(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765312
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】作業車遠隔制御システム
(51)【国際特許分類】
H04Q 9/00 20060101AFI20200928BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20200928BHJP
G05D 1/00 20060101ALI20200928BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20200928BHJP
【FI】
H04Q9/00 301B
A01B69/00 303Z
G05D1/00 B
G05D1/02 N
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-8341(P2017-8341)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-117313(P2018-117313A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】森下 孝文
(72)【発明者】
【氏名】新海 敦
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和央
【審査官】
木村 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−188351(JP,A)
【文献】
特開2015−222499(JP,A)
【文献】
特開2016−013065(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0112730(US,A1)
【文献】
特表2001−507843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04Q 9/00
A01B 69/00
G05D 1/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を通じてデータ交換可能な親作業車と子作業車とからなる作業車遠隔制御システムであって、
ユーザによって操作される親作業走行操作具群と、
前記親作業車の作業走行のための親作業走行機器群と、
自車操作モードと他車操作モードとを切り替えるモード切替部と、
前記自車操作モードにおいて、前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて前記親作業走行機器群に動作制御信号を与える親作業走行制御部と、
前記他車操作モードにおいて、前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて生成された親操作情報を前記子作業車に送る親操作情報生成部と、
前記子作業車の作業走行のための子作業走行機器群と、
前記親作業車から送られてきた前記親操作情報に基づいて前記子作業走行機器群に動作制御信号を与える子作業走行制御部と、が備えられている作業車遠隔制御システム。
【請求項2】
無線通信を通じてデータ交換可能な親作業車と子作業車とからなる作業車遠隔制御システムであって、
ユーザによって操作される親作業走行操作具群と、
前記親作業車の作業走行のための親作業走行機器群と、
前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて前記親作業走行機器群に動作制御信号を与える親作業走行制御部と、
前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて生成された親操作情報を前記子作業車に送る親操作情報生成部と、
前記子作業車の作業走行のための子作業走行機器群と、
前記親作業車から送られてきた前記親操作情報に基づいて前記子作業走行機器群に動作制御信号を与える子作業走行制御部と、
前記親作業車に備えられ、自車操作モードと他車操作モードとを切り替えるモード切替部と、が備えられ、
前記自車操作モードでは、前記子作業車に前記親操作情報を送ることが禁止され、前記他車操作モードでは、前記親作業走行機器群に前記動作制御信号を与えることが禁止される作業車遠隔制御システム。
【請求項3】
前記子作業車の作業走行環境を示す作業走行環境情報を取得する環境情報取得ユニットが備えられており、
前記親作業車には、前記子作業車から送られてきた前記作業走行環境情報をユーザに報知する報知ユニットが備えられている請求項1または2に記載の作業車遠隔制御システム。
【請求項4】
前記他車操作モードへの切り替え時に、前記親作業車のエンジンが停止される請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車遠隔制御システム。
【請求項5】
前記他車操作モードへの切り替え時に、前記子作業車のエンジンが始動される請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車遠隔制御システム。
【請求項6】
前記自車操作モードへの切り替え時に、前記子作業車が停止される請求項1から5のいずれか一項に記載の作業車遠隔制御システム。
【請求項7】
前記親作業走行機器群と前記子作業走行機器群との動作制御仕様の相違を整合する仕様整合部が備えられ、前記親作業走行機器群と前記子作業走行機器群との動作制御仕様が相違する場合、整合された前記動作制御信号が前記子作業走行機器群に与えられる請求項1から6のいずれか一項に記載の作業車遠隔制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を通じてデータ交換可能な親作業車と子作業車とからなる作業車遠隔制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操作デバイスに対する操作に基づく操作信号を受けることによって動作機器を制御する制御モジュールを備えた作業車と、この作業車を無線で遠隔制御することができる携帯情報端末とからなる作業車操作システムが開示されている。この携帯情報端末に設けられた内蔵ディスプレイに、作業車両の操作デバイスの配置に対応する配置で擬似操作デバイスが表示される。この擬似操作デバイスに対する操作に基づいて遠隔操作信号が生成され、作業車に送られる。作業車の制御モジュールが遠隔操作信号に基づいて対応する制御信号を出力することで、作業車の動作機器が動作する。つまり、携帯情報端末のディスプレイに仮想現実的な運転空間が作り出され、ユーザは、その運転空間を利用して、作業車を遠隔制御することができる。
【0003】
特許文献2には、親作業車(有人車)とこの親作業車に倣う無人操縦式の子作業車(無人車)とによって対地作業を行う作業車協調システムが開示されている。このシステムでは、親作業車の位置である親位置を検出する親位置検出モジュールと、子作業車の位置である子位置を検出する子位置検出モジュールと、親作業車の走行軌跡から子作業車の目標走行位置を算定する子走行目標算定部と、親作業車によって実行された作業運転に関する親作業運転パラメータを親位置にリンクさせて生成する親パラメータ生成部と、親作業運転パラメータに基づいて子作業車の対応する目標走行位置にリンクさせた子作業車のための子作業運転パラメータを生成する子パラメータ生成部とが備えられている。これにより、親作業車で実行された作業運転に関する親作業運転パラメータが親作業車の位置とリンクされた形で生成され、この親作業運転パラメータに基づいて、親作業車の位置に対応する子作業車の目標走行位置にリンクさせた子作業車のための子作業運転パラメータが生成される。さらに、子作業車には、子位置と目標走行位置と子作業運転パラメータとに基づいて子作業車を無人操縦する操縦制御部が備えられている。子作業車は、作業運転パラメータと子位置と目標走行位置とに基づいて作業車の作業運転に忠実に倣った作業運転を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−192740号公報
【特許文献2】特開2015−188351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による作業車操作システムでは、ユーザは、携帯情報端末のタッチパネルに表示される仮想現実的な運転空間において作業車を遠隔制御することができるが、タッチパネルのディスプレイに表示される運転空間に配置された操作具に対する操作では、複雑な作業走行の遠隔制御は困難である。さらに、ユーザにとって、作業車での作業走行の操作には熟練していても、携帯情報端末による遠隔制御を一から覚えなければならず、その操作に慣れるまでの初期負担が大きいという問題がある。
【0006】
特許文献2による、子作業車に対する親作業車からの遠隔制御は、親作業車によって行われた作業走行を、子作業車が忠実に倣うという制御に限定されている。したがって、この作業車協調システムでは、親作業車の動きとは無関係に、ユーザが子作業車の走行動作や作業動作を操るといった遠隔制御は考慮されていない。
【0007】
上述した実情に鑑み、乗車している作業車の運転感覚で、無人の作業車を遠隔制御で運転できる作業車遠隔制御システムが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による、無線通信を通じてデータ交換可能な親作業車と子作業車とからなる作業車遠隔制御システムは、ユーザによって操作される親作業走行操作具群と、前記親作業車の作業走行のための親作業走行機器群と、
自車操作モードと他車操作モードとを切り替えるモード切替部と、前記自車操作モードにおいて、前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて前記親作業走行機器群に動作制御信号を与える親作業走行制御部と、
前記他車操作モードにおいて、前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて生成された親操作情報を前記子作業車に送る親操作情報生成部と、前記子作業車の作業走行のための子作業走行機器群と、前記親作業車から送られてきた前記親操作情報に基づいて前記子作業走行機器群に動作制御信号を与える子作業走行制御部とを備えている。
また、本発明による、無線通信を通じてデータ交換可能な親作業車と子作業車とからなる作業車遠隔制御システムは、ユーザによって操作される親作業走行操作具群と、前記親作業車の作業走行のための親作業走行機器群と、前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて前記親作業走行機器群に動作制御信号を与える親作業走行制御部と、前記親作業走行操作具群に対するユーザ操作に応じて生成された親操作情報を前記子作業車に送る親操作情報生成部と、前記子作業車の作業走行のための子作業走行機器群と、前記親作業車から送られてきた前記親操作情報に基づいて前記子作業走行機器群に動作制御信号を与える子作業走行制御部と、前記親作業車に備えられ、自車操作モードと他車操作モードとを切り替えるモード切替部と、が備えられ、前記自車操作モードでは、前記子作業車に前記親操作情報を送ることが禁止され、前記他車操作モードでは、前記親作業走行機器群に前記動作制御信号を与えることが禁止される。
【0009】
この構成では、親作業車に乗り込んだ運転者(ユーザ)が、親作業車に装備された親作業走行操作具群を操作することで、子作業車(無人車)側において、当該操作に対応する動作制御信号が子作業走行機器群に与えられる。つまり、親作業車自体が、子作業車を遠隔制御で無人作業走行させる実機リモコンとして機能することができる。これにより、ユーザは、乗り込んだ作業車(親作業車)の作業走行機器群(親作業走行機器群)を操作することで、子作業車(無人車)を遠隔制御できるので、慣れ親しんだ運転感覚で、無人の作業車を遠隔制御することができる。
なお、この発明で用いられている「作業走行」という語句には、走行しながら作業を行うこと、走行のみを行うこと、作業のみを行うこと、これらのうち少なくとも1つが行われている状態、さらにはそのような作業走行の一時的な停止状態が含まれている。
また、親作業車は、実機リモコンとしてではなく、もちろん、通常の作業走行を行うこともできる。実機リモコンとして利用される場合には、親作業走行操作具群に対するユーザ操作は、子作業車の作業走行の遠隔制御だけに有効となり、親作業車の作業走行の制御には無効にしなければならない。この目的で、モード切替部が設けられると、モード切替部による自車操作モードと他車操作モードとの間の切り替えを確実に管理することができる。さらには、このモード切替をトリガーとして、種々の動作指令を制御系の機能部に与えることができる。モード切替部における自車操作モードと他車操作モードとの間の切り替えが、ユーザによって操作されるモード切替操作具により行われる制御構成を採用することで、常に、モード切替がユーザの明確な意思によって行われるという利点が得られる。
【0010】
停車している親作業車から離れた場所を走行する子作業車を遠隔操縦する際、子作業車の周囲の状況が把握できると、より適切に子作業車を遠隔操縦することができる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記子作業車の作業走行環境を示す作業走行環境情報を取得する環境情報取得ユニットが備えられており、前記親作業車には、前記子作業車から送られてきた前記作業走行環境情報をユーザに報知する報知ユニットが備えられている。好適な作業走行環境情報としては、子作業車に装備された撮影カメラによって取得される作業車周辺の撮影画像、子作業車のメータ等を通じて報知されるメータ値(エンジン回転数や車速や残燃料など)、子作業車に装備された集音マイクによって集音された環境音などが挙げられる。このような作業走行環境情報が通信によって親作業車に送られ、親作業車に装備された、ディスプレイやスピーカなどの報知ユニットを通じて再生されることで、実機リモコンとしての親作業車に乗り込んでいるユーザは、臨場感豊かに、子作業車を遠隔制御することができる。
【0011】
【0012】
他車操作モードへの切り替えをトリガーとして、親作業車の制御系の機能部に与えられる、好適な動作指令の1つは、親作業車のエンジンを停止させるエンジン停止指令である。これにより、実機リモコンとして利用している親作業車が、不測に動き出すといった不都合は確実に回避される。親作業車が実機リモコンとして利用される場合には、親作業車のエンジン停止ともに、子作業車のエンジンを始動させなくてはならない。このため、他車操作モードへの切り替えをトリガーとして、子作業車の制御系の機能部に与えられる、好適な動作指令の1つは、子作業車のエンジンを始動させるエンジン始動指令である。
【0013】
自車操作モードに切り替えられると、親作業車による子作業車の遠隔制御が不能となるので、子作業車の不測の動きを回避する必要がある。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自車操作モードへの切り替え時に、前記子作業車が停止される。この作業車の停止には、エンジン停止やブレーキ動作や作業装置の停止などが含まれる。
【0014】
親作業車と子作業車が同一の仕様であれば、実車をリモコンとする遠隔制御はスムーズに行われる。しかしながら、親作業車と子作業車との仕様が異なっていることも考慮しなければならない。つまり、異なった仕様の親作業車と子作業車とが利用される場合には、親作業車に対する操作と同じ操作を子作業車に与えて同じ作業走行結果が得られるとは限らない。このことから本発明の好適な実施形態の1つでは、前記親作業走行機器群と前記子作業走行機器群との動作制御仕様の相違を整合する仕様整合部が備えられ、前記親作業走行機器群と前記子作業走行機器群との動作制御仕様が相違する場合、整合された前記動作制御信号が前記子作業走行機器群に与えられる。このような仕様整合部は、親作業車に設けてもよいし、子作業車に設けてもよい。親作業車と子作業車との関係が一義的に決まっている場合には、予め動作制御仕様の相違を整合するテーブルを設定しておくとよい。それぞれ動作制御仕様異なる複数の子作業車に対して遠隔制御が行われる場合には、子作業車毎の動作制御仕様の相違を整合するテーブルと遠隔制御する子作業車を選択するセレクタとが備えられ、選択された子作業車に適切なテーブルが自動的に設定される構成が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】親作業車と子作業車とによる協調作業走行と遠隔制御とを示す模式図である。
【
図2】作業車の一例であるトラクタの側面図である。
【
図3】作業車の制御系を説明するための機能ブロック図である。
【
図4】親作業車による子作業車に対する遠隔制御における情報の流れを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を用いて、本発明による作業車遠隔制御システムの実施形態の1つを説明する。
図1には、データ交換可能な複数の作業車が協調して作業地を作業走行する協調作業走行に参加している2台の作業車が示されている。この作業車の内の1台が、運転者(ユーザ)が乗り込んで有人走行される親作業車1Pであり、他の1台が、無人走行される子作業車1Cである。なお、この実施の形態では、対地作業地は畦によって境界づけられた圃場であり、耕耘作業のような作業走行では、作業車の走行に伴って、作業装置の作業幅の領域が作業されていく。圃場での作業では、一般に、圃場は、略四角形の中央領域と、その中央領域の周囲で、畦に沿って規定される枕地とも呼ばれる周辺領域とに区分けされる。中央領域では、往復走行によって対地作業が行われるので、走行軌跡は、直線状の往路走行と旋回(Uターン)走行と直線状の復路走行と旋回(Uターン)走行との繰り返しとなる。枕地は、中央作業地の作業走行における旋回領域となる。周辺領域では、直線状の走行と各コーナ領域での切り返し走行の繰り返しによって作業が行われる。
図1で示された中央領域の作業走行例では、無人走行のために算定された中央領域のための走行経路に基づいて、子作業車1Cが親作業車1Pに先行して無人走行する。親作業車1Pは、子作業車1Cが無人走行した後、その左側を、子作業車1Cの作業跡に対して親作業車1Pの作業跡が所定量オーバーラップするように走行する。これが、中央領域に対する親作業車1Pと子作業車1Cとの協調作業走行の一例である。
【0017】
図1では、親作業車1Pは中央領域に対する作業走行の開始点SPPに位置しており、子作業車1Cは圃場の出入口IOに位置している。この状態から、親作業車1Pの乗り込んでいる運転者は、親作業車1P及び子作業車1Cに組み込まれている作業車遠隔制御システムを利用して、遠隔制御によって、子作業車1Cを子作業車1Cの作業走行の開始点SPCまで移動させる。
【0018】
子作業車1Cが開始点SPCに到達すると、協調作業走行が開始され、子作業車1Cが自動作業走行制御で走行を始める。子作業車1Cは、自動走行モードに設定され、衛星測位システムを利用して求められた自車位置が予め設定されている走行経路に一致するように操舵される。親作業車1Pは、子作業車1Cが無人走行した後、その左側を、子作業車1Cの作業跡に対して親作業車1Pは、子作業車1Cの作業跡に沿って、追従作業走行する。この追従作業走行は自動であってもよいし、手動であってもよい。いずれにしても、運転者は、親作業車1P及び子作業車1Cの作業走行を監視する。なお、障害物の回避など、子作業車1Cに自動操舵が困難な状況が生じた場合、子作業車1Cの自動操舵が中止され、停車した親作業車1Pからの遠隔操縦に切り替えられ、子作業車1Cは自動走行から遠隔操縦走行に移行する。
【0019】
この実施形態では、親作業車1P及び子作業車1Cは、農作業用のトラクタであり、
図2にその側面図が示されている。このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体1の中央部に操縦部20が設けられている。車体1の後部には油圧式の昇降機構31を介してロータリ耕耘装置である作業装置30が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、操舵機構13によって操舵角が変更されることでトラクタの走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は操縦部20に配置されているステアリングホイール22の操作によって可能である。操縦部20には、ディスプレイとスピーカとタッチパネルと操作ボタンを備えたユーザ操作端末(報知ユニット73の1つ)が配置されている。このユーザ操作端末は、運転者に情報を提供する機能と、運転者からの情報を入力する機能とを有する。
【0020】
トラクタのキャビン21には、GNSS(global navigation satellite system)モジュールとして構成されている衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GNSS信号(GPS信号も含む)を受信するための衛星用アンテナがキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、衛星測位モジュール80には、衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを含めることができる。もちろん、慣性航法モジュールは、衛星測位モジュール80とは別の場所に設けてもよい。
【0021】
車体1には、走行作業中の周囲の環境を示す作業走行環境情報を取得する環境情報取得ユニット4が備えられている。この実施形態では、環境情報取得ユニット4には、撮影カメラ40、集音マイク41、障害物センサ42が含まれている。撮影カメラ40は、車体周囲を撮影するために4台設けられている。各撮影カメラ40の撮影光軸は撮影視野に車体1や作業装置30の一部と圃場面とが入るように下方に向けられるとともに、広角レンズが装着されることで、4台の撮影カメラ40によって取得される、周辺部分領域の撮影画像は車体付近の全周領域をカバーすることができる。集音マイク41は、作業音や走行音やエンジン音を拾って、音信号に変換する。障害物センサ42は、車体1の前進方向及び後進方向に存在する障害物を検出するレーザスキャナであり、車体1の前後に1つずつ、合計2つ設けられている。
【0022】
図3には、
図1で示されたような作業車遠隔制御システムにおける親作業車1Pとして機能しているトラクタの制御系の全体、及び子作業車1Cとして機能しているトラクタの制御系の一部が示されている。
図4は、親作業車1Pによる子作業車1Cに対する遠隔制御における情報の流れを説明する説明図である。
【0023】
図3及び
図4では、親作業車1Pの制御系が主に示されている。親作業車1Pと子作業車1Cとは、走行系の仕様(変速機構やエンジン馬力など)や作業系の仕様(作業幅など)は異なっていたとしても、親作業車1Pとして機能している制御系と、子作業車1Cとして機能している制御系との基本的な構成は同じであるので、親作業車1Pの制御系の説明が、子作業車1Cの制御系の説明に流用することができる。
【0024】
親作業車1Pの制御系の中核要素である制御ユニットCUには、入出力インタフェースとして機能する、出力処理部7と入力処理部8と通信処理部9とが備えられている。
【0025】
出力処理部7は、車両走行機器群71と作業装置機器群72とからなる親作業走行機器群70、ディスプレイやスピーカが一体化されているユーザ操作端末である報知ユニット73などと接続している。車両走行機器群71には、車両走行に関する制御機器、例えばエンジン制御機器、変速制御機器、制動制御機器、操舵制御機器などが含まれている。作業装置機器群72には、この実施形態ではロータリ耕耘装置である作業装置30のPTOクラッチなどの動力制御機器や、ロータリ耕耘装置を昇降させる昇降機構31の昇降シリンダ制御機器などが含まれている。
【0026】
通信処理部9は、子作業車1Cとして機能しているトラクタの制御系や遠隔地の管理センタに構築された管理コンピュータや車外の監視者の携帯通信端末との間で無線通信を用いてデータ交換する機能を有する。
【0027】
入力処理部8には、衛星測位モジュール80、自動/手動切替操作具81、走行状態検出センサ群82、作業状態検出センサ群83、モード切替操作具85、環境情報取得ユニット4などが接続されている。自動/手動切替操作具81は、自動操舵で走行する自動走行モードと、手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。例えば、自動操舵モードで走行中に自動/手動切替操作具81を操作することで、手動操舵での走行に切り替えられ、手動操舵での走行中に自動/手動切替操作具81を操作することで、自動操舵での走行に切り替えられる。走行状態検出センサ群82には、エンジン回転数調整具、アクセルペダル、ブレーキペダル、ステアリングホイール22などの操作具(親作業走行操作具群84の構成要素)の状態を検出するセンサが含まれている。作業状態検出センサ群83には、作業装置30の駆動や姿勢を調整する作業操作具(親作業走行操作具群84の構成要素)の状態を検出するセンサが含まれている。
【0028】
モード切替操作具85は、親作業車1Pが子作業車1Cを遠隔制御により無人作業走行させる実機リモコンとして機能する他車操作モードと、通常のトラクタとして自動走行や手動走行で作業
走行を行う自車操作モードとを切り替えるために、ユーザによって操作される操作具である。なお、子作業車1Cとして機能するとトラクタでは、モード切替操作具85は、他車によって遠隔制御される他車操作モードと、自車操作モードとを切り替えるための、操作具となる。
【0029】
環境情報取得ユニット4に含まれている集音マイク41は、トラクタが親作業車1Pとして機能している場合には、不要となるので、機能停止される。
【0030】
制御ユニットCUには、実質的には、ソフトウエアで構築される機能部として、親作業走行制御部50、自動走行制御部AC、遠隔制御部RC、モード切替部60が組み込まれている。
【0031】
親作業走行制御部50には、走行制御部51、作業制御部52、エンジン制御部53が含まれている。走行制御部51は、車両走行機器群71を制御する。このトラクタが自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、走行制御部51は、手動走行制御機能と自動走行制御機能とを有する。手動走行制御機能が実行されている場合、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71が制御される。自動走行制御機能が実行されている場合、自動走行制御部ACから与えられる自動操舵指令に基づいて生成された操舵制御信号(動作制御信号の一種)が操舵モータ14に出力される。作業制御部52は、作業装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に作業制御信号(動作制御信号の一種)を与える。エンジン制御部53は、エンジンの動作機器にエンジン制御信号(動作制御信号の一種)を与える。
【0032】
自動走行制御部ACには、経路生成部54、経路設定部55、自車位置算出部56、自動作業走行指令部57が含まれている。
【0033】
経路生成部54は、入力された圃場情報から、圃場の外形データを読み出し、この圃場における適正な走行経路を生成する。この走行経路の生成は、運転者によって入力される基本的な初期パラメータに基づいて自動的に行われてもよいし、別なコンピュータで生成された走行経路をダウンロードしてもよい。いずれにしても、経路生成部54から出力される走行経路は、メモリに展開され、自動走行に利用される。もちろん、この走行経路は、手動走行であっても、作業車が走行経路に沿って走行するためのガイダンスのために利用することができる。
【0034】
経路設定部55は、メモリに展開された走行経路を順次読み出して、走行の目標となる走行経路として設定する。自車位置算出部56は、衛星測位モジュール80から逐次送られてくる測位データに基づいて、車体1の位置または作業装置30の位置を算出する。自動作業走行指令部57は、目標走行経路と自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、方位ずれ及び位置ずれを解消する自動操舵指令を走行制御部51に与える。
【0035】
遠隔制御部RCには、親操作情報生成部61、仕様整合部62、環境情報再現部63が含まれている。遠隔制御部RCは、この親作業車1Pが子作業車1Cを遠隔制御により無人作業走行させる実機リモコンとして機能する他車操作モードにおいて、動作する。
【0036】
親操作情報生成部61は、親作業走行操作具群84に対するユーザ操作を検出する走行状態検出センサ群82及び作業状態検出センサ群83からの検出信号に応じて親操作情報を生成する。この親操作情報とは、親作業車1Pの運転者が、親作業走行操作具群84に対して行った操作内容であり、例えば、アクセルペダルの踏み込み、ブレーキペダルの踏み込み、作業装置昇降レバーの操作などである。このような操作内容は、即時に親操作情報としてデータ化され、子作業車1Cに送られる。親操作情報を受け取った子作業車1C側では、親操作情報の内容に相当する制御動作が行われる。これにより、親作業車1Pを実機リモコンとした子作業車1Cの遠隔制御が実現する。
【0037】
仕様整合部62は、親作業車1Pに装備されている作業走行機器群(親作業走行機器群70)と子作業車1Cに装備されている作業走行機器群(子作業走行機器群70c)との間に、動作制御仕様の相違があれば、その相違を整合する。これにより、親作業走行操作具群84に対するユーザ操作により自車操作モードにおいて実現する親作業走行機器群70の動きに相当する子作業走行機器群70cの動きが、他車操作モードにおいても実現する。例えば、親作業車1Pと子作業車1Cとで、作業装置30の限界上昇高さが異なっていても、親作業車1Pにおいて作業装置30の限界上昇までの上昇操作が行われると、子作業車1Cの作業装置30は限界上昇高さまで上昇する。
【0038】
環境情報再現部63は、他車操作モードでは、子作業車1Cの環境情報取得ユニット4の撮影カメラ40によって取得された撮影画像や、集音マイク41で拾われた環境音が、ユーザの所望の形態で、報知ユニット73を通じて報知される。実機リモコンとしての親作業車1Pに乗り込んでいる運転者は、報知ユニット73のディスプレイに表示された撮影画像を見ながら、さらにスピーカから流れる環境音を聞きながら、あたかも子作業車1Cの乗っているような気分で、子作業車1Cを遠隔制御することができる。
【0039】
モード切替部60は、モード切替操作具85に対する操作に応答して、制御系を、自車操作モードから他車操作モードに、あるいは他車操作モードから自車操作モードに切り替える。
【0040】
図3で示された子作業車1Cでは、遠隔制御に関係するものとして、撮影カメラ40と集音マイク41と障害物センサ42とを含む環境情報取得ユニット4及び子作業走行機器群70cが示されており、さらに制御系の機能部として、自車位置算出部56と子作業走行制御部50cとが示されているだけである。もちろん、トラクタとして、子作業車1Cも、親作業車1Pとほぼ同様な構成となっているが、子作業車1C自体が実機リモコンとして利用されない場合には、遠隔制御部RC、モード切替部60、モード切替操作具85は不要となる。また、
図3で示された親作業車1Pが、遠隔制御される子作業車1Cとして利用されない場合には、環境情報取得ユニット4の集音マイク41は不要となる。ただし、撮影カメラ40は、通常の作業走行にける自車の周辺撮影画像を監視画像としてモニタ表示するために必要である。
【0041】
次に
図4を用いて、他車操作モード及び自車操作モードでの情報の流れを説明する。
【0042】
制御系が他車操作モードに切り換えられると、親作業走行操作具群84に対するユーザ操作によって生じる操作指令は、親作業走行制御部50には与えられずに、親操作情報生成部61に与えられる。つまり、他車操作モードでは、親作業走行機器群70に動作制御信号が与えられることが禁止される。親操作情報生成部61は、与えられた操作指令の内容を親操作情報としてデータ化して、通信処理部9を介して、子作業車1Cに無線送信する。親操作情報を生成する際、親作業車1Pと子作業車1Cとの間に仕様上の相違があれれば、仕様整合部62により、親作業車1Pの操作指令は子作業車1Cの操作指令に整合される。子作業車1Cに送られた操作指令は、子作業車1Cの作業走行制御部(子作業走行制御部50c)に与えられ、子作業車1Cの作業走行機器群(子作業走行機器群70c)が制御され、親作業走行操作具群84に対するユーザ操作に対応する制御動作が、子作業車1Cで実現する。
【0043】
さらに、制御系が他車操作モードに切り換えられると、モード切替部60は、子作業車1Cに環境情報のリクエスト信号を送り、子作業車1Cの環境情報取得ユニット4から、撮影画像や環境音などの作業走行環境を示す作業走行環境情報、及び、子作業車1Cの自車位置算出部56から自車位置(他車位置)を受け取る。受け取った作業走行環境情報及び子作業車1Cの自車位置は、環境情報再現部63に与えられる。環境情報再現部63は、環境情報を用いて、報知ユニット73を用いて、子作業車1Cの周囲の撮影画像を表示しながら、環境音を流す。さらに、環境情報再現部63は、子作業車1Cの自車位置を用いて、作業走行を行っている圃場における子作業車1Cの現在位置を圃場地図や走行経路とともに表示する。
【0044】
モード切替部60は、自車操作モードから他車操作モードへの切り替えを確認すると、親作業車1Pのエンジン制御部53にエンジン停止指令を与えるとともに、子作業車1Cにエンジンが始動指令を送る。さらに、自車操作モードでは、親作業走行操作具群84に対するユーザ操作により生じる操作指令は、親作業走行制御部50によって動作信号を出力するために利用され、親操作情報生成部61が操作指令に基づく親操作情報を子作業車1Cに出力することは禁止される。
【0045】
図4では図示されていないが、モード切替部60は、他車操作モードから自車操作モードへの切り替えを確認すると、子作業車1Cに停止指令を与える。この停止指令により、子作業車1Cは、エンジンは駆動のままで、トランスミッションが中立でブレーキをきかせた停止状態となる。これにより、子作業車1Cは、親作業車1Pによる遠隔制御から、設定された走行経路に沿った自動走行(親作業車1Pとの協調作業走行)に移行する準備が整う。
【0046】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、作業車として、ロータリ耕耘機を作業装置30として装備したトラクタを、作業車として取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、施肥機、コンバインなどの農作業車、あるいは作業装置30としてドーザやローラ等を備える建設作業車等の種々の作業車も、実施形態として採用することができる。
(2)
図3で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。
(3)上述した実施形態では、1台の親作業車1Pを実機リモコンとして、1台の子作業車1Cを遠隔制御していたが、遠隔制御先セレクタを設けることで、複数の子作業車1Cを選択的に遠隔制御することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、相互にデータ通信可能な複数の作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1C :子作業車
1P :親作業車
4 :環境情報取得ユニット
40 :撮影カメラ
41 :集音マイク
50 :親作業走行制御部
50c :子作業走行制御部
51 :走行制御部
52 :作業制御部
56 :自車位置算出部
57 :自動作業走行指令部
60 :モード切替部
61 :親操作情報生成部
62 :仕様整合部
63 :環境情報再現部
70 :親作業走行機器群
70c :子作業走行機器群
71 :車両走行機器群
72 :作業装置機器群
73 :報知ユニット
80 :衛星測位モジュール
81 :自動/手動切替操作具
82 :走行状態検出センサ群
83 :作業状態検出センサ群
84 :親作業走行操作具群
85 :モード切替操作具