特許第6765430号(P6765430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765430
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】細穴放電加工機
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/26 20060101AFI20200928BHJP
   B23H 9/14 20060101ALI20200928BHJP
   B23H 9/10 20060101ALN20200928BHJP
【FI】
   B23H7/26 Z
   B23H9/14
   !B23H9/10
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-538002(P2018-538002)
(86)(22)【出願日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2016088547
(87)【国際公開番号】WO2018047363
(87)【国際公開日】20180315
【審査請求日】2018年12月18日
(31)【優先権主張番号】15/259,836
(32)【優先日】2016年9月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】城戸 浩倫
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 智洋
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−9292(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038074(WO,A1)
【文献】 米国特許第6225589(US,B1)
【文献】 特表2013−544195(JP,A)
【文献】 特開2014−200886(JP,A)
【文献】 特開平2−167623(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/157431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 − 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に取り付けた細穴加工用の電極とテーブルに取り付けたワークとの間に電圧を印加して、放電エネルギーでワークに細穴を加工する細穴放電加工機であって、
前記電極を挿通させる中空部を有し、前記中空部の先端における前記電極を前記主軸の軸線に対して所定距離シフトさせて平行な状態で案内する電極ガイドと、
前記電極ガイドの先端の、前記主軸の軸線方向の位置及び前記軸線周りの角度位置が所定値になるように前記電極ガイドを支持する電極ガイド支持装置と、
を具備する細穴放電加工機。
【請求項2】
前記電極ガイド支持装置は、前記主軸の軸線と平行なW軸方向に移動するガイドアームの先端部に設けられたW軸チャックである請求項1に記載の細穴放電加工機。
【請求項3】
前記電極ガイドは、先端部に前記電極を前記主軸の軸線と平行を維持して案内する位置決めガイドが取り付けられている請求項1に記載の細穴放電加工機。
【請求項4】
前記電極ガイドは、先端部に取り付けられた前記位置決めガイドが前記主軸の軸線と平行になるように調整する平行度調整部を前記電極ガイドの基端部に設けた請求項3に記載の細穴放電加工機。
【請求項5】
前記電極ガイド支持装置は、前記電極ガイドを前記主軸の軸線周りに回転可能となっており、これによって前記電極ガイドのシフト方向の角度位置を変更可能にした請求項1に記載の細穴放電加工機。
【請求項6】
前記電極ガイドは、先端部が前記主軸の軸線に対して垂直な方向の軸線を中心として旋回可能となっており、これによって前記電極ガイドの先端部を前記主軸軸線に対して平行から傾斜可能にした請求項1に記載の細穴放電加工機。
【請求項7】
前記電極ガイドは、シフト量の可変なフレキシブルチューブで成る請求項1に記載の細穴放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状又はパイプ状の細長い電極を用いてワークに細穴を放電加工する細穴放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
細穴放電加工機の電極は、通常、加工機の主軸の軸線の延長線上で真直ぐに延びている。しかしながら、ワークの形状が複雑で、ワークの加工部の周辺の空間領域が狭い等の理由から、真直に延びる電極では加工部にアクセスできないことがある。このため、特許文献1に記載されているような先端部が湾曲した電極が用いられることがある。特許文献1の発明では、電極は主軸に対して90度に曲げられている。また、90度未満の角度に曲げた斜めの電極を用いる関連技術も提案されている。
【0003】
主軸に対して90度曲げられた電極、あるいは主軸に対して斜めに延びる電極を用いると、電極の先端位置は主軸の延長線から外れるとともに、穴あけ加工の方向が主軸の方向(Z軸方向)と一致しなくなる。通常、オペレータ及び加工プログラム作成者は、穴あけ加工はZ軸方向に行うものと理解しているので、90度に曲がった電極、あるいは斜めに延びる電極を用いることは、オペレータ及び加工プログラム作成者に対して特殊で複雑な対応を要求することとなる。そのため、加工点への電極の位置決めを正確に行うことが難しくなり、また加工プログラムの複雑さも増す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/074897号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、主軸と一直線上にない細穴をワークに細穴放電加工することができる細穴放電加工機であって、加工点への電極の位置決めを正確に行えるとともに、加工プログラムを複雑にすることなく前記細穴を加工できる細穴放電加工機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、主軸に取り付けた細穴加工用の電極とテーブルに取り付けたワークとの間に電圧を印加して、放電エネルギーでワークに細穴を加工する細穴放電加工機であって、前記電極を挿通させる中空部を有し、前記中空部の先端における前記電極を前記主軸の軸線に対して所定距離シフトさせて平行な状態で案内する電極ガイドと、前記電極ガイドの先端の、前記主軸の軸線方向の位置及び前記軸線周りの角度位置が所定値になるように前記電極ガイドを支持する電極ガイド支持装置とを具備する細穴放電加工機が提供される。
【0007】
本発明においては、電極の先端部の軸線は、主軸の軸線から所定の距離だけシフトされるとはいえ主軸の軸線に平行である。このため、シフト量を考慮するだけで、主軸の軸線上を真直ぐに延びる電極とほぼ同等の容易さで、主軸と一直線上にない加工点への電極の位置決め及び加工プログラムの作成を行うことが可能になる。換言すると、本発明によると、特許文献1に記載された電極が主軸に対して90度に曲げられたタイプあるいは斜めに延びるタイプと比較するとはるかに容易に、主軸と一直線上にない加工点への電極の位置決め及び加工プログラムの作成を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態による放電加工機の要部構成を概略的に示す正面図である。
図2図2は、第1の実施形態における電極ガイド組立体の正面図である。
図3図3は、図2の電極ガイド組立体の断面にワークの断面を加えた断面図である。
図4図4は、電極ガイド組立体をW軸チャックに装着する様子を示す斜視図である。
図5図5は、W軸チャックに装着された電極ガイド組立体の斜視図である。
図6図6は、W軸チャックの変形例の概略的平面図である。
図7図7は、第2の実施形態による放電加工機の電極ガイド組立体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図5を参照して、本発明の第1の実施形態による細穴放電加工機について説明する。図1は、第1の実施形態による細穴放電加工機(以下、放電加工機と略称する)100の要部構成を概略的に示す正面図である。なお、以下では、便宜上、図示のように直交3軸方向(X軸方向,Y軸方向,Z軸方向)を、それぞれ左右方向、前後方向、上下方向と呼ぶことがある。
【0010】
図1において、基台となるベッド102の後部にはコラム104が立設されている。コラム104の上面には、Xスライダ106がX軸方向に移動可能に支持されている。Xスライダ106の上面には、ラム108がY軸方向に移動可能に支持されている。ラム108の前面には、主軸頭110がZ軸方向に移動可能に支持されている。主軸頭110には、主軸112が軸線Rzを中心として回転可能に支持される。主軸頭110の底面から突出する主軸112の先端部に電極ホルダ114が装着される。
【0011】
ラム108の側面にはW軸ガイド組立体140が取り付けられている。W軸ガイド組立体140は、ラム108の右側面に設けられたブラケット136に上下方向に移動可能に支持されたガイドアーム142を有している。このガイドアーム142の上下移動軸をW軸と定義する。W軸はZ軸と平行である。ガイドアーム142の下端部分142aは、W軸またはZ軸に対して斜め内側に傾斜しており、該下端部分142aの先端部にW軸チャック144が設けられている。W軸チャック144は、請求項に記載の電極ガイド支持装置であり、後述する電極ガイド組立体10を支持する。
【0012】
電極ホルダ114と電極ガイド組立体10との間では、軸線Rzに沿って延びる電極116が露出する。図1では表現されないが、電極ガイド組立体10の先端部からも電極116が短い長さであるが露出し、露出した電極116の端部が放電の生じる加工部になる。また電極116の先端から加工液が噴射される。本実施形態における電極116は、例えば水等の加工液を先端から噴出させるために加工液の流通路を有するパイプ電極である。ただし、電極116として、加工液の流通しない中実のものが用いられることもある。
【0013】
電極116は、その上端部が電極ホルダ114によって把持されている。加工中に、主軸112が、軸線Rzを中心として回転することによって、電極ホルダ114は軸線Rzを中心として回転し、電極ホルダ114に把持されている電極116も回転する。電極116の下端部は軸線Rzに平行に延びるように、電極ガイド組立体10によって回転可能に支持されている。放電加工の進行につれて電極116の先端が消耗するが、電極116の消耗につれて主軸頭110がガイドアーム142に対して下降するので、電極116の先端のZ軸方向の位置は望ましい位置に配置され得る。
【0014】
ベッド102の上面には、コラム104よりも前方にテーブル118が配置されている。テーブル118の上面には、傾斜回転テーブル装置120が搭載されている。傾斜回転テーブル装置120は、テーブル118の上面から上方に突設された前後一対の支持部材122と、前後の支持部材122の間に、Y軸方向に延在する旋回軸Rbを中心としてB軸方向に旋回可能に支持された傾斜部材124と、傾斜部材124の左端面に、旋回軸Rbに垂直な回転軸Raを中心としてA軸方向に回転可能に支持された回転テーブル126とを有する。回転テーブル126にはチャック128が設けられ、チャック128にワーク130が取り付けられる。
【0015】
本明細書におけるワーク130は、例えばガスタービンに用いられるタービンブレードやベーンである。タービンブレードは、1000℃〜1500℃程度の高温ガスに曝されるため、耐熱性の高いニッケル合金が構成材として用いられる。このタービンブレードの表面には、タービンブレードの表面を冷却する冷却空気を流すディフューザを有した冷却孔が異なる方向に複数加工される(図3)。
【0016】
テーブル118の周囲には、テーブル118および傾斜回転テーブル装置120の全体を囲うように昇降可能に加工槽132が設けられている。なお、図1の1点鎖線は、加工槽132が上昇した加工状態であり、段取り作業時等の非加工状態には、加工槽132が実線に示すように下降する。
【0017】
図示は省略するが、図1の放電加工機100は、Xスライダ106を左右方向に移動させるX軸駆動部と、ラム108を前後方向に移動させるY軸駆動部と、主軸頭110を上下方向に移動させるZ軸駆動部と、軸線Rzを中心に主軸112を回転させる主軸駆動部と、ガイドアーム142を上下方向に移動させるW軸駆動部と、旋回軸Rbを介して傾斜部材124を傾斜させるB軸駆動部と、回転軸Raを介して回転テーブル126を回転させるA軸駆動部とをそれぞれ有する。これらX軸駆動部、Y軸駆動部、Z軸駆動部、W軸駆動部、主軸駆動部、B軸駆動部およびA軸駆動部は、放電加工機100のNC装置(図示せず)により制御される。
【0018】
以上の構成により、電極ホルダ114と電極ガイド組立体10がワーク130に対してX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に相対移動可能となり、かつB軸方向およびA軸方向に相対移動可能となる。また、主軸頭110のガイドアーム142に対する昇降により、電極116の消耗による電極116の長さ変化に拘わらず、加工中、常に電極ホルダ114と電極ガイド組立体10とで電極116の上下端部を支持することができる。
【0019】
ラム108の前面には、主軸頭110の上下方向のZ軸位置を検出するリニアスケールなどの位置検出器134が設けられている。位置検出器134からの信号により、また、テーブル118上に設けた基準ブロック(図示せず)と細穴放電加工機100が元来有している接触検知機能を利用して電極ホルダ114の先端部の位置や電極116の先端部の位置を検出することができる。ガイドアーム142のブラケット136には、ラム108に対するガイドアーム142の上下方向のW軸位置を検出するリニアスケールのような位置検出器138が設けられている。上記接触検知機能を利用するのと、ガイドアーム142の形状は既知であるので、W軸チャック144の位置及び電極ガイド組立体10の先端部の位置は、X軸およびY軸の夫々の位置検出器(図示せず)およびW軸の位置検出器138の値から決定することができる。
【0020】
図2には、電極ガイド組立体10のシャトル60(図4図5)を除いた正面図が示されている。図3には、図2の電極ガイド組立体10の断面図が示され、さらにワークであるタービンブレード130の断面図も示されている。なお、図3では、電極ガイド組立体10を明瞭に示すために電極116は作図されていない。電極ガイド組立体10は、鈍角を含んで略Z形あるいは略クランク状に曲げられたガイドチューブ20と、ガイドチューブ20の上端に結合された平行度調整部30と、平行度調整部30の上端部に固定された連結部50と、図2には示されないが、W軸チャック144及び電極ホルダ114に着脱可能に係合するシャトル60とを具備する。
【0021】
ガイドチューブ20は、前記略クランク形を呈する、電極116が挿通可能な比較的大きい内径を有する大径チューブ22と、電極の先端部を最小限のクリアランスでガイドする、比較的小さな内径を有する小径チューブ状の位置決めガイド24と、それら大径チューブ22と位置決めガイド24とを接続する接続部材26とから構成される。大径チューブ22は、軸線Rzに沿って延びる上部直線部22aと、上部直線部22aに平行に延びる下部直線部22bと、上部直線部22aと下部直線部22bをつなぐ斜行部22cとを有する。下部直線部22bは上部直線部22aから距離Sだけシフトされている。斜行部22cと上部直線部22a及び下部直線部22bとはそれぞれ湾曲部を介してつながっており、またそれらの軸線は鈍角で交わっている。なお、本実施形態では鈍角だが、直角や鋭角でもよい。本実施形態では、ガイドチューブ20の大径チューブ22は、金属材料から形成されており、そのため図2に示した形状を自律的に維持することができる。この金属製の大径チューブ22は、電極との間を電気的に絶縁するために、内面がガラスで被覆されている。位置決めガイド24はセラミックスあるいはサファイアを材料として作られている。なお、大径チューブ22は、形状を維持できれば樹脂製、その他の材料で作られてもよい。また、工作機械のクーラントノズルのように柔軟性と剛性を兼ね備えた材料で作られ、シフト量を可変に構成されていてもよい。
【0022】
大径チューブ22の下部直線部22bと位置決めガイド24とを接続する接続部材26は、円筒状に形成されており、その円筒の軸線に沿って開けられた穴に、大径チューブ22の下部直線部22bの先端が挿入されて固定されている。接続部材26の軸線に沿ってその下部に開けられた穴に、位置決めガイド24がスリーブ28を介して固定されている。シャトル60によりW軸チャック144に装着された電極ガイド組立体10の位置決めガイド24の軸線は、主軸の軸線Rzに平行になる。位置決めガイド24は、その内周面において電極116の外周面を摺動可能に支持し、電極116の径方向の移動(振れ)を拘束しながら、電極116をワーク130の表面の加工点へ向けて正確に位置決めできるように、電極116よりも僅かに大きな内径を有した中空状の部材であって、ワーク130との干渉を避けるためにテーパ状の先端部を有する。
【0023】
平行度調整部30は、主軸112の軸線Rzに対する位置決めガイド24の軸線の平行度を調整するために設けられている。換言すると、電極ガイド組立体10をそのシャトル60を介してW軸チャック144に装着したとき、主軸112の軸線Rzに対する位置決めガイド24の軸線の平行度を所定の許容誤差範囲に収めるために設けられている。
【0024】
平行度調整部30は、連結部50を介してシャトル60に固定される側面視逆U字状の第1継手32と、第1継手32に接続された側面視凸字状の第2継手34と、第2継手34に接続されたプレート状の第3継手36とを具備し、また電極116を通すためにそれらの中心をZ軸方向に貫通する縦穴も具備する。平行度調整部30は、互いに直交し且つ軸線Rzにも直交する2本の軸線、即ち第1軸線αと第2軸線βを備える(図4)。
【0025】
平行度調整部30は、第1継手32に対して第2継手34が第1軸線αを中心に回動可能であり、第2継手34に対して第3継手36が第2軸線βを中心に回動可能であるように構成されている。第1軸線αは、とがり先の一対の第1止めネジ38により形成され、第2軸線βは、とがり先の一対の第2止めネジ42により形成される。第2継手34を所望の角度で第1継手32にロックするための第3止めネジ44が第1継手32に設けられ、第3継手36を所望の角度で第2継手34にロックするための第4止めネジ46が第2継手34に設けられている。第3継手36の縦穴にはガイドチューブ20の大径チューブ22の上端部が挿入されて第5止めネジ48によって固定されている。
【0026】
ところで、平行度調整部は、前述したものに限られることはなく様々な形態のものが可能であることは当業者には理解されよう。その一方で、軸線Rzに対する位置決めガイド24の軸線の平行度が高い精度で得られる場合には、平行度調整部を有しない電極ガイド組立体も可能である。
【0027】
連結部50は、ガイドチューブ20の接続された平行度調整部30をシャトル60に結合するために設けられており、また電極116が挿通可能なパイプ部材より形成されている。連結部50は、その下部が第1継手32の縦穴に挿入されて第6止めねじ49によって固定され、その上部が第1継手32から上方に突出する。連結部50はシャトル60の内部に挿入され、ねじ止めされている。
【0028】
シャトル60は、その上面において電極ホルダ114に着脱可能に取り付けられる。シャトル60は、また、その側面においてW軸チャック144に着脱可能に取り付けられる。図4の例では、シャトル60は、W軸チャック144の内面に形成された係合凹所148に係合する複数の係止ピン62を有している。
【0029】
ところで、放電加工機100は、図示は省略するが、W軸ガイド組立体140の側方に電極マガジンを公知の様態で有している。電極マガジン内には、例えば前記シフト量Sの異なる複数種類の、シャトル60を含んだ電極ガイド組立体10が、それに適合する電極116及び電極ホルダ114と一体に組み合わされて保管されている。電極116を交換する場合は、電極116とシャトル60を含む電極ガイド組立体10とが接続された電極ホルダ114を公知の電極交換装置のアームによって把持して、主軸112と電極マガジンとの間で交換が行われる。シャトル60及びシャトル60と電極ホルダ114を利用した電極交換の構成については、本出願人になる米国特許第7329825号(日本特許第4721898号)明細書に記載されているので、ここでは詳細な説明を省略する。なお、シャトル60、電極ホルダ114及びW軸チャック144は、それぞれ米国特許第7329825号明細書における電極ガイドホルダ25、電極ホルダ23及びグリッパ部39に相当する。
【0030】
電極ガイド組立体10の交換は、放電加工機100のX軸駆動部、Y軸駆動部、Z軸駆動部およびW軸駆動部を適切に制御することによって、自動的に実施することが可能となる。図4は、X軸駆動部、Y軸駆動部、Z軸駆動部およびW軸駆動部を用いて、主軸112(図示せず)の先端に装着されている電極ホルダ114に連結された電極ガイド組立体10のシャトル60をW軸チャック144に装着する様子を示した図である。なお、図4では電極116の作図は省略されている。電極ガイド組立体10のシャトル60をW軸チャック144へ装着するに際して、先ず、電極ガイド組立体10を水平方向A、例えばX軸方向に移動し、ガイドチューブ20をW軸チャック144の開口部146を通して、W軸チャック144内に導入し、次いで、電極ガイド組立体10を上下方向Aに移動して、シャトル60をW軸チャック144に係合させる。この状態が図5に示される。
【0031】
図4及び図5に示されるように、電極ガイド組立体10は、交換時にはそのシャトル60が電極ホルダ114に連結され、従って電極ホルダ114及び電極116(図示せず)と一体的に取り扱われる。ただし加工に際しては、主軸112の回転角度制御機能によって図1に示されるように、電極ホルダ114がシャトル60に対して所定角度回転して、両者の間の連結が解除されて、W軸チャック144に保持されたシャトル60が主軸112に保持された電極ホルダ114から下方に分離される。
【0032】
図5では、電極ガイド組立体10のガイドチューブ20が、W軸チャック144の開口部146の方向、即ちXZ平面内で延びている状態が示される。但し本実施形態では、シャトル60がW軸チャック144に対して軸線Rzを中心にして回転可能で且つ任意の角度にロック可能であるように構成されており、その結果、軸線Rzを中心としたガイドチューブ20の位置決めガイド24の方位角、即ち軸線Rz周りの角度を360度の中の任意の角度に設定することが可能である。ガイドチューブ20の位置決めガイド24の方位角の設定は、図5に示される状態で、シャトル60の連結された電極ホルダ114を主軸112の回転角度制御機能によって極低速で回転駆動することにより実現される。本実施形態による放電加工機100の主軸駆動部は、主軸112の駆動に関する加工時の高速回転とこのような回転角度制御を行う極低速回転を切替え可能に構成されている。
【0033】
ガイドチューブ20の位置決めガイド24の方位角を設定するために、シャトル60を、軸線Rzを中心として回転させる他の実施形態として、図6に示されるものがある。図6を参照すると、W軸チャック144′は、略円形の外枠160と、該外枠160に軸線Rzを中心として回転可能に取り付けられ外周面に歯を形成したチャック162とを具備している。チャック162は、駆動モータ172によって駆動される歯車、例えばウォーム174によって回転駆動される。図6の例では、矢印Acで示すように、チャック162を軸線Rzを中心として回転させることによって、シャトル60は軸線Rzを中心として回転し、これによって、ガイドチューブ20の位置決めガイド24の方位角を所望の角度に設定することができる。
【0034】
上述したように構成された第1の実施形態の放電加工機100によれば、例えば図3において仮想線で示される、主軸の軸線Rzと同軸に真直に延びる電極320では到達できないブレード130の表面の加工点Pmに対しても、電極ガイド組立体10が、ブレード130の他の部分及び隣接するブレード130と干渉することなく、電極116(図示せず)の先端を正確に位置決めすることが可能となる。そして、電極116とワーク130とを相対的に移動させて細穴を加工することが可能となる。細穴のワーク130の表面の加工点Pmに近い部分は、勾配のある末広がりの形状をしたディフューザ部になっており、その深さ方向奥側が単純な円柱状の細穴部になっている。加工プログラムに従ったパイプ状の電極116とワーク130との相対移動によって、このディフューザ部及び円柱状の細穴部が放電加工される。
【0035】
また、本実施形態によれば、軸線Rzに関するガイドチューブ20の位置決めガイド24の方位角を任意の角度に設定可能であるので、ワーク130に干渉しないようにガイドチューブ20を配置できる可能性が更に高められる。
【0036】
本実施形態の放電加工機100において、オペレータが電極116の先端を加工点Pmに位置決めするとき、電極が真直ぐに延びる従来のタイプに比較すると、ガイドチューブ20のシフト量Sを考慮する必要が生じる。ただし、それはオペレータにとっては軽微な問題である。また、これは、加工プログラム作成者にとっても同様である。というのも、通常、オペレータ及び加工プログラム作成者は、穴あけ加工はZ軸方向に行うものと理解しているので、本発明による放電加工機100の電極116の加工点Pmへの位置決めあるいは加工プログラムの作成は、この通常の理解の範囲内で実施可能であるからである。つまり、加工プログラムは、電極が軸線Rz方向に延びているとして作成し、加工を実行するときに数値制御装置の工具径方向のオフセット量をシフト量Sに相当する値に設定するだけでよい。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態による放電加工機について説明する。この放電加工機は、その電極ガイド組立体210が前述したものと異なるので、電極ガイド組立体210について、異なる点を主に、図7を参照して以下に説明する。なお、第1の実施形態における構成要素と同様の第2の実施形態の構成要素には同一の参照符号が付されている。
【0038】
第2の実施形態における電極ガイド組立体210は、シャトル60と、シャトル60に固定されている連結部250と、連結部250に固定され、シフト量Sを有して延びるガイドチューブ20と、更にチューブサポート270とを有する。このように、第2の実施形態における電極ガイド組立体210は、チューブサポート270を有すること及び平行度調整部30を有しないことにおいて第1の実施形態における電極ガイド組立体10と異なっている。
【0039】
ガイドチューブ20は、第1の実施形態の場合と同様に、大径チューブ22と位置決めガイド24とそれらを接続する接続部材26とを有する。ただし、第2の実施形態における大径チューブ22は、金属ではなく柔軟な合成樹脂材料から形成されている。
【0040】
チューブサポート270は、ガイドチューブ20の大径チューブ22の横で基端側から下方に延びる細長い主部材272と、前記主部材272の下端部に軸線Rzに垂直な方向の軸線周りに回動可能に接続された回動部材274と、前記回動部材274に固定ねじによって固定された先端部材276とを具備する。主部材272は、その上端部が連結部250に止めネジによって固定されている。先端部材276は、ガイドチューブ20の位置決めガイド24が主軸112の軸線Rzに平行に延びるように、ガイドチューブ20の接続部材26を保持している。第2の実施形態における電極ガイド組立体210においては、ガイドチューブ20の先端部がチューブサポート270の先端部材276によって保持されて位置決めガイド24の位置及び方向が定められる。
【0041】
第2の実施形態では、チューブサポート270によってシフト量Sが定まるので、ガイドチューブ20の大径チューブ22は、柔軟な合成樹脂製のものを使用でき、また第1の実施形態の場合のようにクランク形に成形する必要がない。また、回動部材274は、通常は位置決めガイド24の軸線が、主軸112の軸線Rzに平行に延びるようにねじで調整されて主部材272に固定されるが、必要に応じて、前記軸線Rzに対して斜めに延びるように固定されることも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 電極ガイド
20 ガイドチューブ
24 位置決めガイド
30 平行度調整部
100 細穴放電加工機
112 主軸
116 電極
118 テーブル
130 ワーク
142 ガイドアーム
144 W軸チャック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7