特許第6765342号(P6765342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765342
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】油中水型固形乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/04 20060101AFI20200928BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20200928BHJP
   A61K 8/894 20060101ALI20200928BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20200928BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20200928BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20200928BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20200928BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20200928BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20200928BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20200928BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   A61K8/04
   A61K8/891
   A61K8/894
   A61K8/39
   A61K8/92
   A61K8/37
   A61K8/73
   A61K8/81
   A61Q19/00
   A61Q1/12
   A61Q1/04
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-105251(P2017-105251)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-199646(P2018-199646A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】小谷 康祐
【審査官】 田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−211114(JP,A)
【文献】 特開2009−298751(JP,A)
【文献】 特開平11−228343(JP,A)
【文献】 特開2001−261519(JP,A)
【文献】 特開2001−072533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(E)を含有する油中水型固形乳化化粧料。
(A)フェニル変性シリコーン
(B)ポリエーテル変性シリコーン
(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステル
(D)常温で固形状の油剤
(E)水溶性増粘剤を含む水相を30質量%以上
【請求項2】
(A)フェニル変性シリコーンと(D)常温で固形状の油剤の配合比率(A)/(D)が0.8以上である請求項1に記載の油中水型固形乳化化粧料。
【請求項3】
(A)フェニル変性シリコーンとしてジフェニルシロキシフェニルトリメチコンを含有する請求項1または2に記載の油中水型固形乳化化粧料。
【請求項4】
(B)ポリエーテル変性シリコーンがセチルジメチコンコポリオール、PEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、PEG−9ジメチコンから選択される1以上である請求項1〜3のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
【請求項5】
(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルがトリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、イソステアリン酸ポリグリセリル−2、ペンタオレイン酸ポリグリセリル−10から選択される1以上である請求項1〜4のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
【請求項6】
(D)常温で固形状の油剤としてパルミチン酸セチル、キャンデリラロウ、ミツロウから選択される1以上を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
【請求項7】
水溶性増粘剤がキサンタンガム、スクレロチウムガム、カルボマーから選択される1以上である請求項1〜6のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形状の油中水型固形乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
油中水型固形乳化化粧料は、一般的にファンデーション、リップ、サンスクリーンなどの化粧料に関わる技術として当業者では理解されている。近年油中水型固形乳化化粧料を上記の製品以外にも利用しようとする提案がある。しかし、油中水型固形乳化化粧料を製品とするためには、成型性や使用感、安定性など解決しなければならない課題がある。
特許文献1には、うるおい感、保湿効果、翌朝の肌効果等の効果を維持しつつ、べたつきがなく、テカらずに、マットな感じで、油っぽくない、等の使用性に優れた、固形状の新規なスキンケア用油性化粧料が提案されている。この発明は、炭化水素油、エステル油、および植物油の中から選ばれる1種または2種以上の不揮発性油分を主成分とする油分と、樹脂粉末およびシリカの中から選ばれる1種または2種以上の粉末を15〜55質量%含み、さらに固形ワックス、油ゲル化剤を含む固形状の油中水型のスキンケア用の化粧料である。
【0003】
特許文献2には、シリコーン油と、固形ワックスと、水と、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの一種または二種以上とを有し、化粧料全量に対し水分量が5重量%以上である固形状油中水型乳化化粧料が開示されている。この化粧料は水の揮発が少なく、「ひび」「われ」がなく、塗布時に「清涼感」という新規な使用感触を有し「のび」「さっぱりさ」等の使用感も優れているという特徴を有するものである。主としてファンデーションとして使用されることが多いが、スキンケア用化粧料としても使用可能な組成である。
【0004】
特許文献3には、固形乳化化粧料を製造するためにキャンデリラワックスを用い、ワックスゲルとして十分な硬度を有しており、成形性(形状保持性)に優れ、かつ溶けるような滑らかな伸び広がりとフィット感を与えるために、グリセリンの重合度が7〜12、脂肪酸が炭素数6〜12の分岐脂肪酸であり、かつエステル置換度が65%以上である、ポリグリセリン脂肪酸エステルを配合する組成物が開示されている。また、特許文献4には、特許文献2の固形乳化化粧料に発生する「ヌルつきや感触の悪さ」という使用感を、揮発性シリコーン、長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン、固形油及び水と水溶性成分を配合することで解決できたことが記載されている。
【0005】
特許文献5には、コンパクト容器や金皿、スティック容器や中皿等の容器に充填してなる固形状油中水型化粧料において、形状保持性と経時安定性に優れ、べたつき感が無く、水々しく、滑らかな伸び広がりが良好である固形状油中水型乳化化粧料を得るために、炭酸ジアルキルエステル、固形ワックスなどの固形油とポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン系界面活性剤、水を配合した発明が記載されている。しかし、該特許は肌への刺激性の懸念があり、使用感の問題もあった。
現在も、油中水型固形乳化化粧料について様々な試行錯誤が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−247808号公報
【特許文献2】特許第2691729号公報
【特許文献3】特開2015−193607号公報
【特許文献4】特許第3639985号公報
【特許文献5】特許第4047512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、スキンケア用化粧料として使用可能で、安全性の熟知された原料を使用して、油中水型固形状乳化化粧料を得るための研究を行っている。この研究の過程で、油中水型固形乳化化粧料において、安全性の熟知された界面活性剤や固形状油脂などの原料を使用すると、特有の油っぽさが発生することに注目し、研究を進めたところ、高温時であっても固形性を維持することができ、油っぽさのない、使用時のヌルつき感を低減可能な組成を見いだし、本発明をなした。
すなわち、本発明は、安全性の熟知された界面活性剤や固形油脂を配合した油中水型固形乳化化粧料であって、油中水型固形乳化化粧料特有の油っぽい感触を抑え、高温時でも固形化を維持し、冷温時の凝縮などが抑制された化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)以下の(A)〜(E)を含有する油中水型固形乳化化粧料。
(A)フェニル変性シリコーン
(B)ポリエーテル変性シリコーン
(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステル
(D)常温で固形状の油剤
(E)水溶性増粘剤を含む水相を30質量%以上
(2)(A)フェニル変性シリコーンと(D)常温で固形状の油剤の配合比率(A)/(D)が0.8以上である(1)に記載の油中水型固形乳化化粧料。
(3)(A)フェニル変性シリコーンとしてジフェニルシロキシフェニルトリメチコンを含有する(1)または(2)に記載の油中水型固形乳化化粧料。
(4)(B)ポリエーテル変性シリコーンがセチルジメチコンコポリオール、PEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、PEG−9ジメチコンから選択される1以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
(5)(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルがトリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、イソステアリン酸ポリグリセリル−2、ペンタオレイン酸ポリグリセリル−10から選択される1以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
(6)(D)常温で固形状の油剤としてパルミチン酸セチル、キャンデリラロウ、ミツロウから選択される1以上を含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
(7)水溶性増粘剤がキサンタンガム、スクレロチウムガム、カルボマーから選択される1以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の油中水型固形乳化化粧料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油中水型固形乳化化粧料は、油中水型固形乳化化粧料特有の油っぽい感触を抑えられ、高温時の固形化を達成し、冷温時の凝縮(容器との間で隙間となる)が現れない化粧料となる。本発明の油中水型固形乳化化粧料は、滑らかで溶け心地のよい使用感となるのでスキンケア化粧料に適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(A)フェニル変性シリコーン、(B)ポリエーテル変性シリコーン、(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステル、(D)常温で固形状の油剤そして、(E)水溶性増粘剤を含む水相30質量%以上を含有する油中水型固形乳化化粧料にかかる発明である。
本発明の構成成分(配合成分)について説明する。
(A)成分:フェニル変性シリコーン
本発明に用いるフェニル変性シリコーンとしては、ジメチルシロキサン骨格を有し、少なくともメチル基の一部がフェニル基に置換したシリコーンであればよく、例えばジフェニルジメチコン、フェニルプロピルジメチルシロキシケイ酸、ビスフェニルプロピルジメチコン、フェニルトリメチコン、トリメチルペンタフェニルトリシロキサン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、トリメチルシロキシフェニルジメチコンなどが挙げられる。好ましくは、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコンである。フェニル変性シリコーンは以下で説明する(B)成分:ポリエーテル変性シリコーンと共に、固形油とその他の油剤が均一に混ざる役割を担い、配合することで調製された化粧料の表面が均一となる。また油相が均一な状態で固形化するので、固形油の溶け感の悪さから生じる「滑らかにとけない」という問題の発生を抑える。フェニル変性シリコーンの配合量は5〜20質量%であり、好ましくは7〜15質量%である。
【0011】
(B)成分:ポリエーテル変性シリコーン
本発明に用いるポリエーテル変性シリコーンは、主鎖のシリコーン鎖に、側鎖としてポリエーテル鎖を有するものである。側鎖としてポリエーテル鎖以外に、アルキル鎖、シリコーン鎖を含むものであっても良い。ポリエーテル変性シリコーンは、高分子界面活性剤として化粧料に使用されている。本発明では、化粧品表示名称で、セチルジメチコンコポリオールやPEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG−9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、PEG−9ジメチコン等を用いることが好ましい。特にセチルジメチコンコポリオールが好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンの配合量は1〜5質量%であり、好ましくは2〜3質量%である。
(A)成分:フェニル変性シリコーンと(B)成分:ポリエーテル変性シリコーンは、固形油とその他油剤との均一な相溶性を保つために必須の成分である。
【0012】
(C)成分:HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステル
本発明に用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、そのHLBが5未満でなければならない。(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2(HLB値:1.3)、イソステアリン酸ポリグリセリル−2(HLB値:4.6)、ペンタオレイン酸ポリグリセリル‐10(HLB値:3.5)を例示することができる。HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、0.5〜5質量%、好ましくは0.7〜2質量%である。HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルは、本発明の構成において高温(40℃)での固形化に寄与しており、配合は必須である。
【0013】
(D)成分:常温で固形状の油剤としては、化粧品に用いられるワックスや所謂固形油であれば使用可能であるが、キャンデリラロウ、ミツロウ、パルミチン酸セチルが好ましく、これらの単独、あるいは混合物であっても良い。中でもパルミチン酸セチルは固形油としては融点が低く本発明の滑らかに溶ける効果に寄与するので本発明では配合することが好ましい。パルミチン酸セチルは固形油全量に対し40質量%以上となるように配合することが好ましい。固形状の油剤は、化粧料を固形状に維持するために必須である。(D)常温で固形状の油剤の配合量は、3〜12質量%、好ましくは5〜10質量%である。
なお、(A)成分:フェニル変性シリコーンの配合量は(D)成分:常温で固形状の油剤の配合量によって定めることが好ましい。(A)成分:フェニル変性シリコーンと(D)成分:常温で固形状の油剤の配合比率(A)/(D)は、0.8以上、好ましくは0.8〜2.5になるように配合すると好ましい。
【0014】
(E)成分:水溶性増粘剤を含む水相
本発明の油中水型固形乳化化粧料には水溶性増粘剤と水の配合は必須である。水溶性増粘剤を含む水相として、化粧料当たり30質量%以上配合する。なお水相の配合量は、好ましくは30〜70質量%であり、より好ましくは40〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。また配合する水溶性増粘剤としては、水相中に溶解可能な増粘性多糖類やカルボキシビニルポリマー(カルボマー)などの合成品を使用できる。本発明に適した水溶性増粘剤としては、キサンタンガム、スクレロチウムガム、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)を例示できる。水溶性増粘剤は容器との隙間発生防止効果と使用感(ヌルつかない)の観点から0.01〜0.5質量%配合することが好ましい。また、多価アルコールを配合する場合は前記水相の合計量に含める。またカルボマーの中和剤や、任意で配合するpH調整剤、ヒアルロン酸などの水溶性成分も水相の合計量に含める。
【0015】
(任意成分)
本発明の油中水型固形乳化化粧料は、用途に応じて、通常化粧料に用いられるその他成分を任意で含有することができる。このような任意成分としては、例えば、エタノール等の水溶性有機溶剤、乳化剤、キレート剤、美白剤、エモリエント剤、保湿剤、酸化防止剤、色剤、防腐剤、香料、各種の油性成分、各種の水性成分などを挙げることができる。また本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに(D)成分以外の油剤を配合することができる。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の化粧料について、実施例、比較例を示しさらに本発明を説明する。
1.実施例
下記表1に示す組成の油中水型固形乳化化粧料(実施例1〜8)を常法により調製した。得られた乳化化粧料は、固化する前に、直径5センチのガラス製容器及び合成樹脂容器に充填し、室温で固形化させた。
【0017】
【表1】
【0018】
2.比較例
実施例と同様に下記表2に示す組成の油中水型固形乳化化粧料(比較例1〜11)を常法により調製した。
【0019】
【表2】
【0020】
比較例1は(E)成分:水溶性増粘剤を含む水相の含有量を30質量%未満にした組成である。比較例2は(A)成分:フェニル変性シリコーンを含有しない組成である。比較例3は(B)成分:ポリエーテル変性シリコーンを含有しない組成である。比較例4〜10は、(C)成分:HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有しない組成である。比較例11は、水相成分中に水溶性増粘剤を含有しない組成である。
【0021】
3.化粧料の評価
実施例、比較例の化粧料について固形化状態、硬度及び使用感の官能評価を行った。評価基準は次のとおりである。なお、常温とは25℃±2℃である。
(1)固形化(常温、40℃)
ガラス容器とジャータイプの樹脂容器に充填されたそれぞれの化粧料を恒温槽(常温、40℃)に保管し、24時間後の化粧料の外観を目視観察し、下記基準により固形化を評価した。
○:流動性はなく、固形化が形成されている
×:流動性(液状もしくはクリーム状)があるか、固形化が不完全である
なお、ガラス容器と樹脂容器とで違いは認められなかったので、表のこの項目の記載は一つである。
【0022】
(2)硬度
ガラス容器(直径5cm)に充填した化粧料について、充填翌日にレオメーターRTC(レオテック社)を用いて硬度を測定した。条件は化粧料表面からアダプターの速度6cm/minで深度10mmに達する際の最大応力値を硬度として測定した。アダプターはφ3.0mmの円柱型のものを使用した。
【0023】
(3)使用感
肌の上で滑らかに溶けるかどうかを主な指標とし使用感の良否を下記基準により官能評価した。
○:滑らかに溶け、使用感が良い
△:滑らかに溶けるがキシミや油っぽさが感じられ、使用感がやや悪い
×:滑らかに溶けず、使用感が悪い
【0024】
(4)凝縮評価
ジャータイプの樹脂容器に化粧料を充填し、冷蔵室(5℃)に保管し24時間後と1ヶ月後に外観の目視観察を行い、下記基準により評価した。
○:容器との間に隙間がない
△:容器との間に隙間がごくわずかにある(製品化には問題とならないレベル)
×:容器との間に隙間がある
【0025】
(5)固形化した際の化粧料表面の状態(外観評価)
ジャータイプの樹脂容器に化粧料を充填し、翌日固形化した化粧料の表面の状態を目視観察した。
○:化粧料の表面が均一
△:化粧料の表面がやや不均一
×:化粧料の表面が不均一
【0026】
4.評価結果
各評価項目について評価結果を表1及び表2に示した。
実施例(1〜8)の化粧料は、使用時の油っぽい感触が抑えられ、滑らかに溶けて良好な使用感であり、常温・高温時の固形化、冷温時の凝縮抑制(容器に充填後の隙間発生がない)、外観(化粧料の表面が均一)の全ての評価項目において良好な結果を示した。
一方、比較例(1〜11)の化粧料は、いずれかの評価項目あるいは複数の評価項目が不良との評価であった。
水相の含有量は化粧料の固形化に重要な影響を及ぼすが、比較例1に示すとおり、水溶性増粘剤を含む水相(E)の含有量が16.5質量%の場合、その他の(A)、(B)、(C)、(D)成分が必要量に到達していても固形化しなかった。このことから、水溶性増粘剤を含む水相の含有量は化粧料当たり30質量%以上含有することが必要と結論付けた。
また、(A)成分:フェニル変性シリコーンと(D)成分:常温で固形状の油剤の配合比率A/Dは、実施例4及び比較例2の対比から、0.8以上とすると好ましい油中水型固形乳化化粧料となることが確認できた。
一般的に固形乳化化粧料の硬度は、形状(固形化)の安定化や使用感(滑らかに溶ける)に直結する要素(パラメーター)であり、硬度が低い場合は高温時(40℃)での固形化が維持できず、逆に硬度が高すぎると冷温時(5℃)の凝縮抑制ができない(すなわち容器との隙間が発生する)、使用感が悪い(滑らかに溶けない)といった問題が発生する。例えば、従来技術に相当する組成の比較例4は硬度が40、比較例8は硬度が31、比較例9は硬度が41と低めであるが、これらの組成では、常温では固形化するが40℃では固形化できていない。また、比較例10は硬度が113と高めであるが、固形化に問題はないものの、滑らかに溶けず使用感に問題が生じ、また組成物の凝縮による容器との隙間も発生している。
これに対して、本発明の構成をとることで形状(特に40℃での固形化)の安定化と良好な使用感(滑らかに溶ける)、冷温時(5℃)の凝縮抑制(容器との隙間が発生しない)が達成された。ここでさらに実施例の硬度に着目すると、実施例5は硬度が39、実施例6は硬度が35、実施例7は硬度が40、実施例8は硬度が39であった。この数値は先に述べた比較例4、比較例8、比較例9の硬度と同様な数値である。しかしながら、40℃という高温条件下にあっても本発明の構成をとることで固形化が達成されている。このように通常であれば固形化しないような硬度で固形化し、滑らかに溶ける使用感及び凝縮抑制(容器との隙間が発生しない)が実現できたことは、優れた点であると評価した。
実施例1〜8の評価結果から、特に下記組成の油中水型乳化化粧料とすると、形状(40℃での固形化)の安定性や使用感(滑らかに溶ける)、冷温時(5℃)の凝縮抑制(容器との隙間が発生しない)、化粧料表面の均一化、のすべての項目が達成されることが分かった。
(A)フェニル変性シリコーン 5〜20質量%
(B)ポリエーテル変性シリコーン 1〜5質量%
(C)HLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステル 0.5〜5質量%
(D)常温で固形状の油剤 3〜12質量%
(E)水溶性増粘剤を含む水相 30〜70質量%
そして、本発明の構成をとることで化粧料の硬度を35〜81とすることができ、前記すべての項目において良好な油中水型固形乳化化粧料が得られることが分かった。
またさらに検討した結果、本発明においてはポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値の選択が重要であることが分かった。すなわち実施例1〜8で用いたポリグリセリン脂肪酸エステル(トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2:HLB1.3、イソステアリン酸ポリグリセリル−2:HLB4.6、ペンタオレイン酸ポリグリセリル−10:HLB3.5)は乳化の状態を補助し、固形化及びその安定化を高める効果が認められたが、比較例5〜8で示すようにHLBが5以上の場合では乳化状態を阻害してしまい、油中水型固形乳化化粧料の安定性が損なわれる(40℃で固形化しない)結果となった。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを全く配合しない場合も同様に固形化しなかった。
すなわち、前記評価項目のすべてを達成するためにはポリグリセリン脂肪酸エステルの配合が必須であり、実施例1〜8で示したとおりHLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用する必要があることを確認した。
本発明の構成ではHLBが5未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、3〜12質量%といった比較的少ない量の固形油の配合でも高温時(40℃)における固形化が維持・安定化されるため、例えば比較例10のように固形油を13質量%と多量に配合しなくてもよいことが分かった。また、油剤中の固形油が均一に混ざることを目的としてB成分:ポリエーテル変性シリコーンやA成分:フェニル変性シリコーンを配合しているので、油中水型固形乳化化粧料独特の油っぽさや塗布時に溶け残る感触(滑らかに溶けない)が抑制され、煩雑な使用感の調整が不要となることが確認された。
【0027】
5.まとめ
本発明の構成をとる油中水型固形乳化化粧料は、油中水型固形乳化化粧料に特有の油っぽい感触がなく、高温時の固形化を達成し、冷温時の凝縮(容器との間で隙間となる)が現れない化粧料となる。そして、本発明の油中水型固形乳化化粧料は滑らかに溶け、心地よい使用感となるので、特にスキンケア用化粧料の技術として有用である。