のうち少なくともいずれかを用いて、前記車輪速が定められた時間以上零速度の検出を継続した条件、前記前後加速度が定められた時間以上零加速度の検出を継続した条件、のうちいずれか一つの条件を充足したとき、または両方の条件を充足したとき、前記車両が停止していると判定する電動ブレーキ装置。
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記センサ代替制御手段は、前記センサ代替制御の確認動作を実行するとき、前記車両が停止していて前記センサ代替制御の確認動作を実行しない場合よりも、前記押圧力が上回るように前記電動モータを制御する電動ブレーキ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1〜3のような、電動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置において、機能の異常により電動ブレーキ装置を搭載した車両は、所望の制動力を得られない場合がある。このため、極めて高い冗長性が求められる場合が多い。
モータ等に用いられるセンサの異常に対して、複数のセンサを用いて冗長性を持たせる場合、センサのコストおよび搭載スペースが問題となり得る。例えば、所定のセンサに異常が発生しても他のセンサで動作を継続させる場合、少なくとも3系統以上の多重化が必要になり、前記の問題が発生し得る。
【0005】
上記の対策として、異常と判定されたセンサで検出し得る値を、他のセンサおよび入出力履歴等の情報より推定するセンサ代替駆動(センサレス駆動)が適用される場合がある。その場合、一般にアクチュエータの物理特性を予め把握しておく必要が生じ、例えば、経年劣化等によりパラメータが変化する場合は、このパラメータ変動による推定精度の低下が問題となり得る。
【0006】
例えば、特許文献3のような、歪みゲージ等の押圧力センサで摩擦部材の押圧力を検出する電動ブレーキ装置において、前記押圧力センサに異常が発生した場合、予め電動ブレーキ装置の剛性等の相関関係を把握しておき、所定の押圧力を発生せしめるモータ角度およびアクチュエータストローク量に基づいて、アクチュエータを制御する場合がある。この場合、例えば、摩擦部材の摩耗等により剛性が大きく変化し、前記相関が変動することによる制御精度の低下が問題となり得る。
【0007】
あるいは、所定の押圧力を保持するために必要なモータトルクを発揮するよう制御する場合がある。この場合、実際に発生する押圧力は、慣性モーメント、摺動抵抗、およびアクチュエータ効率のヒステリシス特性により変化する。このため、例えば、経年劣化等に起因する摺動抵抗の増加およびアクチュエータ効率の低下による制御精度の低下が問題となり得る。
【0008】
この発明の目的は、定められたセンサに異常が発生したとき、冗長性を高めることができるうえ、制御精度の向上を図ることができる電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の電動ブレーキ装置DBは、ブレーキロータ8と、このブレーキロータ8に接触させる摩擦部材9と、この摩擦部材9を前記ブレーキロータ8に接触させる摩擦部材操作手段6と、この摩擦部材操作手段6を駆動する電動モータ4と、前記摩擦部材9と前記ブレーキロータ8の接触面に発生する押圧力、前記電動モータ4のモータ回転角およびモータ電流の少なくともいずれかの状態量を検出する複数種のセンサSb,Sa,23と、与えられた押圧力の指令および前記センサSb(Sa,23)からの出力に基づいて前記電動モータ4を制御することにより前記押圧力を制御する制御装置2と、この制御装置2に前記押圧力の指令を与えるブレーキ操作手段24とを備える電動ブレーキ装置において、
前記制御装置2は、
前記複数種のセンサSb,Sa,23のうちの定められたセンサSb(Sa,23)が正常か異常かを判断するセンサ異常検出手段20と、
このセンサ異常検出手段20で前記定められたセンサSb(Sa,23)が異常と判断されたとき、前記複数種のセンサSb,Sa,23のうち前記定められたセンサSb(Sa,23)以外のセンサである他のセンサSa(Sb,23)からの出力を用いて、前記定められたセンサSb(Sa,23)のセンサ出力を推定し、推定した推定センサ出力に基づいて、前記電動モータ4を制御するセンサ代替制御手段21と、
前記電動ブレーキ装置が搭載される車両が停止しているか否かを判定する停車判定手段28と、を備え、
前記センサ代替制御手段21は、
前記センサ異常検出手段20で前記定められたセンサSb(Sa,23)が正常と判断され、且つ、前記停車判定手段28により前記車両が停止していると判定されたとき、前記ブレーキ操作手段24の操作状況によらず、前記他のセンサSa(Sb,23)からの出力を用い、前記定められたセンサSb(Sa,23)のセンサ出力を推定し前記電動モータ4を制御するセンサ代替制御の確認動作を実行し、このセンサ代替制御の実行結果により推定された前記定められたセンサSb(Sa,23)の推定センサ出力と、前記定められたセンサSb(Sa,23)からの実際のセンサ出力との比較を行いセンサ代替制御の精度を確認する。
前記定められたセンサは、複数種のセンサのうち設計等によって任意に定めるセンサであって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により適切なセンサを求めて定められる。
【0010】
この構成によると、ブレーキ操作手段24から押圧力の指令が制御装置2に与えられると、制御装置2は、この押圧力の指令に基づいて電動モータ4を制御する。これにより、摩擦部材9とブレーキロータ8の接触面に押圧力を発生する。複数種のセンサSb,Sa,23は、前記押圧力、モータ回転角およびモータ電流の少なくともいずれかの状態量を検出する。制御装置2は、指令値に対する状態量を用いてフィードバック制御する。
【0011】
センサ異常検出手段20は、センサSb(Sa,23)が正常か異常かを判断する。センサ異常検出手段20は、例えば、定められたセンサSb(Sa,23)のレンジ判定または他のセンシング情報との比較等によりセンサSb(Sa,23)が正常か異常かを判断し得る。
センサ代替制御手段21は、定められたセンサSb(Sa,23)が異常と判断されたとき、異常と判断されていないセンサSa(Sb,23)からの出力を用いて、前記定められたセンサSb(Sa,23)の推定センサ出力に基づいて、電動モータ4を制御するセンサ代替制御を行う。
【0012】
停車判定手段28は、車両が停止しているか否かを判定する。車両が停止していれば、停車に最低限必要な押圧力を維持していることで、車両が停車状態に留まる。このため、センサ代替制御手段21が電動モータ4をセンサ代替制御する確認動作を実行するため、押圧力を変動させてもフィーリングおよび安全性を損なうことはない。
センサ代替制御手段21は、定められたセンサSb(Sa,23)が正常と判断され、且つ、停車と判定されたとき、ブレーキ操作手段24の操作状況によらず電動モータ4をセンサ代替制御する確認動作を実行する。さらにセンサ代替制御手段21は、センサ代替制御の実行結果により推定された推定センサ出力と、定められたセンサSb(Sa,23)からの実際のセンサ出力との比較を行いセンサ代替制御の精度を確認する。このようにセンサ代替制御の精度を確認することで、定められたセンサSb(Sa,23)に異常が発生したときの制御精度の向上を図ることができる。また冗長性を高めることができる。
【0013】
前記センサ代替制御手段21は、前記推定センサ出力と前記実際のセンサ出力の誤差が定められた値より大きいとき、前記誤差が縮小するように前記
推定センサ出力と
前記押圧力、前記モータ回転角、および前記モータ電流のいずれかの状態量との関係を是正するセンサ代替制御調整機能部29を有するものとしても良い。
前記定められた値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により適切な値を求めて定められる。
この構成によれば、センサ代替制御調整機能部29は、定められたセンサSb(Sa,23)が正常で且つ停車中に、前記誤差が縮小するように前記センサ出力と状態量との関係を是正することで、センサ代替制御の制御精度の向上を確実に図れる。
【0014】
前記複数種のセンサは、前記押圧
力を検出する押圧力センサSbを含み、
前記センサ代替制御手段21は、
前記電動ブレーキ装置の剛性に依存する前記押圧力センサSbの押圧センサ出力と前記電動モータ4のモータ回転角との相関関係に基づいて、
定められた押圧センサ出力となるモータ回転角に前記電動モータ4を制御するものであっても良い。
前記定められた押圧センサ出力は、設計等によって任意に定めるセンサ出力であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方により適切なセンサ出力を求めて定められる。
この構成によると、電動ブレーキ装置の剛性を変更して、モータ回転角と押圧センサ出力との関係の相関パラメータを調整することができる。
【0015】
前記複数種のセンサは、前記押圧
力を検出する押圧力センサSbを含み、
前記センサ代替制御手段は、電動ブレーキ装置の剛性に基づく、前記推定センサ出力を推定するための前記電動モータのモータ回転角と、前記押圧力センサの押圧センサ出力との関係が定められていて、前記センサ代替制御調整機能部29は、前記センサ代替制御の精度を確認するとき、前記推定センサ出力が前記実際のセンサ出力を上回るとき
前記推定センサ出力を推定するための前記剛性を低く是正し、下回るとき
前記推定センサ出力を推定するための前記剛性を高く是正するものであっても良い。このようにモータ回転角と押圧センサ出力との関係を是正することで、制御精度の向上をより図ることができる。
【0016】
前記停車判定手段28が、少なくとも一つ以上の車輪速、前記車両の前後加速度のうち少なくともいずれかを用いて、前記車輪速が定められた時間以上零速度の検出を継続した条件、前記前後加速度が定められた時間以上零加速度の検出を継続した条件、のうちいずれか一つの条件を充足したとき、または両方の条件を充足したとき、前記車両が停止していると判定するものであっても良い。前記条件を充足したとき、前記車両が停止しているとみなし、センサ代替制御を精度良く行うことができる。
【0017】
前記センサ代替制御手段21は、前記センサ代替制御の確認動作を実行するとき、前記車両が停止していて前記センサ代替制御の確認動作を実行しない場合よりも、前記押圧力が上回るように前記電動モータ4を制御するものであっても良い。この場合、車両が停止中にセンサ代替制御を行っているとき、車両が不所望に動き出すことを未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、このブレーキロータに接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記ブレーキロータに接触させる摩擦部材操作手段と、この摩擦部材操作手段を駆動する電動モータと、前記摩擦部材と前記ブレーキロータの接触面に発生する押圧力、前記電動モータのモータ回転角およびモータ電流の少なくともいずれかの状態量を検出する複数種のセンサと、与えられた押圧力の指令および前記センサからの出力に基づいて前記電動モータを制御することにより前記押圧力を制御する制御装置と、この制御装置に前記押圧力の指令を与えるブレーキ操作手段とを備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記複数種のセンサのうちの定められたセンサが正常か異常かを判断するセンサ異常検出手段と、このセンサ異常検出手段で前記定められたセンサが異常と判断されたとき、前記複数のセンサのうち前記定められたセンサ以外のセンサである他のセンサからの出力を用いて、前記定められたセンサのセンサ出力を推定し、推定した推定センサ出力に基づいて、前記電動モータを制御するセンサ代替制御手段と、前記電動ブレーキ装置が搭載される車両が停止しているか否かを判定する停車判定手段と、を備え、前記センサ代替制御手段は、前記センサ異常検出手段で前記定められたセンサが正常と判断され、且つ、前記停車判定手段により前記車両が停止していると判定されたとき、前記ブレーキ操作手段の操作状況によらず、前記他のセンサからの出力を用い、前記定められたセンサのセンサ出力を推定し前記電動モータを制御するセンサ代替制御の確認動作を実行し、このセンサ代替制御の実行結果により推定された前記定められたセンサの推定センサ出力と、前記定められたセンサからの実際のセンサ出力との比較を行いセンサ代替制御の精度を確認する。このため、定められたセンサに異常が発生したとき、冗長性を高めることができるうえ、制御精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を
図1ないし
図5と共に説明する。
図1に示すように、電動ブレーキ装置DBは、電動ブレーキアクチュエータ1と、制御装置2と、周辺装置3(
図2)を有する。この電動ブレーキ装置DBは車両に搭載される。先ず、電動ブレーキアクチュエータ1について説明する。
【0021】
電動ブレーキアクチュエータ1は、電動モータ4と、この電動モータ4の回転を減速する減速機構5と、摩擦部材操作手段である直動機構6と、駐車ブレーキであるパーキングブレーキ機構7と、ブレーキロータ8と、摩擦部材9と、角度センサSa(
図2)と、押圧力センサSb(
図2)とを有する。電動モータ4、減速機構5、および直動機構6は、例えば、図示外のハウジング等に組込まれる。なおブレーキロータ8は、ディスク型であっても、ドラム型であっても良い。摩擦部材9は、ブレーキパッドまたはブレーキシュー等からなる。直動機構6は、ボールねじ機構や遊星ローラねじ機構などの送りねじ機構からなる。
【0022】
電動モータ4は、永久磁石同期電動機により構成すると省スペースで高トルクとなり好適であるが、例えばブラシを用いたDCモータ、または永久磁石を用いないリラクタンスモータ、または誘導モータ等を適用することもできる。
減速機構5は、電動モータ4の回転を、回転軸10に固定された三次歯車11に減速して伝える機構であり、一次歯車12、中間歯車13、および三次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた一次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された三次歯車11に伝達可能としている。
【0023】
直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を、例えば遊星ローラねじ、ボールねじ等の各種ねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦部材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ軸方向A1に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦部材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦部材9の押圧力に変換されることによりブレーキ力を発生させる。なお、アウトボード側とは電動ブレーキ装置DBを車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0024】
パーキングブレーキ機構7は、ロック部材15とアクチュエータ16とを有する。中間歯車13のアウトボード側端面には、複数の係止孔(図示せず)が円周方向一定間隔おきに形成される。これら係止孔のいずれか一つにロック部材15が係止可能に構成される。アクチュエータ16として例えばソレノイドが適用される。アクチュエータ16によりロック部材(ソレノイドピン)15を進出させて中間歯車13に形成された前記係止孔に嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15をアクチュエータ16に退避させて前記係止孔から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0025】
制御装置2等について説明する。
図2は、この電動ブレーキ装置の一構成例を示すブロック図である。なお本構成例は、本提案に必要となる構成を示したものであり、例えば、電源装置およびサーミスタ等のその他のセンサ等、実際のシステム構成に必要となる構成は本図によらず適宜設けられるものとする。この構成例は、押圧力フィードバック制御を用いた例を示す。制御装置2の上段に周辺装置3が接続され、制御装置2の下段に電動ブレーキアクチュエータ1が接続されている。制御装置2は、押圧力変換器17、ブレーキ押圧力制御器18、モータ電流制御器19、センサ異常検出手段20、センサ代替制御手段21、モータドライバ22、および電流センサ23を有する。
【0026】
周辺装置3は、ブレーキ操作手段24、車輪速センサ25および加速度センサ26を含む。ブレーキ操作手段24の操作量に相当する押圧力の指令は、図示外のブレーキセンサによる検出信号として出力され、制御装置2に入力される。ブレーキ操作手段24は、例えば、ブレーキペダル等を用いることができるが、その他ジョイスティックのような操作手段であっても良く、車両のVCUのような上位ECUであっても良い。
【0027】
押圧力変換器17は、前記検出信号を押圧力指令値に変換する。この押圧力変換器17による変換は、所定のルックアップテーブル(略称:LUT)等より参照するもの、または数式等により適宜演算されるものであっても良い。
【0028】
ブレーキ押圧力制御器18は、押圧力指令値に対してフィードバック押圧力を追従させるようサーボ制御を行う。このブレーキ押圧力制御器18の設計には、PID(Proportional-Integral-Differential Controller)または状態フィードバック、その他非線形制御、適応制御等を適宜用いることができる。また、本
図2においては、操作量としてモータ電流指令値をブレーキ押圧力制御器18から出力する例を示している。このブレーキ押圧力制御器18では、前記モータ電流指令値を生成するうえで、トルクまたは回転数に応じた電流マップ、電流導出式等を用いると、高性能なモータ制御が実行できて好適である。
【0029】
モータ電流制御器19は、ブレーキ押圧力制御器18から与えられるモータ電流指令値に対してフィードバック電流を追従させるようサーボ制御を行う。このモータ電流制御器19では、電動モータ4に流すモータ電流を電流センサ23から得て、電流フィードバック制御を行う。電流センサ23は、モータドライバ22と電動モータ4との間の送電線の磁界を検出する非接触式を用いても良く、前記送電線にシャント抵抗等を設けて両端の電圧により検出する方法を用いても良い。またモータドライバ回路の所定箇所の電圧等により検出する手法としても良い。
【0030】
モータ電流制御器19の設計には、PIDまたは状態フィードバック、その他非線形制御、適応制御等を適宜用いることができ、非干渉制御に代表されるフィードフォワード制御を併用しても良い。このモータ電流制御器19は、前述のブレーキ押圧力制御器18を含めた運動方程式として構成し、一つの制御演算ループとすることもできる。
【0031】
センサ異常検出手段20は、この例では、押圧力センサSbが正常か異常かを判断する。押圧力センサSbは、摩擦部材9(
図1)とブレーキロータ8(
図1)の接触面に発生する押圧力を検出する。押圧力センサSbとしては、例えば、磁気センサを適用し得る。この磁気センサは、摩擦部材9(
図1)がブレーキロータ8(
図1)を押圧するとき、直動機構6に作用するインボード側への反力を軸方向の変位量として磁気的に検出する。押圧力センサSbとして、磁気センサ以外の歪センサまたは圧力センサ等を用いることができる。
角度センサSaは、例えば、レゾルバまたは磁気エンコーダ等を用いると、高精度かつ高信頼性で好適であるが、光学式エンコーダ等の各種センサを適用することもできる。
【0032】
センサ異常検出手段20は、押圧力センサSbのレンジ判定または他のセンシング情報との比較等により、押圧力センサSbの異常を検出する。センサ異常検出手段20は、例えば、電動ブレーキ装置の剛性等に依存する所定の押圧力とモータ角度との相関関係、または直動機構6における等価リードおよび荷重変換効率等に依存する反力トルク、モータ電流、アクチュエータ慣性、等の運動方程式と押圧力とを比較する。センサ異常検出手段20は、押圧力センサ出力が前記比較結果より大きく乖離した際に、押圧力センサSbの異常と判断しても良い。もしくは、押圧力センサSbに異常診断機能を有するセンサを適用し、自己診断結果を異常判断結果としても良い。
【0033】
センサ異常検出手段20において前記レンジ判定を行う際、押圧力センサSbで出力されるべき押圧力の範囲(レンジ)より、定められた値よりも乖離した押圧力のとき、押圧力センサSbの異常と判断しても良い。前記定められた値は、例えば、実験またはシミュレーション等の結果により適宜に定められる。
【0034】
センサ代替制御手段21は、押圧力センサSbを用いずにブレーキ押圧力を制御する機能を有する。通常時には、同
図2に示すように、ブレーキ押圧力制御器18は、押圧力変換器17からの押圧力指令値に対して、押圧力センサSbからのフィードバック押圧力を追従させる。センサ異常検出手段20で押圧力センサSbが異常と検出された異常時には、
図3および
図4に示すように、センサ代替制御手段21は、異常と判断されていないセンサ(この例では角度センサSaまたは電流センサ23)からの出力を用いて、異常が無いとした場合の押圧力センサSbのセンサ出力を推定した推定センサ出力に基づいて、電動モータ4を制御する。
【0035】
ここで
図3は、センサ代替制御手段21のパラメータ調整を行うセンサ代替制御を実行する際のスイッチ接続パターンを示し、
図4は、押圧力センサSbの異常時にセンサ代替制御を実行する際のスイッチ接続パターンを示す。
図3および
図4に示すように、センサ代替制御手段21は、押圧力指令生成部27、停車判定手段28、パラメータ調整部29、制御切替部30、および押圧力推定部31を有する。
【0036】
押圧力指令生成部27は、後述するパラメータ調整を行うための押圧力指令を生成する機能を有する。前記パラメータ調整用の押圧力指令は、例えば、ヒステリシスループを生じない単調増圧信号等の、パラメータ調整に適した信号パターンとして予め適宜与えておくことができる。
【0037】
またパラメータ調整用の押圧力指令は、例えば、ブレーキ力(押圧力)が低下しても安全性を損なうことが無いよう、ブレーキ操作手段24の操作に基づく押圧力指令値より少なくとも大きな値になるように設定されていても良い。このとき、例えば電動ブレーキ装置を複数備えるシステムにおいて、ブレーキ操作手段24の操作に基づく押圧力指令値より少なくとも大きな値になるように設定されたパラメータ調整を行うための押圧力指令は、全ての電動ブレーキ装置におけるブレーキ力の総和において達成されるものであっても良い。この場合、複数の電動ブレーキ装置を統合制御する負荷が生じるが、パラメータ調整用の押圧力指令値として決定できる押圧力の自由度は増加するため、より正確なパラメータ調整を行う場合に好適となる。
【0038】
停車判定手段28は、この電動ブレーキ装置が搭載される車両が停止しているか否かを判定する。車両が停止していれば、停車に最低限必要な押圧力を維持していることで、車両が停車状態に留まる。このため、センサ代替制御手段21が電動モータ4をセンサ代替制御する確認動作を実行するため、押圧力を変動させてもフィーリングおよび安全性を損なうことはない。この場合、車両が極低速であれば安全性を損なうことは無いため、車両の極低速状態を停車とみなすことも考えられる。しかし、車両が極低速であっても車両の操縦者のフィーリングに影響する場合が考えられる。
【0039】
このため、例えば、車速が零の判断が所定時間経過する等、車両が確実に停車したことを判断することが望ましい。具体的には、停車判定手段28は、少なくとも一つ以上の車輪速、車両の前後加速度のうち少なくともいずれかを用いて、前記車輪速が定められた時間以上零速度の検出を継続した条件、前記前後加速度が定められた時間以上零加速度の検出を継続した条件、のうちいずれか一つの条件を充足したとき、または両方の条件を充足したとき、前記車両が停止していると判定する。前記車輪速は、車輪速センサ25から与えられる。車輪速センサ25は車輪毎に設けられる。この車輪速センサ25は、例えばABSセンサであっても良い。前記車両の前後加速度は、加速度センサ26から与えられる。この加速度センサ26は、例えばGセンサであっても良い。
【0040】
押圧力推定部31は、押圧力センサSbの押圧センサ出力以外の情報に基づき、押圧力を推定する機能を有する。押圧力推定部31は、例えば、電動ブレーキ装置の剛性等に依存する所定の押圧力とモータ角度との相関関係に基づいて、押圧力を推定しても良く、モータ電流またはアクチュエータ慣性、摺動抵抗等の運動方程式により反力トルクを導出することで、押圧力を推定しても良い。あるいはこれらの手法を適宜併用しても良い。
【0041】
センサ代替制御調整機能部としてのパラメータ調整部29は、押圧力推定部31による押圧力の推定結果と、正常な押圧センサ出力との比較により、押圧力推定に用いる相関パラメータを適宜調整する。具体的には、パラメータ調整部29は、押圧力の推定結果(推定センサ出力)と実際の押圧センサ出力の誤差が定められた値より大きいとき、前記誤差が縮小するように相関パラメータを是正する。
【0042】
例えば、電動ブレーキ装置の剛性等に依存する所定の押圧力とモータ角度との相関関係に基づく場合、前記剛性を変更して相関パラメータを調整することができる。また、モータ電流およびアクチュエータ慣性、摺動抵抗等の運動方程式により反力トルクを導出する場合、アクチュエータ慣性または摺動抵抗を変更して相関パラメータを調整することができる。これらの手法を適宜併用しても良い。
【0043】
制御切替部30は、押圧力フィードバック制御と、センサ代替制御との切替を実現するための信号フローの切替を行う。
図2に示すように、ブレーキ押圧力制御器18へのフィードバック信号を、押圧力センサSbの押圧センサ出力とすれば、押圧力フィードバック制御系となる。
図3、
図4に示すように、ブレーキ押圧力制御器18へのフィードバック信号を、押圧力推定部31の押圧力推定値とすれば、センサ代替制御系となる。例えば、パラメータ調整部29でパラメータ調整用の信号を取得する場合、またはセンサ異常検出手段20により押圧力センサSbに異常が検出された場合等、予め定められた状況に応じて制御系を適宜切り替えることができる。
【0044】
前記の機能は、例えば、マイクロコンピュータ、FPGA、DSP等の演算器により実装すると、安価で高機能となり好適である。また、
図2ないし
図4中のスイッチ部32,33は便宜上の記載であり、物理的なスイッチではなくデータフロー分岐として演算器に実装することができる。また、これら機能は、電動ブレーキ装置専用の演算器であっても良く、例えば、VCU等の他の演算器の機能の一部として実装されるものであっても良い。
【0045】
モータドライバ22は、例えば、FET等のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、所定のデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う構成とすると安価で高性能となり好適である。あるいはモータドライバ22は、変圧回路等を設け、PAM制御を行う構成とすることもできる。
【0046】
図5は、センサ代替制御手段の実行フローの一例を示すフローチャートである。
図2ないし
図4も適宜参照しつつ説明する。例えば、車両の電源を投入する条件で本処理が開始し、制御装置2は、ブレーキ操作手段24の操作量に応じた目標押圧力F
rを取得する(ステップS1)。次にセンサ異常検出手段20は、押圧力センサSbが正常か異常かを判断する(ステップS2)。押圧力センサSbが正常との判断で(ステップS2:yes)、押圧力センサSbからのセンサ出力(押圧力F
b)を取得する(ステップS3)。
【0047】
次に、停車判定手段28は、車両停止中か否か判定する(ステップS4)。車両停止中は、例えば、複数の車輪速センサ25のセンサ出力が全て零であり、加速度センサ26のセンサ出力が概ね零であり、前記状態が所定時間継続した状態において、車両が停止していると判断すると、確実に停車状態が判断できて好適である。但し、要求される推定精度に応じて前記条件の一部を省略する等、要件に応じて適宜設定することができる。
【0048】
車両停止中でないとの判定で(ステップS4:no)、ブレーキ押圧力制御器18へのフィードバック信号を、押圧力センサSbの押圧センサ出力として演算する(ステップS13)。その後本処理を終了する。車両停止中との判定で(ステップS4:yes)、押圧力指令生成部27からパラメータ調整用の目標押圧力F
r´を取得する(ステップS5)。次に、ブレーキ押圧力制御器18に入力する押圧力指令値をF
r´に設定する。換言すれば、F
rをF
r´に更新する(ステップS6)。
【0049】
次に、押圧力推定部31は、アクチュエータ剛性F=f(θ)よりF
r´となる目標角度θ
r´を設定する(ステップS7)。次に、センサ代替制御手段21は、電動モータ4について設定された目標角度θ
r´への制御演算を実行する(ステップS8)。換言すれば、ブレーキ操作手段24の操作状況によらず電動モータ4をセンサ代替制御する確認動作を実行する。次に、センサ代替制御手段21は、センサ代替制御の精度を確認するためのデータの取得が完了したか否かを判断する(ステップS9)。
【0050】
このステップS9において、センサ代替制御手段21は、例えば、センサ代替制御手段21の制御精度が十分に判断可能となる電動ブレーキ装置の動作パターンを予め設定しておき、前記動作パターンが完了した状況をもってデータの取得が完了したと判断しても良い。データの取得が完了していないとの判断で(ステップS9:no)、本処理を終了する。データの取得が完了したとの判断で(ステップS9:yes)、パラメータ調整部29は、F
r´とF
bを比較する(ステップS10)。
【0051】
次に、パラメータ調整部29は、F
r´とF
bの誤差が定められた値より大きいか否かを判断する(ステップS11)。前記誤差が定められた値以下との判断で(ステップS11:no)、本処理を終了する。誤差が定められた値より大きいとの判断で(ステップS11:yes)、パラメータ調整部29は、誤差が縮小するようにアクチュエータ剛性の関数f(θ)を修正する(ステップS12)。このステップS12におけるパラメータ修正は、例えば、所定条件におけるθとFの関係から関数f(θ)の係数を直接逆算しても良く、取得データ群に対して応答曲面法等のパラメータ最適化手法を適用して求めても良い。前者は演算負荷を軽減する場合に好適であり、後者はパラメータ調整の精度を向上する場合に好適となる。その後本処理を終了する。
【0052】
ステップS2において、押圧力センサSbが異常であるとの判断で(ステップS2:no)、センサ代替制御手段21は、アクチュエータ剛性F=f(θ)よりF
r´となる目標角度θ
rを設定する(ステップS14)。その後、センサ代替制御手段21は、電動モータ4について設定された目標角度θ
rへの制御演算を実行する(ステップS15)。その後本処理を終了する。
【0053】
作用効果について説明する。
センサ代替制御手段21は、押圧力センサSbが正常と判断され、且つ、停車と判定されたとき、ブレーキ操作手段24の操作状況によらず電動モータ4をセンサ代替制御する確認動作を実行する。さらにセンサ代替制御手段21は、センサ代替制御の実行結果により推定された推定センサ出力と、押圧力センサSbからの実際のセンサ出力との比較を行いセンサ代替制御の精度を確認する。パラメータ調整部29は、前記推定センサ出力と実際のセンサ出力の誤差が定められた値より大きいとき、前記誤差が縮小するように前記センサ出力と状態量との関係を是正する。したがって、車両の挙動に影響を与えない停車中に電動ブレーキアクチュエータ1を動作させることで、安全性およびフィーリングを損なうことなく、電動ブレーキ装置のセンサ代替制御系のパッド摩耗およびアクチュエータ劣化等に対する精度保証が可能となる。
【0054】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0055】
図2のブレーキ押圧力制御器18に代えて、
図6に示すように、押圧力・角度変換器34、目標モータ角度補正器35、およびモータ角度制御器36を含む押圧力フィードバック系を構成しても良い。この例では、押圧力・角度変換器34により予め押圧力を角度に変換する角度制御系を構成し、目標モータ角度補正器35により押圧力の指令に対する誤差を指令角度の補正値に変換し、モータ角度制御器36等により押圧力フィードバック系を構成する。この例は、前述の実施形態(
図2参照)と比較して、パラメータ調整部29は、目標押圧力を目標角度に変換する相関を調整し、センサ代替制御を実行する際には押圧力誤差から指令角度を補正する信号を遮断する構成となる。
【0056】
図7は、角度センサSaの異常に対し、角度センサSaを用いないセンサ代替制御手段21を冗長系として構成する例を示す。この例では、
図2の押圧力指令生成部27、押圧力推定部31にそれぞれ代えて、パラメータ調整を行うための角度指令を生成する角度指令生成部37、角度センサSaのセンサ出力以外の情報に基づきモータ角度を推定する角度推定部38等を含むセンサ代替制御手段21を構成する。また、この例のセンサ異常検出手段20は、角度センサSaの異常を検出する。角度推定部38は、鎖交磁束、飽和突極、またはインダクタンス突極等を推定する推定器を適用し得る。パラメータ調整部29は、前記推定器に用いるモータパラメータおよびオブザーバゲインを調整しても良い。
【0057】
図8は、電流センサ23の異常に対し、電流センサ23を用いないセンサ代替制御手段21を冗長系として構成する例を示す。この例では、
図2の押圧力指令生成部27、押圧力推定部31にそれぞれ代えて、パラメータ調整を行うための電流指令を生成する電流指令生成部39、電流センサ23のセンサ出力以外の情報に基づきモータ電流を推定する電流推定部40等を含むセンサ代替制御手段21を構成する。また、この例のセンサ異常検出手段20は、電流センサ23の異常を検出する。なお
図2、
図6ないし
図8の例を適宜併用しても良い。
【0058】
センサ代替制御手段21は、センサ代替制御する確認動作を実行するとき、車両が停止していてセンサ代替制御する確認動作を実行しない場合よりも、押圧力が上回るように電動モータを制御するものであっても良い。この場合、車両が停止中にセンサ代替制御を行っているとき、車両が不所望に動き出すことを未然に防止することができる。
【0059】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。