特許第6765359号(P6765359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000002
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000003
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000004
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000005
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000006
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000007
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000008
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000009
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000010
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000011
  • 特許6765359-構造体の製造方法、及び構造体 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765359
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】構造体の製造方法、及び構造体
(51)【国際特許分類】
   B22D 19/00 20060101AFI20200928BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20200928BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20200928BHJP
   B22D 23/00 20060101ALI20200928BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   B22D19/00 Z
   B33Y10/00
   B33Y80/00
   B22D23/00 Z
   B22C9/02 101Z
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-195237(P2017-195237)
(22)【出願日】2017年10月5日
(65)【公開番号】特開2019-63859(P2019-63859A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3784539(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0197683(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101817121(CN,A)
【文献】 特開2014−113610(JP,A)
【文献】 特開平05−161957(JP,A)
【文献】 特開2016−068104(JP,A)
【文献】 特開2010−274327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00
B22C 9/02
B22C 9/06
B33Y 10/00
B33Y 80/00
B23K 9/04
B22D 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークにより溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベース上に積層して、少なくとも構造体の外殻を含む積層壁部を造形した後、造形された前記積層壁部で囲まれた内側空間に、鋳湯を流し込んで鋳物部を形成する構造体の製造方法であって、
前記構造体の水平断面における前記鋳物部及び当該鋳物部を挟む一対の前記積層壁部を通る直線であって、前記積層壁部のいずれかの位置の法線を特徴線としたとき、前記位置で前記特徴線により挟まれた前記鋳物部の前記特徴線に沿った肉厚に応じて、前記特徴線に沿った一対の前記積層壁部の合計肉厚を変化させる構造体の製造方法。
【請求項2】
前記積層壁部は、前記外殻の内側に前記溶着ビードにより造形された内殻を含み、
前記積層壁部の合計肉厚は、前記外殻の肉厚と前記内殻の肉厚とを合わせた厚さである請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
前記特徴線は、前記外殻の法線である請求項2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記特徴線は、前記内殻の法線である請求項2に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記特徴線に沿った前記鋳物部の肉厚と、一対の前記積層壁部の合計肉厚との比率を予め設定し、
設定された前記比率に基づいて前記特徴線に沿った前記鋳物部の肉厚と、一対の前記積層壁部の合計肉厚を決定する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記比率は、前記構造体の前記水平断面内において一定値である請求項5に記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
前記比率は、前記構造体の互いに異なる高さの前記水平断面で、それぞれ同じ一定値である請求項6に記載の構造体の製造方法。
【請求項8】
溶加材の溶融凝固体である溶着ビードがベース上に積層された積層壁部と、前記積層壁部で囲まれた内側空間に形成された鋳物部とを有する構造体であって、
前記構造体の水平断面における前記鋳物部及び当該鋳物部を挟む一対の前記積層壁部を通る直線であって、前記積層壁部のいずれかの位置の法線を特徴線としたとき、前記位置で前記特徴線により挟まれた前記鋳物部の前記特徴線に沿った肉厚に応じて、前記特徴線に沿った一対の前記積層壁部の合計肉厚が変化している構造体。
【請求項9】
前記積層壁部は、前記構造体の外殻と、前記外殻の内側に前記溶着ビードにより造形された内殻とを含み、
一対の前記積層壁部の合計肉厚は、前記外殻の肉厚と前記内殻の肉厚とを合わせた厚さである請求項8に記載の構造体。
【請求項10】
前記特徴線は、前記外殻の法線である請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記特徴線は、前記内殻の法線である請求項9に記載の構造体。
【請求項12】
前記特徴線に沿った前記鋳物部の肉厚と前記積層壁部の合計肉厚との比率は、前記水平断面内で一定である請求項8〜請求項11のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項13】
前記比率は、前記構造体の互いに異なる前記水平断面で一定である請求項12に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法、及び構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品を鋳造により製造する場合、まず、製品の模型となる木型(金属、樹脂の場合もある)を作製し、この木型を基に砂型を造る。次いで、砂型に鋳湯を流し込み、砂型のキャビティ内で鋳物品を完成させる。しかし、このような鋳造においては、木型や砂型の作製に多くの工数を要し、完成品を得るまでのリードタイムが長くなってしまう。更に、少量生産の場合には、木型や砂型のコストが製品に付加されて製造コストが嵩む要因となる。
【0003】
一方、新規な生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタは、レーザや電子ビーム、更にはアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで造形物を作製する。
【0004】
このような溶融金属を積層して造形物を造形する技術として、溶着ビードを用いて金型を製造するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、金型の形状を表現する形状データを生成する工程と、生成された形状データに基づいて、金型を等高線に沿った積層体に分割する工程と、得られた積層体の形状データに基づいて、溶加材を供給する溶接トーチの移動経路を作成する工程と、を備える金型の製造方法が記載されている。
【0005】
また、金属積層造形法を用いて中空部を有する金属成形体を製造し、この金属成形体を鋳包んで中空部が外部と連通した鋳造品を製造する製造方法が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3784539号公報
【特許文献2】特開2014−113610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、金型の製造方法に関するものであり、機械部品を大量に生産するための技術、特に、少量生産される機械部品の製造技術については記載されていない。また、特許文献2の技術は、金属積層造形法によって形成された金属成形体を鋳包んで、中空部を有する鋳物品を製造する技術である。そのため、金属成形体を鋳包む砂型、及び砂型を製作するための木型が不可欠であり、リードタイムが長くなる。また、少量生産時には、木型や砂型のコストについての課題が残る。
【0008】
そして、鋳物品を製造する際、鋳物部の肉厚が部位によって異なる場合、肉厚が小さい部位では鋳湯が早く凝固し、肉厚が大きい部位では鋳湯が遅く凝固する。このように、鋳湯の凝固時の冷却速度が異なると、下記の(1)〜(3)の問題を生じてしまう。
(1)冷却速度の不均一により、鋳物部の機械的性質が不均一となる。
(2)鋳物部に残留応力が発生する。
(3)厚肉の部位に欠陥(引け巣)、割れ(き裂)が発生しやすい。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造体を低コスト、且つ、リードタイムを短縮して製造でき、しかも、材料特性の差違、残留応力、欠陥等の発生を抑制できる構造体の製造方法、及び構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記構成からなる。
(1) アークにより溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベース上に積層して、少なくとも構造体の外殻を含む積層壁部を造形した後、造形された前記積層壁部で囲まれた内側空間に、鋳湯を流し込んで鋳物部を形成する構造体の製造方法であって、
前記構造体の水平断面における前記鋳物部及び当該鋳物部を挟む一対の前記積層壁部を通る直線であって、前記積層壁部のいずれかの位置の法線を特徴線としたとき、前記位置で前記特徴線により挟まれた前記鋳物部の前記特徴線に沿った肉厚に応じて、前記特徴線に沿った一対の前記積層壁部の合計肉厚を変化させる構造体の製造方法。
(2) 溶加材の溶融凝固体である溶着ビードがベース上に積層された積層壁部と、前記積層壁部で囲まれた内側空間に形成された鋳物部とを有する構造体であって、
前記構造体の水平断面における前記鋳物部及び当該鋳物部を挟む一対の前記積層壁部を通る直線であって、前記積層壁部のいずれかの位置の法線を特徴線としたとき、前記位置で前記特徴線により挟まれた前記鋳物部の前記特徴線に沿った肉厚に応じて、前記特徴線に沿った一対の前記積層壁部の合計肉厚が変化している構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造体を低コスト、且つ、リードタイムを短縮して製造でき、しかも、材料特性の差違、残留応力、欠陥等の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の構造体を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
図2】第1構成例の構造体の斜視図である。
図3】ベースプレート上に第1層目の移動軌跡に沿ってトーチを移動させ、第1層目の溶着ビードを形成した状態を示す工程説明図である。
図4】構造体の水平方向の断面図である。
図5図4に示すA部の部分拡大図である。
図6】第2構成例の構造体の概略斜視図である。
図7図6に示す構造体のVII−VII線断面図である。
図8】第3構成例の構造体の概略斜視図である。
図9図8に示す構造体のIX−IX線断面図である。
図10】第4構成例の構造体の概略斜視図である。
図11図10に示す構造体のXI−XI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の構造体を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
本構成の製造システム100は、積層造形装置11と、鋳造装置13と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。コントローラ15は、鋳造装置13を含めて制御するものであってもよい。
【0014】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部23とを有する。
【0015】
鋳造装置13は、不図示の加熱炉によって加熱された鋳湯25を貯留するるつぼ27を有し、不図示の注湯機構によって鋳湯25が所望の位置に供給可能となっている。これら積層造形装置11と鋳造装置13は、本構成においては、それぞれ既存の装置が用いられる。
【0016】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0017】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する構造体の外殻及び内殻となる積層壁部Wに応じて適宜選定される。
【0018】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部23からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート41上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビード43が形成される。
【0019】
CAD/CAM部31は、作製しようとする構造体の外殻及び内殻となる積層壁部Wの形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0020】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。
【0021】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベースプレート41上に供給する。これにより、ベースプレート41上に線状の溶着ビード43が形成され、上記した積層壁部Wがベースプレート41上に造形される。
【0022】
なお、ベースプレート41は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層壁部Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。なお、ベースプレート41は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0023】
積層壁部Wの造形後、鋳造装置13により、造形された積層壁部Wの内側空間45に鋳湯25を流し込む。流し込んだ鋳湯25が凝固すると、積層壁部Wの内側に鋳物部47が形成された構造体が得られる。
【0024】
次に、上記構成の製造システム100により、積層壁部Wの造形と鋳物部47の形成とを実施して構造体を得るまでの具体的な手順について詳述する。
<第1構成例>
図2は第1構成例の構造体の斜視図である。
一例として示す本構成の構造体51は、ギヤポンプの外筒として使用される中空のケーシングである。この構造体51は、積層壁部Wと、積層壁部Wの内側空間45に鋳湯を流し込んで凝固させた鋳物部47とを有する。
【0025】
積層壁部Wは、ギヤポンプの外筒の骨格を形成する断面略楕円形の外殻55と、外殻55の内側に形成された断面円弧状の内殻57とを有する。内殻57は、2つの円筒体が互いの半径距離よりも近くに平行配置されて一つの内壁として繋がった形状を有する。一対の部分円筒状の内壁によって画成された中空空間には、それぞれポンプのロータが挿入され、内殻57の内側面がロータの対向面となる。
【0026】
上記構成の構造体51は、以下に示す手順によって作製される。即ち、図1に示すCAD/CAM部31が、記憶部35が有する構造体51の積層壁部Wの形状データを入力し、入力された形状データに基づいて、互いに平行に分割された各層P(1),P(2),…,P(n)の層形状データを生成する。
【0027】
そして、軌道演算部33が、各層形状データに基づいて、各層P(1),P(2),…,P(n)におけるトーチ17の移動軌跡を生成し、溶接ロボット19の駆動プログラムを生成する。そして、制御部37は、生成された駆動プログラムに基づいて溶接ロボット19を駆動する。
【0028】
図3はベースプレート41上に第1層目の移動軌跡に沿ってトーチ17を移動させ、第1層目の溶着ビード43を形成した状態を示す工程説明図である。
ベースプレート41上でトーチ17を移動させつつ、溶加材Mとベースプレート41とをアークにより溶融させることで、溶融した溶加材Mをベースプレート41上に隆起させて盛り付ける。これにより、外殻55と内殻57の第1層目の溶着ビード43が形成される。2層目以降の溶着ビード43は、溶加材Mのみの溶融によって形成される。
【0029】
つまり、溶加材Mが溶融及び凝固した溶着ビード43を、ベースプレート41上の平面視で、閉じられた線状の層にして形成する。そして、この線状の層を上下方向に隙間なく積層して積層壁部Wを形成し、有底筒状の積層造形体を造形する。
【0030】
次に、上記した層形状データによる造形を更に詳細に説明する。
図4は構造体51の水平方向の断面図、図5図4に示すA部の部分拡大図である。
図4に示す構造体51の水平断面において、外殻55と内殻57とが最も接近する外殻55の位置をPt1、外殻55の長手軸中央で内殻57の穿部57aに対向する外殻55の位置をPt2とする。
【0031】
位置Pt1での外殻55の法線を特徴線L1とする。特徴線L1は、鋳物部47と、この鋳物部47を挟む一対の積層壁部である外殻55及び内殻57を通る。この特徴線L1に沿った鋳物部47の肉厚をtc1、特徴線L1に沿った外殻55の肉厚をtout1、特徴線L1に沿った内殻57の肉厚をtin1とする。
また、位置Pt2での外殻55の法線を特徴線L2とする。特徴線L2も同様に、鋳物部47と、この鋳物部47を挟む一対の積層壁部である外殻55及び内殻57を通る。この特徴線L2に沿った鋳物部47の肉厚をtc2、特徴線L2に沿った外殻55の肉厚をtout2、特徴線L2に沿った内殻57の肉厚をtin2とする。
【0032】
ここで、本構成の構造体51は、一例として示す外殻55の位置Pt1,Pt2において、外殻55,内殻57,鋳物部47の各肉厚の関係が(1)式を満足するように、それぞれ決定される。
【0033】
(tin1+tout1)/tc1=(tin2+tout2)/tc2…(1)
【0034】
上記(1)式は、位置Pt1,Pt2についての厚さの関係を示しているが、外殻55の他の点(例えばPti等の任意の点)においても、外殻55,内殻57,鋳物部47の肉厚(位置Ptiではtouti,tini,tci)の関係が(1)式と同様に決定される。つまり、鋳物部47の肉厚が大きいほど、外殻55及び内殻57の合計肉厚も大きくし、鋳物部47の肉厚が小さいほど、外殻55及び内殻57の合計肉厚も小さくする。これにより、各位置の特徴線L1,L2,Liに沿った積層壁部W(外殻55、内殻57)と鋳物部47との体積比が一定になるようにする。また、外殻55の全ての位置において(1)式を満足するのではなく、複数の代表点で(1)式を満足させる構成であってもよい。
【0035】
外殻55と内殻57の肉厚は、互いに等しいか、略等しくすることが好ましい。これにより、外殻55からの放熱量と、内殻57からの放熱量との差が小さくなり、鋳物部47の冷却速度が不均一になりにくくなる。また、熱がこもりやすい内殻57側よりも外殻55側の放熱が活発となる傾向のある場合には、外殻55の肉厚を内殻57の肉厚より大きくすることが好ましい。
【0036】
外殻55と内殻57の肉厚の変更は、具体的には、図5に示すように、鋳物部47の肉厚tc1,tc2に応じて、溶着ビード43の水平断面におけるビード幅を増減させることで行える。ビード幅は、図示例のように溶着ビード43を並列させて形成する場合には、溶着ビード43の列数を調整することで増減させる。この調整は、CAD/CAM部31と軌道演算部33によって行われる。
【0037】
上記のように層P1(1)の溶着ビード43を形成した後、同様に層P(2),P(3),…,P(n)の溶着ビード43を順次に形成し、複数の層P(1),P(2),P(3),…,P(n)の溶着ビード43を積層させる。これにより、外殻55と内殻57を有する積層壁部Wが得られる。
【0038】
そして、積層壁部Wの外殻55と内殻57とによって画成される内側空間45に、鋳湯25を流し込んで凝固させ、鋳物部47を形成する。ベースプレート41は、必要に応じて、ワイヤーソーやダイヤモンドカッター等による切断機で切断し、所望の形状の構造体51とする。
【0039】
以上、説明したように、本構成の構造体51の製造方法によれば、積層壁部Wを溶着ビード43の積層によって造形するので、鋳造のための型作製が不要となり、鋳造工数や型材料のコストを低減できると共に、構造体51を製造するリードタイムが短縮される。また、比較的コスト高となる積層材料の使用が外殻55、内殻57だけで済み、材料費を抑えて製造コストを低減できる。
【0040】
また、積層壁部Wは、外殻55の法線方向(特徴線L1,L2,…,Li)に沿った鋳物部47の肉厚、つまり、図3に示す内側空間45の厚さと、上記の特徴線に沿った外殻55及び内殻57の合計肉厚との比率が、予め設定した比率となるように積層造形される。これによれば、内側空間45に流し込んだ鋳湯は、鋳物部47の各部における肉厚に応じて冷却速度が調整され、いずれの部位に対しても均等な冷却速度になる。よって、流し込んだ鋳湯は、その水平断面内において各部が同時に凝固するようになり、均質な鋳物部47が得られる。このため、構造体51の機械的性質の不均一、鋳物部47の残留応力、鋳物部47の厚肉部分における引け巣等の欠陥、き裂等の割れの発生を抑制でき、高品質な構造体51を製造できる。
【0041】
なお、上記した構造体51の製造方法では、鋳物部47の肉厚、つまり内側空間45の厚さと、外殻55及び内殻57の合計肉厚との比率を一定としたが、この比率の値は、構造体51の機械的性質が均一となる比率を解析により事前に予測して決定してもよく、鋳造分野における冷やし金の板厚を設定する手法等に基づいて決定してもよい。
【0042】
また、上記比率は、一定値であることが好ましいが、適宜な範囲の中で変動することを許容してもよい。つまり、構造体51の形状によっては、(1)式に示すように鋳物部47の肉厚と、外殻55及び内殻57の合計肉厚との比率を一定にしなくても、比率が概ね一定であればよい。その場合でも、鋳湯の冷却速度が部位によらずに略均等になり、鋳物部47の不具合の発生を抑制できる。また、上記比率としては、例えば、0.015〜2、好ましくは0.1〜1.5、更に好ましくは0.4〜1とすることができる。この範囲であれば、良好な鋳物部47が得られる。
【0043】
更に、上記の特徴線L1,L2,…,Liは、外殻55の法線として設定しているが、これに限らず、内殻57の法線として設定してもよい。また、外殻55の法線と内殻57の法線とを混在させてもよい。その場合、構造体51が複雑な形状であっても、外殻55、内殻57の肉厚をより適格に設定できる。構造体51が更に複雑な形状である場合、外殻55の外側面や、内殻57の内側面に対して、法絡線(凹凸を有する表面の頂部同士を結ぶ線や曲線)や外接円等の線の法線から特徴線を設定してもよい。その場合、鋳物部47の均等な冷却によって、構造体51の機械的性質をより均一化できる。
【0044】
更に、上記の比率は、構造体51の水平断面における長さにより求めているが、水平断面に交差する断面における長さから求める比率であってもよい。例えば、積層造形時の積層壁部Wの上下方向と、鋳湯を注入する際の積層壁部Wの上下方向とが異なる方向である場合、鋳湯を注入する際の上下方向を基準にして積層壁部Wを造形するのが好ましい。
【0045】
<第2構成例>
図6は第2構成例の構造体51Aの概略斜視図、図7図6に示す構造体51AのVII−VII線断面図である。
図6に示す本構成の構造体51Aは、全体が円錐台状に形成され、積層壁部Wと鋳物部47Aとを有する。積層壁部Wは、外殻55と内殻57を有する。外殻55は、上方へ向かって次第に窄まる円錐状に形成される。内殻57は、上下方向に略同径の円筒状に形成される。鋳物部47Aは、積層壁部Wの外殻55と内殻57との間の内側空間45に鋳湯を流し込み、凝固させることで形成される。この構造体51Aの外殻55,内殻57、鋳物部47Aは、積層方向(上下方向)に沿って水平断面の肉厚がそれぞれ変化している。
【0046】
図7に示すように、本構成の構造体51Aにおいて、前述同様に水平断面における外殻55の任意の点における法線方向の特徴線Lに沿った鋳物部47Aの肉厚をt、特徴線Lに沿った外殻55の肉厚をtout、特徴線に沿った内殻57の肉厚をtinとする。本構成の構造体51Aは、鋳物部47Aの肉厚tが上方ほど小さいが、(2)式で示すように、特徴線Lに沿った鋳物部の肉厚(t)と、積層壁部Wである外殻55と内殻57との合計肉厚(tin+tout)との比率Rが一定にされている。
【0047】
=(tin+tout)/t…(2)
【0048】
本構成の構造体51Aによれば、積層壁部Wである外殻55及び内殻57と、鋳物部47Aとの体積比のばらつきが小さくなる。したがって、構造体51Aの機械的性質の不均一、鋳物部47Aの残留応力、鋳物部47Aの厚肉部分における引け巣等の欠陥、き裂等の割れの発生を抑制でき、高品質な構造体51Aを製造できる。
【0049】
<第3構成例>
図8は第3構成例の構造体51Bの概略斜視図、図9図8に示す構造体51BのIX−IX線断面図である。
図8に示す本構成の構造体51Bは、第2構成例の構造体51Aの内殻57を備えず、外殻55の内側空間全てに鋳物部47Bが形成されている。構造体51Bの外殻55と、鋳物部47Aとは、積層方向(上下方向)に沿って水平断面の肉厚がそれぞれ変化している。
【0050】
ここで、図9に示すように、水平断面における外殻55の任意の点における法線方向の特徴線Lに沿った鋳物部47Aの厚さをt、特徴線Lに沿った外殻55の厚さをtoutとする。
【0051】
本構成の構造体51Bは、鋳物部47Aの肉厚tが上方ほど小さいが、(3)式で示すように、特徴線Lに沿った鋳物部の肉厚tと、積層壁部Wである外殻55の肉厚toutとの比率Rが水平断面内のいずれの位置においても一定にされている。
【0052】
=2tout/t…(3)
【0053】
本構成の構造体51Bの場合も、外殻55と鋳物部47Aとの体積比のばらつきが小さくなり、第1,第2構成例と同様に高品質な構造体51Bが得られる。
【0054】
<第4構成例>
図10は第4構成例の構造体51Cの概略斜視図、図11図10に示す構造体51CのXI−XI線断面図である。
図10に示す本構成の構造体51Cは、第3構成例の構造体51Bの上に同形状の構造体51Bを上下反転させて重ねた形状に形成される。つまり、鋳物部47Cは、図中下側から大径部、小径部、大径部として一体に形成され、積層壁部Wである外殻55は、鋳物部47Cの水平断面における外径に応じて幅広部、幅狭部、幅広部として一体に形成されている。
【0055】
本構成の構造体51Cの場合も、図11に示すように、特徴線Lに沿った鋳物部の肉厚tと、外殻55の肉厚toutとの比率R(上記(2)式参照)が、いずれの水平断面においても一定にされている。これにより、高品質な構造体51Cが得られる。
【0056】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0057】
例えば、本発明は、水平方向と上下方向の少なくともいずれかの方向に沿って肉厚が変化する構造体にも適用可能であり、例えば、角筒形状の構造体、平面視で矩形状、三角形状、楕円形状等の各種形状の構造体にも適用可能である。
【0058】
また、上記した構造体の製造方法では、アーク放電により溶接ワイヤを溶解して溶着ビードを形成しており、低コストで且つ短いリードタイムで構造体を作製している。この溶着ビードの形成は、アーク放電に限らず、アーク放電とレーザとを併用した加熱方式、レーザによる加熱方式、摩擦撹拌方式等、他の加熱方式を採用してもよい。レーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層壁部の更なる品質向上に寄与できる。
【0059】
更に、上記の説明では、溶着ビードを一つの閉じられた線状にした層を形成した構成を示しているが、溶着ビードによる閉じられた線は、同一の水平断面上で複数箇所に存在してもよい。また、閉じられた線状の層において、溶着ビードによる線の外側や内側に更に延出する溶着ビード部分が存在してもよい。いずれの場合でも、閉じられた領域内にそれぞれ鋳湯を流し込むことで、より複雑な形状の構造体を作製できる。この場合の閉じられた領域とは、円形や楕円形に限らず、正方形、長方形、多角形等の任意の形状とすることができる。
【0060】
また、上記の説明では、一本の線状の溶着ビードにより積層壁部を造形しているが、ウィービング動作のようにトーチ17を揺動させながら溶着ビードを形成したり、溶接ロボット19の駆動により、円や三角等の軌跡を描かせながらトーチ17を移動させたりしてもよい。その場合、溶接方向とは別方向の移動成分を有してトーチ17が移動されるため、溶着ビード幅を増減でき、外殻55、内殻57の幅を任意に調整できる。
【0061】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) アークにより溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベース上に積層して、少なくとも構造体の外殻を含む積層壁部を造形した後、造形された前記積層壁部で囲まれた内側空間に、鋳湯を流し込んで鋳物部を形成する構造体の製造方法であって、
前記構造体の水平断面における前記鋳物部及び当該鋳物部を挟む一対の前記積層壁部を通る直線であって、前記積層壁部のいずれかの位置の法線を特徴線としたとき、前記位置で前記特徴線により挟まれた前記鋳物部の前記特徴線に沿った肉厚に応じて、前記特徴線に沿った一対の前記積層壁部の合計肉厚を変化させる構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、溶着ビードの積層によって積層壁部を成形するので、鋳造のための型作製が不要となり、鋳造工数や型材料のコストを低減できると共に、構造体を製造するリードタイムが短縮される。また、比較的高コストな積層材料の使用が積層壁部だけで済み、材料費を抑えて製造コストを低減できる。
そして、構造体の水平断面での積層壁部の法線を特徴線とし、この特徴線に沿った鋳物部の肉厚に応じて一対の積層壁部の合計肉厚を変化させることで、一対の積層壁部間の内側空間に注がれた鋳湯の冷却速度が均一になる。これにより、構造体の機械的性質の不均一、鋳物部の残留応力、鋳物部の厚肉部分における引け巣等の欠陥やき裂などの割れの発生を抑制できる。よって、高品質な構造体を製造することができる。
【0062】
(2) 前記積層壁部は、前記外殻の内側に前記溶着ビードにより造形された内殻を含み、
前記積層壁部の合計肉厚は、前記外殻の肉厚と前記内殻の肉厚とを合わせた厚さである(1)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、溶着ビードにより造形された外殻と内殻との間に鋳物部が設けられ、鋳物部は、その部位によらずに均一な冷却速度で凝固される。
【0063】
(3) 前記特徴線は、前記外殻の法線である(2)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、外殻が内殻よりも単純形状である場合に、より適切な肉厚の設定が可能となる。
【0064】
(4) 前記特徴線は、前記内殻の法線である(2)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、内殻が外殻よりも単純形状である場合に、より適切な肉厚の設定が可能となる。
【0065】
(5) 前記特徴線に沿った前記鋳物部の肉厚と、一対の前記積層壁部の合計肉厚との比率を予め設定し、
設定された前記比率に基づいて前記特徴線に沿った前記鋳物部の肉厚と、一対の前記積層壁部の合計肉厚を決定する(1)〜(4)のいずれか一つに記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、一対の積層壁部と鋳物部との体積比のばらつきを低減でき、更に高品質な構造体を製造できる。
【0066】
(6) 前記比率は、前記構造体の前記水平断面内において一定値である(5)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、一定の比率で一対の積層壁部と鋳物部の肉厚が決定されるため、鋳物部をより均一な冷却速度で凝固させることができる。
【0067】
(7) 前記比率は、前記構造体の互いに異なる高さの前記水平断面で、それぞれ同じ一定値である(6)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、高さ方向に関しても一定の比率で一対の積層壁部と鋳物部との肉厚が決定されるため、鋳物部を更に均一な冷却速度で凝固させることができる。
【0068】
(8) 溶加材の溶融凝固体である溶着ビードがベース上に積層された積層壁部と、前記積層壁部で囲まれた内側空間に形成された鋳物部とを有する構造体であって、
前記構造体の水平断面における前記鋳物部及び当該鋳物部を挟む一対の前記積層壁部を通る直線であって、前記積層壁部のいずれかの位置の法線を特徴線としたとき、前記位置で前記特徴線により挟まれた前記鋳物部の前記特徴線に沿った肉厚に応じて、前記特徴線に沿った一対の前記積層壁部の合計肉厚が変化している構造体。
この構造体によれば、溶着ビードの積層によって積層壁部を成形するので、鋳造のための型作製が不要となり、鋳造工数や型材料のコストを低減できると共に、構造体を製造するリードタイムが短縮される。また、比較的高コストな積層材料の使用が積層壁部だけで済み、材料費を抑えて製造コストを低減できる。
そして、構造体の水平断面での積層壁部の法線を特徴線とし、この特徴線に沿った鋳物部の肉厚に応じて一対の積層壁部の合計肉厚を変化させることで、一対の積層壁部間の内側空間に注がれた鋳湯の冷却速度が均一になる。これにより、構造体の機械的性質の不均一、鋳物部の残留応力、鋳物部の厚肉部分における引け巣等の欠陥やき裂などの割れの発生を抑制できる。
【0069】
(9) 前記積層壁部は、前記構造体の外殻と、前記外殻の内側に前記溶着ビードにより造形された内殻とを含み、
一対の前記積層壁部の合計肉厚は、前記外殻の肉厚と前記内殻の肉厚とを合わせた厚さである(8)に記載の構造体。
この構造体によれば、溶着ビードにより造形された外殻と内殻との間に鋳物部が設けられ、鋳物部は、その部位によらずに均一な冷却速度で凝固される。
【0070】
(10) 前記特徴線は、前記外殻の法線である(9)に記載の構造体の製造方法。
この構造体によれば、外殻が内殻よりも単純形状である場合に、より適切な肉厚の設定が可能となる。
【0071】
(11) 前記特徴線は、前記内殻の法線である(9)に記載の構造体の製造方法。
この構造体によれば、内殻が外殻よりも単純形状である場合に、より適切な肉厚の設定が可能となる。
【0072】
(12)前記特徴線に沿った前記鋳物部の肉厚と前記積層壁部の合計肉厚との比率は、前記水平断面内で一定である(8)〜(11)のいずれか一つに記載の構造体の製造方法。
この構造体によれば、一対の積層壁部と鋳物部との体積比のばらつきを低減できる。
【0073】
(13)前記比率は、前記構造体の互いに異なる前記水平断面で一定である(12)に記載の構造体。
この構造体によれば、高さ方向に関しても一定の比率で一対の積層壁部と鋳物部との肉厚が決定されるため、鋳物部の冷却速度が更に均一となる。
【符号の説明】
【0074】
25 鋳湯
41 ベースプレート(ベース)
43 溶着ビード
45 内側空間
47,47A,47B,47C 鋳物部
51,51A,51B,51C 構造体
55 外殻
57 内殻
L,L1,L2,Li 特徴線
M 溶加材
W,W,W,W 積層壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11